マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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戦いに向かえ、同志諸君、戦いに向かえ!
先頭で我らを導くは
聖なる戦の旗だ
祖国に報いる為
敵の攻撃に
鋼鉄の一撃を以て応えよう!
-”敵に死を!”より抜粋-


突破戦闘

-日本帝国領 東京 港区 某所バー-

港区のある場所には在日米大使館の職員ら日本に住まうアメリカ人行きつけのバーがあった。

 

近年ではアメリカ人と交流を持ちたい日本人の利用が増えており、このご時世でもそれなりに繁盛していた。

 

バーには完全個室の部屋とホールとカウンターの部屋があり、特段用のない人々はホールで酒を飲み、慣れ親しんだアメリカ的な料理を楽しんだ。

 

一方どうしても公に話を聞かれたくない人は個室の方を使っていた。

 

内々の相談、特に大使館関係者であれば日本側のカウンターパートにオフで話しておきたいことはある。

 

それは軍においても同じであった。

 

私服姿の日本帝国軍人とアメリカ軍人がこのバーを訪れ、個室で静かに飲んでいた。

 

1人の昼の仕事は統合参謀会議議長、もう1人はアメリカ太平洋軍情報部長である。

 

2人は副官を連れており、副官の方はカウンターで度数の強い酒を煽ってお互いに仕事の愚痴を溢していた。

 

彼らの上司が真面目な話をしているのを承知の上でだ。

 

尤も真面目な話と言っても上司2人の話も実際は仕事の愚痴である。

 

それも統合参謀会議議長の斉藤大将が情報部長のトムキンス准将に一方的に愚痴を溢す形でだ。

 

「ハッハッハ、ミツヤさん、あんたも大変だね」

 

「トム、笑い事じゃない。君らだって他人事じゃないからな?君らも参加するんだぞ」

 

斉藤大将の愚痴をトムキンス准将は笑い飛ばし、大将は更に頭を抱えた。

 

2人の付き合いは斉藤大将がアメリカ陸軍の指揮幕僚大学に留学していた頃まで遡る。

 

当時丁度少佐になりたてのトムキンス准将と知り合い、仲良くなった。

 

斉藤大将は優秀な成績で卒業と同時に日本に帰国し、その後BETA大戦が始まった為長い空白の期間があったが、近年トムキンス准将が太平洋軍情報部長に就任した為再び交流が始まった。

 

最近のトムキンス准将はハワイの太平洋軍司令部を離れて日本で仕事をしていた。

 

准将の日本語は翻訳機を通さなくともすぐに分かるくらい達者であり、この場にもそうした機材はなかった。

 

「ミツヤさん、私のカウンターパートはまともな部類のサムライですから心配御無用ですよ」

 

「ああ真田……元はうちの海軍大佐だ、そりゃあそうだろう。こっちは話が通じる奴がトップくらいしかいなくて困るよ」

 

「あのショウグンサマ、そんなにいい噂は聞きませんがね」

 

「あっちじゃない……いやまあ総監部の連中に比べたらあっちの方が幾分かマシなんだが……」

 

斉藤大将は苦い思い出をグラスに入ったウィスキーで無理やり流し込んだ。

 

軍の実務を担う斉藤大将にとって総監部の面々はカウンターパートであると同時に悩みのタネでもあった。

 

まず指揮統合演習の提案を斯衛軍総監部に出したら提案書を受け取るまでもなく兵務局の方で却下された。

 

仕方ないので斉藤大将が直々に出向いて総監の九條輝光大将に直談判してようやく承諾を得られた。

 

その後も苦難が続いた。

 

状況想定は本土防衛であった為斯衛軍側が「本土防衛は斯衛の領分であるから指揮権に関して優越がある」と言い出した。

 

当然だがこんなことを言われては日本軍の将校達は黙っていない。

 

そもそも今まで日米の図上演習にも実働演習にも参加しなかった癖に本土防衛は斯衛の領分とはどういうことだ。

 

第一、冷戦期にソ連軍が北海道から上陸してきたら北海道守護軍の常設1個大隊程度で何をするつもりなのか。

 

こうした不満を斉藤大将と輝光はなんとか宥め演習を日本軍主導、斯衛軍主導の2回に分けて実施することで取り敢えずの均等を保った。

 

しかも何故か斯衛軍側の発言が他所に漏れ、そもそもついこないだまで派兵すらしていなかった軍が本土を守る気があったのかと批判の対象になった。

 

これに便乗して首相は「我が国の防衛力許可の為に戦力の一本化を進めていく所存であります」と国会答弁で述べた、首相は完全に斯衛軍を潰すということを明確にしたのだ。

 

「今や総監部の7割は旧守派が占めてる、奴らは古典的な武士道を重んじてるというより武家が持つ権威のようなものに固執してる連中だ。我々の先祖が太平洋で争った時から彼らは動かなかった、それこそが”()()()()()”と信じてやまない面倒な奴らだよ」

 

その旧守派が強かったところにBETA大戦の嵐が吹き荒れ、その流れに乗って信真という狂人に近しい革新派閥の人間が乗り込んできた。

 

今や武家社会全体が壮大な派閥争いの真っ只中である、頭目を押さえた少数派閥の革新派と元来より強い旧守派、この2つの戦いだ。

 

当然世界全体で見れば武家の争いなど小さなことである、だから争いとは関係なく日本軍は世界に飛び出して戦っていた。

 

BETA大戦という未曾有の人類社会の危機に対して武家の争いなど構っている暇は本来ないのだ。

 

「正直私としては無駄に関わらず放っておけばそのうち消えるとは思うんだがな……斯衛軍の存在がネックでどうしても我々が必要らしい」

 

「昔みたいに切りにかからないだけ我々としては助かってますよ」

 

「日本軍とて旧軍みたくやればどうなるかみんな学んだ。私は間近で見た最後の世代だし」

 

「どうであれ我々アメリカ軍は”()()()()”の味方ですよ」

 

トムキンス准将の発言に斉藤大将は苦笑を浮かべた。

 

「トムキンス准将、君はいつからCIAの官僚みたいなことを言うようになったんだ?」

 

「私も一応J2の人間ですから」

 

2人は乾杯してウィスキーを飲み干した。

 

 

 

 

 

 

白ロシア前線、第1ウクライナ前線がウィーン・ハイヴに向けて攻勢を開始したのは3月1日のことである。

 

陽動として先んじて進軍していたNATO中央軍集団が目標を達成したと判断し、ソ連軍は攻撃に入った。

 

BETAが籠る陣地に対して1分間の砲撃を加え、それより各軍戦車軍を先頭として攻勢を開始した。

 

ウィーン・ハイヴ正面に展開するのは主に白ロシア前線であり、第1ウクライナ前線はハンガリー方面のBETAを警戒しつつハンガリーの一部領域から回り込んで横合いから殴る機動に入った。

 

攻勢準備は2月28日の夜間からすでに行われている。

 

密かに展開した地雷原を工兵軍が処理し、ドナウ川に橋をかけた。

 

砲撃とほぼ同時に第3親衛戦車軍が先陣を切って突撃を開始した。

 

前線地帯には各所にBETAが作った塹壕陣地のようなものがあり、そこには戦車級や光線級が隠れて敵を待ち構えていた。

 

光線級は当然敵を発見するとレーザーを照射して接近を阻止する。

 

それと同時に各所の光線級のプログラムにはまだ「航空機に対して最優先撃破」というコマンドがあった。

 

ソ連軍もそのことを承知の上である戦術を取った。

 

その戦術の成果が今、各所で花開いている。

 

T-80BVらの上空を数十機の独特な見た目をした航空機が飛び去っていく。

 

機体の胴体部には82mm迫撃砲の砲弾が搭載されており、BETAの陣地の真上を飛び去る際に安全装置を解除して地上に落下させる。

 

無論そうなる前に撃墜される機体も多数存在したがそれでいいのだ。

 

このヤコヴレフ設計局が開発した無人機、シュメリィ-1はその為に開発されたのだから。

 

モースク1の開発によってソ連における無人機開発は以前にも増して盛んになった。

 

既にモースク1はM-21や無人のMi-24だけでなく、Tu-123、Tu-141、Tu-143やLa-17といった既存の無人機の運用に成功している。

 

その上で低コストかつより大量に生産可能な無人機として開発され、今回実戦投入されたのがこのシュメリィ-1である。

 

シュメリィ-1は翼幅3.3メートル、全長2.8メートルとアメリカのRQ-1プレデターと比較してもかなり小型な機体であり、その分航続距離は短く飛行速度も遅かった。

 

されど意図的かつ確実に光線級の攻撃を搾り取って味方部隊の盾になると言う意味ではシュメリィ-1は最適な機体であった。

 

しかも囮ではない通常の偵察機としても運用出来る優れものであり、オガルコフ元帥が論じたようなデータリンクによる軍の相互援助はこれでより活性化することになる。

 

例えばBTRやBTR-Dらに発射台を設置してシュメリィ-1を装備すれば1個自動車化狙撃兵分隊が航空偵察を基に作戦行動が出来る。

 

単なる衛星偵察や航空偵察では詳細まで分からない情報も瞬時に把握出来るようになるのだ。

 

そうすれば指揮官はより分かりやすい情報を基に戦闘行動に臨める、より正しい判断が下されて戦場での犠牲も減るはずだ。

 

こうした情報MRAはそう遠くない将来に米海軍のアーサー・セブロウスキーと米空軍のジョン・ガルストカによって”ネットワーク中心の戦い(Network-Centric Warfare:NCW)”という軍事コンセプトとして確立される。

 

今、人類軍はNCWの時代の足場に立ったのだ。

 

本来ならばかなり先の話のはずがBETA大戦という人類史におけるイレギュラーの発生で大幅に短縮された。

 

何せオガルコフ元帥が提唱した原点の情報MRAも当初は多くの古典派ソ連軍人に理解されなかったし、何よりソ連にはオガルコフ元帥の理論を叶えるだけの技術もなかった。

 

ソ連は見かけよりは柔いが巷で聞く話よりは強靭である。

 

そんなソ連でこうした未来派の戦略家達が考える理論はどうしても無の雪原に黄金の城を夢描くも同じであった。

 

それが叶ってしまった、アメリカという超技術大国とBETAという人類が当面持つはずのない技術を持つ侵略的外来種によって。

 

多くの古典派将校達はまずソ連宇宙軍の設立とそこから渡される情報によって否が応でもオガルコフ元帥の理論がどれほどのものかと実体験で理解してしまった。

 

しかもオガルコフ元帥の理論はアメリカ側に早急に広まった、そしてアンドリュー・マーシャルら優れた戦略家達によってブラッシュアップされ、いよいよ国連軍として人類は実用化してしまった。

 

何よりBETAの頭脳級である、これが持つ超大規模部隊の単一指揮統制能力が若干だが人類の手に渡った結果実用の段階に入った。

 

その一端がプレデターであり、このシュメリィである。

 

今は囮役のシュメリィ-1もそう遠くないうちに本来の性能を発揮するだろう。

 

既にシュメリィは役に立っているのだから。

 

レーザーを撃ち出した光線級は12秒のうちに戦術機か地上部隊によって殲滅された。

 

上空を飛ぶMiG-27から数発のナパーム爆弾が投下されて陣地の中が焼き尽くされ、残った敵もBTR-70やBMP-2から展開した歩兵達が掃討した。

 

正面の第3親衛戦車軍、第1親衛軍、第4軍は初日のうちに目標地点である旧ホラーシィ市を奪還、前面の支流に橋をかけた。

 

架橋作業の為に各軍の正面戦力の真後ろに工兵隊が張り付き、制圧とほぼ同時に危険も顧みず渡河作業を行った。

 

工兵隊の勇気と努力によって支流にはその日の夜頃に架橋作業が終わった。

 

妨害の為に度々BETAが陣地を飛び出して強襲に現れたがむしろ好都合、先んじて作った戦術機と地上部隊によるキルゾーンでBETAを迎え撃った。

 

橋の向こう側からはT-80BVや一部戦車軍に優先配備された2K22ツングースカ自走式対空砲がBETAを蹴散らす。

 

このツングースカ、ZSU-23-4シルカとは違い30mm機関砲を装備し、近距離対空ミサイルの代わりに幾つかの対戦車ミサイルを装備している。

 

機関砲による制圧射撃だけでなく対戦車ミサイルで中型種も撃破可能のツングースカは配備された戦車軍からは大層人気があった。

 

軍は架橋作業終了と共に戦車隊を突撃させ、ライタ川まで部隊を進めた。

 

進撃距離15キロ、BETAの展開領域だけで言えば8.6キロほど前進し攻勢初日の移動を終えた。

 

3月2日、オーバーエスターライヒでNATO軍が戦いを繰り広げている間、第1ウクライナ前線は早朝に設置した橋から部隊を前進させていた。

 

この日の夕方頃、第1ウクライナ前線隷下の第4軍がライタ川を越えて旧ノイドルフ=パルンドルフ間を制圧したことが報告された。

 

その間に第3親衛戦車軍はガルマイアーホーフまで突破し、第1親衛軍もヤーノシュシュモルヤでBETA1個旅団を包囲殲滅中であった。

 

上手くいけばパルンドルフで第4軍が防いだ敵を第1親衛軍と第3親衛戦車軍で殲滅出来るかもしれないと考えた前線司令部はその日の夜に直ちに命令書を出した。

 

まず第4軍には現在の占領地域を維持し、可能な限り防衛せよと司令部から命令が降った。

 

第3親衛戦車軍にはこのまま直進して第4軍と共にBETAを包囲殲滅せよと命令を出し、第1親衛軍には後続の第60軍と共にノイジードル湖を迂回してウィーン・ハイヴを目指すように命令が入った。

 

3月3日、各軍はそれぞれの動きに入った。

 

まず第4軍はBETAが築いた防御陣地も一部流用して簡易の野戦防御を開始し、領域の奪還に移るBETAを防いだ。

 

第1親衛軍は包囲殲滅を終えるとパムハーゲンへの移動を開始し、第3親衛戦車軍は自慢の機甲力を活かしてひたすらにBETAの陣地を突破した。

 

それから3日間かけてニッケルスドルフからパルンドルフ間の残存兵力合わせたBETA1個軍団を撃滅、これにはSu-24の戦術核爆弾やOTR-21”トーチカ”の核攻撃も相まってのことだ。

 

対空の光線級撃滅と陣地内の完全掃討に時間が掛かった。

 

双方の軍はフリードリヒッスホーフなどで合流し、改めて後世に入るのは3月7日のことである。

 

1個軍団の消失を確認したウィーン・ハイヴは第1親衛軍らの迎撃に当てていた戦力をライタ川の後ろに下げ、ウィーン本陣の防衛に回した。

 

ブダペストと既存の防衛部隊では防ぎ切れず、ついには国境沿いの旧シャッテンドルフ市街地から後退した。

 

作戦から1週間、確実に第1ウクライナ前線はウィーン・ハイヴに接近しつつあった。

 

 

 

 

 

第1ウクライナ前線は側面からの攻撃を行なっていたが白ロシア前線は正面突破を用いた。

 

第5親衛戦車軍と第16打撃軍、第3軍を攻勢の第一梯団として突入させ、第二梯団の第10軍、第48軍を続かせた。

 

残る第7戦車軍、第50軍は敵の反撃を対処する為の予備戦力であり、いざとなれば後方からチェコスロバキア人民軍とポーランド人民軍を動員出来る。

 

第一梯団正面第5親衛戦車軍はターヤ川を超えて突撃を開始した。

 

BETAの防御陣地は厄介だが所詮は厄介程度で済む代物でしかない。

 

飛び道具を使えるのは精々光線級と稀に出没する出力を戦闘用に改造された原光線級であり、通常種はソ連軍の襲来を感知すると砲撃時のみ塹壕でやり過ごして部隊の迎撃は塹壕から出て行なった。

 

少なくとも塹壕のようなものに篭ることで多少損害は減っている為効力はあった。

 

だが弊所に出た瞬間に地上部隊の集中攻撃を喰らって基本的な戦闘団であれば撃滅され、最悪後続の部隊が到着する頃には損耗率が高く結果阻止は出来ないと言う事態に陥っていた。

 

しかもこうした戦法は既に1980年のリヴォフ・ハイヴ攻略戦の時に見受けられた現象である。

 

塹壕を掘って砲爆撃を軽減させようとするBETAも原光線級の戦線投入も人間的な”会戦”の動きを行うBETAも全てリヴォフ・ハイヴで発見されたものだ。

 

あの頃からソ連軍は第二、第三のリヴォフ・ハイヴのBETAを警戒し対策を考え続けてきた。

 

それらの戦術は白ロシア前線、第1ウクライナ前線にしっかり教育されている。

 

例えばシュメリィのようなUAVを用いた光線級の射撃誘導、これもあの時の戦訓を活かしたものだ。

 

他にも塹壕内は無理に突破するのではなく接近してBETAを引き摺り出し、そこへ砲撃を叩き込んで弱体化させた後に進むべしとも指定されている。

 

序盤はこうした戦法でBETAの守備隊を引き出しては叩き、直進して引き出しては叩きを繰り返していた。

 

無論消費される時間、資源は通常の戦闘より掛かったがまだ許容範囲内である。

 

日々BETAによって破壊された荒野をソ連軍の補給トラックが走り、前線部隊との生命線を繋いでいた。

 

3月8日、第5親衛戦車軍は旧ミステルバッハまで到達し、更なる前進を続けていた。

 

『ラズカヴァレリスキーよりカヴァレリスキー1へ、15キロメートル地点に中退規模BETA群を確認』

 

「ラズカヴァリスキー了解、全隊迎撃隊形に移行しろ。砲兵隊、指定する地点に支援砲撃を要請する」

 

T-80BKからの支援要請を受けて支援砲撃は開始された。

 

通常であればこのT-80BKが属する部隊の師団が持つ砲兵ないしロケット砲兵部隊が攻撃を叩き込むのだが今回は軍直下のロケット砲兵部隊が支援砲撃を行った。

 

第199親衛ロケット砲兵旅団の一隊が配備された最新鋭の多連装ロケット砲、BM-30スメルチを用いた攻撃を開始した。

 

「座標、Л-30-5、9M55K1装填」

 

指揮車両の中で部隊長が無線機で各車両に地図を見なあがら達する。

 

準備完了(Готов)

 

撃て(Огонь)

 

数十輌のBM-30スメルチから大量のロケット弾が放たれる。

 

轟音と煙を撒き散らし、対装甲クラスター弾の弾頭を積んだそのロケットは数十キロメートル先の目標に向かって飛翔した。

 

これらのロケット弾が目標に到達するまでに既に別のロケット砲兵部隊が模擬弾を放っており、光線級による迎撃の心配はなかった。

 

つまりこれらの火力が全てBETAの部隊に叩き込まれるのだ。

 

弾着のすぐ前にロケット弾が炸裂して複数の子弾を周辺に散布し、辺りにいるBETAを引き裂く。

 

戦車級や突撃級であれば即死、要撃級、運搬級も中破以上は確実であった。

 

前線の戦車部隊は後方の支援車両からシュメリィ-1を射出し、上空から戦果の確認に入る。

 

『カヴァリスキー1、目標は6割が沈黙、戦車級群はほぼ全滅し要撃級以下中型も大多数が大破を確認』

 

「各隊隊形を維持し迎撃戦闘に移る。最優先目標は突撃級だ、他の雑魚には目をくれるな!」

 

隊列を組んだT-80BVやT-80Bの隊が前進する。

 

丁度眼前には足を何本か落とされ、致命打を喰らった突撃級が迫ってきた。

 

突撃級はクラスター弾のせいで通常より速度が落ちている、今がチャンスだ。

 

「各小隊ごとに突撃級に火力を集中しろ、戦闘開始!」

 

部隊長の命令とほぼ同時に何輌かのT-80Bが眼前の突撃級に125mm滑腔砲を叩き込んだ。

 

同時に3発以上の125mm弾を喰らって突撃級は砕け散る。

 

同じように別の戦車小隊も相手の装甲を砕いたところに125mm弾を叩き込んで突撃級を吹き飛ばした。

 

稀に生き残りの要撃級や運搬級が妨害に入るがそれは後方にいるツングースカやBMP-2が対処する。

 

BMP-2の対戦車ミサイルを数発食らった要撃級が前足を地面に突き刺して倒れ、その隣でツングースカの30mm機関砲を食らって数体の運搬級が打ち倒された。

 

残った突撃級も次々と数を減らし、最後は側面に回り込まれたところを滑腔砲で叩き潰された。

 

「各隊このまま前進、偵察は見張りを絶やすな。一丁前に穴倉に籠るBETAどもを引き摺り出してやれ!」

 

第5親衛戦車軍は更に突き進んだ。

 

各所で第3軍、第16打撃軍もBETAの戦線を押し出し、核を含めたあらゆる火力を叩き込んだ。

 

BETAも残る守備戦力を用いて必死の抵抗を見せたが、それは時間稼ぎが精一杯であった。

 

3月10日、各前線部隊は2日前から約11キロメートルほど前進した。

 

これでもBETAの抵抗により思ったより前に進めていなかった。

 

その結果かウィーン・ハイヴからついに最後の反撃部隊が展開された。

 

ある1人の参謀将校が報告書を片手に作戦室に入り、直ちに参謀長と前線司令官に見せた。

 

「これは……報告のあったBETAの変異種だな」

 

「はい、大型の突撃級ですな」

 

「通常の突撃級と共に凡そ3個旅団、こちらに向かってきています」

 

アフロメーエフ元帥はガシュコフ大将と顔を見合わせて、相談を行なった。

 

「第7戦車軍を突っ込ませるべきだと思うか?」

 

「どうせです、第50軍も投入してしまいましょう。第16打撃軍と第48軍で防ぎつつ、予備の2個軍で挟撃すれば撃滅出来ます」

 

参謀長の提案に確証を得たアフロメーエフ元帥は参謀や通信士官らに要請を出した。

 

「レデャエフ大将らに伝達、渡河の後側面より逆襲部隊のBETAを撃滅するよう伝達せよ」

 

「了解…!」

 

「移動前にも戦力を潰したい。宇宙軍と全ての航空軍に迎撃に向かうよう命じろ」

 

「はい!」

 

大体の命令を出すとアフロメーエフ元帥は場所を移して別角度から戦況を記した地図を見つめた。

 

ポケットからタバコを出して火をつけ、作戦室ではあるがタバコを吸った。

 

こうでもしないとやってられない、数十万将兵の指揮とは莫大な疲労とストレスが科されるものだ。

 

タバコを口から離し、近くにある指揮棒を持ってアフロメーエフ元帥は地図を指し示した。

 

「敵の逆襲部隊が接敵するのが明日として1日、敵の脅威度とこちらの戦力で言えば前線部隊と合わさって撃滅には3日以上掛かるだろう。それから突破まで恐らく1日、包囲に更に1日、ほぼ1週間かけるわけか」

 

「ですが同志元帥、今回の攻勢はこれでもかなりペースの速い方です。元帥の見立てが正しければ我々は2週間とちょっとでハイヴまで迫れることになります」

 

「その分敵の野戦軍はハイヴの中に籠っているということだろう?もしかすると突入部隊はハイヴの中で1ヶ月過ごすかもしれん」

 

ガシュコフ大将らは皆顔を顰め、俯いた。

 

ハイヴの半径、規模、部隊、どれを取っても恐らく今作戦が最大規模だ。

 

むしろ本当の地獄はこれからだとアフロメーエフ元帥は言いたかった。

 

尤もそれすら戦いが始まらなければ分からない、これはあくまで予測である。

 

ただ1つ言えることはあった。

 

「今回も厳しい戦いになりそうだぞ」

 

 

 

 

 

予想通りBETAの逆襲部隊は3月11日の朝頃第16打撃軍、第48軍の前線部隊と激突、戦闘が始まった。

 

各師団は即席の防御態勢に移行し、BETAを迎え撃つ。

 

これでも初期は改造突撃級の性能と物量を組み合わせたBETAなりの諸兵科連合戦術で優位は取れていた。

 

隷下の師団は遅滞戦闘を行いつつ後ろへ下がり、BETAを削りながら味方部隊到着の時間を稼いだ。

 

この頃には既に第7戦車軍はオーストリアへ入っている。

 

未整備の大地が多いがそれでも主力部隊は前線を目指して最高速度で移動を続けていた。

 

それに砲火力の面で言えば確実に強化されている。

 

移動中の第7戦車軍、第50軍の砲兵部隊は先んじて射程距離内まで移動し、前線に対する砲撃援護を開始した。

 

これで砲火力は実質4個軍、対空戦闘に専念する光線級が1個連隊いても半日あれば殲滅出来るだろう。

 

しかも砲撃に合わせて仕込んだ9K52 ルーナ-Mの核弾頭何発かが光線級の対空をすり抜けて敵部隊の後方に命中した。

 

多数の光線級が撃破され、他の通常戦力もかなりの損害を負った。

 

部隊を再編する為に1個旅団ほどが一旦後退し、3月11日の戦闘は終わった。

 

加えてソ連空軍の第26航空軍、ソ連防空軍の第11防空軍が定期的に地上支援に現れ、少しづつだが改造突撃級の数を減らした。

 

前線火力をSu-25が補い、後方へ浸透して爆撃を行うSu-24をMiG-23やMiG-25らが援護する。

 

最精鋭部隊が乗り込むSu-27、MiG-29らは改造突撃級の撃破に専念し、それに合わせて地上部隊も支援を行った。

 

そして3月12日には第7戦車軍から選抜された先遣隊が到着、第16打撃軍の戦車隊と共同して敵最右翼の部隊を一部包囲殲滅した。

 

これを好機と踏んだアフロメーエフ元帥は隣の第1ウクライナ前線、後方のチェコスロバキア人民軍に向けて支援を要請した。

 

ここで一気に敵右翼の戦力を捻り潰すつもりだ。

 

とは言っても第1ウクライナ前線といえど、それほど大規模な余裕はなかった。

 

第1親衛軍と第60軍はライタ川を渡河して追撃中、第3親衛戦車軍も第4軍共々ドナウ川支流の敵戦力の撃退に忙しかった。

 

砲兵隊は元より航空軍、防空軍ですらそれほど割く余裕はない。

 

しかしここで正面の右翼が崩壊して白ロシア前線が一気にハイヴまで近づけばこちらも余裕が出る。

 

自分達の戦線を安定させる為にも支援は行いたかった。

 

「参謀長、送れる隊は」

 

ヤゾフは隣で軽食を取りながら前線の報告を確認するモイセーエフ大将に尋ねた。

 

「第2防空軍は全域の警戒に回してますし、第8と第17航空軍もそれぞれの正面に張り付かせてるのでなんとも…第1独立親衛連隊も同様です」

 

「せめて中隊、欲を言えば連隊規模の戦力があればな…」

 

ふとヤゾフは近場のトルナヴァに設置した飛行場に降りた部隊の名称が目に入った。

 

第306独立戦闘航空連隊、今では赤旗の称号が入っているフレツロフ中佐の戦術機部隊だ。

 

同連隊は地上支援を終えて10分ほど前に飛行場に戻り、整備と補給を受けている最中であった。

 

つまりこの後は手隙ということだ。

 

「参謀長、第306独立戦闘航空連隊に通達、整備終了の1時間後に白ロシア前線の左翼戦線援護に迎えと伝えろ」

 

「306……了解、直ちに通達します」

 

敬礼して命令を承諾した。

 

前線司令部から送られた命令は即座にトルナヴァの飛行場にいたフレツロフ中佐らに伝わった。

 

彼は開口一番「えーっ!?」と叫び、理由をメデツィーニン少佐に尋ねた。

 

「…手の空いてる隊が我々しかいないのだろう。それに変異種との戦闘経験が豊富なのも我々の隊ということになる」

 

「……マジかぁ……出撃は何時間後だ」

 

「整備が終わったら1時間後、あのペースだと2時間後に出撃だな」

 

フレツロフ中佐は軽く汗を拭き、水を飲んでから今度はブリツェンスキー少佐に尋ねた。

 

「ブリツェンスキー少佐、パイロットの様子はどうだ。正直俺は2時間後どころか1時間後でももう一度戦えるとは思うが」

 

衛士も人間である、機体を動かせば振動や衝撃で疲労が溜まるし、戦闘のストレスもある。

 

部隊を高練度のまま長続きさせるには些細な気配りが重要だ。

 

メンタルブレイクを起こして連隊全体が危険に陥るなど御免被る。

 

「私も同意見です、1時間あれば皆体力は回復するでしょう。戦意も高いままですし一発私と中佐で発破をかければ変異種相手でもやってくれますよ」

 

「主力の戦車軍も回ってきてるらしいし我々は変異種の撃破に専念すればいいだろう。他の有象無象はなるべく別の隊に任せて変異種を掃討、それを各中隊規模で行えば十分なはずだ」

 

メデツィーニン少佐は明確に攻撃目標を絞り、なるべく連帯の負担を減らした。

 

だが共に戦い、ある程度練度が分かっているフレツロフ中佐はもう少し戦果を高く望んだ。

 

「いや、中隊規模ではなく2個小隊ごとで1体だ。それくらいはいけるし、俺らの編隊なら1体はいける。5体ずつ潰して回れば十分なはずだ」

 

「いけるか?」

 

「勿論、なあ」

 

「これに関しては同意見ですな。少佐は周辺警戒を頼みます」

 

メデツィーニン少佐は頷き、任せたと2人の肩を軽く叩いた。

 

この後フレツロフ中佐らは部下達に軽く任務説明を行い「勝てば勲章間違いなし、次の連隊長はお前らの誰かだ」と衛士達を鼓舞した。

 

皆戦術機であらゆる修羅場を潜り抜けてきた精鋭である、魂は戦場にあるしそれを嬉々として受け入れていた。

 

メデツィーニン少佐も直接衛士達に話し、彼らの不安を和らげた。

 

こうした気配りのお陰かメデツィーニン少佐の仲間内からの評判は高い、同じ衛士として戦場に出たかったと彼の負傷を悔やむ者もいるほどだ。

 

特に1名から熱烈に好かれていた。

 

「ルヴィロヴァ上級中尉」

 

「少佐!」

 

戦術機の装備をチェックしているルヴィロヴァ上級中尉にメデツィーニン少佐は声をかけた。

 

彼女は衛士強化装備の上から空軍のレザーフライトジャケットを着ている。

 

元はメデツィーニン少佐がパイロット時代に着ていたものでテストパイロット時代に彼女にあげた。

 

多くの衛士はかつてのパイロット時代の名残として強化装備の上からジャケットか元のパイロットスーツを着ている。

 

フレツロフ中佐だってソ連空軍のコットン素材の最新フライトジャケットを着ていた。

 

メデツィーニン少佐は度々「そろそろ新しいの貰えば?」と新しいジャケットを勧めたが上級中尉は頑なに断っていた。

 

「疲れてないか?この後も出撃だ、休んだ方がいい」

 

「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 

ルヴィロヴァ上級中尉からすればメデツィーニン少佐は敬愛と性愛の対象であり、彼の存在は絶対である。

 

人として優れているだけでなく、自身が傷だらけになろうと前を向き続けているその姿に惚れた。

 

「少佐こそお疲れではありませんか?まだお仕事も……」

 

「気にするな、パイロット以外もそれなりに出来る、少し時間が空いたから来ただけだ。次の出撃も機体してるよ」

 

ルヴィロヴァ上級中尉の無表情な顔に笑顔が広がり、口角が上がった。

 

「はい!必ずや少佐の為に戦果を!」

 

「ハハッ、まあ生きて帰ってきてくれたらそれでいいよ。後、私の代わりと言ってはなんだがフレツロフを頼むぞ、支えてやってくれ」

 

「はい!」

 

少佐は期待を込めて軽く肩を叩き、手を振ってその場を後にした。

 

彼女には彼女の戦場があって、彼には彼の戦場がある。

 

それらは相互作用し、1つの戦争となる。

 

誰も1人では戦えないのだ。

 

 

 

 

整備士達の弛まぬ研鑽と滞ることのない補給物資の輸送によって第306独立戦闘航空連隊は与えられた時間内に戦闘可能となった。

 

衛士達は休憩を終え、自身の戦術機に向かう。

 

連隊はまだMiG-29と27の混成であり、その大半はまだMiG-27であった。

 

システムをチェックし、武装を選択、出撃態勢に移行する。

 

既に先行してオルゼルスキー少佐の隊が出撃し、今滑走路にいるのはデルーギン少佐の隊であった。

 

『メルクーロフ隊出ます!』

 

「了解、すぐに向かう」

 

丁度デルーギン少佐のMiG-29がバンカー内の格納庫から出ると滑走路から1機のMiG-29と2機のMiG-27が飛び立った。

 

その後にデルーギン少佐らも続く。

 

誘導兵がデルーギン少佐のMiG-29に敬礼し、少佐も機体を動かしてその敬礼を返した。

 

「各機、編隊を崩すなよ。行くぞ!」

 

滑走路を3機の戦術機が飛び立ち、隷下の中隊に合流する。

 

滑走路から一番最後に飛び立ったのはフレツロフ中佐の編隊であった。

 

中佐のMiG-29は両手に突撃砲を搭載し、兵装担架には長刀と125mm対物砲を装備していた。

 

それに合わせてKh-29を数本備え、対突撃級装備の構えでいた。

 

逆にルヴィロヴァ上級中尉は完全に突撃級の意識を引く装備を搭載していた。

 

シールドマウント型のGSh-6-30に各種ナパーム弾、突撃砲に長刀。

 

その隣にはほぼフレツロフ中佐と装備が変わらないブリツェンスキー少佐のMiG-29がいた。

 

3機は滑走路に入り、そのまま誘導に従って離陸する。

 

各中隊に合流するとフレツロフ中佐の編隊は隊列の真ん中に入り、陣形を維持しながら低空で飛行した。

 

「各隊、説明した通り我々の優先攻撃目標は変異種の突撃級である。各編隊2個で揺動と撃破を行い敵を殲滅しろ」

 

『ここが正念場だ、我々がハイヴ専門ではない最精鋭だということを見せてやれ!』

 

ブリツェンスキー少佐の呼びかけに衛士達が返答する、皆元気のいい返事だった。

 

中佐は通信を切って今度はモースク1に話しかけた。

 

何でも1つやってみたい策があるそうだ。

 

「それで、お前のいう策はなんだ?悪どいことだったら承知しねえぞ」

 

各部隊にシュメリィ-1が配備されている。これら無人機を私が操作して物理的な攻撃、或いは偵察情報を君達に提供する

 

「するとどうなるんだ?」

 

変異種BETAの触手の動きが掴みやすくなる。それに無人機を盾にすることで生存率の向上にも繋がる

 

「思ったより突拍子もない案じゃなくて安心したぜ。で、その無人機はどこから調達するんだ?」

 

言っただろう、前線部隊から”()()”する

 

フレツロフ中佐は明らかに不満げな顔を浮かべた。

 

拝借といえば聞こえはいいが要は地上部隊が持っているシュメリィ-1の制御権を奪ってそれらの情報をフレツロフ中佐らに提供するということだ。

 

つまり地上部隊からすれば最悪シュメリィ-1が突然変な動きをした挙句撃破されるということになる。

 

「……今度、お前専用の無人機部隊を作って貰え」

 

いい案だ、参謀本部に提案しよう

 

「言ってろ……各機、間も無く前線だ、上手くやれよ…!」

 

連隊はモラバ川を越えて陽性地点に急行した。

 

戦闘はバート・ピラヴァルトの手前辺りで行われていた。

 

BMP-1やBTR-70、T-72らの混成部隊が改造突撃級に苦戦を強いられている。

 

目標変異種10、うち3体が方向を転換し接近中

 

「上級中尉、少佐、いざとなったら援護を頼む。ちょっと無茶をする」

 

『中佐?何を?』

 

フレツロフ中佐は武器を長刀と125mm砲に持ち替え、機体の速力を上げた。

 

前方からは言われた通り3体の改造突撃級が接近してくる。

 

3体は若干距離を取っており、職種の長さと距離を鑑みるに3体の触手が同時に迫ることはない。

 

であればやれる。

 

フレツロフ中佐の考えを読み取ったモースク1はモニターに触手攻撃の予想を展開し彼をサポートした。

 

こういう気配りは出来るらしい、フレツロフ中佐のMiG-29は長刀を構え速度そのまま改造突撃級に迫った。

 

相手の射程距離に入り、突撃級は一斉に触手を解き放つ。

 

MiG-29はコンマ数秒のところで触手を回避しそのまま振り上げた長刀で全ての触手を切断した。

 

改造突撃級に接近しまずは前足、続いて後ろ足を装甲のない部分に刃を当てて切断し、露わになった装甲のない切断面に125mm弾を2発撃ち込む。

 

弾頭は内側で炸裂し、改造突撃級の前部を吹き飛ばした。

 

ダメージの許容範囲内を超えた改造突撃級は機能を停止して倒れ込み、残り2体はデルーギン少佐の中隊が応戦に入った。

 

フレツロフ中佐は単機で改造突撃級を仕留めてしまったのだ。

 

「残った隊は止まらず前進!味方の支援に入るぞ!」

 

そう言ってフレツロフ中佐は残る14機の戦術機を率いて前線部隊の救援に向かった。

 

『とんでもない無茶を!』

 

「無茶でもあれで道が開けた!二度はやらん!今度は3機で潰すぞ!」

 

『了解…!』

 

『了解……悪い手本ですよほんと』

 

ブリツェンスキー少佐はため息を放ち、ルヴィロヴァ上級中尉は若干引いていた。

 

フレツロフ中佐も興奮と後から襲ってくる恐怖に引き攣った笑みを浮かべたまま次の戦闘に突入した。

 

かなり無茶だと思ったがそれでもやれるとも感じた。

 

結果改造突撃級の分断に成功し、後2、3分もすれば残りを始末したデルーギン隊が合流するだろう。

 

残った第306独立戦闘航空連隊は改造突撃級に強襲をかけ、相手の注意を引いた。

 

改造突撃級は三者三様に分かれた。

 

戦術機の迎撃に専念する個体もあれば地上部隊の追撃に専念する個体もある。

 

若干部隊としての輪が乱れたことでフレツロフ中佐達からすればやりやすくなった。

 

しかも戦闘状況の詳細はモースク1がシュメリィ-1越しに確認しており、その情報をメデツィーニン少佐が受け取っている為連隊全体の視野が広くなっていた。

 

まず揺動のMiG-29やMiG-27が相手の触手を引き付けて、その間に152mm無反動砲を持った機体が空対地ミサイルと共に改造突撃級に攻撃を仕掛ける。

 

装甲が強化されているとはいえ打ち破られたところに十分な火力が叩き込まれれば無事ではいられない。

 

揺動の戦術機は華麗に触手を躱し、或いは近接装備の刃で切り落として引き付けた。

 

既にオルゼルスキー少佐が1体ほど改造突撃級を撃破し、次の個体に攻撃を仕掛けた。

 

これで残り6体、とんでもない数だが終わりは見えてきた。

 

ルヴィロヴァ上級中尉のMiG-27がGSh-6-30で敵を引き付けている間にフレツロフ中佐とブリツェンスキー少佐が長刀で触手を切り落とし、攻撃不可能となった所に同時に125mm砲を撃ち込む。

 

装甲が砕けた所にKh-29を叩き込んで吹き飛ばし、まだ辛うじて生きている個体に上級中尉が120mm弾を叩き込んだ。

 

『1体撃破!』

 

「次も行くぞ!」

 

オルゼルスキー少佐の隊が引き付けて攻撃を叩き込んで弱らせた所に地上部隊のT-72BやBMP-1が攻撃し、その1体も撃破する。

 

これで4体、各編隊は次の改造突撃級に移った。

 

戦術通り揺動が相手の触手を引き付けたところで上空から数発の152mm弾とKh-29やkh-25が飛んでくる、デルーギン少佐の中隊である。

 

上空からの連続攻撃で一度に2体の改造突撃級が撃破され、残りは2体となった。

 

『遅れたか!?』

 

「早かったじゃないか!」

 

2対27に地上部隊、ここまで来れば勝敗は決まったも同然である。

 

十分な砲火力が2体の改造突撃級に叩き込まれ、そのまま撃破された。

 

各機が地上に着陸し損害と機体状況を確認する。

 

『第306連隊か!?助かった!』

 

地上部隊の指揮車両から感謝の言葉が送られた。

 

「我々は他箇所の変異種を掃討する為これ以上の支援は出来ない。麾下部隊の健闘を祈る」

 

『了解した、そちらも奮闘を期待する。全隊前進!このまま押し返すぞ!』

 

指揮車両に続いて地上部隊の車両が次々と前線へ向かう。

 

各車両からは車長やデサントした兵士達が手を振って感謝と声援を送った。

 

『フレツロフ、そこから12キロ離れた場所で分隊規模の変異種と友軍が交戦中。今座標を送る』

 

メデツィーニン少佐からの座標を受け取ったフレツロフ中佐は一言、モースク1に「これもお前のおかげか?」と尋ねた。

 

モースク1もただ一言、”Да”とだけ答えた。

 

「…了解した、各機弾薬を装填したら指定座標に向かい友軍の支援に入る。今の要領で連中を殲滅するぞ、変異種は今日中に絶やしてしまえ!」

 

『了解!』

 

同時に27機の戦術機が次の戦場へ急行する。

 

この日だけで第306独立戦闘航空連隊は六度転戦し、味方の窮地を救った。

 

合計でソ連軍換算の1個戦車大隊規模の改造突撃級を撃破し、BETAの迎撃戦力の要に大きな傷をつけた。

 

その傷を更に膨らますかのように第7戦車軍隷下の第3親衛戦車”コテリィニコヴォ”赤旗・スヴォーロフ勲章師団が側面より本格的な突撃を開始。

 

特に最右翼から改造突撃級を撃破されたのも相まって瞬く間に分断され、各所で殲滅された。

 

アフロメーエフ元帥の予想に反して右翼逆襲部隊の殲滅は2日で終わり、白ロシア前線左翼の部隊はドナウ川まで到達した。

 

右翼戦力の消失により戦線のバランスが完全に崩壊し、BETAの守備は完全に破綻した。

 

BETA右翼部隊の消失は第1ウクライナ前線の戦闘にも影響した。

 

何せドナウ川の手前まで白ロシア前線の部隊がやってきたのだからBETAは正面の第3親衛戦車軍、第4軍だけでなく押し切った第16打撃軍らから側面攻撃を受けた。

 

守備隊は瞬く間に撃破、後退しハンガリー方面の守備も崩壊しつつあった。

 

まず3月15日に第5親衛戦車軍が旧ドナウシュタットの手前まで進出、戦線を他の諸兵科連合軍に任せて包囲を開始した。

 

第3軍、第10軍らは残った敵戦力をドナウ川の向こうに叩き出し、NATO中央軍集団との包囲殲滅戦を開始、正面の形成は完全に片がついた。

 

そして3月16日、ハンガリー方面の守備隊は左右からの挟撃を受けて壊滅、一部はハイヴに撤退した。

 

白ロシア前線、第1ウクライナ前線でウィーン・ハイヴの包囲網が完成するのは3月17日昼頃のことである。

 

いよいよハイヴ攻略戦が始まる、むしろこれからが本番だ。

 

BETAの籠城戦はこの日から始まった。

 

 

 

つづく

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