マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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野原よ、草原よ
野原よ、広大なる草原よ
草原を英雄が駆けて行く
そう、赤軍の英雄たちが
-”ポーリュシカ・ポーレ”より抜粋-


平原を超えて-ジトーミル防衛戦②

-ウクライナSSR キエフ州 首都キエフ-

キエフには周辺で掃討活動していた国内軍師団がかき集められた。

 

ソ連国内軍の護送師団は殆どが前線任務に適応する為に機械化部隊に改装され、名称を自動車化狙撃兵と変更した。

 

第79MVD自動車化狙撃兵師団、本来はキーロフにいた第79護送師団を無理やり改造した師団である。

 

BTRだけでなくT-62、T-55が配備され、人員も元々いた国内軍の兵士だけでなく国境軍や民警出身者も含まれていた。

 

師団が自動車化狙撃兵に改変されたのは3年前であり、師団は2年近く対BETAの治安戦を訓練していた。

 

キエフ市内を79自動車化狙撃兵師団のBTR-60が走っている。

 

兵士達はタバコを吸いながら市街地を眺め雑談を交わしていた。

 

「アリョーシャ、俺たちゃ一体どこに連れてかれるんだろうなぁ」

 

RPG-7を担ぎながらタバコを吸う上等兵のマクシム・パヴローヴィチはふとぼやいた。

 

アリョーシャこと上等兵のアレクセイ・マカローヴィチはぶっきらぼうに「さあな」と呟いた。

 

彼らは既に10回の対BETA掃討戦に参加して生き残っている。

 

掃討戦といえば聞こえはいいが戦いは想像以上に地獄だ。

 

基本的にこうした掃討戦は自動車化狙撃兵1個小隊で行われる。

 

無論出てくる敵は基本的に闘士級や戦車級で囲んで殲滅すれば排除は容易だ。

 

それでも分隊は10回の出撃で元いたメンツは4人だけになった。

 

うち2人は運悪く闘士級に襲われて戦死、残り1人は死に損ないの要撃級と運悪く出会って別の分隊と共に戦死した。

 

偶々近くにいたT-55の戦車隊がいなければ自分達の分隊もやられていた。

 

「さあな、キーロフに帰してくれるなら願ったりだが」

 

「そう上手く行くとは思えんな」

 

外を見てみると他にも同じ国内軍の部隊やソ連軍の部隊が忙しなくどこかへ移動していた。

 

一部では防衛用の歩兵陣地も構築され、各所で将校達が何かを話し合っていた。

 

道路整備の国内軍兵が彼らを乗せたBTR-60を一旦止め、先にソ連軍のBTR-70とBMP-2を進ませた。

 

アレクセイ・マカローヴィチはふと交通整理を行う兵士を見た。

 

その兵士は国内軍の制帽ではなく民警の制帽を被っていた。

 

こうした交通整理は余裕が出てくるとソ連軍は国内軍に業務を任せることが多く、この業務は元々民警だった兵士達が担うことが多かった。

 

元々一部の民警はBTRなどで武装した部隊もいたし、数年あれば警察から兵士になるのは簡単だった。

 

「俺、昔は民警だったんだ」

 

初めての告白であった。

 

「へえ、どこにいたんだ?」

 

マクシム・パヴローヴィチはふと尋ねた。

 

彼は吸い終えたタバコを地面に投げ捨て、まだタバコを欲しがる自分の口を抑えた。

 

「同じキーロフだよ。給料はあれだったが……でも今では戻りたいよ」

 

「戻れるといいな、まずは生き延びねぇと」

 

そう言ってマクシム・パヴローヴィチはタバコを1本上げた。

 

なんだかんだ分隊ではアレクセイ・マカローヴィチと一番気が合う。

 

好きなカーシャの作り方も酒の飲み方も2人は似ていた。

 

アレクセイ・マカローヴィチは小さく頷くとタバコを受け取って火をつけた。

 

キエフの空はまだ白く冷たかった。

 

彼らの小隊はキエフの元自動車学校の敷地に集められた。

 

集結したのは彼らの小隊だけでなく直属の中隊、さらにはその上の大隊であった。

 

BTRは停車し分隊はBTRから降りると小隊長の中尉から「全員直ちにグラウンドへ整列!」と命令を受けた。

 

小隊長の中尉はまだ23歳の若者であったが体力があり、度胸のある怖いもの知らずだった。

 

常に小隊の前に立ち、人の頭や足を持つ闘士級にも臆さず攻撃を繰り出す。

 

小隊員が「この人はまともじゃない」と思った瞬間は眼前の戦車級に牽制でAK-47を撃ちながら片手でRPG-7を放ったことだ。

 

後退する時に負傷した兵士を左腕で担ぎながらAKを撃ち続けたこともあった。

 

1回試しに聞いてみると中尉はBETAとの戦いが始まるまでモスクワっ子の大学生だったらしい。

 

昔から家の手伝いをしていたがここまで重い物を持って動くのは軍隊生活が初めてだそうだ。

 

戦争とは人の能力を覚醒させるのかもと小隊内では言われていた。

 

小隊を含めた各中隊は整列し、簡易壇上に立つ大隊長の少佐を敬礼で迎えた。

 

少佐は元々国内軍出身の将校で防寒対策として将校用のコートを着て、ウシャンカを被っていた。

 

壇上の近くには各中隊長達だけでなく政治将校も立っていた。

 

あの政治将校と一緒に戦ったことはないが、何でもアレクセイやマクシムの小隊長に負けず劣らずの人間らしい。

 

「同志諸君、大隊に新たな命令が降った。現在西側よりBETAの大規模部隊が進軍中だ。ソビエト地上軍の同志がこれを防いでいるが我々ももしもに備えなければならない。我が大隊はキエフ前面にて陣地帯を展開し、もしBETAが襲来すればこれを迎撃せよとの命令を受けた!」

 

少佐は全員を見渡しながら状況と命令を将兵に伝える。

 

将兵からは若干動揺の声が漏れたがすぐに黙って少佐の命令を聞いた。

 

「我が大隊は補給を受けた後、直ちにボヤルカまで移動する。移動後はボヤルカの市街地より3キロ西に移動し、そこで対BETA防御陣地を構築し、有事の際に備えて大隊は待機する」

 

将兵の後ろを補給物資を乗せたウラル-375Dがやってきた。

 

「我々は同志の健闘を祈りつつ、我々も戦いに備えるのだ。これで命令は以上だ、直ちに補給を済ませボヤルカへ急行せよ!」

 

そう言い残して少佐は壇上から降りた。

 

各中隊の大尉がそれぞれ命令を出した。

 

各員トラックから物資を出し、BTRに燃料を入れ、弾薬を配布する。

 

兵士達は戦いの為前進する。

 

例えそこに地獄があると知っていても退く訳にはいかなかった。

 

 

 

 

 

-ソ連領 ウクライナSSR ポルタヴァ州 ポルタヴァ市 第1ウクライナ前線司令部-

戦場は核と放射能で包まれた。

 

第24軍及び第1親衛軍は通常兵器と陣地での遅滞戦闘を行いつつ、戦術核を積極的に使用して攻勢部隊を破壊した。

 

おかげで一時はポロンナエの手前まで押し返した。

 

されどBETAはすぐに物量でポロンナエを取り返し、ジトーミルに向けて前進する。

 

第24軍と第1親衛軍はひたすら耐えた。

 

可能な限りBETAに出血を強要し、死守と後退を柔軟に判断し、戦術核を使用して時間を稼いだ。

 

厳しい戦いだったがそれが使命だ。

 

司令部では慌ただしく状況報告と要請の電話が飛び交い、参謀達も通信士官も休む暇がなかった。

 

「BETA、ノヴォグラード=ヴォリィンスキーの市街地に取り付きました。現在市街地戦で辛うじて抑えていますが軍司令部からは持って3日だと」

 

「シェペトフカ方面では再びジトーミルの州境まで押し込まれました。一部のBETAはリュバルの方へ回り込み始めています」

 

参謀達の報告は昨日から芳しくないものばかりだ。

 

既にBETAとの戦闘が始まってから2日が過ぎた。

 

2日過ぎて4個軍の同時攻勢をここまで抑え込めているのは奇跡だが、問題はこの攻勢を跳ね除けなければならない。

 

とても楽観視出来る状態ではなかった。

 

「第17航空軍はどうだ」

 

「バリィキン将軍がボリスポリィの前線航空基地で指揮を取っています。想定よりよく働いてくれていますよ」

 

第17航空軍は可能な限り前線部隊を支援し、BETAの攻勢部隊を破砕して行った。

 

バリィキン大将は周辺の元民間空港、空軍基地、そして着陸に適しているであろう平地を可能な限り利用し、整備と補給を速やかに行えるよう手配した。

 

これにより第17航空軍は想定よりも長く持続して戦えるようになった。

 

無論ここには白ロシア前線から転戦した戦術機部隊も含まれている。

 

武器弾薬にエンジンの整備、整備士達には休む時間などなかった。

 

「ポーランド第1軍はどうだ」

 

「第6空挺師団は何とか着きましたが残りはどう頑張っても全部着くには8日掛かります」

 

「6空挺は補給と休息を終えたら第4軍と共に側面から攻撃を開始しろ。だがタイミングは白ロシアの部隊と合わせるんだ」

 

「了解」

 

ポーランド軍第6空挺師団の図を地図上に配置し、残りの師団の到着を待った。

 

これでもポーランド軍の移動はまだ速い方だ。

 

想定よりも事故は2割低かったし、鉄道も予想以上に機能している。

 

全てが上手くいっている、上手くいっているのだがそれでも8日も掛かってしまう。

 

8日もあれば最悪BETAはキエフに辿り着く。

 

「やはりここは以前協議したように3個師団の抽出戦闘団で反撃に応じるべきでは」

 

モイセーエフ中将は耳打ちしながらヤゾフにそう進言した。

 

時間というものは戦場において何より重要だ。

 

兵力がない状態で突撃を敢行するのも無理な話だが、かといって全員の集結をちんたら待っている暇はない。

 

それでも今は兵力が足りない状態だった。

 

「せめて後1個師団でもいればいいんだがな…」

 

流石に空挺1個師団と3個師団抽出戦闘団と1個軍で左翼を担当するのは厳しい。

 

それこそ後1個師団が最低ラインだ、これで取り敢えずは1個軽軍にはなる。

 

ヤゾフは第3親衛戦車軍や第60軍の一部戦力を転用してせめてもの穴埋めをする計画を考えた。

 

他の参謀達に意見を聞こうとした瞬間受話器を持ったローシク大尉が駆け寄ってきた。

 

「閣下、同志グレチコ元帥からです」

 

「グレチコ元帥から?」

 

ヤゾフは若干ギョッとした。

 

既にグレチコ元帥らには報告しており特段何か言われることはないと思っていた。

 

あるとすればお叱りだけだ。

 

ヤゾフは速やかに受話器を受け取り応えた。

 

「ドミトリー・ヤゾフです……」

 

『グレチコだ、簡潔に説明するから準備を頼む』

 

その一言と共にヤゾフは近くの参謀達を集めた。

 

みんな受話器に耳を立てながら静かにグレチコ元帥の話を聞いた。

 

『直轄の第98親衛空挺師団をそちらに派遣するよう命令を出した。ウジンの航空基地に降りる予定だから道を開けるように命令を出せ、いいな?』

 

ヤゾフよりも20歳年上の元帥は簡潔かつハキハキとした声音で命令を出した。

 

しかもヤゾフが今心の底から欲しかったものを提供してだ。

 

第98親衛空挺”スヴィルスク”赤旗・スヴォーロフ・アレクサンドル・ネフスキー勲章師団、精鋭ソ連空挺軍の師団である。

 

4個親衛空挺連隊で構成され、隷下には独自の工兵、医療、通信大隊などを備えている。

 

2S9ノーナS 120mm自走砲や最新鋭のBMD-2で武装しており、歩兵の練度もその辺の自動車化狙撃兵とは比べ物にならない。

 

また独自に護衛の戦術機部隊も有しており、戦闘力は十分あった。

 

「閣下…!」

 

『BETAを包囲殲滅しろ、いいな?勝利の報告を待ってるぞ』

 

「了解…!」

 

そう言って通信は切れた。

 

だが欲しいものは全て手に入った。

 

そこからのヤゾフと参謀達の動きは早かった。

 

「直ちにウジン航空基地に空挺師団の受け入れを命じろ!師団には第4軍と合流して攻撃準備を、精鋭のVDVだ、無駄にするなよ!」

 

「了解!」

 

参謀達は各所への連絡の為に走った。

 

予想外の空挺師団はIl-76やAn-124”ルスラーン”で急いで運搬されている。

 

これでベーラヤ・ツェルコフィの第6空挺師団、後数日のうちに訪れるポーランド軍抽出戦闘団を合わせて1個軽軍が作れる。

 

左翼戦線を支える最低限の戦力が整うのだ。

 

「第1機械化師団の師団長、既にベーラヤ・ツェルコフィに入ってるな?」

 

ヤゾフはモイセーエフ中将に尋ねた。

 

中将は頷き「現場で再編指揮を取っています」と報告した。

 

そこへ指揮系統をはっきりさせる為に前線司令官としてヤゾフが命令を出す。

 

「臨時戦闘団編成の際は同師団長を戦闘団長に任命しろ。その代わり第1機械化師団の指揮は副司令官が取るようにと伝えろ」

 

「了解」

 

「かき集めた師団は基本的に第4軍の援護に回せ。左翼の主力はあくまで第4軍だとキリリューク大将には伝えろ」

 

「ハッ!」

 

ヴァシリー・キリリューク大将、ヤゾフの後任として入ってきた第4軍司令官である。

 

入ってきて早々左翼攻勢の中核を任せるのは忍びないが今は非常事態だ、多少無理してもらう。

 

「前線部隊には後3日持たせる、後3日あれば全部隊の包囲戦準備が完了する」

 

前線の兵士たちには無理を言っていることは重々承知の上での決断だ。

 

だが今は他に選択肢がない。

 

非常な決断も速やかに下すのが指揮官の使命である。

 

 

 

 

白ロシア前線第3軍が到着する頃にはノヴォグラード=ヴォリィンスキーは陥落していた。

 

BETA相手にかなりの日数持ったがこれ以上の死守は無意味と判断しBETAが集まったところに戦術核を投入して守備隊は後退した。

 

尤もこれでBETAの攻勢部隊はかなり吹き飛んだ。

 

後方の砲兵部隊が後退を援護しながら残りの守備隊は野戦陣地まで後退し、再び戦闘を継続した。

 

その頃には本格的に白ロシア前線の増援が到着した為、前線の負担は少しばかり軽減された。

 

戦術機部隊がまず先行して援護に入り、その後に戦車隊や歩兵戦闘車やBTRに乗った自動車化狙撃兵が合流する。

 

第3軍は右側面を叩きつつ、西上するように部隊を動かして包囲の隊形を作り始めた。

 

されど方位の先鋒は第16打撃軍である、あくまで第3軍はそれの側面援護を務めていた。

 

第3軍は全戦に最も近いコロステンに司令部を構え、軍を指揮統括した。

 

第3軍司令官はウラジーミル・シュラリョフ大将、参謀長はニコライ・ボイコ少将である。

 

以前までは中将であったシュラリョフだが先の奪還作戦で積極的な攻勢とブレストを奪還したことにより大将へ昇進した。

 

彼の略綬にはその時貰った赤旗勲章が輝いている。

 

第3軍は3個自動車化狙撃兵師団に1個戦車師団の構成であり、装甲の突破力はヤゾフの第4軍より大きかった。

 

「16軍はノヴォグラードに辿り着いたか?」

 

シュラリョフ大将はボイコ少将に尋ねた。

 

少将は「郊外にまでは辿り着いたそうですが」と答えた。

 

シュラリョフ大将は顔を顰めながら考えた。

 

今何をすべきか、それが重要だ。

 

「ノヴォグラードが陥落したら直ちに我が軍の戦車師団を突入させろ。ノヴォグラードから回り込ませて包囲を開始する」

 

「既に戦車師団はセールバ・スロボートカ近くに待機させてあります」

 

「よろしい、戦術機から核を当弾して敵を麻痺させつつ戦車隊で突破。これならBETAの4個軍といえど抜けるはずだ」

 

シュラリョフ大将は元は戦車将校である。

 

第3軍に来る前はそれこそ再建された第4親衛戦車軍の司令官を務めていた。

 

あの頃は遅滞戦闘ばかりであったが今は違う。

 

守っていてもやっていることは攻めだ。

 

幸いにも前線司令官のアフロメーエフ上級大将は戦術核を大量に持たせてくれた。

 

これで火力の心配はない。

 

「左翼の包囲部隊、戦力はこちらよりないのだろう?であれば少しでも向こうの負担を軽減してやらねば作戦全体の成否に関わる」

 

2個軍ある右翼に対し、左翼側は第4軍とかき集めた戦力合わせても1.6個軍がいいところだろう。

 

であればこちらが先に敵を引き付けて左翼側の負担を軽減しなければ最悪包囲の形が崩れる。

 

この点はボイコ少将も同じ意見であった。

 

「ですな、後はウクライナ前線が耐え抜いてくれることですが」

 

前線部隊が支えてくれないとやはり包囲は成功しない。

 

全体的に若干の不安は残るがそれでもさほど大きなものではなかった。

 

「第1親衛軍はゲラシモフ上級大将だ、なんとかするだろう。連中はこのジトーミルからシェペトフカで終いよ」

 

シュラリョフ大将の発言は決して偽りではなかった。

 

この1時間後、第16打撃軍はノヴォグラード=ヴォリィンスキーに突入した。

 

この都市には撤退時に放った戦術核の放射能が残っている為将兵は防護服を着て攻勢に出た。

 

BETAの主力は第1親衛軍と第3軍によって阻まれ、第16打撃軍は夜間も強襲を続け、1日経つ頃にはノヴォグラード=ヴォリィンスキーは奪還された。

 

もっとBETAが市街地に籠っていれば話は違ったのだろうが結局のところキエフとジトーミルを目指し続けた為、ノヴォグラード=ヴォリィンスキーはお留守であった。

 

この都市の奪還と共にシュラリョフ大将は戦車師団の投入を命じた。

 

まず各所に対光線級のダミー弾を放って光線級のレーザーを無理やり絞り出す。

 

光線級がレーザーをチャージしている間に戦術機部隊が数箇所に戦術核を放ち、光線級とBETAの一部部隊を核の炎で焼き尽くした。

 

焼き尽くされ、ズタボロになった戦列に戦車師団が突っ込んでくる。

 

1個戦車師団の突撃に合わせて第16打撃軍も部隊を展開し、戦術機部隊が遊撃戦力として突破を援護した。

 

1日過ぎる頃にはノヴォグラード=ヴォリィンスキーの半径10キロは完全に安全な地域となっていた。

 

この攻勢に合わせて第1親衛軍と第24軍も少しずつ戦線を押し上げる。

 

一部部隊は第3親衛戦車軍からも来ており、第1ウクライナ前線は少しづつ反撃に転じた。

 

そしてついに部隊は集結した。

 

ベーラヤ・ツェルコフィ周辺にはポーランド軍第6空挺師団、ポーランド軍第1、第3、第9集成戦闘団、そして第98親衛空挺師団が結集した。

 

戦闘準備を整え、司令官ヤゾフの命令と共に攻勢の為の移動が始まる。

 

第4軍と共についに左翼戦線に投入されるのだ。

 

包囲戦はもうまもなく構築される。

 

 

 

 

 

「ポーランドの同胞同志諸君!」

 

ポーランド人民軍のある政治将校が部隊に通信を繋いで指揮車両型のBTRから最後の言葉を送った。

 

この戦いで今日まで苦楽を共にした将兵が何人か死ぬ。

 

もしかしたらこの政治将校が死ぬかもしれない。

 

それでも戦わねばならない、祖国奪還の為に。

 

「いよいよ世界に、そしてBETAに我らポーランドが何かを示す時が来た!奴等侵略者に血の制裁を与えてやれ!我らのマズルカをこの大地に響かせるのだ!」

 

上空を3機編成のポーランド軍戦術機部隊が政治将校の頭上を飛び抜ける。

 

米ソ、特に入ってきた米空軍の専門教育を受けたポーランドの戦術機部隊は一線級の練度である。

 

既に先行したポーランド地上軍戦車隊と共にBETA群を蹴散らしていた。

 

既にBTRからも戦場が見える地域に辿り着いた。

 

「同胞同志諸君!復讐の時が来た!総員突撃!」

 

政治将校の号令と共にポーランド地上軍の機械化歩兵部隊が戦場に突入した。

 

これが再建ポーランド軍最初の戦闘であった。

 

第4軍及びポーランド軍集成戦闘団、そして第98親衛空挺師団はリュバル方面から攻勢を開始した。

 

側面を抑えつつ第4軍の戦車隊とポーランド軍集成戦闘団の戦車隊が核弾頭を投下した前線を突破する。

 

戦術機は機動援護を行い、移動したロケット砲兵と砲兵が通常火力を叩き込む。

 

元より精鋭の空挺師団はともかく、ポーランド軍は想像以上に奮戦した。

 

士気は高く、混成戦闘団であってもよく統制され指揮が行き届いていた。

 

左右両翼の戦線から攻勢が開始して3日後、ついに両者はマルコフカの畑で合流した。

 

最初は互いに1個戦車小隊の出会いだったが次第に合流する部隊が増え始めた。

 

包囲網が完成したのだ。

 

後はこの包囲網を破られないようにする為に火力を投射してBETAの接近を阻止し、戦力を展開して包囲網を強化した。

 

全方位から少しづつ圧力をかけ、徐々に包囲網を狭めていく。

 

こうなってしまえばもうBETAといえど逃れることは出来ない。

 

迫り来るBETA群は歩兵、IFV、戦車、戦術機の前線部隊に阻まれ、それ以降の敵は砲火力ですり潰される。

 

また定期的に戦術核が投入され、1発のキノコ雲と共に決して少なくはないBETAの群れが焼き尽くされた。

 

そして包囲開始から3日後、ついにポーランド軍第1軍の主力部隊が到着した。

 

ポーランド軍第1軍は第1親衛軍や第24軍の方面から前線を押し上げ、弱り切ったBETA群を叩き潰した。

 

第1ウクライナ前線が正式に包囲殲滅が完了したと発表したのは包囲開始から6日後、戦闘が始まってから13日後のことであった。

 

そこから1日置いてポーランド軍は先行部隊の集成戦闘団と合流した。

 

ポロンナエの地帯に前線を構え、部隊を再編する。

 

戦闘開始から16日後、ポーランド第1軍はシェペトフカ奪還の為前進を開始した。

 

第4軍が左側面から援護を行い、第3親衛戦車軍の一部部隊が右側面の援護を担った。

 

BETAの主力は核と通常火力の袋叩きに遭って全滅し、残りは僅かな残存兵力のみであった。

 

その為ポーランド軍第1軍は掃討戦も合わせてゆっくりと進み、戦闘開始から21日後、シェペトフカに突入し、それから3日後に同市街地の完全制圧を宣言した。

 

24日間の戦闘で第1ウクライナ前線は戦闘開始前の地点までを奪還したのだ。

 

これらの攻勢と包囲殲滅戦は2月冬季BETA攻勢と呼ばれ、この戦いでソ連軍はかなりの人的喪失を受けたが代わりにBETA4個軍を完全に制圧した。

 

BETAの屍の上にはソ連国旗だけでなく、ポーランドの白と赤の国旗も掲げられた。

 

再建ポーランド軍は初めての実戦で勝利を得たのだ。

 

BETA4個軍の撃破とポーランドの初勝利はジトーミルの防衛以上に大きな功績であった。

 

少なくともリヴォフ・ハイヴから巨大な戦力が3つ以上消えたのは後の攻略作戦を見ても大きかった。

 

ジトーミル防衛戦にソ連軍は勝利したのだ。

 

 

 

-ソ連領 ウクライナSSR ポルタヴァ州 ポルタヴァ市 第1ウクライナ前線司令部-

ヤゾフは1人、司令部の裏でタバコを吸いながらウクライナの空を眺めた。

 

ポルタヴァの3月はまだ寒い。

 

タバコを吸わずとも白い息が漏れ出るほどだ。

 

ヤゾフは、第1ウクライナ前線は、ソ連軍はまたBETA相手に勝った。

 

ジトーミルは無傷のままであり、前線はシェペトフカから少し西に離れたところにある。

 

BETAは4個軍という大規模兵力を投入したが結局のところ攻勢には失敗し、無意に戦力を喪失するだけとなった。

 

言葉にすれば簡単だ、勝利の要因もすぐに結論が出る。

 

されどそこに至るまでの道のりが本当に大変だった。

 

前線では決して少なくない将兵が死に、兵器が破損し、武器弾薬が消耗した。

 

各部隊の参謀や司令官達も疲弊しぐったりしている。

 

ヤゾフだって顔は窶れ、目の下にはくまが出来ていた。

 

もう何日もまともに寝ていない。

 

ヤゾフだってもうすぐ60歳だ、60に近い50代には少々酷な仕事であった。

 

「閣下、ここにおいででしたか」

 

敬礼しローシク大尉が隣に現れた。

 

大尉もよく見ればヤゾフと同じように疲れが顔に現れていた。

 

されどヤゾフとは違い、まだ仕事が出来るようなエネルギーがあった。

 

「予備軍からの補填人員は1週間後に到着する予定だそうです」

 

「随分早かったな、後でアフロメーエフ上級大将とグレチコ元帥には礼を述べなければ」

 

「はい」

 

ローシク大尉は隣でタバコに火をつけ、同じように吸い始めた。

 

軍人なんて職業は酒とタバコをやっていないととても正気を保っていられない。

 

健康など二の次、全ては祖国への軍務に捧げられる。

 

だから早死にしたり急死する人間が出てくるのだ。

 

「後そうだな……当分はBETA共が攻勢をしないことを祈って手紙でも書こうか」

 

ヤゾフの提案にローシク大尉は小さく頷いた。

 

BETAの攻勢が来てからもう1ヶ月は家族と連絡を取っていない。

 

「折角です、妻にも書いてあげてください。様子を知りたがっていました」

 

「そうか……じゃあ一筆入れさせてもらおうかな」

 

今だけは司令官と副官から義父と義息子の関係に戻った。

 

この瞬間だけ戦前の穏やかな人間らしい姿に戻れるのだ。

 

僅かだが大切な時間だった。

 

「勝ちましたね」

 

ローシク大尉はふと口を開いた。

 

勝った、確かに彼らは勝ったのだ。

 

されど勝った喜びよりも疲れの方が大きい。

 

何せ先の攻勢とは違い、勝った目先の戦果はBETA4個軍、防衛戦なので土地を取り返した訳ではなかった。

 

無論BETA4個軍の撃滅は大戦果である、損害も少ないのはいいことだ。

 

されどそれを上回る疲労が彼らを包んでいた。

 

「ああ、勝った。次も勝つぞ」

 

「はい」

 

ヤゾフは疲れつつも鋭い眼光のままそう断言した。

 

彼らの戦争は終わらない。

 

戦争が終わるのはBETAの最後のハイヴにソ連国旗を叩きつけたその時だ。

 

彼らは寿命を削りながら勝利の道へ近づいている。

 

勝利は遠いが手の届くところにはある。

 

それだけで希望としては十分であった。

 

 

つづくかも

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