マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
太陽は無く、岸は遠い
空気にも余裕がなく
配食も友と分け合う
しかしどんな不自由にも
私は耐えられるだろう
ロシアよ、故郷なるロシアよ、
君の勲を守るために
-”灰色のクリル諸島の上を”より抜粋-
1月末、レニングラードからウラジオストク空港にソ連海軍総司令官、セルゲイ・ゴルシコフソ連邦海軍元帥が到着した。
ゴルシコフ元帥は"ウリヤノフスク"の運用視察の為に直接空母に乗艦し、確認を行う予定であった。
元帥一行はまずウラジオストクの太平洋艦隊司令部に向かい、司令官のシドロフ大将と面会した。
太平洋艦隊の状況、そして太平洋上の環境を話し合いながらゴルシコフ元帥は本命の"ウリヤノフスク"視察に向かった。
ゴルシコフ元帥一行はドゥブナ級補給艦の"イルクート"に乗艦し、"ウリヤノフスク"と合流した。
到着したのは既に2月に入った頃であり、補給物資と共にゴルシコフ元帥は"ウリヤノフスク"の乗組員らに歓迎された。
甲板上には"ウリヤノフスク"の水兵及び将校による海軍の100人ほど隊列と各種戦術機3機ずつが列を組んでゴルシコフ元帥を待っていた。
ゴルシコフ元帥一行は"イルクート"の将官艇で先んじて"ウリヤノフスク"に移動し、この最新鋭原子力空母に乗艦した。
甲板上にゴルシコフ元帥が姿を現すとゴキナエフ少将とベルグロフ大佐の3人が敬礼して海軍総司令官を出迎えた。
「同志ソ連邦海軍元帥、原子力航空母艦"ウリヤノフスク"への乗艦を歓迎します。"ウリヤノフスク"艦長、ソ連海軍少将ゴキナエフ」
「ありがとう、活躍と成果は聞いている」
ゴルシコフ元帥も敬礼を返し、ゴキナエフ少将と握手を交わした。
次に元帥はベルグロフ大佐に声を掛けた。
「新しい戦術機はどうかな、ソ連海軍の英雄よ」
「どの機体も素晴らしいものです同志元帥」
同じく握手を交わして、一行は"ウリヤノフスク"に乗艦する海軍大尉の先導の下、水兵達の方へ歩き始めた。
「総員、頭向け右!」
水兵達を束ねるチャパコフ中佐の号令によって水兵達は右を向き、直立不動の体勢でゴルシコフ元帥を出迎えた。
ゴルシコフ元帥、ゴキナエフ少将、ベルグロフ大佐は敬礼しゆっくりと甲板の上を歩いた。
"ウリヤノフスク"に乗艦する喇叭手が歓迎の演奏を披露し、喇叭の音色が響く中ゴルシコフ元帥は新しい空母の質感を堪能した。
"ウリヤノフスク"はある意味でゴルシコフ元帥の長年の夢であり、本来は叶うはずのない存在であった。
それがBETA大戦の余波によって生み出された、今がソ連海軍の全盛期である。
ゴルシコフ元帥は上を見上げ、甲板に立つソ連海軍の新型試験戦術機を眺めた。
コックピットからは各衛士が敬礼し、ゴルシコフ元帥を敬意をもって出迎えている。
「あれらが試験運用中の新型戦術機です。左から順にMiG-29K、Su-27K、Yak-41です」
ベルグロフ大佐はゴルシコフ元帥に各戦術機を説明した。
「試験は順調に行っているようだね」
「はい、後はYak-41の特殊発艦機能をテストすれば全ての試験は終了し、最終評価に移ります」
Yak-41は通常の戦術機と違い、まだ1つ運搬及び運用能力を有していた。
その為のテストを行う為に補給を兼ねてこの"イルクート"を呼び出し、翌日テストに導入するつもりでいた。
「そうか、結果が楽しみだよ」
ゴルシコフ元帥はその話を聞き、微笑を浮かべた。
それからゴキナエフ少将とゴルシコフ元帥の一行は"ウリヤノフスク"の艦内を視察した。
例えば今のところあまり出番のない医務室、ここには軍医長のイーゴリ・ヴィサンチュ―ク中佐と海軍の軍医達が負傷者や体調不良の乗組員を治療する為に待機している。
基本的に今のところの"ウリヤノフスク"では訓練などによる重傷者は出ていないし、深刻な体調不良を訴える人もいない。
稀に頭を打っただとか具合が悪いと申告する乗組員はいるが、ほぼ全て1日寝かせておけば何とかなかった。
無論艦内で負傷者が大量に出る時は緊急事態である為、なるべくその可能性はない方がいい。
ヴィサンチュ―ク中佐は「出番がないことはいいことだ」と安堵していた。
それから食堂、戦術機を駐機させる格納庫、機関室、最後に"ウリヤノフスク"のブリッジに足を運んだ。
ブリッジではゴキナエフ少将に代わって指揮を執っているヴィセーニン中佐とブリッジの乗組員達が待機していた。
「総員、同志ソ連邦海軍元帥に対し敬礼」
ゴルシコフ元帥が入って来るとヴィセーニン中佐は水兵達と共に敬礼し、海軍総司令官を出迎えた。
まずゴルシコフ元帥は敬礼していたヴィセーニン中佐に握手し、"ウリヤノフスク"の状態を尋ねた。
「どうだね"ウリヤノフスク"は、いい艦か」
「今まで二隻の空母に乗っていましたが一番いい空母ですよ。後は我々乗組員の連度が上がれば"ウリヤノフスク"は完成します」
ヴィセーニン中佐は断言した。
彼の自身ある発言はゴルシコフ元帥を満足させた。
「中佐はまだ副長ですが、本艦が正式に就役すれば必ずいい艦長になりますよ」
ゴキナエフ少将は総司令官の前でヴィセーニン中佐を褒め称え、後任の艦長候補の顔を売った。
中佐も嬉しさ半分照れくささ半分といった表情でいた。
「今後我がソ連海軍によって空母の戦力とは戦後も重要な位置にあり続けるだろう。無論全てはゴキナエフ少将らの活躍にかかっている」
「尽力します」
これで主役は揃った、動乱の1984年までもう間もなくである。
―日本帝国領 山梨県 富士演習場―
日本帝国に置いて低高度で自由に戦術機の戦闘をを行える地域とはそれほど多くない。
特に関東のような地域では住宅地が密集しており、そう易々と戦術機の低高度実戦演習は出来なかった。
その為入間や横田、下総、百里といった航空基地、或いは木更津のような陸軍の航空隊がある部隊は基本的に富士山の麓にある演習場で対BETA演習を行っていた。
今日は陸海空三軍の戦術機による統合航空演習場が行なわれていた。
BETAという陸上の共通の敵に対し、三軍の戦術機部隊が共に戦うという戦法は有効であると位置づけられていた。
その為陸軍の戦術機、海軍の戦術機、空軍の戦術機の行動を指揮統制し、有効打をぶつけるのがBETAに対して最大の打撃となる。
今回はその為に百里基地からF-15J及びF-1装備部隊が、同じく木更津からも陸軍用のF-1支援戦術機とF-4EJ改、そして海軍からは最新鋭空母"出雲"からF-14JとF-16NJが演習に参加した。
地上の演習監督所には航空総軍司令官及び中部航空軍司令、陸軍からは陸上総軍司令と東部方面軍司令が、海軍からは海上総軍司令、横須賀鎮守府司令、そして統合参謀会議から斎藤大将が集まり、演習を監督した。
上空を3機のF-1が飛行し、演習仮想敵としてシステム上に存在する要塞級に四〇式空対艦ミサイルを発射した。
要塞級及び光線級からの攻撃を回避する為に低空を飛行しながら地表のBETAに向けてロケット弾を発射し、山岳部を伝って戦場を離脱した。
「要塞級3体撃破、航空攻撃成功です。続いて海軍のF-14J部隊が対地攻撃を実施します」
間髪入れずに"出雲"から発艦したF-14Jが3機、数機のF-16NJに援護されながら戦闘地域に突入した。
空母"出雲"、これは日本帝国が初めて建造した国産の空母である。
日本帝国海軍はこれまで三隻の航空母艦を保有し、これを基幹として艦隊を編成してきた。
最初の二隻はエセックス級航空母艦、現在は"伊吹"と"鞍馬"と名乗っている艦艇である。
その後アメリカが建造をストップしたフォレスタル級空母を買い取り、日本帝国が建造までこぎ着けたのが"天城"と呼ばれる代物である。
この三隻の運用と建造、整備がある程度ものになってきた為1970年代の末に海軍は前の大戦以来初の純国産空母の建造を打ち上げた。
これが"出雲"の始まりである。
ベースは途中からだが建造した経験もあるフォレスタル級をベースに、最初から戦術機の運用も視野に入れ設計された。
その後建造が進み、1982年には進水式が執り行われその後1983年の後半に正式に就役した。
現在この"出雲"は第一艦隊の根拠地である横須賀を母港としており、試験も含めてアメリカから購入したF-14J及びF-16NJを搭載していた。
機体を操縦する衛士達は既にアメリカに留学し、みっちり操縦訓練を受けた凄腕の衛士である。
アメリカは元よりこの手のサービスは良好な国だ、それにイラン以外に獲得した折角のF-14ユーザーをここで手放したくはない。
訓練を受けに渡米した日本海軍の衛士達は手厚い歓迎を受け、最高の教育を受けた。
そんな衛士達が操縦するF-14JとF-16NJ、少なくとも今回"出雲"はF-14Jを12機、F-16NJを24機艦載していた。
進路が開けた所にF-14JがAIM-154スーパーフェニックスミサイルを発射し、地上に展開するBETA群を殲滅した。
「これがF-14Jの力です」
海上総軍司令官、永田博海軍大将は副官と共に自慢げに周りに告げた。
実際F-14は強い、機動力と火力は随一であり今までの海軍戦術機とは比べ物にならないほど性能がいい。
特に永田大将は長年海軍の艦隊整備に力を注いでいた人物であり、新型艦載機の導入にも一枚嚙んでいた。
海軍としては本当はF/A-18が欲しかったのだがF-14も、大体であるF-16もそれほど悪い機体ではなかった。
「そうだね、大蔵省に無理を言って通しただけの甲斐があった」
「はい、アメリカ側からはF-14ユーザーであるならやがて可変システム搭載機も販売してくれるそうですし、悪い買い物ではありません」
海軍側は自慢げであったが斎藤大将は若干苦笑気味であった。
F-14JとF-16NJの導入の際には背広を着た官僚や大蔵省の役人を説得するのに斎藤大将らが大分苦労した。
当然だがこうした戦術機は決して安い買い物ではない、特にF-14はスペック相応の値段となっている。
故にF-14ユーザーは本国のアメリカか、戦災の被害が比較的少なく、オイルマネーで潤っているイランくらいしかいなかったのだ。
皆F-14は欲しくとも、F-14を購入して運用し続けられるだけの金がなかった。
続いて戦場に到来したのは空軍のF-15JとF-4EJ改、戦術機の主力部隊である。
空軍戦術機部隊は後方に爆撃を叩き込みつつ、地上に展開する歩兵中隊の進撃に合わせて地上支援に出向いた。
前線部隊に接近する想定のBETA群に対し、F-15Jが突撃砲の雨を浴びせ、8割方を撃滅する。
残った2割のBETAには地上に展開する歩兵部隊が三三式APCに搭載した機関砲で殲滅し、前進した。
「第2中隊、目標地点に到達。BETA群依然接近中」
「第3中隊が支援要請、空軍部隊が合流しました」
「第1砲兵連隊による後方BETA群接近阻止砲撃が開始されました」
北富士駐屯地に駐留する第1砲兵連隊、牽引式の155mm榴弾砲などを装備したこの砲兵連隊はBETAに対して砲撃を開始した。
発射される榴弾が戦車級や要撃級が展開する想定の地域に火力を投射し、BETAを殲滅した。
本来陸軍単体ではCASの航空支援と砲撃支援がせいぜいなのだが、ここに空軍と海軍が合わさることで更に手札が増える。
空爆、或いは艦隊による対地支援、陸海空を統制し統合するのは難しい技法であるが、その分得られるメリットも大きい。
安定した支援の末、地上に展開する陸軍部隊は戦闘能力を維持出来ていた。
「なんとか陸海空の航空部隊の統合は出来てるようだな」
双眼鏡で戦場を俯瞰して見ながら斎藤大将はそう呟いた。
今回は臨時で統合任務部隊の指揮官として陸軍第1師団の亀井少将が全体の指揮統制を行っている。
幸いにも各戦術機部隊はその指揮統制下で問題なく動けており、各軍全体で見た場合の負担も減っている。
やはりインドや中東、アフリカで経験を得た上で米軍の教育が良かったのか少なくとも70点はつけられる状態であった。
「これなら、東京で最悪が起こってもなんとかなりますかね」
ふと平野少佐は小声で尋ねた。
この演習は軍の統合運用能力、特に戦術機部隊の統合運用を試すものであり、その点については嘘偽りはなかった。
無論この統合運用能力を何処にぶつけるか、或いはぶつけられるかは今後の出方次第ではあったが。
「何とかは元々なるだろうが……なるべく東京に被害が出ないようにはしたい。我々は兵の練兵を続けるしかないよ」
日本軍は備え続けている、BETAに、斯衛に。
その備えが決して報われることはないように祈りを込めて。
"ウリヤノフスク"の隣にはドゥブナ級補給艦"イルクート"が並行してオホーツク海を航行している。
またこれに合わせてウラジオストク港から二隻、民間の貨物船が軍の命令でオホーツク海に向かい、艦隊に合流した。
今回のYak-41のテストでは補給艦に加えてこうした貨物船が必要なのだ。
先んじて発艦したYak-41は"イルクート"と各タンカーに"
「"イルクート"より入電、テスト準備完了したとのこと」
「同じく"ダウガヴァ"、"トゥラ"からも準備が完了したと報告が入りました」
水兵達の報告を聞いてゴキナエフ少将は頷き、命令を出した。
「各艦に伝達、10分後にテストを開始する」
「了解」
「ヘリ飛行隊の発艦を許可、直ちに所定の位置に移動せよ」
ゴキナエフ少将の命令を受けて"ウリヤノフスク"から数機のKa-27が発艦する。
乗組員達も何度も発艦作業に従事しているおかげかかなり"ウリヤノフスク"に慣れてきた。
ローターが回転し、ほぼ真上に飛びながらKa-27は"ウリヤノフスク"から海原に飛び立った。
その様相はブリッジからも見えており、特にヴィセーニン中佐とゴキナエフ少将は無事に発艦するまで見守っていた。
「今回のテストはYak-41の特殊発艦方法が着艦も含めて成功するかどうかです。成功すればYak-41の汎用性に確証が得られます」
ブリッジにいるヤゾフ少佐は様々な書類を片手にブリッジの将校らに説明した。
「話には聞いているが……本当に貨物船やら補給艦から発艦できるのかな?」
思わずヴィセーニン中佐はヤゾフ少佐に尋ねた。
Yak-41が持つ特殊能力、それは甲板を持たない通常の船舶から発艦出来ることである。
例えばドゥブナ級補給艦、艦内のスペース
「一応地上での試験は成功しているのでなんとも……まあ失敗してもパイロットと乗組員が無事なら」
ヤゾフ少佐は怪訝な表情で答えた。
正直な話、海軍としてはそれほどYak-41に魅力を感じていなかった。
一応ヤコヴレフ設計局の説明は聞いている、その上で海軍の将校達は「MiG-29KかSu-27Kでいいかな……」という雰囲気だった。
ただYak-41に魅力を感じている者もいる。
例えばゴルシコフ元帥の随伴としてついている1人の海軍少佐、彼は海軍の制服を着ているが所属は厳密にいうと海軍ではない。
ソ連国境軍が有する海上警備隊の人間であり、中でもこの少佐は国境軍総局の
「我々はあくまでテストを監督し、見守るだけだ」
ゴキナエフ少将が2人の話を遮ってそう論じ、他の将校達も艦長に同調した。
Ka-27は全て所定の位置につき、他の貨物船や補給艦も準備を完了した。
"イルクート"の艦内でも整備を終えたYak-41にベルグロフ大佐が乗り込み、発艦の準備を整えた。
艦内にいたYak-41がエレベーターで持ち上げられ、発艦出来る位置に移動した。
「システムをカーゴモードへ移行、各駆動系に問題なし」
システムチェックを終え、ベルグロフ大佐はしっかり操縦桿を握った。
『了解、950001、本艦からの発艦を許可する』
"イルクート"のブリッジから発艦許可が下り、前方の扉が開かれる。
「了解、950001、発艦の第一段階に入る」
ベルグロフ大佐は最低出力のブースト状態で操縦桿を前に倒し、機体を前方へ進めた。
Yak-41はゆっくりと”イルクート”の甲板上に移動し、STOVL方式での発艦体制に移行した。
機体は海風の影響で若干揺れているが全体からすれば問題ない。
Yak-41をゆっくりと回転させて方向を転換し、発進方向に機体を動かした。
ベルグロフ大佐は機体の状態を逐一確認しつつ、第二段階に入る。
「第二段階に移行、浮上する」
操縦桿を上向きに引き上げ、跳躍ユニットの方向が変更されYak-41はゆっくりと上空に浮遊していった。
ブリッジや甲板の安全な箇所では水兵将校らが心配そうにYak-41が上昇する様を見つめていた。
中には作業中の水兵達が「あれ落ちてきたらどうしよう」などと呟く者もいた。
尤もYak-41自体は無事に上昇に成功し、飛行に適した安全圏まで機体を上げられた。
ここまで来ればそれほど恐れるものはない、通常通りに操縦桿で機体を前方へ移動させそのまま飛んでいった。
その背後では貨物線からもYak-41が発艦し、問題なく飛行していた。
「950001、発艦に成功。問題なく飛行中」
「続いて950101、950201も問題なく発艦、後続機も問題ありません」
「よし、3分間の飛行訓練の後、今度は着艦作業に移行せよ」
ゴキナエフ少将は発艦したYak-41に命令を出し、Yak-41は編隊を組んで艦隊の上空を悠々と飛行し続けている。
「発艦した後のYak-41に問題は見られません。母艦も同様に破損箇所及び異常地点は確認されていません」
ブリッジで”イルクート”や貨物船からの報告を集計するヤゾフ少佐は状況をゴキナエフ少将に報告した。
報告を聞いたブリッジの将校達は安堵し、Yak-41が持つ特殊発艦能力を認めた。
これがヤコヴレフ設計局が用意したYak-41の特殊能力、空母以外の船舶からの発艦能力である。
Yak-41は通常の戦術機同様に空母からも発艦することが出来る、これは従来の戦術機と変わらない。
しかしYak-41はその小型戦術機の能力を活かして空母以外から、特に貨物船やタンカー船からSTOVL方式で発艦することが出来た。
その一端が今証明されたものである。
この能力によってYak-41が主力機となれば空母を持たずとも戦術機を運用出来るのだ。
場合によっては民間船舶からYak-41を出撃させて展開した特殊部隊に十分な航空火力を提供することが出来る。
この点がKGBやGRUといった秘密工作や少数の特殊部隊を運用するイリーガル行為も辞さない組織から注目を引いた。
一方一般の海軍からすれば結局空母の必要性を損なっているのだからそこまで魅力を感じていなかった。
「なるほど、チェキストやGRUが喜びそうな装備です」
ヴィセーニン中佐は苦笑交じりにYak-41を見つめた。
3分が経過してYak-41は元々発艦した各艦に戻り、着艦のテストを行なっていた。
基本的に着艦は発艦した時の逆の要領で行われ、まず貨物船の上空に移動し、機体を回転させ、ゆっくりと高度を下げて貨物船の着艦地点まで移動した。
Yak-41はそのままゆっくり船内に入り、無事に着艦した。
「各機問題なく着艦に成功」
「整備及び補給の後、本艦に帰還します」
「よし、Ka-27を回収、データは監督チームに送れ。チャパコフ中佐、ゴルシコフ元帥を艦内にお連れしろ」
『了解』
通信機を戻し、ゴキナエフ少将は艦長席に戻って深くもたれ掛かった。
「これで、試験は終了か」
感慨深そうにゴキナエフ少将は呟いた。
”ウリヤノフスク”に与えられた海軍新型戦術機の試験は実際に全て終了した。
後は監督チームと”ウリヤノフスク”の将校らによる最終選考の後、最有力艦載機を選出し、与えられた任務は終わることになる。
その後”ウリヤノフスク”は母港に戻る、1ヶ月ちょっとの航行だがそれでも久々の陸地だ。
「我々の仕事も一端一区切りですね」
「ああ、このまま何事も起こらずに帰れるといいが……」
ゴキナエフ少将は機体を込めて無事の帰還を願った。
その願いが若干叶わないことをまだ知らずに。
―日本帝国領 帝都京都 京都御所―
信真は相も変わらず不機嫌そうな表情で玉座に座っている。
とはいえ普段から彼と接している輝光からすれば最近の信真は何処か雰囲気が違う。
輝光から見える最近の信真は何かを期待しているようだった。
その何かがはっきりとは分からない、ただし1つ言えるのはそれは流血を伴うことであることだ。
信真は流血を切望している、現世を生きる鬼か軍神か、ともかく彼は次の戦いを望んでいるように見えた。
だが分からないのが最近の信真は斯衛軍を海外に派遣しようとめっきり言わなくなったし地球上に残るハイヴはベルリン・ハイヴだけだ。
最早地球上から信真を満足させるような争いは消えようとしている。
では信真が望んでいることとは一体何なのだろうか、輝光はそこに若干の不安を覚えた。
「おう輝光、やっとかめだのう」
「猊下もお元気そうで何よりです」
「ああ、ざいしょに帰ったがやっぱりええもんだったわ。あったさんにも顔を出せた」
輝光は微笑を浮かべ「それはよろしいことですな」と同調した。
信真が生まれ育ったのは京都ではなく彼の言動から分かる通り、愛知県である。
愛知、特に名古屋の方面には斉御司家があり、ルーツを辿れば先祖は尾張の武士に該当すると言われてる。
「それで、報告をしてみい」
信真はいきなり本題に入った。
「動員師団の解体は予定通りに進んでおります。このまま順調に進めば今年の6月以内にひと段落が着くかと思われます」
輝光は頭を下げながら信真に動員解除と復員作業の進捗状況を報告した。
現状斯衛軍は4個師団、大隊規模の地方守護軍が5、6個、松代や京都御所を守る警備の大隊、そして基幹戦力の4個戦術機連隊と動員によって無理くり増やした1個動員戦術機連隊があった。
このうちの2個の動員師団は司令部を名古屋、仙台に設置しているが隷下の連隊はそれぞれバラバラの場所に配置されていた。
そしてこの動員師団は動員解除の為にこれから解体される。
既に各所の斯衛軍駐在所では着々と復員作業が始まっており、軍服を脱いで家に帰った兵も少なくない。
されど正規の日本軍も動員解除を行う必要がある為師団の解体は緩やかに執り行われた。
「そうか、せっかく苦労して作った師団だが諦めるしかにゃーの」
案外信真は自身の師団あっさり諦めた。
昔だったら部下を蹴飛ばしてでも師団を維持させただろうがそうはらなかった。
何故か、輝光は考えた上でちらりと信真を見た。
これは輝光の個人的な考えだが信真は戦を、次の戦が起こることを確信しているように見えた。
まるで自分が起こそうとしているようにも。
「報告は、これで終いか」
「ああいえ、個人的に1つ、申したいことが…」
信真は興味が沸いたようで「申してみよ」と発言を許可した。
恐らく信真の琴線に触れるだろうと覚悟しつつ、輝光は意見を述べた。
「猊下が処断された仙波北八朗殿を含めた諸将の名誉を、回復して頂きたいのです」
「…面白い冗談だが……本気か?」
信真の瞳がギラリと光り、輝光を睨みつけた。
その殺意がこもった瞳は痛みすら感じるほど鋭いものだ。
されど輝光は押し切られることなく、意見を述べた。
「冗談ではありませぬ、確かに中条殿の事を考えれば猊下の処断は必要でありました。しかし彼らの中に理不尽を感じて不満を持つ者も多くいます。どうか彼らに寛大なご処置をお願いしたい」
輝光は深々と頭を下げて信真に頼み込んだ。
輝光は五摂家に名を連ねる九條家の人間であり、本来は信真と立場が逆転していてもおかしくなかった。
されど同期の為、同じ武家の為、自らを頼ってきてくれた者達に少しでも報いようと恥も外聞も捨てて信真に頼んだ。
返される言葉がある程度想像できたとしてもだ。
「輝光……おみゃーは本当にあまたらこいたわけた奴だのう。北八朗にたぶらかされたんか?」
「いえ、これは私の意志です!今や武家社会は苦難の時、武家全体で団結しなければ苦難は乗り越えられません!それに噂では不満故に謀反の気配すらあるという話が…!」
「乱を起こそうとするなら俺が出向いて斬るまで、武家に苦難があるならば俺が叩き潰しちゃる。俺に異を成すならこれも潰すまで、なーんも恐れることはにゃーぞ」
暴君というものは確かに存在する、輝光は眼前の暴君となった存在を見て絶望に近い感触を抱いた。
信真には何を言っても通じない、敵がいるならねじ伏せればいい、少なくとも彼にはそれが出来てしまう。
例えそれが多大な不満を持たせ、自らに対する憎悪を膨らませ、謀反となっても別にいい。
その謀反を叩き潰し、信真の天下を作る、何より彼はこの乱事態を望んでいる。
彼が彼によって粛清された者どもを気にかけることも、温情を与えることもない。
逆らうのなら自らの手で斬り捨てる、その先にこそ武士の本懐があるのだから。
信真は立ち上がり、輝光の側に静かに近寄った。
輝光はその場から動かず、どうしようもない虚無感に襲われていた。
この人には何を言っても無駄であり、無意味である。
自らを頼ってきてくれた者達に報いることは出来なかった。
そこへ信真が声を掛けた、まるで悪魔のような言葉の餞を送った。
「おみゃーが彼奴らをなんとかしたいなら腕づくでこい」
それは事実上の宣戦布告であった、それを読み取れぬほど照光は愚かな人間ではない。
彼は困惑しつつも聞き返した。
「例えご自身のお命が危うくなってもですか……!?」
輝光の疑問に信真は一蹴するかのように鼻で笑い、高らかに宣言した。
「一度武士に生まれたからにゃあ、俺らの運命は戦場でサパっと討ち死ぬか、天下を統べるかのどちらかしかにゃーぞ」
ここが運命の分かれ道であった、信真は輝光を”
彼は今の武家で自分と同じ立場で対等に渡り合える相手は同じ五摂家かつ、斯衛軍総監まで務めた輝光しかいないと思っていた。
もし輝光が総大将として兵を率いればどんな手を輝光が打とうと、最高の死場所が出来ると。
一方の輝光は今日ここに至るまで武力行使などということは一切考えていなかった。
彼は武家の名門当主であるがその感覚は現代の人間に近い。
故に今の日本帝国で謀反を起こせばどうなるか、それはよく知っていた。
だが武家は今の瞬間で完全に行き詰まった、少なくとも彼を頼ってきた者達が何もしなければ野垂れ死ぬことは決まった。
であれば争うしかない、例え行き着く果てが賊としての死であっても。
輝光は最後に有り得たはずの武家の棟梁として自らの命を使うことを決断した。
「……猊下、いえ信真殿。私は最後まで五摂家に名を連ねる九條家の当主として、武家の軍たる斯衛軍の総監として、1人の武家人として恥じぬよう生きる所存です」
輝光の発言に信真は満足げな笑みを浮かべていた。
彼の笑みは正に好敵手を見つけたような笑い、望んでいた時代がついにきたかのような表情であった。
「武士の本懐、共に遂げましょう」
「ええぞ、ようゆうた、おみゃーはそれでこそ九條輝光じゃ。お前と俺、どっちが先に三途の川を渡るか楽しみだぎゃ。せいぜい羅卒にわやにされんようまわしとけ」
輝光は何も言わずに静かに頭を下げた。
その夜、仙波北八朗に連れられて九條輝光が奥平邸に足を運び入れたのは別の話。
カードは揃い、条件は整った。
600と17年ぶりに再び京の都で戦乱の火種が燻り始めていた。
海軍戦術機の試験内容が終了すると”ウリヤノフスク”の艦内で会議が始まった。
ここでの会議内容がソ連海軍の次世代海軍戦術機の運命を決める。
議長はゴルシコフ元帥が務め、会議には監督官チームが参加していた。
四角いテーブルの中央にゴルシコフ元帥が座り、左側には監督官のリーダーであるウラジーミル・アフーチン海軍技術少将、右側には海軍航空隊のウラジーミル・デイネカ航空少将が座っていた。
そこから大佐、中佐、少佐と下々の階級の人間が座り、彼らの背後には議事録を取る為に随行員達が座っていた。
会議が始まるまで将校達はそれぞれ隣の席の者達と雑談を交わしており、ゴルシコフ元帥も司会進行を務めるヤゾフ少佐と立ち話をしている。
「お父君はまたハイヴを堕としたようだね」
「ええ、なんとか私がこっちに飛ぶ前に手紙を受け取れましたよ。元気そうでした」
「そうかそうか、同志少佐も大変だね。長期航海では苦労もかけただろう」
ソ連海軍にとって潜水艦艦隊は水上艦艇などよりも長らく艦隊の主力であった。
フルシチョフのような極端な男は海軍の艦艇を全て潜水艦にしようとしたほどである。
そもそも戦間期から大祖国戦争にかけての年代で赤色艦隊はドイツ軍の侵攻なども相まって本来予定されていた艦艇の建造計画が殆ど吹き飛び、何も予定通りにならなかった。
そして戦争が終われば冷戦が始まり、今度の敵はアメリカ海軍という世界最大の海軍が敵に回った。
この海軍にどう立ち向かうか、どう争うか、その末の答えが潜水艦と内海を用いた核の聖域化であり、その中核として潜水艦が重宝された。
故にソ連海軍の主力はバルト海、黒海から北方艦隊と太平洋艦隊に移っていく。
北方艦隊の聖域化と同時に太平洋艦隊にも聖域化の手が回った。
北方四島と樺太、ソ連ではクリル諸島とサハリンと呼ばれている島々をソ連は獲得していた。
本来は米軍が管轄すべき地域であったのだが硫黄島決戦により戦力がズタボロになった米軍では管理し切れないと判断し、これらの島々はソ連側に引き渡された。*1
1960年代から太平洋艦隊の改編が始まり、潜水艦戦隊が配備され、やがて潜水艦師団へ格上げされた。
本来はアメリカ本土を狙い撃つ、北方艦隊と並んだ核の聖域として機能するはずの太平洋艦隊であったがBETA大戦によって全てが変わった。
北方艦隊と太平洋艦隊の潜水艦艦隊は目標をアメリカからBETAが展開する地域に変更され、インド洋、大西洋、地中海、アラビア海にソヴィエトの潜水艦が向かった。
宇宙軍、戦略ロケット軍と並んでその核でBETAを消し飛ばしていった。
ヤゾフ少佐もその潜水艦を運用する人間の1人であり、バルト海ではドイツに迫るBETAを殲滅し、大西洋ではアフリカでの攻勢を支援する為に遠征した。
それほど真面目な将校ではないが潜水艦乗りとして十分な経験を積んでいる。
「長期航海ですから問題もありましたがいい武勲になりましたよ、父や新しい母に自慢出来ます」
ヤゾフ少佐は制服の左胸についている略綬を弾きながら自慢げに話した。
「その意気だ少佐、君達若き将校がソ連海軍を作る。任せたぞ」
ゴルシコフ元帥はエールを込めて優しくヤゾフ少佐の腕を叩き、少佐も嬉しそうに敬礼した。
そのタイミングでゴルシコフ元帥が時計を見て「さあ、会議を始めよう」と開始を促した。
将校達は雑談を止め若干気怠そうに資料を手に取り、会議に参加した。
「では前提条件から、”ウリヤノフスク”の試験航空連隊がテストした3機の戦術機の各種性能は皆さんのお手元の資料の通りです。これらを踏まえた上でご意見を述べて頂きます」
ヤゾフ少佐に促され、将校達は各機の詳細なスペックが記載されている資料を確認した。
まずMiG-29K、最新鋭機のMiG-29だけあって各種のスペックは高い。
ただし機体の航続距離が海軍機としては若干不安であるという報告が上がっていた。
続いてSu-27K、こちらのスペック上はMiG-29と遜色がなく、手堅く強力に纏まっている。
特徴がないのが特長とは性能が決して器用貧乏だからという訳ではない、全てにおいて高得点を叩き出せるということだ。
そしてSu-27KはMiG-29Kと違って航続距離の心配も上がっていなかった。
最後にYak-41、かなり挑戦的な戦術機ではあるが性能に関してはそこまで批判されていない。
機体の大きさを考えれば短所として挙げられる点はまだ許せる範疇であり、その小型性のお陰でかなり小回りの効く機体となっていた。
ただし前述の2機と比較した場合どうしてもスペックで見劣りする点が多い。
それにYak-41が特殊能力として有している非航空母艦からの発艦能力も空母の艦載機に選ぶ必要はあるのかという率直な疑問により、むしろ存在が危ぶまれた。
「では、私から宜しいですか?」
デイネカ航空少将が手を挙げ、発言の許可を求めた。
議長を務めるゴルシコフ元帥はすぐに許可を出し、一呼吸置いてデイネカ少将が持論を述べた。
「私としてはSu-27Kが新型戦術機に相応しいと考えます。純粋なスペックではMiG-29Kと同等、それ以上であり、航続距離においては3機の中で最高位を叩き出している。武装関連の性能を鑑みてもSu-27Kがいい」
実際海軍機にはなるべく長い航続距離が必要であり、その点においてMiG-29Kの不安は深刻であった。
「それにベルグロフ大佐やオスマノフ中佐のような純粋な海軍航空隊のパイロット達からもSu-27Kが最も扱いやすかったとの意見が出ています。第一線で活躍するパイロット達の意見を聞き入れるならやはりSu-27Kでしょう」
デネイカ少将の意見は理論的であり、感情や思い入れのような外的な理由は省かれていた。
背後で随行の将校達がメモを取り、ゴルシコフ元帥も小さく頷いて意見を深く聞き入れた。
「では私が」
「アフーチン少将どうぞ」
ゴルシコフ元帥に発言を許可され、技術将校のアフーチン少将は発言を始めた。
アフーチン少将の生まれはチタでありS.M.キーロフ名称軍事医療アカデミーの校長も務めたミハイル・アフーチン海軍中将であった。
彼は大祖国戦争に従軍し、戦後はソ連の凡ゆる科学技術と関わりを持った。
水中制御システムの新技術開発でレーニン賞を受賞し、生物医学サイバネティクス研究所の所長となり、潜水艦の水中関係をやっていた影響か宇宙飛行の遊泳作業にも多大な影響を齎した。
そして父同様に医療関係でも影響を与え、戦争が始まる前の72年には教授の地位にあった。
「我々技術部門もデネイカ少将の意見に賛成です。海軍の今後を考えればSu-27Kが相応しいと考えます」
監督官達は皆Su-27Kの導入に意識が固まっていた。
正直な話、ヤゾフ少佐もゴルシコフ元帥も導入するならSu-27Kがいいだろうと考えていた。
スペック上で一番問題がなく、安定して強い、当面はMiG-23Kと混成で使うことになるだろうが恐らくは問題ないだろう。
特に間近で一連のテストを見ていたヤゾフ少佐からすればSu-27Kしかないだろうという面持ちだった。
ソ連海軍の意思は決まりつつある、このまま他の人間の意見を聞いて内容を纏め、新型戦術機を決定することで会議は終わるはずだった。
だが想定外は会議中に起こった。
”ウリヤノフスク”のブリッジをヴィセーニン中佐が走り、急いで会議室に向かった。
表情は引き攣り、どうしてこんなことにと怒りすら覚えているような面持ちだった。
会議室の前まで行くと水兵が2人、会議室前に立っていた。
「緊急事態だ、今すぐ通してもらう!」
「はあ……」
殆ど副長の権限で水兵の警備を突破し、ほぼドアを蹴破るようにして中に入った。
その衝撃で中にいるすべての将校はヴィセーニン中佐に釘付けになっており、ヤゾフ少佐は恐る恐る「どうかしましたか…?」と尋ねた。
少なくともこんな緊迫した雰囲気のヴィセーニン中佐は見たことがない。
中佐は敬礼と共に報告を行った。
「ソ連宇宙軍より緊急入電!!BETAの落下ユニット群が月面より襲来中!!数は1,200!!司令部からの落下予想地域は極東地域とのことです!!」
「何!?」
一番最初に立ち上がったのはデネイカ少将であった。
ヤゾフ少佐やアフーチン少将は驚き、隣の者達と顔を見合わせていた。
ゴルシコフ元帥は目を大きく見開いたが、それ以上は驚くことなくメガネを上げた。
「本艦はこれより艦長命令で第二種戦闘配置に移行します、皆さんも直ちに移動をお願いします」
「太平洋艦隊はどうなっている」
「連絡中ですが少なくとも全潜水艦艦隊及び水上艦隊に出撃準備が出されています」
ゴルシコフ元帥は立ち上がり、早歩きでヴィセーニン中佐に近づいて命令を出した。
「太平洋艦隊には準備終了後直ちに出撃せよと伝えよ。”ウリヤノフスク”と合流して空母艦隊を編成、オホーツク海上で非常時に備える」
「はい!では太平洋と日本海方面は…」
「どうせすぐ日本海軍とアメリカ海軍が展開してくる。日本海は日本の空母に守らせ、太平洋はアメリカに守らせる。我々はこのオホーツクでBETAが落着するまで備える」
「ハッ!」
ゴルシコフ元帥は冷静かつ、適切な命令を下し報告を受けたヴィセーニン中佐はブリッジに走った。
「君達監督官は設計局の者達と共に艦の安全区域に迎え。ヤゾフ少佐、我々はブリッジに向かうぞ」
「はい、お供します」
「では同志海軍元帥、また」
デネイカ少将らは敬礼してゴルシコフ元帥とは反対の方向へ向かった。
ゴルシコフ元帥はヤゾフ少佐と副官を引き連れてブリッジへ向かう、今は1つでも多くの情報を知りたい。
1984年2月、極東地域における最初の混乱が始まった。
つづく