マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
「ワーシャおじさん部隊」は戦いに立つ
敵は手強いが それは戦場の常
ワーシャおじさんよ、空挺軍を守り給え!
-”ワーシャおじさん部隊”より抜粋-
ソ連軍はウィーン・ハイヴ周辺に包囲網を展開した、だがこれはハイヴ攻略の始まりに過ぎない。
本当の戦争はこれから始まるのだ。
ウィーン・ハイヴは規模で言えばフェイズ3.5に該当する個体である、しかし通常のフェイズ3とは状態が違っていた。
まず上部構造物は120メートルほどで成長を止めている、ただし通常と違って主縦孔を繋ぐ穴がなく構造物と同じ材質で固定されていた。
代わりに構造物の各所に対空防御陣地として光線級が入るスペースが設けられており、光線級、重光線級が敵を待ち構えている。
何より特徴的なのがハイヴから拡張された広間の半径である、これは全て合わせて約13キロメートルほどに及んだ。
つまりウィーンのベルヴェデーレ宮殿からドナウシュタットの最果て、ウィーンとニーダーエスターライヒの境目から1キロ先までハイヴの広間が地底に広がっているのである。
そして最大深度1キロメートル、フェイズ4に匹敵する長さだった。
しかもこうした拡張による物資は全て構造物の強度向上と広間から地表への出入り口に設置された衝撃吸収防壁の建設に回されている。
普通に通常戦力だけ用いて突入を行えば攻略は難しく、核兵器やG兵器を用いても1ヶ月以上掛かると予想された。
ソ連軍はこれらの攻略の為に第1親衛攻撃衛星軍、第2攻撃衛星軍、ソ連戦略ロケット軍第31ロケット師団による同時攻撃を事前に策定している。
攻撃の後、2個前線隷下の3個航空軍、2個防空軍から編成したハイヴ攻略部隊と第98親衛空挺師団、ソヴィエト社会主義共和国連邦60周年記念第103親衛空挺レーニン・赤旗・クトゥーゾフ勲章師団ら空挺軍をハイヴ内に突入させる予定であった。
通常のハイヴであれば戦術機部隊で事足りるが今回はそうもいかない。
これらの他に予備戦力としてポーランド人民空軍とポーランド第6空挺師団、チェコスロバキア人民軍の空軍部隊を待機させてある。
それにNATO中央軍集団が突破に成功すればNATO空軍も突入をする予定でいた。
圧倒的な大戦力であるが対するBETAもハイヴ内にまだ6個軍近い戦力を残している、そう易々と突破されるつもりはなかった。
一連の地上作戦を終えたヤゾフは司令部の作戦室で他の参謀達と共に攻撃を待っていた。
「戻ったか」
丁度別室にいた作戦部長のバリーニィキン少将が敬礼と共に入ってきた。
「チョルナ方面からまた連隊規模の攻撃が続いています。ラープツァ川の防御線で防いでいるので問題はありませんが」
「これで3箇所目か、連中としてもウィーン・ハイヴの包囲を解きたいようだな」
幾つかの防衛線で連隊、旅団規模のBETAが攻撃を仕掛けていることが各所の報告で判明している。
出現元はブダペスト・ハイヴのBETA、おそらくは小手調べで突破出来ると判断したら主力本隊を送り込むつもりなのだろう。
だがそんな事はさせまいと第1ウクライナ前線は防備を固めている。
「少なくとも軍規模のBETAならまだ耐えられます」
「ああ、退いていくようなら深追いはせず防御陣地の強化と再構築に努めろ。しつこくやってくるなら戦術核でも叩き込んで潰せ」
「はい」
数個軍規模の方位突破戦をやってくる可能性はあってもブダペスト・ハイヴが全戦力を上げて突破を行う可能性はゼロに等しい。
そんなことをすればベオグラード解放によってセルビアの旧国境沿いまで進出した南欧前線、第2ウクライナ前線によって逆にブダペストを包囲されかねない。
かつて破竹の勢いでウクライナまで進出した欧州のBETAは今や勢いを失い、袋の鼠である。
「ソ連宇宙軍、攻撃開始時刻です!」
通信士官の報告とほぼ同タイミングで第1親衛攻撃衛星軍の部隊が地上に向けてまず陽動の通常弾頭を発射した。
ウィーン・ハイヴの頭脳級はかなり学習が進んだ個体である。
孔の穴に光線属種を常駐させておけばいざという時に大損害を受けると認識していたし、射撃と早急なる移動が重要だとも理解していた。
その為通常弾頭の攻撃で「迎撃をしなければ」という意識を与えないと敵戦力を削ることにはならない。
よって彼らはエビで鯛を捕まえる戦法を取った。
対空陣地で通常弾頭を迎撃した光線属種が次に受けたのは回避不能の”ポーリュス2”のG元素レーザーであった。
たった一撃で上部構造物は溶解し、中にいた光線属種共々消し飛んだ。
それとほぼ同タイミングで”ポーリュス1”、”ポーリュス3”らがハイヴの周りをレーザー照射して無理やり中身を焼き、その上から第2攻撃衛星軍が核攻撃を加えた。
第2攻撃衛星軍とタイミングを合わせてソ連戦略ロケット軍第31ロケット師団も戦略核を投射、ウィーン・ハイヴ半径13キロの隅々にまで火力を叩き込んだ。
この攻撃で光線属種含め多数のBETAが損害を受けた。
無論それは地表に近しいBETAの話であって近深くのBETAは無傷のまま敵を待ち構え続けている。
「各種攻撃部隊の対地支援終了しました、これより第二段階の突入に入ります」
「各先発隊の発進を確認、15分後にハイヴに突入します」
「間も無くですな」
ヤゾフの隣にいるモイセーエフ大将がそう呟いた。
「長い戦いになりそうだ」
ヤゾフはハイヴの想定範囲が書かれた地図を見ながら疲れたような声音で漏らした。
最低1ヶ月、もしかしたら2ヶ月以上ハイヴと格闘するかも知れない。
将兵の心労を考えれば素早く終わらせたいのだが恐らくそれは多大な犠牲を含んだ結果だ。
まだザグレブ、ブダペストがある、ここで兵をすり潰すわけにはいかない。
であれば多少の疲労を科してでも時間をかけて確実に攻略する他なかった。
将兵を使い潰してでも勝たねばならない時とそうではない時がある、今回は全体を考えれば後者だ。
包囲網は完成し、兵站線も恐らくは安定して繋げられる、いや繋げられるよう指揮を取らねばならない。
先発隊は中央の孔、各所の出入り口を確保しハイヴ内に突入した。
中では核攻撃で弱体化したBETAがおり、一部では戦闘になった。
とは言っても対ハイヴ戦装備で万全の戦術機と核攻撃を喰らって損傷したBETAでは一方的な虐殺が繰り広げられるだけだ。
火炎放射器を背負った戦術機が残敵を焼き尽くし、周辺を確保した。
これで橋頭堡は確立し本格的なハイヴ攻略戦が始まる。
ウィーン・ハイヴとの本格的な対決であった。
NATO中央軍集団は会戦に勝利した3月14日から21日の1週間で戦線をイップス川の手前まで押し出した。
ドナウ川支流の前面から先はBETAの本格的な防御陣地が形成されているが所詮は猿真似、BETA大戦が始まるまで本格的なソ連軍との戦闘を目的としていたNATO軍の敵ではなかった。
軌道爆撃と空爆を叩き込みながら前進し、地上部隊を進ませてBETAを塹壕から出して平地での先頭に持ち込むことにより、早急に相手を撃破した。
F-15、F-16、トーネード、ミラージュらが代わり代わりCAS任務と阻止攻撃任務をこなし、地上部隊の進路を開く。
この頃になるとウィーン・ハイヴは機動予備戦力を正面のソ連軍相手に使い果たした上、包囲が始まっていた為残った味方を回収出来ず、かと言って助けることも出来なかった。
BETAに与えられた命令はその場の死守であり、特段死という概念がないBETAは言われた通りに死守を決め込んでいた。
死ぬ覚悟もないから死守と言ってもこれといってBETAが奮闘する訳でもない、所詮は生き物ではないから窮鼠猫を噛む事もしない。
淡々と突破と掃討戦が繰り広げられていた。
しかしウィーン・ハイヴにも考えがあった。
平地のBETAは大規模に動けば恐らく何らかの方法で殲滅される、BETAの数や図体どれを取っても的に発見される恐れがあった。
しかし山岳部のBETAにはまだ一抹の望みがあった。
ウィーン・ハイヴは山岳部に展開するBETAを全てザグレブ・ハイヴへ向かうよう指示を出した。
現状回収出来ない上に包囲から解放するには戦力として足りぬが、ザグレブ・ハイヴに回収されれば反撃の目処は立つ。
この頃から山岳戦は一部のBETAが後衛戦闘を行いつつ主力が軌道爆撃を受けつつも撤退するという流れに移っていった。
では回収出来ない味方はどうするか、後は集団で突貫させて全滅するまで戦わせるしかなかった。
尤もそれを決めたのが3月19日のことであり、翌日の3月20日からは白ロシア前線による一部部隊がドナウ川を越えて攻勢を開始したことにより計画は頓挫した。
第3軍は包囲網を一部チェコスロバキア人民軍と交代し、まず先発隊を第120親衛自動車化狙撃兵”ロガチョフ”赤旗・スヴォーロフ及びクトゥーゾフ勲章師団としてドナウ川を越えて攻勢作戦を開始した。
師団は3個自動車化狙撃兵連隊、1個戦車連隊、1個砲兵連隊と工兵支援や偵察、衛生兵など複数の大隊で構成されている。
そのうち第355戦車連隊が前線を打ち破り、第334親衛自動車化狙撃兵”ビャウィストク”赤旗・クトゥーゾフ及びアレクサンドル・ネフスキー勲章連隊、第339親衛自動車化狙撃兵”ビャウィストク”赤旗・スヴォーロフ・クトゥーゾフ及びアレクサンドル・ネフスキー勲章連隊らが戦果を拡張する。
一部のBETAは方向を転換し、直ちにこれらの部隊を迎撃したが結局は時間の問題であった。
第310親衛自走砲兵”ビャウィストク”連隊のBM-21グラードのロケット弾に合わせてアカーツィヤや各連隊が有するグヴォズジーカの砲撃で敵の野戦陣地を耕し、そこを戦車とBMPの履帯で均していく。
更に後方からは続々と第3軍の増援が集まっており、3月23日の昼頃には同師団はトライゼン川の渡河準備を始めていた。
当然この情報はNATO中央軍集団司令部にも入ってきている。
「それで、君らの第3軍はどのくらいのタイミングで合流出来るのかね?」
パットン4世は連絡将校として派遣されたソ連地上軍の中佐に尋ねた。
「第3軍はほぼ全軍がドナウ川を越えました。先ほどピーラッハ川の渡河に成功したとありましたので恐らくはメルク、ロースドルフ、ヒュルム、ハインベルク、キルブのラインかと」
「我が軍の最も進出している部隊の位置はどこだ」
「第1機甲師団がリストベルクにいます」
パットン4世は地図を見て位置を確認する。
「早くて今日中、遅くて明日には前線部隊が合流するな……各隊に伝達、西進中のソ連軍と戦闘地域で合流する可能性がある為誤射に十分注意するよう伝えろ」
「はい…!」
「同様のことをそちらの第3軍にも頼む。ここにきて”
中佐は静かに頷き、第3軍へ連絡に向かった。
ある程度指示を出し、一息つくとパットン4世は自身が何か心が焦っている気がしていた。
戦闘では勝っているが何故だろうか、恐らく自身が軍団長の時のように前線の風を感じていないからだ。
今回の戦闘でパットン4世は司令部に篭りっきりだった、時々抜け出して視察に向かおうとしたが部下に止められた。
親父が今の自分を見たら怒鳴りに来るぞと苦笑を浮かべ、指揮官としての責務を果たすよう努力した。
パットン4世の予想通り、NATO中央軍集団とソ連第3軍の合流は3月24日より翌日の25日となった。
この間にBETAは各所で分断され、包囲殲滅されており、本来想定されていた防衛線の機能は果たしていなかった。
既にNATO軍、ソ連軍双方で両軍の戦術機を見かけており、状況によってはソ連軍の近接航空支援にアメリカ空軍のF-16が駆けつけたケースもあった。
結果、両軍はローイツ川の側にあるローイツドルフで合流することとなった。
第1機甲師団隷下のM1エイブラムスと第120親衛自動車化狙撃兵師団のT-72Bが対峙し、互いの戦車長同士が声をかけた。
随伴のBMP-1から降りたソ連兵とブラッドレーから降車したアメリカ兵が出会い、握手をして肩を組み合い、合流を祝った。
中にはチェコスロバキア解放以来の再会だった将兵もいる。
ローイツドルフの再会を皮切りに各所でソ連軍とNATO軍が合流したという報告が立て続けに入ってきた。
もうこの頃にはBETAは殆ど組織的な抵抗力を失い、残敵掃討の段階に入っていた。
ある要塞級群を米ソの戦車隊で撃破し、お互いの戦車兵が記念撮影を行ったりしている。
各所で米独墺ソの旗が立ち並び、出会いと今日までの勝利を喜んだ。
まだウィーン・ハイヴは陥落していないがようやく一区切りがついたとも言える。
少しづつヨーロッパは元の形に戻りつつあった。
ハイヴに突入してほぼ1週間が経過した。
少なくとも初動の戦力投入は成功し、各所にはソ連軍が建設した橋頭堡が維持されている。
そこから続々と戦術機部隊と空挺師団が投入され、整った作戦指揮の下攻略戦を開始する。
基本的に今回のハイヴ攻略作戦において突入部隊は大きく2つに分けられていた。
まずとにかく下層に突き進んで頭脳級撃破に挑む戦術機部隊、こちらは通常の空軍及び防空軍が担当する。
もう1つは横ばいになって広がっている各所の広間制圧を優先する部隊、主に空挺軍が中心となっていた。
とはいえ戦術機の数が空挺軍単独では足りぬ為、広間制圧には空軍及び防空軍や地上軍の戦術機部隊も混ぜ込まれている。
当然だがフレツロフ中佐ら第306独立戦闘航空連隊は下層に突き進む部隊である。
ソ連空挺軍の突入部隊は基本車両と戦術機を単独ではなく部隊単位で運用し、特に歩兵部隊が単独で動くことは殆どなかった。
いくら精強たる空挺兵とはいえ、ハイヴ内で孤立すれば中隊単位であろうと全滅は免れない。
如何に部隊規模で機動力と火力で領域を広げるかが広間の制圧部隊では重要だった。
その為に必要なのはまず情報である。
ハイヴに籠っていようと平地で野戦をしようと1にも2にも必要なのは情報であった。
ここで多用されたのがモースク1を制御機能とした無人機群である。
シュメリィ-1を何機か先行投入して周辺の情報を探り、周囲の安全や敵影を感知する。
その後に余力がある部隊は無人の戦術機、M-21などを先行させてその後に自分達の隊が奥地へ進んだ。
もし敵が強襲してきても損害は無人機だけで済むし、場合によってはこの無人機が相手を撃退することもあった。
衛士の戦闘データが蓄積してきたせいか近年のモースク1は明らかに機体操作の性能が向上している。
MiG-21の無人機仕様であるM-21でもBETAの突進を回避し、背後から相手を攻撃して逆に撃破する場合も増えていた。
「モースク1これ性能上がってますね」
後方の司令部に配置された無人機の指揮統制室で1人の技術大尉が技術中佐にふと呟いた。
彼らはモースク1の開発段階から携わっており、その成長を日々観察していた。
「単純に蓄積されたデータが増えたからかな」
「後各パイロットに配備したデバイスの戦闘データが意外と役立ってるのかも、割と便利だという評判も聞きますしこれは正式に量産してもいいかもしれませんな」
「なんとか上が納得する文を書かんとな」
互いに苦笑し、モースク1の管理観察作業に戻った。
実用化と開発の面では西側、特にアメリカに遅れを取ったがまだ巻き返せるチャンスはあった。
M-21の後方を6機の戦術機が続く。
今回のハイヴ攻略戦では明確に戦術機の運用部隊は2個小隊6機で常に行動せよと指示が出た。
このうち1機は火炎放射器を装備し、1機は四連装のGSh-30-2機関砲を装備、2機は152mm無反動砲を装備し、残り2機は突撃砲を装備しつつ各員の得意分野の兵装を装備せよと指定されている。
この編成には合理的な理由がある、ハイヴという閉所において適度に火力を補える上に制圧範囲と対応能力が広がるのだ。
基本的に広間には火炎放射器と機関砲の射撃で十分対応可能であり、152mm無反動砲の火力は突撃級を一撃で破壊出来る威力を持つ。
いざという時の対応戦力として取り回しのいい突撃砲を主武装とする2機の戦術機がいれば対応能力は向上する、バランスの取れた部隊になる。
実際この編成で戦果は出ていた。
制圧速度はともかくとして損害は格段に減少し、敵に与えられる戦果は上昇していた。
航空機というよりは歩兵部隊の運用に近しいがハイヴという閉所の戦闘ではどうしてもそうなってしまう。
この戦術機部隊も隊長機が突撃砲を持ち他が各自で火炎放射器、機関砲、無反動砲を有していた。
なおこの戦術機部隊、空軍や防空軍の所属ではなく第98親衛空挺師団、つまり空挺軍所属の戦術機であった。
隊長のイヴァン・ペトローヴィチ・イヴァーノフ中佐は空挺軍衛士の中でも特にエースで赤旗勲章受賞者でもある。
通称としてよく
空挺降下の経験は通算100回を越えておりパラシュート教官徽章が卒業徽章の隣につけられている。
そんなイヴァーノフ中佐が戦術機乗りに転向したのは適性が高いからであった。
境遇としてはGRUスペツナズのモノガノフ中佐と同じであろう。
ある戦闘では単機で突撃級6体と要撃級21体を撃破したこともあった。
彼のMiG-27はシールドにGSh-6-30機関砲を装備しているルヴィロヴァ上級中尉と同じタイプの編成であった。
「周辺警戒を怠るな、偵察済みとはいえ敵は何処から出てくるか分からんぞ」
彼は空挺軍出身であったがハイヴに突入するのはこれで二度目であった為経験に関しては若干薄い。
彼の所属の第98親衛空挺師団は第1ウクライナ前線隷下であり、地上戦に回されることが多かった。
唯一の例外がヴロツワフ・ハイヴの時であり、あの時もほぼ後詰めで戦闘は広間の制圧戦が一、二度程度であった。
そもそも生きていて五度もハイヴに突入して最奥まで辿り着いた上で生きて帰ってくる奴がおかしいのだ。
その点はイヴァーノフ中佐もよく理解していた。
『隊長、前方に広間を確認。先行突入した無人機部隊は全滅しました』
「戦闘の末か?」
『はい、何体かは持ってったらしいですが』
無人機だからな、やられても仕方ないだろうと中佐は割り切った。
静かに広間制圧の隊形に移った。
6機のMiG-27は火炎放射器持ちとロケット弾を投入する機が前に出て、無反動砲持ちや機関砲持ちは後方で支援に入る。
まず陽動兼露払いの2機がS-8Oロケット弾を放ち、相手の攻撃を吸いつつ適度にダメージを与える。
次に無反動砲と機関砲で室内を火力で埋め尽くし、最後に前衛部隊が突入して残りを火炎放射器で焼き尽くす。
新たに出てくるBETAもいたが残らず焼かれるか突撃砲の前に撃ち倒された。
「警戒を怠るな!状況を逐次知らせろ!」
『三時方向の通路よりBETA集団を確認!正面に突撃級!』
「ヴィーニン、リトコフ、潰せ。チェレーヒンと俺で残りは潰すぞ」
『了解!』
先に2機のMiG-27が穴に向けて無反動砲を叩き込み、その後に突撃砲合計4門による応射で後続部隊も撃滅した。
ある程度まで接近されるとMiG-27の火炎放射器が敵を焼き尽くす。
これでBETAの反撃部隊を撃破し、イヴァーノフ中佐は一先ず敵を殲滅した。
「後続の増援が来るまで待機しろ、ついでに無人機の補給も要請する」
流石にM-21までは貰えるとは思わんがせめてシュメリィ-1は2機は欲しい。
増援が到着するまで彼らは度々BETAの強襲を受けた。
小隊、中隊規模のケースもあれば数十隊規模で浸透強襲を仕掛けてくるケースもある。
今も小隊規模のBETA集団を撃破した部隊に潜んでいた戦車級がイヴァーノフ中佐の隣にいたリトコフ上級中尉の機体に取り付いた。
『クソッ!このッ!』
上級中尉は取り付いた戦車級を振り払おうとしたが中々取れない。
接近してきた要撃級を数発叩き込んで撃破したイヴァーノフ中佐が短刀に持ち替えて一撃で戦車級を切り落とした。
別の方向からも1体、BETAが襲撃したが短刀で串刺しにする。
「機体の損傷度合いはどうだ」
『問題ありません、助かりました中佐』
『中佐!応援要請を受けて到着しました!』
同じく空挺軍の戦術機部隊が広間に到着し、彼らの背後には補給部隊として物資を運搬してきた戦術機がいた。
弾薬や消費したロケット弾らを再装填し、後続部隊から何機かのシュメリィ-1を受領する。
新たに増援として到着したBETAは後続の隊が迎撃を担当し、その間にイヴァーノフ中佐はシュメリィ-1と機体のデータリンク調整を行なっていた。
彼のMiG-27はフレツロフ中佐のMiG-29と同じくモースク1の端末が装備されていた。
その為リアルタイムでシュメリィ-1らの映像が分かるしモースク1の攻撃予測や状況予測が入ってくる。
しかし彼はモースク1から話しかけられるようなことはなかった、他の端末を受領した全ての衛士がそうだ。
モースク1がシステムを偽ってでも話しかけたのはフレツロフ中佐が初めてであった。
「セット完了、我々はこのまま奥地へ進む。各機このまま行くぞ!」
『了解!』
そう言って6機の戦術機は次の広間を制圧する為に前進した。
彼らは流石最精鋭というべきか比較的スムーズに進んでいたがそうではない部隊もある。
やむおえず撤退する部隊、火力が足りず苦戦する部隊、後方断絶で一時孤立する部隊、隠し通路からの強襲で全滅する部隊など。
既に攻略作戦発動から2週間以上が経過した4月2日だが、依然として攻略状況は芳しくなかった。
ようやく地表に近い第一層の制圧が85%ほど制圧出来たレベルであり、全体で見たらまだまだハイヴはBETAの支配下にあった。
それでも着々とハイヴの占領地域は広がりつつあった。
相手も原光線級などを総動員して迎撃に当たっているが総合的な火力の面で負けている。
突入部隊の戦術機には一部Su-24以外にも戦術核を持った機体があった。
2K6ルーナの発射機構を改造し戦術機が運用出来るようにしたランチャー装置を装備している機体は核弾頭付きの3R10を備えている為、核攻撃が可能であった。
例えば通常だと攻略が困難、或いは多数の損害を覚悟しなければいけない巨大な広間に対してこうしたロケットランチャー装備は用いられる。
ランチャーは2機1組で運搬、運用し、使用の際は周囲に警報を流す義務がある。
光線級の攻撃を避ける為に基本は機体を伏せさせしっかり姿勢を固定して、ランチャーを構え目標を入力する。
152mm無反動砲による揺動攻撃の後、ランチャーは2機の射撃命令によってロケット弾を放ち、核攻撃を実行。
運用部隊は発車後すぐにその場を離れ、距離を取ることが推奨されている。
こうした核攻撃によって一度にBETAを粉砕出来る為、既に数十箇所で同様の攻撃を実行していた。
それでもハイヴ全体の攻略は通常より圧倒的に遅れているのだからウィーン・ハイヴの規模と堅牢さが窺えるだろう。
長いハイヴ攻略戦はこれからも続く。
空挺軍が各所の広間を確保している間に空軍及び防空軍の主力部隊はハイヴの最奥を目指して突き進んだ。
確保する広間の地点は最小限に抑え、一部は拠点や中継地点として使わず地雷などを配備して囮に使った。
それでもBETAの抵抗を受けて最奥への突入は難航していた。
閉所で単純な物量を持って反撃されると平地と違って火力が足りない為、やむを得ず撤退というケースも多かった。
結果的に同じ地点を取っては取られを繰り返し、激しい消耗戦に陥っている。
単純な物量と消耗のスピードでは明らかにソ連軍の方がハイヴにおいて不利である、であれば戦術を変える他ない。
各前線司令部はハイヴ突入部隊に対してまずBETAの数を減らすよう命じた。
このままやってもジリ貧の状態が続くだけである、であれば突進してくるBETAを引き付けて叩いていくしかない。
BETAにとっての防御戦闘は基本的に機動防御の一点だけで定点防御のようなことが出来るのは光線属種だけだ。
つまりBETAがハイヴに入ってきた敵を迎撃する為には籠るのではなくある程度打って出る必要があった。
そこが狙い目である、打って出たBETAを殲滅して前進しまた来たBETAを殲滅しては前進するという方策に出た。
これにより進撃速度は著しく停滞したがその分BETAに対する戦果は上昇していた。
今も制圧した広間から抜け出る戦術機部隊を追って数百体はいるBETAが広間に入っていく。
『BETAの主力突入を確認!』
『よし!吹き飛ばせ!』
あるMiG-23の命令で広間に取り付けていた爆弾が一斉に起爆し、広間ごとBETAを吹き飛ばした。
これで戦車級以下のBETAは壊滅、要撃級、運搬級も無傷では済まないだろう。
崩落した壁の残骸を打ち破り突撃級は前進したがすぐに撤退時に戦術機が撒き散らした空中散布型地雷によって足を破壊されて動けなくなる。
崩落した壁と突撃級の死骸によって一時的に進撃路が詰まり、BETAは前に進めなくなった。
『火炎放射器持ちとサポートは前に出ろ!それ以外は下がって待機!』
隊長機の指示によって火炎放射器を持ったMiG-23が2機前に出て広間内を炙る。
まず手前にいたBETAに火が飛び移り、すぐに少し奥のBETAにも引火する。
その後ろから突撃砲を構えながら手投げ用に改造したナパーム弾を数機の戦術機が投擲して広間に投げ込んだ。
広間は忽ち火の海となり、やってくる後続部隊にも引火してBETAにとっては地獄絵図を生み出した。
『十分だ!下がるぞ!』
ある程度攻撃を叩き込むと火炎放射器持ちを先頭に後退し、BETAを待ち構えた。
また来るようであれば機関砲と152mmの餌食になる、それでもダメなら次の広間で仕掛ける。
BETAが広間を奪還して追撃する時の損害とソ連軍が広間を制圧し後退戦闘を行う時の損害、大きいのはやはりBETAの側である。
それでもウィーン・ハイヴ内に備えていた6個軍相当の戦力でまだカバーしているが包囲が完成して増援が到着しない以上時間の問題ではあった。
そもそも今回のハイヴ攻略戦は長丁場になるというのがソ連全体の認識であり、指揮を取る将軍達もそれほど焦ってはいなかった。
クレムリンのブレジネフだって急かすような真似はしないだろう。
その点は前線の将兵にとってプラスにはなっていた。
尤も長く続けばその分ハイヴにいる時間や突入する回数が増える為疲労は確実に蓄積していったが。
それはフレツロフ中佐ら第306独立戦闘航空連隊もそうである。
彼らは3月17日から4月10日の間、通算5回もハイヴに突入している。
その度に瞬く間に広間を制圧しては長い縦深で反撃に出るBETAをすり潰し、再度奪還してBETAを迎え撃っていた。
第306戦闘航空連隊は突入の度に確実に数千体のBETAは撃破して地上に帰ってくる。
経験、手間、全てにおいて熟練の腕前であり、ここまで出来る部隊はソ連軍の中でもそう多くはなかった。
今も6回目の出撃において別の親衛戦闘航空連隊と共闘することによって数箇所の広間でBETAを孤立させ、逆に殲滅することが出来た。
「今んところ我が隊が最前衛か……」
”それでも頭脳級の展開地点にはまだ遠い、戦いは続く”
「分かってるよ、とにかく今は眼前のBETAを狩るしかない!」
単発で僅かな隙間から現れた戦車級と原光線級を撃破する。
『ヴィクトル、前方20キロ圏内に大型の広間を確認した。現在メルクロフ隊が交戦中、我々には救援命令が出た』
後方のメデツィーニン少佐から座標と敵の情報が送られてきた。
数は多いが殲滅出来ない量ではない、というより連隊が到着する前に現地部隊で撃破出来るだろう。
「了解、合流する。306連隊全機に次ぐ、指定したポイントに増援として向かう。各隊戦闘隊形のまま突入」
『了解…!』
『連中押されてる、ここで一気に奴らを殲滅するぞ』
広間に27機も向かうのだ、制圧はまず間違い無いだろう。
だが何故だろうか、中佐には確かに不安があった。
”何か心配事があるようだな、君は”
「分かったか」
衛士強化服の情報でなんとなくフレツロフ中佐の意思を読み取ったのだろう、末恐ろしい奴だ。
だが不安を覚えていたのはフレツロフ中佐だけではなかった。
『ヴィクトル、広間に向かって3体、高熱原体が接近中。何か来るぞ、大型のBETAが増援できてる』
メデツィーニン少佐がいつにもなく強張った声音で彼に報告した。
「とは言っても通常種だろう?であれば…」
『違う、これは今まで全てのBETAに該当しない……”
そのメデツィーニン少佐の報告と共にレーダーに確認されていた6つの友軍機識別反応が消失した。
しかも外では砲撃のような轟音が鳴り響いている。
”メルクロフ隊の機体が消失、全滅した”
「は?」
『フレツロフ!どうもメルクロフ隊は全滅したらしいぞ!これはまずいことになった!』
すぐにデルーギン少佐が大声をあげてフレツロフ中佐に報告してきた。
合わせてメデツィーニン少佐も状況を報告する。
『メルクロフ隊は新種にやられた!一旦後退しろ!』
「いや!むしろ6機の戦術機を一撃で吹っ飛ばす奴ならせめて面くらい拝まないと今後味方に何があるか分からん!各機警戒しながら突入しろ!無理ならさっさと各自判断で退け!」
そう言ってフレツロフ中佐は速力を上げた。
無論怖かった、前衛の戦術機をたった一瞬で6機も消し飛ばす奴はそういない。
それでもここで放置すれば突入した部隊全体が危うくなるかも知れない。
そう思うと不思議とフレツロフ中佐は敵に立ち向かっていた。
真っ先に大広間に突入したのはデルーギン少佐の中隊だった。
そこで彼らは眼前の味方部隊を殲滅した正体を見た。
『なんだあれは!?』
『要撃級の変異種……いや、何か来る、回避っ!』
デルーギン少佐の命令で12機のMiG-29と27は回避し、飛んできた触手を避けた。
その間に3体いた確実に通常の要撃級よりは2回り大きそうな要塞級の足を持った変異種が3体、体を擦り合わせて”合体した”。
変異種同士のBETAは身体の接地面を溶かしてお互いに結合し、1体の要塞級に近しい姿に変化した。
まるで三角形でも描くようなその見た目の変異種は下2体の足を地面に突き刺し、上1体の足を各所に向けた。
あまりに規格外の存在にデルーギン少佐は恐れを通り越して笑ってしまった。
『こいつは……とんでもねえバケモンだ……っ!』
合体と分離、そして範囲攻撃を繰り返す攻守機動力に優れた個体、後に重要塞級と命名される要塞級の改造種であった。
重要塞級は早速全範囲に元々6本ある触手発射口部分から要撃級の前足を飛ばし、通常の触手と上1体の要塞級の足も飛ばした。
3体が結合しうち2体が自重を支えている為1体が完全にフリーな状態なのだ、故に1体は全てを攻撃に集中出来た。
結果的にデルーギン少佐達は要塞級の足という大技を避けつつ、それでいて要撃級と通常の触手の攻撃も躱さねばならない。
既に要撃級の前足が飛んでくる時点で十分な即死攻撃技なのだ、それより強力な大技を持っているこの個体は化け物と呼ぶに相応しい相手だった。
眼前の6機が一撃で殲滅されてもおかしくない、恐らく個別に分かれて友軍機を潰しているだろう。
12機の戦術機は攻撃を回避し、直ちに反撃に移る。
装甲は硬く、突撃砲では歯が立たない。
125mm、152mmレベルならどうやら通るようで僅かにだが破損部から体液を漏らしていた。
しかし全体が大きすぎる為一撃を入れても大したダメージにならない。
次に到着したオルゼルスキー少佐の中隊も相手を見るなり困惑した。
『これはっ』
『どうだオルゼルスキー!酔いは覚めたか!』
『いや、これは多分まだ酔ってる。こんなんいるはずがない!』
流石に隊長格ともなるとまだ冗談を言っていられるようで触手を躱しながらもうち何本かを対ハイヴ用の近接刀で切り落として突撃砲の120mm弾を叩き込んだ。
意外にも最後に現れたのはフレツロフ中佐らの指揮部隊である。
中佐は相手を見るなり装備を125mm対物砲と収納されていた対ハイヴ用近接刀に持ち替えた。
兵装担架の突撃砲で迎撃しつつ迫ってきた触手は全て刃で切り落とす、そして攻撃は125mm砲で叩き込む。
今回はブリツェンスキー少佐が152mm砲を持ってきた為フレツロフ中佐とルヴィロヴァ上級中尉はブリツェンスキー少佐の援護を行った。
各所で陽動と攻撃が繰り広げられている。
意外にも火炎放射器は広範囲に攻撃を展開出来る為触手の接近阻止に使えた。
機関砲も相手の装甲までは破れないが触手を連続射撃で叩き切り、牽制に役立ってる。
このまま時間をかけて152mm弾を叩き込みつつ各機の空対地ミサイルも撃ち込めば削り切れるか、フレツロフ中佐は考えを巡らせた。
「メデツィーニン!このまま削り切れると思うか!?」
『いけるとは思うが相手の攻撃パターンが全て読み切れん、早いうちに潰した方がいい。3体分の連結部に攻撃を集中してみろ、バランスを崩すかもしれん』
奴が言うならそうなのだろう、フレツロフ中佐はメデツィーニン少佐のことを信頼していた。
迫る要撃級の足を寸前で回避し射出したケーブルのような触手を近接刀で切り落とす。
どうやらこの種も切り落とされた触手は体内に戻すと時間を置いて復活するようだ、極めて便利な体組織を持っている。
それでも要撃級の前足クラスとなると通常の触手より時間は掛かるようで中々復活しなかった。
そして彼の読み通り、眼前の重要塞級は見たことのない攻撃を繰り出してきた。
突如上部1体のユニットが天井に足を突き刺し、お互いの連結を解除する。
その一瞬3体とも全ての触手発射口を戦闘中の戦術機部隊に向けた。
『っ何か来るぞ!気をつけろ!』
オルゼルスキー少佐の忠告とほぼ同時期にモースク1がBETAの範囲攻撃予測地点を表示してきた。
フレツロフ中佐はこれを各機に伝達し、なるべく回避させる。
刹那、数え切れないほどの大小含めた全ての触手が戦闘地域に放たれた。
幾つかで小爆発が起こり、戦術機達は攻撃範囲から一時離脱する。
「ッ何機やられた!?」
『損害はなし!だが何機か武装とシールドをやれました!』
報告したブリツェンスキー少佐も左手の突撃砲を破壊されており、予備のものを兵装担架から取り出していた。
”連隊の総合火力は15%減少”
「こりゃメデツィーニンの言う通り速攻潰した方がいいな……各機、敵を引きつけろ!俺の隊で連結部を潰す、体勢が崩れたら正面右の個体に火力を叩き込め!」
『今の聞いたな!勝ちに行くぞ!』
衛士達からは戦意に溢れた返答が届く。
確実にあの個体はここで潰す、全員がそう決意した。
重要塞級は再度連結し、増援として到着した何体かの戦車級と闘士級を自身の身体に取り込んだ。
溶解液を出して一時的にBETAを液状にし、それを吸引して収納する。
分解された戦車級や闘士級の元素は重要塞級の糧となり、身体の損傷部分が徐々に回復し始めた。
共通元素だから出来る即時回復術である。
「オイオイ…そんなんありかよ……」
その光景を見ながらフレツロフ中佐は思わず呟いた。
回復の合間も触手による迎撃は続いており、中々接近出来ずにいた。
ただ流石に27機の戦術機に群がられると迎撃も限界に達するようで僅かに隙間が出来た。
その隙を逃す彼らではない、フレツロフ中佐とルヴィロヴァ上級中尉の機体が防御で残っている触手を全て切り落とし、その合間を飛び抜けてブリツェンスキー少佐が懐に飛び込む。
『潰れろ!』
152mm無反動砲を数発叩き込み、ダメ押しと言わんばかりにKh-29と突撃砲も撃ち込んだ。
十分な火力を受けて結合部分が破壊され、重要塞級はバランスを崩して崩壊した。
「今だ!撃て!」
ほぼ27機全てが重要塞級のパーツに向けて火力を集中した。
152mm砲、125mm砲、各種空対地ミサイルを受け全身が穴だらけになり、ダメージ許容量を超えたのか静かに斃れた。
残り2体は連結を解除し個々での戦闘に入ろうとした。
だがこの隙を逃すフレツロフ中佐らではない。
1体の撃破を確認すると即座にもう1体に攻撃を叩き込んだ。
MiG-29はBETAの上に飛び乗り、そのまま左側面の触手発射口を近接刀で切り落とし、残り2つをKh-29でそれぞれ潰した。
その後に続いたルヴィロヴァ上級中尉も相手の大型脚部の関節に向けてGSh-6-30機関砲のゼロ距離射撃を叩き込んだ。
返り血で機体は紫色に染まるが上級中尉はそんなこと気にせず攻撃叩き込んだ。
フレツロフ中佐はその間に近接刀で肉体に切れ目を入れてそこに120mm弾を叩き込み、2人はBETAから離れる。
これで残り1体、残り1体はありったけの攻撃をフレツロフ中佐とルヴィロヴァ上級中尉に叩き込もうとした。
だが敵は彼ら以外にもいる、しかも彼らと並ぶ腕前を持った衛士達が他にも。
『よそ見したな間抜けッ!』
デルーギン少佐が突撃砲2門の120mm弾で右前足を落とし、その断面に両機と同時に空対地ミサイルを叩き込む。
反対側ではオルゼルスキー少佐が同じように大火力を叩き込んで直接的にダメージのある箇所を作り出した。
そこにミルシェフ大尉らのMiG-29がKh-29を叩き込んで内側からダメージを通す。
左右両方からの攻撃に耐えられなくなった重要塞級の1個体は爆散した。
「各機周辺警戒!」
”前方の全方位からBETAの増援、数は200以上”
ようやく一息つけると思ったらモースク1が最悪の報告を持ってきた。
恐らく突撃級類もいるだろう、今や連隊のほぼ全員が突撃級クラスの個体に有効打を与えられる武装を使い果たしている。
「交代も視野に入れつつ戦闘隊形、俺達はあのデカいの潰したんだ、退いたって文句は言われん」
フレツロフ中佐は弾が底を尽きた125mm砲を捨て、突撃砲に持ち替えた。
今後退すると言うのもそれほど悪い手じゃない、少なくとも重要要塞級を潰せたのだ、万々歳だろう。
だが予想外の返答が入ってきた。
『もう少し待て、まだなんとかなる』
メデツィーニン少佐だ、彼の言葉と共にBETAの第一陣が姿を現した。
だがその第一陣は少し上空からの銃撃で撃滅され、突撃級のような頑丈な個体は125mm弾や152mm弾で破壊された。
「なんだ!?」
『呼んでおいた増援が間に合った。第1独立親衛戦闘航空連隊だ!』
第1親衛独立戦闘航空連隊のMiG-29らが一斉に広間内に降りてBETAを蹴散らす。
連隊は容易く戦線を押し上げ、逆にBETAの追撃を開始した。
『フレツロフ中佐、ここは我らに任せて後退を!補給を受けてください』
「すまない、助かった。各機後退しろ、物資集積地点まで下がるぞ!」
中佐の命令で各所の穴から第306独立戦闘航空連隊は撤退した。
一旦は引き退ることとなったがまだ負けじゃない。
4月16日、ハイヴ突入からついに1ヶ月が経過した。
少しづつだが前に進んでいる、それと同時に将兵の疲労も溜まってきている。
残り1ヶ月、ここが正念場なのだ。
つづく