マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
今回は1話割きまして本作で主役を貼るソ連軍の階級について解説しようかと思います。
「兵科元帥ってなんだよ」とか「なんで兵科総元帥がソ連邦元帥の1個下なんだよ」と思うあなた、私もかつて同じことを思いました。
ですのでなるべく穏やかに解説しようと思いますので少しお付き合いください。
階級について
ソ連軍の基本的な階級は以下の通りです。
基本的に陸空及び防空、戦略ロケット軍、国内軍、KGB、国境軍、民警などは大体このような名称であり、海軍のみ差異があります。
ちなみに一番上に記載されているソ連邦大元帥ですがこれの所有者はソ連にてヨシフ・スターリンの1人のみでした。*1
歴代の党第一書記に度々ソ連邦大元帥の称号授与が進言されますが、称号された試しはなく事実上憲法にしか存在しない階級です。
恐らく本作でも出てくる事はないでしょう。
よって解説はソ連邦元帥からとします。
ソ連邦元帥(Маршал Советского Союза,Адмирал Флота Советского Союза )について
ソ連邦元帥及びソ連邦海軍元帥はソ連軍における最上級の階級です。
弊作では主人公ドミトリー・ヤゾフや国防相ドミトリー・ウスチノフ、参謀総長ニコライ・オガルコフら、海軍総司令官セルゲイ・ゴルシコフらがこれらの階級を有していますね。
基本的にソ連邦元帥と呼ばれるものが西側における元帥と同等の扱いを受けます。
こうしたソ連邦元帥は主に国防大臣やソ連軍参謀総長、陸海及び戦略ロケット軍総司令官、ワルシャワ条約機構軍総司令官などに就任し、ある程度の年齢まで到達すると国防省総監部に移動し事実上の退役を迎えます。
本作では大変な有事の状況ですのでソ連邦元帥が前線(ソ連における軍集団)司令官に就任する独ソ戦と同じ状況が発生しています。
なお本作ではエフゲニー・イヴァノフスキーなど本来ならソ連邦元帥にはならなかったはずの人物も戦果故ソ連邦元帥まで昇進しています。
上級大将、兵科総元帥、兵科元帥(Генерал-армий,Адмирал Флота,Главный маршал рода войск,Маршал рода войск)について
上級大将、兵科総元帥、兵科元帥はソ連軍における二番目に上の階級です。
弊作では上級大将には第1親衛軍司令官イヴァン・ゲラシモフ、ソ連軍参謀本部情報総局長ピョートル・イヴァシュチン、参謀本部作戦総局長ヴァレンティン・ヴァレンニコフ、宇宙軍総司令官アレクサンドル・カラシィらが同階級を有しています。
一方兵科総元帥は戦略ロケット軍総司令官ウラジーミル・トルブコが砲兵総元帥、兵科元帥にはオレグ・ローシクが装甲戦車兵元帥として同階級を有しています。
なおこの3つの階級、扱いとしては同列でありますが上級大将、兵科元帥に比べて兵科総元帥の方が若干上位という扱いです。
上級大将は大将からの昇進で階級を有すことが出来ますが、兵科元帥、兵科総元帥は各種兵科の中で最も権威ある将校に与えられました。
その為上級大将も兵科元帥も兵科総元帥も西側の階級としては大将、自衛隊では幕僚長たる将と呼ばれるNATO基準でOF-9に相当する階級です。
こうした上級大将、兵科総元帥、兵科元帥らは主に陸海空及び戦略ロケット軍の総司令官、参謀本部隷下の総局長、各軍管区司令官、稀に軍司令官などの職務についています。
また兵科元帥、兵科総元帥はそれぞれ専門の兵科アカデミーで校長を務めたり各兵科の総監に就任するなど、より兵科の専門性が高い部署の長を務めている場合が多いです。
特に航空元帥、航空総元帥はイヴァン・コジェドゥーブ、パーヴェル・クゥタホフ、アレクサンドル・コルドゥノフ、ニコライ・スコモロフなど独ソ戦期のエースパイロットが同階級を有しているケースが多々見受けられます。
こうした上級大将と兵科元帥、兵科総元帥の関係は非常にややこしく、当のソ連も1984年以降兵科元帥、兵科総元帥の称号授与は控える様になっていきます。
やがてソ連崩壊後は兵科元帥の概念が完全になくなり、上級大将のみが存続しました。
その為装甲戦車兵元帥はオレグ・ローシクが最後に授与された1人であり、航空元帥も最後のソ連国防相エフゲニー・シャポシニコフが同時に最後に授与された航空元帥でした。
ですがBETA大戦でそれらのイベントが全て吹っ飛んだ弊作、意外と兵科元帥と兵科総元帥が増えるかも知れませんね。
大将(Генерал-полковник,Адмирал)について
大将はソ連軍の将官における三番目の階級で、実はソ連には西側のOF-9たる”大将”より1つ階級が下の存在です。(NATO等級ではOF-8に相当)
理由としては帝政ロシアの時代からソ連には伝統的に将官に准将が存在せず、代わりに上級大将を置いていた為大将は3つ星の将官となっています。
弊作では第1ウクライナ前線参謀長ミハイル・モイセーエフ、ソ連軍参謀本部動員総局長ヴィクトル・アボリンス、バルト海艦隊司令官ウラジーミル・シドロフがこの階級を有しています。
大将は基本的に参謀本部の総局・部局長、軍管区司令官、軍管区参謀長、軍司令官、艦隊司令官などに就任しています。
弊作においてはBETA大戦の影響で前線制度が復活している為前線参謀長、政治部長に大将がつくことがあります。
中将(Генерал-лейтенант,Вице-адмирал)について
中将はソ連軍の将官における四番目の階級で、星の数が2つなだけで基本的には西側の中将と扱いは同じです。(NATO等級OF-7相当)
弊作では第7攻撃衛星軍団長イーゴリ・セルゲーエフ、バルト海艦隊参謀長アレクセイ・カリーニン、GRU次長兼情報部長ゲオルギー・ミハイロフらが中将の階級を有しています。
こうした中将は基本的に軍管区参謀長、軍管区評議会議長(弊作では政治部長と表記)、軍司令官、稀に軍参謀長、軍団長、稀に艦隊司令官(大抵の場合職務遂行中に大将へ昇進する)、艦隊参謀長、参謀本部総局・部局の次長兼各部長などの職にあります。
ちなみにソ連軍では軍司令官が中将の階級のままであることも多々あります。
少将(Генерал-майор,Контр-адмирал)について
少将はソ連軍の将官における五番目の階級で、星は1つ、将官階級の始まりです。(NATO等級OF-6相当)
弊作では第295自動車化狙撃兵師団長ウラジーミル・ファルフィロフ、”ノヴォロシースク”海軍航空師団長ヴァレリー・サブリン、テストパイロットのウラジーミル・イリューシンらがこの階級を有しています。
こうした少将は基本的に稀に軍管区参謀長、軍管区評議会議長、軍参謀長、師団長らの職についています。
軍管区参謀長や軍司令官など大将、中将の職に少将がいることも多々ありますが大抵職務中に昇進して1つ上の階級に上がることが多いです。
またソ連国歌、”聖なる戦い”などの生みの親、アレクサンドル・アレクサンドロフやその息子ボリス・アレクサンドロフ、弊作にも登場したニコライ・ミハイロフら軍楽隊の名だたる指導者達も少将の階級を有していることが多いです。
大佐(Полковник,Капитан 1-го ранга)について
大佐はソ連軍の佐官における一番上の階級で、肩章には2本線と上1つ、下2つというピラミッド型の星の並びで表されます。(NATO等級OF-5)
弊作では昇進する前のヴィクトル・バリーニィキンやレオニード・ゾロトフ、戦闘航空連隊長アレクセイ・ヴァルクーニンらが大佐の階級であります。
こうした大佐は基本旅団長、師団参謀長、稀に地上軍の連隊長や大型艦の艦長、各種参謀の職についています。
少将同様に大佐が稀に師団長を務めていることもありますが基本すぐ少将に昇進します。
基本的この辺は西側の大佐とそれほど変わりありません。
ちなみにПолковник ですがロシア語では連隊のことをПолкと言いまして、そこからの発展です。
16世紀ごろは連隊長が主に大佐でした(今日の日本でもそう)のでこういう流れとなっています。
中佐(Подполковник,Капитан 2-го ранга)について
中佐はソ連軍の佐官における二番目の階級で、肩章に2本線と同列の2つ星によって表されます。(NATO等級OF-4)
弊作ではレオニード・マリィツェフ、アレクサンドル・アニシモフらが中佐の階級にあります。
大佐と同じく中佐も西側の中佐とあまり変化はありません。
基本的に連隊長や中、大型艦の艦長、各種参謀など様々な職についています。
ちなみに中佐を表すПодполковник ですがこのПодは接頭辞ですと「〇〇の下に」という意味も含まれますので端的にいうと直訳で大佐の下、ということになります。
以外と割って考えると分かりやすいですね。
少佐(Майор,Капитан 3-го ранга)について
少佐はソ連軍の佐官における三番目の階級で、肩章に2本線と1つ星で表されます。(NATO等級OF-3相当)
弊作では昇進したヴィクトル・フレツロフ、アレクサンドル・ローシク、そして唯一の原作キャラブラート・リトヴィネンコがこの階級にあります。
参謀や副連隊長、大隊長に中、小型艦の艦長、参謀など佐官の中だと一番使いやすい階級だと思っています。
ちなみに海軍の佐官階級はКапитан(英語だとキャプテン)の後ろに等級がつく形式です。
直訳だと一等艦長、二等艦長、三等艦長となりまして、実は海上自衛隊の階級の振り方に近い形なんですね。
大尉(Капитан,Капитан-лейтенант)について
大尉はソ連軍の尉官における一番上の階級であり、肩章に1本線と4つの佐官より小さい星で表されます。(NATO等級OF-2相当)
実はソ連、引いてはロシアは伝統的に尉官が4階級あり大尉が一番上となります。
なお弊作では昇進する前のヴィクトル・フレツロフ、アレクサンドル・ローシク、酒飲みオルゼルスキーらがこの階級にあります。
職としては中隊長、副大隊長、戦術機の衛士、基地の管制官など多岐に渡ります。
上級中尉(Старший лейтенант)について
上級中尉はソ連軍の尉官における二番目の階級であり、肩章に1本線と3つ星で表されます。(NATO等級OF-2?OF-1?相当)
ロシア語ではでは”Лейтенант ”と呼ばれるものが3つあり、上級中尉は形容詞として”Старший ”がついているため翻訳するとこうなります。
弊作ではフレツロフの僚機であるマリロフがこの階級を有していますね。
基本的に上級中尉は副中隊長や小隊長、衛士や通信士官など様々な職務についています。
中尉(Лейтенант)について
中尉はソ連軍の尉官における三番目の階級であり、肩章に1本線と1つ星で表されます。(NATO等級OF-1相当)
この中尉は軍事高等学校を卒業したキャリア将校のスタートであり、ここから上級中尉、大尉へと駆け上がっていきます。
弊作ではフレツロフの僚機、ヴィタリー・ミルシェフや1話前の国境軍所属のアナトリー・アサエフがこの階級にあります。
基本的には小隊長を務め、各種兵科の専門畑の部隊を指揮します。
少尉(Младший лейтенант)について
少尉はソ連軍の尉官における四番目の階級であり、肩章に1本線と1つ星で表されます。(NATO等級OF-1?OF-D?)
これがまたややこしい存在です。
60年代のソ連軍は下級将校不足を解消する為に軍事学校(高等軍事学校とはまた別)に10ヶ月間の少尉育成コースを制定しました。
対象者は兵役期間を満了した者、或いは勤務の延長を望む兵士であり、10ヶ月間コースに参加すると少尉に、更に3ヶ月の追加コースに参加すると中尉に昇進することが出来ました。
弊作ではあまり見ない存在ですが、各所の師団や軍を支えている名もなき少尉達が大勢いることでしょう。
上級准尉及び准尉(Старший прапорщик,Старший мичман и Прапорщик,Мичман )について
上級准尉、准尉は西側的な独立した准士官ではなく、長年勤務した下士官に与えられる階級です。
肩章には線はなく、上級准尉であれば3つ星が、准尉であれば2つ星が縦列に配置されています。
こうした准尉制度は1972年から導入され、上級准尉の方は1980年12月に導入されました。
一般的に西側で想定されるような叩き上げで部隊のことをよく分かってる下士官というのは上級准尉、准尉からになります。
おっかない存在でそれ故嫌われているのかアネクドートなどに登場する事もしばしば。
曹長、兵曹長(Старшина,Главный корабельный старшина)について
陸空及び防空軍などでは曹長、海軍では兵曹長は下士官の階級の1つで、上級軍曹より上の階級にあります。
上級准尉、准尉が誕生するまでは曹長と兵曹長がソ連軍における下士官の到達点でした。
例えば1946年発行のソ連軍内務操典には中隊に属する中隊曹長は下士官兵の上官であり、下士官兵の正しい職務遂行と部隊内の秩序維持を行うよう明記されていました。
上級軍曹、上級兵曹(Старший сержант,Главный старшина)について
陸空及び防空軍、戦略ロケット軍では上級軍曹、海軍では上級兵曹と呼ばれる下士官の階級の1つで、軍曹より上位の階級にあります。
基本的に軍曹に就任して半年以上経過した者にこの階級が与えられます。
なおソ連軍における下士官は西側における下士官と全く違うので注意が必要です。
こうした下士官は基本徴兵した兵から募られており、西側的な専門の下士官とはまた違った出自を持っています。
弊作では空軍の飛行場で戦術機の発進誘導を行う上級軍曹などがいましたね。
軍曹、兵曹(Сержант,Старшина первой статьи)について
陸空及び防空軍、戦略ロケット軍では軍曹、海軍では兵曹と呼ばれる下士官階級の1つで、伍長の上に位置します。
前述した通り、ソ連の下士官は徴兵した兵から下士官を募るので軍曹といっても西側の軍曹ほどプロフェッショナルとは限りません。
しかし基本的に軍曹と呼ばれる軍人は下士官課程を優秀な成績で卒業した者に与えられます。
伍長(Младший сержант,Старшина второй статьи)について
伍長は軍曹の下に位置する階級で、兵長の上にあります。
軍曹が下士官課程の成績優秀者ならばこちらは普通に教育を満了した者になります。
基本的にへ弊作にあまり出てこない存在かも知れません。
兵長、上級水兵(Ефрейтор,Старший матрос)について
兵長、もしくは上級水兵は兵の階級では最も上位であり、兵卒、水兵の上に位置します。
基本的には徴兵中の優秀な兵卒か2年間の兵役を全うした兵卒がこの階級に昇進します。
基本的な兵の到達点ですね。
兵卒、水兵(Рядовой,Матрос)について
陸空及び防空軍、戦略ロケット軍では兵卒、海軍では水兵と呼ばれる軍内で最も下の階級になります。
基本的に徴兵された全ての兵士はここからスタートし、2年間の兵役を務めます。
軍の大半を占める存在であり、その多くはソ連全土の国民です。
以上がソ連軍の簡単な階級の説明になります。
また、ソ連軍はこうした階級の前後に各所の兵科や親衛の称号を付けるケースもあります。
例えば1984年までは階級に兵科名をつけるものがありました、戦車兵であれば戦車兵中将(Генерал-лейтенант Танковых войск)、技術関係であれば工兵兵大将(Генерал-полковник инженерных войск)など。
こうした兵科の階級名は1984年に削除され、それ以降は単なる少将、中将、大将で収まりました。
またソ連には”親衛の称号(Советская гвардия)”と呼ばれる戦果を挙げた部隊に与えられる称号があり、時に階級に親衛がつく事もあります。
その場合は親衛中尉(Гвардии лейтенант)、親衛大佐(Гвардии полковник)という風に名称がつきますが基本的にはその階級と同じです。
こうした階級の紹介が弊作の理解度向上に繋がれば幸いです。
それではまた〜。
参考資料
サークルДарога(ダローガ)訳.『УСТАВ Внутренней службы вооружённых сил Союза ССР ソ連邦軍内務操典 1946年版 翻訳本』
Четвертый батальон БВОКУ(2013).「Курсы по подготовке младших офицеров」.Четвертый батальон БВОКУ, https://kombat-bvoku.com/index/napishem_istoriju_bvoku_vmeste/0-263 .(参照 2025-12-15).