マブラヴ グレートパトリオティックウォー   作:Eitoku Inobe

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ロケットは、ロケットは、ロケットは、
常に配置についている!
厳めしくロケットが、ロケットが、
天空を睨んでいる!
敵に攻撃で応えるべく!
敵に攻撃で応えるべく!
ロケットは、ロケットは常に守りにある、
常に守りについている、常に、常に!
-”ロケットは常に配置に就いている”より抜粋-


征けリヴォフへ!-アステロイド作戦①

-日本帝国領 帝都 京都 畑中邸-

世界には必ずタイミングというものがある。

 

タイミングを逃せば世界は大きく変わり、生きているはずの人が死んだり、死んでいるはずの人が生きていたりする。

 

例えばこの退役陸軍中将、畑中健二がそうだ。

 

彼は本来の歴史で言えば1945年8月15日に自ら命を絶った。

 

大御心に反して最後の最期まで情熱を貫き通そうとして失敗して自決を図った。

 

日本にとっていちばん長い日の主役であったが、世間の人からすれば単なる真夏の夜の妙な夢に過ぎなかった。

 

されどこの世界はそのタイミングを逃した。

 

1945年4月、硫黄島での決戦に負けた大日本帝国は総辞職し自決した小磯内閣に代わって鈴木貫太郎内閣が降伏を受け入れた。

 

大日本帝国陸海軍は文字通り死力を尽くした。

 

大和”も”武蔵”も硫黄島近海で沈み、陸軍も守備兵力の殆どを失った。

 

死力を尽くして負けた、後は敗北を先延ばしにするか潔く受け入れるかの二択でしかなかった。

 

少なくとも当時の皇帝と鈴木首相は後者を選んだ。

 

陸相、阿南惟幾陸軍大将も必死に陸軍部を抑えながら政権の決定を後押しし、辛うじて終戦まで荒波を立てずに陸軍を持たせた。

 

この世界では武家ではない方の近衛こと、近衛師団を勝手に動かした反乱も、総理大臣の家が焼き討ちされることもなかった。*1

 

それでも当時少佐の畑中は阿南陸相に迷惑をかける側であった。

 

陸軍省の仲間達と共にある1つの計画を提案した。

 

斯衛軍の権限を陸軍が掌握し、本土に残る斯衛軍将兵と共に沖縄か本土で決戦をしようとするものだ。

 

この計画には斯衛軍の現役司令官の殺害だけでなく、征夷大将軍の拘禁も含まれており、事実上のクーデターであった。

 

当然阿南陸相がこれを承諾するはずもなく、結局同じ首謀者達は陸相らに説き伏せられて終戦を迎えた。

 

陸相は何度も「硫黄島は負けたが無意味じゃない、日本国という国体は必ず残る。今は耐える時だ」と若い将校達を宥めた。

 

皇帝からの覚えも良かった阿南陸相の発言通り、GHQによる統治は始まったが結局日本帝国という形で国体は維持された。

 

発言主である阿南陸相がその光景を見ることはなかったが。

 

陸相は降伏が受諾されると同時にその夜、辞職届を書いて自宅で腹を切った。

 

敗戦という責任を1人で背負って誰の介錯も受けずに自ら腹を割いて首を掻っ切った。

 

その時畑中は陸軍省にいた、何せ亡くなる数時間前に阿南陸相から「武装解除の手続きを作るように」と命令を受けていた為だ。

 

陸相の最期は同じ軍務課の井田正孝中佐と竹下正彦中佐が見届けた。

 

畑中が次に陸相と会ったのは亡くなった後だ。

 

阿南陸相の死を悼みながら畑中は考えた。

 

何故負けたのか、何故奴ら(武家)は動かなかったのか、何故阿南さんだけが死ななければならなかったのか、何故奴ら(武家)は今も生きているのか。

 

戦後、日本帝国軍が復活すると畑中は同じ旧軍務課の仲間達と共に軍務に復帰した。

 

彼が現役である時、冷戦、BETA大戦による派兵など色々なことが起こった。

 

それでもふとした時に考えるのは1945年の4月のことだ。

 

退役した後もそれは変わらない。

 

畑中は今年で69歳、日本帝国軍の中将が定年62歳である為、7年前に満期で退役した。

 

今は実家のある帝都に戻り、戦後出会った妻と共に実家の邸宅で静かに暮らしていた。

 

元々畑中は静かな部類の人間だ。

 

園部学校の秀才で後輩思い、純朴な文学青年であり現役の時も退役した後も母校へ寄付を行い、時折よく文学作品を母校へ寄贈していた。

 

そんな好青年でも終戦の話になると一気に熱血青年に早変わりする。

 

それは歳を取った今でも変わらない。

 

「あなた、お客さんよ。先輩の竹下さんと椎崎さん」

 

邸宅の縁側で静かにアンナ・カレリーナを読んでいる畑中は2人の名前を聞いてすぐに立ち上がり、先輩達を出迎えた。

 

「おお竹下さん、椎崎さん、お久しぶりです」

 

「よお畑中、ちょっと帝都に用事があってな。椎崎と一緒に寄ったんだ」

 

竹下正彦退役中将、椎崎二郎退役中将、畑中と同じ旧陸軍省軍務課組の陸軍将校だ。

 

現状日本軍の大将は統参会議議長、陸海空総長、陸海空総軍司令官、そして新設された外地派遣軍司令の八職しかない。

 

その為大半のキャリア軍人は中将か少将で退役することになる。

 

竹下は陸軍大学校長を務め退役し、椎崎は陸上総軍副司令官を最後に務め退役した。

 

ちなみに畑中は国防省軍事政策局長を務めて退役した。

 

7 年前のことが昨日のことのように蘇る。

 

畑中は2人を客間に案内し、もてなした。

 

しばしば雑談を交わし、思い出話に耽っていた。

 

「阿南さんの墓参り以来ですな、どうして2人とも帝都に?」

 

「俺の方は衛士の学校で特別講演だ。まあムカつくがやってきたよ」

 

「斯衛ですか?」

 

「それ以外ないだろう」

 

竹下は如何にも不満ありと言った表情だ。

 

少なくとも旧軍に一度でも在籍したことのある将校なら斯衛軍に対して全員が思うところがあった。

 

「椎崎の方は京大の方で呼ばれていてな、ばったり息あったんで君の家にお邪魔したわけだ」

 

「そうでしたか、疲れたでしょう。まあゆっくりして行ってください」

 

「ああ、だが私はちょっと用事があるんで少ししたらお暇するよ。だから急ぎの話があるんだ」

 

畑中は「急ぎの話?」と首を傾げた。

 

2人は顔を見合わせ、畑中に話した。

 

「こないだ斯衛の衛士学校にソ連のオガルコフ元帥とアメリカのジョーンズ大将が視察に訪れたのは知ってるだろう」

 

斯衛軍衛士学校、これを見たオガルコフ元帥の評価は世に知れ渡ってる限りだとかなり言葉を選んだが、ジョーンズ大将は違った。

 

学生のレベルにやんわりと苦言を呈し、そもそも斯衛軍と日本軍の二重軍事体制には必ず何処かで支障をきたすと指摘した。

 

あくまで指摘である為普通に流されるはずだったが、軍内や政治派閥内にいる反武家派がこれに便乗して改革案を打ち出してきた。

 

それに竹下や椎崎は乗るつもりだった。

 

「ええ、新聞で見ましたよ。昔の部下の伝手で状況も大体知っとります。日本を見殺しにしようとした国賊どもの学校なんてあんなもんですよ」

 

畑中の口調が変わった、彼はこの話になると終戦間際の熱血漢に戻ってしまう。

 

国を狂気的なほど純粋に愛し、日本を守る為に最期の一兵まで戦わせようとした姿にだ。

 

こうなった彼は竹下だとついていけないほどだ。

 

「大体奴ら斯衛のせいで本土決戦も出来ず、我々は負けたんだ。阿南さんだって奴らのせいで自決したようなものだ…!」

 

「まあ落ち着け畑中、だからだ。ようやく奴らを正しい場所へ叩き出してやる日が来たんだ」

 

椎崎は宥めつつも畑中に同調した。

 

竹下も隣で頷きつつこう呟いた。

 

「俺達退役軍人で斯衛軍も外地派遣軍を供出すべき、或いは兵力を正規軍に一部譲渡すべきという圧力をかけるんだ。俺たちの伝手なら現役も巻き込める」

 

「竹下さん、それってつまり…!」

 

「斯衛の兵力を日本軍の下に置く時が来たんだ。35年前は無理だったが今なら出来る」

 

かつて陸軍の中佐や少佐だった青年達は将軍となり、やがて退役し、あの日の熱意を持ったまま元軍人の文民となった。

 

軍は引退したがまだあの日の野望が潰えた訳ではなかった。

 

むしろ何食わぬ顔で日本軍の隣に立とうとする姿を見て、野望を昂らせた。

 

必ず斯衛軍を潰す、それが彼らにとってあの長い日を終わらせ、日本という国を明日へ進める為の儀式に近しい行為であった。

 

アメリカとの戦争は終わったが彼らにとっての”()()()()”はまだ終わっていなかった。

 

「二二六の連中は何故失敗したか、それは軍服を着て銃剣を持って物事を成そうとしたからだ。今の我々は違う、制服を脱いでペンで政治を動かすんだ」

 

「やりましょう、井田さんには私が掛け合います。古賀もきっと賛同してくれるはずです」

 

畑中の目が輝いた。

 

まるで35年前の頃のように彼は60代後半とは思えないエネルギーを纏い始めていた。

 

少なくとも彼らは敗戦で1つ学んだ。

 

剣と銃で政治を変えるよりは、ペンと集団で政治を変えた方が成功率が高いと。

 

 

 

 

6月14日、のウクライナ旧リヴォフ州。

 

数十分に渡る砲声と幾つかのキノコ雲が上がり、前線を張っていたBETA群に大きな風穴が開いた。

 

白ロシア、第1、第2ウクライナ前線の準備砲撃が終わり、三方向からの同時攻勢が始まった。

 

第16打撃軍、第3親衛戦車軍、第4親衛戦車軍を先頭に戦車部隊と随伴の戦術機部隊が突撃を開始する。

 

少なくとも進撃開始から1時間は余裕の快進撃を続けた各前線であったが、それ以降前線には変化が訪れた。

 

砲撃と核攻撃で弱体化したはずのBETAであったが、僅か2時間で本格的な梯団を整え、突撃を開始してきた。

 

しかも援護として前線に光線級を連れてだ。

 

BETAの梯団により、一部部隊は後退し、撃退した部隊もそれなりの損害を被った。

 

されど全体から見た場合、損害は軽微である為攻勢は続いた。

 

こうしたBETAの反撃は攻勢が行われている各前線でほぼ毎日見られた。

 

当初各司令官や参謀達は物量によるストックが原因と考えていたが、実際は違った。

 

後日、衛星画像の分析で判明したのだがBETAは一時撤退と部隊の再編という軍隊の基礎を覚えた。

 

砲撃を喰らっている最中に頑丈な突撃級を傘にその他の部隊を下げ、待機している予備戦力と混ぜて梯団を再編、再び突撃ということを繰り返していた。

 

要は戦車の機動防御に近いことをやり出した。

 

まだBETAは陣地を構築するという概念を覚えていなかったようだがそれでも大きな進歩だ。

 

今まで突撃するしか脳のない猪武者も少しは成長したらしい。

 

されどソ連軍側の対応も早かった。

 

BETAの反撃を確認すると、ソ連軍の前線部隊は一旦後退し周辺に核地雷を含めた地雷を散布し、BETA群の足を止めた。

 

足が止まった瞬間に砲火力や戦術機による機動火力を投射し、BETAの梯団を破砕する。

 

時間は掛かるがその間に工兵隊が地雷を撤去し、前進を続けた。

 

これで当初の予定より時間は遅れたが、各部隊は確実にBETAの野戦軍を潰し、前進を続けた。

 

ソ連軍とBETAは一進一退の攻防を続けながらも最終的にはソ連軍側が大幅に前進し、反撃の度に部隊が損耗する為最終的にBETA側の反撃は徐々に減少した。

 

BETAは物量があるとはいえそれでも無限ではない。

 

しかも数ヶ月前にリヴォフ・ハイヴのBETAはまともな野戦軍3個を消失した為、モルドヴァの部隊を引き抜いてもなお損害を補うことは叶わなかった。

 

リヴォフ・ハイヴの中に潜む頭脳級は明らかに1年前より軍事に関して賢くなっていた。

 

だからこの戦力不足の現状も増援を呼べず事実上孤立していることの深刻さもよく理解していた。

 

本来なら最初に降りた重頭脳級かシベリアの不毛地帯に落着したはずの重頭脳級2号がリヴォフ・ハイヴで得た情報を全体に共有して作戦を立ててくれるはずだった。

 

されどどちらからの応答もなく各ハイヴは事実上孤立していた。

 

稀に他所のハイヴの同族と出会った報告も入ってきたがこちらから連絡を取る事は出来ないでいる。

 

故に他から戦力を借りることも、後退することも出来ない。

 

リヴォフの頭脳級はたった1人、1人という数え方も合っているか不明だが1体で立ち向かう他なかった。

 

奴は出来る限りのことをした。

 

今まで対空任務しか任せていなかった光線属種に野戦砲兵を任せたり、突撃級のほぼ真後ろに戦車級を隠して、交戦したら突撃させるなど。

 

単なる物量では勝てないと悟った為幾つかの戦闘団による多角攻撃、負けない為の算段を立てた。

 

されど人類側の対応は早かったし、そもそも核で一気に吹っ飛ばされては意味がない。

 

ついにリヴォフの頭脳級は割り当てられた通常業務を一旦停止してハイヴの中にいる作業チームも戦力として投入した。

 

それでもBETAは押されている。

 

何せある一線を押さえ込んでいても別の戦線が突破されて全ての努力が無駄となる。

 

もし頭脳級が人間であったなら今頃何体かの仲間を呼んでペンを叩きつけて激昂しているだろう。*2

 

後は何日持つかの問題であった。

 

だからせめて、最後の意地は見せようとした。

 

正面の敵を破砕し、時間を稼ぐ。

 

少なくとも正面に展開している部隊が3個軍分のBETAを撃滅したものだと知っていた。

 

奪われた分くらいは取り返さなければならない。

 

頭脳級は残りの予備戦力の投入を決めた。

 

これが決戦だ。

 

命令を受けたBETAの主力部隊はついに前進を開始した。

 

 

 

- ソ連領 ウクライナSSR ポルタヴァ州 ポルタヴァ市 第1ウクライナ前線司令部-

BETAの主力部隊が到来したという報告はすぐに前線司令部に舞い込んできた。

 

最初に接敵したのは第3親衛戦車軍の右側面を援護していた第24軍であった。

 

第24軍は戦力差を感知し、前線司令部に知らせると同時に第3親衛戦車軍に連絡して遅滞戦闘を開始した。

 

その間に第3親衛戦車軍が側面から包囲の形を取るが、少し戦力が足りず成功はしなかった。

 

気を利かせた白ロシア前線の第3軍が援護砲撃を叩き込み、主力部隊に多少の損害を与えたが進撃が停止することはない。

 

司令部では早急の対応が求められていた。

 

「BETAの戦力ですが今の所報告では凡そ2個軍と1個軍団ほど、突撃級を先頭に無停止進撃を続けています」

 

アシモフ中佐が報告を行い、ヤゾフとモイセーエフ中将は地図を睨みつけた。

 

「第24軍は耐えてくれています」

 

「分かっている、だがこれはチャンスだぞ参謀長」

 

「戦略核ですか」

 

ヤゾフは頷いた。

 

バリィーキン大佐やゾロトフ大佐も同じ考えだったようだ。

 

すぐにモイセーエフ中将は第33ロケット軍の連絡要員、アレクサンドル・コナレフ中佐を呼び出した。

 

中佐は敬礼し命令を待った。

 

「出番ですか!」

 

「ああ、そうだ。司令官のコチェマソフ将軍に核攻撃の準備を命じろ。攻撃地点は追って知らせる」

 

「了解!」

 

「後はどこに奴らを拘束するかだな……」

 

ヤゾフは再び地図を眺めた。

 

そこでバリィーキン大佐が提案する。

 

「テルノポリの手前あたりはどうでしょうか。第24軍ならそこまで耐えられます」

 

「そうだな、提案通りテルノポリ周辺に戦略核攻撃を行う」

 

受話器を持ってオムスクの司令部と連絡を取っていたコナレフ中佐は頷き、正確な座標を司令部に伝えた。

 

その間にヤゾフは別の命令も出した。

 

「第24軍と周辺部隊に緊急連絡、戦略核投入の為前線部隊に警戒を命じろ」

 

「はい!」

 

「閣下、増援として第60軍も投入しますか?」

 

ゾロトフ大佐は尋ねた。

 

ヤゾフは少し考えた上で指示を出す。

 

「いや、第24軍だけで絶対に持たせろ。その他の部隊は予定通り作戦を続行。せっかく出てきた連中の主力だ、絶対ここで潰すぞ!」

 

参謀達は頷いた。

 

現代戦において素早い判断は重要だ。

 

ここで核の投入をいちいち議論している暇はない。

 

司令官が決断したのならそれに従うのが道理である。

 

「ゾロトフ大佐、他の部隊と前線はどうなっている」

 

「第3親衛戦車軍は予定通りゴロドクを突破、BETA主力の側面を攻撃していますが包囲には至れていません。第4軍は以前戦闘を継続中。白ロシア前線はウラジーミル、ルーツクを完全に占拠。現在前線のBETAとの戦闘が続いています。第2ウクライナ前線はイヴァノ=フランコフスク近郊まで戦線を押し上げました」

 

「では第3親衛戦車軍は戦略核が落ちるまでその場で敵を抑えろ。BETAの停止と同時に進撃を開始させるんだ」

 

「了解!」

 

既に別の参謀によって作戦室の地図では動きがある。

 

白ロシア前線の部隊が目標地点に到達し、第2ウクライナ前線の部隊はイヴァノ=フランコフスクの手前まで来ていた。

 

後はヤゾフ率いる第1ウクライナ前線である。

 

テルノポリ周辺のBETA主力群を殲滅しなければ前進は不可能だ。

 

「連中、ヤケクソになって突っ込んできたところでしょうか」

 

隣で控えているステクリャル中将はふと尋ねた。

 

「ああ、ステクリャル中将、予備戦力として国内軍はどうなっているか」

 

「第1ウクライナ前線担当の師団は70%が展開可能です。尤も一線級の部隊と同じ戦果は期待出来ませんが」

 

国内軍師団は後方の治安維持が担当であり、前線を張る一線級の自動車化狙撃兵師団や戦車師団よりは練度が低い。

 

それでもいる分だけマシだ、最悪前線部隊が壊滅してもまだ戦える。

 

「いるだけで十分だ、戦車部隊を中心に一部をシェペトフカ周辺に待機させろ。最後に一押しに使うかもしれん」

 

「直ちに手配します」

 

そう言ってステクリャル中将は敬礼し、受話器を取りに行った。

 

これでいざという時の備えは作れた。

 

後はBETAの主力を破砕しないことには始まらない。

 

「来るなら来い、我が故郷から放たれる審判の火で全て焼き尽くしてやる」

 

 

 

 

 

第24軍は後退しながら砲火力と地雷によってBETAの足を止め、数を減らした。

 

それでもBETAの勢いは全く止まらなかった。

 

突撃級の正面装甲と物量の勢いに任せて接敵から僅か1日でヴォロチスクからピサレフカまで進撃した。

 

このままフメリニツキーまで進撃する勢いだったが第24軍とてそこまで進撃させるつもりはなかった。

 

戦車と戦術機の機動防御でBETAの正面戦力を抑え、後方に戦術核を投入して接近を阻止する。

 

その間にオムスクの第33親衛ロケット軍は命令を受けてRSD-10”ピオネール”をスタンバイさせた。

 

戦略核の発射と合わせて第24軍は特定した光線級属種に、通常のミサイル及び砲撃を叩き込んだ。

 

当然光線級はこれを特定して対空防御に入る。

 

展開される全ての砲弾を叩き落として、友軍を砲撃の被害から防いだ。

 

されどそれが問題であった。

 

この場合、多少味方が砲弾を被って消し飛んでもいいからエネルギーを残しておくべきだった。

 

榴弾砲やロケット砲の嵐より数発の戦略核の方が被害が大きいからだ。

 

第24軍の砲撃が盾となり、RSD-10”ピオネール”は全弾が目標に命中した。

 

周囲に防ぎようのない爆発を生み、熱と放射能を爆心範囲外に振り撒く。

 

風向き的に放射能はテルノポリ方面へ流れて行ったがそれでも凄まじいものだ。

 

進撃中のBETA主力群が戦略核の集中投入によって丸ごと吹き飛ばされた。

 

第33親衛ロケット軍は実際にはカメンキを目標にして戦略核を撃ち込んだ。

 

周囲を焼き尽くす大火力によってBETAの反撃能力は完全になくなった。

 

そこへ待機していた第3親衛戦車軍と第24軍が突撃をかける。

 

第3親衛戦車軍のT-80は補給を終え、全力で戦える状態であった。

 

すぐに進撃援護の為に第17航空軍の戦術機部隊が合流し、戦略核によって部隊が崩れ、バラバラに動くBETAの集団を蹴散らした。

 

こうなってしまった以上ソ連軍の進撃を止められる者はいない。

 

ヴォロチスクからテルノポリに突入し、生き残っている残敵を掃討する。

 

テルノポリを占拠した第1ウクライナ前線はその勢いのままズボロフまで前進し、残って防衛線を維持しようとするBETAを打ち破った。

 

戦略核の投入によってBETAの主力が吹き飛んだのは他の前線にとっても好都合であった。

 

第2ウクライナ前線はイヴァノ=フランコフスクを占拠し、そのまま40キロほど前進した。

 

白ロシア前線もルーツクから30キロ、ウラジーミルから50キロほど戦線を押し出し、第1ウクライナ前線の攻勢に合わせた。

 

こうした両前線の攻勢はBETAの防衛線に圧力をかけるに十分なものだ。

 

BETAはこの間に正面の穴埋めをする為左右両翼から兵力を引き抜いており、前線が薄くなっていた。

 

そこを突いて第4親衛戦車軍と第16打撃軍が突破に成功し、左右から一気に圧力をかけた。

 

各所戦線で押し込まれ、いよいよBETAの突撃級を用いた機動防御も滅多に見なくなっている。

 

まだ各所で戦闘が続いていたがどこもBETA側の劣勢だ。

 

数の利を少しずつ活かせなくなっている為、本来よりもその脅威度は落ちていた。

 

間違いなく今のリヴォフ・ハイヴに全てどころか1戦線でも前へ押し上げる力は残っていなかった。

 

精々言うならハイヴ防衛の為にまだ数十体規模の重光線級を残しており、これを前線に投入して火力で焼き尽くすことは出来たが、そこまでの胆力がリヴォフの頭脳級にはなかった。

 

最後の最後で抱え込んでいた予備兵力の展開を恐れたのだ。

 

結果的に重光線級ら対空部隊はハイヴ周辺に残置され、ただ命令と敵を待った。

 

その報いはいずれ訪れる。

 

光線属種が防げるのは所詮実体弾まで。

 

レーザーでレーザーを撃ち返すことは出来なかった。

 

宇宙では彼らを今仕留めんと爪を研ぎ澄ましている兵器がいる。

 

既にアステロイド作戦の第一段階は成功した。

 

ソ連軍は必要なだけの縦深を確保し、リヴォフへ一気に接近した。

 

この時点でソ連軍は30万発近い榴弾砲を前線に放った。

 

それでも弾薬は前線に安定して供給し続けられており、前線の砲火力は一切衰えなかった。

 

まだソ連軍全軍が戦える。

 

であれば次は第二段階だ。

 

舞台は宇宙に映る。

 

 

 

-ソ連領 モスクワ州 首都モスクワ クレムリン ソ連軍大本営-

「ハリコフの統括司令部より入電。各前線、作戦第一段階に到達。至急第二段階へ移られたし、だそうです」

 

通信士官の上級中尉がクレムリンで待機しているカラシィ上級大将とトルブコ砲兵総元帥に報告する。

 

それを聞いたブレジネフは2人に命令を出した。

 

「同志カラシィ、同志トルブコ、作戦の第二段階を実行せよ。BETAを焼け」

 

「はい!」

 

2人は敬礼し、代表してカラシィ上級大将が軌道上で待機中のソ連宇宙軍に連絡を取った。

 

クレムリンに設置された作戦室では各軍の司令官や参謀長が集まり、緊張した面持ちで各前線からの報告を聞いていた。

 

現状、戦況は優勢である為それほど悪い空気ではなかったが、それでも身が引き締まるような緊張感は残っている。

 

「ヤゾフ君は戦略核を使ったようだね」

 

ウスチノフ元帥は地図上に示された核弾頭使用のマークを見てふと呟いた。

 

「この時点での使用は正しいでしょう。少なくともこれでBETAの主力は飛んだ」

 

「ああ、後は周辺にどの程度残っているかだ、こればっかりは報告書が上がってこないと分からないんだが」

 

少なくとも先に到着したKGBの衛星画像分析ではBETAの残り戦力は1個軍もないらしい。

 

各所で押し込まれ、組織的な抵抗が出来ない以上残りのBETAは各個撃破され、全滅するのがオチだ。

 

領土奪還という点では既に大手が掛かっている。

 

問題はハイヴだ。

 

BETAのハイヴは未だ謎が多い。

 

もしかしたらあの中にまだ1個軍程度のBETAが残っているかも知れないし、何かしら攻撃に出るかも知れない。

 

BETAは未だ未知の存在である為、対応も慎重であった。

 

だから信じられるものを全てぶつけて破壊する必要がある。

 

「総司令官より攻撃衛星軍へ、直ちに全軌道衛星兵器を起動せよ。目標はリヴォフ・ハイヴ周辺の光線属種、出力を調整し一掃せよ」

 

上級大将の指令は簡潔であり、軌道上の第1親衛攻撃衛星軍は速やかに3基の”ポーリュス”を準備した。

 

それに合わせて戦略核の軌道爆撃投下を行う第2攻撃衛星軍、第5攻撃衛星軍は戦略核の準備を開始した。

 

その間に第43ロケット軍も攻撃準備に入った。

 

『全基、エネルギーチャージ完了しました』

 

「では直ちに発射せよ」

 

カラシィ上級大将は攻撃命令を出した。

 

軌道上に展開した”ポーリュス1”、”ポーリュス2”、”ポーリュス3”から出力を半分以下に抑えたレーザーを地上に向けて発射した。

 

異様な黒紫色のレーザーが地上にいる光線属種を吹き飛ばした。

 

禍々しいレーザーは重光線級も光線級も、その辺を歩いていた要塞級も全て巻き込んで跡形も残さず吹き飛ばす。

 

その様子は偵察衛星のリアルタイム画像から大本営にも伝わった。

 

「ハイヴ周辺のBETA、80%以上が掃討されました」

 

「”ポーリュス”攻撃続行中。後30秒後に攻撃を停止します」

 

「第2、第5攻撃衛星軍、第1親衛攻撃衛星軍のレーザー照射終了と同時に戦略核を投下せよ」

 

30秒後、”ポーリュス”は静かに照射を停止し、続いて戦略核が地上に向けて投下された。

 

もう周辺にBETAの対空網は残っておらず、ほぼ裸も同然のハイヴに戦略核が放たれた。

 

念の為に用意されていた一射目と二射目は全てハイヴに直撃し、ハイヴの上部構造を吹き飛ばすと同時に内部にもその熱量を叩き込んだ。

 

内部に残っていた僅かなBETAも焼かれ、甚大な被害が及んだ。

 

それでもまだ最奥の頭脳級は無事である。

 

「宇宙軍の集中核投入は終了しました」

 

「まだ第43ロケット軍が待機中です。ご命令があればいつでも発射出来ますが」

 

「出し惜しむな、可能な限りの火力を投入しろ」

 

ブレジネフの決断は早かった。

 

すぐにクレムリンの大本営から第43ロケット軍に攻撃命令が出た。

 

第33親衛ロケット軍と同じくRDS-10“ピオネール”を備えたニェデェーリン大将の軍は即座にその火力をリヴォフ・ハイヴに向けて解き放つ。

 

再びハイヴが戦略核の熱量と衝撃に襲われる。

 

既に上層の構造物は跡形もなくなり、地表に近い部分は壊滅状態に陥った。

 

これで第二段階も成功した。

 

後は直接足で踏んでハイヴを陥落させるだけ。

 

人類史上初、BETAのハイヴ内に乗り込む第三段階が始まろうとしていた。

 

 

つづくかも

*1
しょくぅん!!かねぇてより憂慮してきたぁ事態がぁいよいよやってきたぁ!!

*2
ちくしょうめ!




今回冒頭のシーンはこないだNHK BSで長い日を見たせいです(断言)
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