マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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また道に、埃に猛暑
俺達に平穏はない
戦から、また戦へ向かう
いつも決めるのは命令だ
-”俺は帰りつく”より抜粋-


レニングラードの一番長い日

モスクワ、6月1日の夜。

 

隊列の中央にいるBTR-70KShMの中で突入部隊の指揮官、ベスコフ大佐は各員に伝えた。

 

「まず第3分隊が周辺を確保し次に第2分隊が制圧射撃を開始しながら突入。我々は正面から扉を破って2回に突入する」

 

BTR-70にいる隊員達は頷いた。

 

彼らがこれから突入する家は2階建て、そして地下室があった。

 

まず地下には第3分隊が突入し、2階は第1分隊が制圧する。

 

正面から突入した第2分隊はそのままリビングを含めた1階を制圧し、逮捕者は全て後方で待機中の護送車に移送せよと命令を受けていた。

 

”ヴィンペル3”の到着とほぼ同時にジェルジンスキー師団の部隊が周辺に展開し、バックアップの為に待機する手筈であった。

 

ベスコフ大佐は作戦の説明を続ける。

 

彼は最新鋭の戦闘服にAKS-74を装備し、APSをホルスターに、近接戦闘用にナイフも備えている。

 

これが全員の基本装備であり、更にバイザー付きのSTSh-81”スフェラ”を被り、6B3ベストを纏っていた。

 

そして顔を隠す為に全員が覆面を身に付けている。

 

「まず先頭はセルゲイ、アレクセイがいけ。次に俺とスターシク、ミハイルとボリス、最後に後方警戒のヴァロージャとアリョーシャだ」

 

隊員達は頷き、しっかりと自身の重機を握り締めた。

 

まず先頭のセルゲイはPKMを持って部隊の支援に援護し、アレクセイは彼の援護を担当する。

 

ミハイルは通信兵担当でアリョーシャと呼ばれたアレクサンドル・ショロコフ大尉は分隊の副隊長であった。

 

「今回の任務は逮捕だが撃ってきたら撃ち返して構わん。慈悲を見せるな」

 

ベスコフ大佐に発破をかけられ隊員達が「了解!!」と呼応する。

 

”ヴィンペル3”の戦闘部隊を乗せたBTR-70は目的地に到着した。

 

周辺には警戒中のジェルジンスキー師団第4自動車化狙撃兵連隊の隊員達がBTR-70を誘導しながら周辺警戒に当たっていた。

 

まず先頭のBTRから第3分隊が降車し、AKSを構えて家の周囲を取り囲む。

 

分隊長が安全を確保した旨を伝え、他のBTR-70からも隊員たちが降りてくる。

 

まず第1分隊が正面玄関に取り付き、その間に家の窓に第2分隊が取り囲んだ。

 

第3分隊は第1分隊の到着と同時に彼らの後に続き、その間にBTR-60から降り立ったジェルジンスキー師団1個分隊が警戒に入った。

 

部屋の窓はしっかりカーテンがかけられており、外から見ただけでは様子は分からない。

 

『隊長、”3Sh3”突入準備完了』

 

第3分隊の隊長が報告し、ベスコフ大佐は作業中のスターシクことスタニスラフの様子を見た。

 

彼は突入の際、ドアを爆破する用の爆薬を設置しており作業は終盤に差し掛かっていた。

 

設置が完了し、スタニスラフは後ろに下がった。

 

「”3Sh3”、30秒後に突入する。準備を」

 

『了解』

 

そう言って通信が切れベスコフ大佐は全員に突入時刻を伝えて準備させる。

 

この時の30秒は3時間にも匹敵するほど長く、精神を削る効力があった。

 

それでも隊員達は顔色一つ変えず、その時を待った。

 

ベスコフ大佐の命令からきっかり30秒経った頃、その家からは二方向から爆発音が鳴り響いた。

 

「突入!」

 

大佐の命令でセルゲイ、アレクセイらを先頭に第1分隊が突入しドアを蹴破って中に入る。

 

まずPKMで2階を撃って牽制し、そのまま2人は階段を登った。

 

その頃リビング近くの窓はPKMの制圧射撃によって粉々に粉砕され、射撃に合わせて隊員の1人が閃光弾を投げた。

 

内部に眩い光が溢れ、閃光の終了と同時に第2分隊が突入してくる。

 

部屋内にはガラスが散乱し、あちこちに返り血がつき、人が倒れていた。

 

「抑えろ!」

 

逃げようとする容疑者を銃床で殴り、両手を縛って拘束する。

 

動けない容疑者も同じように拘束して後から来るジェルジンスキー師団の歩兵に引き渡した。

 

そのまま2人1組の班が1階の隅々まで展開し、隠れていると思われる容疑者を探す。

 

浴室に突入した2名の隊員はちょうど入浴中だった男にAKSを向け、1人が恐ろしい剣幕で迫った。

 

「動くな!そのまま両手を上げてろ!」

 

「なんだ!なんなんだ!」

 

男は当然裸である、武器というものは精々隠部についてる拳銃であり抵抗は出来なかった。

 

すぐに両手を縛られ、無理やり浴槽から引き摺り出されると体も拭く事を許さずに外へ放り出された。

 

その間に第3分隊は地下に閃光弾を投げ込み、牽制射撃を叩き込んだ。

 

相手はそれでも数発ほど銃撃してきた為、分隊長の判断で手榴弾を1発投入することとなった。

 

起爆した瞬間、内部の煙は入り口から溢れて一時的に視界を遮る。

 

AKS-74を構えた2名の隊員が先行して突入し、辺りに倒れた容疑者達に抵抗するなと叫んだ。

 

全員を拘束し、生きている者から優先的に上へ引きずり上げた。

 

「気をつけろ、まだ何かあるかも知れん」

 

分隊長のリヴェーシュニク大尉は隊員達に注意を促しながら前へ進んだ。

 

すると彼の目にテーブルに置かれた1枚の地図が目に留まった。

 

その地図は首都モスクワのものであり、あちこちに赤いバツ印が書かれている。

 

丁度いいタイミングで通信兵を務める隊員が地下に入ってきた為、リヴェーシュニク大尉は命令した。

 

「支援の人員に連絡、後で地下の物品を回収しろと伝えろ。何か役に立ちそうだ」

 

「了解…!」

 

この間に第1分隊による2階の制圧は着々と進んでいた。

 

上がった隊員達がドアにまず数発撃ち込み、蹴破って無理やり中に突入する。

 

当然だが部屋の全てに容疑者がいる訳ではない、むしろ2階にいた容疑者は一番少なかった。

 

だが数少ないそのうちの1人が手持ちの拳銃で応戦してくる。

 

薄いドアが抜かれセルゲイの数センチ右に幾つか穴を開けた。

 

「撃ち返せ!」

 

ベスコフ大佐の命令を受けてセルゲイがPKMを叩き込み、壊れたドアをアレクセイが蹴り開ける。

 

部屋の中には3人の人間がいた。

 

1人は片手に拳銃を持つ男、彼はベッドの下に潜り込もうとしているところだった。

 

後の2人は女でありセルゲイが放った弾丸が当たったのか左腕から血を流していた。

 

「クソッ!ロシア帝国に栄光をっ!」

 

男は拳銃を自身の額に当てようとしたがベスコフ大佐がAKS-74の銃床で右手首を強く叩いて無理やり拳銃を落とし、次に顔を1発殴った。

 

強烈な痛みで気絶した男をスタニスラフが拘束し、奥にいた2人の女は後から入ってきたボリスとミハイルが拘束した。

 

気絶した男はズルズルと引きずられ、雑に階段から落とすように1階に運ばれる。

 

「セルゲイ、アレクセイ、怪我はないか」

 

「問題ありません、索敵に戻ります」

 

「ああ」

 

セルゲイとアレクセイは部屋から出て残ったベスコフ大佐は落ちていた男の拳銃を拾った。

 

男が持っていたのはワルサーP1、しかも刻印がP.38とあるから国防軍時代のものだ。

 

一体何処から調達したのやら、ベスコフ大佐は押収品としてワルサーP1を袋に入れ、部屋を後にした。

 

各所で制圧戦は終了していた。

 

部屋のあちこちに弾痕が残り、家は突入前よりも煤に汚れている。

 

逮捕した容疑者、或いは戦闘の末死亡した容疑者をジェルジンスキー師団の兵士達と”ヴィンペル3”の隊員達が手分けして運んでいた。

 

あまりに派手にやり過ぎたせいで一部の家から「なんの騒ぎだ」と人々が出てきていたが、後方の対応員達が宥めている。

 

逮捕された容疑者達の姿も護送車までにシートが敷かれていた為、姿が見えることはなかった。

 

「隊長、ご無事でしたか」

 

リヴェーシュニク大尉は後から入ってきたベスコフ大佐に敬礼し、大佐も敬礼を返して尋ねた。

 

「我が方の負傷者は」

 

「ありません、第2、第3分隊に死傷者なしです」

 

怪我人も出なかったことにベスコフ大佐は安堵し、バイザーを上げて自身の目で直接家の中を見回した。

 

家の中はソ連でよくある一軒家、なんの変哲もない家だが装飾品などは奇抜な反ソ的なもので彩られていた。

 

双頭の鷲が入った帝政ロシアの国旗に、1858年から83年の黒黄白の国旗、カフカス先住民騎兵師団通称”ディカヤ(蛮人)師団”の師団旗などが飾られている。

 

そして部屋の角には正教会式の祭壇が作られており、その上にはイコン画が飾られていた。

 

祭壇の上には最後の皇帝ニコライ2世とその子、アレクセイ皇太子の写真が置かれている。

 

別の机には恐らくロシア帝国復興戦線のメンバーで撮ったと思わしき写真が数枚飾られており、その中でも3枚ほどの写真が目立つ位置に置かれていた。

 

1人見覚えがある、最重要目標として写真を見せられたタボリツキーという人物だ。

 

写真のタボリツキーは報告書で見たものよりも老けており、まるで亡霊にでも取り憑かれたかのような窶れた姿だった。

 

うち2枚は後に白軍少将エフゲニー・メスネル、復興戦線幹部シャベリスキー=ボルクということが判明する。

 

ベスコフ大佐は3枚のうちタボリツキーの写真を手に取り、まじまじと見つめた。

 

「そういえばこの人物は逮捕者の中にも死者の中にもいませんでした」

 

「私も見なかった、もしかしたらもう一波乱あるかも知れん。だが今回の作戦は成功だ、負傷者も死者もいない、初陣としてはかなり良いスタートを切れた」

 

大尉は喜んで頷き、ベスコフ大佐は彼の肩を軽く叩いて容疑者らの家を後にした。

 

外に出るとBTR-70の前に彼らの分隊が集まって整列していた。

 

ベスコフ大佐はそんな彼らに対して敬礼し、次の命令を伝える。

 

「諸君、ご苦労。諸君の努力によって任務は大成功に終わった。我々は一旦拠点に戻り、次の任務に備える。帰ろう」

 

隊員達は覆面の下で笑顔を見せ、BTR-70へ乗り込んだ。

 

大佐は乗り込む前に本部へ連絡した。

 

「”ヴィンペル3”、ベスコフ大佐より本部へ、作戦は成功した。これより帰投する」

 

『”ヴィンペル3”了解、よくやった。後は第5総局の連中に任せよう。ゆっくり休んでくれ』

 

作戦が終わり、通信先の向こうでも喜んでいることがなんとなく分かった。

 

しかし彼らは知らない、この小さな動乱は1日では終わらないことを。

 

6月2日、問題はレニングラードで発生することになる。

 

 

 

 

逮捕された容疑者達は直ちにルビャンカの地下に送られた。

 

待機していた第5総局の尋問官らが早速送られてきた容疑者達の面倒を見た。

 

ルビャンカの地下は久方ぶりに悲鳴が響き渡っていた。

 

驚くべきことにロシア帝国復興戦線の構成員達は皆、尋問に対する耐性を全く身に付けていなかった。

 

尋問官達が少し暴力を用いたアプローチをかけると彼らはすぐに全てを暴露した。

 

その為尋問官達の仕事は一晩で終わり、午前中にはツィーネフ上級大将の下に報告書が届けられていた。

 

6月2日、ツィーネフ上級大将は第1総局長、第2総局長、第4局長、第5総局長、第8総局長、特殊作戦局長を集めて報告会を開いた。

 

クリュチコフ大将の背後にはオブザーバーとしてドロズドフ中将も参加していた。

 

全員の下に尋問官らが収集した情報を纏めた報告書が配布され、これを基に話が進められた。

 

「逮捕したロシア帝国開放戦線のメンバーは凡そ12名、室内には15名のメンバーがいましたがうち3名は戦闘で死亡。また5名は重傷の為治療中、残り7名のメンバーに尋問を行いました」

 

ボブコフ中将は報告書を片手に各員に状況を伝えた。

 

皆既にある程度の報告は受けており、それに応じて各局で対応を進めていた。

 

「尋問の結果、彼らはモスクワに潜伏し地下鉄及びモスクワ鉄道に爆弾を設置し、爆破テロを行おうという計画を立案していたことが判明しました。”ヴィンペル”部隊が押収した証拠によると既に爆弾の調合は完了しており、生産に入ろうとしている段階でした」

 

この点において”ヴィンペル”部隊の突入が遅れていれば爆弾は生産され、モスクワに対する攻撃が始まっていた為彼らは上手くやったと言える。

 

メンバーのうち3名が死亡し5名も長くはないだろうと予想されている中でテロを未然に防いだことは明確な功績であった。

 

「奴らは攻撃目標の選定まで終えていたと聞いたが」

 

第2総局長グリゴリー・グリゴレンコ大将はボブコフ中将に尋ねた。

 

第2総局はソ連国内に対する防諜を担当する総局であり、モスクワにおける異変も最初にキャッチしたのは彼らであった。

 

「最優先攻撃地点を定めていたのは確かです。ですが第二次目標を決めている段階で我々の襲撃を受けたとメンバーの1人は供述しています」

 

まずモスクワの鉄道インフラに対する攻撃を行い、ソ連に対して長期的かつ最大の混乱と損害を与えてる。

 

その間に次々と攻撃を行い、最終的に首脳部に対して革命を起こすというのがロシア帝国復興戦線の目指していた計画だった。

 

いざテロを起こした所で革命が起こるのか極めて怪しい点はあるが、彼らはとにかく1918年にボリシェヴィキ達に意趣返しをしようとしていた。

 

「押収した火器は我が国の7.62mm小銃(モシン・ナガン)が8丁、米国のスプリングフィールドM1903が4丁、Gew98が3丁、そしてワルサーP1が15丁。そして試作品の時限爆弾が2発、未完成品が5発です。またこれ以外にもサーベルや銃剣類などを複数所持していました」

 

「まるで骨董品の展示会ですな」

 

クリュチコフ大将は皮肉まじりにそう述べ、彼から1つ先の席で第4局長ゲニー・アゲーエフ中将は頭を抱えていた。

 

彼が率いる第4局はソ連国内の流通を監視しており、これらは全て彼らの取り溢しだ。

 

当然責任はアゲーエフ中将にあるし、叱責されても仕方のないことだった。

 

「アゲーエフ中将、第4局はこの家に関わる全ての流通を洗え。クリュチコフ大将は武器の流れを探るんだ」

 

「現在各支部を動員して調査中です」

 

「こちらもルートを探ってみます」

 

ツィーネフ上級大将は2人に指示を出し、この場で叱責することはしなかった。

 

彼はあくまで副議長、一先ずは判断だけ下して後は帰ってきたアンドロポフに任せれば良い。

 

今は円滑に物事を動かすことを決めた。

 

「そしてこれは現在調査中ですが、ロシア帝国復興戦線はレニングラードにも拠点を有しているようです」

 

ボブコフ中将は声音を変えて彼らに報告した。

 

ツィーネフ上級大将もこの報告を最初に受けた時はかなり深刻な表情をしており、今東ドイツにいるアンドロポフにも直ちに伝えるよう命じた。

 

またこの尋問結果を受けてKGB特殊作戦局も動き始めた。

 

まず待機中だった”ヴィンペル1”を直ちにレニングラードへ向かわせ、続いて同じく待機中のジェルジンスキー師団第4自動車化狙撃兵連隊と第5独立作戦連隊の一部もレニングラードへ移動させた。

 

モスクワの拠点が制圧された事実はレニングラードにも伝わっている可能性があり、早急な逮捕が必須であった。

 

「ラザレンコ中将、KGB及び内務省の部隊の動きはどうなっている?」

 

「”ヴィンペル”部隊はレニングラードに出動、ジェルジンスキー師団も第4、第5連隊を派遣し、レニングラード州局KGB、北西国境軍管区、レニングラード州・市評議会執行委員会内務局にも警戒の旨を伝えました」

 

”ヴィンペル”部隊は既に送った、必要であればレニングラードには民警がいるし国境軍もいる、ジェルジンスキー師団すら送った。

 

何事かあっても対応は出来るし何もなければ”ヴィンペル”部隊が片をつけてくれる。

 

「ボブコフ中将、レニングラード州の拠点は割り出せたか?」

 

「ハッ、それが正確な住所までは不明ですが少なくともレニングラード近くのムリノにあると供述しています」

 

「尋問を続けろ、もしかしたら吐くかも知れん。レニングラードのノシィレフ中将に連絡、ムリノ周辺の封鎖と捜査を開始しろと伝えろ」

 

ツィーネフ上級大将は後ろに控えている補佐官らに命じ、内1人が連絡の為退出した。

 

逆に今度は別の将校が血相を変えて走って会議室に入ってきた。

 

息は絶え絶えだったがツィーネフ上級大将らに敬礼し、そのまま報告する。

 

「緊急事態!レニングラード市内ネフスキー広場において突如車が爆発し炎上!!爆発による直接的な被害はありませんでしたがネフスキー橋で交通渋滞が発生しています!!」

 

局長達、参加者達は顔色を変え互いの顔を見合わせた。

 

ラザレンコ中将は明確に有事の軍人の表情になり、すぐ様ツィーネフ上級大将に意見した。

 

「同志副議長、これは明確な攻撃です。してやられました、直ちにレニングラード市全体の封鎖を」

 

「”ヴィンペル”は後如何程で到着する?」

 

「ヘリでの移動ですから後1時間少しかと」

 

「急がせろ、これはまずい事になったぞ……」

 

この時彼らは全員車の爆発が組織的な攻撃によるものだと決めつけていた。

 

第二、第三波が来る、爆破テロの波がレニングラードを襲うと思い込んでいた。

 

故にこの時彼らの決断と命令はかなり強行的であった。

 

「ノシィレフ中将には積極的に市内の封鎖を提案するよう命じろ、状況は耳に入っていると思うが直ちにクレムリンに報告に向かう。報告会はこれにて解散だ」

 

ツィーネフ上級大将は立ち上がって、クレムリンにいるブレジネフらに報告の準備を始めた。

 

他の局長達も慌ただしく動き始め、ラザレンコ中将も早速部下に命令を出した。

 

「サヴィンツェフに連絡しろ、”カスカード”の予備隊を待機させておけ。最悪投入するかもしれん」

 

「了解…!」

 

「”ヴィンペル3”にもだ、これは戦争だ」

 

たった一度の爆発にKGB将校達の目の色は変わった。

 

彼らは彼らの戦争状態に突入したと思い込んでしまったのだ。

 

 

 

 

 

-ソ連領 ロシアSFSR レニングラード州 レニングラード市 スモーリィニィ研究所 レニングラード州及び市党委員会本部-

レニングラードの党委員会、車の爆発に一番衝撃を受け、最悪の事態を想定し過ぎていたのはルビャンカよりもここであった。

 

報告は丁度レニングラード内務局長のウラジーミル・コクゥシュキン中将とKGB州局長ノシィレフ中将らと話をしている最中であった。

 

故に当時党第一書記のグリゴリー・ロマノフ*1は焦った。

 

そもそも2人とはレニングラードにいるロシア帝国復興戦線メンバーの話をしており、彼らが動き出したと思い込んでしまったのだ。

 

彼は直ちにレニングラード軍管区司令官のボリス・スネトコフ大将と国境軍ヴィクトロフ中将を参集させ、対策を練った。

 

まず被害についてであるが爆発した車は周囲の車に被害は出さなかったが爆発の影響によって2台ほど事故を起こし、合計4名の軽傷者を出した。

 

炎上中の車は駆けつけた消防隊によって鎮火され、それ以降爆発が起こることはなかった。

 

されどロマノフらは次の爆発を警戒していた。

 

既にレニングラード市内の重要施設、地下鉄や鉄道、軍需工場や造船所地帯には直ちにレニングラード内の特殊民警部隊を展開し、警戒に当たった。

 

幸いにも各所に爆弾は確認されておらず、各所は至って平和であった。

 

そう、レニングラードに対する攻撃、攻撃ですらない爆発はこれ以上起こることはなかった。

 

何故ならそもそも最初に爆発した車だって元はと言えば事故なのだ。

 

確かにその車はレニングラードに潜むロシア帝国復興戦線のものであり、その中には爆破テロ用の爆弾が1発積まれていた。

 

元々ムリノに潜むロシア帝国復興戦線レニングラード組が仲違いを起こしたのが原因だった。

 

突然モスクワ組と連絡が取れなくなり、焦ったレニングラード組はある一部がここで行動に出るべきだと主張し始めた。

 

彼らからすればモスクワ組と連絡が取れなくなった時点でモスクワの同胞は逮捕されたものと信じており、であればその魔の手が来る前に一花咲かそうという気概であった。

 

一方慎重派もいた、今はまだ行動するべきではないという派閥だ。

 

彼らは激しい言い争いになり、結果的に行動派の1人が暴発して爆弾を持って1人でどこか行ってしまった。

 

止めようとしたが彼は車を持ち逃げし、レニングラードの中心地まで向かった。

 

その道中、手作りの爆弾が運悪く起爆し彼はこの世を去った。

 

これが事の顛末なのだが当然ロマノフらは知らない、だからこそ今が怖かった。

 

ロマノフは念の為まずレニングラード地下鉄の運行を停止することを命令した。

 

もし爆弾が爆発し、地下鉄内で交通網が破壊されては堪ったものではない、彼の不安は時を追うごとに拡大していった。

 

またその不安を煽るようにツィーネフ上級大将から命令を受けたノシィレフ中将がコクゥシュキン中将と組んで積極的に市内の封鎖を進めてきたのだ。

 

彼らからしてもこの行動はレニングラードの安全を維持する為だったのだが、少々行き過ぎな面もあった。

 

「同志、速やかにレニングラード市内の封鎖を、住民の移動を禁止して交通を制限しなければ余計な被害と捜査の難航を産みます」

 

「分かっている、コクゥシュキン中将、民警を総動員してレニングラード市内を封鎖しろ。公共放送では外出禁止命令を流せ、いけるな?」

 

「市内の民警*2を総動員すればなんとか」

 

そのなんとかという言葉に不安を覚えたロマノフは軍管区司令スネトコフ大将に尋ねた。

 

「同志大将、軍管区内の中で動かせる部隊はなんだ?後どれくらいの時間で市内に到着する?」

 

「第30親衛軍団の第45親衛自動車化狙撃兵師団と第64親衛自動車化狙撃兵師団なら武装させ展開するまでを合わせると2時間以内には到着するでしょう」

 

「では今すぐ武装させて出動だ」

 

「お待ちください同志第一書記、まさかレニングラードに投入するつもりですか?」

 

スネトコフ大将は思わず聞き返した。

 

ふと冷静になったロマノフは言葉に詰まりながらも答えた。

 

「……念の為だ、念の為移動準備させておけ……もしもがある……」

 

「分かりました、直ちに出動準備を命じます。しかし投入は今一度お考えを、我々ソ連軍は外敵と戦う軍隊です。内務はまずコクゥシュキン中将らにお任せを」

 

「ああ……だがいざという時は頼るぞ……」

 

スネトコフ大将は頷いた。

 

恐らくここでスネトコフ大将までロマノフらに同調して市内に軍を突入させていたら更なる混乱が生まれたことだろう。

 

「出動命令、外出規制の令を出しました。情報統制はどうしますか?」

 

「私が会見を行うまで出来ればテレビ、ラジオ類はなんとかしたいんだが……」

 

不安そうなロマノフに対し、ノシィレフ中将は彼に進言した。

 

「この緊急事態です、やるしかないでしょう。テレビの方はこちらで用意した映像に差し替えましょう」

 

「頼む…!」

 

この時ノシィレフ中将がどの程度承認を得ていたか分からないが、彼はレニングラード内におけるマスメディアのコントロールを開始した。

 

まずレニングラード市内全体のテレビがバレエ『白鳥の湖(Лебединое озеро)』が流れ始めた、しかもエンドレスにループして。

 

人々は若干これに嫌な記憶を持っていた。

 

1973年のある日、突如として全国的に放送予定の番組が全てキャンセルされ、『白鳥の湖』だけが流れ続けたことがあった。

 

そしてその翌日、ソ連政府は正式にBETAによる地上侵攻が始まったことをソ連国内に報じた。

 

他にもソ連国内にBETAの降下ユニットが降りてきたり、何かしらのアクシデントが発生した時に限って『白鳥の湖』が流れるのだ。

 

『白鳥の湖』自体は素晴らしいバレエの演目であるが、ソ連政治的には不幸の予兆であった。

 

そして町中に可能な限り武装した民警の部隊が展開し橋という橋、通路という通路に検問所を展開し街を塞いだ。

 

この民警達も大多数の者は何故出動命令が出たのか上官からあまり詳しく聞かされていなかった。

 

というより上官すらも後から命令を受けたケースも屡々見受けられた。

 

しかもレニングラード全域の封鎖である、レニングラード内のほぼ全ての民警が動員された。

 

まず特殊民警部隊が軍需と鉄道の重要拠点に展開し、残りは予備戦力として手元に置かれた。

 

そして日常的な警備を担当とする民警部隊が市内各所に展開して交通の管理を開始した。

 

一部では交通安全担当の民警達も出動し、警備部隊に加わった。

 

各所で命令通りバリケードと検問所を展開し終わった後、各所の指揮官達が上層部に問い詰めた。

 

「ところで我々は何の為に出動を?」

 

【挿絵表示】

 

 

各所の民警達に本格的な連絡が行き渡る頃、ロマノフはクレムリンのブレジネフと電話で協議して正確な対応策を命じられた。

 

と言ってもレニングラード市内の全域封鎖、レニングラード市民の外出禁止、民警部隊及び緊急展開中のジェルジンスキー師団による市内パトロール、国軍の待機、”ヴィンペル”を用いた首謀者の逮捕などある程度ロマノフらレニングラード党委員会の判断を認める結果であった。

 

少なくともロマノフは市評議会議員レフ・ザイコフらに進言されて軍事関係の車列や船舶は停止させず、運航させていた為前線への補給物資等の滞りはなかった。

 

その為ブレジネフらからすればロマノフらレニングラード党委員会の判断は妥当かつ正しいものであり、引き続き実行するよう命じられた。

 

民警部隊が市街地に展開し終え、ブレジネフらとの電話協議が終わった後ロマノフは第一書記としてレニングラード市に呼びかけを行った。

 

『白鳥の湖』しか流れていなかったレニングラードに久方ぶりの真新しいものが放送される。

 

「レニングラードの同志の皆さん、そして敬愛する労働者、民警、軍人の皆さん、現在レニングラードで起こっている重大な事件についてお話しします」

 

ロマノフの声明は記者会見という形ではなく、レニングラード市民に呼びかける形で行われた。

 

彼の側にはレニングラード党委員会第二書記、軍管区司令官スネトコフ大将、内務局長コクゥシュキン中将、国境軍管区司令ヴィクトロフ中将らが控えていた。

 

「本日午前10時頃、レニングラード市内ネフスキー広場において1台の車両が突如爆発、市内に小規模な混乱が生じました。レニングラード州及び市党委員会はこの爆発事故を警戒し市内に非常事態警報を発令、外出禁止令と内務部隊による市内の封鎖を実行しました」

 

レニングラード中の市民がテレビやラジオでロマノフの声明を聞いた。

 

各所に展開する検問所や封鎖線の民警達、待機中の師団将兵も公式としての見解を聞く為にテレビをつけていた。

 

「現在市内において爆発物は確認されておりませんが引き続き警戒を続けていく予定です。また、市内の同志の皆さんには申し訳ないですが今暫く党委員会の命令に従って外出を控えて頂きたい。これは祖国ソヴィエトとレニングラード市民全体の安全を維持する為です。どうかご理解下さい」

 

そう言ってロマノフの声明は終了した。

 

こうしてレニングラード州の包囲はほぼ丸1日続くことになる。

 

レニングラードにとって一番長い日が始まった。

 

 

 

 

 

 

レニングラード州、レヴァショヴォ空軍基地。

 

まずここに3機のMi-24VPが着陸し、内部から”ヴィンペル1”の3個分隊が降り立った。

 

隊員達はフル装備の状態で降りて用意されていた車両に乗り込んだ。

 

「コズロフ大佐、よく来てくれた」

 

空軍基地で彼らを出迎えたのはフョードル・ミャスニコフ大佐、KGBレニングラード州局の第2課長である。

 

コズロフ大佐は敬礼を返し早速状況を尋ねた。

 

「民警部隊がレニングラード市内を封鎖してる、今の所市内で爆発などは確認されていないが緊張状態が続いている」

 

2人は歩きながら近くに停車してあったBTR-70の前まで向かった。

 

BTRにはソ連軍の親衛の称号が記載されており、軍部からの借り物だということが一瞬で分かった。

 

実際このBTR-70は緊急事態としてレニングラード軍管区の第45親衛自動車化狙撃兵”クラスノセリィスク”レーニン・赤旗勲章師団からの借り物である。

 

隊員達は直ちにBTR-70に乗り込み、指令を待った。

 

「”ヴィンペル”はムリノに向かってくれ、現地には調査中の我々の同志と一部特殊民警部隊がいる」

 

「了解、ではそちらも頑張って」

 

ミャスニコフ大佐は頷いて彼に敬礼し、出撃する”ヴィンペル”部隊を見送った。

 

その頃、10分ほど遅れて2機のIl-76がレヴァショヴォ空軍基地とプルコヴォ空港に降り立った。

 

中から降りてきたのはジェルジンスキー師団、内務省直轄の命令で展開され市内の警戒に参加した。

 

新師団長のユーリー・ボグゥノフ少将はこの時直接レニングラードに赴き、現場で指揮を取った。

 

レニングラード市内の各所の入り口、或いは重要交通網がジェルジンスキー師団と交代になり、より重装備の兵士が周囲に展開した。

 

多くの市民は不安そうな表情で市内に展開する武装した民警やジェルジンスキー師団の兵士を家の窓から見つめた。

 

一部では勝手に写真を撮るものがいて、後にこの事件を象徴するものとして世に繰り出されることになる。

 

コトリン島のクロンシュタットではバルト海艦隊の一部がいつでも出航出来るように待機しており、国境軍の海上警備隊は既に出撃を開始していた。

 

レニングラードの湾内では軍用以外の船舶は出航を禁じられ、静かなものになった。

 

その静かな海を国境軍海上警備隊の警備船がパトロールし、不審船がいるかどうか確認する。

 

こうした報告は直ちに当委員会本部へ伝達された。

 

「各隊の報告です、海上に不審船なし。フィンランド国境及びスウェーデン国境にも異常はありません」

 

ヴィクトロフ中将は報告書を片手にロマノフに伝えた。

 

安堵したようにロマノフは何度か頷き、今度はノシィレフ中将に尋ねた。

 

「”ヴィンペル”はどうだ?後何時間で突入出来る?」

 

「先ほど空軍基地に到着したと報告がありました、恐らく後25分そこらでムリノに到着するかと」

 

ロマノフは首謀者達を逮捕しない限り一切の安心が出来なかった。

 

とにかく彼らを一刻も早くレニングラードから消すことが今回の動乱を落ち着かせる唯一の方法なのだ。

 

ロマノフは一刻も早くの解決を願っていた。

 

一方その頃、3両のBTR-70が急いでムリノに向かっていた。

 

ムリノは予備の特殊民警部隊と民警の警備部門が封鎖しており、辺りに緊張が立ち込めていた。

 

中央通りには民警の前線指揮本部があり、コズロフ大佐は情報を得る為に一旦顔を出した。

 

BTRから降りて本部に入り、警備を担当する民警少佐に尋ねる。

 

「状況を教えてくれ」

 

民警少佐と本部の民警将校達は敬礼し、知っていることを全て話した。

 

「ムリノの封鎖は完了しました、ですが気になることが。この一軒家、周辺住民への聞き込みによると外出禁止令が出たのにも関わらず家主を含めた全員が家から出たようです。それも大荷物を持って、もしかするとここが…」

 

「まずいな……この家の周辺住民を直ちに避難させろ、そして民警部隊で包囲。我々の第2分隊が突入するからそれに合わせろ。その集団は何処へ消えたか知ってるか?」

 

「住民の話によるとカプラリエフ公園の方へ向かったとのことです」

 

「分かった、指揮は任せた」

 

「了解」

 

命令を出し終え、コズロフ大佐は部下に命令を出した。

 

「第3分隊は予定通り家屋に突入、爆薬を設置した恐れがあるから気をつけろ。第1と第2はカプラリエフ公園に向かう」

 

各分隊長から命令を受諾した声が聞こえ、大佐も自身のBTR-70に乗り込んだ。

 

まず1両のBTR-70と特殊民警部の車両が展開が中央通りを通過しオフタ川を渡った。

 

目標の家に着くと”ヴィンペル1”の第2分隊が降車してゆっくり家に近づく。

 

民警達も周囲に展開し、分隊長の命令でPKM持ちの隊員が家に向けて発砲して攻撃を開始した。

 

何人かの隊員達がゆっくり接近し、AKS-74を撃った。

 

30秒間ほど射撃を叩き込み、分隊長が発砲を停止させる。

 

その後分隊長は1名の隊員と共に家に近づき、家の中を覗いた。

 

見たところ爆弾の設置も確認されていない。

 

「もぬけの殻です」

 

「ああ、この場は民警に任せて直ちに本隊と合流するぞ」

 

分隊長はハンドサインで移動を命じ、BTR-70に乗り込んだ。

 

ロシア帝国復興戦線との戦いは最後は森林の野戦にも連れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

”ヴィンペル1”第1、第2分隊は後方にBTR-70をつけた状態でカプラリエフ公園の森林部に突入した。

 

隊員達は周囲を警戒しながらゆっくりと前進し、ロシア帝国復興戦線のメンバーを捜索する。

 

移動を開始したのは丁度民警部隊が来る直前、そう遠くまで行っていないというのがコズロフ大佐の判断であった。

 

ある程度まで行くと突如コズロフ大佐が移動を停止させた。

 

移動停止と同時に隊員達は全員木の裏に隠れて身を隠す。

 

コズロフ大佐は銃剣を取り出し機時の間に巻き付かれた糸を叩き切った。

 

すると頭上から数本の木々が降り注ぎ、辺りに砂煙を撒き散らす。

 

落下が終了したと同時にタン、タンタンと銃声が響いた。

 

発砲音と連射速度からしてボルトアクション式小銃であることは間違いない。

 

コズロフ大佐は暫く反撃を停止させ、相手の攻撃を暫く続けさせた。

 

銃声と銃弾の飛んでくる方向から敵の位置を割り出し、BTR-70に命令を出す。

 

「BTR、射撃が観測された地域を撃て。BTRの援護射撃と共に我々も前進!」

 

2両のBTR-70が14.5mm機関銃を発射し、相手を抑え込む。

 

木々は倒れ、放たれた方向からは悲鳴と文字通りの血飛沫が待った。

 

15秒ほど射撃しその間に隊員達が前進し応戦する。

 

BTR-70の掃射で相手はほぼ撃ってこなくなり、逆にこちらが一方的に撃つ形となった。

 

「腰抜けばっかだ!」

 

PKM持ちの隊員が相手を撃ちながら叫んだ。

 

この事を受けてコズロフ大佐は近くで戦う第2分隊の隊長にハンドサインで指示を出した。

 

分隊長は了承し、第2分隊全体に命令を出す。

 

「暫く牽制射撃!」

 

8人分隊が定期的に弾丸を放って相手の攻撃を抑制し、第1分隊が動く隙を与えた。

 

その間に第1分隊は森林部を移動して回り込んで相手の背後をついた。

 

何人かのメンバーは立ち上がって第1分隊の動きを止めようとしたがそこに第2分隊の集中攻撃を喰らって死亡する。

 

定期的にBTR-70も戦闘に加わり、14.5mmの暴力を叩き込んだ。

 

既に戦闘していたメンバーは全員が戦意を失い、心が折れていた。

 

手持ちの武器は年代物のボルトアクション式小銃で、彼らの実態は訓練など殆ど受けたこのない烏合の衆。

 

最精鋭特殊部隊の集まりである”ヴィンペル”部隊には敵うはずもなかった。

 

しかもコズロフ大佐は初手でBTR-70の暴力を叩き込んだ、これが完全に彼らの心を折った。

 

既にロシア帝国復興戦線は死傷者が山のように出ており、銃声に混じって痛みに悶える悲鳴も聞こえた。

 

そんな事を気にせず第1分隊は彼らの背後を取った。

 

AKSを構え、後ろを向いている何人かを試しに撃った。

 

後方からの銃声と負傷者によってその存在に気付いた。

 

振り向き小銃を向けるが、もう手遅れだ。

 

残り数丁のボルトアクション式小銃とPKMを有した自動小銃分隊では勝ち目がない。

 

「武器を捨てて両手を頭の後ろに上げろ!そのまま跪け!」

 

コズロフ大佐はロシア帝国復興戦線のメンバーに叫ぶ。

 

しかし彼らは暫く武器を手放さなかった為、分隊員のうちの1人が彼らの足元に弾丸を撃ち込んだ。

 

結果恐怖に負けたメンバーは小銃を捨て、拳銃もサーベルもナイフも捨てて言われた通りに投降した。

 

その間に正面から上がってきた第2分隊に取り押さえられ、手錠をかけられる。

 

「確保!」

 

何人か動けなくなっていた奴も捕らえてから一箇所に纏めておいた。

 

「”ヴィンペル”より各隊へ、容疑者を確保した。しかしこちらでは人手が足りない、直ちに護送用の応援を頼む」

 

『了解した、近隣の部隊を直ちに展開する』

 

コズロフ大佐が他の民警部隊に応援を要請するとほぼ同タイミングでBTR-70が1両やってきた。

 

第3分隊だ。

 

第3分隊は直ちにBTRから降車して戦闘態勢に入ったが容疑者を運搬中の隊員達に「おせーぞ」と詰られた。

 

こうしてロシア帝国復興戦線との呆気ない戦いが終わった。

 

”ヴィンペル”側の死傷者はゼロ、ロシア帝国復興戦線は全員が死ぬか逮捕された。

 

だがこれはあくまで序章でしかない、結局彼らはその組織規模を見てもより大きな者達の駒でしかなかった。

 

本当の激戦はこれからなのだ。

 

コズロフ大佐は落ちていたモシン・ナガンを拾った。

 

小銃には態とらしく双頭の鷲が刻まれている。

 

その下にはキリル文字で”ロシア帝国は生きている、やるべき事はたくさんある”と彼らのスローガンが刻まれていた。

 

ああそうだ、やるべきことは沢山ある。

 

コズロフ大佐は小銃を持ったまま”ヴィンペル”の仲間達に合流した。

 

6月2日、レニングラードの一番長い日はもう少しだけ続いた。

 

 

 

つづくかも

*1
あのロマノフ家とは関係なし

*2
ソヴィエト連邦における一般警察、Милиция

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