マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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「向こう側」へ、「向こう側」へ。
伝えろ、伝えろ、「向こう側」へ。
ヤンキーが来るぞ、ヤンキーが来るぞ。
どこへだろうと戦鼓を鳴らしてやってくる。
だから備えろ、さあ祈れ。
伝えろ、伝えろ、「用心せよ」と。
我らは超えてくる、海を超えてやってくる。
そしてやり遂げるまで戻りはしないのだ。
-”オーバーゼア”より抜粋-


Desert Storm

砲声が響いた、大地が揺れた、BETAが死んだ。

 

今となってはこの世界に溢れた普通の光景であり、人は戦争という異常事態に慣れてしまったのだ。

 

作戦が始まったのは1981年10月7日、ザーパド作戦より7ヶ月後の頃である。

 

準備砲撃と徹底した対光線属種掃討戦を行い、一時的な制空権を確保。

 

そこへ戦術核や戦略核を投入し一気に吹き飛ばす。

 

こうした作戦の後、アメリカ中央軍主導の国連軍は攻勢を開始した。

 

砂漠の中をデザートカラーのM1エイブラムスが駆け抜け、その後にブラッドレーやM113が続いた

 

エイブラムスの滑腔砲は一撃で要撃級は破壊し、戦車級や闘士級は25mmの前に散った。

 

アメリカ軍が通った後には死体のみが残る。

 

特に一部ではBETAが一極集中したところに宇宙軍と空軍が共同で対地攻撃を加えた為BETAの死骸のみが周囲に残った。

 

こうして前進するBETAの側面を韓国陸軍の派遣師団が援護し、BETAを押し込む。

 

特に戦果を上げたのはチャン・テワン少将の師団である。

 

彼の担当戦区には度々倍近いBETAの大群が現れたが、それらを全て弾き返した。

 

K1戦車が機動力を活かして接近するBETAを多角的に威なし、潤沢な野砲と陸上戦力が敵を防ぐ。

 

また友軍師団の為に核兵器を積んだアメリカ空軍の戦術機部隊が定期的に来襲した為、突破されずに済んだ。

 

戦線としてはリアド正面からアメリカ中央陸軍が押し込み、その左側面を韓国軍が、右側面を日本軍が守っていた。

 

そして左翼の山岳部を人民解放軍と各中東国家諸国軍が防衛線を維持しながら少しづつ前へ進んだ。

 

この人民解放軍との連合は思いの外上手く行った。

 

人民解放軍側は部隊の要としてよく働き、敵を防いだ。

 

またフフーフ方面からはアメリカ海兵隊が主力となって突撃を開始した。

 

第2海兵遠征軍のM1A1HCとLAV-25が進路を切り開き、海兵隊と海軍のF-14が援護を担った。

 

とは言っても第2海兵遠征軍はあくまで主攻勢の助であり、最も敵を引きつけていたのは前面の中央陸軍であった。

 

アメリカ軍は右から圧力をかける戦法を取った。

 

BETAとて数を数えられないほど間抜けではない為、それ相応の対応部隊を展開してきた。

 

されど移動経路は中央宇宙軍が監視している。

 

各師団の担当範囲外から接近するBETAは上空から軌道爆撃を喰らい、師団の担当範囲内では戦術核を積んだF-16が突っ込んできた。

 

低空侵入して戦術核を投入、これだけで十分な数のBETAが撃破出来る。

 

前線の最先端にいたのは第3軍団第2機甲師団であった。

 

師団長のリチャード・I・プリラマン少将は上がってきた報告を受けて衝撃を受けた。

 

少将はもう少し苦戦すると思っていたし、損害もかなり出ると覚悟していた。

 

無論損害は出ていたがそれ以上に戦果が大きかった。

 

師団はあのBETA相手に1日27キロも前進した。

 

第2機甲師団が開けた穴には第5歩兵師団と第1騎兵師団が拡張する。

 

軍団砲兵の野戦砲兵旅団3個はとてつもない量の弾薬を消費しながら前線援護と後方の敵を叩き潰した。

 

あちこちに黒焦げになったBETAの死骸が転がり、その側をエイブラムスやブラッドレーが通り過ぎていった。

 

これに韓国軍も日本軍も必死で着いて行った。

 

デザートカラーに塗られた三四式戦車G型が中東の砂漠を駆け抜けていく。

 

少なくとも正規の日本軍はこの時点であまり無茶をし過ぎず、自身に与えられた役割を果たしていた。

 

アメリカ軍の側面を援護しながら前進、担当戦区で発見されたBETAは即時撃破する。

 

司令官の鈴木大将は”今軍神”と呼ばれるほど評価が高く、その手腕通りに動いていた。

 

前に出るのはアメリカ軍に任せ、日本軍はその後に続いて戦線を押し上げ、戦果を拡張する。

 

後方に残置された戦車級や要撃級は三四式と20mm機関砲を積んだ三三式が潰して回っていた。

 

無理に前に出れば下手な損害を被るし、むしろ我が軍は攻めには向かない。

 

であれば目立たずともまずはやるべき事をやる、それは正しかった。

 

この攻勢の時において与えられた任務を果たしていればそれで100点、最悪戦線さえ維持出来ていれば良かった。

 

問題は斯衛軍であった。

 

日本軍は下手に攻めず、されど己の職務を果たしていたが斯衛軍は突撃を敢行していた。

 

積極的な攻めの姿勢により、他の日本軍より前進はしていたがその分損害も大きかった。

 

司令官信真の配下には歩兵3個連隊と戦術機大隊2個があった。

 

されどリヤド・ハイヴ攻略が終わる頃には連隊は2/3が消し飛び、戦術機大隊も兵力は半分以下になった。

 

2個の戦術機を足してようやく1個戦術機大隊に、そんな有様である。

 

しかも増援に来た大隊長は戦死し、予想外の損害を被った。

 

なお正規の日本軍であるが彼らは念の為突破されてもいいように予備兵力を置いておいた。

 

斯衛軍の戦区は戦闘が終わるまで突破されることがなかったが、斯衛軍の担当戦区には毎回夥しい数の兵隊の死体とBETAの死骸が斃れていた。

 

鈴木大将は信真に対し度々「張り切り過ぎである」と忠言したが返答は毎回「手出し無用」であった。

 

それ以降日本軍司令部は斯衛軍司令部に対し何か言うことはなかった。

 

尤も斯衛軍は全体から見たらそれほど大きい戦力ではない。

 

国連軍司令部にいるシュワルツコフ大将からすれば頭の片隅に残る程度の内容であった。

 

今は突撃の要である第3軍団、そして接近するBETA群の排除に意識を向けていた。

 

「ハイヴより1個軍団規模BETA群がアル・カルジ方面より進撃中」

 

「略核で吹き飛ばせ」

 

「はい…!」

 

シュワルツコフ大将の命令は早かったし命令を受けてからの参謀達の動きも早かった。

 

もうここまで来るとシュワルツコフ大将の命令に誰も聞き返さなくなっていた。

 

今更戦略核を撃ったところで彼らの良心は痛まなかった、と言うよりセンチメンタルな雰囲気になっている暇がなかった。

 

アメリカ宇宙軍はアル・カルジから正面のアメリカ軍を迎撃する為に陣形を転換しようとした瞬間に戦略核を叩き込んだ。

 

MIRV弾頭の威力は凄まじかった。

 

軍団の7割が消し飛び、残りは戦術核と接近したアメリカ軍によって全て蹴散らされた。

 

この間にBETAは普段ハイヴの外に出していたBETAは壊滅し、ハイヴの周辺30キロ地点まで接近した。

 

この時点で10月23日、明後日の25日には既に戦術機の突入準備に入っていた。

 

「閣下、宇宙軍及び空軍部隊、全て突入準備完了しました」

 

参謀が報告しすぐにシュワルツコフ大将は命令を出した。

 

「26日より準備攻撃の後、ハイヴに突入せよ」

 

「了解!」

 

シュワルツコフ大将は命令を出し終えると眼前の地図を見下ろした。

 

各所には撃破したBETAの部隊報告が貼られていた。

 

この地点には工兵隊が向かって早めに死骸を撤去し、火で除去してる。

 

シュワルツコフ大将は腕を組んで考えた。

 

外のBETAはともかく、ハイヴの中身はどの程度潰せただろうか。

 

「少佐」

 

「はい!」

 

これを確認する為にシュワルツコフ大将は副官のペトレイアス少佐に尋ねた。

 

「宇宙軍の報告だと合わせて1個軍は出てきたと」

 

「…推定どのくらい残ってる」

 

「3個軍、と言うところでしょうかね」

 

シュワルツコフ大将は目を瞑って考えた。

 

もう少し中からBETAを引き寄せて叩き潰せばこれからの戦闘楽になったんじゃないか。

 

同時に3個軍程度まで削れたのだから十分だろうとも睨んでいた。

 

今は今与えられた戦果を下に作戦を実行するしかない。

 

「戦術機部隊には苦労をかけるな」

 

「そんなの欧州から変わりませんよ」

 

「言うようになったね君」

 

部下の成長に驚きながらシュワルツコフ大将は明日以降のハイヴ攻略戦に集中した。

 

 

 

 

10月26日、アメリカ空軍司令部。

 

既に外では宇宙軍主導による突入の準備攻撃が開始していた。

 

核の集中投入で中のBETAを焼き、可能な限り突入部隊の負担を減らす。

 

火口内部の光線属種は最初の攻撃によって熱核処理され、消失。

 

他のBETAも地下の広間に退避し、敵の侵入を待った。

 

「ハイヴ内攻撃、まもなく終了します」

 

「先遣隊は基地から発進し、周辺域で待機中」

 

「そろそろあれを起動しませんと」

 

ウェルチ大将の副官はそう進言し、大将自身も頷いた。

 

正直性能にまだ不安があるが使ってみなければ分からないこともある。

 

「JUAS、起動。システム範囲は中央空軍司令部が管轄する全ての航空部隊及び同盟国軍」

 

「了解…!」

 

技術士官達が機材を操作し、アメリカ本土に存在する統合無人機操作システム(Joint Unmanned Aircraft System)、JUASを起動した。

 

まだバージョン1.06と呼ばれるものだがそれでもこの時代ではオーバーテクノロジーに等しい。

 

システムは端末となる無人のOH-6やQF-4と呼ばれる無人戦術機を操作し、攻撃と偵察援護を主任務とした。

 

陸軍が前線まで連れてきたOH-6は各所の駐屯地から出撃し、戦術機の前にハイヴに突入した。

 

まず投入されたOH-6の先遣隊は半分が光線属種に撃破され、一旦後退した。

 

「A-01からB-09まで信号途絶、撃墜されました」

 

「JUAS、後退を選択」

 

「JUASの判断を尊重。宇宙軍の攻撃は」

 

「弾着」

 

丁度いいタイミングで宇宙軍の戦術核が投入され生き残っていた光線属種は焼かれた。

 

再びOH-6の群れが突入した。

 

今度は突入に成功し、各所に散開して偵察活動を行った。

 

ちなみに無人戦術機のQF-4であるが突入した段階で制御が上手く行かず、着地に失敗して2機ロスト。

 

残りの戦術機もBETAと接敵した際に操作が上手く行かず撃破された。

 

「戦術機の損耗が大きいですな」

 

隣に控えていたチャールズ・ホーナー大佐はふと呟いた。

 

「ああ、ヘリも何機か事故で潰れてる。まだまだだが、思ったより使えるではないか」

 

ウェルチ大将は手放しでシステムは褒めなかったが、見込みはあると評した。

 

実際人を乗せた戦術機部隊が意見を顧みず突入しなければならない地点まで人的損害なく状況が把握出来ている。

 

その頃にはアメリカ空軍の戦術機部隊が先行してハイヴの中に突入し、ハイヴ攻略戦が始まった。

 

「ホーナー大佐、あのシステム、どう思う」

 

「無人機は空軍のあり方を1つ変えるでしょう。特に偵察の面で、もう人を乗せた戦術機が低空侵入で情報を得なくてもいい時代が来るかもしれない」

 

JUASは度々戦場で試験的に用いられており、今回は初の大規模作戦での使用であった。

 

今の所アメリカ空軍も「戦術機の無人運用には難点ありだが偵察機としては最適」とシステムを評価していた。

 

これでもシステムの改良は日夜続けられており、やがて難なく戦術機を動かせる日も来るだろう。

 

だがシステムのベースを知る彼らからすればそれはなんとも言い難い結果であった。

 

「JUAS、まさかハイヴの残骸からこれが出来るとはな。因果は巡るというか、なんというか」

 

「連中の力も我々の役に立つ、ということでしょう」

 

ホーナー大佐はそう評した。

 

そう、このJUASは人類が既存の技術力で作るには少し近未来の兵器であった。

 

1982年より運用が開始されるRQ-1プレデターは本来10年は先の未来に出てくる兵器である。

 

それが10年以上早くロールアウトするのには理由があった。

 

アメリカ軍は中東で攻略し、撃破したハイヴの中身を確認した。

 

既にソ連の報告でハイヴの奥には反応炉を兼ねるコントロールシステムが存在するというのは知っていた為、一部の肉片を抉り取って分析にかけた。

 

撃破したハイヴと手にした肉片、この2つの分析のお陰でアメリカは頭脳級の力を解明した。

 

頭脳級が持つ数百万体近くのBETAを制御し指揮する指揮統制能力、これを大分グレードダウンした形ではあるがアメリカはこれを模倣することに成功した。

 

それがJUASであり、今後アメリカの無人機開発の基礎となる技術である。

 

言わばJUASは人類が作り出したデータ上の頭脳級であり、G弾と並ぶBETAから人類が得た新しい技術であった。

 

ちなみにソ連は早くから研究を始めていたが、技術力の差と生きた頭脳級の肉片を入手するのが遅れた為まだこの次元に辿り着けていなかった。

 

JUASはまだOH-6を操作する程度であるが、やがては成長してプレデターや無人戦術機を運用出来るようになるだろう。

 

一部の早まった研究者は「もう人が航空機に乗って戦う時代は終わる」とJUASを持て囃した。

 

JUASが操作するOH-6は突入から2時間で全滅したが役割は果たした。

 

「用意していた無人機は全滅か」

 

「十分でしょう、本来1個中隊は損害が出てるところを無傷で抑えられた」

 

ホーナー大佐の発言にウェルチ大将は頷いた。

 

既に各所でBETAと戦術機の戦いが始まっていた。

 

先行して突入したのは意外にもアメリカ海兵隊のF-14であった。

 

その後に空軍部隊のF-15とF-16が突入し、ハイヴ相当戦を開始した。

 

F-14もF-15もF-16も榴弾砲の155mmを改造した無反動砲を背負い、徹底した火力戦を実施した。

 

無反動砲のHEAT弾なら突撃級であれば一撃で破壊出来るし、要塞級も数発撃ち込めば死ぬ。

 

また榴弾ならば広間にいるBETAを一気に掃討出来る。

 

アメリカ軍もハイヴ掃討戦にはスターリングラードでソ連軍がやったような戦術を多用した。

 

狭い室内に火力を投射した上で突入、多少時間をかけてもこれが一番戦術機の損害を減らすこととなった。

 

後に韓国空軍や日本空軍の戦術機部隊も突入し戦闘に加わる。

 

火炎放射器をつけた戦術機が広間のBETAを焼き、各所を制圧していく。*1

 

「第1戦術戦闘航空団が高熱原反応を捉えました」

 

「もう間も無く我々の本命、か」

 

ウェルチ大将は情報を基に描かれたハイヴ内の全体図を見ながら集中を高めた。

 

既に攻略は確実であり、後はどれだけ時間が掛かるか、どれだけ損害が出るかであった。

 

「手早く終わらせたいものだ、我々にはまだハイヴが2基残ってる」

 

 

 

 

ハイヴ攻略戦では制圧したハイヴ上層を臨時の補給拠点に作り替える。

 

ヘリや機械化歩兵装甲を着た歩兵がハイヴ内に突入して前線にいる戦術機に物資を運搬する。

 

稀にハイヴ内から出て直接補給拠点に降り立つ戦術機もあった。

 

丁度そうした戦術機がハイヴの突入口から飛び出てきた。

 

2機の”瑞鶴”、斑鳩と真壁少尉機である。

 

”瑞鶴”はそのまま近くのアメリカ軍の補給拠点に立ち寄った。

 

「こちら日本斯衛軍所属の斑鳩少尉と真壁少尉だ。燃料及び武器弾薬の補給を要請する」

 

『斑鳩機、真壁機了解。7番ポートに着陸せよ』

 

2機は指定された着陸場に降りて直ちに補給を受けた。

 

跳躍ユニットや各所に燃料を入れ、武器弾薬の交換を行った。

 

”瑞鶴”を名乗っていても所詮はF-4の改造機、武器弾薬の規格は共通である。

 

こうした恩恵は斯衛軍として正式に戦う前から感じていた。

 

2人は”瑞鶴”から降りて補給拠点の責任者に挨拶と礼を述べ、すぐに飛び去った。

 

2機は突入口からハイヴの中へ入り、目的地であるハイヴ最奥の頭脳級を目指した。

 

この頃になるとアメリカ軍は物量で戦線をハイヴ地下広間まで押し込み、頭脳級のエリアまでもう一歩という地点まで来ていた。

 

一部の広間は日本空軍のF-15Jが制圧しBETAを殲滅していた。

 

この時点で日本空軍の将校達はF-15Jが役に立っていることに安堵した。

 

一方の斯衛軍である。

 

既に斯衛軍はハイヴまでの押し上げでかなり損耗しており、本来であれば戦術機をハイヴに突入する余裕はなかった。

 

されど信真は突入を命じ、戦術機大隊の残存戦力はハイヴ内へ突入することとなった。

 

「真壁、熱源は捉えてるか」

 

『はい…!』

 

「では行こうか!」

 

”瑞鶴”は足力を上げた。

 

彼らは真っ直ぐ頭脳級のいる最奥を目指して進んだ。

 

本来は安全性の観点から速力を落として進まなければならないが、彼らは少しでも早く頭脳級に到達する為に先を急いだ。

 

全速力でハイヴの広間を目指し、武器を構える。

 

『移動中の日本軍機へ通達する、ここから先は未制圧地域である。気をつけて進まれたし』

 

突入した戦術機は基本データリンクで繋がっている為各種司令部や管制室はどこに何がいるか把握していた。

 

こういう技術がなければハイヴ攻略など夢のまた夢である。

 

「司令部へ、お気遣いに感謝する。真壁行くぞ」

 

『了解…!』

 

斑鳩は礼だけ述べてそのまま友軍部隊すらまだ到達していない広間へ突入した。

 

既にレーダーにはBETAの姿が映っており、案の定要撃級や戦車級が大量に控えていた。

 

戦車級は2機を見つけるとすぐに飛びかかってきた。

 

尤も次の瞬間に飛び掛かってきた戦車級の群れは刀を抜いた斑鳩の”瑞鶴”によって真っ二つに斬り裂かれていた。

 

斑鳩の”瑞鶴”が持つ刀は短刀よりも刃が長く、されど長刀よりは身近い正に武士の脇差に近い武器であった。

 

名は四〇式近接刀、ハイヴのような閉所でも近接戦を行う為に開発された独自の戦術機装備である。

 

刀を構え、真壁少尉の援護の下斑鳩は突破口を切り開いた。

 

2機は周囲に展開する要塞級を蹴散らし、要撃級の首を刎ねた。

 

「雑魚に構うな!このまま突破するぞ!」

 

ある程度BETAを蹴散らすと斑鳩は再び最大速度で真壁少尉と共に広間を抜け出した。

 

広間の先の通路にも戦車級などが控えていたが全て撫で斬り、先へ進んだ。

 

目指すは大将首、その為の装備も今回は持ってきた。

 

広間を3回ほど抜けて2機はようやく最奥に辿り着いた。

 

機体には戦車級の体液がついていたがこれも武功の誉、機体には問題なかった。

 

『あれがハイヴの反応炉、頭脳級です!』

 

「構造物の付け根を探せ、そこに攻撃をっ!」

 

2機は素早く下方から飛んできた触手を回避した。

 

更に2機はそのまま可能な限り高度を下げて敵の防空範囲から切り抜ける。

 

「チィ!噂にあったハイヴの防衛機構か!?」

 

『いや違います!あれは…!』

 

なんて悍ましいものをと真壁少尉は心底思った。

 

流石の斑鳩もそれを目にし、顔を顰めた。

 

「なるほど……防衛機構の為に味方を溶かして固めた訳か…!」

 

リヤド・ハイヴと呼称されるハイヴの頭脳級は自身の身を守る為に何十体かの要塞級と光線級を無理やり融合させ、円状に固めて防御機構を構築した。

 

遠方から来た敵は光線級が迎撃し、接近すれば大量の触手が戦術機を襲う。

 

斑鳩と真壁少尉は光線級の射線から抜け、触手の攻撃を全て躱し手いた。

 

無論躱し切るのは難しいので何本かの触手を切り落とし、無理やり突破口を開く。

 

「国連軍全隊へ通達!国連軍所属斑鳩崇継少尉である!現在我々はハイヴ最奥に到達したが頭脳級周辺に光線級と要塞級の融合した防衛機構を確認!増援として到着する隊は気をつけられたし!」

 

友軍部隊に警戒を促し、彼らは生き残って頭脳級を討ち取る算段を立てた。

 

「まずは光線属種を潰すぞ!俺が囮、真壁が奴らを潰せ!」

 

『了解!』

 

高速で斑鳩が身を乗り出し、光線級の射線に入り、素早く抜ける。

 

光線級は狙いを完全に定め切れず攻撃を諦め、その間に登ってきた真壁少尉が突撃砲をばら撒いて2機の光線級を破壊した。

 

光線級を潰した後は触手の相手である。

 

要塞級の触手はあちこちから射出され、2機を潰そうと攻撃を叩き込んだ。

 

「もう一度行くぞ!今度は2機同時に出て4匹は持っていく!」

 

『了解!』

 

斑鳩の合図で2機は光線級の射線に飛び出し、即座に突撃砲に備わっている120mmグレネードを叩き込んだ。

 

グレネード弾は周辺の肉ごと光線級を吹き飛ばし、斑鳩が言った通り4匹分の光線級を破壊した。

 

これで6匹、防衛機構に取り付けられている光線級の1/5を撃破したことになる。

 

『残り24体!今度は私が囮を務めるから崇継が!』

 

「了解!」

 

『日本軍機へ、その必要はない』

 

ハイヴ内の広間と繋がる各所から弾丸が放たれ、光線級の周りを120mm滑腔狙撃砲で吹き飛ばした。

 

数カ所で爆発が起き、光線級が撃破される。

 

「アメリカ軍か!」

 

『光線級の面倒はこっちで見る、我々が降りる前に君らで頭脳級に一撃を入れてくれ!』

 

アメリカ空軍とアメリカ海兵隊のF-15、F-14混成部隊は光線級を狙撃しながら一旦下がって光線級の攻撃を回避した。

 

相手が攻撃を外した瞬間に再び120mmを叩き込む。

 

「了解した!行くぞ真壁!」

 

『はい!』

 

光線級が減少したことにより、2人は頭脳級に接近出来た。

 

尤も光線属種が消えたからといって触手による攻撃が消える訳ではない。

 

触手を避けつつ、脇差で切り落としながら頭脳級の弱点を探した。

 

彼らは当然だが戦術核を有していない。

 

戦術核を有するアメリカ軍機が到着するのはもう少し後であり、それまでに何かしら攻撃は加えたかった。

 

「撃て!」

 

2機は頭脳級にギリギリまで接近し、持っている火力の全てを叩き込んだ。

 

マーベリックに突撃砲の120mm、シュライクを叩き込んだが頭脳級の装甲が剥がれ、僅かに穴が空いた程度だった。

 

「退避!」

 

2機は素早くその場から離れ、光線級を排除したことにより降りてきたアメリカ軍と合流した。

 

「アメリカ軍機へ、指定する地点に攻撃要請を行う。我々が攻撃を加えたが効果は薄かった」

 

『了解した、直ちに攻撃を叩き込む。各機俺に続け!』

 

隊長機と思わしきF-15にアメリカ軍の戦術機が続いた。

 

何機かは触手の相手をして進路を切り開く。

 

『今だ!やれ!』

 

隊長の命令で5機のF-15と4機のF-16、そして3機のF-14が斑鳩達と同じところへ攻撃を叩き込んだ。

 

単純な火力で言えばロケットポッドや対戦車ミサイルを数多く積んでいて戦術機の数も多い。

 

巨大な頭脳級の体に穴が空いた。

 

F-15とF-16が開けた穴にF-14のAIM-154が命中したことにより内部から一気に弾け飛んだ。

 

これが通常兵器が頭脳級に与えた最大の戦果であった。

 

『全機退避しろ!』

 

隊長の命令で一斉にその場にいた戦術機が退避し、触手の相手をしていた4機のF-16が対比を援護しつつ自身もその場から離れた。

 

アメリカ軍機は2機の”瑞鶴”に合流した。

 

彼らは触手の攻撃範囲外から状況を確認する。

 

『ダメだな、やはり通常装備は頭脳級に歯が立たん。戦術核持ちが突入するまで我々で触手を抑えるぞ』

 

隊長の判断は堅実で確実に勝つ方法だった。

 

されど斑鳩は疑問に思った。

 

武器弾薬の損耗を考えてここで長期戦をして持つだろうか。

 

「そちらの隊長機にお聞きしたい、戦術核持ちの戦術機はいつ到着される?」

 

斑鳩は隊長に尋ねた。

 

『後20分ほどだ、我々が到着したタイミングで発進したから悪いがそれくらい掛かる』

 

斑鳩は周囲の戦術機の武装を確認し、考えた。

 

先ほどの戦いで各機ミサイルを使い果たし、ロケットポッドの残弾も心許ない。

 

斑鳩と真壁少尉の”瑞鶴”もミサイルを撃ち尽くし、残る武装は脇差と突撃砲だけである。

 

そして斑鳩は先ほど攻撃を加えた地点をもう一度見た。

 

穴の空いた場所から数回ほど内側から小爆発が漏れ出ている。

 

頭脳級の装甲が打ち破られ、頭脳級が有するエネルギー貯蔵庫に引火したのだ。

 

「隊長、我々が攻撃した地点から爆発が見えますか?」

 

『ああ、残念だが追撃は出来ない。我々の火力じゃあれ以上の打撃は与えられない』

 

「いや、突撃砲のゼロ距離射撃ならば効果はあります」

 

そう言って斑鳩は”瑞鶴”のエンジンを蒸し、最大速度でダメージ地点に接近した。

 

薄々やろうとしていることを察していた真壁少尉はため息と共に後に続いた。

 

『おい待て日本軍!各機あの2機を援護しろ!バカを死なせるな!』

 

隊長の命令でアメリカ軍の混成部隊が突入する2機を援護した。

 

頭脳級は自身に攻撃が加えられたことを知っていた。

 

彼らに痛覚があるかは分からないがダメージを感知し、これ以上攻撃を喰らうと自身の機能維持に著しい妨害を受けることを理解していた。

 

これ以上攻撃を叩き込まれぬ為に触手を集中配備して妨害を行った。

 

接近する触手を避けながら2機の”瑞鶴”は接近する。

 

「この程度で防衛だと?笑わせるな!我々を舐めるなよ」

 

同時に接近した5本の触手を刀で切り落とし接近する。

 

背後から串刺しにしようとした触手は全てアメリカ軍機によって防がれた。

 

『崇継!』

 

斑鳩はついに接近に成功し頭脳級の傷口に突撃砲を捩じ込んだ。

 

「その首貰い受ける!」

 

引き金を引き1マガジン分の弾丸を頭脳級の中に叩き込んだ。

 

頭脳級の肉体がグチャグチャに引き裂かれ、エネルギー貯蔵庫にその衝撃が引火した。

 

最後に120mmグレネード弾を叩き込み、斑鳩はその場を離れた。

 

「離脱するぞ!」

 

斑鳩機が離れた瞬間戦術機など簡単に巻き込むほどの爆発が傷口から溢れ出した。

 

貯蔵庫への引火は頭脳級の身体全体へ引火し、あちこちで小爆発が起きた。

 

危機を示すかのように頭脳級の発光部分が点滅する。

 

『隊長!日本軍がやりました!頭脳級の各所で誘爆中!』

 

『本当にやったのか……とにかく退避だ、あの2機も連れて退避するぞ!』

 

その場にいた18機の戦術機は急いで各所から退避した。

 

各機距離を取り、離脱から僅か120秒後に頭脳級が爆発した。

 

各所のエネルギーに引火して爆散した頭脳級は戦術核を叩き込まれた時とほぼ同じレベルの爆発を引き起こした。

 

「これで斑鳩の家に面目は立ったかな」

 

燃え盛る後方を見ながら斑鳩はふと呟いた。

 

リヤド・ハイヴの攻略は人類が最初で最後の通常兵器を用いた攻略であった。

 

少なくとも今後斑鳩崇継の名前は生涯忘れられることはないだろう。

 

11月3日、リヤド・ハイヴは陥落した。

 

 

 

 

 

リヤド・ハイヴは堕ちた。

 

戦術核を消費せず頭脳級を撃破したというのは特筆すべき点であり、今後研究が続けられるだろうが今やることではない。

 

司令部では損害確認が行われ、各部隊である程度纏まったものが国連軍の最高司令部たるアメリカ中央軍司令部に渡された。

 

死傷者数は有に4桁を超えたがこれらは織り込み済み、想定された犠牲であった。

 

むしろこれでも想定より圧倒的に少ないという有様であり、殆どの部隊は15日以内に戦闘を再開出来る状態であった。

 

そう、中央軍にとってリヤド・ハイヴを堕としたから戦争は終わりではない。

 

むしろこれからが始まりなのだ。

 

次なる敵は同じくサウジアラビアのアル・フリマハイヴ。

 

既に国連軍司令部では主力部隊の転換が行われており、リヤド・ハイヴ周辺には安定化の部隊のみ残して残りをアル・フリマハイヴの包囲に回した。

 

移動は11月10日から行われており、11月15日には各軍司令官を集めた報告会が開かれた。

 

「損害は確認した、これであれば余裕で次のフェーズに移ることが出来る」

 

キングストン大将は各軍司令官の前でそう呟いた。

 

「アーサー中将、デイ中将、海軍及び海兵隊の移動はどうなっている」

 

キングストン大将は第五艦隊司令官スタン・アーサー中将、第1海兵遠征軍兼中央海兵隊司令官ジェームズ・L・デイ中将に尋ねた。

 

アーサー中将は海軍航空隊出身、デイ中将は下士官から将校にまで上り詰めた叩き上げである。

 

「第2海兵遠征軍は現在戦力の4割を紅海側に移して第1海兵遠征軍と合流させています」

 

「艦隊は海兵隊の移動で全て完了します」

 

本作戦の為にアメリカは2個海兵遠征軍と2個空母打撃群を中東に増派した。

 

その為にこの提督と将軍は中将に昇進した。

 

「分かった、シュワルツコフ大将、陸軍の方はどうだ?」

 

「現在、通常の転用作業に加えて第4軍団をアル・フリマ方面への防衛に転用中です。ご存知の通りBETAが攻勢をかけてきましたので」

 

どういう訳かアル・フリマハイヴのBETAはこのタイミングでリヤド・ハイヴ方面に攻勢をかけた。

 

直感的に友軍の危機を感じ取ったのかは分からないが、とにかく人民解放軍の部隊を破って包囲を解こうとした。

 

ただ攻撃を仕掛けたタイミングが遅かった。

 

この時点でリヤド・ハイヴは陥落寸前であり、人民解放軍は即座に防御に入ってBETAの攻撃を食い止めた。

 

シュワルツコフ大将は直ちに手の空いていた第4軍団を差し向け、対処に当たらせた。

 

軍団長や人民解放軍の司令官からは「後1日2日の戦闘で敵の攻勢能力は使い果たされるだろう」と報告を受けていた。

 

「ハイヴ周辺には州兵部隊を展開、残りは全て包囲に回します」

 

「分かった、戦術機の方は」

 

「主力はハイヴから引き上げました。また一部は地上支援の為に展開中です」

 

ウェルチ大将は素早くキングストン大将に答えた。

 

戦術機の機動力と展開力なら移動はすぐだ。

 

尤もアル・フリマハイヴに関しては各軍部隊はBETAの接近阻止と包囲網の形成さえしておけば良いので空軍部隊もそこまで本腰を入れる必要はなかった。

 

何せこの作戦の主力は”宇宙軍”である。

 

「分かった、ハイヴ攻略は包囲網を形成した3日後に行う。シュワルツコフ大将はそれまでに攻勢中のBETAを撃滅せよ」

 

「了解」

 

「包囲網形成後は維持に専念し無理に戦うな」

 

戦わずともBETAはハイヴの消失によってエネルギー切れで死ぬ。

 

むしろ戦うだけ損だ。

 

「では各員これにて解散、今後の作戦に注力せよ」

 

将軍と提督たちはそれぞれ司令官に敬礼してその場を後にした。

 

シュワルツコフ大将も敬礼を返し、自身の車へ向かった。

 

「シュワルツコフ大将」

 

「ウェルチ大将ですか、さっき以来ですな」

 

「少し話しましょう」

 

シュワルツコフ大将は道中ウェルチ大将と出会し、雑談を交わしながら駐車場まで向かった。

 

シュワルツコフ大将はチョコチップの迷彩服を着ていたが、ウェルチ大将は空軍の制服を着たままであった。

 

2人は暫く作戦について話していたが会話は無人機の話に移っていた。

 

「そういえば例の無人機システム、ハイヴ攻略に使ったようですな」

 

「ああ、JUASですか。2時間でダメになりましたが仕事はしてましたよ」

 

「ほう、実は陸軍でも一部あれを使っていまして。お陰で偵察情報の収集が捗っています」

 

JUASは試験的に欧州軍の将兵が使っていた。

 

それこそ空軍と同じようにOH-6に搭載して無人で動かしたり、従来の無人機を用いたりしていた。

 

最悪撃墜されても人的被害がない為、陸軍でもJUASは好評だった。

 

「無人機の発展は陸海空宙全ての軍に変革を齎すでしょう。特にハイヴ攻略のような人的資源と占領を等価交換するような戦闘なら」

 

「無人の戦術機、ですか」

 

「今回は上手くは行きませんでしたがJUASも経験を積んでいます。いずれ熟練のパイロット並みに動かせる日も来るでしょう」

 

シュワルツコフ大将は話半分でウェルチ大将の話を聞いていたが恐らく近い将来そうなるのだろうとも察していた。

 

何せJUASのベースはあの頭脳級、幾百万体のBETAをコントロール出来るあの頭脳級だ。

 

そこから完璧ではないとはいえ模倣したそのシステムなら近い将来戦術機も完璧かつ同時に操って見せるのだろう。

 

「そのうち我らの代わりをあのJUASがやってくれるかも知れませんな」

 

「そうなれば我々は失業者ですか」

 

「それだけは御免被りたいですな、少なくともこの戦争は我々で蹴りをつけなければ」

 

シュワルツコフ大将は頷いた。

 

歩兵出身のシュワルツコフ大将は1つ思っていることがある。

 

どれだけ無人機が進歩しようと、どれだけ人間が新たな技術を取得しようと戦争において普遍的な理がある。

 

それは最終の決は人間自身が決めることである。

 

中東に残る2つのハイヴに人類が銃剣を突き立てる日はもう僅か数ヶ月後のことであった。

 

 

 

 

アル・フリマのハイヴ。

 

まだこのハイヴは数個軍ほどのBETAを有しており、山岳地を用いて抵抗すれば後半年は持つだろう。

 

尤も沿岸部に突入すればアメリカ海軍の対地攻撃を受けて全滅するし、リヤド方面に行けば突破出来ずに兵力を消耗した。

 

かつてはまだ山岳地を通り抜ければリヤド・ハイヴまで物を遅れた。

 

アル・フリマハイヴの頭脳級は他のハイヴより1つ賢いところがあった。

 

このハイヴは1976年ごろに建設された。

 

この頃のBETAは中東においてまだ優勢を保っており、ハイヴを新しく建設するだけの余裕があった。

 

その為リヤド・ハイヴ、アスファン・ハイヴのBETAが新しくこのハイヴを建設したのだが、建設した瞬間から親元のハイヴからは連絡が取れなくなった。

 

誕生した瞬間からアル・フリマハイヴは孤立したのだ。

 

しかも1976年頃からは人類がBETAとの戦い方を完全に把握し、これ以上物量で押し勝てなくなっていた。

 

孤立した状態で脅威は未だ消えず、どうしたらいいか。

 

答えは簡単、連絡網を再構築すればいいのだ。

 

アル・フリマハイヴの中身は単なる頭脳級であるから重頭脳級ほどの権限や能力はない。

 

されど新しいBETAを独自に作り出すことは出来た。

 

戦車級をベースに情報伝達能力と浸透能力のみを付与したBETAを投入した。

 

このBETAは人類の包囲網をすり抜けてリヤド・ハイヴの圏内まで到達し情報を伝達した。

 

故にリヤド・ハイヴの危機にも察知し、増援を送った。

 

されリヤド・ハイヴからの救援が送られた直後、人類の防衛網は急激に分厚くなり、突破どころか浸透すら出来なくなっていた。

 

明らかに周辺の様子がおかしい。

 

リヤド・ハイヴがどうなっているのか確かめる術はないし、周辺で徐々に強まる攻撃も気になる。

 

ともかく今は自身の身を守るしかない。

 

頭脳級は攻勢作戦を中断しリヤド方面に主力部隊を配備、各所に光線級を配備してBETAを航空攻撃から守った。

 

こうした防衛線を山岳地帯に幾つも形成し、浸透強襲による要撃部隊も用意した。

 

本来であれば例え核が降ってこようと半年は持つだろう。

 

正攻法でやればアル・フリマハイヴは半年持ったし、アスファン・ハイヴ攻略は来年まで伸びただろう。

 

しかしアメリカ軍は最初からこの地のハイヴを正攻法で攻略しようと思ってなかった。

 

ハイヴを消失させればBETAは死ぬのだから狙いを一点に絞りハイヴを消し飛ばしてから奪還すれば良かった。

 

アメリカ宇宙軍による対地作戦が開始した。

 

ありったけの通常弾頭と核弾頭をハイヴ周辺20キロに叩き込み、地表構造とBETAを消し飛ばした。

 

その凄まじい衝撃は揺れとなって頭脳級にも伝わっていた。

 

この段階で物資運搬口周辺を防衛していた光線属種は焼かれて死んだ。

 

頭脳級は急いで残りのBETAをハイヴ地下に収納し、核攻撃から守った。

 

この時頭脳級はまだ自身の無事を確信していた。

 

だがその判断は甘かったことを頭脳級はすぐに認識することとなる。

 

直後三度目の対地攻撃が軌道上から始まった。

 

今度の弾頭は真っ直ぐハイヴのベントに突入し、30メートルほど掘り抜いて起爆した。

 

ハイヴ内での核爆発は十分な数のBETAを焼き尽くし、衝撃波でBETAを殺戮した。

 

だがこれでも頭脳級には直接のダメージはない。

 

頭脳級は再度安心し、敵が突入してくるタイミングを待った。

 

核弾頭で守備隊が焼かれたとはいえまだ部隊は残っていた。

 

故にこの時点での頭脳級は強気であった。

 

いつでも来い、ここはもうBETAの箱庭である。

 

だがアメリカ軍はアル・フリマハイヴに降りる気など毛頭なかった。

 

「準備攻撃完了」

 

「射撃地点周辺に光線属種は確認出来ず」

 

オペレーターの報告を受け、軌道上のアメリカ宇宙軍司令部は命令を下した。

 

「G弾、投下」

 

攻撃衛星からまず2発目の爆弾は投下された。

 

極超音速で目標に飛翔するその爆弾は陽動弾が着弾した後にハイヴの直径100メートルの物資射出口から中に入った。

 

2発のそれはBETAの降下ユニットの付着物から開発したG弾、人類の新たな刃であった。

 

着弾したG弾は数秒後に起爆した。

 

後は言わなくても分かるだろう。

 

G弾の多重乱数指向重力効果域が球体状に広がり、全てを飲み込んだ。

 

何もかもが消え、何もかもが黒紫色の中に吸い込まれていった。

 

無論それは頭脳級も同じである。

 

球体の加害範囲はハイヴの最奥まで到達し頭脳級を削り取った。

 

もはや耐えることも抗うことも出来ず、ゆっくりと身体が削られていった。

 

消えゆく意識の中、頭脳級が最期に思ったことはどうにかしてこの事態を伝えなければということだった。

 

「G弾起爆!ですが重力異常の影響で偵察は困難な状況!」

 

「慌てるな、全衛星は撃破失敗時に備えて戦闘態勢のまま待機」

 

軌道上で指揮を取るヘレス中将は各員に命令を出した。

 

「これでようやく作戦の2/3が終わりか、長いようで早かったな」

 

「ええ、ですが中東全土を奪還するまで終わりません。残りはアスファン・ハイヴのみ」

 

ヘレス中将は作戦を見下ろして呟いた。

 

「戦争を続けよう、BETAが地上から消え去るまでな」

 

 

 

 

つづくかも

*1
燃やしてやろう!

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