マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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さらば塹壕よ、
我らは地上に出た
そこには春と
ウグイスのさえずり
そして地をもう出ぬ者達よ、
お別れだ、
お別れだ、皆よ
-”4年目の春”より抜粋-


中欧戦役前夜

-チェコスロバキア共和国領 トルナヴァ市周辺 戦術機演習領域-

2機のMiG-29が互いに死角をカバーし合いながら戦闘地域へ急行する。

 

片方は近接用長刀に突撃砲を予備含めて3丁有しているバランスタイプ、もう1機はシールドにGSh-6-30を装備し右手にはGSh-30-2、そして予備の突撃砲とGSh-30-2をそれぞれ1丁ずつ装備していた。

 

そして2機のMiG-29はS-8Oのロケットポッドと対戦術機用の空対空ミサイルを有している判定となっていた。

 

これは演習、直接的にミサイルを撃つ事は出来ない。

 

突撃砲もロケット弾も発射されている判定になるシステムが組み込まれており、唯一武装として成り立つ近接刀は刀身を演習用のものにすり替えていた。

 

2機は普段通り射線を切る為に山岳部を迂回して進み、ターゲットに向けて前進した。

 

『予定通り私が前に出て切り込む。大尉は援護を頼むぞ』

 

『了解、後ろはませて下さい』

 

通信でブリツェンスキー少佐はルヴィロヴァ大尉に命令し、レーダーで敵機の有無を確認した。

 

今回の演習はブリツェンスキー少佐とルヴィロヴァ大尉の2機編隊VSある衛士が操縦するMiG-29である。

 

2対1だが正直勝ち切れるか怪しいというのが2人の見解であった。

 

『少佐、反応がっ…!』

 

『ああ、見えたぞ!仕掛ける!』

 

2機のMiG-29からそれぞれ2発ずつのミサイルが発射され、発射方向から反対側に飛行して突撃砲を構える。

 

相手の回避を妨害する為に2機は弾幕射撃を展開し、相手の動きを鈍らせる。

 

しかし相手のMiG-29はチャフとフレアを撒いてミサイルを回避し、弾幕射撃をものともせず真正面から突っ込んできた。

 

『クソッ!』

 

即座にブリツェンスキー少佐が近接用長刀に持ち替えると相手の刃を受け止め、跳躍ユニットを逆噴射して攻撃を避け切った。

 

離脱した瞬間にルヴィロヴァ大尉がGSh-6-30を叩き込んだ。

 

寸前で回避して山陰に隠れると120mm弾が発射され、接近してくるブリツェンスキー機に突撃砲で牽制してその場を離れる。

 

無論直射の120mm弾は容易に回避出来る、GSh-30-2を単発で発射してブリツェンスキー少佐を援護した。

 

背後からの攻撃を易々と躱し、長刀を振ってブリツェンスキー少佐に切り掛かる。

 

少佐は突撃砲を用いて接近を阻止し、S-8Oロケット弾を叩き込む。

 

相手のMiG-29がロケット弾を回避した瞬間にルヴィロヴァ大尉がGSh-6-30を速射する。

 

本来ならこれでも相手は詰みだが、相手は跳躍ユニットを吹かしてジャンプして射撃を回避する。

 

それを狙ってブリツェンスキー少佐はミサイル2発を発射した。

 

二手打った、それでも相手はどうにかしてしまう。

 

MiG-29は事前に突撃砲で弾幕を展開してミサイルを撃墜しそのまま最大速度で戦域を離脱した。

 

『追うぞ!数の利で押し切る!』

 

『了解…!』

 

ルヴィロヴァ大尉は内心あそこまでして勝てないとはと相手の末恐ろしさを感じた。

 

二方向からの攻撃、回避した瞬間にミサイルを叩き込んだ、それでも撃破出来ずに取り逃した。

 

しかもこの動きならブリツェンスキー少佐も度々やってくる、少なくとも連隊の政治部長と隊長クラスはこれくらい出来るのだ。

 

『今日の連隊長殿は調子がいい、仕留め切るのは難しいぞ!』

 

『はい、ですが負けるつもりはありません!』

 

ルヴィロヴァ大尉の反応に少佐はコックピットの中で微笑を浮かべ『そうだな』と頷いた。

 

直後、遠方からミサイルが発射され、2機は左右に分かれて回避した。

 

それが相手の狙いであるのを承知で。

 

『大尉っ!』

 

ブリツェンスキー少佐が反応する頃には最大加速で相手機が接近しGSh-6-30を切断した。

 

兵装担架の突撃砲で牽制するもルヴィロヴァ大尉の機体はタックルを受けて体制を崩された。

 

『くっ!がぁっ!』

 

跳躍ユニットを逆噴射して体制を立て直し、即座に横移動で相手の射線から外れる。

 

この間にブリツェンスキー少佐が間に入って時間を稼いでくれたが、彼がいなければ大尉は間違いなく撃墜されていた。

 

彼女はそのことに恐怖を覚えたが同時に闘争心も芽生えた。

 

GSh-6-30をシールドごと取り外し、予備のGSh-30-2を手に持って少佐の援護に入る。

 

その間ブリツェンスキー少佐は1人で相手機と戦っていた。

 

相手のMiG-29はブリツェンスキー少佐と全く同じ装備で性能自体は同じなのだが、経験の上では向こうに分がある。

 

長刀、近接射撃、長刀と綺麗な近接戦の流れでほぼ防戦一方だ。

 

こうも接近されると立て直したルヴィロヴァ大尉も誤射を気にして火力を最大限発揮出来ない。

 

場合によっては足の一本捥がれてでも離脱するべきか、僅かにブリツェンスキー少佐は迷ったが逆にこちらが攻めることにした。

 

突撃砲を1丁破壊されるがその間に近接用短刀に持ち替えて相手機に突き刺そうとした。

 

刺突もその後に繰り出した長刀の一振りも全て回避され、120mm弾が撃ち込まれて撃破判定を喰らった。

 

『少佐っ!』

 

即座に距離を取ってGSh-30-2を叩き込み、遠距離から敵機を狙う。

 

弾幕射撃を回避しつつ、相手機はミサイルをまず2発放った。

 

ルヴィロヴァ大尉はチャフとフレアを展開して回避機動に入るが、即座にもう2発撃ち込まれた。

 

『チッ!』

 

なんとか2丁のGSh-30-2と突撃砲で弾幕を作って撃墜し、破片が関節部を傷つけないように防ぐ。

 

だがその間にMiG-29が接近して左手のGSh-30-2が斬り落とされた。

 

即座に武装を捨てて残り1丁で迎撃するがそれも斬り落とされた。

 

『このッ!』

 

素早い蹴りで無理やり距離を開き、その間にミサイルを2発放って離脱する。

 

『残存兵装は……っ!』

 

ルヴィロヴァ大尉は直ちに突撃砲を手に取ってブリツェンスキー少佐が撃破された地点に突き刺さっていた長刀を手に取る。

 

後方から突撃砲3丁の一斉射で相手機が追ってくるがロケット弾を放って接近を阻止した。

 

この時点でルヴィロヴァ大尉はだいぶ疲弊していた。

 

無理もない、既に僚機を失い想定していた戦術は取れなくなっている。

 

武装の主兵装も殆ど失い、予定の援護射撃が出来なくなった。

 

だが負ける訳にはいかない、相手はメデツィーニン少佐の戦友であり、あの人に並ぶ為にはせめて一矢報いなければならない。

 

戦えないメデツィーニン少佐の代わりを務めるにはそれくらいしないとダメなのだ。

 

それがルヴィロヴァ大尉の矜持だった。

 

大尉は考えた、近接戦では圧倒的に不利、カウンターも不可能だ。

 

で、あればこちらから攻めに出るしかない。

 

突撃砲を放って相手をその場から動かして拮抗状態を破り、まず一度目のミサイル2発を発射した。

 

そのまま直ちに横移動してもう一度最後のミサイル2発を発射し、120mm弾2発と残る全てのロケット弾を発射した。

 

火力の面制圧、無論相手は凄腕だから回避してしまうだろう。

 

だがそこが狙い目であった。

 

長刀を突きの構えで持ち、最大速度で突進した。

 

爆煙の中を1機のMiG-29が長刀を構えて突撃する。

 

ルヴィロヴァ大尉の一突きは相手の突撃砲を破壊し、長刀を叩き落として両手の武装を全て取り払った。

 

逆に相手は短刀を取り出してこの隙を逃すまいと果敢に突撃を仕掛けてきた。

 

ルヴィロヴァ大尉は突撃砲で牽制射撃を叩き込み、薙ぎ払う構えを作る。

 

刃のリーチではこちらが有利、相手が接近する前に切り倒せるか回避したところを突撃砲で仕留められる。

 

なんとか勝てる盤面を作り上げた、だがこれはルヴィロヴァ大尉より相手の方が一枚上手だったと言わざるを得ない。

 

相手のMiG-29は右手の短刀を頭部目掛けて投げつけた。

 

『しまった!』

 

即座に長刀で防御しバックステップを踏んで距離を取り、再び構えを作り直す。

 

だがその時にはもう遅かった、相手は兵装担架から突撃砲の120mm弾と通常弾を同時に発射した。

 

一瞬長刀による頭部の防御で視界が塞がれたのが痛かった、反応がもう少し早ければルヴィロヴァ大尉なら回避出来たはずだ。

 

刹那、ルヴィロヴァ機の撃破判定が展開され、演習は終了した。

 

状況が終了すると先に撃墜されたブリツェンスキー少佐のMiG-29が戻ってきた。

 

『いやぁすまない大尉、呆気なくやられてしまった』

 

『何を言いますか、あの時庇ってくれなければ先にやられたのは私でした』

 

正直後から冷静になって考えてみればルヴィロヴァ大尉には勝ち目はなかったのだろう。

 

何せ相手はまだミサイルを数発分残しており、ロケット弾の段数も十分にあった。

 

立て直せるチャンスは十分にあったし、予定の戦法が破られた時点で編隊としては負けていたようなものだ。

 

それでも2人は十分に優秀だった。

 

『全く、2対1で散々追い詰めてくれたな!』

 

仮想敵を務めていたフレツロフ中佐の通信が2人の通信回線に割り込んできた。

 

彼は放棄した武装を拾い直し、2機に合流する。

 

『今日は随分と調子が良かったですな、中佐』

 

「まあね、新しい目みたいなものだ」

 

『どういうことですか?』

 

「こっちの話」とフレツロフ中佐は誤魔化した。

 

実はこの演習、2対1というよりは2対1(サポートあり)という状態であった。

 

フレツロフ中佐はモースク1との連携により、相手の攻撃を分析してそれに対応してきた。

 

中佐本人の能力にMiG-29の性能とモースク1の支援が入った結果だ。

 

『3人ともお疲れ様、特に大尉、いい動きだったぞ。見惚れたよ』

 

『ありがとうございます少佐!!』

 

演習状況を監督していたメデツィーニン少佐はルヴィロヴァ大尉を褒め称えた。

 

彼女は見るからに喜んだ声で礼を述べていた。

 

『航空産業省に務めていた頃を思い出す、懐かしいね。2人も相変わらずいい動きだ。後少しでオルゼルスキーとデルーギンの飛行中隊対抗演習も終わるからそしたら戻ってこい』

 

「了解、どうせなら見学にでも行こう。多分オルゼルスキーとデルーギンの一騎打ちになってるだろうがな」

 

フレツロフ機に続いて2機のMiG-29が飛翔する。

 

彼ら第306独立親衛戦闘航空連隊は装甲母艦級撃破の戦果を讃えられて新たに勲章が授与され、今日まで他の連隊と共に演習を重ねて練度を高めていた。

 

こうした弛まない研鑽の結果、306連隊の練度はさらに向上しMiG-29の運用能力も装甲母艦級を追っていた時より向上している。

 

9月から10月にかけての2ヶ月は比較的彼らにとって平穏な時が続いた。

 

その平穏の時に彼らはずっと備え続けていた、磨かれた刃は突撃級の装甲すら切り裂ける。

 

その鋭い刃がブダペスト・ハイヴを刈り取るまでそれほどの猶予はなかった。

 

 

 

 

-アフリカ地域 セネガル共和国領 首都ダカール 国連軍共同航空基地-

ダカール・ヨフ国際空港は現在、国連軍の軍用飛行場として運用されていた。

 

元より著名な国際航空ハブとして機能していた為、ここにはC-5やC-130などの大型輸送機が立ち並んでいた。

 

無論中には戦術機もいる。

 

警備の為に置かれている部隊だったり、任務交代の為に立ち寄った舞台だったりと様々だが確かに戦術機部隊はいた。

 

1983年はもう10月に入り、アフリカ攻勢は終盤に入っている。

 

8月頃に主力決戦で大勝し、その勢いのままハイヴを1つ制圧した。

 

そして9月、欧州で城塞級の事後処理を行なっている間に国連軍は再びハイヴ攻略に着手、9月末頃には内部の頭脳級撃破に成功した。

 

残るアフリカのハイヴは1つ、アルジェリアに落下したジャーネット・ハイヴだけである。

 

とはいえここのハイヴも残存戦力はそう多くない、主力決戦にほぼ全ての部隊を注ぎ込み、そして全滅したからだ。

 

今やアフリカのBETAは全軍合わせて2個軍2個軍団いるかいないか、それも6割以上は小破か中破した個体であった。

 

しかも物資が足りず、彼らを回復してやることも難しい。

 

一方の国連軍は連戦とはいえ戦力は申し分ない、連戦で疲弊しているとはいえ士気は旺盛、最後の一踏ん張りとやる気が満ち溢れている。

 

とはいえ現状の国連軍ではハイヴ1つを堕とすのに過剰戦力である為、幾つかの部隊は本国へ帰還し始めていた。

 

ソ連軍は主に海軍戦力と宇宙軍戦力を戻し、ハンガリー奪還の準備に回した。

 

その為ソ連海軍航空隊も殆どが本国へ帰還するよう命じられた。

 

この航空基地にも数十機のソ連海軍機が接近しつつあった。

 

機体名はMiG-23K、ソ連海軍航空隊用にマイナーチェンジされた機体であり、キエフ級やアドミラル・クズネツォフ級ら航空母艦からも発艦出来る。

 

通常の空対地ミサイルに加えて対要塞級用に空対艦ミサイルが発射可能であり、一撃で要塞級を撃破出来る大火力を有していた。

 

『1143501、着陸後は15番格納庫に移動せよ。荷物はこちらで預かる』

 

「管制室、了解した。各機着陸後は15番格納庫に移動せよ。整備の後は”ヴァリャーグ”の指示に従え」

 

部隊に命令を明日のはソ連海軍航空隊大佐、ミハイル・ベルグロフ、ソ連邦英雄持ちのエースパイロットである。

 

年齢は38歳、生まれはゴーリキー(ニジニ・ノヴゴロド)で父親は自動車工場の技術者だった。

 

幼少期をゴーリキーで過ごしたベルグロフ大佐はフレツロフ中佐のように将来に絶対的な夢がある訳でもなく、父のコネで自動車工場にでも勤めるかくらいの気持ちでいた。

 

それが学校の先生の勧めでパイロットになった方がいいと勧められ、どうせなら向いていることをしようとパイロットになる為に軍学校への進学を希望した。

 

チェリャヴィンスク高等軍事航空士赤旗学校に入学し、そのまま空軍に属すると思いきや海軍航空隊の人間から声が掛かり卒業後は航空隊に属した。

 

何人かの同級生と共に海軍航空隊の礼服を着て、僅か数人だけ短剣を握り締めて行進したのはいい思い出だ。

 

それから暫くはE.N.プレオブランジェンスキー名称ソ連海軍航空隊第33赤旗戦闘運用及び再教育センターで海軍航空隊向けの教育を受け、ラトビア・ソヴィエトのトゥクムス飛行場に駐屯する第668海軍航空隊に所属した。

 

丁度勤続から5年が経ち、リガ高等軍事航空技術学校に教官補佐として勤務した頃、BETA大戦が始まった。

 

あの頃は丁度ある海軍大佐との娘と結婚して子どもが生まれた年だ。

 

彼女との出会いはリエパーヤに出張に行った時、気が合ってその日のうちに食事と散歩に誘った。

 

後で海軍大佐の娘と知った時は腰を抜かすかと思ったらしいが。

 

順風満帆な生活だったのにBETAの襲来で細やかな幸せは打ち壊されてしまった。

 

その後既存の航空兵力での戦闘が厳しいとなり、戦術機への転換が進むとベルグロフ大佐は海軍航空隊の戦術機乗り1期生として機種転換訓練を受けた。

 

その間に海軍特別将校レーニン勲章授与クラスで教育を受け、”キエフ”所属の衛士となった。

 

そこから”ミンスク”、”アドミラル・クズネツォフ”、”ヴァリャーグ”と空母を転々とし、いつしか一端の海軍航空隊中尉は大佐となり、ソ連邦英雄の金星を制服に着けていた。

 

恐らく彼は戦争がなくても数十年海軍航空隊に務めていて大佐になっていただろう、だがその経歴は今のものと大きく違うはずだ。

 

BETA大戦というイレギュラーが彼の能力を開花させてしまったのだ。

 

『了解、各員折角生き残ったんだ、着陸に失敗するんじゃないぞ』

 

政治将校アレクセイ・ミハールキン中佐は部隊に注意喚起を促し、気を引き締めさせた。

 

数十機のMiG-23Kは滑走路に着陸してそのまま格納庫に入った。

 

機体は固定され、待機していた整備兵達が整備作業に取り掛かる。

 

その間にベルグロフ大佐は機体のハッチを開いて外に出た。

 

「ご無事で何よりです、大佐!」

 

整備中隊の大尉が敬礼してベルグロフ大佐を出迎えた。

 

「ああ、ここは暑いね。とても10月とは思えない」

 

きていたジャケットを少し開け、大きく息を吸った。

 

10月におけるダカールの平均気温は26°、最高気温では30°を超える。

 

同じ10月のレニングラードは平均気温が6.4°、一番最初の勤務地だったラトビア・ソヴィエトのトゥクムスやリガはもう少し上だが流石に26°は行かない。

 

彼らからしてみればダカールの10月は中々に慣れない10月であった。

 

「ですなあ、司令部がお呼びです。終わったら是非ビールでも」

 

「いいね、ありがとう」

 

軽く手を振ってベルグロフ大佐は一旦着替えに向かった。

 

流石に衛士強化服ぐらいは脱ぎたい、彼は速やかにソ連海軍の夏服に着替えて司令部に向かった。

 

半袖のYシャツに大佐を示す2本の青線と3つ星、ボタンの側には航空隊を示す羽を広げた鳥の徽章が取り付けられていた。

 

暫し航空基地内を歩いていくと司令部にはすぐについた。

 

「ミハイル・ベルグロフ大佐、入ります」

 

司令部の中に入ると大佐を呼び出した人物、派遣艦隊司令官のチェルナヴィン上級大将はアメリカ空軍の将官と打ち合わせをしていた。

 

大佐の声を聞くと敬礼を返し、空軍の将官に一言入れる。

 

「すみません、私はこの辺で」

 

「いえ、あれがベルグロフ大佐ですか。海軍の英雄」

 

「ええ、それでは後は任せました」

 

空軍の将官は敬礼してチェルナヴィン上級大将を見送り、上級大将は「外で話そう」と彼を連れ出した。

 

暫く歩きながら司令部から離れた所にある休憩室に入った。

 

窓からは離着陸を行う輸送機や戦術機の姿がよく見える。

 

「ハイヴ内で暴れてくれたようだね」

 

チェルナヴィン上級大将はベルグロフ大佐を称えた。

 

大佐の隊は9月のハイヴ攻略戦においてハイヴ内の変異種を3体以上撃破し、味方部隊の進路を切り拓いた。

 

「最奥にまでは辿り着けませんでしたがね、やっぱりあのフレツロフ中佐とやらはおかしいですよ」

 

ベルグロフ大佐の部隊は変異種の掃討で弾薬を使い果たし、味方部隊に跡を託して後退した。

 

その為最奥の頭脳級撃破を成し遂げたのは別の部隊であり、ベルグロフ大佐の隊は無線機からの報告でそれを知った。

 

「君らには1ヶ月ほどの休暇の後、太平洋艦隊に移ってもらう。話に上がっていた新型空母と新型戦術機のテストを任せたい」

 

「”ウリヤノフスク”の件ですね、分かりました。隊員はどれほど向こうに移りますか?」

 

「半分、君とミハールキン中佐は向こうに移る。残りの隊員と補充の指揮は副隊長のジュダーノフ中佐が取る手筈だ」

 

大佐は軽く頷き、若干だが戦友達との別れを心の中で惜しんだ。

 

ベルグロフ大佐は今年で15年ほど軍務に就いている、所属先の連隊が変わるのはしょっちゅうだったしBETA大戦によって数多くの仲間が戦場で散った。

 

彼らとは今生の別ではない、一先ずそれは大佐にとって喜ぶべきことであった。

 

「君は新たに設置された独立海軍試験航空連隊の連隊長を任せる予定だ。政治将校は引き続きミハールキン中佐が務め、副連隊長はオスマノフ少佐が昇進の上就任する。それと試験ということで第929国家飛行試験センターからもプガチョフ中佐ら何名かが参加する予定だ」

 

「配備機は?」

 

「試験用にSu-27Kが12機、MiG-29Kが12機、そしてYak-41が12機、だそうだ」

 

大体以前から話に聞いていたコンペの機体だ。

 

Su-27KとMiG-29に関しては大体性能は前線でお墨付きを頂いている、その点Yak-41がどういう機体なのかが楽しみだ。

 

後はこれらの機体が如何に空母との相性がいいか、或いは海上運用に適しているかが試される。

 

「このペースだと戦争終結までに間に合わないかもしれんが……気軽にやってくれ」

 

「分かりました、海軍が貧乏くじなのはいつものことですから」

 

ブラックジョークを呟き、ベルグロフ大佐は命令を受諾した。

 

この時彼もチェルナヴィン上級大将もまだ知らなかった、”ウリヤノフスク”と試験航空連隊が極めて数奇な運命を辿ることを。

 

少しずつ運命は1つの戦いへと結び付こうとしていた。

 

 

 

 

 

-日本帝国領 東京 市ヶ谷 日本国防省本庁舎-

アフリカ攻勢は順調に終わりつつあった、これは日本帝国にとっては他の国々同様いいことであった。

 

この地球上からBETAが消える、それは全人類の悲願だ。

 

日本帝国としても動員して拡大した派遣軍を解体して少しでも支出を減らしたい、軍隊がないのは考えものだが大きすぎる軍隊もそれはまた考えものだ。

 

当初問題として噴き上がってきた斯衛軍の補給問題もなんとか穏便に済ますことが出来た。

 

尤も政治の観点だとそうはいかない。

 

斯衛軍の失態は一気に法改正派の燃料となり、国会は大いに燃えた。

 

城内大臣が国会に召還され、その上で組織としての問題は問い詰められた。

 

しかもその結果、あらゆる斯衛軍や城内省のスキャンダルがスッポ抜かれ武家社会全体が火炙りに合っている。

 

そんな状況下でも信真は一切いつも通り変わらず、旧守派と法改正派双方と戦っていた。

 

とはいってもそれは純度の高い政治の話、斉藤大将らが積極的に手を突っ込むことではなかった。

 

昔アルフレート・フォン・シュリーフェンという男がいた、ドイツ帝国で参謀総長にまで上り詰め、シュリーフェン・プランと呼ばれる戦争計画を作り上げた。

 

ロシア帝国の動員が始まる前にフランスを殴り倒し、ロシアと雌雄を決する。

 

国民に動員をかけてそれらを鉄道輸送で送り込み、計画通りに戦争を開始する、ズレが生じれば勝機はない。

 

恐らく彼は意図せずドイツ帝国に破滅の種を植えてしまったのである。

 

サラエボ事件を発端とした欧州の動乱に当時のドイツ帝国が用いることが出来たカードはシュリーフェン・プランを基とした戦争準備と開戦だけ、なぜなら遅れれば遅れるほどプランの実行は難しくなるからだ。

 

結果は今のドイツを見れば分かるだろう、フランスとイギリスは踏み留まり、逆にロシア帝国はタンネンベルクでの大敗以降目ぼしい勝利は一度だけだった。*1

 

軍隊が動かす国はその軍事行動によって終焉を迎えた。

 

ある意味それは砲弾から生まれた国の正しい末路だったのだろう、生まれた国鷲はナポレオンという傑物の後に欧州に深い傷跡を遺して消えた。

 

ここで重要なのが終焉の種を植え、育ててきた軍人の政治との関わりである。

 

フォン・シュリーフェン、彼はある意味で政治とは距離を置いた人間と言える。

 

前任のフォン・ヴァルダーゼーには野心がありその結果辞職したが、前任の反省を踏まえてかフォン・シュリーフェンは軍事分野への専門性に力を注いだ。

 

政治は政治家の分野、自分達は専門である軍事だけやっていればいい、一見すると正しいかもしれないが何にでも限度はある。

 

何せ彼が生み出したシュリーフェン・プランは政治外交の都合を一切考えない特急世界大戦行片道切符の旅であった。

 

そもそも同じプロイセンの軍人であるフォン・クラウゼヴィッツが戦争論で「戦争とは他の手段を持ってする政治の継続」と論じたのに対し、フォン・シュリーフェンのプランは否が応でも他の手段へシフトチェンジさせるものであった。

 

そしてその反動かシュリーフェン・プラン失敗の後、彼とは真逆とも言っていい男が台頭した。

 

エーリヒ・ルーデンドルフ、総力戦体制の生みの親、日本の陸軍将校達にも多大な影響を及ぼした男である。

 

タンネンベルクでフォン・ヒンデンブルクと共にロシア軍を目も当てられぬ程打ちのめし、その後彼はフォン・ヒンデンブルクと共に参謀本部へ乗り込んだ。

 

ご老体を参謀総長とし、ルーデンドルフ本人は参謀次長として裏からドイツ帝国の全てを牛耳った。

 

これは誇張ではない、本当にドイツ帝国の全てをルーデンドルフは牛耳ったのだ。

 

経済、外交、内政、軍事全てが高々一介の参謀次長の手中にあった。

 

皇帝ヴィルヘルム2世でさえ彼には逆らえなかった、所謂参謀本部独裁が総力戦の名の下ドイツ帝国を完全に支配したのだ。

 

ルーデンドルフの発想はフォン・シュリーフェンともフォン・クラウゼヴィッツとも違った。

 

政治の為に戦争をするのではない、戦争活動を完遂する為に政治を行う、1人でも多く兵士を、1発でも多く砲弾を、国力の全てを戦争へ。

 

完全に手段と目的が逆転してしまった、ルーデンドルフは政治を我が物としたのだ。

 

ドイツが世界大戦に敗北し、彼が次第に落ちぶれていった後も彼が遺したその思想と伝統は軍に残り続けた。

 

フォン・シュライヒャーは政治将軍としてヴァイマル共和国の政治を裏から支配した、ボヘミアの伍長とナチ党が政権を奪取した後も軍との関係は後世語られるほどの従属関係はない。

 

彼らにとってみればナチ党の政策はヴェルサイユ条約の制限を取り払うのにとても有用であり、”使える”存在だ。

 

互いに利用し合い、やがては東西双方で大敗し、軍の一部は伍長を切り捨てる判断に出た。

 

黒いオーケストラは狼の巣に籠る薬物中毒の悪魔に全ての責任を押し付けて殺そうとした、彼らは失敗したが責任の押し付けと名誉という点では勝ったとも言える。

 

戦後彼らは全ての責任をナチ党に押し付けた、ドイツ国防軍は祖国を守る為に戦った清廉潔白な存在である、7月20日の闘士達は英雄だ、少なくともその主張は零戦までは効果を発揮し、恐らくこの世界は2000年代になってもその論調は強いままだろう。

 

政治将軍達が作り上げてしまった呪いであり国家を蝕む毒、滅びの種を毒が養分となって育て上げた。

 

プロイセン軍人とは政治と軍人の距離を測る上での丁度いい反面教師なのだ。

 

少なくとも斎藤大将はプロイセン的な軍人かと言われればそうではないし、旧軍の人間ではあったが要素としては米軍的なものが強かった。

 

だからある程度政治に注意を払いつつ距離を置いて職務に臨める。

 

それが出来なければプロイセンの軍人達のように国家に滅びの種を知らぬうちに撒いて育ててしまう。

 

「引き上げの第一陣、後どれくらいで全部本国に戻せる?」

 

斎藤大将はソファーで報告書を読む新津大佐に尋ねた。

 

「ポート・サイドからの出立部隊は今月中には確実に本国に到着しますがタンジェ、ダカール行はもう少し掛かるかと」

 

「海路は……まあ安全か」

 

「ええ、少なくとも会場航行型の要塞級が出現した報告は8 月以降全く耳にしていません。出たとしても国連艦隊がパトロールに当たっている以上すぐ制圧されます」

 

何せ現在の大西洋、地中海、航海には凡ゆる国の空母打撃群が展開しており、日々警戒し続けている。

 

日本帝国も海軍から”鞍馬”と”天城”を展開中であり、もう間も無く”伊吹”と入れ替えが始まる。

 

少なくとも広大な海を統べる者は人類であった。

 

「斯衛軍の撤兵、どうしますか?」

 

ふと平野少佐は斎藤大将に尋ねた。

 

彼は唸り声を挙げ、頭を抱える。

 

「そこなんだよなぁ……一応第二陣で動員師団だけは回収するつもりなんだが……」

 

「いても意味ないですしさっさと全軍本国に戻してしまえばいいんじゃないですか?」

 

新津大佐は面倒くさそうにほぼ投げやりで提案した。

 

「それだと二陣で我が軍の将兵が帰って来れなくなる。とはいえ斯衛軍を残しておいても連中に復興支援のノウハウがほぼないから早いうちに拾ったほうがいいんだが……」

 

結局のところ斯衛軍はどこまでいってもメリットよりデメリットが勝つ組織だった、今回の攻勢でそれは証明されてしまった。

 

元より稼いでいた不満に加えてそもそもの存在価値を根底から揺るがす結果、斯衛軍の解体はほぼ確実だろう。

 

日本軍でも郷土防衛部隊として斯衛軍を再編する手筈はある程度整った、いざ行動に移すとかなりの数をパージすることになるだろうがやるしかない。

 

「これは、任期までゴタゴタが続きそうだ」

 

提案書にサインを書きながら斎藤大将は愚痴を溢した。

 

何やら武家の旧守派が勝手に亡命者を日本国内に入れた疑いもあるしそのことでソ連の駐在武官からコンタクトがあった。

 

もしそうだとしたらまた面倒ごとが降ってくる。

 

出来れば全部警察に任せて戦後処理だけに力を注ぎたいというのが斎藤大将の内心であった。

 

これから日本帝国は大きく変わる、軍は特に変革が必要になる。

 

今まで動員してきた部隊を順を追って解体し、規模を縮小させなくてはならない。

 

きっと身内から反発を受けるケースもあるだろうし、帰還兵のPTSD問題なども一気に増大するだろう。

 

日本軍自体、今までの対BETA戦ドクトリンから新しいドクトリンへと転換しなければならない。

 

その為には現代の安全保障環境において何が脅威か、その為には何が必要かを冷静に分析しなければいけない。

 

軍縮と将兵の復員計画、そして戦後の国防大綱の作成が斎藤大将にとって軍役最後の仕事になるだろう。

 

これだけでもやることは多いのにその上で斯衛軍のお守りは御免被りたい。

 

斎藤大将は烏丸議員ほどエネルギッシュな人ではない、出来れば職務は少ない方が良かった。

 

ただ、彼も運命に引き寄せられる。

 

斯衛軍を普通に解体するよりも難しい仕事が彼には待ち受けていた。

 

 

 

 

 

-モロッコ王国領 テトゥアン州 州都テトゥアン 国連軍演習地域-

10月末、国連軍はアルジェリアに残る最後のBETAのハイヴ、ジェーネット・ハイヴに取り付き内部の7割を制圧した。

 

まだ残存するアフリカ最後のBETAが必死に抵抗を見せているが恐らくは時間の問題だろう。

 

予備戦力も含めて今ハイヴに突入している戦術機部隊が2、3回全滅してももう一度攻略を行えるほどの戦力があった。

 

そしてアフリカ最後のハイヴに国連軍を押し返すだけの戦力はもう残っていない、後は何日長く生き延びられるかの勝負であった。

 

その為各所では早々に撤兵と戦後復興の準備が進められていた。

 

各所に残ったBETAの死骸の撤去や土壌汚染除去、破壊された市街地や村々の復興などやることは多い。

 

こうした取り組みに対しアメリカ軍以外の派兵国も復興支援部隊として派遣軍の一部をアフリカに残した。

 

基本的には工兵や衛生兵、治安回復の為の憲兵が多く、中国、インド、中東に並んでアフリカでのPKO活動が開始された。

 

無論このPKO活動は全てが上手く行く訳ではない、むしろ失敗点の方が多くなるだろう。

 

それでも10年前の姿に世界を戻さんと人々は世界の回復に努めた。

 

またPKO活動に参加しない部隊は各所で本国への帰還が始まった。

 

ゆっくりとだが世界が総動員総力戦の時代から戦後へと歩もうとしていたのだ。

 

それは斯衛軍とて変わらない、内閣の決定で日本帝国に割り振られたPKO活動は全て日本軍が担当し、斯衛軍は本国へ帰還せよと命令が出た。

 

その為斯衛軍は展開地域を全て日本軍に任せ、各所で撤兵の準備に入っていた。

 

撤兵に用いられるのは主にトリポリ、スファックス、チュニス、ラゴス、ダカール、そしてジブラルタルの港。

 

官民問わず多くの客船が動員され、アフリカに展開した数百万将兵の本国帰還を開始した。

 

一部は輸送機で帰還するらしいが彼らが有する重装備を考えれば全軍の空輸は現実的ではない。

 

やはり大規模兵力を運ぶ方法は船しかなかった。

 

既に第一陣で日本陸軍の将兵が本国に帰還し、ほぼ日露戦争以来の凱旋を果たした。

 

兵士達は家族との再会、無事の帰還を心の底から喜び、国民は勝って帰ってきた新生日本軍を拍手と歓喜の声で迎えた。

 

これは中東に派遣された部隊が一部帰ってきた時も同様だ。

 

1945年の戦争は敗北に終わったが今回の戦争は勝った、しかも世界の為の勝利である。

 

どれだけ人は反省しようと結局凱旋で流れるラッパと行進の勇ましさと勝利の高揚に抗えないのである。

 

斯衛軍の将兵も殆どが日本軍の将兵と同じことを考えていた。

 

世間では斯衛軍解体などが囁かれているそうだが軍の下士官兵を構成する下級武家の人間からすれば後は年金さえ貰えればどうなっても構わなかった。

 

もうこんな思いをするのは二度と御免だし、年金が貰えるとなれば食い扶持の心配もなくなる。

 

それに家格を金で買った類の人間からすれば折角徴兵逃れが出来たと思ったのにこれでは話が違う、二度と勤めてやるかと憎しみの心で斯衛軍の事を見ていた。

 

困るのは真面目な将校や親、祖父の代から斯衛軍で食っている武家の者達である。

 

彼らからすれば斯衛軍のない世界など想像出来ない、自分が軍から追い出された後どうやって生きるのか全く想像がつかないのだ。

 

その不安は彼らを苦しめた、そしてその不安に漬け込む毒が撒かれていた。

 

海外派遣中の旧守派がノンポリの軍将校らを取り込み始めたのだ。

 

折角BETAに勝ったのに国に帰ったら無職にされるかも知れない、だが旧守派が勝てば何かが変わるかも知れない。

 

不安の増長と甘い希望が彼らを狂わせた。

 

恐らく本国に戻る頃には”出来上がっているだろう”。

 

ここにも旧守派が生き残る為の布石が打たれていた。

 

無論誰も彼もが不安を覚えていた訳ではない、前向きな者だっている。

 

少なくとも斑鳩の悪童こと崇継は前向きな方だった。

 

今もテトゥアン国連軍航空基地から崇継と介六郎の”瑞鶴”が演習地域へ飛び立っていった。

 

基本的に”瑞鶴”は戦術機のF-4を改造したモデルであり、衛士個人の裁量にもよるが一応F-4EJ改と同じ装備は搭載出来る。

 

故にサイドワインダーやAGM-65 マーヴェリックなども搭載出来た。

 

今回崇継と介六郎の”瑞鶴”にはAIM-9 サイドワインダーが跳躍ユニットと腕部合わせて8発搭載されており、脚部にハイドラ70ロケット弾のポッドが設置されていた。

 

そして主兵装は予備含めた2丁の突撃砲と1本の近接用長刀、そして副兵装として搭載されていた四〇式近接刀を腰の部分に装備している。

 

「真壁、相手は1個飛行隊だが行けるか」

 

『行けるかって、貴方がやろうって言い出したんじゃないですか』

 

介六郎は呆れた声音で返した。

 

機体をよく見てみるとハンドサインで問題なしと表示されていた。

 

「そうだったな、まあ俺とお前のコンビが負けるはずもない!」

 

『きますよっ!』

 

先鋒、白の”瑞鶴”が3機、装備は崇継らよりは火力が低いがAIM-9にハイドラとしっかりと中長距離装備を持っている。

 

青と赤の”瑞鶴”は左右に分かれて編隊の分断を狙った。

 

それに呼応するように白の”瑞鶴”は隊長機が介六郎の赤い”瑞鶴”を追い、残り2機が崇継の青い”瑞鶴”を追った。

 

突撃砲で牽制しつつサイドワインダーの狙いを定めるが、急激に加速した崇継を追いきれずうち1機がハイドラ70ロケット弾を数発喰らって撃墜判定を受けた。

 

『ソード4!僚機が!』

 

『なにっ』

 

『あの人に気を取られすぎですよ!』

 

編隊長が部下の援護に入ろうとした瞬間介六郎の”瑞鶴”に長刀で切断され、撃墜判定を受けた。

 

残り1機の”瑞鶴”は本隊と合流しようとしたがその前に2機の突撃砲を喰らって撃墜された。

 

「次が来るぞ」

 

『分かってます、私が前に』

 

11時と2時の方角から数発のミサイルが発射され、機体の警報音が鳴り響いた。

 

即座に回避機動を取り、牽制弾を放つ。

 

左右合わせて6機、正面3機、飛行隊の本隊だ。

 

向こうとしても初手で先鋒が殲滅されて戦闘セオリーを大分乱されている。

 

3機編隊で食い止めたところを本隊の物量で殲滅の流れだったのだが、先鋒は瞬殺されてしまった。

 

こうなれば後はヒットアンドアウェイに徹するしかない、まだ数的優勢はある。

 

『ソード2、ソード3、編隊を率いて2機を抑えろ。まずは斑鳩少尉から潰す』

 

『了解!』

 

狙いは崇継、1対6なら流石の崇継といえど勝ち目はないだろう。

 

大人気ないがこちらとて負けたくはない。

 

「狙いは俺か、たった6機なんて斑鳩の家は随分舐められたもんだ」

 

左手で長刀を持つと崇継は積極的に攻めに出た。

 

まず敵編隊長機を狙い、真っ直ぐ突貫する。

 

当然ミサイルやロケット弾、突撃砲の弾幕射撃が降り注ぐがそれらを”瑞鶴”の機動性で回避しつつこちらもミサイルを突撃砲で迎撃してまず編隊長の首を取った。

 

「1つ!」

 

隊長機が堕とされたことにより明確に僚機が動揺した。

 

飛行隊長が落ち着かせる間もなく特に部隊から孤立した1機が青い”瑞鶴”から発射された2発のサイドワインダーを受けて撃墜された。

 

『チッ!ソード8合流しろ!4対1で!』

 

そう言っていた背後で僚機の”瑞鶴”が撃墜判定を受けていた。

 

『なにっ!?』

 

『意識が崇継に向きすぎです…!』

 

僚機を撃墜したのは3機を相手取り、今はうち2機と鍔迫り合いをしている介六郎の赤い”瑞鶴”が放ったサイドワインダーだった。

 

『やはり先にあちらを!』

 

『おい待て早まるな!』

 

焦った飛行隊長の僚機が介六郎を撃墜しようと向かうが手の空いていた崇継によって即座に撃墜された。

 

そして介六郎に迫る2機の”瑞鶴”を長刀ごと左腕を斬り落とした。

 

無論実機の腕は無傷であるがシステム上は切断面から下は動かせなくなっている。

 

『態勢を立て直せ!一旦離脱しろ!』

 

サイドワインダーとロケット弾の同時発射で崇継と介六郎を遠ざけ、残り5機となった白い”瑞鶴”は部隊を再編した。

 

2機は敵部隊を取り囲みながら攻撃のタイミングを待った。

 

「タイミングを合わせて分断するぞ、俺が3機なら俺が倒し終える前に全滅させろ。そっちが3機なら俺が倒すまで待ってろ」

 

『無茶言いますね……了解、なんとかしますよ』

 

「上等!」

 

そう述べた瞬間崇継は”瑞鶴”の突撃砲と右腕に残る2発のサイドワインダー、両方を一気に発射した。

 

ほぼ同タイミングで介六郎も突撃砲とロケット弾を同時発射し、無理矢理にでも戦術機部隊を引き剥がした。

 

結果崇継が追うことになったのは敵隊長機も含めた2機、介六郎は3機を相手にすることとなった。

 

「大将首か、いいねッ!貰い受けるッ!」

 

2機の応戦射撃を掻い潜りながらまず僚機を長刀で斬り倒し、隊長機に狙いを定めた。

 

執拗なまでの斬撃を浴びせかけ、少しでも離れると突撃砲で立て直す隙を与えない。

 

一瞬で僚機が堕とされた衝撃に加えてこの猛攻、隊長といえど動揺していた。

 

一方の介六郎は分かれた”瑞鶴”のうち損傷機を先に撃墜して、反転して近接戦に持ち込もうとする”瑞鶴”をカウンターで仕留めた。

 

残りは1機、速やかに仕留めんと介六郎の赤い”瑞鶴”が迫ってくる。

 

『隊長!助けてください!編隊は全滅しました!隊長!』

 

追ってくる赤い”瑞鶴”を振り払おうと動き回り、突撃砲を発射する白い”瑞鶴”だが隊長機からは応答がない。

 

それもそのはず、彼がコックピットから見た先には斬り合いに負けて画面からロストする隊長機の”瑞鶴”が映っていたからだ。

 

『嘘だろ……たった2機だぞ』

 

刹那、長刀が生き残った最後の白い”瑞鶴”を斬り、演習を終わらせた。

 

戦闘プログラムが終了し、撃墜されてロストしていた”瑞鶴”の姿が戻ってくる。

 

『完敗です、まさか12機の飛行隊がこうもやられるなんて……』

 

相手の飛行隊長から崇継と介六郎相手に通信が入ってきた。

 

「数の利に頼り過ぎないよう、もっとガンガン攻めに行くべきでしょう」

 

彼らには練度よりも攻めようとする攻勢の気概が足りなかった。

 

ヒットアンドアウェイを用いて例え何機か撃墜されても堕とす気概でやれば一矢は報いられたであろう。

 

「我々は整備の為、一旦先に基地へ戻ります。それでは」

 

『はい、お気をつけて!』

 

赤と青の”瑞鶴”は先んじて演習地域から離れた。

 

帰投する際、介六郎はあることを崇継に尋ねた。

 

『何故本国に帰る前に模擬戦形式の演習を?』

 

「俺達も戦後を見据える必要があるんだよ、BETAとの戦いが終わればまた人間同士の戦争に戻るかもしれない。少しでも色々な力をつけておくのは日本を守る為に必要だろ」

 

『そうだけど……斯衛軍がなくなったらどうします?』

 

介六郎は崇継に尋ねた。

 

正直な所介六郎は斯衛軍がなくなったとしてもそれほど将来への不安は抱いていなかった。

 

彼が若いからということもあるが一番は崇継がいるからという個人への信頼であった。

 

彼は有力武家の真壁家に生まれた、当然それなりに頭は回る。

 

斯衛軍、延いては武家社会がなくなった時のことを考え、その世界でどう生きればいいか計算したこともあった。

 

その結果がこの崇継という家柄関係ない傑物がやりたいことを後押しするということであった。

 

彼は脳死で崇継についていけばいいと考えているのではなく、崇継が持つ理想が日本の為になるから彼を支えてやればきっと日本は良くなると考えた末の結論だ。

 

だから一番重要なのは崇継がどう考えているかだ。

 

「別に、そうなれば日本軍に入って防人になるだけだ。俺達ならそんなに嫌われないと思うがな」

 

実際今まで義勇兵として様々な戦場に参加してきたが正規の日本軍将兵達からは「どうせだったらうち来ない?」と誘いを受けていた。

 

うじうじしている実家が嫌で”瑞鶴”を半ば持ち逃げする形で逃げ出してきた崇継だが、一応家のメンツの為と斯衛軍には入っていた。

 

なくなれば日本軍に入るだけのこと、結局国を守るということではやることは変わらないのだから。

 

『そうか、なら安心ですよ。15Jとやらにも乗れますかね』

 

「もしかしたら14NJとかの方かもしれんぞ、海軍だって面白そうだ」

 

2人は青年らしい笑顔と笑い声を浮かべ、基地へ帰投した。

 

武家社会全体が暗い中、当時悪童と言われていた彼とその付き人だけは明るい希望を持っていたのだ。

 

 

 

 

-チェコスロバキア共和国領 オロモウツ州 プルジェロフ市 第1ウクライナ前線司令部-

ソ連軍の4個前線による同時攻勢作戦の事前準備は粗方終了し、後は計画の細部を調整するだけであった。

 

しかしここでソ連宇宙軍と各前線の地中観測部隊から1ヶ月以内にBETA側からの攻勢作戦が発生する可能性がありと警告された。

 

偵察衛星と1982年頃より1つの兵科として設立した地中観測部隊の音響及び振動探知によってBETAの動きが活発になっていることが判明した。

 

過去の記録を参照して分析するとBETAが各所で攻勢を開始する前準備の可能性が高く、各前線に警戒が促された。

 

その為各前線もSu-24MRやMiG-25Rなどの偵察戦術機を投入して前線の調査を行なっていた。

 

第1ウクライナ前線司令部でも偵察情報を基にどうするかの対策が行われていた。

 

「ブダペスト・ハイヴが抱えるBETA戦力は推定28個軍、うち13個軍はザグレブ・ハイヴからの転用であります。各軍の展開範囲としては我が軍の前線1つにつき凡そ5個軍を展開しています」

 

ラディーギン少将は報告書を片手に情報の整理と説明を行った。

 

周りの参謀達は皆真面目な表情で少将の報告を聞いている。

 

「そして予備戦力8個軍、うち3個軍がハイヴの守備についているとしてうち5個軍がどこかの戦線にいつでも投入出来る状態です」

 

「この予備戦力は事前に叩き潰すことは出来ないのか?」

 

ゾロトフ少将はラディーギン少将に尋ねた。

 

「難しいと思う、大半の戦力は母艦級ごと地中に埋められているから貫通弾を使わない限り対処が難しい」

 

BETAもかなり場慣れしてきた、敵軍の侵攻を阻止する為の戦線を展開する部隊と予備戦力として温存しておく部隊をそれぞれ管理している。

 

特に予備戦力の秘匿に関しては偽装や地中に埋めておくなどかなり頭の回る手法を投入してきた。

 

「次にこちらを、これは我が軍の偵察衛星、地中観測部隊の偵察情報を総合し、BETAの詳細な戦力展開地域を割り出した地図です。現状我が第1ウクライナ前線、白ロシア前線に戦力が集中していることが分かります」

 

2名の情報将校が持ってきたボードに貼り付けられたハンガリー周辺の地図には各所にソ連軍の兵科記号付きでBETAの戦力がどこに、どれくらいいるかが正確に添付されている。

 

特に予備戦力が比較的集中しているのがオーストリア及びチェコスロバキア方面、ヤゾフらが担当する地域だ。

 

逆に南欧前線と第2ウクライナ前線の担当地域には通常の守備戦力がいるだけで後の兵力は第1ウクライナ前線と比較するとかなり少ない。

 

「第1ウクライナ、白ロシア前線の方面だと事実上15個軍が展開している状態ですか」

 

「そうなる、だがこの戦力バランスは我々にとってもそう悪くない」

 

ヤゾフはボードに貼り付けられた地図から説明を行った。

 

「我々が白ロシア前線と協力してまず攻勢をかけて相手の戦力を釘付けにする。動き次第だが向こうの予備戦力も幾つかは引き付けられるだろう。その間に南欧、第2ウクライナ前線とユーゴ、ルーマニア、ブルガリアの連合軍が押し上げれば必ず攻勢は成功する」

 

「また我々は辛い戦いになりそうですな」

 

皮肉混じりにモイセーエフ大将が呟いた。

 

ヤゾフも同じように苦笑を浮かべて軽く頷く。

 

「ああ、諸君には無茶をかけるが我々なら必ず防げるはずだ。そしてこれが最短で中欧戦役を終わらせる唯一の方策だと思う」

 

彼は第1ウクライナ前線の全将兵を信じていた、ジトーミル防衛戦から今日に至るまで共に戦ってきた同志だ。

 

「私もそれが正しいかと」

 

まずパリィーニキン少将がヤゾフに同調しアニシモフ中佐やマリィツェフ中佐、リトヴィネンコ中佐ら参謀達も頷いた。

 

そしてローシク少佐がヤゾフの判断を実際の命令として書き起こす。

 

かれこれ3年の付き合いだ、皆心は通じ合っていた。

 

そこへ1人の地中観測部隊の連絡将校が飛び込んできた。

 

「同志元帥!」

 

彼は急いで敬礼し、僅かな会話を挟む間もなく報告書と口頭での報告を行なった。

 

「地中内部のBETAが動き始めました…!想定よりも早く攻勢が始まる可能性があります…!!」

 

その報告を聞いたヤゾフは静かに「そうか」とだけ呟き、司令部の参謀達に命令を出した。

 

「各軍司令部に通達、今から15分以内にBETAの大規模攻勢が開始される可能性がある。直ちに警戒し防衛戦闘に入れ」

 

「了解!」

 

「白ロシア前線のアフロメーエフ元帥と話がしたい、回線を繋いでくれ」

 

「直ちに」

 

「待機中の空軍及び防空軍を前線へ向かわせろ。戦車隊到着までの時間を稼ぐ」

 

「分かりました」

 

「宇宙軍司令部に対地支援準備の要請を出せ、ここで奴らを撃滅するぞ」

 

「ハッ!」

 

ヤゾフは僅かな合間に必要最低限の初動命令を出し終えた。

 

これで後はBETAがどう動くかである。

 

既に第1ウクライナ前線の準備は整った、それでは迫るBETAはどうだろうか。

 

世に言うハンガリー決戦が間も無く始まろうとしていた。

 

 

 

 

つづく

*1
マジでタンネンベルクで負けて以降ブルシーロフ攻勢以外に勝ってるの見たことがない、100万人単位で脱走してるとか話になんねえよ




斯衛軍筆頭 煌武院直哉ってのを考えたんですが炎上しそうだったんで没になりました
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