マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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何故なら俺達は操縦士
愛しの家はこの空だ
イの一番に飛行機で
「じゃあ、娘達は?」 「ニの次だ!」
-”渡り鳥”より抜粋-


番外編3
ヴィクトル・フレツロフという男


初めて空というものに憧れを持ったのは子どもの頃だった。

 

親父が空軍の少佐だった頃、まだ5歳だった俺をハリコフの飛行場に連れてきてくれた。

 

あの時見た航空機が、人が空を飛ぶ姿が俺の心にずっと残っている。

 

人は空へ飛べるんだ、パパ達は空の上にいるんだ。

 

僕もパパのようになれないだろうか。

 

憧れ、その二文字が相応しい感情だった。

 

親父は空軍のパイロットだった、大祖国戦争中は何度か空戦に参加して単独で2機は落としたらしい。

 

家には戦争中に貰った勲章やらが飾ってあった。

 

親父はとにかく跡を継いでパイロットになって欲しそうだった。

 

そんな親父が声を荒げて手を出して怒ったのは俺がパイロットになりたくて家の階段から飛び降りた時くらいだ。

 

俺は空軍に入った、親父の伝手もあったがそれなりには自分で努力はした。

 

まずはハリコフの高等軍事航空学校に入った。

 

当然だが世の中には自分より優れた人間ってのは存在する。

 

性格も良くて腕利きで容量のいい奴。

 

軍学校じゃそういう頭1つ飛び抜けたやつがいた、仲間内からは絶対出世すると思われてたし俺もそう思っていた。

 

俺は結局、軍学校だと良くて中の上くらいの人間だ。

 

それでも空軍の将校としてパイロットになるには十分で、卒業後は軍の階級を貰って自分の戦闘機も貰えた。

 

初めて訓練で愛機を飛ばした時の感覚は今でも覚えている。

 

最高だった、あの振動と上昇する時の締め付けるような衝撃、青い空と白い雲の風景、頼もしい空の仲間達。

 

親父達もこんな気分だったのか、パイロットってのは最高だなとつくづく思った。

 

それでも俺が飛行機に乗っていたのは精々軍学校の時も合わせて5年くらいだ。

 

そろそろ上級中尉に昇進というタイミングで奴らがやってきた。

 

BETAだ。

 

奴らは戦争を全て変えちまった。

 

光線属種によって人は簡単に空の上を飛ぶことが出来なくなった。

 

多くの優秀な先輩パイロット達が死に、軍学校で頭抜けて優秀だった奴も戦死した。

 

運良く生き残った俺はガガーリンの航空アカデミーに入学と同時に機種転換訓練という名目で新兵器のパイロットになった。

 

戦術機というやつだ。

 

俺が乗っていたはずの飛行機にはいつの間にか手足がついた。

 

のしのし歩き、銃と剣を持って異星人を踏み荒らす空飛ぶ巨人。

 

面はいいのでなんとか耐えられたが昔の愛機から離れざるを得ないあの感覚は心苦しいものがあった。

 

訓練が終わるとすぐ前線に送られ俺の初めての実戦は飛行機ではなく戦術機で始まった。

 

空を自由に飛べない、高度すら制限されるというのはつまらないものだ。

 

BETAのせいで俺の、俺達の空は随分狭くなった。

 

そして気づけば戦術機に乗って7年が経った。

 

俺はもう飛行機より長くこれに乗ってる。

 

俺は何も英雄になったりエースになりたい訳じゃなかった。

 

空軍という親父達が作った栄光の跡を追ってパイロットを長くやって、中佐くらいで退役して民間のパイロットになって、そうやって空と共に、飛行機と共に生きていくはずだった。

 

別に手足がついてなくたって良かったし、ハイヴなんて狭い土の中に入るのは真っ平御免だ。

 

それが何故か、最近は土の中に潜って戦う仕事ばかりさせられている。

 

それで赤旗勲章も赤星勲章も渡され、少佐になって指揮官になった。

 

1から10まで気に食わない。

 

空の自由が奪われたことも、戦闘機ではなく戦術機に長く乗っていることも、ハイヴの中に突入させられることも、それで戦果が上がることも。

 

いつか全部変えなくちゃならない。

 

昔に戻すんだ。

 

人が空を自由に飛べて、戦闘機が飛び回って、ハイヴもBETAもない世界に。

 

それが多分俺の使命なんだ、生まれて初めて大義というものを感じた。

 

だからピーピー喚きながらも渋々戦術機に乗って戦っている。

 

全てはBETA以前の世界に戻る為だ。

 

あの世界を見るまで、再び自由に空を飛び回るまで俺は死ぬつもりなど毛頭ない。

 

俺はパイロットだから。

 

 

 

 

 

-ウクライナSSR ハリコフ州 ハリコフ市 ハリコフ駅-

ヴィクトル・フセヴォロドヴィチ・フレツロフという男について話そう。

 

彼は1950年のハリコフで生まれた、つまりハリコフは故郷である。

 

父フセヴォロド・フレツロフは空軍のパイロットで大祖国戦争従軍経験者、最終軍歴はソ連空軍少将である。

 

1941年から新米パイロットとして戦い、あの地獄を生き抜いてきた。

 

その子どもがヴィクトル・フレツロフであり、彼も幼い頃から空軍に興味を持った。

 

学校を卒業後、フレツロフは二重ソ連邦英雄S.I.グリツェヴェーツ名称ハリコフ高等軍事航空学校に入学した。

 

3年間教育を受け、1971年に卒業。

 

それから2年は戦闘機に乗り、BETA大戦後はY.A.ガガーリン名称軍事航空アカデミーの学生として戦術機の転換訓練に従事した。

 

ちなみに彼の妻マリヤとはこの頃会ったらしい。

 

その後は各地の戦術機連隊で転戦し、いよいよ2つもハイヴを堕としたことにより少佐に昇進の上赤旗勲章まで渡された。

 

10年で少佐、ソ連空軍としては早い昇進であり早い昇進には戦果だけでなく失われた損害の早期補填という意味合いも含まれていた。

 

この日少佐はハリコフ駅にいた。

 

フレツロフ少佐が生まれた場所であり、彼の家族は皆ハリコフに住んでいる。

 

かつてはハリコフがソ連の最前線であった。

 

キエフを止むなく放棄し、止まる事のないBETAの猛攻を食い止めた場所がウクライナにとってはハリコフであり、これ以降東進はなかった。

 

そんなハリコフだが前線は1,000キロ離れた先であり、ソ連にとっては完全な安全地帯となっていた。

 

その為一時疎開していた多くの民間人がハリコフに戻っており、フレツロフ一家も同様であった。

 

フレツロフ一家は父フセヴォロドと母レナータと一緒にハリコフに住んでおり、基本は父母と妻のマリヤ、そして娘のエミリヤの4人構成である。

 

フレツロフ少佐は基本航空基地で勤務している為家には滅多にいない。

 

今回は上層部から与えられた数少ない休暇を使ってハリコフへ帰り、家族と過ごしていた。

 

とは言っても今日が別れの日なのだから。

 

フレツロフ少佐が仕事に戻る日ハリコフ駅にはフレツロフ一家全員が来ていた。

 

車を使って家からハリコフ駅まで送り、フレツロフ少佐は家族から送別を受けていた。

 

「ヴィーチャ、私の息子。前線に出ても上手く切り抜けろよ。撃墜数を稼ごうなんて思うんじゃないぞ」

 

「分かってる、分かってるよ親父。親父もあんまり無理すんなよ、エミリヤが学校行くまで元気で生きてて欲しいんだから」

 

「分かってる、分かってるさ。軍学校の校長が無茶してるの見たことあるか?」

 

フセヴォロドは今年61歳、本来なら退役して第1、第2級辺りの予備役に行っているはずである。

 

それがどういうことかBETA大戦の勃発によってフセヴォロドの定年は延長され、空軍の予備戦力の管理などを務め今はフレツロフ少佐の母校の校長をやっていた。

 

BETA大戦が始まる前にフセヴォロドは「そろそろ退役か」と粛々と準備を始めていたのだが全て無駄になった。

 

先に退役した同期も動員によって復帰し、再び軍務に就いた。

 

正直彼らの多くが60過ぎても現役として軍服に袖を通しているとは思っていなかった。

 

尤もこういう形であれば通さない方が良かったのかも知れないが。

 

「母さんよく見てておいてくれよ」

 

「ええ、貴方も体に気をつけて。部下や整備の人に優しくしてね」

 

「言われなくてもやってるよ」

 

母レナータがこういうことを言うのには理由があった。

 

彼女は先の大戦、大祖国戦争において軍属としてソ連空軍の飛行場で働いていた。

 

職場で優しくしてくれたのが後の夫フセヴォロドである。

 

血気盛んなパイロットだった父フセヴォロドは彼女を口説き、バグラチオン作戦開始前に結婚した。

 

「それじゃあなエミリヤ、パパ仕事に行ってくるから。いい子にして、ママを助けてあげるんだぞ」

 

「やだ!パパと離れるの嫌!」

 

「そんなこと言われてもなぁ……ほら、パパが買ってあげたぬいぐるみあるだろ?それをパパだと思って、いつか帰ってくるから」

 

エミリヤは泣いていた。

 

彼女はまだ3歳、物心ついた子どもに父との別れはあまりに酷なものであった。

 

少佐は車の中で泣きじゃくる娘を抱きながら彼女を宥めた。

 

「パパはちゃんと帰ってくる、約束だよ。パパ約束破らない」

 

「でもご飯の前にクッキー食べてた」

 

「それはいうな。とにかく、ちゃんと帰ってくるから。いい子にしてるんだ」

 

エミリヤは渋々頷いた。

 

子どもも意外と自分が駄々を捏ねたところで叶わないというのはなんとなく分かるものだ。

 

フレツロフ少佐は軽く頬にキスをして、頭を撫でて車を出た。

 

「マリヤ、この子は私が預かっておくから入り口まで送ってあげて」

 

「はい」

 

そう言って妻のマリヤは車から出てハリコフ駅まで夫を見送った。

 

季節は12月、ハリコフでは雪が降っておりマフラーと手袋、コートは欠かせない。

 

フレツロフ少佐も妻がくれた灰色のマフラーを巻き、ソ連空軍のコートを着ている。

 

片手には鞄を持ち、制帽を被っていた。

 

「今度はいつ帰って来れる?」

 

ふとマリヤが聴いた。

 

「1年は無理かもな、大仕事がまた始まりそうだし。娘と親父達頼むよ」

 

マリヤは頷いた、それも深刻そうな顔で。

 

彼は衛士、パイロットである。

 

パイロットは空へ飛び立つ、もしかしたら帰ることなく。

 

不安そうなマリヤを見たフレツロフ少佐は不安を和らげる為にこう言った。

 

「何度も言うが俺は戦闘機に乗ってた頃から死ぬなんて思ったことないよ。空はいいとこだが、死ぬなら家のベッドがいい。BETAの穴蔵なんて一番嫌だね」

 

マリヤは苦笑した。

 

それに釣られてフレツロフ少佐も笑い、気がつけば2人は駅の前まで来ていた。

 

「地面を這ってでも帰ってくるから安心して待ってて欲しい。それじゃあな」

 

「ええ、そこまで言うなら」

 

2人は抱き合ってキスをし、別れを済ませた。

 

雪が降る中、フレツロフ少佐はハリコフ駅の階段を登り、駅のホームへ向かった。

 

「ヴィクトル!」

 

後ろから彼の名を呼ぶ声が聞こえた。

 

振り返るとそこには手を振るマリヤの姿があった。

 

「また会いましょう!」

 

その一言を聞いてフレツロフ少佐は微笑み、軽く手を振り返した。

 

家族と離れるのは寂しいが我々は行かなければならない。

 

何故なら我らはパイロット、愛しの家は空の上である。

 

祖国の危機にいの一番に駆けつけ、敵を食い止めるのだ。

 

 

 

 

フレツロフ少佐はハリコフ駅から一旦キエフ駅に向かい、そこから乗り換えて空港からチェンストホバに向かった。

 

キエフが奪還されて早2年、復興が進み徐々に民間人も戻り始めていた。

 

この都市の復興というのはソ連が世界に威信を見せる格好のものであるし、キエフというものの復興が精神的に与える影響もある。

 

フレツロフ少佐がキエフに到着し、空き時間で暫くキエフを散策していた。

 

彼はハリコフ生まれであるから当然キエフに訪れたこともある。

 

昔そのままの姿で、とは行かないが都市としての機能は十分復興していた。

 

少佐はそこで酒臭い建築関係の労働者に出会した。

 

年齢は40代後半に見え、髭を蓄えて作業服を着たまま何か食べ物が入った袋を持っていた。

 

彼は少佐に会うなり「同志将校さん!日々の軍務ご苦労様です!」と何故か敬礼し、フレツロフ少佐はその人から何個かじゃがいもを渡された。

 

困るので返そうとしたらそのまま押し留められ、仕方なく礼を言って読み終えた新聞でじゃがいもを包んで持ち込んだ。

 

普通に持ち込みの鞄の中に入れたが特に問題なく飛行機には搭乗出来た。

 

時代は80年代のソ連、本来手荷物検査が厳しくなるのは2000年代以降である。

 

数時間ほど空の上で休み、最後の目的地であるチェンストホバに辿り着いた。

 

チェンストホバにはフレツロフ少佐が指揮を取る戦闘航空中隊が展開しており、空港から航空基地直行のバスがあった。

 

現状キエフからポーランドまでの地域では光線属種の脅威はなく、稀に前進してくるBETA群が確認されると警戒が促されるだけであった。

 

とはいってもこの周辺を飛ぶ航空機は基本軍のものであり、民間機は存在しなかった。

 

「同志少佐、お疲れ様です」

 

ヴィタリー・ミルシェフ中尉は敬礼し、フレツロフ少佐を出迎えた。

 

少佐も敬礼を返しミルシェフ中尉と共に基地に向かった。

 

中尉はまだ新任の衛士であり、戦闘経験はまだ3回ほどであった。

 

乗機は他の中隊機と同じMiG-27、今やソ連空軍の主力である。

 

ちなみにこのミルシェフ中尉、昇進したオルゼルスキー大尉の代わりとして新しく配属されたフレツロフ少佐の僚機である。

 

「私が離れてる間、何か戦闘はあったか」

 

「いえ、他の部隊にお呼びが掛かっていたのでありませんでした。それにBETAの攻勢もかなり減っています」

 

「なら良かった」

 

フレツロフ少佐が基地の格納庫に入ると数人の衛士が愛機を見上げて話し合っていた。

 

1人は政治将校ブリツェンスキー大尉とマリロフ上級中尉である。

 

2人はフレツロフ少佐が来るなり敬礼した。

 

「やあ同志達、お疲れ」

 

「フレツロフ少佐、休暇はどうでしたか?」

 

握手を交わし、ブリツェンスキー大尉は尋ねた。

 

今回の休暇申請、最初に提案し申請をサポートしたのはブリツェンスキー大尉であった。

 

大尉は政治将校としてフレツロフ少佐含めた部隊全員に目を配っており、少佐が幼い子がいることも話を聞いていた。

 

家族に合わせて少佐の英気を養ってもらおうというのがブリツェンスキー大尉の思惑だった。

 

「楽しめたよ、娘に行かないでと泣かれた」

 

「それは辛い、また帰れるといいですね」

 

「BETAを潰してな、で2人とも何してたんだ?」

 

ふとフレツロフ少佐は尋ねた。

 

「新しい追加武装の確認をしてまして。後少佐、大ニュースですよ」

 

そう言ってマリロフ上級中尉が1枚の書類を見せた。

 

フレツロフ少佐は1枚の書類を見て中身を確認した。

 

書類の題名は『新型戦術機の配備について』である。

 

「新型……MiG-29ねえ……」

 

フレツロフ少佐はボヤいた。

 

スホーイ設計局がT-10SとしてSu-27を設計している最中MiG設計局も新型の戦術機を開発していた。

 

正式名称MiG-29、空軍に正式採用された戦術機である。

 

既に各工場で生産は開始され来年には配備が開始される予定だ。

 

主に今後攻勢に参加する前線の各部隊に優先配備され、フレツロフ少佐の隊も何機か配備される予定となっていた。

 

「少佐がそれだけ認められてるということですよ」

 

「それだけ俺らが使い回されるってことでもあるぞ」

 

ブリツェンスキー大尉は顔を顰めていたがフレツロフ少佐は特に気にしなかった。

 

こういう発言が許されているのも口ではこう言っておきながら実際の戦闘では誰よりも勇敢に戦うからである。

 

フレツロフ少佐は基地に保管されている自身のMiG-27を見に行った。

 

二度のハイヴ攻略戦、これを切り抜けたのはこの機体だ。

 

なんだかんだ思い入れはある。

 

フレツロフ少佐はMiG-27の前に立った。

 

機体には一時数えていた撃破スコアと整備士達が勝手に書いた”目には目を、血には血を!”という復讐の言葉が書かれている。

 

まだこのMiG-27が配備された頃にはソ連軍は負けていて、同郷の友達を前線で亡くした者も多かった。

 

復讐心で空を飛ぶわけではないが、せめてその言葉くらいは持っていってやりたい。

 

そういう思いがあったのでこうした落書きを彼は許していた。

 

少佐は機体の装甲を軽く撫でた。

 

「お前ともそろそろおさらばかもな」

 

フレツロフ少佐はまるで可愛いペットか何かに言葉をかけるように話していた。

 

「どうせもう二、三戦は戦うんだ、もう暫く暴れてやろうじゃないか」

 

 

 

 

フレツロフ少佐の1日はそれなりに忙しい。

 

朝起きて体力維持の為にジョギングか筋トレをし、事務仕事に移る。

 

それから戦術機の飛行訓練を行なって腕を維持し、再び部隊管理の為の事務仕事か各隊との調整会議に出た。

 

当然BETAが出て要請があったら急いで発進して戦闘に向かい、BETAを打ち倒す。

 

そうして疲れ果てて眠りに付き、彼の1日は終わるのだ。

 

尤もこうした光景は現在のソ連軍だとよく見られる光景である。

 

むしろ基地勤務な分前線を張る自動車化狙撃兵大隊の指揮官や、艦艇の上の海軍将校らはそうもいかない。

 

司令部の参謀達だって日々情報を収集し、今後の作戦立案に役立てている為寿命と睡眠を削っての勤務だった。

 

そしてこの日は今から中隊で飛行訓練を行おうというタイミングだった。

 

衛士達は格納庫に集まり、フレツロフ少佐から話を聞いていた。

 

「今回の飛行訓練は低空飛行を中心に行う。我々が光線属種から生き残る為にはこれを極める他ない!」

 

「少佐!」

 

「なんだ!?」

 

フレツロフ少佐が訓示を述べていると格納庫の反対側から1人の一等兵が走ってきた。

 

一等兵は敬礼し、少佐に報告する。

 

「現在、オストラヴァ方面からBETAの大群が侵攻中!」

 

「何!?」

 

「第1独立親衛戦闘航空連隊に出撃命令が出ました!」

 

「は!?」

 

びっくりしたようにフレツロフ少佐は部下の方を見た。

 

皆フレツロフ少佐と同じ驚いた顔をしていたが、何故か顔の赤い副隊長オルゼルスキー大尉とベルツェンスキー大尉はもう意思を固めていた。

 

「全員よく聞け、訓練は中止。我が中隊はこれから出撃して前線地域の援護に向かう。各員武装して出撃だ!」

 

全員が敬礼して愛機に向かった。

 

フレツロフ少佐も複雑な顔をしながら自身のMiG-27に急ぐ。

 

少佐のMiG-27の側には何人かの整備兵がいた。

 

彼らは敬礼し「訓練ですか?」と尋ねた。

 

「バカ出撃だよ、武装は全部積んでるな?」

 

「はい、直ちに実弾に取り替えます」

 

「頼んだぞ!」

 

整備兵達は敬礼し、急いで作業に取り掛かった。

 

実弾入りのロケットポッドを取り付け、突撃砲の弾丸を装填する。

 

ミサイルも実弾用のものに取り替え、戦闘準備を整えた。

 

既にスクランブル発進が命じられた部隊は出撃しており、前線に到着している。

 

恐らくフレツロフ少佐の隊は二番手くらいで前線に到着するだろう。

 

その間にフレツロフ少佐は機体のシステムをチェックし、交換作業を待った。

 

彼は実弾演習だったらこんなことにはと自身の悪運を呪っていた。

 

「終わりました!」

 

「了解、出撃する!」

 

報告に来た整備兵は敬礼し、その場を離れた。

 

機体を動かし、フレツロフ機は滑走路に到着し、前方の機体の出撃を待って発進した。

 

「1012001、ヴィクトル・フレツロフ出るぞ!」

 

ペダルを踏み込み、フレツロフ少佐のMiG-27は空へ舞い上がった。

 

既に空中には何機かのMiG-27が待機しており、後続の部隊は彼らに合流した。

 

「指定エリアまで最大速度で向かう、エリア内に入ったら高度を下げて対光線属種対応行動を開始。全機、食い止めるぞ!」

 

各機から返事が聞こえ、フレツロフ少佐を先頭にMiG-27が飛んでいく。

 

彼らの何機かは突撃砲に152mm砲を持ってきており、突撃級との戦闘を備えていた。

 

MiG-27の後方には同じ基地から出撃したSu-25の部隊がいた。

 

より大型や頑丈なBETAの撃破は彼らの仕事であり、基本的にMiG-27はその援護に入る。

 

戦場が近づき、各機高度を下げた。

 

地上では前線へ急行する戦車や装甲車の姿が見えた。

 

「BETAの数は……まずは大隊か……1012002、俺の編隊と共に右から周りこめ。03と04は左からだ」

 

『了解、しっかり着いていく』

 

オルゼルスキー大尉が機体を操ってOKのハンドサインを送り、各機武器を構えた。

 

フレツロフ少佐はまず152mm砲を構え、接近中の突撃級に向けた。

 

長時間の戦闘で弾薬を消費した防空軍のMiG-25部隊と交代し、戦闘に突入する。

 

「攻撃開始!」

 

数発の152mm弾と突撃砲の一斉射がBETAの集団に降り注いだ。

 

正面から152mm弾を喰らった突撃級は炸裂し、そのまま周囲に展開する要撃級や戦車級を突撃砲が蹴散らした。

 

12機の戦術機は2方向に分かれ、その間に中央はSu-25とT-72らの戦車隊が抑えて進撃を食い止めた。

 

集団の側面から火力を叩き込み、BETAの数を減らした。

 

戦車級以下の小物は突撃砲とロケットポッドの一斉射で対応し、大型は152mm無反動砲で対処した。

 

これが中隊の基本戦術である。

 

機動力と瞬発的な火力が戦術機の売りなのだから活かさない手はない。

 

無駄にある一点に留まって戦うのはよっぽどの場合ではないとナンセンスだ。

 

少なくともフレツロフ少佐は部下にそう教えていた。

 

「十分だ!一旦後退!」

 

フレツロフ少佐の命令で部隊は一旦後退した。

 

残るBETAは地上部隊の火力と砲兵火力によって粉砕され、大隊は壊滅した。

 

後退したMiG-27はフレツロフ機の周辺に集まった。

 

「各機、編隊長が状況報告」

 

『02各機問題なし』

 

『03、同じく問題なし』

 

『04、まだ行けます』

 

オルゼルスキー大尉、ベルツェンスキー大尉、そしてキリル・シュペーギン大尉の3人が報告した。

 

フレツロフ少佐もマリロフ上級中尉とミルシェフ中尉の機体を確認した。

 

損傷箇所はなく、パッと見ただけでもまだ戦える様子であった。

 

「よろしい」

 

『フレツロフ少佐、司令部のメニンシュク中佐だ。防衛線再構築の為に一旦各隊を後退させる、少佐は戦車隊と共に援護をお願いしたい』

 

命令が飛んできたのは元々いたチェルンホルストバの幕僚要員メニンシュク中佐。

 

フレツロフ少佐の3年先輩で司令部の中でも特に話の分かる人であった。

 

フレツロフ少佐がいた地域はまだBETAの主力部隊が来ていなかったが、一部では師団規模のBETA群と戦闘になっていた。

 

「了解、各員よく聞け。味方部隊が後退する時間を稼ぐ為に撤退の援護を務める。戦車隊と共同してBETAを蹴散らすぞ」

 

『同志少佐の言葉を聞いたな、みんな私に続け!』

 

先頭を切ったのは当然ベルツェンスキー大尉、全員の手本に恥じぬ戦いをしていた。

 

その後に各機MiG-27の編隊が続き、接近するBETAを食い止めた。

 

地上のT-72とシルカの部隊が戦術機部隊の後に続き、戦車砲と23mmがBETAの集団を砕いた。

 

その上空をMiG-27が飛び去り、小まめに移動してBETAを潰しながらBETAの突撃を躱した。

 

「流石にこの数の突撃級はバズーカじゃ無理か、砲兵隊!座標を指定するから支援砲撃を頼む」

 

フレツロフ少佐は戦闘しながら後方に位置する砲兵隊に攻撃座標を送った。

 

すぐに砲兵隊からの支援は来た。

 

アカーツィヤと牽引砲が前線に展開する突撃級に降り注ぐ。

 

当然後方にいる光線級も確認済みであり、陽動弾も中には含まれていた。

 

152mmの暴力が降り注ぎ、突撃級は撃破されるか足が吹き飛ばされて動けなくなっていた。

 

「動けない奴は放っておけ!今は時間を稼げばいい!」

 

フレツロフ少佐の命令は部下に負担を減らし、任務を簡略化した。

 

彼らの任務は時間稼ぎであり、敵の殲滅ではない。

 

接近してくる敵を時に長刀で薙ぎ払い、僚機が援護する。

 

それから戦闘は暫く続き、かなり時間は稼げた。

 

当然弾薬を相当消費した為、フレツロフ少佐の中隊は別の隊と交代することになった。

 

「各機下がって補給、後の事はペトロフ隊に任せろ」

 

『了解…!』

 

接近するBETAをフレツロフ少佐が抑えつつ、部下を先に逃した。

 

この場合部隊を先導するのは副隊長であるオルゼルスキー大尉であり、指揮官であるフレツロフ少佐とベルツェンスキー大尉は後退を援護した。

 

『ペトロフ隊です!』

 

「よし、ここらが潮時だな!後退だ!」

 

最後に2機が友軍のMiG-27部隊に戦闘を任せて後ろに下がった。

 

持ってきた突撃砲のマガジンとロケットポッドは使い果たし、バズーカの弾薬も後数発という具合である。

 

だがそれだけの消費に見合う戦果は上げた。

 

時間は稼ぎ、味方部隊は前線を再構築出来た。

 

フレツロフ少佐とベルツェンスキー大尉も味方部隊と合流し、補給を開始した。

 

撤退中にロケットポッドは捨てており、装填は比較的容易であった。

 

フレツロフ少佐はようやく一息ついて水を飲み、戦闘糧食を軽く食べて呼吸を整えた。

 

汗を拭い、司令部に連絡を取って状況を確認した。

 

曰く前線は膠着状態であり、もう暫く防御陣地でBETAの攻勢能力を奪ってから反撃に出るらしい。

 

現状この程度の戦力なら1、2個軍ほど部隊で容易に止められるらしい。

 

『各機、補給作業終了しました』

 

ブリツェンスキー大尉は報告し、フレツロフ少佐は考えた。

 

「同志大尉、うちの中隊、もう一度行けるか?」

 

少佐の問いに大尉は答えた。

 

『全員、行けます』

 

「では……もう一戦やろうか」

 

MiG-27のメインカメラが光り、機体は立ち上がった。

 

この頃のフレツロフ少佐は一旦休憩を挟んだ為、戦闘でアドレナリンが出てハイになった思考が落ち着いていた。

 

故に戦闘の疲労も嫌悪感もあり、出来る事なら休みたいという感情もあった。

 

だが機体がまだ戦えるうちは戦わなければならない。

 

我々はパイロット、誰よりも先に戦いに向かわなくては。

 

憧れた空を取り戻し、生きて故国に帰る為に。

 

 

 

 

フレツロフ少佐の中隊は補給を終えて再度戦場へ急行した。

 

この頃では各所のキルゾーンでBETAを殲滅し、砲火力と戦術機の機動力で圧倒していた。

 

一部ではもう戦術核を持ったSu-24が何度も出撃し、各所で攻撃を行なっている。

 

前線を担当する4軍と第1親衛軍では既に反撃の為の兵力を抽出し、投入のタイミングを待っていた。

 

今回のBETAは割と数が多く、連隊規模では厳しい戦いが繰り広げられていた。

 

それでも師団、軍となれば話は別だ。

 

特に軍クラスではほぼ単独で対処可能なレベルであった。

 

その為フレツロフ少佐も初戦よりは楽が出来るだろうと踏んでいた。

 

だが実際は違った、むしろ所詮より厳しい戦いが待ち受けていた節すらあった。

 

『こちら第4中隊!現在我が隊は新種のBETAと交戦中!応援を求む!』

 

そう通信が入り直ちに司令部からも要請が来た。

 

『フレツロフ少佐、直ちに救援に迎え。別働隊もそちらに向かっている』

 

「了解…!全機、我々はこれより新種のBETAと交戦する。気を引き締めてかかれよ!」

 

少佐が操縦桿を握る力は強くなった。

 

新種のBETAと戦うのはこれで二度目、聞いた話によると中東のハイヴの中にもそういった類のものが含まれていたらしい。

 

こうした新種はどういった攻撃を繰り出してくるか分からない為、不安が募る。

 

当然だが自分も部下も生きて帰りたい。

 

前方では既にBETAが2機のMiG-23を撃破し、接近したT-72を破壊していた。

 

「ペトロフ隊へ、増援が到着した。後は我々に任されたし」

 

『フレツロフ少佐か!助かる!全機後退!』

 

戦車隊と何機かの戦術機が後退し、フレツロフ少佐の中隊と戦闘を代わった。

 

すぐに少佐は部隊へ命令を出す。

 

「バズーカ持ちは目標へ直接攻撃、そうでない者は撹乱して援護!」

 

『了解、手隙は俺が指揮を取る。俺に続け!』

 

オルゼルスキー大尉が先行し、その後に何機かのMiG-27が続く。

 

フレツロフ少佐と何機かのMiG-27は後方で152mm無反動砲を構え、攻撃の時を待った。

 

「目標は突撃級の発展型と思わしきBETAが数体!前ハイヴで出会した奴に似てる!」

 

『各機触手の攻撃に気をつけろ、要塞級と違って数本同時に出てくる』

 

2人の部隊長は部下に忠告し、各機は戦闘態勢に入った。

 

BETA側も敵を感知したようで早速攻撃を仕掛けてきた。

 

数本の触手を3体の新型BETAが同時に射出し、MiG-27の編隊に向けて飛び出した。

 

『回避っ!』

 

オルゼルスキー大尉は回避機動に入り、他のMiG-27も攻撃を避けた。

 

同時に120mmグレネードと突撃砲を相手に喰らわせ、注意を引く。

 

通常120mmのグレネード弾であれば突撃級にも傷はつくのだが、この新型はどうも無傷に見えた。

 

『同志大尉!グレネードでも全く歯が立ちません!』

 

彼の僚機のトレチャコフ中尉が叫んだ。

 

『やかましい、陽動出来ればそれで良いんだ。相手を引きつけろ』

 

部下を叱責し接近する触手を長刀で切り落とす。

 

新型BETAの触手は叩き切っても体内に戻すと中で再生するようで、体内に戻し、数十秒後に再び復活した。

 

ヴロツワフ・ハイヴで目撃したBETAは1体だけだったが、今回は3体ほど存在していた。

 

幸いなことに戦車級や要撃級は事前に戦っていた戦術機部隊とソ連軍部隊が辛うじて撃退している為そこまでいなかった。

 

「よぉし、各機撃て!」

 

6機のMiG-27が一斉に152mm弾を発射し、弾丸は新型BETAに直撃した。

 

が爆煙の中から出てきたのはほぼ無傷の状態の新型BETAであった。

 

攻撃部隊は散開しBETAの触手を避けた。

 

『どういうことだ!152mmも効いてないなんて!』

 

「いやダメージは通ってる!だが……!」

 

フレツロフ少佐は下を眺めながらそう呟いた。

 

明らかにBETAの装甲に欠けた部分があるのだ。

 

恐らくだがあの新型BETAは全身を覆う装甲が数枚に分かれており、対処不能な攻撃を受けると分離して被害を抑える仕組みなのだろう。

 

戦車らしくなって、しかも戦車と違って上部まで装甲があるからタチが悪い。

 

「もう一度先ほど打ち破った地点を集中攻撃、ダメなら砲兵隊と連携して撃滅するぞ!」

 

『了解!』

 

オルゼルスキー大尉らが惹きつける間に可能な限り同じ地点に152mm弾を撃ち込んだ。

 

3体とも後部に数発、前方にも同数撃ち込んだが撃破には至っていない。

 

当然BETAの攻撃もは激しさを増し、フレツロフ少佐はともかく部下はこれ以上突っ込ませると確実に何機かやられるという確証があった。

 

「1012001から司令部へ、目標は複数の装甲を有し単独では対処困難な模様。砲兵隊の火力支援を要請する」

 

この時フレツロフ少佐は砲兵隊の支援が届くと確信していた。

 

『すまない少佐、砲兵隊は現在中央戦線の援護に忙しい為そちらに兵力は回せない』

 

メニンシュク中佐は申し訳なさそうにそう返した。

 

フレツロフ少佐は困ったような表情のまま次の手を考えた。

 

こういう時代わりに考えてくれる奴がいたらと思っていたがそんなの幻想に過ぎない。

 

「シュペーギン大尉、お前確かKh-25を持っていたよな」

 

『はい!私の機体にはまだ2発残ってます!僚機は1発づつですが!』

 

「そんだけ持ってりゃ十分だ、マリロフとミルシェフも同じくらい持ってたよな?」

 

『はい、合わせて4発あります』

 

イチかバチの戦いだがやるしかない。

 

少佐は彼らに説明を始めた。

 

「全機よく聞け、対地ミサイルで相手の足を潰して動きを止める。オルゼルスキー、ブリツェンスキー隊は援護、私とシュペーギン隊が攻撃を仕掛ける」

 

敵とは距離を置いて安全地帯でBETAの状況を俯瞰してみた。

 

少なくとも装甲は再生していないようだ。

 

であればその一点を集中攻撃すれば恐らく奴は死ぬ。

 

足を止めて狙いを容易くし、トドメを刺す。

 

「動きが止まったら装甲を薄くした部分に火力を集中、一気に潰すぞ!」

 

『聞いたな同志諸君、ここが我らの腕の見せ所だ!』

 

オルゼルスキー大尉とブリツェンスキー大尉の編隊が先行し、陽動に入った。

 

ロケットポッドの攻撃は装甲を打ち破れないが何本かの触手は千切れた。

 

その後に続いてフレツロフ少佐とシュペーギン大尉の編隊が続く。

 

BETAの触手は大多数が切り落とされるがブリツェンスキー大尉らを狙っていて注意が薄かった。

 

「今だ!」

 

ミサイルが一斉に放たれ、脚部の防御が遅れたBETAの足に刺さって爆発した。

 

これで左右に位置する2体の新型BETAの足を止められた。

 

残りは1体、味方部隊にミサイルの残弾はないしバズーカを使って下手に弾数を損なう訳にもいかない。

 

であれば一か八かをもう一度やろう。

 

フレツロフ少佐はバズーカを側に捨て近接用長刀に持ち換えるとそのまま最大速度を出して新型BETAに接近した。

 

何本かの触手がフレツロフ機を狙っていたがマリロフ上級中尉とミルシェフ中尉が援護し触手を撃破した。

 

「マルクスとレーニンの加護を!」

 

フレツロフ少佐はそう叫んで刃を振い、真ん中で無傷でいた中央の新型BETAの片足を全て捥いでやった。

 

こうして全てのBETAは足を失い、動けなくなった。

 

「各機!今がチャンスだ!奴を撃て!」

 

フレツロフ少佐は即座に3丁の突撃砲を構えてグレネード弾を放った。

 

上空からは152mm持ちが、地上のKh-25を発射した機体もバズーカとグレネード弾を撃った。

 

狙いは一点、BETAの剥がれた薄い装甲の部分であり、殆どの弾が命中し大打撃を耐えられた。

 

装甲が剥がれ、抉れた肉体に突撃砲の弾丸を叩き込む。

 

こうして2体の新型BETAが撃破され、残り1体を再び接近したフレツロフ少佐が斬り刻んだ。

 

最後、トドメと言わんばかりに長刀を突き立てて新型BETAの息の根を止めた。

 

BETAから溢れ出る返り血は機体に書かれた文言通り、血による制裁となった。

 

「各機っ!状況報告!」

 

中隊のMiG-27が武器を構えて新型BETAの亡骸を取り囲むように集まった。

 

『各機問題ありません』

 

『私の隊も同様です』

 

『04、11、12、損傷なし』

 

ベストは尽くせたか、フレツロフ少佐はひとまず安堵した。

 

すぐに燃料計と弾薬の残弾数を確認して状況を判断する。

 

弾薬はともかく燃料の方はかなり危うい、無理な機動をし過ぎた。

 

一戦くらいは出来るだろうが少し厳しいだろう。

 

増援も来るとメニンシュク中佐は言っていたし、ここらで退いても問題ないだろうとフレツロフ少佐は判断した。

 

「全機、後退して燃料補給をっ」

 

『少佐!前方よりBETAの梯団が接近中!数は大隊以上!』

 

マリロフ上級中尉はレーダーを見て叫んだ。

 

ほぼ同時に機体に警報がなり、数キロ先にBETAの大群がいた。

 

フレツロフ少佐は大きな舌打ちをし、武器を構えた。

 

「全機、もう一戦耐えろ。増援が来るまでここを抑えるぞ!」

 

『了解…!』

 

12機のMiG-27が武器を構えて散開し、敵を待ち構えた。

 

すぐにBETAは姿を現し、フレツロフ少佐はトリガーに指を構えた。

 

一戦ならなんとかなる、これを耐え抜けばと自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。

 

武装の射程圏内にBETAが入るその瞬間、彼が攻撃を加えるより先に榴弾タイプの152mm弾が飛来した。

 

弾頭は接近する戦車級や要撃級を殲滅し、次弾が突撃級に直撃し一撃で弾け飛んだ。

 

『待たせたな!』

 

彼らの上空を飛来したのは12機のMiG-27、そして6機のSu-25であった。

 

Su-25が203mm弾とGSh-30-2が敵を薙ぎ払い、MiG-27が回り込んで敵を撹乱する。

 

増援に到着したのはデルーギン少佐の中隊であった。

 

「ったく遅いんだよ!」

 

『後は我々に任せろ、陸の増援も来た』

 

後方からは部隊を再編したT-72とT-64BV、そしてシルカやBMP-1の地上部隊が逆襲に現れていた。

 

ミサイルや砲火力を叩き込み、地上からBETAの梯団を押し上げる。

 

この頃各軍で反撃が開始し、BETAの撃滅と戦線の押し上げが始まっていた。

 

この辺りで十分か、とフレツロフ少佐は後を味方に任せた。

 

「全機、基地に帰投して機体の整備と補給。後は同志デルーギン少佐の隊に任せろ」

 

そう言ってフレツロフ少佐は機体を翻し、前線を離れた。

 

彼の隣には彼を除いた11機のMiG-27が飛行していた。

 

なんとか全員生き残れた。

 

「はぁ、つら」

 

指揮官の大変さを噛み締めながらフレツロフ少佐は帰路へとついた。

 

 

 

 

チェンストホバの空軍基地に戻り、滑走路に12機のMiG-27が降り立った。

 

そのまま格納庫に戻り、機体の整備と武器弾薬と燃料の補給が開始された。

 

衛士達もコックピットから降りて汗を拭き、水を飲んで休んだ。

 

フレツロフ少佐もコックピットから降りて水を飲み、オルゼルスキー大尉ら3人の編隊長と次の戦闘に備えた打ち合わせを行った。

 

この3人の編隊長はフレツロフ少佐と同じ戦術機で何度も激戦を潜り抜けてきた歴戦の衛士である。

 

皆、着ているジャケットを緩めて休みながら話し合っていた。

 

隊長ではあるが彼らも人間である為疲れている。

 

というより編隊を指揮する以上並の衛士より疲労は溜まるだろう。

 

「次呼ばれることになったら装備はさっきのまま、代わりにシュペーギン大尉の隊はナパーム弾を持っていってくれるか」

 

「面制圧出来る武器必要ですもんね、わかりました」

 

「後は各々確実で選択。出撃命令が出るまでは待機だ。しっかり休んどけ」

 

3人の大尉はフレツロフ少佐に敬礼し、少佐も敬礼を返した。

 

彼らは解散しフレツロフ少佐は愛機の側へ向かった。

 

彼のMiG-27には何十人もの整備士がいて、機体のパーツを取り替えたりチェックを行っていた。

 

「ああ少佐、また派手にやってくれましたね。あっちこっち悲鳴をあげてますよ」

 

職務中の整備士が近づけてきたフレツロフ少佐に受かってそうぼやいた。

 

「こうでもしないと生き残れない戦場に放り込む上に言ってくれ」

 

「誰に言ってくれだって?」

 

背後から声が聞こえ、整備士とフレツロフ少佐は敬礼をする。

 

メニンシュク中佐だ。

 

「そりゃあ何処かの誰かさん達にですよ、生憎ですが我が隊は全機整備中です」

 

フレツロフ少佐は軽口を叩いた。

 

こういう発言が許されるのも馴染みの先輩という理由が大きかった。

 

「知ってる、君に伝えにきたのは出撃命令じゃない」

 

「じゃあなんです?」

 

フレツロフ少佐は尋ねた。

 

メニンシュク中佐は言葉を選びながらほぼ直球で伝えた。

 

「移動だフレツロフ少佐。君の隊は1月のブカレスト・ハイヴ攻略戦で第2ウクライナ前線の援護を行うことになった」

 

「はっ?」

 

彼の苦難はこれからも続く。

 

ヴィクトル・フセヴォロドヴィチ・フレツロフ、人類で最も多くハイヴに突入し最奥まで到達した衛士の苦難はまだ始まりでしかなかった。

 

 

つづくかも

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