マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
国難ここに見る 弘安四年夏の頃
なんぞ怖れん我に 鎌倉男児あり
正義武断の名 一喝して世に示す
-”元寇”より抜粋-
1984年2月21日、BETAの大船団は国連宇宙軍の警戒網に接触した。
数は凡そ1,200、BETAが初期に展開する数としては中々例を見ない規模である。
この1,200体の降下ユニットのうち、1/4に相当する300基が重頭脳級タイプの個体であり、これもまた珍しかった。
本来であればその比率は1/4どころか1/10でもおかしくない存在であり、実際火星圏から出立した時の総数はもっと多かった。
サクロボスコ・ハイヴの重頭脳級が撃破されてから2年が経った。
BETA船団が周辺地域の誘導もなしに可能な限り地球圏に向けて突っ込んできた、ではどうしてそれが出来たか。
理由はサクロボスコ・ハイヴの重頭脳級であった。
この個体が撃破される前に火星圏に展開するBETA群に向けて最期に様々な情報を送った。
その中には破損し、完璧には送信されていなかったが火星から月面にかけての移動経路を送信していた。
これによりBETAは月面からの誘導がないのにも関わらず、ここまで大船団が方向を見失わずに移動出来た。
しかしサクロボスコ・ハイヴの重頭脳級が送ってきた航路は破損し不正確な点も多い、それ故に航行中にはぐれた個体が何体かいたのである。
さらに言えばこの1,200体の降下ユニットも重頭脳級らは地球に到達出来る数は総数の1/5にも満たないだろうと認識していた。
それでも地球圏に展開しているはずの同胞を助け、大使命を果たす為に彼らは遥々遠い銀河からやってきた。
BETA船団はある程度の地点まで行くと突入態勢を整え、一斉に加速を開始した。
無論それは当の昔に国連宇宙軍によって発見されている、こうしたBETAに対する対処法もある。
基本的に国連宇宙軍は米ソの宇宙軍が主力であり、彼らが打ち上げた偵察衛星、攻撃衛星が地球圏の軌道上に展開していた。
まず最初に見つけたのはアメリカ宇宙軍の外周警戒部隊である。
宇宙軍の直接司令部がある軌道上ステーションでは警報音がけたたましく鳴り響き、宇宙軍の将兵が急いで配置についた。
「状況はどうなっている!」
ステーションの指揮所に上がってきたロバート・トラレス・へレス大将は即座に部下に尋ねた。
「まもなく緊急展開中の機雷原に突入します、対外攻撃衛星群は配置が完了しました。対地支援衛星も緊急で陣地転換しています」
若い中尉がへレス大将に報告し、彼は他の事も尋ねた。
「ソ連軍は」
「ソ連軍も同様に対外攻撃衛星を移動させています。ですが"ポーリュス"の陣地転換にもう暫く時間が掛かりそうです」
「地上での警報は」
「展開しました、展開範囲から鑑みて落下予想地点は太平洋、極東アジア方面です」
へレス大将は険しい表情でモニターに映っているBETAの展開状況を睨みつけた。
このままでは100体以上取り逃がしてしまうかもしれない、そうなれば地球圏における対BETA戦争は振出しに戻ってしまう。
あれだけの犠牲を経てようやく地球圏のハイヴを1つまで抑え込めたのだ、絶対に振り出しに戻してやるものか。
同じ頃、ソ連宇宙軍も緊急で防御部隊の展開をしていた。
まず最初に動き始めたのは3基の”ポーリュス”を装備するソ連宇宙軍の第1親衛攻撃衛星軍であった。
地上に向けられていた”ポーリュス”を3基、BETAの襲来方向に向けた。
「転換急げ!1体もBETAを通すな!」
宇宙ステーションでは司令官のマクシモフ大将が直接指揮を取っていた。
ステーション内には警報音が鳴り響き、非常時に備えて宇宙軍の戦術機部隊も待機命令が出された。
「司令…!BETAの落下予想地点ですが……」
軍参謀の大佐が簡潔に纏められた報告書を片手に報告を行った。
「このままだと本国の極東地域にハイヴは落下します」
「極東軍管区とザバイカル軍管区は」
「各軍を展開しつつ周辺住民の避難誘導を開始しました。太平洋艦隊も出動を始めています」
BETAの落下予想は早ければ早いほどいい、その分地上部隊は部隊を動員し人々をヘリや輸送車で回収して助ける事が出来る。
特に極東ロシアのインフラはお世辞にもいいとは言えない、場所によってはヘリコプターを用いないと移動が困難な地域だってある。
ソ連は曲がりなりにも構成15カ国全ての人民を外敵から守り、戦う義務がある。
極東軍管区及びザバイカル軍管区は軍の動員とほぼ同時にヘリコプター部隊を展開して極東地域の住民の避難活動に向かった。
まだ時間はある、時間があるなら見捨てるという選択肢はない。
それは宇宙軍も同じであった。
時間があればそれだけ防御体制を確立出来る時間が増える、1体も多くのBETAの侵入を阻む事が出来るのだ。
「さっき統合参謀本部から大統領の命令付でG元素兵器の無制限使用が許可された。何としてでも全てのBETAを叩き落とすぞ」
「はい!」
国連宇宙軍は全部隊に対し、BETA船団に対する水際防衛作戦を発令、迎撃を開始した。
まず襲来したBETA船団は事前に配備された迎撃用の航宙機雷に直撃し、次々と破壊されていった。
何せこの機雷は通常弾頭だけでなく、核弾頭を搭載したタイプも混ざっており、直撃すれば航行能力が若干損傷し最悪一撃で破壊された。
それでもBETA船団はその物量によってなんとか突破し、機雷原を抜けた。
「BETA群、機雷原を突破」
「攻撃衛星による迎撃戦闘を開始、1体でも多く潰せ」
宇宙軍司令部によって一斉に攻撃を開始し、核兵器やG元素兵器も含んだ集中攻撃が開始された。
宇宙空間で発生する閃光が1つ起こるたびに幾つかのBETAが静かに消えた。
中でもG弾の存在は大きかった。
宇宙空間に発射されたG弾は悍ましい紫色の球体を全方位に広げ、BETAを飲み込んでいった。
降下ユニットの状態では迎撃することは叶わず、一方的に嬲られていく。
特にG弾はかなりの脅威であった、少しでも触れるだけで降下ユニットは航行能力を失い、制御が効かなくなったBETAの降下ユニット同士が衝突して自滅した。
地雷原を突破して迎撃戦闘が始まってから15分、既に船団の3割は消失したか航行不能となり降下能力を失った。
この段階には本格的に宇宙軍全体の陣地転換が終了し、撃滅作戦が始まった。
まずソ連宇宙軍が"ポーリュス3"を最大出力100%の力を用いてG元素レーザーを発射した。
スラスターで左から右へ、ゆっくりと移動しながら最大出力レーザーでBETAを薙ぎ払った。
この攻撃でBETAの降下ユニットは総数の凡そ24%が消失、または航行不能となった。
その上でソ連宇宙軍が有する核弾頭とG弾によって更に数を減らした。
他にもまだ発射可能な”ポーリュス1”、”ポーリュス2”が出力10%でG元素レーザーを放ち、BETAを薙ぎ払った。
回避しようにもレーザーを避ければG弾か核兵器の加害半径に触れ、どの道航行能力を失う。
1,200体の降下ユニットを揃え、特攻覚悟で突っ込んできたBETA船団であったがそれでも数は足りなかったと言える。
恐らく3,000体ほど展開出来ればまだ状況は変わったかもしれないが、3,000体もの降下ユニットをたった1つの惑星に振り分けるのかという問題でどの道実行出来なかっただろう。
1,200体であっても過剰戦力、そして過剰戦力であっても兵の数は圧倒的に足りなかった。
「降下ユニットの7割以上が撃破、航行不能状態です!」
「よし、このままBETAを殲滅しろ。足を止めることを最優先に!」
ヘレス大将指揮の下、アメリカ宇宙軍の火力が未だ航行中のBETA群に限定された。
まずは足を止める事が重要、ヘレス大将の命令は尤もであった。
一方のBETAも移動戦略を大幅に転換した。
選抜された数体の降下ユニットが船団の中央に展開され、その周りを取り囲むように他の降下ユニットが展開される。
船団は更に加速し、なりふり構わず地球圏へ突入した。
国連宇宙軍の総攻撃を受け、1体、また1体と撃破され、次々と宇宙の塵になっていく。
だが船団の中核を担うユニットは守られ、なんとか生き延びていた。
国連宇宙軍の最終防衛ラインに到達する段階では降下ユニットは10体まで減っていた。
そのうちの5体も宇宙軍戦術機部隊による近接攻撃の末、撃破され防衛線を突破することは出来なかった。
だが逆に言えば5体は突破出来たのだ。
人類にとっては最悪の結果であった。
「BETA降下ユニット群!最終防衛ラインを突破!大気圏に突入します!」
「クソッ!取り逃したか!」
「最終降下予想地点、出ます!」
モニターに添付された地図上にハイヴの降下地点が表示された。
「ソ連領に4体……日本に1体か……直ちに攻撃衛星の配置転換急げ。地上部隊の援護をやるぞ」
5体、BETAからすればたった5体。
1,200体で襲来したのだから1/240程度しか突入に成功出来なかった。
だが人類からすれば5体もハイヴが突入してしまった、まだ戦争が続くのではないかという不安があった。
ここから数日は続く極東戦役が始まろうとしていた。
BETAの極東地域展開はとうの昔に極東周辺諸国、そして周辺諸国に駐屯する各国へ警告されていた。
日本、韓国、北朝鮮、中国、中華民国、モンゴル、ソ連、そしてアメリカとイギリス。*1
各軍のデフコンが引き上げられ、非常時に備えて招集が始まり、降下が予想されるソ連と日本帝国は国民の避難活動を開始した。
少なくとも北海道の何処かに落ちる可能性が高いと予測が出ていた為、日本帝国は日本軍に対し国防出動を命令し北海道全域に緊急避難指示を発令、警察と日本軍、消防、役所の公務員を総動員して住民避難の誘導を始めた。
日本帝国は対BETA戦の国防出動に関してはハイヴの降下予想地点に日本が含まれた段階でその要件を満たすと規定していた。
世界的に対BETA戦は初動対応が重要ということで政府の基本方針となった。
それに加えて北海道は2年と半年前の1981年後半にBETAが北海道に降下する想定の演習をやっていた、所謂特別統合演習というやつである。
BETAが北海道に降下することを想定し、避難や避難完了までの遅滞戦闘、そしてBETAの撃滅戦をシナリオとして入れた大演習であり、その分負担は大きかったが得られるものも多かった。
幸か不幸か、特統演のお陰で各員は経験を積み、問題点を割り出し、改善の為の策を出していた。
少なくとも避難と陸軍展開用の通行道路は事前に指定されており、混乱が起こらないように準備されている。
例えば習志野、ここには日本陸軍が有する第1空挺旅団が駐屯している。
精鋭無比を誇る空挺は有事となれば何処へでもだ。
BETAの降下が確認されると真っ先に市ヶ谷から武装して待機するよう命令が飛んできた。
「くそッ!宇宙人どもめなんたってこんなところに来るんだ」
「侵略者に理屈が通じるかよ」
隊員達はぶつくさ文句を言いながら装備を身につけ、ヘルメットを被って装備品の二四式小銃を受領した。
「あれ、おかしいなぁ」
駐屯地内の電話ボックスで小銃を担いだまま首を傾げている1人の隊員がいた。
名前は中村、第1空挺旅団に属する一等兵であり本人枠ミッチャンという恋人がいるらしい。
見兼ねた同じ班の高梨一等兵が声を掛けにきた。
「おい中村、早くしないと班長にドヤされるぞ」
「分かってるけどミッチャンが電話に出ないんだよ」
「女心は秋の空だ、オラ行くぞ」
「今は冬だよォ」
高梨に連れられて中村は同じ班の面々と合流した。
習志野駐屯地の外には旅団を構成する各種部隊がそれぞれ並んでおり、全員が武装していた。
空挺隊員の眼前には旅団長の水野智之准将が迷彩1型の上に戦闘ベストを身につけ、他の隊員と同じようにヘルメットを装備している。
「知っての通りBETAが我々の祖国にまもなく落下してくる!我々の祖国が数千年の歴史の中で久方ぶりに侵略の脅威に晒されようとしているのだ!我々空挺旅団が我が身を犠牲にしてでもこれを防がねばならない!我々は北海道の大地でBETAを1匹残らず殲滅し、祖国を守るぞ!空挺旅団の意地を見せる時だ!」
旅団長の出撃前の訓示を聞き、隊員達は移動を開始した。
北の大地は今、彼らを必要としているのだ。
東京の市ヶ谷でも本庁舎に対策室が設置され、暫くの間は陸上総軍司令官の小林大将が対策室の指揮を取った。
辺りには市ヶ谷に勤務する参謀達が地図を開いて状況を確認し、国連宇宙軍からの情報を逐一確認していた。
「BETAの降下予想地点出ました。北海道、奈井江町周辺!」
「直ちに北部方面軍に情報を伝達しろ、後は中村中将と北部方面軍司令部に任せるんだ」
「閣下、第1空挺の出立準備完了しました!第1艦隊は後30分後に出港します!」
「直ちにC-1に乗せて北海道へ、移動後は方面軍司令部の命令を受諾するよう水野空挺旅団長には伝えろ」
「はい!」
小林大将はやや髪が薄くなった頭をかき、苦虫を噛み潰したかのような表情で北海道の地図を睨みつけた。
北海道に駐屯する日本陸軍は1個方面軍4個師団、空軍に関しては千歳基地に第2航空団が配備されており、三沢基地からも即座に第3航空団が上がって来れるようになっている。
このうち陸軍4個師団も元は対ソ戦を想定してかなり重装備な部隊が多く、特に第7師団に関しては隷下に3個も戦車連隊を有していた。
現在この4個師団は北部方面軍指揮の下、動員と出撃が行われ、実働部隊は避難誘導を警察や消防、自治体の公務員に任せてBETAの降下予想地点周辺に包囲網を展開していた。
「小林くん、状況はどうなっている」
一旦内閣府から戻ってきた斎藤大将は指揮を取っている小林大将に尋ねた。
統合参謀会議議長とは軍のトップであると同時に国軍最高司令官たる首相を補佐する参謀長である、有事となれば議長は首相を補佐し戦争指導の為の助言を行う必要があった。
その為斎藤大将が市ヶ谷に訪れたのは一時的なものであり、この後すぐに内閣府に戻らなくてはならない。
「このペースですと後1時間後にBETAの降下ユニットは奈井江町周辺に落下します。現在北部方面軍は隷下の師団に対して出動命令を発布、第11師団及び第7師団が札幌方面への侵攻を阻止し、第2師団及び第5師団が旭川方面への進軍を阻止します。また増援として東北方面軍より第9師団が移動中、陸軍としては間も無く第1空挺旅団が北海道に向けて移動を開始します」
「海軍と空軍の状況は」
「横須賀の第1艦隊は”出雲”を含めて全艦30分後に出港します。”天城”を始めとした第3艦隊はもう間も無く出港するとのこと。空軍に関しては千歳基地、三沢基地より戦術機部隊が展開中、陸軍航空隊と連携しつつ防衛体制を確立しています。後対ハイヴ攻略部隊のF-15Jですがいつでも展開出来ます」
「…分かった、首相はなんとしてでもハイヴが城砦化する前に撃破せよとの命令だ。落下次第直ちに撃て」
小林大将は静かに頷いた。
この対ハイヴ攻略部隊というのはアメリカとの核共有によって戦術機搭載型の核爆弾を装備した部隊のことを指す。
そもそも1945年8月6日と9日に原子力爆弾を受けていない日本帝国は国民も政府もそれほど核に対して嫌悪感を抱いておらず、冷戦期から西欧に倣ってアメリカとの核共有を検討していた。
これが本格化するのがBETA大戦以降の話であり、BETAの降下ユニットには即座に核攻撃を投入することが有効と判明した後日本帝国はアメリカとの核共有に関する協定を結んだ。
その為国防出動が発動され、降下ユニットが降ってくることが確実となった今、アメリカが管理している核爆弾が日本空軍の戦術機部隊に配備され始めた。
「またアメリカ軍も第31海兵遠征部隊が移動中、ソ連海軍もオホーツク海から日本海に向けて移動中です」
「後避難誘導の方はどうなっている」
「順調、と言っていいのか分かりませんが少なくとも大きな混乱は発生していません。降下予想地点の周辺住民は旭川及び札幌に避難中、非常時に備えて待機している客船に移動中です」
「分かった、私はまた永田町の方に行ってくる、私が留守の間はここを頼むぞ。1人でも多くの国民を救い、国土を守ろう」
「はい!」
小林大将は去っていく斎藤大将と平野少佐を敬礼して見送り、自身の持ち場についた。
この忙しい非常事態に斎藤大将が斯衛軍について言及することはついぞなかった。
無論斯衛軍も動き始めている、まず北海道守護軍は現地に残っている全ての部隊をかき集め、日本軍に合流した。
北海道守護軍司令官の准将は革新派に属する信真とかなり近いタイプの人間であり、祖国防衛の為の礎とならんと訓示し、兵を出した。
一方京都にある斯衛軍総監部でも増援の決定が出され、国内に展開する5個戦術機連隊のうち、2個を北海道に送り込んだ。
地上部隊の増派も検討していたがそれに関しては対策室から直接「正規軍優先である為待機されたし」と断られた。
無論これに斯衛軍側は違を唱えたが殆ど相手をしてくれる者はいなかった、最初から計算のうちに入っていないのである。
その間に習志野に駐屯する第1空挺旅団は武装を整え、C-1輸送機への搭乗を開始していた。
「元寇以来の侵略だァ!侵略者に我々精鋭無比の第1空挺がどんなものか叩き込んでやれ!」
空挺旅団の中隊長を務める頬に傷がついた男、佐藤大尉は部下達を鼓舞していた。
とは言ってもやる気が上がるものもいればそうではないものもいる。
「ハァ、ミッチャンに電話出来なかった」
「ボサっとしてるなッ中村ァ!」
「なんで戦争も終わるってのにこんなにBETAが降ってくるんだよ」
空挺旅団員達はそれぞれの思いを持ちながらC-1に乗り込んだ。
日本本土でのBETA決戦が間も無く始まろうとしていた。
ソ連軍の極東軍管区、ザバイカル軍管区には合わせて6個軍、2個軍団ほどの地上戦力を有している。
本来はここに沿バルト前線に回された第39軍が加わって合わせて7個軍となるのだが、ベルリン・ハイヴの包囲網に用いられている為現在は6個軍であった。
それにこれらの軍も一部はヨーロッパ方面に回され、ヨーロッパにいる一線級部隊と比較すれば装備や練度、動員の面では劣っていることも多かった。
一部の予備師団に至っては保有する戦車がT-34-85なんてこともざらにあったし、冷戦期においてこれらの部隊が戦場に出てくる場合は人類文明は崩壊しているだろう。
しかし今まで度々極東やシベリア方面にBETAが落下し、その為に防衛戦闘を行なってきたことからそれなりに戦闘能力はあった。
再び極東にBETAが迫ってくる中、これらの軍管区にも動員命令が出されていた。
カテゴリーBやカテゴリーVのような師団であっても今は戦時体制、即座に動員して戦線に送り出すことが可能だ。
流石にカテゴリーGとなると話は変わってくるが、これらが各都市の最終防衛部隊として配備された。
既に落下してくる降下ユニットの地点は割り出されている。
これらのハイヴ撃破の為に極東に展開するソ連戦略ロケット軍及びソ連空軍の戦略爆撃部隊が攻撃準備を開始した。
例えば極東のウクラインカ航空基地、ここに駐屯する第79重爆撃航空赤星勲章連隊のTu-95MSがBETA船団が確認されたと地上に報じられた時、既に出撃を開始していた。
ザバイカル軍管区からもベーラヤ航空基地に駐屯している第31重爆撃航空師団のTu-22M2が何機か出撃し、降下ユニットの即時破壊作戦に参加した。
Tu-95MSにはKh-55の核弾頭搭載型が配備されており、落下とほぼ同時に戦略爆撃機部隊が核の威力でユニットを破壊するつもりだった。
無論展開中のTu-95MSだけでは展開力を補えない地点もある、そういった場合は戦略ロケット軍の出番となった。
極東軍管区には戦略ロケット軍の第53ロケット軍が展開しており、このうち第4ロケット”ハルビン”師団が攻撃に参加することになった。
核弾頭を装備したRSD-10”ピオネール”が各所に展開し、目標予想地点の座標を入力する。
周辺には護衛のBTR-70や自動車化狙撃兵部隊が展開しており、周辺には何人たりとも近づけなかった。
また第ニ、第三の核攻撃部隊としてソヴィエツカヤ・ガヴァニィのTu-22M部隊、ソ連海軍太平洋艦隊の潜水艦艦隊が出撃し各所で対地攻撃支援の準備を行った。
これらを管轄する極東軍管区、ザバイカル軍管区司令部では慌ただしい様子が続いていた。
「うん、既に陸軍部隊を展開した。ああ、こっちもソヴィエツカヤ・ガヴァニィの隊を出した。うん、お互いに頑張ろう」
そういって極東軍管区司令官のイヴァン・トレティヤーク上級大将は受話器を戻し、参謀達の下へ戻った。
先ほどまで話していたのはスタニスラフ・ポストニコフ上級大将、ザバイカル軍管区司令官である。
軍管区司令官同士が連絡を取って調整を図り、極東全体の防衛能力を強化していた。
「ザバイカル軍管区の方はどうでしたか」
参謀の1人がトレティヤーク上級大将に尋ねた。
「こっちと変わらず、といったところかね。取り敢えず対応は出来る、問題はハイヴの落下地点だ」
既に割り出された降下ユニットの落下地点は各軍管区司令部に打電されていた。
ソ連領に落下する降下ユニットの数は4、うち2つは殆ど人口が住んでいない不毛の大地に落ちるとされていた。
その為こちらはなんの問題もなく対処出来る、問題は残り2つの降下ユニットだった。
こちらも人口密集地に直接墜落する訳ではないのだがうち1つがイルクーツク市から230キロメートルほど離れた地点に落下し、もう1つはハバロフスク、コムソモリスク・ナ・アモーレから160キロメートルほど離れた地点に落下する。
縦しんばユニット自体は破壊出来たとしてもそれに付随するBETAを全て殲滅するのは不可能だ。
160キロメートルであればBETAはエネルギー切れが発生する前にBETAは都市部に辿り着くだろうし、それは230キロ地点であっても同様だ。
落下ユニットを撃破したとしても地上戦は避けられないのが現状だ。
後は地上に展開出来るBETAがどれほどの数かというだけの話だ。
「なるべく少ない規模であってくれると嬉しいんだがな……」
トレティヤーク大将はほぼ祈りのような声音でそう呟いた。
BETAの降下ユニットが降ってくる時点で必ず何かしらの犠牲を及ぼす、BETAが存在するだけでハッピーエンドが訪れることはないのだ。
軌道上の防衛圏を突破した5つの降下ユニットはそれぞれバラバラに極東地域へ落下した。
5つのうち4つは通常の頭脳級が入った個体であり、残り1体の北海道に向けて進んでいる降下ユニットには重頭脳級最後の生き残りが搭載されていた。
降下したBETAは凄まじい落下速度でそのまま地表に突き刺さり、降下に成功した。
頭脳級はユニット内に潜んでいた母艦級を急いで周囲に解き放ち、即座に途中に大穴を掘って頭脳級を地下に埋めようとした。
だがそれを逃すソ連空軍ではない。
Tu-95MSから発射される核弾頭搭載型のKh-55が地中へ移動中の頭脳級に直撃し、そのまま核爆発を起こした。
巨大なキノコ雲が巻き上がり、その熱によって取り残されていたBETAも焼き尽くされる、頭脳級に関しては即死と言ってもいいだろう。
ザバイカル軍管区の地点でもTu-22M2がKh-22を発射して降下ユニットを破壊し、同じ頃にRSD-10”ピオネール”の核弾頭が周辺ごと降下ユニットを焼き尽くした。
これによりソ連領に新たなハイヴが誕生することは辛うじて防がれた。
だがこれで終わりではない、むしろ始まりなのだ。
1984年極東戦役のゴングが核の轟と共に鳴り響いた。
重頭脳級を乗せた降下ユニットは他の降下ユニットとほぼ同時期に北海道、奈井江町から1.4キロほど離れた地点に着陸した。
着陸時の衝撃が周辺に広がり、奈井江町の建物は崩壊、街を吹っ飛ばした。
幸いにも住民は避難が完了していた為この時点では死傷者を出すことはなかったが、その損失は計り知れない。
前線部隊にもその衝撃は現れ、兵士達は地面に伏せて耐え凌いだ。
その間に護衛のF-15Jが4機、さらにB61核爆弾を装備したF-15Jが2機、ハイヴに向かって行った。
『目標を確認、これより対ハイヴ攻撃を開始する!』
安全装置を解除し、飛行システムに沿って飛行を続け、投下地点まで機体を運んだ。
護衛のF-15Jが先導し、その後ろをB61を装備したF-15J2機が続く。
『もう少し……もう少し……』
爆弾を装備しているF-15Jの衛士には多大な緊張が心の中を包み込んでいた。
核爆弾の重み、ハイヴを破壊するという任務の重み、そしていつ地上からレーザーが飛んでくるか分からないという不安。
これら全てが重圧となって衛士の全身に重くのし掛かった。
しかし彼らは何年も訓練を積み、外地派遣も経験したベテランの衛士である。
彼らはちゃんと任務をやり遂げた。
『投下…!』
パイロンとの連結が外れ、2発の核爆弾は降下ユニットに向けて投下された。
爆発の加害半径から逃れる為に6機は最大速度で戦域から離脱し、安全地点まで後退した。
その間にB61は地表に着弾し、核爆発の炎と共に降下ユニット内の重頭脳級を焼き尽くすはずだった。
だが実際には何故か何もないはずの空中で核爆発を起こし、巨大なキノコ雲を上空に巻き上げた程度に留まった。
爆発は地表まで行き留まらす、むしろ何か目に見えない層によって阻まれているようであった。
『こちらスカウター4、投下された核爆弾は空中で炸裂し、目標に対して有効打を確認出来ず。繰り返す、核爆弾は空中で炸裂、有効打は確認出来ず!』
山岳部を回り込みながら偵察を行なっているRF-4Eが上級司令部に対して報告を行った。
同様の空中炸裂は地上に展開する兵士達も確認しており、若干だが動揺が広がっていた。
これらの情報を受けた札幌駐屯地内に指揮所を構える北部方面軍司令部及び北部航空方面軍司令部は衝撃を受けた。
本来であれば地表で炸裂し、内部のBETAを撃破しているはずだからだ。
「クソッ!何故攻撃に失敗した!」
ある日本空軍の参謀が机を強く叩き、疑問を吐き捨てた。
「偵察機のレーダー反応によると何らかの重力場が降下ユニット上空に展開された模様です」
「サクロボスコのアレか…!」
北部方面軍司令の中村守雄中将は即座にかつて国連宇宙軍が纏めた報告書に記載されていたことを思い出した。
ソ連宇宙軍が実施したサクロボスコ・ハイヴ攻略作戦、ペルーン作戦で確認された重力場を周囲に展開してハイヴ全体を防護する能力、後に命名される衛盾級が奈井江に落下したユニットには装備されていた。
落下成功と共にナイエ・ハイヴの重頭脳級は真っ先に衛盾級を展開して周辺にラザフォード場による防御フィールドを展開、日本軍の核攻撃を防いだ。
これによりナイエ・ハイヴだけは即死を免れたのである。
「どうしますか、現状の通常兵器では防御バリアが展開されている以上攻撃出来ません!」
「1つ破る手段がある、私が今から永田町に頼み込むから少し外すぞ」
そう言って中村中将は受話器を手に取り、遠く離れている東京の閣僚達に連絡を行った。
真っ先に中村中将の連絡を受け取ったのは斎藤大将であった。
彼は静かに中村中将の要請と報告を聞き、確実に必要であると判断した上で首相に直訴した。
「うん、分かった、首相に掛け合ってみる」
対策室からの報告を聞いた斎藤大将はすぐに首相に状況を話した。
「首相、現在降下ユニット周辺にサクロボスコ・ハイヴと同一の重力場シールドが展開されています。このシールドは少なくとも我が軍が現在運用出来る火力では突破不可能です」
「厄介なものだな……だが、対処法はあるのだろう?」
首相の問いに対し斎藤大将は重く頷いた。
「ソ連宇宙軍が保有するポリウスG元素レーザー砲、これがあれば何とかシールドは破れます。ですのでユニットの早急なる撃破の為にソ連軍より貸与するよう首相から交渉して頂けないでしょうか」
「ソ連にか……」
首相の隣に控えている秘書官は若干怪訝な表情を浮かべた。
いくらBETA大戦の時代になろうとやはり冷戦期の漠然とした不安感は拭いきれないものがある。
それにソ連とは戦間期に張鼓峰事件やノモンハン事件で直接対立したこともある国家だ、その時の歴史は消えた訳ではない。
それでも降下ユニットを放置すれば不利益を被るのは日本帝国だ、プライドでは降下ユニットを破壊出来ない。
「……分かった、ソ連大使館を経由してブレジネフ書記長に頼もう。何としてでもポリウスを借りて見せるから軍には暫く耐えてもらうぞ」
「分かっています」
「誰か急ぎソ連大使館に連絡しろ!」
秘書官の1人が受話器を手に取り、ソ連大使館に向けて電話を繋ぐ。
「BETAに我が国を奪われてたまるか、どんなことをしてでも奴らを追い出すぞ」
首相の決意は堅かった。
ソ連大使館を通じてモスクワのクレムリンに事情が伝達され、首相からの直談判を聞いたブレジネフは二つ返事で”ポーリュス”の一時貸与を約束した。
直ちに宇宙軍司令部に”ポーリュス”の1でも2でもいいから日本軍の支援に投入するよう要請が出た。
宇宙勤務に就いている将兵達も努力はしたが何分”ポーリュス”の冷却と再チャージ、そして陣地の転換にはそれなりに時間が掛かる。
発射可能になるまでに凡そ2時間は掛かると明言され、最低でも2時間は日本軍と増援にきた英米ソの国連軍で防ぐこととなった。
既に前線には母艦級から発射されたBETAの梯団が現れ、各所で戦闘が勃発している。
BETAは札幌と旭川双方に部隊を送り込み、各所で防衛線を展開する日本軍北部方面軍の部隊と衝突した。
旭川への進撃を防ぐ第2師団及び第5師団の主力部隊は主抵抗線を張り、滝川市の前面に流れる石狩川と空知川を用いながら防衛戦闘を開始した。
一方の札幌方面を防衛する第11師団及び第7師団は美唄市周辺に各部隊を配置し、機動防御によってBETAの進撃を阻んだ。
三三式APCに設置された機関砲と共に歩兵小隊の弾幕射撃が展開され、BETAの接近を阻止した。
迫る戦車級に向けて対戦車班が84mm無反動砲を用いて応戦し、何体かを撃破する。
要撃級に対しては二〇式自走106mm無反動砲が集中砲撃を浴びせかけて撃破し、定期的にF-1やF-15Jが対地支援としてMk.82無誘導爆弾を投入してBETAの接近を阻止した。
『スカウター4より第1戦車中隊へ、茶志内川より未確認の突撃級群接近中、数は50以上』
『スカウター4了解、第1中隊及び第2中隊は前進しこれの撃破に当たる』
「第1中隊前へ!!」
「第2中隊前へ!!」
偵察機より情報を受けた第71戦車連隊の三四式戦車G型が隊列を成して前進を開始する。
移動する三四式戦車G型は120mm滑腔砲を移動中のBETAに向けて狙いを定めた。
『アルファ、フォックストロット間の突撃級群に向けて一斉射!!撃て!!』
まず第1戦車中隊が運用する数十輌の三四式G型が一斉に120mm弾を発射して足や装甲を砕き、部隊の前衛を撃破した。
これにより一時的に足が止まった所に第2戦車中隊の砲撃が叩き込まれ、突撃級の集団は更に損害を受けた。
後続からもBETA群は迫っているが陣地展開を完了した第7師団第7砲兵連隊の三五式(ルビ 75式)自走榴弾砲のエアバースト射撃を投入されて前線に辿り着く前に壊滅した。
各所でも浸透強襲を行おうと戦車級にタンクデサントした闘士級が斜線の通らない建物などに隠れながら前進してきていた。
しかし対処する術もある。
既に前線には習志野から送り込まれた第1空挺旅団が千歳基地に降り立ち、そのまま前線に送り込まれていた。
「闘士級だァ!」
「擲弾筒でぶっ殺せ」
「対戦車班は前進しろ!」
空挺隊員達が二四式小銃で戦車級の上に乗る闘士級を皆殺しにし、その後84mm無反動砲で戦車級も破壊した。
後ろからは三三式小型トラックに12.7mm重機関銃を取り付けた車両が援護射撃を行い、戦車級を砕いていった。
「撃て撃てェ!」
破壊された戦車級から降りてくる闘士級に空挺旅団の歩兵分隊が弾幕射撃を叩き込み、逃げる間も無く殲滅した。
「このまま前進してあそこの建物に陣地を構える!前進だ!!」
佐藤大尉の命令で1個空挺中隊が前進を開始した。
戦闘の影響で各所の建物は破壊されており、極めて悲惨な状況を呈していた。
「オイ中村と清田、先に行けよ」
「嫌だよ、高梨と上林が行けよ」
「戦死の理由はBETAに食われただけじゃねえんだぞ」
「チクショウ」
小銃を構えた空挺隊員達が市街地を前進していく、すると数十メートル先の曲がり角に闘士級が数体見えた。
「BETAだ!」
「撃て!」
分隊火力が叩き込まれ、闘士級は全滅した。
だがそれに集まってくるかのように別の箇所からも数十体の闘士級が姿を現した。
「チクショウ数が多い!」
「擲弾筒投擲するぞ!気をつけろ!」
ポンッポンッという弾んだ音と共に二四式小銃に取り付けられた擲弾筒から擲弾が発射され、その爆発と破片で闘士級を殲滅した。
後続からは戦車級の群れがやってきたがこれらは駆けつけた12.7mmを装備する三三式小型トラックによって蹴散らされた。
「中村ァ、まだ生きてるか?」
「小便ちびる所だった」
「汚ねェな近づくな」
「前方800メートル地点から突撃級2体接近!」
別の箇所で戦っている空挺隊員が大声で周囲の味方に知らせた。
当たり前だがいくら精鋭無比を名乗る空挺隊員とはいえ所詮は歩兵である、突撃級に勝てる火力は持ち合わせてない。
このままじゃまずいと思った瞬間、上空を轟音と共に何機かの人型兵器が飛び去って行った。
アメリカ軍の戦術機部隊だ。
その機体は2機が数発のAGM-65マーヴェリックを発射して突撃級を撃破し、そのまま低空飛行しながら前線へ急行した。
「おお、アレが空軍の15Jかァ」
「違うよ、アメリカのF/A-18だよ」
上空を飛行していたのはアメリカ海軍の原子力空母”エンタープライズ”より発艦した最新鋭の海軍戦術機、F/A-18”ホーネット”だった。
たまたま”エンタープライズ”は駐留していた佐世保から離れて近くにいた為即座に先頭に合流出来た。
甲板から次々と発艦するF/A-18にはマーヴェリックやMk.82など多彩な対地装備を有しており、機体によってはAGM-84”ハープーン”まで機体に取り付けていた。
アメリカ海軍の戦術機部隊は第11師団と第7師団の援護に徹し、迫り来るBETAを日本空軍のF-15JやF-4EJ改らと共に迎撃に当たった。
日本軍、そして救援に訪れた各国軍はまだ踏み止まっている。
まだ運命は決まった訳ではない。
オホーツク海に展開していた”ウリヤノフスク”は直ちに他潜水艦と共に北海道、紋別付近まで移動した。
現状本国は極東軍管区、ザバイカル軍管区の部隊で防げると判断し、ソ連太平洋艦隊は日本帝国の救援に向かうこととなった。
ウラジオストクから出港した戦闘艦艇は一路、北海道を目指した。
途中で舞鶴より出港した日本海軍第三艦隊と一部の艦艇は合流し、そのまま石狩湾に展開した。
”天城”からは艦載機のF-4EJ改が発艦し、艦隊による対地支援が始まった。
一足遅れて”出雲”と横須賀の海軍第一艦隊も合流し、洋上からF-14JとF-16NJを発艦させた。
”エンタープライズ”と”出雲”の二隻から発艦する海軍航空隊は主に第11、第7師団を支援し、”天城”と”ウリヤノフスク”の航空隊は滝川市周辺で防衛線を展開している第2、第5師団の支援を行った。
紋別の沖に展開する”ウリヤノフスク”の甲板ではMiG-29KとSu-27K、Yak-41が挙げられ、発艦準備に入っていた。
Yak-41はSTOVL方式で空母から発艦し、真っ先に最前線へ向かった。
今の前線には1機でも多くの航空火力が必要だった、であればYak-41でも十分戦力になる。
『大佐、お先に失礼します。戦場で会いましょう!』
Yak-41の飛行中隊を指揮するマリャーキン少佐が通信でベルグロフ大佐に声をかけ、そのまま飛び去った。
「ああ、戦場で会おう。950001、発艦準備完了した、いつでも行ける」
『950001、了解。発艦を許可する。同志の勝利を信じてます』
「祝杯のウォッカでも用意しておいてくれ、行くぞ!」
ベルグロフ大佐が操るSu-27Kは加速し、スキージャンプ台からそのまま大空へ飛び去った。
なおカタパルトからはオスマノフ中佐が指揮を取るMiG-29Kの部隊が次々と射出されていた。
彼の後ろには同じように2機のSu-27Kが続き、編隊を組んで北海道の大地を飛び越える。
後続の編隊もベルグロフ大佐らの編隊に続き、やがて12機のSu-27Kが次々と北海道の前線地域に向かって低空で飛行した。
「既に光線級が確認されているという報告もある。恐らく日本軍が潰してくれてるとは思うが警戒を怠るな」
『折角の実戦だ、新しい海軍の主力機に戦果の花束を授けてやろうじゃないか!』
Su-27Kに搭乗する政治将校のスニルコフ大尉は部下達に向けてそう鼓舞した。
ヴィセーニン中佐はオスマノフ中佐と共にMiG-29Kで飛んで行った為ここにはいない、彼らとは別のルートで前線に向かっている。
彼らは暫く飛行を続け、旭川から深川市の上空まで行くと戦場までもうすぐとなった。
「こちら”ウリヤノフスク”海軍航空隊司令のベルグロフ大佐だ。今すぐ救援して欲しい箇所を言ってくれ」
ベルグロフ大佐は国連軍の無線周波数に合わせ、自動翻訳機能を作動させたまま現地の日本軍部隊に告げた。
これがないと日本軍はベルグロフ大佐が何を言っているか分からない状態になる、正直な話自動翻訳機能が未発達なせいかそれともロシア語が難しいのか若干日本語に訳した時に文法として妙な箇所はある。
それでもベルグロフ大佐のロシア語をそのまま浴びるよりはまだマシであった。
『救援感謝する!直ちに転送した座標に向かってくれ!このままでは突破される!』
前線の連隊本部からだろうか、彼らの要請を聞いたベルグロフ大佐は機体を翻し、座標に部隊を導いた。
モニターには空知川とその周りで戦う日本陸軍将兵の姿が映し出された。
既に突撃級数体が空知川を突破しかけており、このままでは川を渡られるのも時間の問題であった。
「BETAを川向こうに押し返す、行くぞ!」
散開したSu-27Kは多角的な方面から攻撃を行い、BETAを翻弄した。
まず正面に展開する突撃級数体はSu-27K3機から発射されるKh-29空対地ミサイルによって殲滅され、そのまま川の手前に陣取って突撃砲とS-8Bロケット弾で敵を蹴散らす。
左右に展開した突撃砲によってまず相手の足を砕いて動きを止め、その後152mm弾による榴弾で殲滅した。
後続から要撃級と戦車級の群れが現れるが、1個飛行中隊分の火力と地上に展開する歩兵部隊の火力によって殲滅された。
同じように各所でも”ウリヤノフスク”の航空隊が戦線に合流してBETAの迎撃に当たっていた。
MiG-29Kの高い戦闘能力によりBETAの屍は積み上がり、小型のYak-41が山岳部から後方へ回り込んで敵の背後を強襲することにより、前線の負担は減少した。
更には浜益川から山を越えてやってきた”天城”のF-4EJ改が合流し、前線に更なる火力支援を提供した。
横合いから2、3個飛行隊分の戦術機から殴られたことにより、守備部隊から見た右翼戦線のBETAは一時的に部隊が崩壊した。
これにより右翼に張り付いていたMiG-29Kが左翼戦線の支援に回り、結果的に両翼が安定し始めた。
「私とスニルコフ大尉の編隊で後方強襲をやる。当面の間はオスマノフが指揮を取れ」
『了解!各機このまま接近するBETAを掃討する。日本軍と獲物の取り合いはするなよ』
指揮権を副司令に譲渡し、ベルグロフ大佐は彼自身を含めた6機のSu-27Kを率いて山岳部を利用しながら光線級の攻撃を防ぎつつ後方へ回り込んだ。
BETAは前線に向かって真っ直ぐ進んでおり、絶好の狩場となっていた。
「各機出し惜しみせず全火力を投射しろ、鏖殺だ!」
突撃砲にロケット弾、空対地ミサイルに152mm砲、機体によってはGSh-30-2を用いて移動中のBETAを側面から攻撃した。
方向転換して応戦する間も無くBETAは壊滅し、周辺に無惨な数千単位の死骸を残した。
そのまま前衛部隊はMiG-29KとSu-27Kに押し込まれて崩壊し、左翼戦線も一時的にだがBETAが壊滅し戦線は安定した。
ベルグロフ大佐率いる6機のSu-27Kは即座に離脱し空知川より後方に下がった。
「各機弾薬と燃料を確認しろ、”ウリヤノフスク”、前線の補給所はどうなってる」
『旭川駐屯地に場所を借りて設置した。既に第一陣は設置し終えてる、補給は可能だ』
戦術機部隊を発艦させた後、”ウリヤノフスク”からは武器弾薬、燃料を搭載したKa-27が旭川駐屯地に向けて出発した。
前線支援を行う”ウリヤノフスク”の戦術機部隊に対し、より長く、安定して前線で戦ってもらうには北海道内にこうした補給デポを設置するしかない。
第2師団司令部は補給デポの設置を許可し、”ウリヤノフスク”から発艦したKa-27部隊によって一時的な簡易補給施設が設置された。
これで暫くは”ウリヤノフスク”に帰投せずとも戦える。
「了解、弾薬が欠乏しつつある機体は今のうちに下がって補給を開始しろ。まだまだBETAは来る、今が最後のチャンスかもしれん」
『では我が飛行中隊が』
先行していたYak-41部隊は長時間の戦闘で弾薬類が危うい状態になっていた。
「分かった、マリャーキン隊は下がって補給を行え。後はもう少し踏ん張ってくれ」
『我々海軍航空隊の意地の見せ所だ、同志大佐のように今度は我々がソ連邦英雄をもぎ取って見せようじゃないか!』
ヴィセーニン中佐が仲間の指揮を上げ、その間にベルグロフ大佐が周辺の状況を確認した。
少なくともどの戦線もBETAの波状攻撃に疲弊してはいるが対処は出来ている。
旭川方面には”ウリヤノフスク”と”天城”の航空隊が張り付いているし、札幌方面は”出雲”と”エンタープライズ”、それに三沢と千歳の空軍部隊もいる。
後は”ポーリュス”の攻撃が始まるまで耐えるだけ、勝ち筋はあるが守る側としては息の詰まる戦いだ。
つづく