マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
-”愛宕百韻”より抜粋-
-日本帝国領 東京 都内某所-
丁度この時間帯に烏丸議員は一旦会食をお開きにし、防衛産業の幹部と暫く立ち話をした後解散した。
烏丸議員は会食で日本酒を嗜んだ為運転は高森が務めていた、流石に現職の国会議員が飲酒運転をする訳にはいかない。
ちなみに乗っている車も普段高森が使っている自家用車である。
乗っているのは4代目の白いダットサン・サニー、ちなみにまだローンを払っている最中である。
時刻は9時30分頃でそのまま烏丸議員の自宅に向かっている最中であった。
「いやぁ悪いねぇ高森くん」
「いいんですよ、僕ドライブ好きですし。このまま自宅までお送りしますね」
「ありがとうね」
高森は慣れた運転捌きで都心の道を走った、その背後から付け狙う者達がいることに気づかないまま。
東京は夜であってもかなり明るい、さすがは大都市といったところだ。
ウィンカーを出して左に曲がり、比較的人気のない道に入った。
烏丸議員の自宅には高森も何度か食事に招かれて訪れたことがあり、道順は完全にマスターしていた。
その為烏丸邸に続く近道も知っており今回はそれを利用して早く送り届けようと努力した。
時間があるなら大通りから回って長く雑談でもしながら帰りたいところだが、生憎ここ最近は忙しくてそれほど時間が取れない。
烏丸議員も見たところ疲れている様子だし早く家に送って休ませてやろうという優秀な秘書官としての気心が行動に滲み出ていた。
尤もそれが襲撃の糸口となることを高森はまだ知らなかった。
この時烏丸議員は後ろにずっと付いてきている4WDのピックアップトラックが目についた。
軽く確認するように烏丸議員はドアミラーから運転席に座っている男達の様子を確認した。
ベースボールハットに近い帽子を深く被り、顔は隠しており何か作業着のようなものを身につけている。
気になるのは荷台だ、ここからではよく見えないが帆をつけて外からは荷台の中身が見えないようになっていた。
「しかし明日は法案可決の大詰めですね、烏丸さんの活躍、期待してますよ」
「ああ、任せといて」
高森にはいつも通り笑って話を振ってきていたが烏丸議員の意識は自然と後ろのトラックに向いていた。
明らかに妙だ、少なくともあのピックアップトラックは料亭を出てから信号を渡った後ずっと付いてきていた。
それに木曜の夜の東京を走る車両にしては若干不自然であった。
軍人としての長年の勘か、或いは本能か、とにかく烏丸議員は事前に危険を察知し注意力を向けていた。
お陰で彼らは最悪を回避することに成功した。
突如高森の車の後ろを走るピックアップトラックが帆を取り外し、中から1人の男が立ち上がり筒状の何かを肩に構えていた。
トラックは突如減速し、それとほぼ同時に筒状のものから飛翔体が発射された。
「高森くん左に回って!!」
「えっ!?」
高森は言われた通りにハンドルを思いっきり左に切り、烏丸議員は頭を手で守って伏せた。
発射された飛翔体は車の右後部のタイヤと後部座席の一部を爆発で抉り取った。
衝撃と右後部を若干失ったことによりバランスを崩した高森の車はそのままスピンし、近くの電柱に衝突した。
ピックアップトラックは路上に停車し、荷台からは数人の戦闘服を着込んだ男達が現れてベルトからぶら下げた軍刀を引き抜いて破損した車を取り囲んだ。
「烏丸光麿、天誅!!」
男は叫んで車のドアを開け、中で項垂れているはずの烏丸議員にトドメを刺そうと刀を構えた。
だが認識が甘かった。
男は左腕を掴まれて車の中に引き摺り込まれ、そのまま数発顔面を肘で殴打されると、首を絞められ、へし折られた。
軍刀を奪われると即座に車から出て接近していた1人の男を勢いに任せて斬り殺した。
「何ッ!?」
「無傷だと!?」
男達は動揺し烏丸議員から少し距離を取った。
「出ておじゃれ、獣は隠れていても匂いでわかりまするぞ」
烏丸議員は軍刀を握り締め、質感を確認しながら態とらしく残っている敵の数を数えた。
「ひい、ふう、みい。なんだ、”
「かかれ!!」
命令を受けて数人の男が掛け声と共に烏丸議員に切り掛かった。
男達と烏丸議員の打ち合いは僅か数発で決着がついた、相手の一撃を往なしつつ反撃を加えて致命打を与え、次の相手へと流れるように打ち合った。
カンッという刃がぶつかる音の後には烏丸議員が一振りで相手を斬り、気がつけばあっという間に3人を斬り殺した。
議員は刀を振ってついた血を振り下ろし、感想を述べた。
「ああ、なんと恐ろしい長刀。ほんまよう斬れるわ」
「チィ!!行くぞ!」
「おう!」
残り2人はほぼ同時に烏丸議員に攻撃を仕掛けた。
だが放たれた斬撃は簡単に躱され、もう一撃は弾き返された。
2人は右と左の双方に回り込み、烏丸議員に圧力をかけた。
だが烏丸議員はいつも通り飄々としており、むしろ2人が追い詰められていた。
「でやぁ!!」
「たあぁ!!」
2人は息を合わせて同時に斬りかかったが烏丸議員は攻撃のタイミングを見切っており、回避のタイミングで片方に一撃を入れた。
斬撃を受けた片方の男は血を吐いて倒れ、残る敵は1人となった。
「おや、もう1人か。ではこちらから参るぞ」
相手を粗方片づけた烏丸議員は今まではカウンターに徹していたがここから積極的な攻めの姿勢にシフトチェンジした。
両手で振り払われた刃の一撃はとても国会議員の成す一撃とは思えない重さを含んでおり、刀が吹き飛ばされそうになった。
即座に刀を握り直し、再び振り下ろされる一撃をなんとか受け止めた。
この攻撃も途轍もなく重い、腕には今まで感じたことのない負担が掛かり、軍刀が折れるのではないかと心配さえするほどの一撃だった。
こうした斬撃が数発叩き込まれ、男は追い詰められていた。
そのままトラックの側に叩きつけられ、鍔迫り合いの格好のままフェイスマスクを剥がされた。
「ほう、その面、見覚えがあるわ。あんた斯衛軍とこの人やろ」
「ッ!!」
男はなんとか状況を打破したかったが刃を受け止めるのが精一杯であり、反撃を叩き込む余裕などなかった。
「例の則実とかいう輩の同調者か?将又別の者か、どちらにせようつけものには変わりあるまい。其方の素っ首を手土産に襲撃を国会に断じ込めば明日にでも武家社会を取り潰せるだろうて。不憫じゃが生かしてはおけん、覚悟しいや」
その一言と共に烏丸議員は諸撃で手首を斬って相手の刀を落とし、そのまま胴に一撃を入れて致命傷を与えた。
それでもまだ相手は立っていたのでダメ押しのもう一撃を叩き込み、最後の男を倒した。
辺りには死体と煙が立ち込めているが烏丸議員は一切気にすることなくハンカチを取り出して額と頬の汗を拭った。
「はあ、議員になってからちと運動不足やなあ。あっ高森くん無事かい!?」
思い出したように烏丸議員は高森の方に駆け寄った。
彼は無傷な烏丸議員とは違って額に打撲傷を負っており、傷口からはごく少量だが血が流れていた。
彼は運転座席から這いずり出てようとしていた。
「烏丸さん……僕の車が……」
「命があるだけええやないの」
「まだローンがあってぇ……」
「斯衛軍のツケ払いにしとき、今はここを離れるで。こいつら武家のもんとは思うが正確な事情が知りたい。取り敢えず警察署に」
刹那、上空を数機のヘリコプターが飛び去りその後に2機の”瑞鶴”が続いた。
「どうやらそれどころじゃないみたいやね。高森くん動ける?車運転出来る?」
「あちこち痛いですがなんとか、こりゃクーデターですね……」
「取り敢えず市ヶ谷に戻ろっか、あのトラック借りてこ」
「はい…!」
烏丸議員は首を折って打ち倒した暗殺者から鞘と拳銃と予備弾薬を奪い取り、他の暗殺者の死体からも同じように拳銃と予備弾薬を奪い取った。
そのまま2人は暗殺者達が使っていたピックアップトラックに乗り込んだ。
「これ、いざとなったら使ってね。使い方は流石に分かるやろ」
「議員ほどプロじゃありませんがなんとか……」
「なら任せた、私は荷台にいるからかっ飛ばして市ヶ谷に向かって」
「了解…!」
高森はシートベルトを占めるとギアを上げてアクセルを踏み込み、爆速で市ヶ谷に向かった。
荷台では烏丸議員が武器の確認を行い、軍刀の血を振り払って57mm無反動砲の弾薬を確認した。
空を見上げれば夜空を何機かのヘリコプターと斯衛軍の戦術機部隊が覆い尽くしている。
「一線、超えてしもうたな」
その様相を議員はこのただ一言で表した。
時刻は9時50分頃、斯衛軍の全面強襲までそれほど時間はなかった。
-日本帝国領 東京 千代田区 永田町-
東京上空を飛行する戦術機部隊のうち何機はかは電子装備を装着した特別仕様の“瑞鶴”であった。
日本空軍やアメリカ空軍ではこのタイプのF-4をF-4Gと呼んでおり、通常のF-4に電子妨害ポッドを装着していた。
ちなみに運用には操縦と電子機器操作の2名が必要であり、珍しく複座型の戦術機となっている。
斯衛軍では専ら電戦と呼ばれており、その電戦は3機ほど空中で通信妨害を行なっていた。
これにより東京、特に千代田区、港区、中央区、渋谷区、新宿区などで通信障害が発生、外部との連絡が遮断された。
その間にヘリコプターで移動する斯衛軍の先遣隊が東京タワーと千代田区内の日本電信電話公社の日比谷ビルを襲撃した。
日比谷公園の広場に何機かのヘリコプターが着陸し、そこから数十人の武装した兵士が一斉に溢れ出す。
「小隊続け!!目標は電電公社だ!」
ある小隊長の中尉が指揮を取り、部下を率いて部隊が日比谷ビルに突入する。
ビルの警備員達は迫る斯衛軍部隊の前に立ち塞がり「何事ですか!」と侵入を防ごうとしたが全員が拘束され、突破を許してしまった。
兵士達はビル内に雪崩れ込み、まだビル内で仕事をしていた職員らも拘束しビルを占拠した。
後続の通信関係の技術兵も部隊に続き、日比谷ビル内のシステムを掌握した。
日比谷ビルの屋上には先行した斯衛軍の軍旗が掲げられた。
同じく東京タワー周辺でも斯衛軍部隊が芝公園の開けた場所にヘリコプターを着陸させ、降りた兵士達が東京タワーを目掛けて前進した。
この頃の時間帯は丁度10時を回ったタイミングで比較的車の交通量もある時間帯だった。
その為武装した斯衛軍が東京都内に展開する様を各所で多くの一般人が目撃している。
武装した斯衛軍将兵はそのまま東京タワー内に突入した。
こちらでも警備員と一悶着あったが銃口を突きつけて脅し、銃床で相手を殴りつけて無理やり拘束した。
「なっなんなんですかあんた達は!」
たまたま東京タワー内に残っていた中堅の眼鏡をかけた職員が急いで外を塞ぐ斯衛軍部隊の下に駆け寄ってきた。
当然だが彼らはこのような軍事行動があることを聞いていない、いくら軍隊とはいえここまでされる謂れはないのだ。
「斯衛軍ですか!?誰の許可を得てこんなことを!職員や警備員を解放してください!」
「只今より当施設は我々斯衛軍の管轄に置かれることとなりました。我々の指示に従ってください」
外で指揮を取る斯衛軍の大尉はぶっきらぼうに説明した。
それが癪に触ったのか職員はなお食い下がった。
「そんな話聞いてません!上官を呼んできてください、話をつけたい」
「そんな暇はないと言っている!」
「確保しろ!」
すぐに後から来た2名の斯衛兵に取り押さえられその職員も拘束された。
「離せっ!離せえ!君たち!軍隊だからってこんなことやっていいと思ってるのか!武家だからなんでも許されると思っているのか!離せえ!」
「第3小隊が施設内を占拠!」
「よし、第3と第4中隊で東京タワー及び着陸場周辺を占拠。第1、第2小隊はソ連大使館周辺を取り囲め」
「了解!」
第一目標を確保した部隊は第二段階に移り、部隊に移動を命じさせた。
電電公社や東京タワーの選挙により東京都内の通信網は斯衛軍の手中に堕ちた、同時に地上から移動してきた部隊が各所のテレビ局も制圧したことにより完全に通信網は制圧された。
更に事前に用意されていた工兵隊が東京各所の地下通信網のケーブルを断ち切ることにより、更に連絡網を遮断した。
同じ頃斯衛軍の主力部隊は永田町、特に内閣府、首相官邸と国会議事堂、各省庁の建物の占拠を目論んだ。
次々とヘリコプターから斯衛軍の陸上部隊が展開され、各省庁の建物を目指して進撃を開始した。
首相官邸に至ってはヘリポートの真上から強襲され、内側から守りを一気に崩された。
警備に当たっている麹町警察署の警察官は斯衛軍相手に懸命に戦ったが、予想外の強襲と物量、装備の差によって無念の敗退を喫し、全員が拘束された。
ただここで1つ問題が起こった、首相官邸を占拠したはいいが官邸内に首相がいないのだ。
同様の現象は内閣府でも発生していた。
なお余談だが首相官邸を占拠した一部の斯衛軍将兵は官邸内で幽霊を見たという証言を後にするようになった。
なお見た幽霊は様々だが半分以上は1930年代の日本陸軍の青年将校を見たと言っているし、別の者達は血塗れの男に「何をしとるか貴様らァ!」と説教されたと証言している。*1
尤もそれが本当のことなのかは定かではないし、一連の変に何か大きな影響を齎した訳ではなかった。
内閣府や国会議事堂らの守りは市ヶ谷からの事前の呼びかけて多少強化されており、突破には若干時間が掛かった。
それでも銃火器を有している斯衛軍とそうではない国会議事堂を防衛する衛視らではやはり差があり、徐々に押し込まれていた。
既に内閣府は陥落し、斯衛軍の軍旗が翻っており、大蔵省、文部省、農林水産省、厚生労働省、通商産業省らの本庁舎は斯衛軍によって制圧されていた。
近くには警視庁の第八機動隊がいるにも関わらず、斯衛軍の銃火器と”瑞鶴”による威嚇射撃により抵抗に限界が生じ、戦線を中央合同庁舎2号館まで引き下げた。
そして遂には国会議事堂もその時を迎えた。
先に衆議院会館と貴族院会館が占拠され、周辺を占拠されると全方向からの斯衛軍による突入を受けた。
「進め!!進め!!」
何人かの現場指揮官の指示で下士官兵は困惑しながらも戦闘行動を続けている。
彼らの大半は今自分達がとんでもないことをしているのではないかと自覚しつつも、同調圧力と無許可離隊のペナルティの怖さによって仕方なくここで戦っていた。
上官からは事前に命令があるまで発砲はするなと強く言明されており、発砲許可が降りても人に対してではなく空中に威嚇射撃を放つよう命じられた。
とは言っても緊張状態で命令を破って勝手に発砲する兵士も確認されており、場合によっては何人かの戦闘中の衛視に命中して負傷していた。
それに威嚇射撃でも十分な効力を発揮する。
斯衛軍は”瑞鶴”も含めて威嚇射撃とはいえ容赦なく発砲する為、どうしても銃火器がないと太刀打ち出来なかった。
「衛視を拘束しろ!手の空いた班は逐次議事堂内に突入!第3小隊を援護せよ!」
斯衛軍の兵達は命令通り次々と議事堂内に突入し、内部の人間を拘束していった。
時間は稼いだが展開から凡そ数十分後の10時30分には国会議事堂に斯衛軍第二師団の旗が掲げられた。
周囲を斯衛軍の三三式APCやトラックなどが取り囲み、二四式小銃を構えた斯衛兵達が国会議事堂の周りに展開している。
制圧のタイミングを見計らったかのように国会議事堂の正門前に3つ星の書かれたヘリコプターが着陸する。
師団長の新田中将が乗り込む指揮官機だ。
「斯衛第六連隊、国会議事堂、議員会館、首相官邸、内閣府制圧しました。現在中央号庁舎で戦闘中」
連隊長の命令を聞いて新田中将は満足げに頷いた。
少なくともこのペースなら失敗の恐れはない。
「戦力を警視庁方面に回して圧力をかけろ。皇居への突入は」
「門を閉じられた状態ですのでなんとも……」
「無理やりこじ開けて突入しろ、我らのこと、陛下にも承認して頂かなくては。首相は」
「まだ見つかりません」
「意地でも探し出せ、奴らを必ず捕らえるのだ」
「ハッ!」
各所で第二師団は着々と東京都内を制圧していた。
だがまだ完全に抵抗の燈が消えた訳ではない。
人々はまだ時代を先に進めようと闘い続けていた。
-日本帝国領 東京 新宿区 市ヶ谷 国防省本庁舎-
数機のヘリコプターと戦術機の”瑞鶴”が市ヶ谷の国防省本庁舎を目指してやってくる。
それに対して市ヶ谷の警備を担当する第32歩兵連隊は空中機動部隊に対して早速攻撃を開始した。
施設内に配備されているM2ブローニングやエリコンKD 35mm機関砲が接近しようとする部隊に攻撃を加える。
元々相手の攻撃は想定していた為ヘリコプター部隊は少し離れた地点に戦術機と共に着陸した。
即座に二四式小銃や二二式7.62mm機関銃、57mm無反動砲を装備した歩兵部隊が展開し、市ヶ谷に向けて移動を開始する。
彼らの上空には”瑞鶴”が続き、即座に支援についた。
一方の日本陸軍第32歩兵連隊は市ヶ谷橋と新見附橋を封鎖し、各地に防衛陣地を築いていた。
M2ブローニングや二二式機関銃を取り付け、場合によっては57mmや84mm無反動砲を兵が装備していた。
いざとなれば後方から二四式81mm迫撃砲が支援してくれる。
前進する斯衛軍部隊を確認した防衛陣地の小隊長は拡声器を用いて相手に呼びかけた。
「我々は日本陸軍第32歩兵連隊である!反乱軍に次ぐ!今ここで帰れば我々は何もしない!抵抗せず駐屯地へ帰れ!繰り返す、今ここで帰れば我々は追撃しないから大人しく駐屯地へ帰れ!」
どうせ言う事聞かないだろうなと思っていた小隊長だが彼の発言は意外にも下士官兵らに刺さった。
特に反乱軍という言葉が彼らに突き刺さったのだ、今我々がやっていることは反乱なのか、では戦闘後我々はどうなってしまうのか。
兵士達の間に不安が巻き起こり、その不安は一気に伝染した。
しかし即座に後ろから来た上官の大尉や少佐によって扇動され、無理やり戦いに引き戻される。
「馬鹿者!!敵の言葉に言葉に惑わされるな!!攻撃開始だ!!」
彼らは自ら二四式小銃を持って日本軍側の陣地に発砲した。
発砲を受けた日本軍は数秒後に反撃を開始した。
二四式の7.62mmやブローニングの12.7mmが飛び交い、橋の上は一気に戦場となった。
既に双方に何人かの負傷者が現れ、いよいよ戦争が始まった。
「チェリーブロッサム5、援護しろ!相手の陣地に向けて威嚇射撃を行え!」
『了解、そちらに向かう』
直掩の”瑞鶴”が何機か地上に向かい、上空から陣地の周りに向けて突撃砲を放った。
当然弾丸は模擬戦用のペイント弾だったが、口径と威力の影響で歩兵にとっては凄まじい脅威となった。
飛び散った塗料の一部が橋の上に展開する歩兵部隊の陣地にも付着した。
「”瑞鶴”だ!」
「対戦車火器で応戦!デカくて狭い場所なんだから外すんじゃねえぞ!」
地上に展開する57mm無反動砲や84mm無反動砲を装備した対戦車班が戦術機に向けて攻撃を開始した。
即座に”瑞鶴”は左手のシールドを構えて弾頭を防いだ。
『応戦する!』
”瑞鶴”が地上に着陸し陣地に向けて単発のペイント弾を発射した。
既に地上部隊は重火器などを持って退避していた為死傷者は出なかったが、この隙に斯衛軍の歩兵部隊が橋を確保してしまった。
これにより後続から来る斯衛軍の三三式APCや三三式小、中型トラックが次々と市ヶ谷攻略に参加した。
やがて戦術機から直接攻撃が出来る地点まで前進すると地上にいる”瑞鶴”が実弾を放って市ヶ谷内の通信塔やレーダーを破壊した。
「偵察班から連絡、更に3輌の1トン半トラックが接近中。兵員及び武器弾薬類を確認」
「長延寺坂、浄瑠璃坂、牛込中央通りでは新たに斯衛軍の増援が到着。戦闘激化しています」
市ヶ谷に設置された対策本部では次々と斯衛軍と交戦する第32歩兵連隊の報告が上がってきていた。
一応各所の歩兵部隊は市街地で中々火力を発揮出来ない中でもよく戦っていた。
ただ相手の装甲戦力と航空戦力の影響でこちら側が不利だ。
軍事には時として一撃で相手を折る衝撃力が重要と言われることがある。
今回の斯衛軍は空中強襲にプラスして戦術機による重火力の投入でこちら側に衝撃を与え、橋を確保した。
現在は立ち直った第32歩兵連隊であるが、それでも橋を確保されたことによる相手の増援の到着は面倒だ。
「正面の戦力は最悪庁舎の中に戻して構わん。合羽坂と市谷町方面の守備を強化しろ!平野少佐、外部との連絡は繋がるようになったか」
「ダメです、練馬、朝霞、横須賀、横田、入間、下総、木更津、習志野、どこの駐屯地及び基地とも連絡取れません。取り敢えず警視庁と皇居はまだ持ってるそうですが後は何も分かりません」
「中部方面軍並びに各方面軍とも連絡取れません。報告では上空に電子戦仕様のF-4が飛んでいる可能性が高いとか」
「ジャミングか、防空網は維持しろ。ヘリも戦術機も市ヶ谷の周辺を飛ばさせるな。陸に降りた戦術機は対戦車班が対処、ブローニングも使っていけ、どうせあの装甲じゃ12.7mmには耐えられん」
「了解」
斎藤大将が命令を出した直後、市ヶ谷庁舎の一部に揺れが生じた。
「何事だ!」
「”瑞鶴”が突撃砲を施設内に撃ってきています!使用されているのはペイント弾!」
”瑞鶴”から発射されるペイント弾の影響で市ヶ谷内はかなりカラフルに染まり、一部の窓ガラスは衝撃で割れた。
もしこれが実弾だったら損害はこの程度じゃ済まなかっただろう。
確実に何人かは即死し、重傷者が出ていたはずだ。
「チクショウ!危ない野郎だ!」
「野郎に1発くれてやれ!」
衝撃を受けて地面で伏せていた何人かの兵士が立ち上がり、窓を開けて84mm無反動砲を構えた。
丁度眼前には威嚇射撃を行っていた”瑞鶴”が見えた。
「後ろ気をつけろよ!!」
その一言と共にある兵士が庁舎内から84mm無反動砲を放ち、弾頭をまっすぐ飛ばして”瑞鶴”の顔面に直撃させた。
爆発でメインカメラがやられ、衝撃によってそのまま”瑞鶴”は道路に倒れた。
中に入っていた衛士は無事だったが、この”瑞鶴”は当分戦闘に復帰出来ない状況に陥った。
「よっしゃあ!顔面1発ぶち込んでやったぜ!」
「さっさとずらかろう!」
攻撃に成功した兵士達はそそくさと移動を開始し、次の攻撃から身を隠した。
各所で第32歩兵連隊は防衛戦に成功している。
長延寺坂では接近してくる三三式中型トラックに12.7mmを叩き込んで破壊し、周辺に展開する斯衛兵らにも二四式と二二式の弾幕射撃を叩き込んだ。
これにより搭乗していた歩兵部隊の何人かが死傷し、再び進撃が停止した。
最初から遠慮のない第32歩兵連隊の防衛戦によって各所の戦闘は激化の一途を辿っていった。
手榴弾を投げ合い、小銃を撃ち合い、機関銃を撃ち合う。
時にお互いの陣地に57mm無反動砲が叩き込まれ、双方の死傷者が仲間の手を借りて後送された。
こうなってしまってはもう戦い続けるしかない。
斯衛軍はもう長らく戦闘を続けているが未だに市ヶ谷の本庁舎を包囲することには至っていない。
正門近くでも日本軍と斯衛軍による銃撃戦が発生し、同じ武器を持った同じ日本の国民が殺し合いをしていた。
歩兵の練度というべきか、或いは防衛戦の利というべきか、特に戦意の影響で航空攻撃を受けながらも第32歩兵連隊は粘り強く戦っていた。
時と場合によっては支援に訪れた”瑞鶴”も脚部に84mmや57mm無反動砲を喰らって行動不能となるケースが多々あった。
こうした損耗の結果、戦術機部隊は神田川より市ヶ谷側に降りることを拒否し、手前で援護を行うようになった。
これにより直接的な支援は減少し、また少しづつ日本軍に優勢が戻ってきた。
何より日本軍側にとって一番優位だったのは時間を稼げば稼ぐほど習志野の空挺旅団や横須賀の陸戦隊が出動する可能性が高くなるということだ。
既に斎藤大将は9時36分頃に習志野や各所の部隊に対して1時間後に市ヶ谷から一切の応答がなくなった場合は直ちに出動せよと命令を伝えてあった。
これがどの程度伝わっているか分からないが少なくとも習志野の第1空挺旅団と横須賀の海軍特別陸戦隊はとうの昔に出撃準備を終え、今頃ようやく市谷と連絡が繋がらないことを理解するタイミングだろう。
であれば丁度そろそろ第1空挺旅団と海軍陸戦隊が動き出す、日本軍の中でも特に歩兵最強と名高い2つの部隊が救援に駆けつけてくれるのだからこれほど心強いことはない。
第32歩兵連隊は間も無く出撃を開始するはずの第1空挺旅団か特別陸戦隊の救援が到着するまで現地点の防衛線を維持することだ。
「第1空挺旅団は後1時間後か……32歩にはもう少し踏ん張ってもらおう」
「はい、増援が到着したら一気に」
「斯衛軍を押し返して野望を打ち砕く。所詮は春先に見た奇妙な夢に過ぎないと奴らに叩き込んでやろう」
平野少佐や新津大佐らはそれに対して小さな微笑を浮かべ、頷いた。
市ヶ谷はまだ戦える、このクーデターは1日ちょっとで終わるような戦いではもうなくなっていた。
各所で衛視や警備員、施設に残っていた人々が抵抗を続けているように、施設によっては粘り強い抵抗を続けている場所もあった。
例えば警視庁、そして警視庁が有する第五機動隊、第八機動隊が展開する中央合同庁舎2号館、6号館の辺りはかなり激しい抵抗に遭っていた。
しかも事前に情報を察知していた警視庁は麹町警察署と神田警察署に応援要請を出し、人員を引き抜いてきた。
既に祝田門や霞ヶ関の通りには特型警備車や常駐警備車で道を塞ぎ、後方から放水車が援護を行っていた。
「なんとか取り付け!数はこっちの方が上だ!」
「無理です!放水砲とガス弾で前進出来ません!」
当初霞ヶ関の治安関係の施設を襲撃したのはヘリコプターに搭乗した空中機動歩兵であり、それほど重戦力が少なかった。
それに最初期は流石の斯衛軍も自主的に発砲を禁じていた為、暫く応戦せず、発砲するとしても威嚇射撃に留まっていた。
催涙ガス弾もかなり吸った兵はダウンし後方に下げられており、中々押し切れずにいた。
今も放水車が薙ぎ払うように水をかけ、数名の兵士を一気に転倒させた。
相手が崩れると機動隊員達は一旦前進してダウンした斯衛兵らを捕まえて後送した。
「侍なんかを警視庁に入れるな!!日本警察の意地を見せるぞ!!」
機動隊の中隊長は自身も二枚重ねの大盾を持ちながら部下の隊員達を鼓舞して回った。
少なくとも斯衛軍は警察にとっても組織上目の敵にされることが多く、何よりこうした軍によるクーデターは二・二六事件のことを想起させる。
あのクーデターで少なくとも日本警察は5名の職務に忠実な警官が殉職し、1名が重傷を負った。
あれ以来日本の警察はありとあらゆるクーデターを警戒している、斯衛軍は今彼らの琴線に触れたのだ。
「鬼畜武家共をやっちまえ!!」
分隊から離れた斯衛兵を警棒と大盾で殴ってダウンさせ、隊列の後ろに引き摺っていった。
このままでは埒が開かない、前線を管轄する斯衛軍の少佐は歯噛みしていた。
「少佐、ここはもう発砲して一気に前進しましょう!警官相手なら反撃は薄いです!」
「三三式も到着しました、12.7mmならいけます!」
「バカ!そんなもん発砲したらどうなるか……もう少し待て」
「しかし…!」
「警官殺しの汚名は受けたくない!」
クーデターを起こした斯衛軍だが全員が全員、輝光らの方針に従っている訳ではなかった。
訳も分からず出動命令が出され、いざ送り込まれて任務を聞いてみれば国家転覆の片棒を担がされているなんて状況が殆どだった。
この少佐もクーデターの話を聞かされたのは部隊に出撃準備の命令が出た時で渋々了承したがそこまで乗り気ではなかった。
ただ旧守派の急先鋒に殺されたくないし、かと言って警官も殺したくないというのが少佐の本音である。
その結果前線では機動隊に翻弄され、斯衛軍部隊が攻めあぐねていた。
これに痺れを切らしたのか内閣府に指揮所を構えた第二師団司令部から直接催促が来た。
『少佐、2号館には取り付けたか!』
「いえ、まだ……」
『早く取り付くんだ!発砲も許可する!撃って前進しろ!』
「しかし…!」
『全ては武家の為だ!』
「了解…!」
通信は途切れ、苦虫を噛み潰したような表情で部下達に命令した。
「前線部隊に小銃の発砲命令を出す、ただなるべく直射はせず牽制射撃に留めろ」
「了解」
少佐の命令で各部隊には発砲命令が下された、しかし命令が出た後も発砲してくるのは当初は僅かであった。
何せ相手は本物の日本警察である、こんなよく分からない命令と作戦行動でもし警官1人でも殺して見ろ、最悪自分の首が飛ぶ。
そう思ってまだ理性がある斯衛兵は発砲せず、前線で積極的に戦うことを拒否した。
しかし放水を受けて頭を打ち、混乱した一部の兵士は命令を受けて即座に二四式小銃を乱射した。
無論即座に仲間が止めたが放たれた弾丸が機動隊員の盾や道を塞ぐ警備車両に命中して鉄が弾ける音を奏でた。
「撃ってきたぞ!!」
「この盾抜けるぞ!!」
「警備車両の後ろに隠れつつ各員拳銃を持って応戦!撃ち返せ!」
盾を構えつつ機動隊員は警備車両の背後に隠れ、何人かがニューナンブM60で応戦した。
前線に展開する三三式APCが弾丸を完全に防ぎ、背後の斯衛兵が反撃として二四式小銃による牽制射撃を放った。
放水やガス弾で前進を止めようとするが前線に展開する装甲車両が防ぎつつ、ガスマスクで催涙弾を防いでいる為徐々に前進出来るようになった。
「一旦後退!!後退だ!!下がれ!!」
「突っ込め!!このまま押し切れ!!」
警備車両が後退、或いは放棄され各所では前進してきた斯衛兵と機動隊員の小規模な近接格闘戦が始まっていた。
ライオットシールドと警棒で殴り掛かる機動隊員に対し、斯衛兵は二四式小銃の銃床で力強く殴って押し返そうとした。
こうして霞ヶ関では未だに抵抗が続いていた、それは東京駅も11時40分頃に陥落するがこの時点では同じであった。
当時の東京駅はまだ国鉄の管理下である、そしてこの国鉄には鉄道公安機動隊、通称鉄機隊と呼ばれる組織があった。
彼らは警視庁からの連絡で即座に武装し、丸の内警察署との連携で斯衛軍と戦っていた。
今は東京都庁から脱出してきた部隊も合わせて必死の抵抗を見せている。
「これ以上駅に奴らを入れるなァ!」
各所で乱闘が発生し、ライオットシールドと警棒を持った鉄機隊員や武装した丸の内警察署の警官らと二四式小銃を持った斯衛兵らが殴り合っていた。
駅内の閉所では発砲したくとも誤射の危険性がある為中々発砲出来ずにいた。
これが鉄機隊側に有利に働き、暫し時を稼いだ。
それは皇居も同じである。
同じく事前に情報を仕入れた皇居を守る皇宮警察は車両を動員して皇居の各門を完全に封鎖し、皇宮警察官らを配置して万全の守りを設置した。
斯衛軍部隊も皇居の周りを取り囲みはしたが発砲命令までは出せなかった。
彼らは政威大将軍の軍とはいえその政威大将軍もこの皇居に住まう皇帝によってその地位を保障されているのだ。
皇帝に銃口を向け、その上発砲までするのはそれ即ち逆賊、朝敵となる。
故に新田中将も前線指揮官らも皇居に向けて発砲せよという命令は出せなかった、ここから皇居は暫く長い緊張状態に突入する。
これが問題であった、この隙に皇帝陛下とご家族の避難が避難が始まった。
世の中には東京地下秘密路線説というものが存在する、東京の地下鉄には一般に公表されていない軍事用、秘密裏の運用に備えた路線が存在しているという都市伝説だ。
無論こうした都市伝説は1割の異なる真実がコアとなって、それに様々な話や疑念、疑いが合体して生まれてくる。
その為殆どの場合は調べてみればなんて事のない噂なのだが、この世界に関しては1つだけ都市伝説に真実が紛れていた。
戦前から戦中にかけて大日本帝国はある路線を作った、もし何らかの理由で地上での移動が難しくなった時にせめて陛下とご家族だけでも地下から脱出させようと考え、作り出した秘密路線。
その路線は皇居の真下に地下鉄駅が備わっており、ほぼ皇帝脱出用に設置されたものであった。
現在皇居の周りは斯衛軍に包囲されている、少なくとも地上から脱出することはほぼ不可能だ。
であれば脱出する方法は地下鉄しかない。
幸いにもまだ斯衛軍は全ての地下鉄駅を占拠した訳じゃない、脱出するなら今しかなかった。
「こちらです」
宮内庁の職員が手を挙げると丁度ライトをつけた皇帝陛下のお召し列車が現れた。
皇居の地下に設置された駅に停車するとドアが開き、中からM231 FPWを装備し黒いヘルメットに覆面を被った通常の陸軍部隊とは異なる格好の兵士らが現れ、周辺を警戒した。
彼らこそ日本海軍最強の兵士、海軍特別陸戦隊である。
戦前の大日本帝国海軍にも存在していた特別陸戦隊の後継そのものであり、各鎮守府にそれぞれ配備されていた。
横須賀にいた海軍軍令部総長、吉田大将は斎藤大将からの指示を聞き120%クーデターが発生すると確信した。
その為即座に市ヶ谷への救援は無理でもせめて陛下だけでも東京から脱出させようと考え、横須賀の特別陸戦隊を派遣して地下鉄に乗り込ませ、護衛につけさせた。
市ヶ谷には第32歩兵連隊がいるし、陥落したとしても指揮機能は必ず斎藤大将が移すだろうと確信し、彼らを信じてまずは陛下の脱出に全力を注いだ。
「横須賀鎮守府海軍特別陸戦隊、大村中佐であります。東京脱出までの間陛下のお供をさせて頂きます」
「よく来てくれました、脱出の手筈は?」
「例のポイントで下車した後、我が軍の車両部隊が展開していますからそちらで乗り換えて頂き、我らと共に横須賀鎮守府へ」
「分かりました、では皆さん、列車へご乗車願います!」
陸戦隊員と武装した皇宮警察官が周辺を警戒し、最後まで警戒を怠らなかった。
出発するタイミングで陸戦隊員と選抜された護衛部の人間と特別警備隊員が乗り込み、駅のホームを後にした。
こうして知らないうちに斯衛軍は皇帝陛下を取り逃した、この失態が後に彼らを追い詰めるのは言うまでもない。
時刻は10時55分、各所の戦闘から1時間が経過していた。
烏丸議員らが市ヶ谷に到着したのは同じく10時50分頃のことであった。
恐らく斯衛軍の暗殺部隊と思わしき武装集団から強奪したハーフトラックを走らせてぐるりと裏から回り込む形で市ヶ谷の本庁舎に向かった。
丁度薬王寺門で戦闘中だった所に彼らは来た。
「烏丸さんまずいです!!戦闘中でした!!」
「見えとるよ!このまま突っ切ろう!」
「はい!!」
丁度女子医大通りを曲がったところで彼らは戦闘を確認し、覚悟を決めて突っ込んだ。
突然ほぼ民間のハーフトラックが現れたことにより守備の日本軍も攻め立てている斯衛軍も大いに困惑した。
「なっなんだァ!?」
「こっちに向かってくるぞ!」
「あれにはまだ発砲するな!」
お互いにハーフトラックへの発砲禁止命令が出され、本当に一時的だが双方の銃撃が止んだ。
だが即座に烏丸議員がハーフトラックに残っていた57mm無反動砲を担いで斯衛軍の三三式小型トラックに向けて発射したことにより、状況が変わった。
弾頭が命中して車両は爆散し、斯衛兵達は頭を下げて身を守った。
「高森くん!!車捨てるよ!!」
「はい!!」
高森はシートベルトを外してブレーキをかけつつ、助手席側のドアを開けて烏丸議員と共に車から飛び出した。
彼らの判断は間違いではなかった、即座に斯衛兵らはハーフトラックに向けて銃撃を開始していたからだ。
2人はそのまま道路に転がりながら受け身を取ると、伏せながら日本軍側の防御陣地へ駆け寄った。
「烏丸さん!?なんでこんな所にいるんですか!?というか何ですかその日本刀!?」
「丸山大尉やったね、まあちょっと暴漢に襲われた帰りでね。状況は」
「最悪ですよ、斯衛軍のクーデターです!取り敢えずこれ被ってください!」
現場の指揮を取る丸山大尉は文民官僚2人に斯衛軍の捕虜を取った時に手に入れた二六式鉄帽を被せ、頭を守らせた。
「戦術機まで向こうは持ち出してきています、ここは危険ですので直ちに庁舎の中へ!」
「すまんね」
その一言だけ残し、2人は薬王寺門から中に入って庁舎の対策本部に向かった。
この頃になると業を煮やした斯衛軍が”瑞鶴”の突撃砲を訓練用のペイント弾ではなく実弾で発砲するように命じ出した。
流石にこの命令にはも起こったが命令なので仕方なく国防省の本庁舎に突撃砲の実弾が数発撃ち込まれた。
これにより施設内の何人かが死傷し、建物が何度か衝撃で揺れ出した。
「斎藤さん、悪いニュースといいニュースがあります」
対策本部で指揮を取る斎藤大将に平野少佐がそう報告した。
「何を聞いても驚かんよ」
「悪いニュースは東京都庁が陥落しました、霞ヶ関の警察部隊も追い込まれつつあります」
「”瑞鶴”の撃破を確認!」
「いいニュースは海軍特別陸戦隊が陛下の脱出に成功しました」
「そうか!よくやった、このまま横須賀までお連れしろ。最悪艦艇に乗艦して頂けば斯衛軍は手出し出来ん」
地下の通信回線がズタズタにされているとはいえまだ非常回線は残っており、皇居や警視庁との連絡は取れる。
後はせめて上空を飛んでいる電子妨害ポッド付きの”瑞鶴”さえ仕留められれば少しは楽になるのだが、そうは行かない。
「大変なことになってるようやね」
「烏丸さん、生きてましたか。ご無事で何よりです」
「斯衛軍、ガス弾の投擲を確認!現在散布されたガスを調査中です!」
烏丸議員が対策本部に戻ってきたタイミングでまた面倒なことが起こった。
「恐らく催涙ガス弾だろう……一応化学防護装備はあるが……面倒なことをしてくれる」
時を増すに連れて斯衛軍の攻撃は容赦のないものになっていた、そのうち空対地ミサイルや野砲を撃ち出すのも時間の問題だろう。
そこで副議長の井ノ山海軍中将と第32歩兵連隊長の奈良崎元大佐があることを進言してきた。
「閣下、何人かの幕僚を連れて市ヶ谷から一旦脱出してください」
「バカを言うな、統合参謀会議議長が部下を置いて市ヶ谷から逃げられるか」
「今ここで指揮所を練馬か朝霞に移せば最悪の事態に備えられます、我々とてここを堕とされるつもりはありません。ですからどうか、勇気ある脱出を!」
斎藤大将は考えを巡らせ、顔を顰めた。
確かに通信網が麻痺している市ヶ谷から離脱し練馬の第1師団司令部か朝霞の陸上総軍司令部で指揮を取れば確実に全軍を効率よく指揮出来る。
斯衛軍の包囲網も完成していない今が脱出のチャンスだが、彼らを置いていって良いものか。
悩んだが斎藤大将は決断を下した。
「……すまん!各部、各室、各課で残る者と脱出する者を決めろ。まず我々は脱出と同時に練馬駐屯地を目指す。第1師団司令部と合流しある程度の指揮系統が確立したら朝霞駐屯地の陸上総軍司令部と合流するぞ。脱出は11:05から開始する!」
「了解!」
敬礼し、先んじて斎藤大将と平野少佐は対策本部を後にした。
即座に各部の部長らが残る者と脱出する者を割り振り、敬礼と共に一旦別れた。
「烏丸さんも脱出を!」
「井ノ山くんらも達者でね、後でまたくるから元気しといてな」
「はい…!」
「烏丸さん、車の手配しましたので急いでください!」
頭に包帯を巻いた高森が手招きして烏丸議員らと共に市ヶ谷の脱出を開始した。
軍用車両では上空を飛行する斯衛軍のヘリコプターや戦術機に発見される恐れがある為、民間のものが選ばれた。
そして脱出する幕僚達はなるべく別々の道を通るように指示を受け、それぞれが加賀門や左内門から順々に脱出した。
どんどん離れ行く市ヶ谷の国防省庁舎を背に斎藤大将は決意を述べた。
「必ず帰ってくるからな…!」
その為にはまずは斯衛軍の包囲を解かなければならない。
第1師団に第1空挺旅団、海軍特別陸戦隊、そして各空軍基地の戦術機部隊、いざとなれば在日米軍もいる。
切れるカードはこちらの方が多い、必ず奴らを打ち倒す。
確固たる打倒クーデターの決意と共に斎藤大将は新たな指揮所へと向かうのであった。
つづく