マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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僕らはガガーリンに続く 決して後退はしない
今や無敵の軍団となったのだ
暗雲を突き抜け
雷雨を突き抜けて行こう
地球も微笑んでいる、彼のように…
-”僕らはガガーリンに続く”より抜粋-


砂塵の前

-日本領 東京 市ヶ谷 日本国防省本庁舎-

東京の市谷にある国防省の本庁舎。

 

本庁舎のA棟は統合参謀会議、参謀本部、海軍軍令部、空軍参謀本部ら軍令の主要機関が設置され、B棟には文民官僚用のものが置かれていた。

 

その為退役し、貴族院議員として国防政務次官に就任した烏丸議員はB棟の方にいた。

 

烏丸議員も前線から送られてくる報告書や要望書に目を通し、実務上必要な書類にサインを行った。

 

彼が目を通す書類は陸海空軍全てから来るものであり、書類の中に特に目を引くものがあった。

 

「15の外地派遣ねえ」

 

烏丸議員は書類を見ながらそう呟いた。

 

書類の題名は”F-15運用部隊の外地派遣について”と書かれていた。

 

日本帝国における戦術機開発の最終的な到達点は国産機の主力化である。

 

F-15、元はアメリカの戦術機であるが日本帝国はまたもやライセンスを買取り、自国での生産を始めた。

 

既に必要な工廠は国内に揃っており、日本製F-15ことF-15Jの初号機は1979年にロールアウトした。*1

 

それから暫くはF-15Jの生産と戦力化に努め、ようやくF-15Jを装備した第202飛行隊の編成が完了した。

 

その後も第203、第201飛行隊とF-15Jを装備する部隊は増えていった。

 

真っ先にF-15Jを配備し終えた第202飛行隊は各隊を教導し、ついに日本のF-15が外地に立つ時が来た。

 

「案外早く戦力化出来ましたね」

 

政務次官付の秘書官、高森繁弥はそう感想を述べた。

 

彼は背広を着た文民の官僚である。

 

「国産派宥めたのが効いたのかねぇ、まあ使えるもん増えるのはええことや」

 

このF-15納入が持ち上がったのはF-4の配備が半ば完了し、次世代戦術機調達計画の話が持ち上がった頃であった。

 

当初国防省内では斯衛軍ほどの熱量ではないが一部が国産機の生産を主張していた。

 

ライセンス生産によって国内でF-4を生産し、この頃には改造プランも実施されていた為官僚達は出来るのではないかと高望みしたのだ。

 

無論現実主義的な官僚もいたし何より国産で戦術機を作るより買った方がコスパがいいと考える官僚もいた。

 

丁度この頃烏丸議員は退役し貴族院議員に初当選した頃だった。

 

烏丸議員は次世代戦術機調達計画の選定員として計画に携わり、彼自身はF-15のライセンス生産派であった。

 

議員は国産派の官僚達を宥め、穏便にF-15の調達に舵を取らせた。

 

「あの時は国産派にかんにんしてもろうたが、次はそうも言ってられんやろなぁ」

 

「となると次の戦術機は……」

 

「自前で作れたらええね」

 

自前で戦術機を作るというのは日本空軍にとっても国防省にとっても遠い目標として掲げていた。

 

その為にF-4EJ改とF-15Jのデータと生産する経験値が必須である。

 

階段というのは飛ばして進むことも出来るが転んだ時の衝撃は計り知れない。

 

今の日本は本土が戦場になっていないとはいえ戦時であり、転んで失敗することは許されない。

 

高い目標を叶える為に今は一歩づつ進むのがベストだ。

 

「まあ海さんとこは自前で行けそうやけどね」

 

烏丸議員は別の書類に目を通し、感想を述べた。

 

「海さんというと……ああ、新造艦のことですか」

 

烏丸議員からその書類を受け取り高森は納得して頷いた。

 

国産空母建造計画、日本海軍が今日まで積み重ねてきた運用ノウハウと”天城”を完成させた時の建造ノウハウを合わせた新生日本海軍の空母の集大成である。

 

既に建造は始まっており、予定では来年に進水し就役は再来年の1983年以降になるだろうと予想されていた。

 

「たった10年そこらでうちも空母四隻体制ですか。海軍はずいぶん遠いところまで行きましたね」

 

「遠いところねぇ……昔に戻っただけやないかな?」

 

「ああ…それもそうですね」

 

少なくとも日本が空母を持つのは初めてではない。

 

昔に戻る、というと語弊はあるがかつての姿を現代の技術で海軍を過去の姿と同じ規模にしようというのは確かにあった。

 

日本海軍とはやはり空母や軍艦が海原を軍艦マーチと共に駆けていく姿が相応しい。

 

烏丸議員は陸軍出身であるからそこまでのロマンは感じなかったが。

 

「高森くん、1つ聞きたいんやけど」

 

「なんですか?」

 

「海さんこれ作り終えたら次はどないするつもりなんやろうね?」

 

高森と烏丸議員はかなり長く一緒に仕事をしている為彼が言わんとすることは大体分かった。

 

「あくまで総意ではないですが、総軍司令部からは国産の二隻目を作りたいみたいな話は出てますね」

 

日本海上総軍司令部、旧軍出身者はより慣れ親しんだ言葉でこれを連合艦隊司令部と陰で呼称していた。

 

運用の統括部門であり、彼らの一部は日本海軍の外洋派遣を理由に空母をもう一、二隻欲しいと言い出していた。

 

五隻あれば二隻を本土の守りとして常駐させ、残り三隻で空母運用のルーティーンが出来る。

 

「へえ、海さんは元気やねえ」

 

「多分大蔵省が許さないと思うんですがね……」

 

当たり前だという顔で烏丸議員は微笑を浮かべた。

 

空母を一隻導入する時でもあれだけ揉めたのだ、戦時とはいえ海軍にそこまで一点集中はしていられない。

 

「後こちらは陸軍参謀本部から、中東攻勢で用いる兵力の策定書です」

 

高森は書類を差し出した。

 

「斎藤くんも随分仕事が早いねえ」

 

「なんだかんだ前職副議長ですからね、基本的にはインドからの転用で足りるそうです」

 

ルディヤーナー・ハイヴの消失から早1年、BETAの不時着事件も半年が過ぎようとしていた。

 

インドにはもうBETAの脅威などない。

 

今インドに必要な兵力は治安維持業務を行う隊と復興業務を手伝う隊であった。

 

日本軍もそれらの部隊を残して他は全て中東戦線に転用し次の攻勢の臨んだ。

 

「インドに3個旅だけ置いて中東は27個旅で攻め立てる、よろしいことや」

 

「中東が終わればようやく兵力動員が解除出来ます」

 

「本当の仕事はそこやけどね」

 

高森は頷いた。

 

戦争というのは始める前、始めている間、終わった後全てに休みがない。

 

中東攻勢が成功に終わればようやく日本軍は一部の動員を解除して兵を復員出来る。

 

烏丸議員は元陸軍人だがこの調子で数十万と国民を軍隊に抱え込んでおくのはいずれ問題になると踏んでいた。

 

戦争が終われば粛々と動員を解除し、人々を社会に戻すのが今の彼らの任務である。

 

2人が書類をある程度裁き終えるとコンコンとノックする音が聞こえた。

 

「失礼します、参謀本部の平野です。会議室の準備が出来ましたのでお呼びに参りました」

 

参謀総長付副官の平野少佐が敬礼し要件を伝えた。

 

「ああ、そう。大村さんにも言っておいた?」

 

「はい、国防相には別の者が呼びに向かっています」

 

「ならええ、ありがとうね。ほな高森くんも行こか」

 

「はい」

 

高森は事前に用意していた資料を抱え、烏丸議員と共に会議室に向かった。

 

日本は直接の戦場ではないがそれでも官僚達は忙しく働いている。

 

それは華族とて例外ではなかった。

 

 

 

 

 

-ソ連領 ロシアSFSR モスクワ州 首都モスクワ 国防省ビル-

「総員気をつけ!同志ドイツ民主共和国国防大臣に対し、捧げ銃!」

 

国防省前の広間には第154独立警備連隊の凡そ1個中隊が待機し、来客を出迎えた。

 

軍楽隊は東ドイツの国歌、”廃墟からの復活”を流し、台に登る2人の国防大臣は招聘に向けて敬礼した。

 

1人はソ連国防相、ウスチノフ元帥。

 

彼の隣には補佐官のイルラリオノフ中将、トゥルーノフ中将が控えおり、他には政治総局長のアレクセイ・エピシェフ上級大将ら国防省の次官級が控えていた。

 

もう1人の国防相はケスラー上級大将。

 

東ドイツの国防大臣であり彼も東ドイツから数多くの将校達を連れてきた。

 

2人とも同じようなメガネをかけており、制帽に常勤服の姿である。

 

他の将校達も似たような格好だが、第154独立警備連隊は違った。

 

皆礼服を着ており、将校は青い礼服の金ベルトにサーベルを携えていた。

 

兵らは皆SKSカービンを持ち、将校と共に来客へ最大限の栄誉を送った。

 

この第15独立警備連隊はかつて第99独立警備大隊と呼称され、それ以前も数多くの名前を有していた。

 

ある世界では後にこの連隊は帝政時代に存在したプレオブラジェンスキーの名を冠することになる。

 

軍楽隊による演奏が終わるとケスラー上級大将はウスチノフ元帥と共に第154連隊長に連れられて国防省内まで案内された。

 

そのままケスラー上級大将はウスチノフ元帥の執務室に案内され、コーヒーと菓子でもてなしを受けた。

 

ケスラー上級大将は久々に飲む本物のコーヒーの味に自然と笑みを溢した。

 

「お口に合いませんでしたか?」

 

気を遣ってウスチノフ元帥はそう尋ねた。

 

「いえ、むしろ久々の味に歓喜の声を上げたいくらいですよ」

 

ウスチノフ元帥は背後に控えているイルラリオノフ中将やトゥルーノフ中将らと顔を見合わせ、苦笑を浮かべた。

 

彼らも東ドイツの食料、娯楽事情は知っているがここまでとは。

 

彼らは暫く何も言わずにケスラー上級大将にコーヒーのおかわりを与えた。

 

「まあ飲みながら聞いてください。前回の攻勢で貴国が失った兵器の補填ですが今後は海路だけでなく、陸路からの提供も可能になりました」

 

ポーランドの奪還により東ドイツとソ連は再び陸路で繋がった。

 

現在ポーランドには最低限兵站を繋げる為の交通インフラ確保を主目的に、主要路の建設や線路の敷設などが急ピッチで進められていた。

 

BETAによって滅茶苦茶にされたポーランドの復興は恐らく十年では成し遂げられないだろう。

 

それでも今やることを皆がやっていた。

 

「主要路はこれまで通り海ですが早ければ4ヶ月後から陸路での受け渡しも可能になるでしょう」

 

「となるとアンクラムからも受け取り可能ということですか?」

 

ウスチノフ元帥は頷いた。

 

これまでソ連本国から物資の受け取りは東ドイツの数少ない港湾都市から渡されていた。

 

受け取り先が限られている為、時々交通事故などでパンクが発生する時があったが今後はそれが多少改善される。

 

尤もベルリン・ハイヴが健在のうちは陸路はまだ制限がある。

 

「これは別件ですが我々は当面南欧諸国の解放作戦に入ります。現状残置されているベルリン・ハイヴに対しては定期的な間引きを行い無力化を予定しています」

 

「大体、国連の当初予定通りですね」

 

「暫くは貴国にも余裕が出来るでしょう。ですので」

 

ウスチノフ元帥は1枚の計画書をケスラー上級大将に差し出した。

 

計画書はロシア語とドイツ語が併記されており、翻訳がなくても読めるようになっていた。

 

ケスラー上級大将は暫く計画書を黙って読んだ。

 

ある程度内容を把握すると後ろに控えている将校達に回し、ウスチノフ元帥と協議を行った。

 

「ソ連国内での短期留学ですか」

 

「1、2ヶ月を予定しています、数ヶ月間ならそちらへの支障は少ないでしょう」

 

国家人民軍は衛士など一部の将校をソ連国内の軍事アカデミーに留学に行かせていた。

 

例えばユルゲン・ベルンハルト中佐、彼はこの類であった。

 

それでも東ドイツは多少なりともまだ国土が残っていた為歩兵や戦車兵、将校の基礎教育などは国内で自活出来ていた。

 

今回ソ連が提案してきたのは1、2ヶ月を前提とした短期の軍事教育であった。

 

「確かに魅力的な案ではありますな」

 

今回の短期教育には衛士だけでなく、戦車兵や砲兵、将校など幅広い分野での教育が盛り込まれていた。

 

ソ連は余裕が出てきた国家人民軍を教育して戦力増強を図るつもりでいた。

 

「ベルリン・ハイヴ攻略もすぐでしょうし、我々とて出来ることはやりたい」

 

表向きの理由はウスチノフ元帥の言う通りハイヴ攻略の戦力とすることであった。

 

だが東ドイツの政治状況を考えた場合、目的はそれだけではなかった。

 

「そういえば話は変わりますが同志ホフマンはお元気ですか?」

 

ふとウスチノフ元帥は尋ねた。

 

ケスラー上級大将は疑問に思いつつも「はい」と返した。

 

「それは良かった、モスクワと違ってヴィスマルはそれでも前線に近いでしょう?それに昨今の話を聞くと少し心配でね」

 

「ハハ、まあお恥ずかしい話、我が国とて余裕がある訳ではありませんからな」

 

「首都の管轄は確か第1自動車化狙撃兵師団でしたな?」

 

「ええ、まあ」

 

ケスラー上級大将の表情はどんどん曇っていった。

 

流石に露骨過ぎると考えたのかイルラリオノフ中将が思わず忠言した。

 

「同志国防相、もう少しオブラートに……」

 

「ああ……」

 

背後ではGRUからサポートの為に来ていたウラジーミル・ヴァシェンコ海軍中将が後でなんとかするかとプランを練っていた。

 

しかしこの頃にはケスラー上級大将の方が察して話を進めた。

 

「……私としても我が国の内情は考えているつもりです。これは私見ですが第1自動車化狙撃兵だけでなく第8、そして第6航空団も短期教育に参加するべきかと」

 

将校達は全員ケスラー上級大将の方を見た。

 

ヴァシェンコ中将の部下は後ろに控えているケスラー上級大将の方にも意識をやっていた。

 

皆、意志はケスラー上級大将と同じのようだ。

 

それもそのはず、彼らはケスラー上級大将が選抜した忠誠心の高い将校ばかりである。

 

世に言うベルリン派とは距離を置いていた。

 

それを表するようにケスラー上級大将はこう言い捨てた。

 

「我々とて若い衆に従うほど、老いてはいませんよ」

 

 

 

 

 

同じ頃、モスクワの参謀本部ビル近くのレストラン。

 

ここは参謀本部に勤務するソ連軍将校の行きつけであり、将軍や提督達も時にここに訪れていた。

 

例えば今、このレストランの一室には4人の上級将校が食卓を囲んでいた。

 

オガルコフ元帥にカラシィ上級大将、トルブコ総元帥、そしてソ連国家技術委員会議長のヴィタリー・シャバノフ上級大将である。

 

彼らを呼んだのは参謀総長オガルコフ元帥であった。

 

今後実施される宇宙作戦の調整を行う為、昼食を兼ねて彼らを呼んだ。

 

ちなみに彼らの補佐官も別室で待機している。

 

4人が真面目な話をしている間に補佐官達は愚痴を溢したり、政治的雑談を行なっていた。

 

まず4人の前には2枚の黒パンとモルスが置かれ、4人はまず乾杯した。

 

それからビジネスランチの中でメニューに少し変更を入れ、料理を頼んだ。

 

オガルコフ元帥の財力であればビジネスランチと言わず部下に好き放題注文させることが出来るが、物資統制のせいでこうしたレストランでもビジネスランチのような均一のものしか出せなかった。

 

彼らの前にはまずボルシチが置かれ、次にメインの白身魚の切り身を混ぜ込んだキッシュが出てきた。

 

4人は食事を摂りながら新しい作戦について、意見を交わし合った。

 

「予算は、まあ問題ありません。”ポーリュス”の4号機も打ち上げられれば良かったんですが、まあ現状の戦力で十分でしょう」

 

カラシィ上級大将は皿のボルシチを掬って飲み、一旦スプーンを置いて黒パンを齧った。

 

キッシュを切り、切り身を口にし終えたオガルコフ元帥は返答を述べた。

 

「そうか、物資の運搬の方は?」

 

「第7衛星攻撃軍団の衛星はもう組み上がりました。後は作戦を詰めるだけです」

 

オガルコフ元帥は進行状況を把握し、満足げに頷いた。

 

最初彼らから連名で作戦提案書が出された時は自分の目を疑ったものだ。

 

月面ハイヴの破壊作戦、ソ連宇宙軍とソ連戦略ロケット軍が主力による作戦など前代未聞である。

 

この作戦の認可については国防相のウスチノフ元帥とも何度か相談をして決断を下した。

 

当初オガルコフ元帥は地上の攻略を優先してこの作戦は退ける、もしくは戦後にやろうと目論んでいた。

 

されど1980年12月のインド事件とブレジネフからの後押しを受けて作戦を認可した。

 

月のハイヴが生きている以上、いつまで経っても戦争は終わらない。

 

根本的な戦争終結の為にまずは入り口たる月を潰す必要があるのだ。

 

「後は作戦の完成とG弾がどれだけやってくれるかだな」

 

「少なくともアメリカのG弾は降下ユニットを消失させていますし問題はないでしょう」

 

シャバノフ上級大将はサラダを食べながらそう答えた。

 

彼が議長を務めるソ連国家技術委員会は元々、ソ連国内の技術漏洩を防ぎ、各省庁の連携を組織し、安全保障分野での特別監査機能を有する機関である。

 

ちなみにシャバノフ上級大将の前任の議長はこのオガルコフ元帥であり、ソ連軍に戦術機が導入されたのは彼の力添えもあった。

 

これらの功績と共にオガルコフ元帥は参謀総長に就任し、当時中将であったシャバノフ上級大将が就任した。

 

「そういえば同志トルブコは地上でG弾の実地テストがしたいと言っていましたが」

 

「ああ、一旦取りやめたよ。宇宙空間で試せばいいということでね」

 

「アメリカ軍もG弾の使用は控えているようですね」

 

カラシィ上級大将は話にそう付け加えた。

 

G弾は強力な兵器であるがそれ故に副作用も大きい。

 

それにBETAを吹き飛ばすのなら戦術核や戦略核で事足りる。

 

熱と衝撃波、これを防ぐ術はなく、光線級だろうと突撃級だろうと要塞級だろうと平等に死が訪れた。

 

「G弾の特性上、我々もこれの使用は”ポーリュス”同様にハイヴ攻略に限定されるだろう」

 

「まあ現状のBETAなら核で事足りるでしょうな」

 

カラシィ上級大将はそう返した。

 

トルブコ総元帥もシャバノフ上級大将もやむなしと頷いた。

 

核で足りるなら核で十分、G弾は目新しい兵器だが今はお呼びではない。

 

むしろG弾の特性上、これが活躍するのはBETA大戦の”後の戦争”だろう。

 

「そういえば、例の件は空軍は了承してくれましたか?」

 

「宇宙用戦術機の増派の件か」

 

カラシィ上級大将は頷いた。

 

宇宙用で作業用に用いる戦術機、数が足りない訳ではないが今後の作業を考えるともう2個中隊ほどは欲しかった。

 

オガルコフ元帥はフォークとナイフを置いて腕を組んだ。

 

「空軍や防空軍共に流石に余裕はないと言われた。なんとか捻出して1個小隊、らしいが」

 

戦術機の生産は戦車や装甲車同様に日夜行われている。

 

それに今ではMiG-23やMiG-27、防空軍ではMiG-25らが主力として生産されMiG-21は徐々に一線を退きつつある。

 

されどそもそもソ連全体の国土が広い上にソ連が抱えているのは今やソ連軍だけではない。

 

チェコスロヴァキアやハンガリー、ワルシャワ条約機構軍の同志にこうしたMiG-21を配備している為一線は退いても余ることはなあった。

 

こうした問題は正式生産が決定したプロイェークト9とT-10Sが前線に出ても変わらないだろう。

 

「まあ、ですよな」

 

「それにほら、衛士の方だって限界はあるだろう」

 

戦術機の衛士は現状各戦線に配備されるのが限度で宇宙軍には早々回せなかった。

 

これが冷戦期なら話は違ったのだろう、戦略ロケット軍と並んで抑止の要であるから人的資源のリソースもすぐ回ってくるはずだ。

 

今や世界は有事であり、宇宙に衛士を回すより前線で戦わせるべきである。

 

この時シャバノフ上級大将は一歩引いた状態で彼らの話を聞いていた。

 

上級大将は技術管理を主としている為、今GRUがやっていることを知っていた。

 

それに研究の特性上この話は宇宙軍にもすぐ伝わるだろうということもシャバノフ上級大将は分かっていた。

 

宇宙軍にG弾に戦術機、そして新たな技術と世界は変わっていく。

 

その度に戦争も変わるのだ。

 

 

 

 

 

-旧ポーランド=チェコスロヴァキア国境地点 第1ウクライナ前線担当戦域-

ポーランドが陥落したと言ってもBETAとの戦争が終わった訳ではない。

 

チェコスロヴァキアの旧国境地帯からは度々BETAの梯団が来襲していた。

 

とは言っても数は3桁程度、4桁も来れば多い方であった。

 

今日はその多い桁を引き当て、第4軍の担当地域に2,700体程度のBETA群が襲撃をかけた。

 

国境沿いにはBETAの進撃を防ぐ為に地雷が散布されており、BETAの梯団の1/3はこの地雷に引っ掛かって撃破された。

 

既に情報はだいぶ前から入っている為前線の歩兵は塹壕に篭って防衛態勢を維持し、担当戦域の師団長が対処に入った。

 

担当戦域は第295自動車化狙撃兵師団、師団長はウラジーミル・ファルフィロフ少将である。

 

ファルフィロフ少将は既存の自動車化狙撃兵連隊で防御しつつ、隷下の第298戦車連隊を増援の戦術機部隊と合わせて押し返す方策を取った。

 

前線ではBMP-1が戦車級や要撃級を打ち破りつつ、BTR-60や塹壕の歩兵が支援した。

 

時折近くに配備されていたT-72の小隊が前線に合流し、BETAに125mmの暴力を叩き込んだ。

 

地雷原突破から1時間、戦闘は丁度激化のタイミングであった。

 

後方からはBM-21”グラード”の支援砲撃が降り注ぎ、BETAを破壊する。

 

時折後方のBETA群に光線属種がいないか確認する為にD-30の砲が叩き込まれ、存在の有無を圧倒的な破壊力と共に確認された。

 

光線級を抱えている可能性のある要塞級は師団の要請で第4軍が直轄の砲兵隊を出して粉砕した。

 

BETAの隊列のあちこちには152mmを喰らって倒された要塞級の死骸が転がっていた。

 

この頃になると前線では死傷者が出始めていた。

 

砲火を掻い潜った一部のBETAがようやく塹壕に辿り着いたのだ。

 

とはいっても突破されれば粛々とその場を放棄し後退、余力が出れば奪還すればいいのである。

 

それにすぐに上空から増援部隊は現れた。

 

ソ連軍の戦術機部隊である。

 

MiG-23やMiG-27、そしてSu-25の混成部隊であった。

 

『現状前線に光線属種は確認されていないが高度に気をつけられたし』

 

「了解……各機、Su-25は前線で火力投射。残りは機動力で敵を撹乱。戦車隊が来たら援護、行くぞ!」

 

先頭にいる指揮官機のMiG-27、フレツロフ”()()”機の扇動により各機が散開して戦闘行動に入った。

 

二度目のハイヴ攻略を生き残り、正体不明のBETAを犠牲なく撃破した功績により赤旗勲章を受賞した上少佐に昇進した。

 

しかも指揮統率の能力を評価され、デルーギン少佐共々第1独立親衛戦闘航空連隊の新しい戦術機中隊長に任命された。

 

今回の彼はMiG-27の武装担架に突撃砲を2丁載せ、右手に突撃砲、左手に152mm戦術機専用無反動砲を有していた。

 

「どうして昇進して早々こうなるんだよ!」

 

その一言と共に少佐は榴弾を放ち、周囲のBETAを一掃する。

 

元々この無反動砲はD-20 152mm榴弾砲の改造品であり、弾頭は共通である。

 

戦術機の通常火力では対処の難しい突撃級、要塞級を撃破する為に設計されたものであり、新たに開発された152mm用のHEAT弾を撃つことも可能だ。

 

現にフレツロフ少佐の背後についてきたマリロフ上級中尉はHEAT弾を放って一撃で要塞級を撃破した。

 

「やっぱりバズーカはいいなあ!」

 

榴弾で次々とBETAを撃破しながら突撃砲で敵を蹴散らし、フレツロフ少佐は叫んだ。

 

その頃前線ではSu-25が大火力を投射してBETAの接近を阻む。

 

Su-25の戦術機はソ連版A-10に近い見た目であり、火力や頑丈さも共通している。

 

ただ特徴的なのはA-10は両肩にガトリング砲を付けているのに対して、Su-25はバックパックの辺りにGsh-30-2機関砲が取り付けられていた。

 

また空きのあるもう片方には203mm戦術機専用無反動砲が装備されており、MiG-27よりも大火力でBETAを押し留めた。

 

それだけには飽き足らず空対地ミサイルやロケットポッドでBETAを撃破する。

 

その間にSu-25の足元からT-72が主力の戦車隊が現れてBETAを攻撃した。

 

T-72の125mm滑腔砲の連続射がSu-25の火力を真正面から喰らったBETAに追い討ちをかける。

 

敵戦線が崩れたところを押し込み、それをMiG-23やMiG-27らが援護する。

 

フレツロフ少佐も担架が自動で無反動砲のカートリッジを交換中の時間を突撃砲で稼ぎ、戦車隊と共に前へ進んだ。

 

『戦車大隊長より戦術機中隊長へ、このまま押し込む!』

 

「了解、援護する」

 

突進する戦車隊の後から戦術機部隊が続き、数の多い戦車級を可能な限り蹴散らした。

 

BETAの梯団は頭上から見ると真正面から裂かれた竹のように2つに割れていた。

 

そこへMiG-27やMiG-23が戦果を拡張し、残った敵をSu-25が掃討する。

 

後方の砲兵隊も援護砲撃を叩き込み、前線より少し離れた地点のBETAを潰した。

 

ある程度の地点まで援護すると流石に持ってきた武器弾薬が尽きかけ始めた。

 

「各機弾数どれくらいだ」

 

『まだいけますがちょっとやばいです』

 

『こっちは後一戦くらいで消えます』

 

『フレツロフ、増援だ』

 

別の編隊と共に大尉に昇進したオルゼルスキー大尉がやってきた。

 

彼の隊はまだ弾薬に余裕があるようで戦車隊の援護などを引き継いだ。

 

ちなみに相変わらず出撃の前に酒を飲んでいる。

 

後方からは別のMiG-27やMiG-23の編隊が集まってきていた。

 

デルーギン少佐率いる増援部隊である。

 

「十分だ、全隊後退して補給!」

 

バックステップを踏みながらデルーギン少佐の隊と入れ替わり、そのまま補給拠点まで後退した。

 

各機無反動砲を有しているせいかいつもより若干遅い。

 

「敵を一掃出来るのはいいんだけど重いのがなぁ、軽くて一撃で敵を吹っ飛ばせる何かねえかなぁ…」

 

『同志中隊長、聞こえてますよ』

 

すぐ近くを飛行するオレグ・ブリツェンスキー大尉の機体から通信が入った。

 

彼は中隊の政治将校である。

 

フレツロフ少佐のような何故か頭脳級の下まで辿り着くという悪運で昇進した者とは違いV.I.レーニン軍事政治アカデミーも卒業したトップエリートだ。

 

彼は他の政治将校同様勇敢であり、部下からの信頼も篤かった。

 

「黙って聞いてなさい、各機補給を終えたらデルーギン隊と交代して再び戦車隊を援護する。しんどいとは思うがもう一周、BETAを叩き潰すぞ」

 

『了解!』

 

赤旗勲章を貰っても中隊長になっても仕事は減らないものだ。

 

フレツロフ少佐は今度は聞こえないように心の中で愚痴を溢した。

 

 

 

 

-中東 アラブ首長国連邦領 首都ドバイ 国連軍司令部-

本来中東にアメリカ中央軍が設置されるのはもう少し後の話である。

 

1973年の大惨事でアメリカ即応軍は一部対応が遅れた為、アメリカ軍は新たにアフリカ軍、中央軍を設置することを発表。

 

各地域に統合軍を置き司令機構を構築することで円滑な対応を実現した。

 

基本的にアフリカ軍も中央軍も軍司令官には陸海空及び海兵隊の大将以上の者が就任し、現地の国連軍司令官を兼任する。

 

中央軍には隷下に第3軍を主力とした中央陸軍、第5艦隊を主力とした中央海軍、第9空軍を主力とした中央空軍、そして中央海兵隊と中央軍専属の宇宙軍部隊があった。

 

中でも中央陸軍は中東に派遣されている国連軍各部隊の統率も含まれている為軍司令官と同じ大将が就任することも多かった。

 

故に欧州から戻ってきたこの男、ノーマン・シュワルツコフが大将の階級で中央陸軍司令官に就任してもおかしくはなかった。

 

シュワルツコフ中将が大将に昇進したのはザーパド作戦が落ち着いた5月の頃、その1ヶ月後には中央陸軍司令官への転属が命じられた。

 

元々シュワルツコフ大将は中央軍の司令官であった為ある種古巣に戻ったとも言える。

 

中央陸軍には第3軍団や復活した第2軍団、インド方面から引き抜いてきた第4軍団と州兵部隊などが含まれており、規模は当然ながら第5軍団よりも上だった。

 

しかもこれに加えて友軍部隊として数多くの戦力が中東に派遣されている。

 

まず中東諸国の軍隊に日中韓のアジア諸国、カナダ軍やオーストラリア軍、英仏独伊の派遣部隊もいた。

 

多くは復興作業に入ったインド方面から戦力を転用している為増強されている。

 

既にシュワルツコフ大将は核派遣軍司令官との打ち合わせを終えており、事前方針も伝えていた。

 

各軍は作戦の基本方針に従って攻勢作戦を実施し、敵戦力の撃退は諸指揮官の判断によって撃破せよ。

 

ただし戦術核を用いた火力支援要請のみ司令部に問い合わせろとも付け加えた。

 

とは言っても今更シュワルツコフ大将が戦術核支援を渋る訳もなく、日韓など核を持てぬ国への配慮だった。

 

核が必要になったらアメリカ軍が貸してやる、そういう意気込みだ。

 

この日シュワルツコフ大将は中央軍司令官のロバート・キングストン大将と作戦に関する最終打ち合わせを行なっていた。

 

「シュワルツコフ君、どうだね。久々のドバイには慣れたかね?」

 

キングストン大将はシュワルツコフ大将に尋ねた。

 

「思ったより体が馴染んでました、私の副官の方はそうも行かないみたいですが」

 

シュワルツコフ大将の副官はまたもやペトレイアス少佐だった。

 

2人はほぼ同時に中東に行き、中央陸軍司令官とその副官の辞令を受け取った。

 

「欧州はどうだった?こちらより過ごしやすかっただろう」

 

反対側に座るアメリカ空軍の制服を着た大将、ラリー・ウェルチはそう尋ねた。

 

彼は中央空軍司令官であり、シュワルツコフ大将同様に各国軍の空軍部隊を統括する為に大将に昇進した。

 

ちなみにこの日中央海軍司令官と中央海兵隊司令官は別所で国連軍部隊との会合があったので参加出来なかった。

 

「ああ、横の連携が大変だったがな」

 

「それはここでも変わらんよ。今のアメリカ軍はどこへ行ってもそうだろう」

 

シュワルツコフ大将も苦笑気味に頷いた。

 

多国籍軍の指揮統制とは難しいものだ。

 

それを中央陸軍司令に就任してから思い知らされた。

 

それでもシュワルツコフ大将は若干47歳の大将にしては良くやっている方だった。

 

「それで各戦線、そして軍の状況は?」

 

キングストン大将は目つきを変え2人に尋ねた。

 

「前線に接近するBETAは僅かです。日本軍の陣地に7,000体ほどが襲撃をかけたのが最後の大規模戦闘ですな」

 

「パトロール隊の報告も似たようなもんです」

 

2人の答えは素早かった。

 

毎朝入ってくる最新の情報を2人は常にインプットし続けており、素早いレスポンスが可能だった。

 

「残る軍部隊ですが多国籍軍共々配置の策定は完了しました。現在一部が移動中です」

 

「空軍部隊はいつでも行けます、武器弾薬共に3ヶ月はハイヴで暴れて見せますよ」

 

陸軍に比べて空軍の方が自信ありげだった。

 

ハイヴ攻略作戦では内部へ突入する都合上空軍部隊が主力となる為、優先して物資が供給された。

 

「そうか、ではいよいよ来月か」

 

キングストン大将の発言に2人は頷いた。

 

いよいよBETAが中東から消える。

 

紅海は真に開かれた海となりスエズ運河が安全を考慮して封鎖されることもなくなるのだ。

 

1981年から1982年にかけて作戦は始まる。

 

史実より9年早いデザート・ストーム(砂漠の嵐)が中東に吹き荒れるのだ。

 

 

 

つづくかも

*1
多分神事もやった




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