マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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友よ、私は信じるのだ
ロケットのキャラバンが
星から星へと
我らを乗せて駆ける日を
遥か遠い惑星の
ほこりっぽい小道の上に
我らの足跡が残る事を
-”友よ私は信じる(発射まで14分)より抜粋”-


希望を取りもどせ ペルーン作戦①

月面のサクロボスコ、かつて人類の月面基地があった場所。

 

今ではBETAの重頭脳級が住まうサクロボスコ・ハイヴが建設され、BETAの占領下となった。

 

周辺に光線属種を配備して対空網を構築し、そのエネルギー源はサクロボスコだけでなく周辺のハイヴでも補っていた。

 

こうした対空網はサクロボスコ・ハイヴの重頭脳級が考案したものであり、地球ではまずあり得ないものである。

 

サクロボスコ・ハイヴは宇宙空間で迎撃され散っていく同胞達の姿を確認していた。

 

現状月面のBETAではこの対応は出来ないのだが対策は出来た。

 

それがこの防衛網である。

 

尤もこれだけでは宇宙空間で迎撃される問題を解決出来ない。

 

そこで重頭脳級はある1つのプランを構築していた。

 

新型光線属種の開発計画、恐らくこれが軌道上で地球圏への侵入を阻む脅威への対処法であると重頭脳級は見ていた。

 

既存の光線属種の発展と新規開発を行っており、後数十日あれば設計図が完成し、各ハイヴへ伝達出来るはずであった。

 

この計画を人類はまだ知らない。

 

だが重頭脳級も人類が考えていることを把握している訳ではなかった。

 

ソ連宇宙軍の第1親衛攻撃衛星軍、第2攻撃衛星軍、第5攻撃衛星軍が一部衛星を移動させ月面に対する攻撃に乗り出していた。

 

偵察は第3偵察衛星軍が務め、各偵察衛星から送られる映像が宇宙ステーションのモニターに映っていた。

 

「”ポーリュス1”、”ポーリュス2”、”ポーリュス3”、目標捕捉!」

 

「”ポーリュス1”誤差修正ダウンマイナス1、右マイナス2」

 

「”ポーリュス2”、角度調整。アップマイナス2、左プラス3」

 

「”ポーリュス3”はそのまま固定、発射まで待機せよ」

 

ソ連宇宙軍の宇宙ステーションで作業員達が3基の”ポーリュス”の調整を行っている。

 

第1親衛攻撃衛星軍司令、マクシモフ大将は腕を組んで作戦室で作業を見守っていた。

 

彼の側には親衛軍の参謀達が控えており、司令部全体が宇宙に移動した形となった。

 

彼らの主力兵器である”ポーリュス”は全て方向を転換し、地球ではなく宇宙空間の方にその口径を向けていた。

 

”ポーリュス”は射程距離の問題から僅かに軌道上から離れて月面の方に前進していた。

 

当然周囲には武装した戦術機や護衛の衛星がついている。

 

1981年12月、ペルーン作戦の第一段階である。

 

「G元素、エネルギーチャージ開始。充填まで後3分」

 

「技術大尉、射線上に味方はいないか?」

 

マクシモフ大将は席について作業に当たっている技術大尉に尋ねた。

 

「ありません、デブリといった不安要素も確認されていません!」

 

それを聞いたマクシモフ大将は別のことを彼らに尋ねた。

 

「月面のBETAの動きはどうだ?」

 

「変化ありません」

 

「BETA降下ユニットの襲来は」

 

「確認されていません。今日は最高の照射日和です!」

 

その一言を聞いてマクシモフ大将はニヤリと笑った。

 

今まで何度も”ポーリュス”を撃ってきたが今日は特にいい日だ。

 

「よろしい、この1発に1ヶ月という貴重な時間が掛かってる。心してかかれよ!」

 

「了解…!」

 

各員が程良い緊張によって集中し、確実な仕事を果たす。

 

3分間のうちに全ての作業を終えて、大尉から射撃可能の報告が上がった。

 

「”ポーリュス”全基エネルギーチャージ完了。いつでも撃てます!」

 

「同志司令官…!」

 

周りの参謀達はマクシモフ大将に判断を仰いだ。

 

参謀に決定権はない、軍隊において判断と決断を担い命令を下すのは指揮官だけである。

 

彼らはここまでやった、後は司令官が責任と共に命令を下すだけだ。

 

マクシモフ大将は曇りなき声で将兵に対して命令を出した。

 

「全基、照射開始」

 

冷たい宇宙空間に裁きの雷が放たれた。

 

”ポーリュス”のレーザーは真っ直ぐハイヴを目指して宇宙空間を突き進んだ。

 

威力はそのまま、3発のレーザーがサクロボスコ・ハイヴを取り巻く3つのハイヴに直撃した。

 

「”ポーリュス”、全弾ハイヴに命中!」

 

「ハイヴの上部構造の消失を確認しました!」

 

「照射時間後1分」

 

マクシモフ大将は偵察衛星から送られる映像を見ながら祈った。

 

このままハイヴを消し飛ばしてくれよ、と。

 

大将の願いは叶うこととなる。

 

直撃した”ポーリュス”のレーザーはハイヴの上部構造を消し飛ばし、そのまま地下層まで削り取った。

 

照射から凡そ1分30秒後、最も下層に位置する頭脳級までをレーザーが削り取る。

 

この頭脳級が消失した時点でハイヴの攻略は終了していたが、2分という照射時間が終了するまで攻略したかどうかは分からなかった。

 

”ポーリュス”のエネルギーが途切れ、糸が解けるようにレーザーが消えていく。

 

残された全てのエネルギーもハイヴの跡地に叩き込まれた。

 

一瞬のうちに3つのハイヴから月面から消失した。

 

巨大なクレーターが完成し、その周辺にはハイヴもBETAも存在しなかった。

 

「目標ハイヴの消失を確認。攻撃は成功です!」

 

「よし!いいぞ!各軍と共に続けて地表部に攻撃を叩き込め。BETAの数を1体でも減らすんだ!」

 

「了解!」

 

”ポーリュス”は後方に下げられ、第2、第5攻撃衛星軍の衛星が月面に向けて攻撃を開始した。

 

BETAを、というより光線属種を可能な限り減らし、本命をサクロボスコ・ハイヴに叩き込む為だ。

 

初弾は全て陽動弾でありBETAによって迎撃されたがその後本命の戦略核が周辺のBETAを撃破した。

 

”ポーリュス”を除く3個軍の攻撃衛星の一斉攻撃である、今までに類を見ない戦果が叩き出された。

 

暫くソ連宇宙軍の攻撃は続いた。

 

それは1時間、10時間ではなく数十日続いた。

 

地表に展開されたBETAは半減し、対空網はかなり薄くなっていた。

 

それこそ再生産には1ヶ月以上の月日がかかる程に。

 

これでペルーン作戦の第一段階は達成された。

 

ソ連初の宇宙軍事作戦は良いスタートを切った。

 

 

 

 

-ソ連領 ロシアSFSR モスクワ州 ソ連国家技術委員会 BETA研究局-

BETAの研究とは様々な分野の合わせ技によって決まる。

 

基本は生物学が主であるが、光線属種の構図やBETAの構造分析は他の分野が必要になってくる。

 

特にBETAの技術を人類に転用しようという時はなおのことだ。

 

頭脳級の分析には数多くの分野の人間が駆り出され、解析に移った。

 

ソ連は焦っていたのだ。

 

頭脳級の分析、そして”()()()”においてはアメリカに遅れを取っていた。

 

世界で初めてハイヴを直接攻略した国家であるにも関わらずだ。

 

技術的に遅れていたというより生きた頭脳級のサンプルが少な過ぎたのが原因だった。

 

リヴォフ・ハイヴの頭脳級は戦術核で焼かれた後の調査であった為、どうしても足りない部分があった。

 

それを補う為にBETA研究局の上部組織、ソ連国家技術委員会は要請を出した。

 

次回のハイヴ攻略作戦において頭脳級の生体サンプルを入手して欲しいと。

 

ソ連も頭脳級の能力には魅力を感じていた為GRUが有するスペツナズ旅団に命令が出た。

 

結果、ヴロツワフ・ハイヴ攻略作戦において幾つかの特殊任務旅団隷下の戦術機中隊がハイヴ内に投入された。

 

結果、第10独立特殊任務旅団の戦術機中隊が頭脳級の肉を抉り取って持ち帰り任務を果たした。

 

それから7ヶ月、半年の月日と共に成果が出てきた。

 

ソ連も頭脳級を模した無人機及び戦闘支援システムを開発したのである。

 

そのお披露目がBETA研究局の入ったビルで行われた。

 

お披露目には委員会議長のシャバノフ上級大将を始め、国防相ウスチノフ元帥、参謀総長オガルコフ元帥、GRU局長イヴァシュチキン上級大将、作戦総局長ヴァレンニコフ上級大将、クゥタホフ総元帥、コルドゥノフ総元帥といった空軍と防空軍の総司令官も集まっていた。

 

研究員は巨大な機械のボックスを指差しながら話した。

 

「こちらがBETAの頭脳級を基に開発した無人機運用及び戦闘支援プログラム、モースク(Мозг)1です」

 

研究員の紹介で全員がそのボックスを見つめた。

 

ボックスにはキリル文字でモースク1とプログラムの概要が書かれている。

 

周りには研究員達が機械を調整しており、遠方のモニターにはモースク1の状態が示されていた。

 

「確かこれ無人機だけじゃなくて戦術機の戦闘支援も出来るんだったな?」

 

クゥタホフ総元帥は尋ね、研究員は「その通りです」と肯定した。

 

「戦術機側に設置した端末とこの本体がリンクして搭乗者の戦闘技能をサポートします」

 

「具体的には?」

 

コルドゥノフ総元帥が技術者に尋ねた。

 

「過去の交戦記録を基にBETAの攻撃の予測や有効な攻撃方法を提示します」

 

「ほう、そんなことまでしてくれるとは」

 

「時代は進みましたなあ」

 

クゥタホフ総元帥とコルドゥノフ総元帥は技術の進歩に驚き、感慨深そうに頷いた。

 

何せクゥタホフ総元帥が最初に乗った航空機はPo-2であるし、大祖国戦争ではP-39やP-40のレシプロ機であった。

 

コルドゥノフ総元帥もYak-1やYak-3、Yak-7やYak-9といったレシプロ機乗りであった。

 

されど2人とも撃墜数2桁越えのエースである。

 

そんな彼らからしてみれば航空機の進歩と変化は常に驚きの連続であった。

 

「また発展段階ではありますが搭乗者の意識不明時には自動操縦で安全地帯まで後退するよう教育も行っています」

 

「パイロットの死亡率が下がることはいいことだ」

 

オガルコフ元帥はそう評した。

 

頭脳級と研究と活用はオガルコフ元帥の肝入りであり、ウスチノフ元帥にも積極的に推進を進言していた。

 

オガルコフ元帥はその出身も含めて技術屋であった。

 

彼は頭脳級から生み出したモースクやアメリカのJUASはデータリンクと並ぶ軍事における革命だと思っていた。

 

だが使ってみなければ分からない。

 

「実地テストはいつ始めるのだね?」

 

ウスチノフ元帥は尋ねた。

 

彼としてはやはり成果をあげてもらわなければ困る。

 

既に無人機用に改造したMi-24とMi-8を1個連隊ほど揃えている。

 

最悪全滅しても構わないが戦果だけは上げてもらいたいだとウスチノフ元帥は思っていた。

 

「無人機の運用は南欧前線と第2ウクライナ前線司令部に回します」

 

「戦闘支援プログラムの方は?」

 

「新型の戦術機、MiG-29とSu-27の一部に搭載する予定でいます」

 

この話を聞いてオガルコフ元帥は「どう思う?」と2人の総司令官に尋ねた。

 

「既存の機体でも試した方がいいと私は思う」

 

「後後方でも戦術機同士の模擬戦もな。正直、これが一番わかりやすいと思う」

 

技術者達は総司令官達から言われたことをメモに纏めていた。

 

そこで技術者の1人が総司令官達に尋ねた。

 

「では既存機体ですと何がいいでしょうか?」

 

2人の総司令官は考えた。

 

そこで後についていた空軍総司令付補佐官の大佐が進言した。

 

「現状モスクワ駐屯部隊にいるMiG-23なら回せますが」

 

「丁度いいな、テストをするならまずそれでやらせろ」

 

「では連隊の選定はそちらで」

 

シャバノフ上級大将の発言にクゥタホフ総元帥は頷いた。

 

モスクワ軍管区にはソ連空軍第39軍が所属しており、そのうちの第149戦闘航空”ポメラニア”赤旗勲章連隊はMiG-23を有していた。

 

現状テストで使える部隊は予定を合わせてもこれしかない。

 

「近日中に使用部隊の提案を送ろう」

 

「助かります」

 

技術者達は頭を下げた。

 

ソビエトの集合知が作り上げた模倣品がその産声を上げようとしている。

 

 

 

 

 

-アメリカ合衆国領 バージニア州 ラングレー CIA本部-

CIAの仕事はKGBの仕事同様BETA大戦が始まっても終わることはなかった。

 

情報と陰謀は国家にとってまだ必要不可欠な代物なのである。

 

その為CIAは冷戦期とほぼ同等の待遇を受け、日々の活動に従事していた。

 

こうした情報は全てバージニアのラングレーに集められ、中央情報長官の耳のうちに入る。

 

長官であるケーシーは本部の執務室で各地から送られてくる報告書に目を通していた。

 

彼は大きい厚縁のメガネを掛けており、黒が基調の縞模様のネクタイを身につけていた。

 

「そうか、モサドの奴らようやく資料をくれたか」

 

ケーシーは中近東・南アジア部が提出した報告書を読みながらそう呟いた。

 

CIAは以前からイスラエルの諜報特務庁(モサド)にある資料を開示するよう要請を出していた。

 

モサドの方は中々渋っていたが中東攻勢を条件に資料を開示してくれた。

 

「まあ彼らとしても奴らに巨大化して欲しくないのでしょう」

 

「先の大戦からまだ35年しか経っていないからな、あの頃のトラウマもあるだろう」

 

ケーシーは中央情報服長官ボビー・レイ・インマン大将の発言に付け加えた。

 

インマン大将は海軍出身の情報将校であり前職は海軍の情報部長であった。

 

彼らの専らの仕事は主に欧州のドイツ問題、東西ドイツに湧き出た東西協力過激派の対処と防諜であった。

 

CIAの担当は西ドイツであり、基本的にはKGBが担当する東ドイツには口を出さないことになっていた。

 

どちらにせよ現ドイツ連邦軍極右グループが危険なのは確かであり、こちらを潰してしまえば東ドイツ側も統一の架け橋がなくなる。

 

CIAはあくまで己の職務に忠実であった。

 

「しかし、中南米の連中で有名どころは粗方ダメになったか。もう使えそうにないな」

 

ケーシーはモサドから送られてきた資料を見てそう判断した。

 

CIAがモサドに要求したそれは1945年以降中南米に逃げ仰せたナチの残党のリストと、ナチ・ハンターが突き止めたこうした残党の行方であった。

 

これらの資料は未だ公開されていない情報と不確定な情報も混じっていたが精度は高い。

 

多くのナチ党の高級幹部や上級将校らは死亡するか既に戦犯として縄に括られており、そうではない者や通常の幹部らも多くが歳を取りすぎてもう政治的求心力はないと判断されていた。

 

「先の大戦からもう35年、それにこんなご時世に前線国家ドイツの政権を担いたいなんて酔狂な奴はそういないでしょう」

 

「ああ、だが現に異常者はいる。面倒だがナチの残党にも気を配らねば、あのヘスだってネオナチ連中には昔人気があった」

 

副総統の方のルドルフ・ヘス。

 

彼は1973年までベルリンのシュパンダウ戦犯刑務所の中で生きていた。

 

イギリスに単独講和を申し込みに行ったヘスはそのまま捕縛され、ニュルンベルク裁判で終身刑の判決を言い渡された。

 

それでも彼はBETA大戦が始まるまで生きていた。

 

尤も場所が場所なのでヘスはベルリン・ハイヴの降下衝撃で刑務所ごと吹っ飛ばされた。

 

あの混乱状態なので当然遺体が回収されることはなかったが、辛うじて生き残った何人かの看守がヘスの檻房が潰されているのを見たと証言している。

 

なお一部のネオナチはこれは虚言であり、ルドルフ・ヘスは脱獄し何処かに身を隠していると発言していた。

 

「その点については抜かりなく、3ヶ月前に死んだシュペーア同様マークはしてます」

 

「よろしい」

 

そう、この時代まだ多くの元ナチ党員、国防軍人らが生きていた時代である。

 

特に第三帝国時代に高官にいた人物はそろそろ人生の終わりが見えてくる頃だ。

 

例えば武装SS師団を数多く率いたヴィルヘルム・ビットリヒ、彼が死んだのは1979年、僅か2年前である。

 

かのフェルディナント・シェルナーも亡くなったのはBETA大戦が始まった1973年であるし、あのカール・デーニッツ海軍元帥が亡くなったのは驚くべきことに1980年、去年であった。

 

インマン大将の発言通りあのアルベルト・シュペーアもつい3ヶ月前まで生きていた、BETAが現れると全てのヘイトをBETAに集中し死ぬ間際まで上手く立ち回っていた。

 

ナチの高級幹部として世界を混沌と戦禍の渦に叩き込んだ人々が再び訪れた戦争の時代に何を思うのか、結局の所誰にも分からない。

 

ただ1つ言えるのは老いて死に逝き、歴史の1ページに刻まれる彼らを利用しようと企む輩がいることだ。

 

そして数少ない生き残りがそれに乗っかろうとしているのも事実であった。

 

「あの旧ライヒの連中、よくマークしておけよ。レーマーは切れる男だ、後ルーデルは普通に厄介だ」

 

「わかっていますよ、そういえばスコルツェニーの件、あれは完全なデマでした」

 

「あの日本に住んでたとか言うのだろう?誰か調べたのかね」

 

「はい、あっち(日本帝国)に勤務してる海軍の友人から一応送られてきまして」

 

ケーシーは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに苦笑を浮かべた。

 

インマン大将も同じ気持ちだった、この時2人が思っていたことは全く同じであった。

 

人類が一丸となってBETAと戦っているのに我々(CIA)がやることと言えばナチのケツを追いかけるだけ、正直嫌気が差していた。

 

昔のCIAは良かった、と評する者も中にはいた。

 

何せアメリカの敵であるソ連と共産主義に対してCIAは堂々と立ち向かい、その為にありとあらゆることが許された。*1

 

「ん?このソ連側カウンターパートに対する提言というのは何だ?」

 

疑問に思ったケーシーはインマン大将に尋ねた。

 

インマン大将は資料を見て内容を思い出し、長官に説明した。

 

「ナチの残党……ではあるんですが出自的にソ連側に影響がありそうということで提言という形になったと聞いています」

 

「出自?どんな奴らだ?」

 

「ロシアの民族主義、君主主義も混じっていますね。かつてナチに所属していた超国家主義者ですよ」

 

ケーシーは再び資料と添付されている写真を見た。

 

おそらくこの写真は彼らの指導者がまだ若い頃に撮ったものだろう。

 

右に流した髪に高い鼻、どこか右上を見上げる目線。

 

ケーシーらはまだ知らない。

 

後に彼らがソ連に対して僅かな衝撃を与えることを。

 

 

 

 

 

第1親衛攻撃衛星軍、”ポーリュス”。

 

最大出力の照射により”ポーリュス”は一時発射不能になり、整備の為に宇宙用MiG-21と作業員が各機材を取り替えていた。

 

こうした取り替え作業で特に役に立ったのはやはり宇宙用の戦術機であった。

 

その巨体と人間よりは頑丈な装甲が宇宙空間での作業では安全性の面で大いに役に立った。

 

そしてマニピレーターとアームによる操作は取り替え作業のような精密作業を可能にした。

 

3基の”ポーリュス”の整備作業にはソ連宇宙軍が有する戦術機のほぼ全てが動員されていた。

 

「マナコフ隊、AB-2間の交換作業が終わったら帰投して休憩に入れ。代わりはアファナシェフ隊にやらせろ」

 

『了解』

 

ゲンナジー・マナコフ少佐が指揮を取る戦術機部隊がポポフ大佐機から見て上に行き、各種パーツを交換した。

 

こうした外周の整備作業だけなら戦術機があれば1日で終わった。

 

問題は発射口の中である。

 

「各機、発射口内部には近づくなよ。微弱とはいえ重力異常が発生してる。巻き込まれれば戦術機でも死ぬぞ」

 

ポポフ大佐は友軍機に注意喚起を促した。

 

”ポーリュス”が1ヶ月ほど再度攻撃が出来ないのはこういう理由があった。

 

現在の”ポーリュス”はG元素のエネルギーを基にレーザーを撃っている代物である。

 

当然G元素兵器が齎す影響も微弱だが発生するのだ。

 

これが最大出力となると20日はクールタイムが必要となり、その間の攻撃は全てストップしてしまう。

 

その為ソ連宇宙軍が”ポーリュス”を最大出力で撃つ事はなかった。

 

地上のハイヴなら最大出力でなくとも堕とせる。

 

今回は月面のハイヴと戦術機を投入するハードルが地球より高い為、”ポーリュス”の最大照射という選択肢を選んだのだ。

 

かつてハイヴがあった月面の3箇所にはG兵器の影響である重力異常が発生していた。

 

暫くの間、あの周辺に人類が再び基地を設置する事は難しいだろう。

 

それでもBETAが我が物面で月の大地を闊歩しているよりはマシであった。

 

ある程度作業を終え、ポポフ大佐の隊にも交代の部隊がやってきた。

 

宇宙ステーションが戦術機の母艦となっており、衛士達は強化服の上から宇宙服を着ていた。

 

ちなみに強化服の上から何か別のジャケットや対Gスーツを着てヘルメットを被るのはソ連軍のみならず世界中で取られている手法である。

 

『ポポフ大佐、交代だ。後は我々がやるから帰って休め』

 

交代を名乗り出たのはソ連宇宙軍大佐、ユーリー・マリィシェフであった。

 

彼が乗っている戦術機は同じくMiG-21であり、両手に交換用のパーツを持っていた。

 

「分かりました、後は任せます。各機、宇宙ステーションに戻って休憩だ。しっかり休んで後に備えるぞ」

 

そう言ってポポフ大佐は機体を翻し、宇宙ステーションへ戻った。

 

宇宙ステーションと各戦術機はデータリンクで繋がっており、モニターに着艦用のガイドビーコンが表示されていた。

 

指示に合わせて機体を減速させ角度を合わせる。

 

ある程度準備が終わると宇宙ステーション側からワイヤーが飛び出し、機体の両肩についた。

 

後はワイヤーに引かれてMiG-21はゆっくりとエアロックにコックピットをドッキングさせた。

 

周囲には整備士達が待機しており、MiG-21が着艦したのと同じタイミングで機体の整備作業に入った。

 

コックピットが自動で開き、ポポフ大佐が出てくる。

 

地面を蹴ってエアロックから宇宙ステーション内に入り、大佐はヘルメットを脱いだ。

 

「お疲れ様です同志ポポフ大佐」

 

待機していた宇宙軍の中尉が水の入った容器を渡した。

 

「ありがとう、他のは?」

 

「ドッキングして中に入ってます。食事を用意してるので食べて行ってください」

 

「ありがとう、お言葉に甘えて食べに行くよ」

 

そう言ってポポフ大佐はステーション内を移動し、仲間達が集まっている簡易食堂に移動した。

 

皆既に食事を取っている様だ。

 

「大佐、遅かったですね」

 

「君らが早いんだよ、私の分は?」

 

「ほら、そこに」

 

大佐は机を掴んで姿勢を制御し、食事の前についた。

 

今日のメニューはフリーズドライをお湯で戻したボルシチに肉の缶詰、そして乾パンであった。

 

ソ連宇宙軍は恐らく地上軍、海軍、空軍及び防空軍、戦略ロケット軍、国内軍、国境軍の中で一番良い食事を摂っている。

 

全て宇宙食ではあるがアメリカとの共同開発でかなり品質の高い物が提供されている。

 

宇宙という特殊環境で働く将兵が少しでも慰めになればとデザートや少し趣を変えた料理などもあった。

 

時としてウォッカも飲めるのだから良い職場だ。

 

「後6時間ほどは自由だからみんなしっかり休んでおけよ」

 

「はい、でも大佐、忘れてませんか?後20分後に総司令官の演説ですよ」

 

「ああ、そうだったな。食べながらみんなで見るか」

 

部下に促されてポポフ大佐は演説のことを思い出した。

 

ソ連宇宙軍総司令官カラシィ上級大将はこれからのペルーン作戦について訓示を行うと事前に通達が入っていた。

 

当然軍の総司令官であるからポポフ大佐達は聞く義務があった。

 

一応名目上は宇宙軍及び戦略ロケット軍将兵の士気向上のためであるからだ。

 

とはいえどの道何を言われようと自分達のやることは変わらないのにも関わらずだ。

 

そうでなければ宇宙軍になど進んで志願しない。

 

宇宙に対する憧れや羨望が失われて久しい今、宇宙軍に入るのだから当然覚悟はあった。

 

残念ながらガガーリンが見せてくれたあの夢は消えてしまったのだ。

 

BETAという最悪の外来種によって。

 

「我々とて使命があるから宇宙にいるのだよ」

 

ポポフ大佐の確固たる意志であった。

 

 

 

 

ーソ連領 ロシアSFSR モスクワ州 ゴリツィノ2 ソ連宇宙軍司令部ー

宇宙軍司令部にはペルーン作戦に携わった、或いは携わるソ連宇宙軍、ソ連戦略ロケット軍の将兵が集められていた。

 

総司令官カラシィ上級大将のペルーン作戦に向けた訓示である。

 

特にソ連宇宙軍の将兵は全員参加であり、宇宙やバイコヌール基地など遠方にいる将兵はラジオやテレビなどで訓示を傾聴するよう命じられた。

 

なおこの訓示、カラシィ上級大将はあまり乗り気ではなかった。

 

こういう訓示のようなものはあまり経験がないし得意でもない。

 

これはソ連宇宙軍よりもっと上の、党レベルの指示であった。

 

これを命じたブレジネフ辺りからすれば今回の作戦の主役であるカラシィ上級大将に格好をつけさせた形になる。

 

されど当人からすれば良い迷惑である。

 

カラシィ上級大将は終始浮かない顔をしていた。

 

「同志総司令、もっと元気出してくださいよ。折角の訓示ですよ?」

 

カラシィ上級大将は話しかけてきた政治部長の方を見た。

 

彼の名はゲルマン・チトフ、ソ連宇宙軍の航空大将でありソ連邦英雄、ソ連の宇宙飛行士であった。

 

彼は空軍から宇宙軍に移籍し、宇宙飛行士の育成とソ連宇宙軍政治部長をやっていた。

 

彼は軌道宇宙航行において最年少の人物であり故ユーリー・ガガーリン大佐と並ぶ初期の宇宙飛行士の1人である。

 

その為名声は高く政治部長にうってつけであった。

 

「訓示なんて君がやれば良いだろうに……」

 

「今は総司令官が立つ時なんですよ」

 

上手く言いくるめられてしまった。

 

カラシィ上級大将は不満げな顔のまま立ち上がった。

 

「期待しているよ」

 

「しないでくださいよ」

 

待機していたトルブコ総元帥に言い返し、補佐官らから訓示の原稿を受け取った。

 

参謀長ベレズニャーク大将やトルブコ総元帥らは先に席に戻り、最後にチトフ中将が上級大将を励ました。

 

「同志総司令なら上手くやれますよ」

 

「分かった、まあ静かに聞いてなさい」

 

チトフ中将は敬礼して舞台袖から掃けた。

 

上級大将は時計を見て時間を確認する。

 

後3分、3分後に訓示は始まる。

 

「同志上級大将、間も無くです」

 

「うむ」

 

表情を変え、真剣な面持ちのままカラシィ上級大将は壇上に立った。

 

もしかしたらこの戦いで何人かは戦死するかも知れない。

 

そんな彼らに向けた夢を持って死んでもらう為の言葉だ。

 

壇上に立ったカラシィ上級大将は会場にいたソ連宇宙軍、ソ連戦略ロケット軍の将兵から拍手で出迎えられた。

 

彼は演説台に原稿を置き、一呼吸置いてから訓示を始めた。

 

「ご機嫌よう同志ソビエト宇宙軍、そしてソビエト戦略ロケット軍の諸君。まずは作戦の第一段階が成功したことを、全将兵の努力と共に感謝の言葉を贈りたい」

 

カラシィ上級大将は壇上から席についているソ連宇宙軍、ソ連戦略ロケット軍の将兵を見た。

 

前列にはトルブコ総元帥、戦略ロケット軍参謀長ヴィシェンコフ大将、宇宙軍参謀長ベレズニャーク大将、政治部長チトフ中将ら上級将校が座っていた。

 

その後ろには両軍の参謀達、ジュラヴリョフ大佐、ペルミノフ大佐、コヴァレンコ少佐、ヤコヴレフ中佐、ソロヴツォフ中佐。

 

そして遠方で軍務に就く将兵達。

 

バイコヌール基地に軌道上の宇宙ステーション、ソ連国内には他にも宇宙軍将兵が利用する宇宙基地があった。

 

彼らの努力の末、このペルーン作戦は実行されるのだ。

 

「さて、少し昔話をしよう。我々ソビエト連邦は人類で初めて人を宇宙に送った。人類は成層圏を超えてその生活範囲を広げたのだ。最初の人の名はユーリー・ガガーリン、諸君も知るソビエト連邦の英雄だ」

 

ユーリー・ガガーリンを知らぬソ連人はいない。

 

地方農村出の一兵卒だってガガーリンの名前くらい知っているだろう。

 

特にソ連宇宙軍からしてみればユーリー・ガガーリンは神にも等しい存在であり、精神的な拠り所であった。

 

「同志ガガーリンが青い空の向こう、宇宙に運んでいったものは一体何か。冷戦の対立か、将又我々宇宙軍の存在か、それだけではい。彼は希望を運んだのだ、人類が地を離れても生きていける、世界はまだ広く人類は広い世界に挑戦出来る能力がある。同志ガガーリンは宇宙に対して希望を見出したのだ」

 

長い間宇宙開発は米ソ対立の一環であったが、それでも宇宙に行きたい、月に行きたいという純粋な夢と希望も含まれていた。

 

例えばヴェルナー・フォン・ブラウンのようなロケット開発技術者がそうだ。

 

彼はずっと子どもの頃から星々と宇宙が夢であり、自身で作り上げたロケットを宇宙に飛ばしやがては月に行くことを夢見た。

 

だから彼は悪魔(ナチ)にも魂を売り渡し、SSの階級を持って彼の作ったV-2がブリテン島に着弾してもなお夢を思い求めた。

 

夢と希望、そして憧れは誰にも止められないのだ。

 

「それがBETAの襲来によって希望は奪われた。人々は宇宙に希望を見出すことをやめた、いや、奪われたのだ。宇宙からくる侵略者は我々の生命だけでなく希望すらも奪い去った」

 

宇宙開発は宇宙へ行こうという段階からBETAからどうやって地球圏を防衛するかの話にすり替わった。

 

その為に数多くの対地攻撃衛星、迎撃衛星、そして”ポーリュス”は生まれ宇宙は急速に武装化した。

 

宇宙は確かに厳しい環境である、だが夢とロマンと希望があった。

 

BETAが脅威を齎すまでは。

 

人が星空を見てそこに希望を見出すことはもうなくなった。

 

「ペルーン作戦、この作戦は我々がBETAによって奪われた人類の希望を取り戻す第一歩である。我々の手で、我々の同志が示した希望を再び人々の下に返すのだ。諸君の軍務は今を生きる人々に、明日生まれ出でる子ども達に希望を与える務めなのだ」

 

トルブコ総元帥は微笑を浮かべた。

 

希望を与える、まさかそんなことを言われるとは思わなかった。

 

戦略ロケット軍は絶対的な破壊によって国土を守る存在である、決して希望を与えるものではなかった。

 

こんなことを言われるとは、感慨深い。

 

「私と共に戦う戦友同志諸君、厳しく難しい軍務が続くが私と共に戦おう。月面のBETAを殲滅し、人類の希望を取り戻すのだ!」

 

後にカラシィ演説と呼ばれる一連の作戦訓示はソ連国防省を通じて世界に発信された。

 

人々に希望を与えるこの演説は戦後も暫くあらゆるスピーチに引用されることになる。

 

カラシィ上級大将の演説と共にペルーン作戦の第二段階は始まった。

 

 

 

つづくかも

*1
許されすぎてると思う

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