マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
如何なる広野も飛び越えよ
果てなき地球のどこに潜んでも
悪党には反撃が下るのだ!
-”戦略ロケット軍行進曲”より抜粋-
クロアチア=スロベニア間の山岳部をSu-24MRが数機飛び去る。
この機体は通常のSu-24に合成開口レーダーやカメラ、偵察ポッドを装着した偵察型のSu-24だ。
武装は基本的に突撃砲のみで戦闘は極力回避するよう各衛士には強く言われていた。
MiG-25RやMiG-27Rなどの偵察戦術機と並んで重宝される機体であった。
護衛にはMiG-29や防空軍から上がってきたSu-27が付いており、各機山岳部の合間を抜けながら大地を揺らす”ソレ”に近づいた。
周辺にはBETAは殆どいない、ザグレブ・ハイヴに属するBETAは殆どハンガリーに移動していた。
結果ほぼ全域を戦術機が安定して飛行している。
『各機気を付けろ、奴は全身に光線級を纏ってる…!接近すれば確実に撃墜されるぞ。それと友軍の射程圏内からも絶対に離れろよ!』
隊長機から伝達が入り、衛士達に緊張が走る。
基本的にSu-24は2人乗りの戦術機であり、1名が操縦に専念しもう1名はシステムの調整や偵察情報の確認に徹していた。
山陰の間を抜けてSu-24MRの部隊はついにかつてハイヴがあった場所、ザグレブに到着した。
ザグレブの位置にはそこが見えないほどの大穴が開いており、戦術機は迂回してかつてここにいた化け物の巣を追跡する。
『酷い有様だ……これじゃあザグレブの復興は……』
『今は追撃を優先する、こいつに暴れられたら人類そのものの命運に関わるぞ』
城塞級、緊急で決まった名称だがその名しっかり体を現している。
ハイヴそのものが歩行し攻撃し、1つのBETAとして生きている。
正にBETAの動く城、厄介なことこの上ない。
城塞級の各所には無数の光線級が対空任務の為展開しており、その火力の密集具合は今までのどの戦場に展開する光線級をも上回っている。
先ほど一度目のソ連宇宙軍による攻撃を受けたが城塞級は未だ健在であった。
『司令部より偵察飛行隊へ、そちらの偵察情報を送信せよ』
『司令部了解、情報を送信する』
数機のSu-24MRから合成開口レーダーやカメラなどから収集された偵察情報が送信される。
動く城塞級、身体構造、城塞級の損耗具合などが司令部に送られた。
『そのまま偵察を続けろ、5分後に第二次攻撃が開始される』
『了解…!攻撃範囲は……各機添付されている攻撃範囲図を見て一定の距離を保て』
そういった直後Su-24MRに向けて早まった光線級からレーザーが放たれる。
直ちに山岳部を盾にして回避行動に入りことなきを得る。
『3457005、大丈夫か?』
『問題ありません、奴さん射撃が下手になったようです…!』
実際城塞級の光線級は必中を求めなくなった代わりに牽制でもいいからとにかく数を撃ってくるようになった。
可能な限り戦術機を近づけたくないのだろう、エネルギー源たる頭脳級が城塞級の中にいるのだからエネルギー切れの心配もない。
『対地攻撃まで後1分』
軌道上ではアフリカ攻勢に参加していないソ連宇宙軍の攻撃衛星が地上の城塞級に向けて照準を合わせている。
攻撃を行なっているのは第7親衛攻撃衛星軍団と第5攻撃衛星軍、第7は飽和攻撃で光線級の対空を無力化し、第5攻撃衛星軍がトドメを刺す。
軌道上の宇宙ステーション司令部では将校達が最終調整を行なっていた。
「次で奴を仕留める、無理なら少しでも情報を手にするぞ。所詮図体ばかりデカい的だと奴らに叩き込んでやれ!」
ステーションで陣頭指揮を取るソ連宇宙軍中将は自身の不安もかき消すようにそう豪語した。
既に第一次攻撃で数発以上の核攻撃を喰らっているがまだ相手は生きて移動を続けている。
流石ハイヴが丸々動いているというべきか、防御力も耐久力も全てが桁違いだった。
「しかしなんたってこんな時に…!”ポーリュス”を国連軍に貸し出してる最中に奴らは動き出すんですかね…!?」
ある参謀の中佐が歯噛みしながらBETAに対する愚痴を溢した。
現状ソ連宇宙軍の何割かはアフリカ恒星の支援に忙しく、城塞級の攻撃に戦力を回している暇はなかった。
その為予備戦力として”ポーリュス1”を待機させているとはいえ通常時に比べて投射出来る火力は圧倒的に減少している。
城塞級は脅威だがかといって今現在勝敗の有無を決める大会戦中のアフリカ国連軍から対地支援の戦力を引き抜く訳にはいかない。
現状ある戦力でなんとかするしかなかった。
「BETAにとっての奇跡か或いは示し合わせたか……どちらにせよここで殺す」
中将の確固たる殺意に参謀達は鼓舞された。
時は立ち、第二次攻撃の最終チェックに入ろうとしている。
「目標の照準ロック、誤差修正完了」
「攻撃範囲内を前線部隊に転送」
「全部隊の時間合わせ問題なし、30秒後攻撃を開始します」
司令部のモニターには地上を歩く城塞級の姿と攻撃範囲を添付した図表、時計などが表示されている。
第一次攻撃は全弾命中したが撃破には至っていない、ただ着実にダメージが入っていることはSu-24MRらの攻撃で確認出来た。
果たして次で仕留められるかどうか。
「攻撃開始まで後10秒!」
それから秒読みが始まり、やがて軌道上の攻撃衛星から一斉に対地攻撃弾が発射された。
それから少し間を置いて本命の戦術核弾頭などを含んだ攻撃弾が発射され、第二次攻撃が始まった。
放たれた第一の攻撃弾は母機からより小型のミサイルがばら撒かれて城塞級の周囲を覆い尽くす。
無論それらは光線級のレーザーによって薙ぎ払われ、直接本体に直撃することはなかった。
だがその爆発の合間を通って本命が直撃する。
城塞級の周辺を凄まじい衝撃と熱が覆い尽くし、表面はひび割れ熱で溶けて黒く染まる。
だが周囲の黒煙や放射能をものともせず、城塞級はハンガリーに向けて移動を開始した。
『城塞級は健在…!繰り返す、城塞級は健在…!第三次攻撃を要請する!繰り返す奴は生きている!』
光線級も健在なようで各所では再びレーザーが発射される。
大地を焼いて城塞級は歩み続けた。
『クソッ…!どうやったらこんなバケモン殺せるんだよ…!』
『純粋な火力の問題だ…!必ずどうにかなる、我々は偵察を続けるぞ…!』
それが出来る限り最大限の任務であり敵に打撃を与え得る唯一の方法であった。
城塞級はかつて存在していたザグレブから凡そ16キロメートルほど離れた場所に今はいる。
宇宙軍が発見してから凡そ1時間の段階である。
各所では混乱しつつも対応が進められており、そろそろ情報が集まって正確な作戦が行えるタイミングであった。
これから本格的な城塞級とソ連軍の対決が始まる。
まだ双方1枚手札を隠した状態で戦闘は本格化した。
-チェコスロバキア人民共和国領 オロモウツ州 プルジェロフ市 第1ウクライナ前線司令部-
第1ウクライナ前線では参謀達が情報の収集と対策に当たっていた。
正直なところ参謀達も相当焦っている、今回のような事態は当然だが想定していない。
ハイヴが歩行し大地を移動するなど誰が想像出来ようか。
こんな状況でも即座に戦闘行動に入れただけ十分、既に城塞級には三度の攻撃を叩き込んでいる。
それでも城塞級の撃破どころか足を止める事すら叶わず、彼らは追跡と第四次攻撃の準備に移っていた。
「現在城塞級はロンニツァに到着、間も無くヴルボヴェツに入ります」
「宇宙軍司令部より第四次攻撃予想範囲が転送されました、モニターに映します」
士官達によってモニターの一部が攻撃の加害予測範囲図に切り替わる。
何発か混ぜ込む形にはなるがついに宇宙軍は戦略核まで投入するらしい。
現状戦略核弾頭の殆どはアフリカ攻勢の支援に回されており、通常の監視と支援の部隊には戦術核が主力であり、戦略核は虎の子の切り札として用いられていた。
だがこれも本来なら8月までの話であり、9月になればハンガリー攻勢の為に戦略核が追加される予定であった。
BETAは運のいいことに偶々ソ連宇宙軍の火力が弱まる段階で動き出したのだ。
もしこれがアフリカ攻勢もなく、追加弾道弾の補給が終わった状態なら難なく撃破出来たであろう。
運が良かったのかそれとも見計らって動き始めたのか、研究しないことには分からない。
今重要なのは如何に城塞級を破壊するかであった。
「現在地がロンニツァということは後10分か20分もすればヴルボヴェツに到達するか……」
バリィーニキン少将は地図に到達地点を記載しながらため息をついた。
彼も突然やってきた異常事態に見かけ以上に参っている。
「戦略核でも撃破に至らないとなるといよいよ”ポーリュス”を使うしかないか」
ラディーギン少将は冷静にそう述べた。
「ただ使うとした”ポーリュス1”の1基のみ、連続しては撃てん」
「確実に足を潰した上で撃破せねば」
残り2基の”ポーリュス”はアフリカ攻勢に回している為使えない、ここで引き抜けば城塞級1体を放置する以上の損害が広がるかも知れないのだ。
故に使えるのは1基の1発、出力の調整と冷却を考えれば少なくとも1日の限度はどんなに絞っても1発だ。
「他の移動中のBETAはどうなっているか!」
ラディーギン少将が部下の情報将校達に尋ねた。
うち1人が資料を片手にラディーギン少将とバリィーニキン少将、そして作戦室に戻ってきたヤゾフとモイセーエフ大将らに報告した。
「宇宙軍及び第1、第2ウクライナ前線、白ロシア前線、南欧前線の砲兵隊が攻撃中です。順次戦術機部隊も阻止に回してますが何分数が多く、その上で稀に城塞級からの妨害が入る為減らせても現状では3割が限度かと」
「そういえば戦略ロケット軍はどうなりましたか?」
バリィーニキン少将がヤゾフらに尋ねた。
「現在第43ロケット軍が待機中だ、宇宙軍の四次攻撃で戦略核の有効性が示されたら叩き込む。無駄撃ちは出来んからな」
本来なら1体のBETAに向けて撃っていい代物ではない。
だが相手が未知の、それもハイヴともなれば最大限の力を持って撃ち倒すしかない。
丁度彼らが集まった段階で司令部に1人の少将と複数人の化学防護部隊出身の将校達が入ってきた。
うち1人の少将はセルゲイ・ナヒーキン、N.I.ポドヴォイスキー名称タンボフ化学防護高等軍事指揮赤旗学校、S.K.ティモシェンコソ連邦元帥名称化学防護軍事赤旗アカデミーを卒業した生物技術関係の将校であり、かつては国連に設けられたBETAの研究機関にも出向要員として派遣されていた。
現在は第1ウクライナ前線司令部隷下のBETA分析課長を務めており、他の研究者や技術将校らと共に城塞級の分析を行なっていた。
「城塞級の分析結果について報告に参りました、ここでしてもよろしいですか?」
「今すぐ頼む、我々も情報が欲しい」
ナヒーキン少将は頷き、説明を始めた。
「まず城塞級の外装ですが構造はハイヴの上部構造物と同じですが強度が格段に上がっています。その為BETAの生物的な肉体とは違うものと思ってください」
「つまり撃破にはやはり中身、頭脳級を叩かねばダメか」
「はい、こちらをご覧下さい。衛星画像や偵察部隊の情報と総合したものです。城塞級は内部の頭脳級を司令塔として身体を動かしており、頭脳級の命令を伝達する為に間接部や各所にBETAの結合体が神経のように張り巡らされ、或いは筋肉のように動作を作りましています。この僅かに見える赤い線がそうです」
資料をヤゾフに見せながらナヒーキン少将は説明した。
「ではこれらの結合体が絶たれる、或いは致命的なダメージを負ったら?」
「恐らく頭脳級の命令伝達が行き渡らずその周辺箇所は機能を停止するかと」
それだけ分かれば勝ちようはある、ヤゾフは余っている紙に城塞級のスケッチを描いた。
これを元に説明を開始する。
「宇宙軍の攻撃が終わり、戦略核の有効性を確かめたら次の作戦に移るぞ。まず宇宙軍は陽動に徹し、光線級のレーザーを吸っておく。その間に戦略ロケット軍の火力をなるべく左半分の脚部に集中投射する。これで足が砕け散れば上々、擬似神経にダメージを与えて行動不能になれば十分だ。その上で”ポーリュス1”を叩き込んで城塞級を潰すぞ」
「直ちに各軍司令部へ伝えます」
「ああ、急いでくれ。空軍部隊はこのまま監視と撤退中のBETAへの追撃を行え、1体でも多くハンガリー内への侵入を阻止するんだ」
「了解…!」
即断即決、指揮官に求められる最も重要な要素の1つだ。
この点においてヤゾフは前線司令官として優秀であった。
これ以上の混乱を及ぼさぬ為城塞級はここで潰す。
大火力によるハイヴ攻略戦の始まりである。
-ソ連領 ロシアSFSR モスクワ州 首都モスクワ ソ連軍参謀本部-
城塞級の誕生という緊急事態は遠く離れたモスクワの参謀本部でも急ぎで分析を開始するほどの衝撃であった。
GRUと軍事測量局の面々が宇宙軍の将校らと共に集まって衛星画像の分析と行動パターン、エネルギー出力などを分析し、何故生まれたのか、何が目的なのかを考え始めた。
現状第四次攻撃の戦略核は今までで一番城塞級に損害を与え、戦略核の集中投入であれば撃破出来る可能性が見えてきた。
これに対しで第1ウクライナ前線司令官のヤゾフは宇宙軍、戦略ロケット軍に対し数発の戦略核で相手の足を潰し、”ポーリュス”で焼き尽くす案を提出してきた。
現状これが最も成功率の高い作戦である為速やかに提案が許可され、宇宙軍と戦略ロケット軍は攻撃準備に入っていた。
少なくとも攻撃部隊と作戦の指揮権に関しては宇宙軍、戦略ロケット軍、各前線司令官にある為GRUや参謀本部がどうこういう筋合いはない。
それでも状況を確認する為に宇宙軍の偵察衛星から記録を中継していた。
なお現在状況を観測しているのは参謀本部の部局の中だと室内にいるのはイヴァシュチン上級大将だけで他の担当局や参謀総長はそれぞれ別の場所にいた。
例えばオガルコフ元帥はK.E.ヴォロシーロフ名称参謀本部軍事アカデミーに視察と教育プログラムの会議で本部を出ており、軍事測量局長のビィゾフ大将も宇宙軍総司令官のカラシィ元帥と共にクラスノズナメンスクで会議中だった。
先ほどまで同室にいた作戦総局長ヴァレンニコフ上級大将も通常業務の兼ね合いで執務室へ戻り、職務を続けていた。
その為参謀本部内の作戦室にはGRUの高級将校が主に集まっていた。
「攻撃開始時間は後1時間後か……思ったより掛かるな」
「仕方ありませんよ、”ポーリュス”の調整と戦略ロケット軍との統制などを考えたら十分早い方です」
イヴァシュチン上級大将の発言に情報総局副局長ヤコフ・シドロフ大将は理由を付け加えた。
少なくとも1時間であればまだ対処可能な範囲内で済む。
これがもう2、3時間分移動されると光線属種の過密具合から鑑みて攻撃の投入自体が難しくなってくるのだ。
倒すなら今しかない。
「そういえばアフリカ攻勢の方はどうなっていますか」
後ろで情報部長ミハイロフ大将が戦略情報部長のアナトリー・パヴロフ大将に尋ねた。
各局がそうであるようにGRUも総局長1名の他に副局長が実は何名かいる。
大抵の場合隷下の部や局の長と兼任であり、パヴロフ大将は戦略情報関連を担当し、ミハイロフ大将は情報部の部長を兼任している。
純粋な次席としての副局長はシドロフ大将であり、他にも政治部長兼任のグリゴリー・ドーリン中将や人事局長兼任のセルゲイ・イゾトフ中将などがいた。
「今週1週間が勝負だろう、国連軍がこの決戦で野戦決戦で出てきたBETAを最低5割でも吹っ飛ばしてくれたら作戦は一気に進む」
尤も負ける要素など見当たらないのだがというのがパヴロフ大将の所感であった。
米ソの宇宙軍の本格的な軌道爆撃にソ連海軍も含めた国連海軍による海上からの支援攻撃、そして何より圧倒的な航空戦力と地上戦力。
各国軍若干の問題は浮上しつつあるがそれは作戦全体を瓦解させるほどのものではない。
後はこの1週間でどれだけBETAを潰し、出てきたBETAを殲滅出来るかが重要であった。
「そっちこそ、例の生き残りの追跡をルビャンカの同僚と一緒にやってるんだろ?」
今度は逆にパヴロフ大将が尋ねた。
その問いに対してミハイロフ大将は苦笑を浮かべながら頷いた。
彼らがいう生き残りとはかつて東ドイツに存在していたベルリン派の残党である。
少なくとも組織としてのベルリン派が立ち直ることは今後何があっても絶対にあり得ない。
まず頭目のオスター大佐、アクスマン中佐は死亡し、組織を再編成出来る佐官も部隊指揮が可能な尉官連中も悉く逮捕された。
嵐333号作戦は完遂され、今はKGBと合同で嵐の後片付け、つまりまだ辛うじて生き残っているベルリン派の残党を追跡して抹殺する仕事を主としていた。
尤も大半の生き残りは目星がついているので後はトロツキーの二の舞が各地で巻き起こるだけだった。
とは言ってもたった1人、未だ捕まらず所在も不明なベルリン派の将校がいた。
名はカール・ハーゼ、元国家保安省中佐でフェリックス・ジェルジンスキー衛兵連隊の参謀を務めていた。
嵐333号作戦で唯一取り逃した人物であり、KGBとGRUの追跡対象となっていた。
「残り1人、どうも追跡記録から鑑みるに目標は欧州を抜けてアジア方面に入った可能性が高いです」
「となると行き先は中国か朝鮮……ベトナムの可能性もあるな」
「どちらの大使館付のメンバーに聞いてもそんな人間確認出来てないそうです」
「となると奴はどこへ…?」
パヴロフ大将は首を傾げた。
少なくとも東独が当てに出来そうな一応共産圏の国々ではベルリン派の動向は確認出来なかった。
そこでミハイロフ大将が恐る恐る彼に耳打ちした。
「実は怪しいのが……」
「日本?何故そんなところに」
丁度その話をしていると2人の局長クラスのGRU将校が執務室に入ってきた。
GRU第1局長ボリス・ドゥボーヴィチ技術中将とGRU第2局長ウラジーミル・モルチャノフ中将である。
GRUには各地域を担当する4つの局があり、第1局は西ヨーロッパ地域の諜報を担当し、第2局はアジア方面の諜報を担当していた。
「噂をすれば、という奴かな」
2人の局長はミハイロフ大将とイヴァシュチン上級大将に敬礼し報告書を提出した。
「目標の足取りが掴めました、やはり一度スウェーデンを経由したことは間違いないそうです」
報告書に目を通しながらイヴァシュチン上級大将はドゥボーヴィチ中将の報告に耳を傾けた。
「行き先はまだ分かっていないのかね」
イヴァシュチン上級大将の問いにドゥボーヴィチ中将とモルチャノフ中将は顔を見合わせ、モルチャノフ中将の方がそのことについて話した。
「判明はしました、しかし厄介なところに逃げられました。日本です」
「日本、何故そんなところに?」
思わずイヴァシュチン上級大将は2人に尋ねた。
少なくとも今までベルリン派と日本帝国は関わりが少なかったはずだ。
「どうやら東西交流の一環で行われた幾つかのパーティーでベルリン派が日本帝国斯衛軍と交流を持ったようでして」
「斯衛軍……確か正規の日本軍とは所属が違うあれか、そいつらが拾ったと?」
モルチャノフ中将が頷き、一連の流れをドゥボーヴィチ中将が説明した。
斯衛軍はロシア語でも日本軍と別表記で書かれ、将校達はこれを別軍種だと教えられる。
日本帝国軍がВооружённые силы ЯпонииないしЯпонской империи と表記されるのに対し、斯衛軍はВоенно-императорские гвардейские силы Японии 、或いはИмператорские гвардейские войска Японии と表記される。
無論単にГвардейские войска、Японская Гвардейская армияなどと言われる事もあるがこれらは口頭での方が多い。
基本的には略称のВИГСと呼ばれ、日本帝国軍とはややこしいが別物という扱いを受け、教育されるのだ。
その為第2局所属の日本帝国担当のGRU将校はこれらの面倒臭さに辟易しながらも軍事戦力の分析を続けていた。
「脱走した目標は恐らくドイツ民主共和国内の日本大使館に逃げ込み、そこからスウェーデンへ渡り、日本帝国内へ亡命したと思われます。詳しくは報告書の4ページを」
紙を捲るとそこには調査記録の結果が詳細に記載されていた。
「日本の公安警察も動き始めています、恐らくは正規軍も間も無く存在に気づく上に現状日本帝国は斯衛軍解体で政争が続いています、この情報を流せば政界は荒れるでしょう」
「どうします総局長、このこと日本政府に伝えますか?」
ミハイロフ大将はイヴァシュチン上級大将に尋ねた。
もしこれが冷戦期でソ連が日本帝国と軍事上では対立していたのなら喜んでこの情報を日本帝国内にばら撒いていただろう。
斯衛軍が解体されるかどうかはどうでもいい、古臭いカビの生えたサムライに用はない。
重要なのはその過程で発生する混乱である、GRUもKGBもこうした工作では何より相手国への混乱を求めていた。
組織同士、人間同士の不信、政治的対立による通常業務の停止、場合によっては発生する暴動などによるカオス状態。
これらを上手く相手国に引き起こさせて混乱を呼ぶのが彼らの手口であり、その間に手を回してしまえばいい、だがBETA大戦という情勢下を考えるとそうもいかない。
むしろ今、極東で妙な混乱が起きてもらっては困るのだ、特に日本帝国はアフリカ攻勢参加国、下手にこの情報を流して荒れてもらっては困る。
かと言って秘匿するのも悪手である、モルチャノフ中将の発言通り日本帝国警察と軍も勘付き始めている、ハーゼ中佐の存在に気づくのは時間の問題だ。
その時問題解決の当事国が何もしなかったのではそれもまた不信感を生んでしまう。
これ以上アジアで荒波を立てることは起こってほしくなかった。
「まずはアメリカ政府に伝えて反応を見よう、そして日本政府に情報を渡すか判断する。場合によっては彼らにやってもらうのもいいだろう」
イヴァシュチン上級大将は瞬時に一番いい方策を打ち出し、部下達に命じた。
彼らの大半もサムライを快く思っていないのはイヴァシュチン上級大将とて知っている。
特にあの新しいショウグンとやら、信真と言ったか。
彼の異常性はイヴァシュチン上級大将の耳にも入ってきており、扱いにくい人物だとも思わせた。
それでも彼らはもって2、3年の寿命だろう、それ以降はどれだけ優秀な人間が出てきても時代の影響で消える。
そうなった際に使える優秀な手札をこの時GRUは獲得した。
-日本帝国領 帝都京都 武家屋敷 奥平邸-
武家の立場、特に旧守派の立場はここ数ヶ月で急速に悪化していた。
状況の一変というより今まで旧守派の敵であった革新派と武家ではない平民華族衆の勢いが明らかに増しているのだ。
斯衛軍の弾薬不足問題はまず問題としてマスメディアや斯衛軍解体論者に取り上げられ、批判の材料となった。
武器の持参も出来ないのなら独立する価値なし、廃刀令ならぬ廃軍令を出すべきなど様々であった。
これに呼応して畑中退役中将らの論客達は軍事的知見から斯衛軍のデメリット、存在する上で利点のなさを強調して存続の是非を様々なメディアで説いた。
こういった風潮のせいか世間も斯衛軍の存在に対して疑問視する声が強まり、このまま法案が通り国民投票が始まれば賛成多数となるのは目に見えていた。
その上で革新派の増長、今回の事件の発端が旧守派の季弘らによるところが大きかったのが問題であった。
現場の指揮官であった山城興正大将は恥を忍んで日本軍に頭を下げ、弾薬を割譲して貰った。
その点は軍全体を思う良き将帥として評価され、その反面プライドを押し通した季弘に非難が集まった。
更には事態が発覚した際に季弘ら兵站局の旧守派が一斉更迭され、あろうことか翌日季弘の変死体が見つかったことにより武家社会全体で力関係が明確になってしまった。
結局のところ旧守派がどれだけ数がいようと将軍1人に逆らえない、派閥の重鎮も守り切れなかったという印象が武家社会に広まってしまった。
結果旧守派は歴史上最大の危機に瀕していた。
信真は今回の事件に関連していた各部署の担当者を次々と解任、或いは移動し、自身の息の掛かった者を無理やり空いたポストに据えた。
例えば総監部兵站局では師団司令部や守護軍司令部の兵站部門の人間を無理やり昇進させて中央に引き抜き、当てがった。
基本的には革新派の人間だが多くは業務一筋で政治とは距離を置いていた者であり、今回の昇進は彼らにとっても想定外で人によっては不幸に感じていた。
ただでさえ斯衛軍は風当たりが強いのに態々魑魅魍魎が闊歩する武家政治の世界になど足を踏み入れたくない。
それでも一度京都の軍総監部に足を踏み入れたら彼らはどちらか選ぶか食い物にされるかの二択を迫られた。
旧守派は全体的に弱体化している、信真という権威も権力もある人間に真っ向から逆らおうなどと考える人はいなかったのだ。
今日この日まで。
最近の旧守派は各人の邸宅で飲み会を開くことが多く、その度に数人の武家の当主が集まっていた。
尤もこれは表向きの理由で本命は彼らが匿っている亡命者を移動させる為のカモフラージュである。
現在ハーゼ中佐は奥平貞親の屋敷に匿われており、後数ヶ月は滞在する予定だった。
普段ハーゼ中佐は屋敷の中に与えられた一室で日本語の習得と日本帝国の政治状況の分析、祖国東ドイツの状況の確認、そして一部総監部情報局将校のレクチャーなどを行なっていた。
働かざる者食うべからずという言葉があるが少なくともハーゼ中佐はそれなりに働いていた、旧守派の為に。
故に彼としてもここで旧守派が弱体化するのは好ましくない、むしろ旧守派の力が増大すれば再起を図ることも可能だ。
彼は己の野心と生存の為彼らに一喝入れることにした。
奥平邸の一室、影哉や松尚、新守らが集まり酒の席を共にしていた。
そこには当然奥平家当主の貞親とハーゼ中佐もおり、彼らは暗い表情で酒を飲んでいる。
アルコールですら辛い現実を忘れられないのだから相当なのだろう、彼ら旧守派にとって良かった出来事などここ最近は一切ない。
「季弘は死に兵站局は完全に革新派の手に堕ちた……城内省を含んだ他の部局も概ね同じ……我らにとって最大の窮地と言っていい」
「……どうなさいますか……?」
恐る恐る松尚は尋ねた。
貞親は諦めたように呟いた。
「我らもここまでかも知れんな……」
事実上の敗北宣言、信真1人に伝統と一大勢力を持つ旧守派が膝をついた。
「そんな…!我らは伝統と武家の秩序を重んじ、今日までやってきたというのに…!」
悔しそうな表情で影哉は自身の太ももを拳で叩いた。
それまで静かに話を聞いていたハーゼ中佐が隣で「全くですな」と口を開く。
「貞親殿、諦めるのはまだ早いと私は考えます。あなた達は我々と違ってまだどうとでもなる」
「ハーゼ中佐、どういうことだ」
貞親は亡命将校に尋ねた。
彼は日本酒を一飲みするとその言葉の理由を述べた。
「戦ってもいないのに敗北を決め込むのは軍人として、武人としてあり得ぬ姿です。諦めるのは兵を失い、この屋敷に火をつけ腹を切る時かと」
「貴方は……貴方は猊下に対し反旗を翻せと言っているのか…?」
松尚は恐る恐る尋ね、ハーゼ中佐は臆することなく頷いた。
それからは中佐は今までの状況、自分たちの末路も含めて整理を始めた。
「まず我々が破れた理由は事前計画がKGB、非ベルリン派に悟られていたことです。恐らく彼らの探知さえなければ我々はドイツに君臨していた、日本のKGBはまだ貴方達の野心に気づいている訳ではない」
今の所公安警察はハーゼ中佐の存在に完全に気づいている訳ではないし、旧守派が反乱を企てているとは微塵も思っていない。
何故ならこの計画は今始まったものだからだ。
「それに貴方達は我々と違って使える兵力は圧倒的に多い。東京の第2師団、そして第1師団と新設第3師団の混成である帝都守備隊を使えば1日で片がつきます。将軍猊下は斯衛軍の総司令官であるが各隊の直接指揮権は貴方達にある」
「ハーゼ中佐、よしんば上手く行ったとしてもそれでは猊下を……我ら武家の棟梁たる政威大将軍を討つことになる……!それでは逆賊だ…!」
流石の貞親もハーゼ中佐に反論した。
しかし中佐は自身より何十歳も年上の中将に向けて真剣な目で答えた。
「貞親殿、貴方達が守りたいものとは斉御司信真公御一人なのですか?伝統ある武家社会の秩序と体形なのではないですか?」
「それは……」
「本来なら九條殿が将軍になっていてもおかしくないと聞き及びました。天運、それも重要でしょう、ですが時代は実力の時代です。運だけの尾張殿に終焉を任せるのなら貴方達の手でもう一度、時計の針を戻してみてはどうですか?」
ハーゼ中佐は言葉巧みに彼らの心を揺さぶり、闘争心を吹き上がらせた。
こうした話術はアクスマン中佐の方が得意だった、彼は同じシュタージ相手にも通用するほど人の心を言葉で操る。
ハーゼ中佐はアクスマン中佐に劣るがそれでも古ぼけた派閥の長どもを手懐けるなど容易であった。
彼は正しい意味で悪魔である、彼は武家制度も政威大将軍も使える駒の1つとしか思っていない。
必要なのは政威大将軍が存在するシステムであって政威大将軍である今の個人ではないというのがハーゼ中佐の認識であった。
その姿、思考はまるでかつて参謀本部から国を牛耳ったプロイセン軍人らによく似ていた。
「隣の韓国ではチョン・ドファンは成功させました、我々も後一歩まで行った、貴方達も必ず成し遂げられるはずです」
希薄、論理的思考、そして成功後の甘美なビジョンが彼らの思考を歪めていく。
使える兵力、使える人脈、そしてもし日本軍が動いた場合など全てを計算し始め、その上で成功するかも知れないという甘い考えが湧いてくる。
そこでふと貞親はハーゼ中佐に、周りの者達に同意を求めた。
「これは……天命だと思うか……?」
言葉はなくハーゼ中佐は大きく頷いた。
彼は貞親の盃に酒を注ぎ、契りを交わすように乾杯した。
この日から旧守派は大きく変貌を遂げた、かつての体制の維持ではなく武力闘争路線に切り替えたのだ。
日本帝国は再び荒れる、動乱の日はそう遠くなかった。
城塞級という存在が誕生したのはウィーン・ハイヴ攻略戦が始まるより少し前、1982年12月頃からであった。
この頃からザグレブ・ハイヴ周辺のBETAは活動が低調になり、やってくるユーゴスラビア軍、ソ連軍を迎撃するだけでBETA側から動くことはなくなっていた。
ハイヴ内の大改修工事がスタートし、大量のBETAが動員された。
突撃級や要撃級が掘削を行い、光線級や原光線級がレーザーを用いて全体を切り取る。
戦車級は各所で発生した鉱物資源を回収して頭脳級に還元し、そこから頭脳級は新たなBETAを再生産して防衛、建造などに回した。
ある程度建造作業が終わると突撃級、要撃級らはブダペスト・ハイヴへの移動の為母艦級に乗せ、戦車級、闘士級らは城塞級を動かすシステムの一部として再構築した。
防衛用に光線級を各所に設置し、貴重な重光線級は早期に移動させる。
その間にウィーン・ハイヴからの残存戦力も合流し、城塞級はついに動き出した。
城塞級が注意を引いている最中にザグレブ・ハイヴのBETAをブダペスト・ハイヴまで渡す、それが今回のBETAの目論見であった。
ハイヴ2つ分の戦力がなければBETAは戦争に勝てない、それが欧州に取り残された頭脳級らの結論であった。
本来ならウィーン・ハイヴで敵を引き付けている間に城塞級とハイヴ2つ分の戦力で包囲戦力を殲滅し、暫くの時間を稼ぐつもりだった。
しかしソ連軍の攻勢は想像よりも早く、ハイヴの要塞化は期待よりも効果を発揮出来ず、ブダペスト・ハイヴは戦力不足で包囲網の解除に失敗し、城塞級は動けずにいた。
ソ連軍の攻勢能力を甘く見積り過ぎた結果、今回の動きになってしまった。
この一連の行動が成功したとしてもソ連軍との決戦の勝率は五分、と言ったところだろう。
それでも戦わなければならない、大使命の為、滅びの道を回避する為に。
城塞級の出現から凡そ3時間半が経過し、城塞級は元の位置から凡そ54キロの地点まで移動した。
度々核攻撃を受けているが半年以上の歳月をかけて建設した城塞級の装甲ならまだ問題ない状況だ。
このペースとこの攻撃範囲なら問題なくブダペスト・ハイヴの勢力圏内に到達出来る。
少なくとも未だ移動中のBETA主力部隊の陽動は出来る。
行動自体は順調そのものだったがザグレブ・ハイヴの頭脳級に感情は存在しない為喜ぶことも不安を覚えることもなかった。
ただひたすら任務遂行の為に動き続けている、そこには虚しさもなければ生物らしい理由もない。
機械が与えられた命令を実行し続けているのと同じだ。
尤も最近の
無論ソ連軍も城塞級を撃破する為に第五次攻撃に入った。
城塞級とソ連の戦略兵器、最大の対決である。
城塞級内部にいる頭脳級は即座に宇宙軍の攻撃を感知した。
通常通り光線級を用いて初撃を防ぎ、次弾に備えた。
4回目の攻撃で受けた核弾頭は城塞級にダメージを与えられるレベルだったが撃破には至らないというのが現状だ。
頭脳級は今まで通り攻撃をやり過ごそうとしていた、だが攻撃の第二波を受ける直前であることに気づいた。
別方向からも攻撃が来ている。
弾頭の形状などは正確に判別出来ないが恐らく4回目の攻撃と同じ種類の攻撃だろうということは頭脳級でも理解出来た。
それが明らかに複数、このペースではギリギリ光線級のリチャージが終わらない、10秒というのは思いの外長いと頭脳級達も感じ始めていた。
であればあまり使いたくなかったが緊急防御装置を起動するしかない。
城塞級は戦略核の襲来の前に脚部を大地に固定し、防御態勢に入った。
次の瞬間、身体を覆う岩石のようなものが周囲に飛び散り、接近する弾道ミサイル類を迎撃した。
上空で巨大な爆炎と煙が上がり、周囲に放射能を撒き散らす。
直撃はしなかったがその熱と衝撃は城塞級にも降りかかってきた。
全身が焼かれ、衝撃は岩肌を砕き、場所によっては城塞級の神経であるBETAで作られた回路にもダメージを与える。
これらの攻撃が終わり、内部の頭脳級は城塞級のダメージを確認した。
退避が遅れた幾つかの光線級が撃破され、衝撃波の影響で各種の神経系にも損傷が発生し、移動は出来るが速度は確実に低下し先ほどの防御は当分使用出来ない。
直撃を喰らっていたら撃破はされないだろうが確実に行動不能になっていただろう。
だがこの程度なら問題ない、まだ動けるし神経の再生も可能だ。
城塞級は移動を開始し、その最中に神経系の再生を開始した。
この様子は周囲に展開するSu-24MRとデータリンクで繋がっているシュメリィ、そして偵察衛星から確認出来る。
城塞級が動き出した様は第1ウクライナ前線でも確認されていた。
「城塞級健在!再び移動を開始!」
「クソッ!事前に迎撃されたのがダメだったか!」
ゾロトフ少将は怒りを滲ませ、机を叩いた。
「どうします、”ポーリュス”の発射要請を出しますか?」
この結果を受けてモイセーエフ大将はヤゾフに尋ねた。
だがヤゾフは最悪の結果を見越しており、相応の準備もしている。
「いや、暫し待て。第46ロケット師団のゴリィンツェフ少将に現在移動中のBETAの地点を転送しろ。宇宙軍には陽動攻撃のみやらせる、予備プランを発動するんだ」
「了解…!」
第46ロケット”ニジュネドネプロフスク”十月革命・赤旗勲章師団、先ほど攻撃を実施した第50ロケット赤旗師団とは違いUR-100Nを装備した第43ロケット軍隷下の師団である。
師団長はヴァシリー・ゴリィンツェフ少将、師団の有するUR-100Nは第50ロケット師団が有するRSD-10”ピオネール”よりも強力である。
出来れば使いたくはなかった、次の会戦に備えて温存しておきたかったが仕方ない。
第46ロケット師団からは2発のUR-100Nが発射され、それに合わせてソ連宇宙軍も陽動攻撃を繰り出す。
光線級の回復が追いついていないのか陽動弾も何発かは城塞級に命中し、宇宙軍が作った安全圏をUR-100Nが突き進む。
MIRV弾が城塞級全体を焼き尽くし、各所の神経系により致命的なダメージを与えた。
ほぼ直撃だった為城塞級の一部は砕け、脚部も折れている。
こうなってしまえば回復は出来ても時間がかかり過ぎる、その間に攻撃が連続して叩き込まれれば城塞級の装甲とて耐えられない。
早急に頭脳級は次のプランに移り、脱出を開始した。
その間に待機していた”ポーリュス1”は僅かに射角を変更し、動けなくなった城塞級に狙いを定めた。
エネルギーチャージはとうに済んでいる、今回は35%の出力で照射を行う予定だった。
筒状の先端から、禍々しい黒紫色のレーザーが発射され、大地に佇む城塞級を焼いた。
堅牢を誇る城塞級は周辺の僅かな大地と共に消し炭になり、”城塞級は”姿を消した。
「城塞級の撃破を確認、攻撃は成功です」
「やりましたね同志元帥!」
「ああ、だが偵察は続けろ、見たことないBETAだ、何をしてくるかっ…!?」
モニターを見ていたヤゾフはいち早くその異様な存在に気付いた。
半円状に消し飛んだ大地から何か巨大な生き物が湧き出てくる。
即座に現地で偵察しているSu-24MRの隊長機から報告が飛んできた。
『こちら345001!我が隊は現在、母艦級の変異種と思われるBETAを確認!こちらのレーダーでは頭脳級とほぼ同レベルの熱源反応をキャッチしている…!』
「345001、もう暫く偵察を続けろ」
「まさか……城塞級から脱出したのか…!?ではあれは予備の肉体!?」
ナヒーキン少将は狼狽し、驚きの表情を隠せずにいた。
ヤゾフも顔を強張らせ、緩んだ心を再び戦闘状態に戻して命令を出す。
「どんな姿であろうと奴を撃破せよ。各軍に通達、最優先撃破目標は頭脳級付母艦級、なんとしてでも倒せ!」
ヤゾフが命令を出したのとほぼ同じタイミングで変異種の大型母艦級は再び地面に潜り、どこかへ移動を開始した。
『目標が移動した!追撃する!』
Su-24MR部隊は母艦級を追跡し、モニターには何も映らなくなった。
ヤゾフはその間もモニターを睨みつけ、必ず仕留めるという心を維持した。
ザグレブ・ハイヴが移動した城塞級は仕留めた、だがそれは戦いの始まりに過ぎなかった。
次なる敵は頭脳級を有した母艦級の変異種、BETAはまだ人類に抗おうとしていた。
つづく