マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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ヤンキードゥードゥルは
ポニーに乗って街に行った
帽子に羽根を刺して
「マカロニ」を気取ってる

ヤンキードゥードゥル 頑張れ
ヤンキードゥードゥル 男前
音楽に合わせてステップ踏めば
女の子もお手の物さ
-”ヤンキー・ドゥードゥル”より抜粋-


4月6日 斯衛の変④

-日本帝国領 長野県 上田市-

4月6日の4時ごろから千曲川の側にある斯衛軍試験飛行場では日本軍と斯衛軍の戦闘が行われていた。

 

元々上田の千曲川の側にある飛行場は戦前、日本陸軍が運用していたものだった。

 

元を辿れば民間飛行場として運用しようと画策していたのだが1933年に陸軍省が接収、陸軍の飛行場となった。

 

上田飛行場では主に飛行学校生徒の飛行訓練に用いられ、特攻隊の基地ともなったが1945年の8月以前に戦争は終結した為、上田も殆ど被害を受けることなく飛行場はそのまま残った。

 

暫くは米軍、大蔵省の管理下に置かれ、再軍備が始まった50年代にこの飛行場は何の手違いか再び運用される事となった、しかも斯衛軍の手によって。

 

50年代から60年代、この飛行場は戦後斯衛軍の僅かな航空隊の訓練と技術試験場として運用され、戦術機が本格的に導入され始めた段階で上田飛行場は完全に試験飛行場になった。

 

現在この飛行場には数機の試験装備仕様の”瑞鶴”が駐機しており、警備の憲兵や整備兵らを含めるとそれなりの斯衛軍の招聘が駐屯していた。

 

その為松代の第105斯衛大隊と同じく、この斯衛軍上田試験飛行場は長野県における数少ない斯衛軍の基地であった。

 

ちなみに本来の歴史では飛行場の代わりに理系の公立高校が設置されるのだが、この世界では飛行場のまま、斯衛軍の航空技術分校が置かれていた。

 

なお上田飛行場司令の大滝中佐は旧守派の人間として知られており、今回のクーデターにもクーデター側として参戦する予定であった。

 

だが実際に飛行場の”瑞鶴”が出撃したのはあくまで夜間パトロール程度であり、松本駐屯地に駐屯する第13歩兵連隊の1個中隊が強襲するまで戦闘は起こっていなかった。

 

これには理由がある、上田飛行場は本来東京と京都のクーデターに便乗して長野県内でも動乱を起こす予定だったのだが、京都第一師団司令部、東京第二師団司令部から出撃の停止命令が出たのだ。

 

一応理由としては京都、東京でクーデターが成功した為これ以上各所で行動する必要がなくなったということだった。

 

上田飛行場はあくまで試験機の運用と実験を目的とした軍事施設であり、陸上部隊の駐屯地ほどの兵員はいない。

 

故に軍政統治は松代から出向する予定の第105大隊に任せて、当分は戦力を温存せよとの命令が出てきた。

 

その為試験機の”瑞鶴”が何度か夜間飛行を行った程度であり、実際に上田市の街中に降りて行動を起こしたことはなかった。

 

無論これは罠である、故郷上田に戻ってきた真田情報局長が隷下の情報将校らを用いて上田飛行場に偽の命令を出したのだ。

 

これにより出撃した第13歩兵連隊の別働隊が到着するまで上田飛行場は一切動いていなかった。

 

結果4時ごろに13歩兵連隊の強襲を受け、5時を回る頃には施設内の8割を占拠されつつあった。

 

既に滑走路は完全に占領され、駐機場も殆どが抑えられた上に戦術機の格納庫にも陸軍歩兵部隊が侵入しつつあった。

 

「撃たれてるぞ!もう終わりだ!」

 

「戦術機を守れ!」

 

整備士と衛士らが一緒くたになってM1カービンや拳銃などを持って応戦しているが、歩兵戦のプロフェッショナルである第13歩兵連隊には確実に勝てなかった。

 

彼らは飛行場司令部に立て籠っている本隊から逸れた者達であり、いずれ全滅する運命であった。

 

しかも室内に展開した一部の歩兵が84mm無反動砲を発射して戦術機の跳躍ユニットやカメラヘッドを破壊した。

 

これでもう”瑞鶴”は飛べない、鶴の羽は断たれたのだ。

 

即座に”瑞鶴”の格納庫は占領され、残りは飛行場司令部へと集中した。

 

尤も大半の憲兵や武装した整備士らは初動の強襲による恐怖を受けたままである為、少し戦闘をすればあっという間に心が折れた。

 

特に機関銃や手榴弾を持ち出されれば降伏する兵士が後を絶たなかったし、各所の防御陣地もそれほど長くは保たなかった。

 

「すぐそこまで日本兵が迫ってます!」

 

「おのれぇ…!こうなったら名誉ある死を!」

 

刹那、爆発で司令官執務室のドアが吹き飛び、周囲が煙に巻かれた。

 

煙のせいで視界は悪く、爆発の爆音によって耳も遠くなっていたが何者かが階段を駆け上がり、執務室に入ってくることだけは分かった。

 

大滝中佐は拳銃を持って応戦しようとしたが爆発の衝撃で頭を打ち、脳震盪を起こしている為上手く行動出来なかった。

 

しかも周囲を二四式小銃を装備した歩兵らに取り囲まれ、右手に持っていた拳銃を奪われた上に即座に拘束された。

 

「ちくしょう……」

 

「大滝中佐を確保しました、飛行場の確保に成功」

 

突入部隊が中隊本部に連絡し、下にいる兵らに向けて占領の成功を合図した。

 

部隊が捕虜を一箇所に纏めている間に別の班が司令部前に掲げられている斯衛軍の軍旗を下ろし、陸軍旗に挿げ替えた。

 

表門には中隊の小銃班が警備につき、飛行場は39年ぶりに陸軍の下に帰ってきた。

 

「第4中隊から連隊本部へ、飛行場の確保に成功。分校の制圧には第2小隊が急行中」

 

『連隊本部了解、引き続き占領を維持せよ』

 

こうして上田の斯衛軍は今後一切動くことはなかった、それは松代の第105大隊も同じであった。

 

第105大隊を率いる村上中佐は真田少将に真実を聞かされ、クーデターへの不参加を明らかにし、いざという時の松代駐屯地の守備に全力を注いだ。

 

彼は元々ノンポリの斯衛軍人であり、ほぼ家業となっていた第105大隊長の使命を大層重視していた。

 

故に信真が死んだこと、斯衛軍が忠義に反したことに怒りを覚え、反クーデターの構えを徹底した。

 

これにより長野県の斯衛軍は完全にクーデターから切り離され、東京の失敗の裏に鎮圧された。

 

だが中部地方のクーデター勢力はまだ他にもいる、何より中部守護軍司令部はまだ京都の斯衛軍総監部から発令された命令を実行し続けている。

 

クーデターはまだ数日は続きそうだった。

 

 

 

 

 

 

―新潟県 新潟市 新潟県庁 斯衛軍軍政本部―

新潟で挙兵したのは斯衛軍の動員連隊の一つ、第16連隊であった。

 

同連隊は新潟に拠点を有し、新たに増設された戦術機大隊も新潟に展開していた。

 

彼らは夜間の内に動き出し速やかに新潟市を制圧、県庁や市役所を占拠し、新潟空港まで手中に収めた。

 

本来ならその勢いのまま新発田駐屯地まで強襲するつもりだったのだが、練馬からの指揮系統が回復した為即座に動き出した新発田駐屯地第30歩兵連隊によってその野望は阻まれた。

 

しかもこれに呼応して高田駐屯地の第2歩兵連隊が出撃し上越から新潟市に向けて進軍中という報告が上がってきた。

 

悪い報告はこれだけではない、群馬県相馬原駐屯地から第12戦車大隊と第12偵察隊、第12高射砲兵大隊の混成戦闘団が関越自動車道から南魚沼市に到着した情報も入っていた。

 

傍受した通信によれば東京で挙兵した第二師団は完全に失敗し、自分達は今や賊軍の汚名を着せられているというのだ。

 

これには連隊長の大堀直成大佐はショックを受け、頭を抱えた。

 

彼は根っからの旧守派であり今回の挙兵は自分たちは正しいことをしていると信じてやまなかった。

 

その為皇帝と首相の命も跳ね除け、連隊及び戦術機大隊には箝口令を発布、自分達が賊軍であることを隠した。

 

箝口令により当分の間将兵達に賊軍であることは知られなかったが空気感だけは伝わっていた。

 

市街地に展開する将兵は一般新潟市民から向けられる冷たい目線に疑問を覚え、新発田で戦う将兵は第30歩兵連隊らの放送によって賊軍であることを知った。

 

『いいか!君達は政府と皇帝陛下の御名によって賊軍となったのだぞ!これ以上汚名を着続ければ君達には恩給も何も支払われない!早く帰ってくればそれだけ国民も家族も安心するんだ!だから早く武器を捨てて投降しろ!』

 

スピーカー付きの三三式小型トラックからある日本軍大尉の宣言が聞こえ、特に下士官兵らが動揺し始めた。

 

恩給が支払われなくなる、賊軍の称号を一生背負うことになればこの日本社会で生活することは難しくなる。

 

それは嫌だ、嫌だが逃げ出すことだって難しい。

 

もし1人、自分だけ投降の道を選んだら即座に仲間が持つ小銃の餌食になることは目に見えている。

 

しかもまだ小隊長や中隊長が「嘘っぱちだ!でたらめだ!」と日本軍の報告に耳を貸さぬよう呼び掛けている。

 

それでも放送の効果は抜群で勇気ある何人かは先んじて降伏し、展開する部隊の動きは鈍くなった。

 

ちなみにこの時新発田駐屯地ではそれなりに困った事態が発生していた。

 

昨晩の放送を改めて聞いた予備役の資格を持つ新発田市民らが駐屯地に押しかけて来たのである。

 

「賊軍が新潟を占拠してるんだろ!我々にも戦わせてくれ!」

 

「俺たちだって兵士なんだ!頼む!」

 

「分かりました!とにかく並んでください!今連隊本部に掛け合ってますから、暫くお待ち下さい!」

 

警衛の兵士らが新発田駐屯地に押しかけている市民らを宥め、並ぶよう促した。

 

その頃連隊本部では新発田市正面に展開する斯衛軍分遣隊との戦闘指揮を執りつつ、市民らの対応について協議していた。

 

地本(地方兵務)事務所とこっちに集まった人数を数えろ!それによって装備の分配を開始する」

 

「駐屯地前に集まっているのは今数えただけでも200人を超えてます、しかも胎内、村上からも続々と人が集まってます!」

 

連隊本部の将校達は感謝の気持ちを持ちながらも困ったなあという表情でいた。

 

連隊長の鵜田稔大佐も同様である、なんなら鵜田大佐は今年の3月に第30歩兵連隊に赴任してきたばかりなのだ。

 

「とにかく、集まってる方は除隊年数ごとに整列させるんだ。除隊1、2年以内の者には即座に武装させ警備に回す、現状の戦闘は現役のみで対処!」

 

「了解!」

 

「こりゃ他の事務所も凄まじいことになってるだろうな……」

 

少なくとも立ち上がった彼らの行為は純粋な善意であるから無碍には出来ない。

 

こんな状況下でも人の善意を垣間見た瞬間であった。

 

一方の新潟市、こちらは混沌の渦の中にあった。

 

中央区の県庁前、古町に設置された軍政支部には説明を求める新潟市民が殺到し、各所で乱闘一歩手前になるほど荒れていた。

 

この時点で大多数の新潟市民は新発田方面で戦闘が行われていることも、この戒厳令が違法であることも知らない。

 

全ての情報は遮断されている上に、阿賀野川と信濃川にかかる橋は全て軍が接収している。

 

万代橋を通って古町へ行くことすら現時点では難しいのだ。

 

それでも古町では住民や白山から来た人々がこの戒厳について事情を話すよう迫った。

 

「各所の部隊本部に市民が殺到しています」

 

「新発田方面の部隊は後退を開始、後数時間のうちに阿賀野川付近に到達します」

 

「第2歩兵連隊、第12戦車大隊も移動を確認、このままでは全方位から新潟市が攻撃を受けます」

 

次々と敵部隊が接近する報告が続き、大堀大佐の表情はどんどん曇っていった。

 

既に海上からは空母”天城”と”ウリヤノフスク”らの打撃群が接近中であり、純水な戦術機の数では敵う相手ではなかった。

 

「北陸の部隊は」

 

「半数が降伏、半数がそもそも挙兵しませんでした。現在中部守護軍司令部とも連絡が取れません」

 

「では京都の総監部はなんと」

 

「現地点を維持、反乱軍に対し抵抗を続けよということだそうです。それと新潟の全指揮権を大堀大佐に譲渡、合わせて准将に昇進すると……」

 

大堀大佐は頭を抱えた、今欲しいのは将官の位ではなく兵力なのだ、この状況を打開する手立てが欲しかった。

 

総監部は准将の階級と共に新潟にいる部隊を見捨てるつもりらしい、実際現在の斯衛軍のクーデター軍には助ける手立てはない。

 

連隊本部の将校達は絶望したが戦いをやめる訳ではなかった。

 

旧守派の意地を見せる為に最後の一兵まで戦う他ないという意志を固めた。

 

「河川を用いた防衛戦を行えば少しは持つだろう。海岸沿いの陣地構築はどれほど進んでいる?」

 

「少なくとも2個空母打撃群を阻止出来るほどでは……しかし陸上部隊の上陸は何としてでも防いで見せます」

 

「ああ、少なくともソ連の海軍の侵入は防いで見せる」

 

大堀大佐はそう宣言したが既にソ連海軍と日本海軍は動き出している。

 

新潟市に取り残された旧時代の侍を一掃する為に。

 

 

 

 

 

日本海の海原に合計して何十隻かの軍艦が日本に向けて進路を取っていた。

 

その片方は日本帝国海軍の”天城”を旗艦とした舞鶴海軍基地の空母機動部隊であり、もう片方はウラジオストクより出航した”ウリヤノフスク”の航空師団である。

 

双方空母を旗艦としつつ周囲には何隻かの僚艦を連れていた。

 

日本海軍の場合は高月型護衛駆逐艦の”望月”と”長月”が二隻、太刀風型ミサイル駆逐艦が二隻、秋月型護衛駆逐艦の”照月”が一隻、榛名型回転翼機搭載対潜艦”榛名”が一隻、そして山雲型対潜駆逐艦の”秋雲”、”夕雲”が二隻、合計九隻で編成されている。

 

ちなみにこの太刀風型、本来の日本が保有するたちかぜ型より二隻ほど増加している、空母を保有した際の艦隊防空を考えた場合このようなミサイル艦艇は本来の歴史より絶対に必要なのだ。

 

その結果前級の天津風には一隻姉妹艦が増え、太刀風型は五隻体制となり、後継の旗風型ミサイル駆逐艦と共にミサイル駆逐艦は八隻体制となっていた。

 

なお日本海軍軍令部と海上総軍司令部はこのミサイル駆逐艦体制も防空という観点からは足りないと分析されており、現在はBETA戦が最優先課題であるからいいとしても戦後は確実に問題となるだろうと認識していた。

 

ちなみにこの問題を解決する為に日本海軍は去年就役したアメリカ海軍の”タイコンデロガ”が搭載しているシステムを搭載したミサイル駆逐艦(金剛型)が建造されることとなるのだがそれはまた別の話。

 

現段階ではまだ致命的な問題ではなく、むしろ日本海軍目下の課題は空母四隻体制による人員の大量拘束であった。

 

伊吹”、”鞍馬”の人員は合計して約6,900人弱、一方の”天城”、”出雲”は合計すると8,600人以上、全て合わせれば空母を運用するだけで1万5,000人以上の人間が必要になるのだ。

 

ほぼ1個師団分丸々空母に人間が割かれていると言っていい、しかも空母に合わせる僚艦の人員を鑑みれば現実から目を背けたくなる。*1

 

これをどうするかが結局のところ目下の課題であるのだが、今は非常事態、やるべきことは別にある。

 

対するソ連海軍は”ウリヤノフスク”を筆頭に58型(キンダ型)ミサイル巡洋艦”アドミラル・フォーキン”、”ヴァリャーグ”、1134B型”ペトロパヴロフスク”、”タシュケント”、1135型”ラーズヤシチイ”、”レチーヴイ”、61型(カシン型)駆逐艦”ステレグーシィイ57-A型(カニン型)駆逐艦”グネェーヴニィ”、”ゴールディイ”の十隻編制であった。

 

これに加えて今回はYak-44早期警戒機を搭載しており、日本海軍のE-2と共に洋上レーダーとして機能する予定であった。

 

ウリヤノフスク”の艦載機はSu-27K24機、MiG-29Kをまだ12機搭載していた。

 

本来なら全ての艦載機をSu-27Kに入れ替える予定だったが時間と生産数が足りず、現在は27Kを2個飛行中隊、29Kを1個飛行中隊という編成にしていた。

 

一方これに合わせてソ連本土からも戦術機のMiG-31が出撃し、密かに展開している裏の部隊も動き出した。

 

ソ連と日本のEEZギリギリを航行している民間の貨物船と思わしき船舶から3機のYak-41が出現した。

 

これがKGBが保有する影の船団であり、今や船団はYak-41によって航空戦力も有するようになっていた。

 

『目標は沿岸部及び湾内の確保だ。900に接続する』

 

『了解』

 

「了解」

 

3機のYak-41が別の船舶から出現した巨大な飛行艇のような見た目の存在が出現した。

 

それはかつてカスピ海の怪物と呼ばれたある男の夢の産物、地面効果を応用した航空機と船舶の中間。

 

それはカスピ海を超え、日本海という大海原に今回の事態を見越して配備された。

 

名は”()()()()()()()”、ロスティラフ・アレクセーエフが開発した地面効果翼機の総称である。

 

Yak-41が接続した機体は戦術機の支援を前提としたプロイェークト900と呼ばれる機種であった。

 

コンセプトとしては戦術機を搭載して戦術機の稼働時間を伸ばすのと同時に、上陸時に火力支援プラットフォームとして沿岸部に火力を叩き込むものであった。

 

プロイェークト900は本来存在するプロイェークト903(ルン)とは違い、P-270”モスキート”を搭載しておらず、その代わりに対空ミサイルやロケットポッドを搭載していた。

 

また内部に戦術機を搭載可能であり、エクラノプランは戦術機の足、そして火力支援プラットフォームとして生まれ変わった。

 

試験機として数機が設計され、そのうち3機がKGB特殊戦術機部隊の下に配備された。

 

『接続システムを確認しろ、問題がなければ直ちに出撃する』

 

部隊長のペルシェンコフ少佐は各員に命令を出した。

 

部下のヴィシェヴォーイ大尉、アサエフ上級中尉からは即座にOKサインが出され、先行してエクラノプラン戦隊が日本海を渡った。

 

ほぼ同じタイミングで”天城”、”ウリヤノフスク”からも戦術機部隊と早期警戒機が出撃し既にレーダーとしての役割を果たしており、データリンクで繋がれたYak-41やプロイェークト900には既に迎撃に出ている”瑞鶴”がレーダーに移っていた。

 

『敵機確認』

 

『410002、03、迎撃しろ。私は湾内の強襲に向かう』

 

『了解』

 

「ご武運を」

 

3機のうち、2機は横に曲がり海岸部への強襲に出向き、ペルシェンコフ少佐機は真っ直ぐ新潟湾内への進軍を目指した。

 

即座にペルシェンコフ少佐の後ろには本土から出撃したMiG-31部隊が背後につき、ペルシェンコフ少佐とプロイェークト900の後ろについた。

 

彼らはモノガノフ大佐率いるGRUスペツナズの戦術機部隊であり、当然だがペルシェンコフ少佐は微妙な顔をした。

 

「しっかり援護はしてくれよ……」

 

その頃アサエフ上級中尉らは先行する3機の”瑞鶴”を補足していた。

 

これには発艦したYak-44が役に立っている、補足した機体を他の戦闘アセットに情報を共有することによって先手を取ることが出来るのだ。

 

『”ヴァリャーグ”より各艦に通達、先遣隊に対し艦対空ミサイルによる攻撃を開始する』

 

58型”ヴァリャーグ”のブリッジから通信が入り、各機は散開して各々の配置についた。

 

既に先行した一部の日本海軍機は小針浜の辺りで交戦中らしい、我々も速やかに突入せねばとアサエフ上級中尉は操縦桿を握り締めた。

 

宣言通り”ヴァリャーグ”と”タシュケント”、”ラーズヤシチイ”、”レチーヴイ”ら先遣艦隊は補足した”瑞鶴”に対して対空攻撃を開始した。

 

ヴァリャーグ”と”タシュケント”からM-1ヴォルナ艦対空ミサイルとM-11シュトルム艦対空ミサイルが発射された。

 

即座に”瑞鶴”のレーダーがミサイルを補足し、3機は即座に回避機動に入った。

 

しかし所詮は動員の衛士、腕は主力の兵士に劣るし洋上で艦隊防空ミサイルを発射されたのが運の尽きだ。

 

チャフを放って必死に全速力で回避機動を行うがやがてミサイルが着弾し、胴体から真っ二つに裂けて爆散、そのまま日本海の藻屑となった。

 

『艦隊防空が我々の背後についてる、安心して行くぞ!』

 

ミハールキン中佐がSu27Kから友軍を鼓舞し、他のSu-27Kらと共に突入を開始した。

 

『各機、我々の任務は飛んでくる戦術機の迎撃だ。敵大隊を撃滅して制空権を確保し、地上戦は日本軍に全て任せろ。死ぬなよ…!』

 

こんな戦いで部下を死なせられるか、ベルグロフ大佐の想いが最後に溢れた。

 

彼らの通信を聞きながら二隻のプロイェークト900が僅かばかり先行して新潟沿岸部に接近した。

 

『沿岸の波消しブロックを潰して一気に突入する。空戦に備えろ』

 

「了解、やりますか」

 

アサエフ上級中尉のYak-41は担架に取り付けていた125mm対物砲を取り出し、静かに構えた。

 

事前に先遣艦隊による艦砲射撃が浜辺の消波ブロック塀を破壊し、アサエフ上級中尉らの道を切り拓いた。

 

『戦闘開始だ!』

 

Yak-41がプロイェークト900に接続したまま125mm砲を発射して沿岸沿いに展開する斯衛兵らに砲撃を加えた。

 

その上でプロイェークト900に設置されているロケットポッドなども地上に攻撃を投入し、更に展開部隊に被害を与える。

 

車両は冷静なアサエフ上級中尉の射撃で破壊され、逃げ惑う歩兵は二隻のエクラノプランから放たれるロケット弾によって粉砕された。

 

『なんだあれは!?』

 

『分からんが侵入を許すな!』

 

接近するエクラノプランを迎撃しようと2機の”瑞鶴”が接近してきたがそれを補足していた二隻から発射された対空ミサイルを受けて撃破された。

 

『接続を解除、上陸する!』

 

二隻からYak-41の接続が解除され、突撃砲を空対空ミサイルを装備した2機のYak-41が姿を現した。

 

接近する”瑞鶴”は2機の息の合ったコンビネーションで迎撃し、次々と撃墜していく。

 

Yak-41は小ぶりな戦術機であるがそれでも性能は”瑞鶴”とは比較にならない。

 

そもそも搭載しているアビオニクスはMiG-29とほぼ同等であり、運用している衛士も動員戦術機部隊の衛士とは比較にならない。

 

アサエフ上級中尉だってかつてカフカスの国境沿いで戦っていた時から格段に腕を上げている。

 

『近接戦に乗るなよ!遠距離から潰す!』

 

「了解!」

 

ヴィシェヴォーイ大尉が迫る2機の”瑞鶴”を突撃砲で牽制し、注意を引き付けた。

 

うち2機はヴィシェヴォーイ大尉のYak-41を追尾し、ターゲットを定めようとしたが中々ロックオン出来ずにいた。

 

その間に低空からアサエフ機がR-27空対空ミサイルを2発撃ち上げ、動きを止める為に突撃砲の牽制射撃を放った。

 

ターゲットロックを確認した”瑞鶴”は回避機動に移ろうとしたが突撃砲の射撃で足を止めてしまった。

 

結果、R-27は跳躍ユニットと”瑞鶴”の左脚部を丸ごともぎ取り、バランスを崩した”瑞鶴”はそのまま地面に墜落した。

 

運が良かったのか衛士は即座に機体から脱出し、戦場から離れた。

 

残り1機となった”瑞鶴”は背後を警戒した、だがその隙がまずかった。

 

『貰った』

 

追撃していたYak-41が反転し、搭載していたS-5ロケット弾を発射して”瑞鶴”を仕留めた。

 

57mmロケット弾が直撃し、空中で爆散した。

 

「敵機の殲滅を確認」

 

『では地上掃討だ、確実に沿岸部は接収するぞ』

 

日和山浜は2機のYak-41と二隻のエクラノプランによって占領された、後続からは何機かのヘリコプターが展開し、ヘリとエクラノプランから自動小銃を担いだ兵士達が次々と上陸する。

 

彼らは海軍歩兵ではない、事前に待機していたソ連地上軍のスペツナズ旅団であった。

 

これにより橋頭堡が確保され、主力部隊は古町の新潟市役所を目指して前進を開始した。

 

その頃上空では戦術機大隊の主力と”ウリヤノフスク”から発進したソ連海軍航空隊との制空戦闘が始まっていた。

 

結論から言うと圧倒的な優位性を保っていたのは当然"ウリヤノフスク"海軍航空隊である。

 

そもそも戦術機自体のスペックが違う、"瑞鶴"とはいっても所詮はF-4の改良品でありどうあがいても上の世代であるSu-27とMiG-29には勝てない。

 

また搭載している空対空ミサイルもAIM-9EかAIM-7Eである"瑞鶴"とR-27やR-73を搭載しているSu-27Kでは勝ち目がない。

 

しかもYak-44が展開していることにより先に何の機体が接近しているか補足できるのはソ連海軍側だ。

 

結果空戦ではソ連海軍側が先手を取り、前進してきた先遣艦隊と共に先んじて攻撃を叩き込んだ。

 

「950005、06、眼前の奴をやる。援護を頼むぞ」

 

『了解』

 

『了解』

 

命令を受けた2機のSu-27Kが突撃砲による牽制射撃を叩き込み、敵機を拘束したところにベルグロフ大佐のSu-27KがR-27空対空ミサイルを発射した。

 

”瑞鶴”は何とか回避しようとチャフを放って動こうとしたが、それほど自由な機動は出来ずロックオンされたまま背中にR-27が直撃した。

 

別の個所でもMiG-29Kを追撃していた”瑞鶴”が別のSu-27Kが放ったR-27によって撃墜された。

 

他にも戦術機と交戦する前に展開している"ヴァリャーグ"と"タシュケント"の艦対空ミサイルによって仕留められるケースもあった。

 

戦闘から数十分もしないうちに出撃した"瑞鶴"は半数以下になり、隊長機が撃墜された段階でパニックを起こして勝手に新潟市街地に撤退し始めた。

 

尤も撤退したとしても佐渡島より手前に先遣艦隊が展開している以上、SAM陣地の射程圏内であるから撤退中も追撃されて撃墜される機体が多かった。

 

それでも何機かは超低空飛行で可能な限りレーダー範囲から抜け出そうと足掻いた。

 

これではまるで光線属種に追われているのと同じだ、しかもBETAが持つ光線属種の真っ直ぐ飛ぶレーザーとは違い艦対空ミサイルは追尾してくる為どちらにせよ最悪であった。

 

『クソッ!クソッ!』

 

『このままじゃあ全滅だよッ!』

 

『新潟市外まで下がれ!ここまでいけば……!』

 

即座に別方向からのレーダー照射による警報が鳴り響き、衛士達の顔色が一気に青ざめた。

 

既に新潟市にはソ連軍の戦術機部隊が取り付いていたのだ、最早彼らは生きて日本の大地を踏むことは出来ない状態だった。

 

「各機、後退する敵機の接近を阻止せよ。エクラノプランに1機も近づけるな」

 

モノガノフ大佐率いるMiG-31とMiG-25PDSの混成部隊はうち6機を接近する敵戦術機部隊の阻止に回し、残り6機はペルシェンコフ少佐の護衛についていた。

 

6機のMiG-31とMiG-25PDSから数発のR-33空対空ミサイルとR-40R空対空ミサイルが発射され、撤退する"瑞鶴"を襲った。

 

"瑞鶴"はチャフを展開して回避機動に移ろうとするがレーダー範囲内に入ると当然艦隊防空の脅威に晒されるし、かといって長距離空対空ミサイルの脅威は存在し続けていた。

 

発射された2発のR-33が1機の"瑞鶴"を撃墜し、別のR-40Rが確実に補足した"瑞鶴"のロックオンを逃さず、命中させた。

 

同時に他の"瑞鶴"にも発射されたR-33が命中し海面に墜ちていく。

 

折り紙のような精巧な機体であっても結局はF-4、世代の波には勝てないのだ。

 

斯衛軍の戦術機部隊は文字通り全滅した、かつての飛行場や新潟空港に帰還する機体は1機もいなかった。

 

代わりにソ連海軍と日本海軍の戦術機部隊が新潟空港や市街に展開する斯衛軍に対して攻撃を仕掛けた。

 

"天城"から発艦したF-4EJ改がAGM-65マーヴェリックで地上に展開する三三式APCや対空陣地に対して空対地攻撃を叩き込み、黙らせた。

 

攻撃は主に新潟空港、信濃川、阿賀野川にかかる橋に展開する部隊に集中し、最小限の攻撃で地上部隊を粉砕した。

 

これに対して斯衛軍の将兵はそれ程反撃してこなかった、所詮動員連隊という理由もあるが一番はあるF-4EJ改から流される放送だ。

 

"天城"の司令部は事前に斯衛軍の戦意を喪失させつつ、早期に我々が"()()"であることを市民に知らせる為に何機かのF-4EJ改にスピーカーを取り付け、昨夜の皇帝と首相の放送を"天城"空母機動部隊司令官の宣言と共に流した。

 

上空から流れる放送の影響で将兵らに迷いが生じ、その間に対地攻撃が叩き込まれて斯衛軍の士気は崩壊した。

 

勝手に兵士達が逃げ出し、陣地の維持が難しい状態となった。

 

しかも新発田から出動した第30歩兵連隊が海軍航空隊の支援を受けて豊栄まで前進していたところを一気に阿賀野川大橋の辺りまで進軍し、一部は新潟市内に突入し始めていた。

 

上越の高田駐屯地から進撃する第2歩兵連隊を阻止する為に新川辺りに展開していた部隊も海軍航空隊の強襲を受けて壊乱し、信濃川の部隊も通信途絶となるケースが多々発生していた。

 

そして決定打となったのは新潟湾から信濃川を悠々と飛行する一隻の怪物の存在であった。

 

信濃川をエクラノプラン、プロイェークト900が進撃してきている、あらゆる敵をロケット弾と護衛のMiG-31、MiG-25PDSらが仕留め、その化け物は少しずつ万代橋へと迫っていた。

 

「橋の手前で止めろ、歩兵部隊を展開して市街を確保する。Yak-41の接続を解除」

 

ペルシェンコフ少佐のYak-41が接続を解除し、他の戦術機部隊に加わった。

 

「さてと、佐官を捕えれば上々、旧守派であればなおのことよし」

 

そう言ってペルシェンコフ少佐のYak-41は浮上しながら古町方面へ向かった。

 

彼らに与えられた命令はこの事件の首謀者として疑いがあるハーゼ中佐を捕縛する事、その為にはまず旧守派の幹部を捕えることが先決だ。

 

日和山浜と信濃川から突入したソ連軍の歩兵部隊は全て特殊任務旅団、スペツナズである。

 

彼らは可能な限り戦闘を避けつつ、新潟市役所を目指して古町に急行していた。

 

ペルシェンコフ少佐らのYak-41とモノガノフ大佐らのMiG-31も地上戦の支援を行い、上空からロケット弾や突撃砲で敵歩兵部隊を蹴散らした。

 

「地上に着陸はするな、撃ったら即座に離れろ。同じ場所に長居せず攻撃を叩き込め」

 

少なくとも歩兵が持つ84mm無反動砲などは戦術機にとって脅威である。

 

これらを排除する為にモノガノフ大佐らは着陸せず、相手に狙いをつける隙を与えぬよう部下に命じた。

 

適切な航空支援により更に歩兵部隊は混乱し、市街地は騒然とした。

 

『410001より突入部隊へ、市役所前は依然として人で溢れ、事実上の混乱状態に突入。地上からの突入は困難な模様、プランの変更を進言する』

 

市役所上空を飛行するペルシェンコフ少佐のYak-41はそのカメラアイから市街地の様子を的確に捉えていた。

 

警報が鳴っても新潟市民は避難するどころかどういう事だと更に斯衛軍に詰め寄り、いよいよ乱闘騒ぎになった。

 

斯衛兵は威嚇射撃として空中に向けて発砲し、暴動鎮圧という名目で市民に対する暴力を行使し始めた。

 

無論その程度で鎮まるなら最初から市役所の前に人は集まっていない、集まった多くの市民は殆どが新潟市在住の退役軍人であるからちょっとやそっとでは崩れなかった。

 

一部斯衛兵は自動小銃を奪取され、発砲音も響くなど本当に地獄絵図が広がっていた。

 

デモを鎮圧する側が警察、軍としてノウハウがあるのは当たり前だが、デモをする側もこのような徴兵され任期満了で除隊した退役軍人だと大変なことになる。

 

同じようなノウハウを身を持って知っているからすぐ組織化され、徹底抗戦されるのだ。

 

こうなると鎮圧する側は相当骨が折れる、しかも相手は斯衛軍の動員部隊、練度やメンタルの持ち方もやはり常設の部隊には劣る。

 

結果、アサエフ上級中尉らが沿岸部に突入する段階では既に庁舎の中のほぼ手前まで市民集団が接近し、沿岸部の爆発音や煙では怯まなかった。

 

ようやく異変に気づいたのは上空を飛ぶ斯衛軍や日本軍とは違う戦術機の姿であった。

 

普段テレビなどで見るソ連軍っぽい戦術機が上空を何度も飛翔し、中にはYak-41のような本当に見慣れない一部のマニアが2月号の軍事雑誌で見た程度の機体もあった。

 

ソ連軍としてもこのような結果は予想外であった、てっきり市民はいないと想定していたが実際は真逆である。

 

これでは地上部隊が突入しても面倒なことになる、多少無茶をしてでも空中強襲をやる他ない。

 

『410001了解、そちらに空中機動中の1個分隊を投入する。援護されたし』

 

「了解…!面倒なことになった…!」

 

海岸沿いから1機のMi-8MTが浮上し、市役所方面に向かって移動を開始する。

 

この間度々低空をソ連軍機が飛行して威嚇飛行を行い、斯衛兵らに対しては突撃砲による地上掃射を行った。

 

飛行時の衝撃で窓ガラスは割れ、流れ弾が通りの道路を破壊する、一部では一般市民にも負傷者が出た。

 

その間に移動中のMi-8MTが新潟市役所の上空に到達し限界まで近づくとハッチを開けて突入要員が新潟市役所に展開した。

 

本来は屋上にも守備兵がいたのだが皆逃げ出したか護衛機の機銃掃射で全滅した。

 

『ティムプール5到着、突入部隊を展開中。展開終了後周辺地域の安全性を考慮し離脱する。回収はティムプール6が行う』

 

『了解』

 

1個分隊ほどの歩兵を展開し終えたMi-8MTは即座にその場を離脱し、対空火器の範囲外へと離脱した。

 

展開した歩兵分隊の所属元は第14独立特殊任務旅団、極東軍管区に配備されているスペツナズ旅団の1つであった。

 

屋上から突入したスペツナズ分隊は主要将校がいると思わしき協議会室を真っ先に襲撃した。

 

運悪く鉢合わせた斯衛兵らを全て始末し、前進を続けた。

 

結果としてスペツナズ分隊の攻撃目標選定は正しかったと言える、この時点で協議会室には行政支部を置いた連隊将校と総監部から派遣された指導将校らがまだ残っていた。

 

暫し斯衛軍戦術機大隊が時を稼いでくれると信じて彼らは眼前の暴徒鎮圧に注力を注いでいたのである。

 

故に避難が遅れ、全方向を暴徒に包囲され、最早逃げ場のない状態にあった。

 

「西堀ローサに臨時の指揮拠点を設置しました、そちらに急ぎましょう」

 

「ここから脱出出来るのか?」

 

行政支部長として指揮を執っていた正村武吉中佐は部下の大尉に尋ねた。

 

彼は元々総監部兵務局に所属しており、新潟に事前に入っていたのは斯衛第16連隊の解体を指導する為出会った。

 

勿論これは表向きの理由であり、実際にはクーデターの支援として連隊長の大堀准将を支える為に京都から派遣されていた。

 

この時点で彼はまだ総監部から事実上の玉砕命令が出ているとは知らず、いずれ助けが来ると思っていた。

 

故にこの暴徒達を鎮圧しなければ自らの印象に関わる、ここで手柄を立てて総監部で出世したいと目論んでいた。

 

無論その目論見は即座に破壊される。

 

すぐ側で何度か銃声が響き、直後ドアが開けられ手榴弾が投擲された。

 

「伏せろ!!」

 

爆発の衝撃と破片が協議会室中に広がり、手前にいた数名の将兵は重傷、爆発範囲よりそれなりに離れた地点にいた正村中佐も負傷した。

 

爆発の余波で耳鳴りがするし脳震盪を起こしているが誰かが乱暴にドアを蹴破って入ってくる音だけは聞こえた。

 

抵抗する将兵は即座にAKS-74で射殺され、やがて正村中佐の前に数人のソ連兵らしき男がやってきた。

 

制服を着ている彼の胸ぐらを掴み、肩章と飾緒を確認して1人が報告する。

 

«Это гвардий подполковник, наверное, штаб-офицер.»

 

«Хорошо, а есть ещё кто-нибудь?»

 

«Нет, только младшие офицеры.»

 

«Тогда возьмём его с собой.»

 

«есть.»

 

何言っているかさっぱり分からなかったが2名のソ連兵に腕を押さえられ、引き摺られていくことから何をされるかは理解した。

 

正村中佐は抵抗しようとしたが暴れればソ連兵に拳で殴られて即座に連行された。

 

再び屋上に何人かのソ連兵が現れ、その側にはMi-8MTが控えていた。

 

兵士達はまず拘束した正村中佐をヘリコプターの中に入れ、それから順々に兵をヘリコプターの中に戻した。

 

最後に後方警戒を行っている2名を収容し、Mi-8MTは急いで新潟市役所を離れた。

 

一旦の行き先は空母”ウリヤノフスク”、中佐から聞きたいことが山ほどある。

 

Mi-8MTは3機のMiG-31と共に”ウリヤノフスク”へ向かった。

 

その頃阿賀野川大橋の防衛線は突破され、いよいよ新潟市街地に第30歩兵連隊が突入した。

 

既に大半の斯衛軍将兵が執拗な対地攻撃と制空権の損失、何より常時鳴り響く放送の影響で戦意を失い、組織抵抗はまず不可能という予測に達した。

 

第30歩兵連隊も阿賀野川大橋を越えてからは敵の抵抗を殆ど受けなくなり、ほぼ無抵抗のまま新潟市中央を目指せた。

 

新潟市役所も市民の手によって解放され、同地の守備隊はほぼ市民によって捕縛されていた。

 

まともな将校ならこの時点で詰んでいる事が分かる、今や最後の一兵まで戦うという次元の話ではないのだ。

 

「新潟全域の全斯衛軍に第16連隊長大堀准将の名前で戦闘の停止と日本軍に対する全面降伏を宣言する、これ以上は抵抗すら出来ん」

 

「ハッ…!」

 

「高岳中佐、後の指揮を頼む。私はこれ以上の恥辱に耐えれん…!」

 

そう言って大堀准将はに握り締めていた軍刀を引き抜き刃を自らの腹に当てた。

 

「ハッ!無念であります…!」

 

「おのれ…!いつの日か必ずこの恥辱をっ!」

 

4月6日午後2時36分、斯衛軍の全面降伏が日ソ国連軍に受諾され、新潟県に展開する斯衛軍は戦闘を停止した。

 

何故鵜田大佐ら30歩連本部に降伏受諾に来た人間が斯衛軍連隊長ではなく副連隊長だったかは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

-日本帝国領 静岡県 浜松市-

中部守護軍司令部自体は幸房らの説得によって4月6日午後1時にはクーデター参加を取り止め、むしろ信真の仇討ち合戦の為に動き出した。

 

少なくとも中部守護軍司令官の斯波廉光少将は比較的真面目な将官の1人であり、斯衛軍の中では数少ないノンポリの将官であった。

 

その為当初は旧守派の参謀達に促されて決起したが6日の11時ごろに面会に来た幸房と1時間ほど話をした後、廉光は考えを改めた。

 

廉光は直ちに中部守護軍全軍に現時点の命令を撤回し、京都にいる賊軍を打倒する為に作戦行動を実行するよう命令した。

 

これにより中部守護軍は鎮圧軍側に周り、理論上は日本帝国政府の味方となった。

 

問題は廉光が今更命令を出したところで旧守派の将校達が黙って従うかは別なのだ。

 

既に幾つかの動員連隊や戦術機部隊の司令部と連絡が取れなくなり、旧守派の参謀達は雲隠れしたかのように皆姿を消した。

 

司令部の報告によれば一部戦術機部隊は独自に飛行場から京都方面へ移動を開始し、一部の部隊も密かに京都への行軍を進めていた。

 

廉光はこれらの行動を止めようと中部守護軍隷下の部隊に阻止戦闘を行うよう命じたが結局命令に従う部隊が足りず、離反は止められなかった。

 

この状況を知った廉光は頭を抱え、規律が崩壊しつつある自身の軍を見て人生最大の絶望感を覚えた。

 

「もう斯衛軍は……軍隊ではない……」

 

廉光が言った言葉は端的に当時の斯衛軍の様相を言い表していた。

 

こうした動きに対して日本帝国政府は在日米軍と共に討伐を決意、手始めにまず浜松航空基地を占領している斯衛軍第11戦術機大隊の掃討に移行した。

 

第11戦術機大隊の指揮官、西尾吉親中佐は旧守派の人間であり浜松基地に本部を構える同大隊は上級司令部である中部守護軍の命令を無視し続けていた。

 

これに対し横須賀海軍基地から出港した米空母”エンタープライズ”と日本空母”出雲”は隷下の空母打撃群と共に武力による第11戦術機大隊の排除を実行した。

 

戦闘の主力は”エンタープライズ”に乗艦している第11空母航空団が担当することになり、”出雲”の空母艦載機部隊はサポートに回ることとなった。

 

流石に夜間戦闘を行ったばかりの”出雲”航空隊は休ませてやろうという心意気もあったのだろう。

 

どちらにせよ”瑞鶴”はまたもや苦しい戦いを強いられることになる。

 

「154飛行隊、25飛行隊、86飛行隊を出せ。137と115からもEA-6とE-2も発艦させろ」

 

エンタープライズ”のブリッジで艦長のロバート・リー・ロイシュナーJr大佐は艦載機部隊の指揮を取った。

 

彼は”エンタープライズ”の艦長になって1年弱程度ではあるがある程度艦には慣れてきた、だが再び人間同士で戦うとは考えても見なかった。

 

ロイシュナー大佐の命令でF-14トムキャットを装備している第154戦闘攻撃飛行隊とF/A-18ホーネットを装備している第25戦闘攻撃飛行隊、第86戦闘攻撃飛行隊を戦闘部隊として出撃させた。

 

また支援として早期警戒機のE-2を装備した第115空母航空早期警戒機飛行隊と電子戦機であるEA-6プラウラーを装備した第137電子攻撃飛行隊にも発艦命令を出した。

 

E-2による敵機の早期発見とデータリンクによる情報共有が有効であるのは何度も教えられる為海軍航空の人間であればすぐに分かる。

 

またEA-6は電子戦戦術機として改修されたA-6イントルーダーであり、電子ポッドと跳躍ユニットを装備し飛行可能な機体に改修されていた。

 

エンタープライズ”の甲板では色とりどりなジャケットを身につけたカラーギャング達が戦術機や早期警戒機の誘導を行っていた。

 

今も1機のF-14がカタパルトに足を固定し、跳躍ユニットのスラスターを吹かせながら射出された。

 

続いて別の箇所から第25戦闘攻撃飛行隊所属のF/A-18が同じようにカタパルトから射出され、大空へ飛び立った。

 

F/A-18は対空装備としてAIM-9LサイドワインダーとAIM-7Mスパローを装備しており、確実に”瑞鶴”を仕留めるつもりでいた。

 

途中でE-2早期警戒機も発艦し、EA-6も3機ほど”エンタープライズ”から発艦した。

 

エンタープライズ”側の戦術機は12機のF-14、24機のF/A-18、3機のEA-6、早期警戒機は予備も含めてE-2が2機出撃していた。

 

一方の斯衛軍戦術機大隊も低空を42機の”瑞鶴”が飛行し、迎撃体制を取っていた。

 

『各機、戦闘指示はホークアイ1から伝達する』

 

『了解、ブラックナイト1から各機へ伝達、目標をロック次第フェニックスによる長距離攻撃を実行。艦隊に1機たりとも近づけさせるな』

 

『フィスト1から各機へ、我々は迂回して低空より攻撃を仕掛ける』

 

『サイドワインダー1から各機へ伝達、我々はフィストの反対方向から攻め込む。サムライファントムを1機も基地へ帰すな!』

 

作戦は決まった、AIM-54フェニックスを装備するF-14部隊が正面から迎撃し、左右両方からF/A-18が侵入して押し上げる。

 

そしてこれらを統制し、指揮を執る存在がこの太平洋の青空にいた。

 

E-3セントリー、70年代後半にアメリカが開発した早期警戒管制機(AWACS)、この機体が全てを見ているのだ。

 

少なくとも洋上や安全空域であれば光線属種の脅威は少なく、こうしたAWACS機は運用出来る状況にあった。

 

結果空中における警戒管制を行い戦術機の効率のいい運用を行う為にE-3は誕生し、このクーデターにも持ち込まれた。

 

E-3は第115空母航空早期警戒機飛行隊のE-2とデータリンクで結び付いており、E-2が捕捉しているものを当然E-3も見ているのだ。

 

これらの情報を受け取ったE-3の司令部は相手の位置を把握し、3個飛行隊に命令を出した。

 

例えば配置、或いは発砲命令、まるで3DグラフィックのRTSゲームのように指示を出せる画期的な発明だ。

 

実際命令を受け取ったF-14から何発からのAIM-54が発射され、”瑞鶴”のレーダーが敵機を検知する前に長距離空対空ミサイルの襲撃を喰らった。

 

何機かの”瑞鶴”がAIM-54の直撃を喰らって爆散し、脱出も出来ぬまま堤防の側に墜落した。

 

当然だが斯衛軍側は大いに混乱している。

 

『クソッ!フェニックスか!なんでもう捕捉されてるんだ!』

 

『恐らくAEW機です!アメリカのE-2が我々を捕捉しているものだとっ!』

 

そう報告していた”瑞鶴”の衛士が再び発射されたAIM-54の直撃を受けて撃墜された。

 

空中で幾つかの黒煙を含んだ爆発が起こる度に赤も金色も白も関係なく”瑞鶴”は墜ちていった。

 

初動のAIM-54による攻撃で部隊の1/4以上が撃墜され、一部は士気崩壊を起こしていた。

 

E-3の司令部は一旦フェニックスによる長距離攻撃を止め、壊滅したところにホーネットによる強襲をかけた。

 

『3時方向からレーダー照射を検知!ですがECMの影響かレーダーに写ってません!』

 

『9時方向からも敵機確認!レーダー照射警報出てます!』

 

本家本元の海猫(トムキャット)不死鳥(フェニックス)で侍の亡霊(ファントム)を焼き尽くし、燃え盛る炎を腕の立つ(ホーネット)の集団が殺意を持って突っ込んでくる。

 

しかもEA-6プラウラーが電子妨害を行っているから”瑞鶴”のレーダーは殆ど使い物にならない。

 

何機かのF/A-18は”瑞鶴”をロックオンし、AIM-9Lを発射した。

 

赤外線とレーダーで確実に相手を捉えるAIM-9Lは”瑞鶴”を捉え続け、チャフとフレアを撒いてもなお”瑞鶴”に食らいついた。

 

『クソッ!母様!』

 

会敵した瞬間にF/A-18が発射したAIM-9Lは殆ど命中した。

 

残った”瑞鶴”は弾幕射撃を展開しながらなんとか搭載しているAIM-9Gによって撃破しようとしたが、同じサイドワインダーでもGとLとでは性能が全く違う。

 

発射出来たとしてもロックオンを振り切られ、フレアによってF/A-18にミサイルは命中しなかった。

 

F/A-18は低空を飛行しつつ突撃砲で相手を牽制し、AIM-9LとAIM-7Mを発射してまた1機の”瑞鶴”を撃墜した。

 

戦闘開始から21分、ついに3機のF/A-18に追い回されていた最後の”瑞鶴”がAIM-7Mが跳躍ユニットと腕部に命中し、そのまま浜辺に墜落した。

 

『各機状況を報告、隊長機は隊の状況を報告せよ』

 

遠方にいるE-3は既に状況を把握しているが念の為飛行隊長らによる口頭報告を要請した。

 

『ブラックナイツ全機問題なし』

 

『フィスト、各機問題なし』

 

『サイドワインダーズ、異常なし』

 

エンタープライズ”から発艦した飛行隊の損失はゼロ、接近戦を行なっていたF/A-18の飛行隊も損害はなかった。

 

では斯衛軍側の損失はどうなっているのだろうか、そんなことはE-2から共有されたレーダーの情報を見れば分かる。

 

E-2の展開地域に”瑞鶴”の機影は1機も確認出来ない、42機いたはずの”瑞鶴”はどこにもいなかった。

 

どうなったかは海岸沿いを見れば分かるだろう、炎上し黒焦げになった”瑞鶴”の残骸が辺りに転げ落ちている。

 

36対42の戦術機による対決は機体の性能差、兵器の性能差、そしてアメリカ軍という組織の差によってアメリカ軍撃墜42、斯衛軍撃墜0という米軍のコールド勝ちという残酷な結果となってしまった。

 

単純な戦術機の差は元よりあるが一番はAEWとAWACSを用いたデータリンクによる情報共有と的確な指揮統制が圧勝の要因であった。

 

優れた兵士に優れたテクノロジーが加わればどのような化学反応を起こすかは言うまでも無い。

 

この光景を見ていた”出雲”の将兵はこんな同盟国を持って頼もしいと思いつつも苦笑混じりに肝を冷やした。

 

もしあれば自分達だったらと思うと身の毛がよだつ、自業自得ではあるが僅かばかり斯衛軍に同情する。

 

一方の浜松基地に残っている斯衛軍の将兵は顔面蒼白、冷や汗が止まらなかった。

 

「ぜっ全滅!?42機の”瑞鶴”が全滅!?25分も経たずにか!?」

 

「”エンタープライズ”、”出雲”より再度の降伏勧告が出ています!このまま降伏勧告を受けぬ場合は艦載機部隊及び支援の海兵隊、日本陸軍による集中攻撃を加えると……」

 

「ええいこうなれば日本空軍のT-2に予備の衛士を乗せて戦闘に回せ!市街地を盾に戦闘をすればまだ持つはずだ!」

 

「中佐、それはあまりにも……」

 

西尾中佐は敗北を受け止められないようで徹底抗戦を命じたが、既に部下達の心は折れていた。

 

「外国軍にこうも圧倒的に敗北するなど斯衛軍の恥……!恥辱を受けたまま降れるか!」

 

「中佐……敢えて進言しますが無為に市街地で住民を巻き込んだ戦いをすればどちらが恥なのかはお分かりのはず、ここは堪えてくだされ…!」

 

軍学校で後輩として目をかけていた神林大尉がそう進言し、中佐は思いっきり指揮所のテーブルに拳を叩きつけて唸った。

 

「畜生!!畜生!!」

 

「腹は共に切ってやります、共に潔い敗北を迎えましょう」

 

4月6日午後2時40分、新潟市の斯衛軍が降伏を選んだ反対側で浜松航空基地を占拠した斯衛軍部隊も同じく降伏した。

 

 

 

 

 

4月6日の上田、新潟、浜松での勝利は斯衛軍と日本軍双方に衝撃を与えた。

 

朝霞駐屯地の鎮圧軍司令部は一先ずの勝利と中部地方の解放に喜び、京都に向けた鎮圧作戦の発動を始めていた。

 

「しかし36対42で完封勝ちとは、米軍は恐ろしいですな」

 

小林大将は報告書を読みながら苦笑交じりで呟いた。

 

E-2による早期の補足とデータリンクによる情報共有、それを受け取ったE-3が的確に指揮統制を行うことにより海軍戦術機部隊は斯衛軍に対して圧勝した。

 

元よりF-14、F/A-18と"瑞鶴"では性能に天と地ほどの差がある、普通に戦っても"瑞鶴"は勝てなかっただろう。

 

尤も42対0という悲惨な結果にはならなかったかもしれないが。

 

現代における空戦とは技術力、そしてそれを運用する組織力がものを言う、戦争とは国家の総合芸術であるからどちらが優れていたかが明白となる。

 

斯衛軍は技術、組織力の全てで敗北した、既に東京でクーデターに失敗している段階で目に見えていたことではある。

 

「どちらにせよ反乱軍の戦力が1つ消えたのはいいことだ。予定通り第1師団、第1空挺旅団の主力を送る。第12師団も第2歩兵連隊は北陸から、第12戦車大隊戦闘団は戻して東海道から進めよう」

 

既に鎮圧軍では京都の賊軍打倒の為に動き始めていた。

 

東京に展開した第1空挺旅団は一旦習志野に帰還し、僅かに休息を取った後に下総海軍航空基地からC-1輸送機に搭乗して開放された岐阜航空基地まで移動中であった。

 

一方の第1師団、第1歩兵連隊と第31歩兵連隊は各装備と共に鉄道移動を用いて近畿方面へ向かっている。

 

各所ではようやく連絡がついた第10師団と連携して近畿の第3師団と共に確実に京都に展開する賊軍を始末する予定であった。

 

「第10師団も各駐屯地と連絡が取れ始めたようです。久居の第33歩連、守山の第35歩連、春日井の第10偵察隊を結集して直ちに滋賀県を突破、包囲下にある大津駐屯地と合流し、今津の第10戦車大隊と共に一挙に京都へ突入すると」

 

師団司令部からの作戦計画を平野少佐は簡潔に要約し、上官らに報告した。

 

当然だが斎藤大将も小林大将も斯衛軍総監部がこれを見越して動くだろうと言うことは予測している。

 

どちらの方が早く戦地に到着するかだが恐らくは斯衛軍の方が距離的にも近い為斯衛軍の方が少し前面展開することになるだろう。

 

そうなれば戦闘想定地域は良くて大垣市、恐らくは関ヶ原町となる。

 

今から300年ほど前に天下の趨勢を決めた大決戦が行われた場所で再び斯衛軍と日本軍が決戦をすることになるのだ。

 

歴史は繰り返す、そうでなくても韻を踏むことはある。

 

後世の歴史家が見たらこの戦いは恐らく相当滑稽なものになるだろう、300年経って近代化し、異星人と戦っている中で再び日本人は300年前の戦を繰り返しているのだ。

 

「第10師団に合わせて第1空挺旅団も向かわせよう。更に海上航行中の”出雲”、”エンタープライズ”航空隊を支援につければ岐阜航空基地の戦力と合わせて楽に戦闘を進められるはずだ」

 

「では全体の統合指揮はどうします?」

 

「第10師団司令部に最優先権を付与する、陸海空の航空作戦は基本的に師団司令部の意向に合わせる形で運用させろ」

 

関ヶ原で戦うにしろ大垣で戦うにしろ陸上で突破出来なければ意味がない、斎藤大将の判断は恐らく正しいだろう。

 

本来であれば中部方面軍司令部が最適なのだが現在も中々連絡が取れず、中部方面軍司令部には大阪方面から押し上げる任務がある為ここは第10師団に権限を付与するしかない。

 

「ところで他地域はどうなっている、九州、四国、中国地方は」

 

「九州地方の反乱は完全に平定しました、九州守護軍半分程度では西部方面軍には勝てませんよ。一部は熊本城に立て籠ってだいぶ長く抵抗したっぽいですが」

 

繁田大佐は微妙な表情でそう答えた。

 

「四国の方ですが一部は鳴門海峡を封鎖し、主力は中国地方の部隊共々早朝に京都の賊軍と合流した模様です。一部は伊丹の36歩連が阻止したらしいですが……」

 

「となると今や京都の賊軍が最大の勢力か、こりゃあ関ヶ原の突破も楽じゃなさそうだぞ」

 

「ですが高田の2歩連、金沢の14歩連も急行しています、海上からは”天城”と”ウリヤノフスク”機動部隊も向かっていますし時間は我々の味方です」

 

「なるべく早く終わらせたいが焦りは禁物か」

 

「今は明日以降起こるであろう決戦に備えましょう」

 

朝霞での結論は出た、では京都の総監部はどうだろうか。

 

こちらは夜間のお祭りムードとは一変して皆が厳しい顔を浮かべていた。

 

辛うじて中部守護軍から一部部隊は引き戻せたとはいえ1個連隊と1個戦術機大隊を丸々失った。

 

しかも決起した部隊は全て賊軍の汚名を着せられ、向こうは息巻いて米軍もソ連軍も引き連れてくる始末だ。

 

四方の日本軍も動き出しており、このままでは四方八方から攻撃を受けて斯衛軍は全滅だ。

 

そこで政威大将軍代行となった輝光がある方策を取った。

 

東より来たる日本軍を一旦野戦で撃破し、この戦果を持って日本政府と交渉し一旦の停戦を結ぼうというものだ。

 

最早座して死を待つか、打って出て僅かな望みに賭けるか、斯衛軍にはこの2つしかない。

 

輝光は後者を提案し、他の者達も後者を選択した。

 

これにより斯衛第二師団は守備隊を残しつつ常設の2個連隊と四国中国の戦力を合わせて編成した1個旅団戦闘団を師団長成瀬道永中将指揮の下、長浜と彦根まで後退した中部守護軍の合計1個連隊規模部隊と合流して垂井町で日本軍と対決する予定でいた。

 

斯衛軍が有する戦術機も殆ど投入し正に決戦の構えを見せた。

 

「この戦いが吉と出るか凶と出るか、どちらにせよ我らの出来ることは全てやりました」

 

副総監から総監に昇進した奥平貞親大将は輝光にそう述べた。

 

彼の周りには他にも後任として各部局の長に成り上がった旧守派の幹部達が勢揃いしている。

 

無論ハーゼ中佐もいる、彼は特別に客将として斯衛軍大佐の地位を与えられ、やがて准将の位も授けられると言われた。

 

ある意味ではここでアクスマン中佐を超えたとも言える。

 

「我ら武家の本分は戦、あるべき姿に戻りました。戰の先に我らの活路はある」

 

輝光は旧守派の幹部らにそう宣言した。

 

内心では亡き主人に向け、言葉を送った。

 

全て貴方が望んだ通りになりました、武家は再び戦を求める姿に戻り、日の本には一大決戦が迫っています。

 

ある意味では信真の望んだ通りに事は運んでいる、では武家が掴むのは勝利か敗北か。

 

答えは明日にでも出るだろう。

 

約384年ぶりに関ヶ原は日本を分ける決戦の舞台となろうとしていた。

 

 

 

 

つづく

*1
作者は背けた

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