マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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艦を家とする愛国者は
獅子の勇を胸に秘む
ソヴィエト海軍の親衛隊員は
常に先陣を切る!
-”海の親衛隊”より抜粋-


重航空巡洋艦ノヴォロシースクの冒険

-アドリア海 国連海軍展開地域 航空巡洋艦”ノヴォロシースク”-

ソ連海軍の”ノヴォロシースク”海軍航空師団はアドリア海から越境してくるBETA対処の為にアドリア海に展開していた。

 

艦隊は主に旧対潜艦を主に構成され、旗艦はキエフ級”ノヴォロシースク”が務めていた。

 

艦隊はアンコーナ近くを航行しており、そのままアンコーナに入港する予定だった。

 

旗艦”ノヴォロシースク”の周りには二隻の1134A型(クレスタⅡ型)大型対潜艦、61型(カシン型)大型対潜艦を三隻引き連れていた。

 

艦名は1134A型から”マーシャル・ヴォロシーロフ”、”アドミラル・オクチャブリィスキー”、61型は”スポソーブニイ”、”オダリョーンヌイ”、”ステレグーシィイ”である。

 

本来の対潜作戦は長い間実施されていなかったが、海底を移動するBETAを攻撃することはあった。

 

「間も無くアンコーナに到着します」

 

「これでアドリア海パトロールも終わりか」

 

サブリン少将は深々と椅子にもたれ掛かり、今までの任務の数々を思い出していた。

 

アドリア海では度々BETAとの戦闘が発生した。

 

数は凡そ3回、大隊規模BETA群が移動しているというので迎撃に入った。

 

「バーリでは武器弾薬と食料の補給だけで長い間陸にはいられませんでしたからね、少しはゆっくりしたいですな」

 

「ああ、全くだ」

 

これでも遠洋航海としてインド方面や紅海、アラビア湾まで行ったときに比べればまだマシだ。

 

あの頃は慣れぬ長期航海で乗組員に多大な疲労が溜まっていた。

 

今回は黒海からエーゲ海を渡り、アドリア海に入った為距離は短い上にイタリアで度々補給を受けられた。

 

されど連続してBETAとの戦闘に入ると中々疲れる。

 

艦内では持ち込んだギターで音楽を奏で、下士官水兵や士官の何人かが周りに集まって聞いていた。

 

丁度1曲弾き終わったので水兵達が次の曲を求めた。

 

「次は何を弾きますかね」

 

「ここはジェームズ・ケネディだろう!」

 

ある水兵がそう叫んだ。

 

ジェームズ・ケネディ、大祖国戦争中協力関係にあったイギリス王立海軍を讃えたジャズ風の歌。

 

対立が深まった冷戦下でも歌は絶えず、水兵達に受け継がれた。

 

そしてBETA大戦によって再び米英らと協力関係になったことでジェームズ・ケネディも大っぴらに歌えるようになった。

 

特にアドリア海ではイギリス王立海軍との共同作戦を行うことが多く、”ノヴォロシースク”の乗組員達にもジェームズ・ケネディは広まった。

 

たまたま近くにいた政治将校のアンドレイ・マスレニコフに全員が目を向けた。

 

階級は大尉、髪はブロンドで口髭を蓄えた若い政治将校である。

 

「流せばいいさ、過去は過去、今は今だ」

 

マスレニコフ大尉はマルクス・レーニン主義の教義を信じていたが同時に柔軟でもあった。

 

本来政治将校とはカウンセリングや教育も仕事として含まれており、狭い艦内で将兵の心を保つことは重要だ。

 

ギターを持った水兵はジェームズ・ケネディのメロディを弾き、それに合わせて周りの水兵達が歌った。

 

「На эсминце капитан Джеймс Кеннеди 〜♪Гордость флота англичан, Джеймс Кеннеди〜♪」

 

将校達も手拍子を合わせて歌を盛り上げた。

 

普通であればこのまま歌を歌ってアンコーナの港に入るはずだった。

 

だがBETAは人の予定など気にしない。

 

いつも最悪のタイミングで襲来する。

 

まず”ノヴォロシースク”のブリッジにナポリ連合海軍部隊司令部から要請が入った。

 

「同志司令、同志艦長、NATOナポリ連合海軍司令部からです。クロアチア、プーラ方面から連隊規模BETA群がイタリアに向けて海底を移動中とのこと」

 

チェルニフ大佐とサブリン少将は顔を見合わせた。

 

「それで、司令部はなんと?」

 

チェルニフ大佐が尋ねた。

 

報告を行った通信士はすぐに答えた。

 

「司令部としては救援を要請すると……」

 

せっかくアルコーナに入る直前だっていうのにという感情を抑え込み、サブリン少将は”ノヴォロシースク”政治部長のルドルフ・ソコロフ中佐に尋ねた。

 

「同志、水兵達はもう一戦行けそうか?」

 

「まだ戦えるとは思います、アルコーナ入りを邪魔されてむしろやる気になってくれると思いますよ」

 

サブリン少将は頷き、先に命令を出した。

 

「各艦に伝達、師団は進路を変更しプーラより移動中のBETA掃討戦に向かう」

 

「了解」

 

「取舵30度!航空隊には待機命令!」

 

チェルニフ大佐が”ノヴォロシースク”全体の指示を出し、艦隊はサブリン少将の命令を受けて進路を変更した。

 

各艦の艦内が慌ただしく動き始めた。

 

下士官水兵達も士官達も内心BETAに対する怒りを抱きながら準備に入った。

 

「BETAどもめ、厄介なことしおって…!」

 

「なんにせよイタリア本土へ上陸されれば厄介なことになる。ソ連海軍の名誉の為にも我々は戦わねば」

 

「はい…!」

 

アドリア海を”ノヴォロシースク”海軍航空師団が渡る。

 

12機のMiG-23Kと六隻の艦艇がBETAを食い止める為に海を征く。

 

ノヴォロシースク”と五隻の艦艇の戦いは今始まった。

 

 

 

 

 

ノヴォロシースク”の甲板、Ka-27が4機残っていた。

 

そこへオレンジ色の救命衣とヘルメットを持って何人かの海軍航空隊員が駆け寄ってきた。

 

整備士達は機体の最終チェックを終え、Ka-27から離れる。

 

Ka-27の二重反転式ローターが回り始め、ブリッジからは発艦の許可が降りた。

 

パイロットがハンドサインを出し、Ka-27の対潜ヘリ部隊が出撃する。

 

本来であればKa-27なら8機は積める”ノヴォロシースク”であるが、戦術機優先で艦載している為4機しかいない。

 

それでもNATO海軍の警戒網と合わせれば十分な警戒網が構築出来る。

 

Ka-27は想定戦闘海域に赴き、分担してソノブイを投下した。

 

BETAというのは頑丈な割に単純な生き物である。

 

海底を歩けるタフな体組織はあっても、足音を隠すような知能はなかった。

 

その為水中音響機器がしっかり展開されていればBETAの地点はすぐに分かった。

 

”ノヴォロシースク”海軍航空師団もKa-27が展開したソノブイによってBETAの移動地点はある程度理解出来た。

 

「BETAは現在、プーラより40キロ沖合の地点に展開しています」

 

「そこだとNATO軍の機雷敷設範囲内だが」

 

「恐らく抜けたんでしょう」

 

副長のエフゲニー・リトヴィネンコ少佐はチェルニフ大佐に意見を述べた。

 

実際BETA群は何割かは既に海底の沈底機雷と短係止機雷によって吹き飛ばされて死んだ。

 

それでも残りは同胞の屍の中を泳いで前進していた。

 

「こりゃあ師団以上のBETAが海渡ってるんじゃないか?」

 

思わずサブリン少将は疑問を口にした。

 

彼の疑問は当たっていてすぐにナポリ連合軍司令部から情報の訂正として数個師団規模BTETA群が海面移動中と報告が入ってきた。

 

BETAの海底移動は今回とても規模が大きかった。

 

無論こうした海底移動を見越してNATO海軍はプーラより20キロ地点の海底に機雷を敷設し、更に40キロ地点にも機雷を敷設した。

 

それ以降は艦艇や潜水艦による迎撃によってBETAを撃退し、そこすら突破されればイタリア軍の沿岸防衛部隊が敵を防ぐことになる。

 

「間も無く40キロ地点の機雷原にBETAが突入します」

 

「これで防げますかね」

 

「守りは厚い方がいい。対潜艦は先行し、対BETA掃討戦の体勢に移れ。”ノヴォロシースク”は戦術機を展開し足止めを喰らわせろ。6機は待機し、装備は爆弾に変更しろ」

 

「了解…!」

 

ノヴォロシースク”ではエレベーターによってMiG-23Kが甲板上に上げられ、発艦準備が始まった。

 

武装は念の為の突撃砲に腰には投下型の戦術機が運搬可能な機雷を備え、出撃を待っていた。

 

青い塗装のMiG-23Kは珍しく、青い色合い戦術機は海の青に同化しながらも目立って見えた。

 

既に衛士は中に入っており整備も終わっているのでいつでも出撃出来る状態であった。

 

「戦術機を優先で出せ!ヘリの着艦は後でいい!」

 

「了解!」

 

水兵の誘導によって12機いるうちの6機のMiG-23Kが発艦を開始した。

 

発艦作業は凡そ5分程度で終わり、その後は出撃した4機のKa-27の着艦作業に入った。

 

それから同師団は戦場へと急いだ。

 

その間にもブリッジには詳細な報告が次々と入ってくる。

 

「偵察艇の報告だと要塞級の入水も確認されたとのことです」

 

「要塞級かぁ……近づかれると厄介ですな」

 

チェルニフ大佐の発言にサブリン少将は同調した。

 

あの巨体、艦艇であれば撃ち倒すのは簡単だが接近され触手で好き放題暴れ回られると軍艦も沈む恐れがある。

 

その為突撃級は遠距離から叩くよう奨励されていた。

 

「艦長」

 

「はい」

 

「確か前の入港の時、本国から追加装備が来てたよな?」

 

サブリン少将の問いにチェルニフ大佐は「はい」と頷いた。

 

「戦術機用の追加武装です、それが何か?」

 

「待機中の戦術機には追加装備を配備。対要塞級戦に備えろ」

 

「はい」

 

すぐに艦長は通信機を取って艦内の戦術機部隊に命令を出した。

 

後のことはチェルニフ大佐に任せ、サブリン少将は先行した対潜艦隊に意識をやった。

 

1134A型も61型もまだ戦場想定海域には到着していない。

 

「戦闘想定海域には部隊は待機中か?」

 

「イタリア海軍のフリゲート戦隊がいます、一部哨戒中の艦艇はプーラへ阻止攻撃に向かいましたがそれ以外は集結中です」

 

「我々が二番乗りのようですな」

 

ソコロフ中佐の発言通りイタリア海軍以外には現状戦場に間に合う艦隊はソ連海軍”ノヴォロシースク”海軍航空師団しかいなかった。

 

少なくとも他の艦隊が来るまではイタリア海軍と共に現地点を死守せねばならない。

 

イタリア本土に上陸されれば厄介なことになる。

 

「まず第一の守りが我々とイタリアか……皆に苦労をかける」

 

「やるしかないでしょう、海軍に苦労は付き物ですよ」

 

少将は頷いた。

 

実際ソ連海軍とは苦労の連続で成り立っている。

 

革命当初は”()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”上に*1白軍やらに持ってかれたし、30年代にようやくソヴィエツキー・ソユーズ級が建造出来るかと思えば大祖国戦争が始まり全て御破算になった。

 

水兵達は艦乗りではなく陸戦兵として戦い、大祖国戦争の栄光を勝ち取った。

 

その後もフルシチョフの無茶苦茶に付き合わされ、何故かウスチノフ元帥は海軍にだけはいい顔せず、反面グレチコ元帥は空母を作れと言い出す始末。

 

そもそもソ連海軍の本当の敵はあのアメリカ海軍である。

 

ソ連海軍から見ればアメリカ海軍なんて天下無敵を絵にしたような存在、後々六百隻艦隊構想とか言い出す相手に真正面から打ち勝つのは難しいどころの話ではなかった。

 

それでもソ連海軍は潜水艦と弾道ミサイルを駆使して核の聖域*2を作り、ゴルシコフ元帥指導の下大祖国戦争の頃から大きく進化した。

 

今ではキエフ級四隻、アドミラル・クズネツォフ級二隻らを基幹とする外洋艦隊を国連軍に供出し、世界の為にBETAと戦っている。

 

ソ連海軍にとって今次大戦は正に初めて海軍として掴んだ栄光の時であった。

 

であればその栄光に恥じぬ戦いをせねばならない。

 

少なくともサブリン少将はそう考えていた。

 

 

 

 

1134A型”マーシャル・ヴォロシーロフ”。

 

かのソ連邦元帥クリメント・ヴォロシーロフから艦名は取られ、艦長はヴァシリー・フロリャク中佐、副長はエフゲニー・ズデセンコ少佐、政治部長はセルゲイ・スサゾフ少佐が務めていた。

 

マーシャル・ヴォロシーロフ”の所属はもともと太平洋艦隊であった。

 

それが”ノヴォロシースク”を旗艦とした外洋艦隊編成に伴って供出艦として1134A型のこの艦が選ばれた。

 

ちなみに同じ1134A型の”アドミラル・オクチャブリィスキー”も太平洋艦隊所属である。

 

こちらはV・F・ヴォルコフ中佐という人物が艦長として指揮を取っていた。

 

先行した対潜艦隊は想定戦場海域に到達し、BETAが来るのを待った。

 

近くには目に見える距離にイタリア海軍の第5フリゲート戦隊がいた。

 

「BETA、現在機雷原に突入中。損害は大だそうです」

 

「突破してくるBETAに対し、まずは対潜ロケットによる海底攻撃を行い進撃を阻止。それ以降は対潜弾による排除を行う」

 

フロリャク中佐は冷静に命令を出した。

 

BETAというのは基本津波のように押し寄せてくるもので、焦って妙な手を打てば防衛線はたちまち瓦解する。

 

冷静かつ確実にBETAを排除する方法が必要だった。

 

艦隊は陣形を組み、BETAの侵入を阻止する。

 

その間に機雷を積んだMiG-23Kが艦隊の上空を飛び越えていった。

 

「”ノヴォロシースク”の海軍航空隊です」

 

スサゾフ少佐はそう報告した。

 

戦術機の運べる機雷じゃNATO海軍の機雷原に比べたら幾分か規模は小さくなるがないよりマシである。

 

「あれで時間を少し稼ぐとして我々の出番はどのくらいだ?」

 

「かなりの数がNATOの機雷で吹っ飛んでるそうなので戦術機部隊を合わせれば30分は持つでしょう」

 

スサゾフ少佐は冷静に答えた。

 

それでも30分、BETAが突っ込ませてきた物量を考えればこれが限度である。

 

海底を移動中のBETAは戦力を半分以下に減らしつつも2つの機雷原を突破し、進撃していた。

 

そこへ新たな機雷原が設置される。

 

MiG-23Kの編隊が搭載しているPMR-2を水面に投下する。

 

本来は艦艇から発射するものであるが戦術機からの投下用に改良された。

 

PMR-2が海底にいるBETAを音響探知で発見し、追尾する。

 

PMR-2は周りにいるBETAごと周囲を吹っ飛ばし、肉片すら残さずBETAを破壊した。

 

当然これでも撃破出来たBETAは僅かである。

 

されど時間は十分稼いだ。

 

この間にイタリア海軍の潜水艦部隊がBETAの迎撃にやってきた。

 

エンリコ・トーチ級潜水艦、最新型のサウロ級よりは前の世代であるがBETAを吹っ飛ばすのであれば十分な性能である。

 

エンリコ・トーチ級はまず機雷を再度敷設して後退し、BETAを罠にかけた。

 

地味な作業ではあるがそれ故に人類の損害は少なく、無駄な犠牲は出ない。

 

尤もこれだけやってもBETAは容赦なく突き進んでくる。

 

『BIPよりTuKPへ、BETA、イタリア海軍の機雷原を突破!』

 

「間も無く対潜ミサイルの有効射程距離です」

 

「ミサイル装填、目標はBETA第一梯団。合図次第撃て」

 

フロリャク中佐の命令を受け、”マーシャル・ヴォロシーロフ”の対潜ミサイルが準備された。

 

マーシャル・ヴォロシーロフ”、”アドミラル・オクチャブリィスキー”共々URPK-3”メテリィ”が搭載されている。

 

B(Боевой)I(Информационый)P(Пост)が目標を探知して攻撃地点を正確に指し示す。

 

その間に対潜ミサイルが装填され全ての準備が整えられた。

 

「同志艦長、攻撃準備整いました」

 

「撃て!」

 

マーシャル・ヴォロシーロフ”と”アドミラル・オクチャブリィスキー”から数発のURPK-3”メテリィ”が発射された。

 

対潜ミサイルは接近するBETAの梯団を完全に粉砕した。

 

もう第何波か分からないBETA群も海の藻屑と消え、すぐに次の梯団が来た。

 

その間に61型とイタリア海軍のフリゲート戦隊は前進して対潜ロケットでの迎撃を開始した。

 

「“ノヴォロシースク”より入電、1134A型は再度対潜ミサイル攻撃を投入せよだそうです」

 

「了解した、ブリッジよりBIPへBETA第二梯団に対する対潜攻撃を開始する。攻撃座標を指定せよ」

 

『BIP了解』

 

すぐにソノブイの音響探知を用いて“マーシャル・ヴォロシーロフ”は目標を探る。

 

第一梯団のBETA群は61型とイタリア海軍で粉砕し、次に迫るBETAはエンリコ・トーチ級の魚雷によって吹き飛んだ。

 

それでも生き残ったBETAに対しては待機していたもう6機のMiG-23k部隊が機雷を投下して殲滅する。

 

『BIPよりブリッジへ、ターゲットを補足。攻撃地点を送る』

 

「了解、残る対潜ミサイルを攻撃地点へ展開せよ」

 

「了解…!」

 

射原入力がなされ、”マーシャル・ヴォロシーロフ”は”アドミラル・オクチャブリィスキー”と共に残り4発のURPK-3”メテリィ”を放った。

 

合わせて8発の対潜ミサイルはそのまま水中より襲来するBETAを吹き飛ばす。

 

BETAを相手している時は楽だ、後で行わなければならない死骸回収を考えずに済む。

 

攻撃が終了するとフロリャク中佐は命令を出した。

 

「これより本艦は第三戦速で前進し友軍艦艇と合流。対潜ロケット、魚雷によるBETA阻止戦闘を行う」

 

「了解!」

 

「各員、これから厳しい戦いになるが全てはBETAにこれ以上人を食わせない為だ。みんなもう少し踏ん張るぞ」

 

政治部長のスサゾフ少佐は艦長の発言にそう付け加えた。

 

味方の士気を高めるは政治将校の仕事、艦内の各所でも政治将校は各所を回って声をかけていた。

 

”マーシャル・ヴォロシーロフ”は前進し、敵を撃ち倒さんと前へ進む。

 

まだBETAは数千体ほど海底に残っていた。

 

 

 

 

61型大型対潜艦の艦艇はBETAを殲滅後一旦後退した。

 

その頃には1134A型と合流し、甲板では何度目か分からない戦術機の飛行を水兵達が見守っていた。

 

2個の梯団襲来以降もBETAは度々機雷原を抜けて海底を移動していた。

 

されどそうしたBETAは1個小隊か中隊程度であり、既存の部隊で十分対処出来た。

 

この時点でBETAは既存の機雷原だけでなく、忍ばせていた追尾機雷で損害を受けるようになっており、潜水艦隊による妨害も大きなダメージになっていた。

 

イタリア海軍だけでなくアメリカ海軍のロサンゼルス級、英王立海軍のスウィフトシュア級らがBETAの侵攻を妨害する。

 

こうした妨害によってBETAは更に数を減らし、最後に行われた大規模移動では確認された戦力は凡そ1個旅団程度であった。

 

尤もこの頃になると”ノヴォロシースク”海軍航空師団は1134A型は対潜ミサイルを使い果たし、残りは対潜ロケットと魚雷による排除しかなかった。

 

されど後少しでNATO海軍の増援が到着する。

 

ここが正念場であった。

 

6機の戦術機が編隊を組みながら目標地点に移動する。

 

機雷を積んだMiG-23Kである。

 

MiG-23Kはそのまま目標地点に機雷を投下し、そのまま退避する”はずだった”。

 

突如海面から長い槍のようなものが飛行中の戦術機めがけて飛んできた。

 

『1134305!』

 

隊長機の1134301が叫ぶ。

 

1134305のMiG-23Kは左足の一部が破壊され、周囲は溶解液で溶けていた。

 

これ以上溶解が進まぬよう1134305は機体の脚部を切断する。

 

『まだ飛べますがバランスが取れません…!』

 

『離脱しろ!クソッなんだ!?』

 

各機は周辺海域を離脱し、1134305は一足早く”ノヴォロシースク”へ帰投した。

 

海面から現れたそれは陸地だとよく見られた存在だった。

 

『1134301より”ノヴォロシースク”へ!我々は現在海面航行中の要塞級と戦闘中!こちらの武装では歯が立たない、至急増援を!』

 

『1134301了解した、後続部隊を直ちに向かわせる』

 

返答は早く、その点に関して1134301は安心出来た。

 

残り5機の戦術機は相手の触手攻撃を回避しつつ、手持ちの突撃砲を放った。

 

無論相手は要塞級なので効くはずもない。

 

『まさか海面航行出来る要塞級がここにも出たなんて…!』

 

『光線級がついてないだけマシだ!』

 

衛士達の発言通り、海面を船のように航行しながら艦艇や戦術機に攻撃を加える要塞級はさほど珍しくない。

 

例えば大西洋ではリヴォフ・ハイヴがやったように光線属種を乗せて擬似的に砲を作り出す要塞級もいた。

 

こうした要塞級は海上の艦艇撃破の為に度々送り込まれ、その度に戦術機と官邸の連携によって撃破されている。

 

つまりこの海面航行型要塞級はまだ初歩の初歩、大した敵ではない。

 

ウィーンかブダペストかベオグラードかどこのハイヴかは分からないがアドリア海に送り込んできたそれはまだ試作の段階だった。

 

頭脳級にも多少の個性はあるがある目的を達成したいと考えた時に導き出される解は基本的に似通っている。

 

1+1が2であるように答えがある程度同じなら多少形状は違くとも同じようなものが出てくる。

 

だから重頭脳級の統制がなくともどこか似たような存在が出てくるのはあり得た話であった。

 

『数は5体、進行方向からして艦隊の方へ向かっています!』

 

『向こうに行かせるな!艦隊は今BETAの海底群と戦闘中だ。ここで食い止めろ!』

 

『了解!』

 

触手を回避しながら取り敢えず出来ることをする。

 

これでも”ノヴォロシースク”の戦術機部隊は数年前から国連軍として外洋に派遣され、BETAと戦ってきた精鋭達だ。

 

最初にやられた1134305も接近に気づいた瞬間に機体を翻させて致命打は避けている。

 

奇襲でなければこの程度の攻撃でやられるほど弱くはない。

 

『これなら我々も125mm持ってくるべきでしたね!』

 

『ああ!完全にミスだ!』

 

隊長機の1134301と1134304は攻撃を躱しながら通信で反省点を言い合った。

 

少なくとも彼らは要塞級の気を引いて艦隊から引き剥がしたし、時間も稼いだ。

 

そうこうしていると”ノヴォロシースク”から追加の戦術機部隊がやってきた。

 

『1134301、お待たせしました!』

 

後続から来た1134309ら増援のMiG-23Kは片手に125mm滑腔砲を流用した125mm対物砲を有している。

 

背中の担架にも1門備えており、各機先行していたMiG-23K部隊に渡した。

 

『助かった!』

 

武装を受けとるとMiG-23Kは狙いを定め、可能な限り関節部を狙って要塞級を攻撃した。

 

関節部に命中すると要塞級は崩れ落ち、1匹仕留めた。

 

別の編隊も他の編隊と協働でもう1体仕留める。

 

『いけるぞ!たたみかけろ!』

 

同じ頃”ノヴォロシースク”ではサブリン少将が航空部隊のことも気にかけつつ、眼前に迫る海底のBETAに注力していた。

 

少なくとも泳げる要塞級は戦術機部隊で抑え込めている、後は海底のBETA本隊だ。

 

増援としてこの頃にはアメリカ海軍のチャールズ・F・アダムズ級が二隻、スプールアンス級が一隻合流していた。

 

それでもBETAの戦力を食い止める為には戦力が足りない為”ノヴォロシースク”もRBU-6000を発射する為に前に出ていた。

 

「アメリカの駆逐艦が三隻、我が軍の大型対潜艦が五隻と空母一隻、そしてイタリアのフリゲート戦隊。相手は6,000体越えのBETAか」

 

既に1134A型は対潜ミサイルを使い切っている為、ミサイルによる攻撃はアメリカ海軍のアスロックに任せる他ない。

 

後は接近するBETAに対しまずは魚雷、そして対潜ロケットによる掃討であり、これを超えられれば他に手段はなかった。

 

これでもイタリアとアメリカ海軍の潜水艦隊が奮戦しBETAの数をだいぶ減らした。

 

すぐ近くには日本海軍の地中海派遣艦隊の主力、第二艦隊の空母打撃群が接近中であった。

 

「せめて増援が来るまでは持たせたいな」

 

「はい」

 

チェルニフ大佐は頷いた。

 

それから数分後、アメリカ海軍による対潜ミサイル攻撃が行われた。

 

アスロックによってBETAは甚大な被害を受けつつも前進する。

 

無論アメリカ海軍とてこの程度でBETAが止まるとは思っていない。

 

高々三隻の駆逐艦でBETAが退いてくれるほど甘い存在ではないことは十分に理解していた。

 

「BETA、依然接近中!」

 

「各艦、魚雷による対潜攻撃開始。米艦艇及びイタリア艦艇にも攻撃を要請」

 

「了解…!」

 

現状の艦隊の中で一番高位の人間はサブリン少将である。

 

NATO軍等級ではOF-6に相当し、各艦の艦長クラスよりは当然偉かった。*3

 

よって国連軍の規定によってこの場の臨時指揮はサブリン少将が執り行った。

 

艦隊はBETAが魚雷の有効射程距離に侵入すると魚雷による攻撃を行った。

 

当然水中を移動中のBETAにこれを妨害する術はないし、要塞級が下手に魚雷を触手で攻撃すれば誘爆して味方部隊に損害が出る。

 

海底を進むBETAは後続の味方がなんとかしてくれることを信じて突き進むしかなかった。

 

「魚雷、全弾命中!BETAは依然健在です!」

 

「対潜ロケット攻撃用意」

 

すぐにサブリン少将は次の手に移った。

 

魚雷の一斉射ではBETAは止まらぬことくらい分かっている。

 

であれば方法は1つ、持てる火力を海底に投射するだけだ。

 

サブリン少将は一切焦っていなかった。

 

彼は既に最悪この場は突破されるだろうと思っていたし、そうであるなら最大限敵にダメージを与えねばならないと考えていた。

 

その為に出来る事をやる、ソ連海軍にはこうした地道な道しかなかった。

 

「全艦対潜ロケット用意完了、いつでも撃てます」

 

「BETA、対潜ロケットの有効射程距離に入りました…!」

 

「撃て!」

 

イタリア海軍のフリゲート戦隊、ソ連海軍の”ノヴォロシースク”海軍航空師団、アメリカ海軍の駆逐艦群、これらの艦艇から一斉に様々な種類の対潜ロケット砲が放たれた。

 

入水したロケット弾は移動中のBETAを撃滅し、周囲に爆発を撒き散らした。

 

爆発の雨に移動中のBETAは殆ど打ち倒された。

 

「直ちに反応を確認、生き残りを確認しろ」

 

サブリン少将に一切の油断はなかった。

 

彼は本来革命的情熱を持つ熱い男であったが、戦場では冷静に部隊を指揮した。

 

だから次の報告が入ってきてもショックを受けることはなかった。

 

「BETAは……健在です……!」

 

ブリッジは一瞬だけ絶望的な雰囲気に包まれた。

 

だがそれを打ち砕くようにサブリン少将が命令を出す。

 

「各艦に伝達、次の対潜ロケット砲を装填しつつBETAの進路から退避。まだ一戦やれるが距離を取る」

 

「了解…!」

 

「同志少将!」

 

別の水兵が喜びを含みながらサブリン少将に報告した。

 

「何か?」

 

「増援です!日本海軍”鞍馬”より入電!BETA接近阻止の為先行して戦術機部隊を展開したと!」

 

「ついに来たか…!」

 

艦列の合間を縫ってF-4と思わしき戦術機が飛来する。

 

機体後部にはMiG-23Kと同じく機雷が搭載されており、武装は36mmの突撃砲を2丁持っていた。

 

これこそが日本海軍F-4EJ、空母”鞍馬”の戦術機部隊であった。

 

戦術機部隊は先行して機雷を落としてBETAの足を止める。

 

その後方から対潜ミサイルが放たれ、更にBETAを吹き飛ばした。

 

日本海軍の地中海派遣艦隊、第二艦隊の各艦艇である。

 

旗艦”鞍馬”を中心に山雲型駆逐艦の”青雲”と”秋雲”や太刀風型”太刀風”らがいた。

 

「日本海軍の増援です!」

 

鞍馬”からは対潜装備のF-4EJがBETAに対して攻撃を続け、残りの駆逐艦らは対潜ミサイルらでBETAの進撃を阻止した。

 

その頃にはイタリア海軍から新たに増援が到着して戦闘に参加した。

 

また時を同じくしてイギリス王立海軍もアメリカ海軍の主力と共に到着し、戦線に加わった。

 

BETAは左右から来た増援に殲滅され、その間に今の今まで戦闘を続けてきた部隊は補給の為後退した。

 

その頃には要塞級を殲滅したMiG-23Kが帰投し、補給を受けていた。

 

彼らは全員役割を果たした。

 

水兵から下士官、士官から衛士まで。

 

であれば司令官として1つ言わなければならないことがある。

 

「”ノヴォロシースク”より各艦へ、司令官のヴァレリー・サブリン少将である。同志諸君の踏ん張りで我々は友軍の増援まで耐え凌げた。この場を借りて礼を述べる。諸君はソ連海軍にとって模範たる海軍兵であり、祖国の誇りだ。共に戦えて光栄だ、ありがとう同志諸君」

 

サブリン少将からの労いの言葉だった。

 

少将は元々政治将校であった。

 

レーニン名称軍事政治アカデミーを卒業し、暫くは政治将校としての職務についていた。

 

だから将兵を労う必要性も、使うべき言葉もよく理解していた。

 

「艦長、色々苦労をかけたな」

 

「いえ、仕事ですから。少将こそ、お疲れ様です」

 

サブリン少将とチェルニフ大佐は互いに敬礼を送った。

 

そのまま”ノヴォロシースク”の船員と各艦の将兵に向けても敬礼を送る。

 

人間1人が出来る最大限の敬意のあり方であった。

 

 

 

 

 

-ソ連領 ロシアSFSR レニングラード州 レニングラード市 ソ連海軍本部-

BETAによる大規模海上侵攻の阻止は海軍人であれば即座に耳に入ってきた。

 

特に阻止作戦に自軍の艦艇が参加していたとなれば尚更だ。

 

ノヴォロシースク”と五隻の対潜艦はイタリア海軍と共に真っ先にBETAに立ち向かい、侵攻を阻止した。

 

現在師団は予定通りアンコーナの港に入り、補給と整備を行っていた。

 

ソ連海軍の将校達は当然この戦果を喜んだ。

 

ソ連海軍の名声は今次大戦で鰻登り、大祖国戦争やそれ以前を知る海軍人からすればこれほど嬉しいことはなかった。

 

そのうちの1人がソ連海軍総司令官のセルゲイ・ゴルシコフソ連邦海軍元帥である。

 

かれこれ25年間ソ連海軍の総司令官を務め、ソ連海軍をここまで成長させた近代化の父である。

 

今のソ連海軍こそゴルシコフ元帥が夢見た姿であり、理想そのものであった。

 

彼は報告書を隅から隅まで読み、暫く目を瞑って黙っていた。

 

歓喜に打ちひしがれていた、素直に嬉しかった。

 

ゴルシコフ元帥の軍役が始まったのは1927年のこと、彼は54年間海軍に尽くしてきた。

 

大祖国戦争という最大の苦労も乗り越えてようやくソ連海軍が今の姿へと変貌した。

 

彼にとってソ連海軍の勝利は自身の反省に対する答え合わせでもあった。

 

ゴルシコフ元帥が勝利の美酒を噛み締めていると執務室を軽くノックする音が聞こえた。

 

「同志総司令、チェルナヴィン上級大将がお越しです」

 

「入ってくれ」

 

海軍中佐に促されて1人の海軍上級大将*4が入ってくる。

 

ウラジーミル・チェルナヴィン上級大将、ソ連北方艦隊司令兼国連派遣艦隊司令だ。

 

チェルナヴィン上級大将は普段国連軍の派遣艦隊司令として北方艦隊司令部か旗艦の中にいるが、今回は海軍会議の為にレニングラードに来ていた。

 

他の艦隊司令よりも一足早くついたので総司令であるゴルシコフ元帥に挨拶に向かった。

 

「同志、”ノヴォロシースク”の戦果はご覧になったようですね」

 

ノヴォロシースク”海軍航空師団の戦果は当然真っ先に派遣艦隊司令官のチェルナヴィン上級大将の下に届けられた。

 

チェルナヴィン上級大将も彼らの戦果を喜び、BETAの侵攻を防いだことに安堵した。

 

各所のBETA阻止戦ではソ連海軍の潜水艦隊も戦果を上げており、元々潜水艦乗りだったチェルナヴィン上級大将からすればこうした戦果は素直に嬉しかった。

 

「ああ、やはり空母建造は戦術機運用に舵を切って正解だった。今やウスチノフ元帥も我々には何も言わない、我が軍の空母を世界に押し出すんだ」

 

「潜水艦隊も戦果を上げています、我が海軍はかつてない進化を遂げました」

 

ゴルシコフ元帥は頷いた。

 

本当にその通りである。

 

それもゴルシコフ元帥やチェルナヴィン上級大将の絶え間ない努力と奉仕があればこそだ。

 

1918年から早63年、見るも無惨な姿であったソ連海軍は遂にここまで来た。

 

長く、苦難の連続であったが彼らは成し遂げ、まだ進化の余地を残していた。

 

「後は例の艦の完成を待つばかりだな」

 

「はい」

 

丁度ゴルシコフ元帥は自身の目の前にその”()()()”である新型空母の開発計画書を出した。

 

計画名はオリョール、キエフ級、そしてアドミラル・クズネツォフ級で空母の開発能力を手にしたソ連海軍による新型空母の建造計画であった。

 

それもこのオリョール計画はかなり挑戦的な代物である。

 

これはソ連初の原子力空母の建造であり、ソ連海軍としては計画に期待を寄せていた。

 

現状、このペースでいけば84年までには実地テストに入れる予定であった。

 

「この計画の達成は我々にとって1つの集大成だ。なんとしても今次戦争までには間に合わせ、運用しなくてはならない」

 

ゴルシコフ元帥の決意にチェルナヴィン上級大将は頷いた。

 

「海軍は生まれ変わる、BETAという新たなファシストを打ち倒す為にな」

 

後にオリョール計画で建造される原子力空母は1143.7型重航空巡洋艦と呼ばれるようになる。

 

大戦に参加したのは一隻のみ、建造されたのも一隻のみでそれ以降に続く艦艇はいなかった。

 

されどその一隻はソ連海軍の集大成として戦果を上げる。

 

レーニンがロシアを変えたように、”ウリヤノフスク”もソ連海軍を変えるのだ。

 

 

 

つづくかも

*1
台風にでも遭ったんだろうか

*2
北方艦隊のあれとかオホ^〜ツク核要塞とか

*3
ソ連海軍の場合は少将(Контр-Адмирал)が将官の始まりである為

*4
本作ではАдмирал ФлотаをГенерал Армииとの兼ね合いを鑑みて上級大将と記載

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