マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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友軍戦車の進路を開く
我らが砲のこの火力
敵戦力を徹底撃破する
恐るべき弾幕射撃
-”砲兵の歌(ポクラス兄弟版)”より抜粋-


化け物退治 ザグレブ・ハイヴ攻略戦②

オーストリア=ハンガリー周辺地域に展開しているソ連軍は城塞級の掃討と同時にハンガリー内へ移動するBETAの掃討を行なっていた。

 

攻撃部隊の前進に備えて僅かに前線が前に出てBETAを攻撃し、可能な限り討ち取る。

 

これらの攻撃は第1、第2ウクライナ前線、南欧前線、そして白ロシア前線でも行われていた。

 

幾ら4個前線分の戦力とはいえBETAの移動経路とその周辺に展開するBETAの部隊、何より城塞級の存在によって展開出来る戦力は完全ではなかった。

 

その為に半数以上を取り溢すのもやむなしとされ、可能な限りという条件がつけられた。

 

こういった状況下だとやはり役に立つのが機動力のある部隊、つまり戦術機である。

 

可能な限りの航空戦力がスロベニア、クロアチアの国境地帯に展開され、移動するBETAを追撃していた。

 

戦術機の武装バリエーションもMiG-21やF-4が誕生した頃から大幅に増えている。

 

通常の航空機が搭載する空対地ミサイルや爆弾に加えて、152mmや125mmの砲、GSh-6-30のシールドマウント型や、四連GSh-2-30など。

 

更にはTO-55などの火炎放射装置を改造した戦術機用火炎放射器などでBETAを焼く戦術機もいる。

 

同時に戦術機自体の数も増えた、ソ連軍ではMiG-21から系譜が始まり、MiG-23、MiG-27やソ連防空軍のMiG-25、そしてMiG-29とSu-27。

 

Su-24やSu-25といった戦術機であってもかなりの火力を有する機体も各隊に配備され、戦術機部隊の能力は衛士同様上昇傾向にあった。

 

それに基本的には地上部隊と共に敵と戦う為、諸兵科連合の力で敵を圧倒出来る。

 

仮に士官学校や高等軍事航空学校を卒業したての衛士が初めて実戦に参加することになっても僚機の戦術機と地上部隊との連携さえ取れていれば8分で戦死することもない。

 

生き残った衛士は力をつけ、実戦を経て更なる経験を積み、これらを踏まえて訓練に臨む事で更なる高い練度を得る。

 

無論その過程で戦死する衛士もいるが決して全員ではなかった。

 

人類はまだBETAとの戦争で持続可能な段階にある。

 

「各機、無理をして前線に突っ込むな、後方の梯団には別の戦闘爆撃部隊が向かう」

 

フレツロフ中佐は眼前の突撃級にKh-29を2発叩き込んで仕留め、後ろに隠れていた戦車級に突撃砲を浴びせかける。

 

今回はMiG-29にシールドを取り付けており、そのシールドには2門のGSh-30-1が取り付けられていた。

 

ルヴィロヴァ大尉が有するGSh-6-30ほどの連射速度はないが30mmである為確実に戦車級は仕留められた。

 

ブリツェンスキー少佐とルヴィロヴァ大尉のMiG-29が前に出て前線のBETAを蹴散らす。

 

今回ルヴィロヴァ大尉を含め多くの連隊所属の衛士がMiG-29での初出撃となったが戦闘能力は問題なく機能していた。

 

もう少し訓練を積めば連隊の練度は確実に前より向上するだろう。

 

少なくともこうして戦えているのだから、後は如何に100点を目指すかに掛かっていた。

 

「デルーギン隊前に出ろ、オルゼルスキー隊は支援、我々は逃した残敵を掃討する!」

 

『了解!』

 

『了解!各機行くぞ!』

 

デルーギン少佐の飛行中隊が前に出てBETAを蹴散らし、それを後ろからオルゼルスキー少佐の飛行中隊が援護する。

 

152mm無反動砲が接近する突撃級を一撃で破壊し、味方の脅威を減らした。

 

その間にフレツロフ中佐らの編隊はデルーギン少佐の部隊が残した残敵を潰して回っていた。

 

「潰れろ!」

 

前足を事前に潰した突撃級にフレツロフ中佐はシールドのスパイク部分を叩きつけた。

 

この衝撃に反応したシールドのスパイク中央から1本の杭が打ち込まれ、真正面から突撃級の装甲を粉砕し撃破に至らしめた。

 

弾け飛んだ突撃級の中からフレツロフ中佐のMiG-29が現れて残りのBETAを戦術機の持てる火力で蹴散らした。

 

あの試作装備が使えるとは

 

「ああクソッ!どこの誰だこんなもん試作で作った奴!全然使い辛えじゃなねえか!!」

 

フレツロフ中佐はシールドに搭載された試作刺突兵器に怒りを覚えながら点在している戦車級を仕留めて行った。

 

やがて周辺域からBETAは消え、数個大隊規模BETA群を撃滅した。

 

弾薬に余裕があるMiG-29が周辺を警戒し、その間に他の機体がマガジンを入れ替えて残弾を確認する。

 

各機の残弾と燃料の残りを確認したフレツロフ中佐は撤退か、更なるBETAの移動阻止に向かうかの選択を迫られた。

 

「全機、このまま前進しっ」

 

全てを言い終える前にフレツロフ中佐のMiG-29から警報音が鳴り響く。

 

それは機体のレーダーに何か映ったとかではない、他の戦術機からの情報を総合したモースク1が意図的に鳴らしたのだ。

 

地下から高速で接近する高熱原体を確認、注意しろ、母艦級以上のBETAが襲来する

 

モースク1の警告を聞いてフレツロフ中佐は「各機、一旦その場から離れろ!」と命令を出した。

 

刹那、数キロメートル先の大地が砕け、地中から巨大な芋虫やミミズのような見た目の化け物が飛び出してくる。

 

その姿は資料で見た母艦級によく似ているが全身が岩のような装甲に覆われていたり、一部が何かを後で設置したように盛り上がっていたりと奇妙な点も多かった。

 

「なんだあれは!?」

 

『気をつけろ、図体の一部で熱源が高まってる!!何か撃ってくるぞ!!』

 

ブリツェンスキー少佐の忠告の後、その母艦級は周辺に高出力レーザーをぶち撒けた。

 

幸いにも光線級のようなターゲットロックシステムは備わっておらず、狙い撃つというより薙ぎ払う感覚に近かった。

 

各機は攻撃を回避して直ちに反撃を叩き込む。

 

152mm弾やkh-29が叩き込まれるがそれらは全身の装甲に阻まれて本体に一切のダメージが入らなかった。

 

再び地中に潜って別の場所から姿を現し、再びレーザーを放ってくる。

 

攻撃を叩き込んでも全く効果がなく、向こうは攻撃を叩き込み放題、既に厳しい戦いを押し付けられている。

 

恐らくリチャージか冷却タイムは通常の光線級と同じ10秒なのだろうが、10秒間の弱点を地中に潜るか全身の装甲で攻撃を防ぐことによりこれをカバーしている。

 

少なくとも通常兵装の戦術機では太刀打ち出来ない。

 

MiG-29が27機を有する第306独立親衛戦闘航空連隊でも到底勝てる相手ではなかった。

 

この頑丈さでは最低でもSu-24が持ってくるRN-28、恐らくは足りないだろうからルーナ-Mの9M21Bが欲しい。

 

『クソッ!攻撃が全く効かん!』

 

「今は回避に専念しろ!生きてりゃそれだけで十分だ!」

 

必中効果がない分避けやすいがその分他の面で厄介度が増している。

 

それでも連隊員達は攻撃に触れることなく回避し続け、一応反撃を叩き込んだ。

 

人によっては六度のハイヴ攻略戦を生き延びた強者ばかり、死なない工夫はある程度知っている。

 

「司令部!こちらは新種の大型BETAに遭遇した!応援を要請する!」

 

『フレツロフ、一旦戻れ』

 

「メデツィーニンか!」

 

攻撃を躱しながらフレツロフ中佐はメデツィーニン少佐の言葉に耳を傾けた。

 

『あのBETAは城塞級から出てきた頭脳級入りの本体だ、あの装甲相手には通常兵器類は殆ど効かん。今は陽動の部隊と交代しろ』

 

即座に6機のSu-24からKh-29を発射して気を引き、散開した後に突っ込んできたMiG-29部隊が戦闘に加わった。

 

『ここは我々に任せて離脱を!』

 

「すまない、全機急いで離脱だ!アイゼンシュタットの飛行場まで下がるぞ!」

 

フレツロフ中佐の命令で27機の戦術機は一旦下がり、BETAとの戦いに備えた。

 

彼らはこれを、必ず仕留めなくてはならない。

 

ザグレブ・ハイヴを巡る決戦の始まりである。

 

 

 

 

 

第306独立親衛戦闘航空連隊はオーストリア内に設置されたアイゼンシュタット前線飛行場に戻った。

 

ここには本来前線支援用のSu-25部隊が駐屯しているのだがCAS任務で出払っており、フレツロフ中佐らが降りた時は殆ど機体は残っていなかった。

 

着陸すると飛行場には元々のSu-25部隊とは別に第306独立親衛戦闘航空連隊の整備中隊が丸々全員揃っていた。

 

整備士達は手慣れた様子で戦闘で疲弊した戦術機の面倒を見た。

 

パーツの交換、油の交換、各種のチェックなど、306連隊の衛士が優秀なのは間違いなかったが彼らを支える整備士達もまた優れた能力を持っていた。

 

「グリノフ大尉、どうしてみんなここにいるんだ」

 

MiG-29から降りたフレツロフ中佐は整備中隊長のゲンナジー・グリノフ技術大尉に尋ねた。

 

大尉はヤン・ファブリツィウス名称ダウガフピルス防空軍高等軍事航空技術学校を卒業した技術将校であり、今は空軍に在籍していた。

 

この高等軍事学校も歴史を遡れば空軍の長距離航空部隊を運用する技術者育成の教育機関であり、何人かの卒業生の話によると海軍航空隊へ行った者もいることから大尉が空軍にいても誰も気にしなかった。

 

「上級司令部の命令です、306戦闘航空連隊はアイゼンシュタットへ移動せよと。メデツィーニン少佐達もいますよ」

 

「そうか、あいつの対処にしては早い気もするが……機体を頼む、どうせまたすぐに出撃だ」

 

「はい、しっかり仕上げておきますよ」

 

フレツロフ中佐はグリノフ大尉を軽く叩き、この場を任せた。

 

彼はそのまま飛行場の管制室兼作戦室に向かった、その道中で他の衛士から「うちの連隊は作戦室集合だそうです」と場所を教えられた。

 

彼らは皆作戦室に向かい、中に入った。

 

「ヴィクトル・フレツロフ中佐含め連隊全パイロット、参上しました」

 

「ああ、よく来てくれた」

 

作戦室の中にはメデツィーニン少佐だけでなく第17航空軍司令官のパニィキン航空大将と何人かの参謀が既に中にいた。

 

2人は握手を交わし「こちらへ」と手招きされて全員で作戦室の地図を取り囲んだ。

 

そこには偵察衛星やSu-24MRが捉えた件の母艦級と、現在母艦級が戦っている戦闘地域が地図に記載されている。

 

「君らが戦った母艦級の変異種、取り敢えず装甲母艦級と呼称するがこいつは頭脳級が内部に搭載された戦闘タイプの頭脳級だ」

 

「城塞級は撃破したと聞きましたが」

 

「確かに城塞級は撃破した、だが肝心の頭脳級は取り逃してあの母艦級に入っている」

 

装甲母艦級、装甲化と大火力によって強化された母艦級は通常の輸送機の機能に合わせて頭脳級の戦闘ボディになっていた。

 

その為通常の母艦級よりは確実に小さい、全長は通常の母艦級の1/4であり、その分機動力を有していた。

 

「頭脳級による高度な戦闘能力と城塞級ほどではないが通常兵器をほぼ全て無効化する装甲、母艦級以上の機動力にレーザーによる純粋火力、これらをエネルギー源としての頭脳級が賄うことによりエネルギー不足なく戦えるバケモノになった」

 

本来母艦級の戦闘能力はそれほど高くない、大部隊を一度に運搬するのが使命だ。

 

だがこの装甲母艦級は運搬能力を減らした上で機動力と戦闘能力に割り振っている。

 

周囲にレーザーを放って広範囲の敵を撃滅し、地中に潜って敵の攻撃を防ぎつつ前線で奇襲を行う。

 

しかもかなり足が速い方だから軌道爆撃の狙いも上手く定められなかった。

 

「このまま敵の侵入を許す事は出来ない、戦術機部隊と地上軍が移動を阻止しているが長くはないだろう。そこで前線司令部との協議の結果君達第306独立親衛戦闘航空連隊に装甲母艦級の討伐命令が降った」

 

そんな気はしていた、故にフレツロフ中佐は内心頭を抱えていた。

 

既に装甲母艦級の戦闘能力は十分承知している、あれと戦って生き残るのが精一杯であった。

 

「ああ……お言葉ですが我々の通常装備ではあれに太刀打ち出来ませんよ?」

 

「知ってるとも、無論作戦はある。メデツィーニン少佐」

 

メデツィーニン少佐は軽く頷き、装甲母艦級討伐の作戦を話した。

 

「装甲母艦級には通常兵器が通じません、ですので核兵器使用を前提とした戦いで奴を仕留めます。まず追加装甲を破る為に152mmの核砲弾を非装甲部に叩き付け、内側から引き剥がします」

 

冷戦初期には米ソ共に砲から核弾頭を発射するというコンセプトの核砲弾が存在していた。

 

60年代以降は徐々に衰退していくがBETA大戦の到来と戦術機の導入によって状況は一変した。

 

戦術機が搭載出来る榴弾砲改造型の無反動砲から核砲弾を発射すればハイヴ攻略戦で優位に立てる、通常の野戦でも十分な火力を投射出来るという発想から再び開発が進められた。

 

アメリカ軍だと最近はW82が正式に配備され始め、ソ連軍も152mm用の3BV3核弾頭と203mm用の3BV2を実用化していた。

 

この3BV3はTNT換算2.5キロトンの威力があり、内側から炸裂すれば装甲を破れる。

 

「この要員が3名、十分母艦級にダメージを与えられたら待機中のTu-22M2からKh-22を発射してBETAを撃破します」

 

「では3機以外は陽動を?」

 

「ああ、城塞級の装甲を考えると装甲部は破れない可能性が高い。となれば機動力確保の為に空いている非装甲部から破るしかない、そしてこれをやるには最低でも20機の戦術機が陽動で引き付けないとダメだ」

 

「となると核攻撃を担当する3名だが……」

 

フレツロフ中佐がそのことを述べた瞬間全員の顔がフレツロフ中佐の方を向いた。

 

中佐は目を瞑り「…1人目は俺だ」と諦めたように述べた。

 

残りは2人、今度は自発的に名乗りを挙げた。

 

「2人目は私がやろう」とブリツェンスキー少佐、勇気ある挙手だった。

 

「連隊長だけに危険な任務は背負わせる事は出来ない、我々は同じ連隊、私もお供しますよ」

 

「お前ほど頼れる政治将校はいないよ」

 

こういう勇気と連隊のチームワークを重視する点でブリツェンスキー少佐は将兵の尊敬を勝ち取っていた。

 

「残りは1人、どうする?私かオルゼルスキーか」

 

「いや、俺が核攻撃をやる以上陽動部隊の指揮を取れる奴が2人欲しい。マリロフ大尉!」

 

中佐はかつての僚機の名前を呼んだ。

 

「今頼れるのは君だけだ、任せたぞ」

 

「はいっ…!」

 

マリロフ大尉は敬礼し、その任を受けた。

 

「機体の整備が終わり次第出撃します、長距離爆撃部隊にも打電をお願いします」

 

「ああ、頼んだよフレツロフ中佐」

 

フレツロフ中佐に向けてパニィキン大将は敬礼し、彼らを見送った。

 

衛士達は皆、一旦作戦室を後にし各々水分補給や休憩に向かった。

 

メデツィーニン少佐らは作戦室に残って最終調整を行う。

 

「……もし、Kh-22で仕留め切れない場合は前線司令部に承諾頂いたアレを使うことになりますがよろしいですね?」

 

最後にメデツィーニン少佐はパニィキン大将に尋ねた。

 

メデツィーニン少佐はこの作戦の立案に携わり、最後に1つだけ作戦失敗時に備えた提案を行った。

 

「構わんが砲手は誰にやらせる?現状周辺部隊は陽動とBETAの追撃で出払ってるから運搬部隊のパイロットくらいしかいないが……」

 

「私がやります、機体だけなら余っているMiG-23があると聞きましたし」

 

「出来るのかね?君の身体だと……」

 

「私にも策があります、任せてはくれませんか?」

 

パニィキン大将は少し考えて、メデツィーニン少佐に全てを託した。

 

こうしてザグレブの化け物退治の任務が第306独立親衛戦闘航空連隊に託されたのだった。

 

 

 

 

機体の整備と兵装の設置、対放射能防護加工は僅か2時間とちょっとで終了し、第306独立親衛戦闘航空連隊は出撃を開始した。

 

うち3機のMiG-29が3BV3弾頭搭載の152mm無反動砲を装備し、戦場へ急行する。

 

「各機、常にモースクの射撃支援システムをつけ続けろ」

 

『了解…!』

 

モースク1のデバイスによる射撃支援とは基本的にフレツロフ中佐が普段使っているようなものである。

 

各戦術機、或いはUAVから得られた情報を元にモースク1が有効な攻撃距離、位置などを予測して使用者に提示する。

 

無論モースク1の予測が外れることもある、BETAが計算外の変則的な動きをすれば予測した通りに攻撃を行なっても有効打になり得ない。

 

それでもモースク1の支援システムは衛士1人にかかる負担を軽減し、衛士のリソースを他に回すことが出来た。

 

こうした無人機、システムは単体運用を前提とすると技術的に厳しかったり想像の戦果を上げなかったりするが、人間のサポートと割り切ると大きな戦果を発揮する。

 

今は軍事行動の分野だけだが、いずれ民間にも広まっていくだろう。

 

人はまだ、進化の可能性が残っていた。

 

第306独立親衛戦闘航空連隊が前線へ急行中の最中、装甲母艦級は多数のソ連空軍及び防空軍、ソ連地上軍の部隊に足止めを喰らっていた。

 

現在は空軍の代わりに来たソ連防空軍の部隊が装甲母艦級と交戦中である。

 

部隊はSu-27などの最新鋭戦術機を有していながら装甲母艦級の攻撃を回避することが精一杯であった。

 

『大佐!このままでは連隊全体が持ちません!既に6機退避してます!』

 

ベレンコ大佐が率いる戦闘防空連隊の大尉は焦った様子で連隊長に叫んだ。

 

彼の連隊はフレツロフ中佐の第306独立親衛戦闘航空連隊よりも機体数は多いが未だMiG-25PDSとSu-27の混成であった。

 

連帯のうちSu-27が2機、MiG-25が4機、レーザーによって手足を焼かれて戦線を離脱した。

 

今まで数度空軍と防空軍の連隊が代わる代わる阻止戦闘を行ったが毎回連隊の何機かは撃墜され、半数は途中離脱するというケースが相次いだ。

 

ベレンコ大佐の戦闘防空連隊はこれでもまだマシな方の損害であった。

 

「しばし耐えろ!すぐに追加の連隊が到着する!」

 

『陸軍の砲撃きます!』

 

合図と共に装甲母艦級が姿を現し、その周辺にソ連地上軍によるロケット砲撃が叩き込まれた。

 

攻撃の7割は全身のレーザーで迎撃し撃墜出来なかったものは装甲で受け止める。

 

「非装甲部に火力を集中!」

 

ベレンコ大佐の合図でSu-27とMiG-25PDSらが空対地ミサイルと152mm無反動砲を装甲母艦級に叩き込んだ。

 

無論非装甲部も相当頑丈である為これらの攻撃では表面に僅かな煤を作るだけだった。

 

すぐに上空から迫って来る装甲母艦級の頭を回避し、周辺から離脱する。

 

戦闘隊形を立て直して再び地中から現れる装甲母艦級と対峙した。

 

Su-27の機動力とベレンコ大佐の腕なら回避しつつ部隊指揮を取ることは造作もない、されど部下達は限界があった。

 

先ほどのレーザー攻撃で再び2機のMiG-25PDSが被弾し、跳躍ユニットと足を捥がれた。

 

「大丈夫か!?」

 

『機体は動けます……!ですがこれ以上の戦闘はっ…!』

 

「十分だ、離脱しろ!240107、2機の離脱を援護しろ」

 

『了解…!』

 

まだ生き残っている戦術機を回して損傷機を回収させ、その間に装甲母艦級の陽動に努める。

 

ベレンコ大佐は頭の中でこのまま戦闘が続いた場合、どれくらい持つかの計算を始めた。

 

部下達は一方的な攻撃の回避で相当疲弊している、このペースだと脱落し最悪戦死する衛士はこの後増えていく一方だろう。

 

持って10分、それまでに増援が到着しなければ全滅する可能性もある。

 

尤もベレンコ大佐の不安とは裏腹に増援はすぐそこまで迫っていた。

 

後方から数発の152mm無反動砲弾が叩き込まれ、全弾が装甲母艦級に命中する。

 

現れたのは離脱援護を行っていたSu-27とソ連空軍のMiG-29の連隊であった。

 

『大佐!増援到着しました!フレツロフ中佐の306親衛連隊です!』

 

「っ!そうか!」

 

戻ってきたSu-27は直ちにベレンコ大佐の機体に連絡を行い、装甲母艦級に牽制射撃を行った。

 

27機のMiG-29のうち、24機が先行して展開し、装甲母艦級と対峙する。

 

MiG-29は先に戦っていたベレンコ大佐の部隊の負担を肩代わりするように戦い、彼らに安全地帯まで下がるよう要請した。

 

「306連隊フレツロフです!我々が対応装備を持ってきたので大佐の隊は離脱を!」

 

後からやってきた3機のMiG-29のうち、1機がベレンコ大佐の機体に離脱要請を出した。

 

『後は任せた、第4飛行中隊から離脱しろ。終わったら第2、第3、そして第1が離脱するんだ』

 

『了解……!』

 

MiG-29が敵の攻撃を引き付けている間にMiG-25やSu-27の部隊が戦場から離脱した。

 

まだベレンコ大佐のSu-27は戦場におり、彼は部下達が全員離脱したら自分も離脱する予定だった。

 

「各機、これより作戦行動を開始する。当たり前だが装甲母艦級からは距離を取れよっ!」

 

レーザーの合間を掻い潜り、フレツロフ中佐はその巨体を晒す装甲母艦級に狙いをつけた。

 

有効射撃地点を表示

 

モースク1が射撃地点とタイミングのカウントを表示し、それに沿ってフレツロフ中佐は狙いを定めて砲弾を放った。

 

放たれた砲弾はレーザーが消失したタイミングで装甲母艦級の非装甲部に命中し、その威力を発揮した。

 

核爆発が装甲母艦級の巨体に初めてダメージを与え、ようやく一部の装甲が剥ぎ取られた。

 

衝撃破で周囲の装甲にもヒビが入り、直撃部分は抉れてただれている。

 

装甲母艦級はこれ以上の攻撃を回避する為に急いで地中に潜った。

 

命中、効果を確認

 

「効いてる!どんどん撃ち込むぞ!」

 

フレツロフ中佐はようやくダメージが通ったことに喜び、移動しながら次なる攻撃の準備を始めた。

 

再び浮き上がってきた装甲母艦級は脅威排除の為にフレツロフ中佐に狙いを定めた。

 

しかし先ほど生まれた損傷部分にルヴィロヴァ大尉がGSh-6-30をの集中射撃を浴びせながらKh-29空対地ミサイルを叩き込んだ。

 

それに合わせてミルシェフ上級中尉や他の機体も火力を叩き込み、僅かだが有効なダメージを与える。

 

そちらに気を取られてフレツロフ中佐への集中攻撃は幾分か軽減され、逆に反対側から核砲弾が撃ち込まれた。

 

大爆発を起こし、周囲の肉と装甲がはじけ飛ぶ。

 

「マリロフ!」

 

今度攻撃を行ったのはマリロフ大尉のMiG-29だった。

 

攻撃を受け、装甲母艦級の優先攻撃目標はマリロフ機に移った。

 

だがその前にこれ以上の攻撃を回避せねばと装甲母艦級は地中に潜った。

 

その際後部の守りが手薄になり、そこに目を付けた者がいた。

 

政治将校ブリツェンスキー少佐である。

 

彼のMiG-29から3BV3が発射され、後部の非装甲部分に命中した。

 

『ケツの守りが疎かなんだよ!』

 

これで三度の攻撃を叩き込めた、されど装甲母艦級を仕留めるにはまだ火力が足りない。

 

三度攻撃を喰らい、装甲が破れてダメージを負った装甲母艦級は暫く地中の中にいた。

 

『出て来いよ腰抜け!その面見せろよ!』

 

デル―ギン少佐の悪態を聞いても装甲母艦級は地中から出てこない。

 

このままではこれ以上の攻撃が出来ず取り逃がしてしまう。

 

「司令部、目標が地中に潜ったまま出てこない。指示を求む」

 

フレツロフ中佐は上級司令部に指示を求めた。

 

レスポンスは早く彼らに与えられた命令は指定された範囲から退避せよだった。

 

『第306独立親衛戦闘航空連隊へ、宇宙軍による攻撃で引きずり出す。指定地点から離脱せよ』

 

「了解…!各機今送られてきた範囲から一旦離脱しろ!巻き込まれるぞ!」

 

中佐の命令で第306独立親衛戦闘航空連隊やベレンコ大佐の連隊が一旦離脱する。

 

友軍機の退避を確認するとそれから1分もしないうちに軌道上から地中貫通弾を使用した通常軌道爆撃が始まった。

 

威力は核弾頭を使ったものより低いが装甲母艦級を引きずり出すには十分な火力と衝撃である。

 

何発かが命中し、その衝撃を体感した装甲母艦級は地中も安全ではないと知り、再び地上に出てきた。

 

だが地上には地上で脅威がいる。

 

第306独立親衛戦闘航空連隊とベレンコ大佐ら防空軍の精鋭だ。

 

まずベレンコ大佐らSu-27部隊が装甲母艦級の損傷部に攻撃を集中して注意を引き、その間にデル―ギン少佐やオルゼルスキー少佐が率いる部隊が別箇所にも攻撃を叩き込んだ。

 

これで装甲母艦級の集中がこの三方向に向き、フレツロフ中佐らにチャンスが生まれた。

 

「おかわりだよ!」

 

先ほどの損傷部の近場に各砲弾を叩き込み、装甲と肉を熱と衝撃で粉砕した。

 

更にもう一度、ブリツェンスキー少佐が砲撃に成功し、その近場にマリロフ大尉が各砲弾を叩き込んで周辺個所の装甲を完全に破壊した。

 

「こっちはまだまだ弾が残ってるんだ、お前が死ぬまで付き合ってやる!」

 

フレツロフ中佐はBETAに対して啖呵を切り、敵に立ち向かう。

 

装甲母艦級の弱体化にはもう少しこの核砲弾を叩き込まねばならない。

 

もう暫くザグレブ・ハイヴの頭脳級との決戦は続くことになる。

 

 

 

 

頭脳級は若干だが衝撃を受けていた。

 

彼が身に纏う装甲母艦級は機動力との兼ね合いで城塞級よりは装甲が薄いがそれでも戦術機程度の攻撃は耐えられる設計だった。

 

それが幾つか破られた、恐らくBETAを焼き尽くすあの攻撃だろう。

 

それでも普通なら防げるはずだが非装甲強化部分に確実に当ててくるからどうしようもない。

 

装甲、レーザー、そして母艦級本来の頑強さを合わせた三重の守りでも防げないとは、頭脳級は抵抗する諸問題に対して衝撃を覚えた。

 

だが頭脳級とて生存を諦めた訳ではない、火力と命中率は凄まじいが装甲母艦級であればまだ耐えられる。

 

それに対応策はまだあった。

 

突如装甲母艦級の一部装甲が開き、中から格納していたBETAが現れる。

 

最低限の改造を施された要撃級、一部装甲が強化され前腕は射出可能である。

 

頭脳級はこれを数十体ほど差し向けて妨害を行った。

 

数を出し過ぎると制圧射撃の邪魔になるがこの程度の数ならいい妨害になる。

 

『母艦級がBETAを出してきました!』

 

第306独立親衛戦闘航空連隊の衛士が1人、相手の攻撃を躱しながら全体に報告する。

 

すでに何機かが対応に回っているが突撃砲では中々装甲を貫通出来ず、通常の要撃級撃破よりも手間取った。

 

しかも前腕を射出して妨害してくる為長時間火力を集中出来ず、その上下手に動けばレーザーの射線に入ってしまう。

 

それなりのコストでかなりいい結果を引き出している。

 

『各機道を開け!攻撃を行う3機には絶対に近寄らせるな!』

 

デルーギン少佐の命令を受けてフレツロフ中佐の機体に迫るBETAを迎撃した。

 

少なくとも装甲母艦級が出してきた要撃級は頑丈だが突撃砲で倒せない敵ではない、120mm弾や空対地ミサイルなら一撃で撃破出来た。

 

『道を開けろっ!』

 

ベレンコ大佐のSu-27は離脱した部下が置いていった近接用長刀を手に取り、一度に2体の要撃級を斬り倒した。

 

すぐに左手の突撃砲で迫る要撃級を撃破し、同じように接近する要撃級を近接用長刀で前腕を斬り落とした。

 

それから首を刎ねて非装甲強化部分に突撃砲を2発撃ち込んで仕留め、また接近する2体の要撃級を片割れは両断し、もう片方は串刺しにした。

 

「ベレンコ大佐!助かりました!」

 

一度に6体が討ち取られ、妨害部隊に穴が空いた所をフレツロフ中佐ら攻撃部隊とルヴィロヴァ大尉が率いる護衛部隊が突破した。

 

『我々で気を引きます!』

 

「任せた、その間に散開しろ。とにかく命中箇所を増やすんだ!」

 

『了解…!』

 

3機は散開しルヴィロヴァ大尉と彼女についてきた2機のMiG-29がまず装甲母艦級の注意を引く。

 

レーザーで接近を阻止するが以前の被弾箇所からはまだレーザーが撃てず、火力が若干減少している。

 

大きく開いたレーザーの合間を抜けて突撃砲で損傷箇所を突く。

 

致命傷にはならないダメージだが気を引けていれば問題ない。

 

その間にフレツロフ中佐ら3機のMiG-29が同時に核攻撃を行い三度目の攻撃に成功した。

 

また一部の装甲が破れたがBETAの動きは全く変わらない、痛覚もないのか損傷箇所を気にせず地中に戻り、再び出現した。

 

もう戦場は穴だらけ、場合によっては大地が崩落する為注意することが更に増えていた。

 

再び出現してきた頭脳級は腹ばいになって動き、再び要撃級を射出してきた。

 

ノシノシと音を立てながら前腕を前に出して前進してくる。

 

この頃になるとベレンコ大佐の部隊とデルーギン少佐、オルゼルスキー少佐の隊で要撃級の第一陣は殲滅され、合流出来る態勢になっていた。

 

それを見越してか装甲母艦級は大量のBETAを射出してきた。

 

『BETAの増援だ!』

 

『我々で叩き潰すぞ!』

 

「いや、この数は厳しい。司令部、増援は出せるか?」

 

フレツロフ中佐は司令部に尋ねた。

 

重要な作戦の為か応答はかなり早い。

 

『そちらに前線爆撃部隊が向かっている、掃討は任されたし』

 

「了解、後何分だ」

 

『1分後に到着予定だ』

 

1分なら問題なく耐えられる、フレツロフ中佐は直ちに命令を出した。

 

「後1分やり過ごす!前線爆撃部隊で撃滅した後に一挙に押し切るぞ!ベレンコ大佐」

 

『問題ない、このまま切り抜けよう』

 

両軍とも戦意は高いまま、武装も互いに共有すれば問題なく戦える。

 

迫り来る要撃級を往なし、必要に応じて撃破する。

 

皆それでも最精鋭の衛士、攻撃を回避することは容易かった。

 

1分間の耐久の末、件の前線爆撃部隊がきた。

 

Su-24が6機、Kh-25MLとKh-29を搭載している部隊だ。

 

『周辺のBETAを掃討する!』

 

Su-24部隊は低空侵入で戦線に到着し、要撃級に向けてKh-25MLとKh-29を要撃級に発射する。

 

最大で22発の空対地ミサイルを搭載できるSu-24が6機、一度の襲来で要撃級群は壊滅した。

 

任務を終えたSu-24はそのまま戦場を離脱し、道を切り開いて帰っていった。

 

「支援に感謝する!」

 

一言礼を述べてフレツロフ中佐は直ちに四度目の攻撃に向かった。

 

装甲母艦級は戦場を要撃級に任せて少し離れた場所におり、追跡には僅かだが時間が掛かった。

 

追いついたことを感知した装甲母艦級は再び要撃級のストックを出そうと装甲が一部開いた。

 

それが狙いだ。

 

「モースク!」

 

ターゲットロックオン

 

モースク1の支援を受けたフレツロフ中佐は3BV3を開いた装甲部分に叩き込んだ。

 

放たれた核弾頭が見事に装甲の内側に入り、核爆発を起こす。

 

装甲は完全に弾け飛び、今まで以上のダメージが装甲母艦級に入った。

 

展開中の要撃級群も全滅し、過去ないほどの衝撃が広がる。

 

迎撃の為にレーザーを放ってきたが威力が若干薄れ、回避は容易だった。

 

『マリロフ大尉、行くぞ!』

 

『了解!』

 

超低空飛行で接近しつつ3BV3を投入し、全速力でその場から離れる。

 

二箇所で核爆発が起こり、更なるダメージが入る。

 

「二度三度同じ手に掛かるか!このまま畳み掛けるぞ!」

 

『了解!』

 

ようやく立て直した装甲母艦級は再び地中に潜ろうとするがフレツロフ中佐が装甲母艦級の鼻先に3BV3を叩き込んで無理やり引き摺り出した。

 

その上でブリツェンスキー少佐とマリロフ大尉が核攻撃を成功させ、装甲を打ち破った。

 

「これでどうだ……?」

 

『司令部から306連隊へ、衛星画像の状況から攻撃は十分と判断する。間も無く本攻撃を開始する、各機退避されたし』

 

「司令部了解、全機に通達、攻撃は十分だ!離脱するぞ!」

 

 

 

 

 

Tu-22M2、西側ではバックファイアという呼称がされていた。

 

BETA大戦による戦闘環境の大幅な変化によって相手も変わり、投入される状況も変化したがやることは変わらない。

 

爆撃機として敵を討ち果たす、それがTu-22M2の使命であった。

 

今回の作戦の為に第260重爆撃航空連隊から3機のTu-22M2が駆り出され、Kh-22Nのみを搭載して命令があるまで待機していた。

 

この機体が有するKh-22、西側では識別番号AS-4、NATOコードネーム”キッチン”の名前で呼ばれている長射程空対艦ミサイルである。

 

射程距離は600キロメートル、最高飛翔速度はマッハ4.6というスペックを誇るラドゥガ設計局が開発した恐ろしい兵器であった。

 

今回はこの兵器を装甲母艦級に投入する、元々西側の航空母艦を仕留める為の空対艦ミサイルなのだから適役だ。

 

飛行中のTu-22M2は低空で可能な限り光線属種の射程から距離を取っていた。

 

このまま出番はないかもしれない、パイロット達にそんな疑念が一瞬だが沸き立つ。

 

そうだったら良かったのだろうが彼らは戦いに勝利を決める要の1つとして繰り出されている、すぐに出番は回ってきた。

 

『司令部より各機へ伝達、指定した目標に対して攻撃を開始せよ』

 

「260102了解、3分後に攻撃を開始する」

 

Tu-22M2に乗り込む空軍少佐が司令部からの命令を受諾し、早速準備に入り始めた・

 

Kh-22Nの安全装置を解除し、発射の為機体腹部を開放する。

 

そのまま射撃目標を入力して再チェックし、可能な限り誤射を減らす。

 

3機のTu-22M2は慣れた手つきでシステムを操作して戦闘態勢に移行し、目標に狙いを定めた。

 

『260105、準備完了』

 

『260106、準備完了』

 

「了解、各機1分後に一斉射撃を開始する」

 

少佐は僚機に命令を出し、操縦桿を握り締めながら攻撃の時を待った。

 

こういった待つ時間にも莫大なストレスが掛かる、もし光線属種が撃ってきたらと思うと気が気でいられない。

 

既に彼らの先輩パイロット達は何人も空の上で死んでいる。

 

立派な先輩達であったが同じところに行くのはもう少し先でいい。

 

「残り30秒」

 

「いよいよか」

 

副操縦士から報告を受け取り、少佐は気を引き締めた。

 

30秒、彼らにとっては3時間以上にも感じられる長い時間だ。

 

それでも時間は刻一刻と過ぎ去り、いよいよその時が来た。

 

Tu-22M2から同時に3発のKh-22が発射される。

 

Kh-22Nは投下から僅かな時間で点火し、目標に向かって飛翔した。

 

ミサイル重量5,820キログラム、それが最高飛翔速度マッハ4.6で迫ってくる。

 

誰が言ったか、力は重さと速さ、Kh-22Nは最高速度で目標である装甲母艦級をぶち抜いた。

 

しかもここに搭載している核弾頭の威力が加わる。

 

3発のKh-22Nは核爆発により装甲母艦級にこれ以上ないほどの大打撃を与えた。

 

胴体はそれぞれの直撃部分で四分割され、熱核処理を施された。

 

やがて爆発は巨大なキノコ雲と放射能と共に消えて行き、やがてはそこに核戦場の跡地が残るだけとなった。

 

攻撃が終了した為Tu-22M2はその場を離脱し、飛行基地に帰還した。

 

周囲を離脱していたシュメリィらが取り囲み、軌道上の偵察衛星で状況偵察が始まる。

 

まだ油断は出来ない、もしかしたらBETAは生きているかも知れない。

 

そう言った不安は常に彼らの中にあり、そして幸か不幸かそれは的中した。

 

少なくとも頭脳級とその周囲の骨格はまだ健在だったのだ。

 

攻撃が来ると分かった頭脳級は一時的に周辺の装甲を頭脳級周りに集中して守りを固めた。

 

お陰で即死は防げたが頼りになる戦闘体は消失し、頭脳級本体にも大きなダメージが入った。

 

でも生きている、生きていればなんとかなるとザグレブ・ハイヴの頭脳級は知っている。

 

もうこれ以上の戦闘行動は不能だが残された装甲母艦級の機能を使えば穴を掘って地中からブダペスト・ハイヴに合流出来る。

 

まだ望みは捨てていなかったがソ連軍とてこのことを想定していない訳ではない。

 

頭脳級が健在となると即座に次の手に移った。

 

頭脳級が残置されている場所より数十キロ離れた場所に大型の射撃陣地があった。

 

周囲を2機のMiG-23MLが警備し、うち1機のMiG-23MLAが長砲身のカノン砲の発射態勢に入っていた。

 

『頭脳級健在、移動する気配はなし』

 

『メデツィーニン少佐、いけますか?』

 

司令部からの報告を受けてほぼ数年ぶりに衛士強化装備に身を包んだメデツィーニン少佐は答えた。

 

「問題ない、SM-54の砲撃を開始する」

 

SM-54、ソ連が昔開発した核砲弾であり2A3コンデンサトール2Pから発射された。

 

現在メデツィーニン少佐が乗り込むMiG-23MLAが構えている砲はそのコンデンサトール2Pを戦術機が発射出来るように改造したもので、中には1発のSM-54が搭載されていた。

 

久方ぶりに乗る機体の座席はまるで故郷のような感覚に包まれる。

 

メデツィーニン少佐の身体は今日は比較的に調子が良かった、その為衛士強化装備も問題なく着用出来た。

 

だが片目を失っている為射撃は効き目ではない左目で行うことになる。

 

それでもメデツィーニン少佐に不安はなかった、彼には信用出来るシステムがいた。

 

「モースク、頭脳級に目標を絞り弾道計算を行え」

 

既に終了している

 

一瞬のうちにモースク1から砲撃の弾道予測と計算が終了し、発射角度などが表示された。

 

「便利な奴だなお前」

 

作ったのは君たちだ

 

ここまで便利につくった覚えはない、心の中でメデツィーニン少佐は思った。

 

モースク1は無人機運用システム、それ故にここにはいてここにはいない。

 

メデツィーニン少佐との会話の最中にフレツロフ中佐と会話も行えるし、それは決して別の存在ではなく同一のモースク1が行っている行動だ。

 

生命というほど仰々しい存在なのかは分からないが意思としての存在はとうの昔に確立していた。

 

「では始めようか」

 

モースク1の発射角度に現在の風速と頭脳級の動きを合わせてメデツィーニン少佐が僅かに調整を入れる。

 

角度を固定し、静かに息を吐いて引き金に指をかけた。

 

射撃は得意な方だ、少なくともフレツロフ中佐よりは余程弾が当たる。

 

「外しはしない」

 

コックピットでの操作が連動してMiG-23MLAがコンデンサトール2Pの核砲弾を発射した。

 

凄まじい砲声と共に1発の核砲弾がアーチを描いて飛んでいく。

 

当然飛んでくる砲弾を頭脳級も認知していた、だが迎撃のしようがない。

 

彼は最後の最後に大人しく自らの敗北と死を受け入れた。

 

刹那、頭脳級に直撃したSM-54は頭脳級の生命を完全に終わらせた。

 

ザグレブ・ハイヴ、城塞級、そして装甲母艦級と様々な場所を転々としたこの頭脳級はようやく地上から消し飛んだのだ。

 

ユーゴスラビアからハイヴが根絶された瞬間であった。

 

 

 

つづく

 

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