マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
道が開ける時、それはとても素晴らしい
我らが空に献身する、どの一瞬にも
故郷の地は感謝を欠かさない
-”翼の職務”より抜粋-
チェンストホバ飛行場、ここには幾つかのポーランド人民空軍の部隊とソ連空軍の部隊が駐屯している。
元々戦線がチェコスロバキアに移る前までは第306独立親衛戦闘航空連隊の基地もここにあった。
所謂仮設飛行場だが1982年頃から整備が行われ、今では大型の輸送機も離着陸が可能である。
ベルリン・ハイヴの大攻勢によってフレツロフ中佐ら第306独立親衛戦闘航空連隊も再びチェンストホバ飛行場に戻ってきた。
整備兵や衛士らが近くの兵舎で寝泊まりし、戦いに備えて身体を休めていた。
丁度連隊所属の27機全機の修理が完了し、いつでも出撃出来ると第306独立親衛戦闘航空連隊所属の技術支援大隊長、ヴァレリー・アパナシェフ少佐がフレツロフ中佐に報告した時である。
彼もグリノフ大尉と同じくダウガフピルス防空軍高等軍事航空技術学校出身で、グリノフ大尉より2、3期ほど先輩であった。
司令部には状況を確認する為にフレツロフ中佐とメデツィーニン少佐の他にデルーギン少佐も待機していた。
3人は他の通信関係の将兵や幕僚連中と共に地図を見ながら状況を確認し、次に出撃する地点を予測していた。
すると飛行場司令部の通信士官が突如声を荒げ、通信先の相手に聞き直した。
「何があった」
飛行場司令部はソ連軍とポーランド人民軍の共有で管理されており、この時の司令官はポーランド人民空軍の大佐であった。
大佐の発言に対してポーランド人民空軍の中尉はまずポーランド語で報告を行った。
言語体系が似ているとはいえフレツロフ中佐はポーランド語を全く知らない、彼がリヴォフ辺りの生まれだったらもう少し分かっただろうが彼の生まれは反対側のハリコフである。
その為実はフレツロフ中佐もウクライナ語は話せる、尤もソ連で生きていると全く使う機会がないのだが。
「ええと、何事ですか?」
フレツロフ中佐がポーランド人民空軍の大佐に尋ねると大佐はロシア語を用いて彼らに説明した。
「先ほど大型光線級が出現して前線地域に拡散レーザーを発射し、前線の地上部隊がアメリカ陸軍共々甚大な被害を被ったらしい。それで第1ウクライナ前線司令部が周辺の全航空部隊にその大型光線級を討伐せよと言ってきた」
3人は顔を見合わせた。
するとすぐに第306独立親衛戦闘航空連隊側の通信士がフレツロフ中佐を呼び止めた。
フレツロフ中佐が通信に出ると受話器の向こうには直属の司令官であるヤゾフの声が聞こえた。
『同志フレツロフ、困難な任務を与える。恐らく聞いているとは思うが大型光線級が出現した。これの討伐に参加して欲しい』
「はい、ですが具体的には」
『そっちに試作機の大型爆撃戦術機がいるだろう、それを使う』
「大型爆撃戦術機?」
初めて聞く戦術機の機種であった、攻撃機的な戦術機はいても爆撃機的な戦術機はそうはいない。
しかしフレツロフ中佐には1つ心当たりがあった、3、4日前にチェンストホバ飛行場に帰投した際目撃した大型航空機らしき機体。
もしかしてあれがという前にヤゾフから説明が入った。
『そちらにいるミリューキン少将が作戦立案を行う、君達も参加するんだ。頼んだぞ』
「はい」
そういうと通信が切れ、フレツロフ中佐は周りの将校達と顔を見合わせて命令を出した。
「直ちにすべての幕僚要員と指揮官を集めろ、パイロット達は全員戦闘態勢のまま待機、我々はすぐにミリューキン少将と合流して作戦立案に参加する」
「了解」
「了解」
「とんでもないことになってきたぞ……」
フレツロフ中佐の予感は当たっていた、恐らくハイヴに突入するのと同じくらい危険な任務が彼らに与えられようとしている。
ヴァディム・ミリューキン少将と合流すると少将はフレツロフ中佐らに衛士強化装備に着替えるよう命じ、作戦の立案はMiG-29が駐機してある格納庫で行われた。
既に大まかな作戦は第17航空軍司令部が考えていたようで第306独立親衛戦闘航空連隊らはより戦術的な話し合いを行なっていた。
大まかな流れとしては複数の戦術機部隊と地上部隊による陽動で周辺のBETAを引き剥がし、核弾頭を搭載した戦術機部隊がその間に接近して攻撃を行い、本丸の超重光線級を仕留めるという流れである。
前線の第3親衛戦車軍、第4親衛戦車軍の前衛は壊滅状態ではあるがまだ第1親衛軍と第4軍が残っている。
今回の戦いにはNATO軍も参戦するようで第4連合戦術空軍の部隊が近くに結集しつつあった。
NATO、WTO双方の戦術機を持って光線属種と戦術機級の壁を破り、その間に爆撃機を投入して超重光線級を仕留める、その爆撃機を護衛する任務をフレツロフ中佐の連隊は与えられた。
「我々に与えられた任務は爆撃機の護衛だ、大型の光線級を守っている戦術機級や光線級を撃破し安全地帯を切り開く」
「しかし隊長、周辺にはかなりの数のBETAがいますよ。これを突破して爆撃機を守り通すのは難しいのではないでしょうか?」
連隊の衛士であるシュペーギン大尉がフレツロフ中佐に尋ねた。
「既に囮として他の戦術機部隊が戦力を引き付けてくれている。数にもよるが我々が戦う戦力はそう多くないはずだ」
これはあくまで希望的観測である、フレツロフ中佐だって内心はどうせとんでもない数のBETAがいるんだろうと予測していた。
それでも行けと言われたら行くしかないし、死んでこいと言われれば死ぬしかない。
軍人としてソ連と人民に対して忠誠を宣誓し、給料を貰っている以上避けられないことだ。
個人としては嫌でも軍人としてはやるしかないことがある。
「じゃあいいか?爆撃機を突っ込ませると言ってもTu-22M2やTu-95MSじゃあ護衛は無理だ。かといってSu-24やらでは火力が足りん、何を使うんだ?」
オルゼルスキー少佐が冷静に尋ねた、今日はまだウォッカを飲んでいない様子だった。
「それに関しては、この方から説明を行なってもらう」
そう言ってフレツロフ中佐はあるソ連空軍少将に話題を振った。
そこには将官の制帽を被り、衛士強化服の上にフライトジャケットとズボンを着ていた1人の男が立っていた。
ウラジーミル・イリューシン少将、ソ連航空界隈で名を馳せたテストパイロットである。
「私とアルフョーロフ君が操縦するT-4について話そう。T-4は試作機だが可変型の大型戦術機であり、戦術機レベルの低空侵入と戦闘が可能だ。故に諸君ら第306連隊にも追随出来る」
可変機ということに驚いていた衛士らであったがここは素直に受け入れた。
「戦闘前に変形して後方から続き、周辺の敵が掃討出来たら大型光線級に向けてKh-22Nを叩き込む。あれを一撃で黙らせるにはこれしかない」
「どの道T-4を堕とされてはこの作戦は成り立たない、みんなの命を使ってでもT-4を守り抜く、いいな」
そこに反対はなかった、皆が黙ってフレツロフ中佐の言葉を受け入れた。
死ぬかも知れない、だが自分だけは生き残れるかも知れない、もしかしたらみんなで生きて帰れるかも知れない。
絶望の中でも存在しなくても希望というのは光り輝いていた。
「それに我々は何度もハイヴに突入して生き延びてきた、経験と仲間と自分の腕を信じて戦おう。我々が祖国の希望だ」
ブリツェンスキー少佐は即座にフレツロフ中佐の発言に言葉を付け加え、希望の側面を増長させた。
少佐だって内心無茶を言っていることは理解している、それでも現実をただ突きつけるよりは理想を演じて見せた方がいい時があるのだ。
「時間はそうない、出撃だ」
張り詰めた空気が弾け飛んだかのように格納庫が慌ただしく忙しくなった。
衛士達はヘッドセットを装着し、フライトジャケットのチャックを閉めると自機に向かって走った。
整備士達は各機の最終チェックを行う、燃料の有無や武器弾薬の搭載量、そもそも機体の駆動系統のチェックなど整備士達の職務は重大かつ多岐に渡る。
機体のコンディションを整備士から聞き、衛士達は戦術機のコックピットに座り込む。
システムを起動し、機体の炉に火をつけると格納庫に並ぶMiG-29の瞳が一斉に輝いた。
フレツロフ中佐もMiG-29に乗り込むと全てのシステムを起動し、機体の状態を確認する。
切断された左手は整備士達の努力によって復活し、問題なく稼働している。
「メデツィーニン少佐が新しいパーツを持ってきてくれたおかげですよ、前より機体の調子は絶対に良くなってます」
グリノフ大尉が出撃の前に声をかけ、フレツロフ中佐は微笑を浮かべた。
「ありがとう、次も頼むよ」
「無茶して仕事増やさないでくださいよ」
大尉は軽く敬礼を送り、即座にMig-29から離れた。
コックピットを閉めてモニターを起動するとフレツロフ中佐は仕方なしに乗せている相方にも声をかけた。
「……無茶な任務に駆り出されたよ全く」
”だがやらなければならない、それが軍人だと私は認識している”
「お前みたいに機械的に任務に没頭出来たら幸せだろうな」
”幸せとはなんだ、結局定義次第と認識している”
「哲学は苦手か、そんな気がするよ」
”私の専門は軍事、無人機操作だ。いずれ哲学に向いた機種も出るだろう”
「人の心がデータで測れたら楽だろうね」
ほぼ博打に近い出撃でフレツロフ中佐も相当参っているのかモースク1と話す回数が今までより増えていた。
その間に連隊所属のMiG-29は格納庫の扉から近いうちに滑走路に入って空へと飛び立っていった。
やがてフレツロフ中佐の番も訪れた、後方にはブリツェンスキー少佐のMiG-29とルヴィロヴァ大尉のMiG-29が続いている。
「離陸と同時に突入隊形に入る、後続のT-4を護衛するぞ」
『了解』
『了解』
「306001、ヴィクトル・フレツロフ出るぞ!」
ペダルを踏み込みMiG-29は空高く飛翔した。
その後に部下の機体が続き、司令部のコントロールによって事故が起こることなく安定して出撃が完了した。
彼らの後方には見慣れない大型の爆撃機に近い見た目をした戦術機が滑走路に出てきていた。
「機体の状況は良好、後はやってみるしかないな」
T-4を操縦するイリューシン少将は操縦桿を握りながら少し自嘲気味に述べた。
「ですな、上手くいけば次世代の爆撃機はこいつになります」
テストパイロットの1人であるニコライ・アルフョーロフは野心的な笑みでイリューシン少将に呟いた。
T-4、元を辿れば1972年にスホーイ設計局が通常の超音速爆撃機として開発を進めていた機体であり1973年のBETA大戦から開発は止まっていた。
そんなT-4であったが戦術機が出現すると一気にその様相を変えた。
大型戦術機という新しいコンセプトと、戦術機とジェット戦闘機の融合、つまり次世代型戦術機の開発というコンセプトが組み合わさった機体となった。
T-4は爆撃機の要素を持ちつつ、変形して戦術機にも移行可能という特殊な能力を保有している。
つまり前線地帯まで超音速で接近し、地表付近で戦術機形態に変形して爆撃が可能であるし、ハイヴに突入して大火力で友軍を支援することも出来る。
本来開発が中止するはずの1976年以降も開発は続いていたのだが、結局難航して試作機止まりであった。
その試作機がイリューシン少将が操縦するこのT-4であり、副操縦士はこのアルフョーロフが務めていた。
T-4は操縦士と副操縦士、そして兵装の管理に1名と航法士官が1名の計4名で運用されている。
通常の武装に加えてTu-22M2やTu-95MSのような爆撃機が搭載する弾頭も同じように搭載可能であった。
故に超重光線級にも届きうると目された機体であり、この戦争における1つの鍵であった。
「306401、イリューシン、離陸する」
滑走路をまるで大型の航空機が駆けていくかのようにT-4はジェットエンジンの噴射と共に空へ飛んだ。
風を切り、先んじて空を飛ぶMiG-29に追随する。
その様子を地上の航空管制官や司令部の幕僚要員、整備士達は敬礼し、或いは手を振って衛士達を見送った。
「頼んだぞ、私も後から行く」
メデツィーニン少佐も敬礼してフレツロフ中佐ら戦友の出撃を勝利と生存の願いを込めて送り出した。
MiG-29は飛ぶ、英雄達の機体として、青い空を駆けながら。
前線では大打撃を受けた2個親衛戦車軍を回収しつつ後方に移しつつ、その後退援護を第1親衛軍と第4軍が担っていた。
待機していた第24軍も動員されて戦線に合流し、西進を続けていた第5親衛戦車軍と第9親衛軍は一部が警戒しつつ、北部へ転身していた。
後退する戦車軍の追撃は通常部隊に任せ、BETA側の超重光線級護衛部隊は殆ど動かずにいた。
一応戦術機級が何体か前進して機動防御を行っているが光線属種に関しては殆ど動きを見せていない。
それは超重光線級も同じであった、レーザー照射から暫く放熱を行うだけで地中に潜ろうとも再びレーザーを撃とうともしていない。
これには理由があった、まず第一に超重光線級のフルパワー照射を行うと冷却が必要である、前回の照射時は緊急事態であった為連続してフルパワー照射を行い破損した。
同時にエネルギーチャージも必要である、前回二連続でフルパワー射撃を行えたのにはベルリン・ハイヴからの直接エネルギー供給があったからだ。
本来超重光線級は個別に反応炉を有しており、膨大なエネルギーを頭脳級に頼らずに自活している。
されどあの時はどうしてもエネルギーが足りぬ為近場のベルリン・ハイヴからエネルギーを供給され、二射目を撃った。
今回は即座に二撃目を撃つ必要がない為冷却しつつエネルギーを貯めて地下から陣地転換を行い、別地点にレーザーを照射する予定であった。
故に暫くのうちは現在の地点から離れられない、ソ連軍にとってはいつレーザーが撃たれるか分からないが千載一遇のチャンスであった。
「撃て!!」
前線地帯のBM-21グラードや2S3アカーツィヤが一斉に砲撃を始め、辺りは砲声に包まれた。
BM-21の弾頭はものによっては30キロメートルの射程距離を有しており、152mm榴弾砲もロケット推進を使えば24キロほど飛ぶ。
可能な限り距離を取って初動の陽動砲撃を叩き込み、その後後方のBM-27ウラガーンやBM-30スメルチが砲撃を開始した。
各弾頭大凡35キロほどの飛距離を持つウラガーンの砲撃が後から続き、その後から第三撃としてスメルチのロケット弾が発射された。
その上でソ連宇宙軍による軌道爆撃も降り注ぐ。
何発かアメリカ宇宙軍から借りてきたデブリ弾と戦術核を同時に発射することによって打撃に用いた。
周辺に展開する光線級は即座にレーザーを発射してまず初動の砲撃を全て叩き落とした。
超重光線級が引き連れてきた光線級は基本通常種の光線級である、1発30秒近いリチャージ時間が必要である重光線級よりも10秒に1発撃てる光線級を数揃えることが必要と判断した為だ。
護衛の光線級のレーザーによって初弾は殆ど叩き落とされ、その間に次弾が叩き込まれた。
ウラガーンのクラスター弾が炸裂して地上に降り注ごうとするが超重光線級が展開するラザフォード場が展開し、上空で全てのクラスター弾を防いだ。
同様にスメルチの弾頭もラザフォード場で防ぎ、軌道上からの爆撃はリチャージが完了した光線級が迎撃した。
ラザフォード場に干渉するデブリ弾を消失させ、何発かの戦術核弾頭もレーザーとラザフォード場によって防がれた。
爆発は地上に降り掛からず、爆炎は上空から周囲に衝撃波と共に展開した。
「よし!今だ!」
地上に伏せていた何十機かのソ連空軍及び防空軍戦術機が一斉に立ち上がって超低空を飛行しながら超重光線級の側に接近した。
「各機、まず防空軍機が戦術機タイプのBETAを抑える!その間に空軍機が回り込んで光線級の数を減らせ!」
『了解!』
Su-27のコックピットからベレンコ大佐は部下達に命令を出した。
前面にはレーザーを発射しながら突っ込んでくる数体の戦術機級と騎兵型の姿が見える。
戦術機級は突進する騎兵型を援護しつつ自身も近接戦闘態勢の構えを用意しており、騎兵型は真っ直ぐ突っ込んで行った。
「連中の足を止める!」
ターゲティングシステムで騎兵型を狙い、ロックオンすると機体に取り付けていたKh-31空対艦ミサイルを発射した。
本来海軍機のものでありましてや防空軍が装備するなどお門違いな代物であるが、猛威を振るう戦術機級対処の為に陸上げされ、Su-27や他の戦術機級との戦闘を想定した機体に配備した。
ベレンコ大佐のSu-27は2発のKh-27を発射し、彼の周辺にいるsU-27も同様にKh-31を発射した。
ミサイルを感知した騎兵型戦術機級はシールドを構えてレーザー弾幕を展開し、受け止めながら弾く態勢を取った。
しかしKh-31の衝撃を受け止め切れず、たった一撃でシールドを粉砕し二射目のKh-31が騎兵型に直撃してそのまま衝撃力を叩き込んで撃破した。
別の騎兵型はKh-31の直撃を喰らってシールドを破壊された直後に152mm無反動砲を担いだMiG-25PDSが砲撃を叩き込んで仕留めた。
「よし!!いいぞ!!」
数体が仕留められ、戦線に穴が空いたところをベレンコ大佐ら一部のSu-27が突っ込んでいった。
十字砲火も弱回り、騎兵の隊列としては大分突撃力が落ちており対処出来る状態にあった。
レーザーの合間を抜けたベレンコ大佐のSu-27は長刀に持ち替えてランスの突きを回避し、騎兵型の左腕を切り落とした。
そのまま左手に持っていた突撃砲を騎兵型の脇部分に突きつけ、ゼロ距離射撃で120mm弾を撃った。
発射と同時に即座に離れて撃破する光景を見届けることなくベレンコ大佐は次の次の目標に狙いを定めた。
別の騎兵型は既に友軍機のSu-27が陽動に入っており、それを背後から狙えば打ち倒せた。
しかしBETAも友軍援護の為に戦術機級が前に出てベレンコ大佐の動きを阻もうとする。
『大佐!』
『ここは我らが!』
後方からMiG-25PDSとSu-27が援護に入り、接近する戦術機級を阻止した。
何機かは撃墜されていたが時間稼ぎにはなっている。
「助かる!」
即座に戦闘を抜けてKh-31を1発、騎兵型の背中に叩き込んで胴体部分を吹き飛ばした。
「よし、次!」
ベレンコ大佐らが命をかけて戦術機級を抑えている頃、空軍のSu-24やSu-25が光線属種の掃討に乗り出していた。
護衛はMiG-29やMiG-27、MiG-23が務め、残っていた何体かの戦術機級と交戦していた。
光線級は上空の迎撃に殆どが駆り出されており、そうではない個体もほぼリチャージ中であった。
そこへ限界まで接近したSu-25が搭載している大量のS-5ロケット弾とKAB-500Lを叩き込んだ。
ロケット弾は前衛の光線級を吹き飛ばし、KAB-500Lは一気に纏めて大量の光線級を吹き飛ばした。
無論生き残りの光線級によって何機かのSu-25が撃墜されたが想定の範囲内である。
即座に護衛の戦術機を撃破した戦術機級が守りに入るがその時にはもう既に手遅れな段階まで来ていた。
何機かのSu-24が大量のロケット弾と爆弾を投下して更に多くの光線級を狩り、守りのBETAを殲滅していた。
無論これではまずいとBETA側も通常手の突撃級や要撃級を回して側面から攻撃させた。
しかし最前線に展開していた第3親衛戦車軍の一部が臨時の集成戦闘団を編成することにより組織的に戦術機部隊を支援出来るようになっていた。
これは単に第3、第4親衛戦車軍の組織力の高さである、損害を確認したイヴァノフ上級大将とローシク元帥はダメージを受けた前衛を回収すると同時に、生き残りの戦車部隊をかき集めて前線へ送り出した。
それだけではなく、即座に第4軍や第1親衛軍の戦車部隊が到着し、BMP-2やツングースカらと共に戦術機部隊を援護した。
T-72Bらが125mm滑空砲を放ち、突撃級を砕いてツングースカやシルカが機関砲で後続のBETAを殲滅する。
無論襲来する戦術機級の脅威は地上部隊にも振りまけられたが、空軍と防空軍の戦術機部隊が決死の覚悟で食い止めた。
「光線級はどの程度減ったか!?」
『まだ全体の2割です!護衛のBETA戦術機が厄介で突破が難しい状況です!』
「このままじゃあ我らも持たんぞ!せめてフレツロフ隊が到着するまでに4割は削り切りたいが……」
とはいっても弾薬の問題もある、現状戦術機級に有効打を与えられるKh-31もかなりの数を撃った、部下が持ってきた152mm弾だっていずれは底をつく。
単純に食い止めて足を止めるだけなら出来るが数が減らなければ結局負担が変わらない為、持久戦になれば必ず負ける。
地上部隊との共闘で数を減らすにしてもあちらも通常種との戦闘で手一杯であった。
すると部下のMiG-25PDSから報告が入った。
『大佐、増援です!NATO軍所属機コットプス方面より接近中!』
「なんだと!?」
『我々を忘れてもらっては困るな!』
戦闘地域の左側面から一斉に放たれたAGM-65マーヴェリックが騎兵型や戦術機級に直撃し、そちらに注意が向いた。
『NATO第4連合戦術空軍、ソ連空軍の支援に入る!各機戦闘開始!』
何十機ものF-15とF-16が低空侵入し、戦術機級との交戦に突入した。
その中にはフレツロフ中佐らと共にウィーン・ハイヴに突入したヤコブ・ヴィシコフ中佐もいた。
数発のマーヴェリック同時発射でシールドにダメージを与え、最後にヴィシコフ中佐が120mm弾を2発同時に叩き込むとシールドは砕かれた。
「今だ!」
155mm無反動砲持ちのF-16が2機同時に砲弾を叩き込み、戦術機級を撃破する。
他の地点でも1、2機が囮を務めつつ防御を崩し、その間に大火力持ちの戦術機が火力を投射して戦術機級を撃破するという手法を取っていた。
無論完全にうまくいく訳ではない、場合によっては囮の戦術機を撃破され、残りも仕留められてしまう可能性もある。
なおこの時点で囮としての役割は果たしていた、その間にA-10や一部F-16らが側面攻撃に備えていた。
何度目かの砲撃と通常弾頭とデブリ弾を混ぜ合わせた砲撃の後、NATO空軍の攻撃機部隊は動き出した。
低空をA-10が飛行し、防空任務中の光線級に向けてペイブウェイⅢのGBU-27を叩き込んだ。
爆発に巻き込まれて数体の光線級が一気に死滅し、F-16から放たれるAIM-9Lサイドワインダーが光線級をピンポイントで仕留めていった。
BETA大戦における空対空ミサイルの使い方とは本来これであった、赤外線かレーダーホーミングで光線級を探知してピンポイントで仕留める。
空対空ミサイルの速度であれば光線級が狙いを定め、発射するよりも早く目標に命中する。
しかも光線級であれば空対空ミサイルの殺傷能力でも仕留め切れる為、対光線級掃討のスマートな方法として空対空ミサイルは用いられていた。
その為スパローもサイドワインダーも順当に進化を重ねていたのだ、斯衛の変での運用は原点回帰とも言えるがBETA大戦という観点からすれば本来の使い方ではない。
今も放たれたスパローが光線級が発砲する前に直撃し、爆散している。
距離の問題で流石にアメリカ陸軍が出てくることはなかったが、空軍戦力だけでも十分な打撃を与えていた。
「光線属種掃討隊には近づけさせるな!連中の戦術機はこっちで抑える!」
戦術機級の長刀と触手の攻撃を躱しながらヴィシコフ中佐は部下達に命令を出した。
彼の部下のF-15はヴィシコフ中佐が戦術機級を引き付けているうちに背後に複数箇所にマーヴェリックを打ち込んで装甲を剥がし、トドメの120mm弾を叩き込んで仕留めた。
「いいぞ!さて、あとどれくらい持つか…!」
増援に来た彼らとて限界があるのは事実である。
長期戦は彼らにとっても望ましくない、出来れば速やかに切り上げたい。
初動の作戦は損害を受けながらも予定通りに進んでいた。
フレツロフ中佐率いる第306独立親衛戦闘航空連隊はチェンストホバ飛行場から飛び立ち、戦闘地域へ向かった。
丁度戦闘地域突入10分前となると連隊の後方にいるT-4は変形を開始した。
『306401から306001へ、機体状況を変更する』
「了解、各機一旦速力を落とせ」
イリューシン少将からの報告を受けて連隊はT-4に速度を合わせた。
T-4は滞空しつつ機体の変形を開始した。
大型爆撃機に近しい形状であったT-4が徐々に手足と頭が現れ、数十秒経つと完全に戦術機の体型になった。
『おおう……マジか』
『デカすぎんだろ……』
部下達も変形を終えたT-4の姿を見て言葉を失った、余りに今まで見た戦術機の形態と違う存在だからだ。
T-4は元より大型の戦術機である、その全長は30メートル代であり、並みの戦術機と比較すると大人と子どもくらいのサイズ差があった。
その為通常の武装、例えば突撃砲などは手に持たずに腕に取り付けている。
カラーリング的にはMiG-29に近い色合いであるが見た目は当然ながら違う。
特に顔に関してはSu-27の面影を感じつつ複数のカメラアイがある所謂複眼の要素を取り入れており、他者を威圧する姿をしていた。
Kh-29空対地ミサイルや幾つかのロケットポッドと152mm砲を搭載し、対超重光線級用にKh-22N空対艦ミサイルを装備している、これを用いれば超重光線級は撃破出来るだろうというのが司令部の予測であった。
変形したT-4は今まで通りMiG-29の後ろに付いて飛行し続けた、相対的に小さなMiG-29の後ろに巨大なT-4が付いてきているというのは中々に目を見張る光景だ。
「あれが可変型か」
”いずれ通常の戦闘機も全てこうなる、航空機と戦術機の融合が未来だ”
「それは願ったりだね、ジェット戦闘機に俺だってもう一度乗りたい」
フレツロフ中佐からしてみればやはり乗りたいのは戦術機ではなくジェット戦闘機である、昔乗っていたMiG-19が懐かしい。
無論未来のことを考えている暇はない、指揮官としてやるべきことを果たす。
「メデツィーニン、先発の状況はどうだ」
『光線級の掃討には成功してる、損害はデカいが……到着する頃には突入可能レベルまで減っているはずだ』
「それは良い知らせ、各機突入隊形に変更。光線級及びBETA戦術機と交戦しつつ、大型光線級のシールド発生装置を探し、見つかれば破壊する!」
フレツロフ中佐は部下に命令を出し、自身も戦闘モードに移行した。
右手には125mm対物砲、左手には牽制用の突撃砲を備えており、他にはS-8ロケット砲とKh-31空対艦ミサイルを装備していた。
他のMiG-29も光線級や戦術機級と戦うことを想定して125mmや152mm無反動砲に加えて火炎放射器やKh-31も搭載していた、これでようやく戦術機級の装甲に太刀打ち出来る。
『間も無く戦闘地域です』
「まずはオルゼルスキー隊から突入しろ、デルーギン隊は次、その後に我々だ」
『了解!』
『了解…!』
編隊の右翼に展開していたMiG-29の飛行中隊が先行し、手持ちの125mm対物砲や152mm無反動砲を構える。
次鋒のデルーギン少佐率いる飛行中隊は対光線級を備えてメイン装備を突撃砲にし、或いは57mm砲を構えて後に続いた。
「イリューシン少将、間も無く戦闘に入ります」
『了解、こっちは露払いが終わったら突っ込む。火力援護は任せてくれ』
「期待してますよ…!」
正直フレツロフ中佐としてはイリューシン少将と戦えて内心は嬉しかった、Su-27の最終テストにも携わった伝説のテストパイロットと共に戦えるのだ、パイロットとして光栄である。
しかし生存率はかなり低く、尚且つ軍の存亡をかけた決戦で憧れと会えて喜んでいる暇はない。
レーダーにBETAの反応と友軍機の機種反応を確認し、いよいよであることを悟った。
「こちら第306連隊フレツロフ中佐、間も無く戦闘に合流する」
『306だ!爆撃機が来たぞ!』
『全機!!後少しだ、もう少しで光線級を始末出来るぞ!』
通信先から衛士達の喜びの声が聞こえ、政治将校らは友軍を鼓舞していた。
既に戦闘地域にはNATO、WTO双方の戦術機が混じり合っていた、ドイツ連邦空軍からトーネードIDSやフランス空軍のミラージュ2000も飛んできていたし、WTO軍からはポーランド人民空軍のMiG-29とMiG-23やチェコスロバキア人民空軍のMiG-23とMiG-21も加勢していた。
まずはここに加勢せねばならない。
「全隊、戦闘開始!」
先行したオルゼルスキー少佐の飛行中隊が戦闘中の戦術機級に向けて砲弾を叩き込んだ。
シールドで防げた者、自前の装甲で防いだ者、或いは防げなかった者など千差万別であったが良い切り出しであった。
一部は装甲を貫通して戦術機級に直撃を喰らわせ、そうでなくても陽動の一撃として十分な効力を発揮していた。
その間に地上で戦闘中であったSu-27やMiG-25PDS、MiG-23MLDらが背後に回って火力を叩き込み、戦術機級を撃破した。
これにより道が開け、デルーギン少佐の飛行中隊とフレツロフ中佐の本部隊が突破に成功した。
突破した部隊を追撃せんと戦術機級は何体かが反転しようとしていたが、オルゼルスキー少佐らに抑え込まれていた。
『お前達の敵はこっちだよ!』
2機のMiG-29が引き付けている間にオルゼルスキー少佐が120mm弾を戦術機級の顔面に叩き込んで視界を奪い、注意を引き付けた。
相手の視界が悪いうちにオルゼルスキー少佐は一気に接近し、戦術機級の長刀とシールドの斬撃を躱すと左手に持っていた125mm対物砲をゼロ距離で2発撃ち込んで仕留めた。
『少佐新手です!』
即座にレーザーが数発叩き込まれ、オルゼルスキー少佐と部下のMiG-29らは回避機動に入った。
通常の戦術機級が2機、オルゼルスキー少佐は回避中に落ちていた戦術機級の盾を手にし、これでレーザーを凌ごうとした。
しかし1発であればシールドはレーザーに耐えられても、2、3発喰らうと分厚い装甲が溶解し始めた。
『オイオイ……これでも防げねえのかよ……』
即座にシールドを捨ててオルゼルスキー少佐はシールドの右側から身を乗り出し、同じタイミングで部下のMiG-29が反対側から姿を現し、二方向から相手を撹乱した。
2体いた戦術機級は二方向に分かれて片方はオルゼルスキー少佐を、もう1体は部下のMiG-29を追いかけた。
レーザーの弾幕射撃を行いつつ戦術機級は触手を出して二通りの攻撃でオルゼルスキー少佐を追い詰めた。
『チッ、厄介だな』
『そこの29!援護する!』
オルゼルスキー少佐の助けに入ったのはアメリカ空軍のF-15、ヴィシコフ中佐が操縦する機体だった。
部下のF-15は二方向に分かれて戦術機級を挟み込み、真正面からヴィシコフ中佐はBETAを強襲した。
機体のブレーキをかけることなくギリギリのところまで接近してマーヴェリックを2発発射し即座に戦術機級の射線から外れる。
その間に部下のF-15は背後からマーヴェリックを叩き込んだ、放たれた空対地ミサイルは1発目が敵機の装甲を破り、2発目が肉体に直接ダメージを与えた。
2発のマーヴェリックの直撃を受けた戦術機級は見事に爆ぜ、肉塊が周囲に飛び散った。
『助かった』
『パイロットは助け合いだろう』
その間にオルゼルスキー少佐の部下は片方が戦術機級を引き付け、もう片方が背後から致命打を与えようとしていた。
戦術機級が発射する触手をMiG-29の長刀が切り落とし、煙幕弾を放って相手の射線を切る。
別のMiG-29は戦術機級の背後に回り込み、手持ちの125mm砲と120mm弾を放った。
まず1発目が腕部の装甲を破壊し、2発目の120mm弾が腕を構成するBETAの肉体を吹き飛ばして切断した。
これにより戦術機級の右腕が破壊され長刀を持っていた右手はそのまま地面に突き刺さったまま動かなくなった。
だがこれにより戦術機級の意識は攻撃を担当していたMiG-29に移り、そのまま残っている左腕を向けてレーザーを放とうとした。
『まずっ!』
回避は間に合いそうになかった、その衛士は死を覚悟したがもう片方の注意を忘れていたのが問題であった。
『貰ったッ!!』
煙幕を切り裂き、MiG-29の刃が戦術機級の首を切り落とした。
丁度非装甲部に刃が当たり、見事に刃がBETAの肉を切り裂いたのだ。
これによって頭部を失った戦術機級は一時的に動揺した、どちらを襲撃するべきか迷ったのだ。
その間に立て直した2機のMiG-29が火力を叩き込み、戦術機級を仕留めた。
2対1、これでようやく勝てるという塩梅だ。
しかも地中から何体かの運搬級が出現し、戦車級を吐き出して嫌がらせをしてくる。
『地中からBETA!』
『迎撃しろ、数はそう多くない』
とは言っても戦術機級と地中強襲の戦車級、運搬級だと衛士に掛かる負担が途轍もなく大きい。
そこで司令部は306連隊についていた戦術機を戦闘に投入することにした。
『306401、支援に入る』
イリューシン少将は機体の操縦桿を握り、左に倒しつつこの重たい大型戦術機T-4を動かした。
その間に後ろに座っている兵装管理士官がBETAのターゲットをロックし、手持ちの武装によるフルバースト射撃を叩き込んだ。
両腕に取り付けられた合計4丁の突撃砲と2門のGSh-30-2機関砲が運搬級、戦車級を蹴散らし、肩部の152mm無反動砲と各所に設置されたKh-29、S-25ロケット弾を戦術機級に叩き込んだ。
機関砲と突撃砲の弾幕射撃が出現した戦車級や運搬級、近場にいた要撃級を弾き、放たれた152mm弾やKh-29、S-25が真っ向から戦術機級の装甲を破った。
凄まじい火力の投射によってBETAの地中強襲部隊は壊滅、戦術機級も少なくない数が仕留められた。
『掃討を確認した、一時離脱する』
イリューシン少将は機体を翻し、一旦戦闘地域から離脱した。
戦術機級はT-4を追撃しようとしたが即座にSu-27やMiG-29らが応戦した為、T-4は無傷で戦線から離脱した。
一方、突入に成功したデルーギン少佐の飛行隊とフレツロフ中佐らは超重光線級の周辺で戦っていた。
フレツロフ中佐らが襲来する前に光線級は事前部隊の努力も相まって相当数を排除出来ていた、問題はこれの代わりに戦術機級と超重突撃級が突っ込んできたことだ。
「チッ!埒が開かん!」
『我々が抑えておく、先に行け』
デルーギン少佐は突っ込んできた超重突撃級のレーザーを回避しつつ、横にズレて突進を躱す。
突進を回避された超重突撃級はレーザーで牽制しつつ回り込むようにして自らを反転させ、デルーギン少佐を追撃しようとした。
その瞬間、少佐は超重突撃級の足に向けてS-8ロケット弾を叩き込んだ。
発射されたロケット弾の衝撃によって大地は抉れ、超重突撃級はバランスを崩して横転した。
『今だ!』
横転し、一時的に腹を見せた超重突撃級に対してデルーギン少佐の僚機が強襲を仕掛ける。
超重突撃級は全身を装甲で覆っている、それは腹部も例外ではない。
しかし腹部の装甲は接地面積上どうしても装甲が1枚に限定されており、最も打ち破り易い箇所ではあった。
そこを部下が持っている125mm弾がその貫通力を持って装甲を打ち破り、超重突撃級を仕留めた。
『よし、1体やった!』
『今のうちだ、行けっ!』
「すまん…!」
フレツロフ中佐とルヴィロヴァ大尉、ブリツェンスキー少佐は戦線を離れて飛び出し、追撃されないように地上にいるデルーギン少佐らがしっかり抑えた。
集団で接近してくる超重突撃級に対して何機かのMiG-29がKh-31を叩き込んで仕留め、回避した超重突撃級に対して戦術機級同様に囮と仕留める部隊に分かれて戦闘を行った。
純粋な装甲の密度、強度で言えば超重突撃級の方が戦術機級よりも勝っている。
その為場所によっては125mm砲であっても真っ正面から弾き、傾斜装甲で時には152mm弾も無力化した。
それでも彼ら第306独立親衛戦闘航空連隊は度々戦術機級、超重突撃級と戦ってきた、戦闘の度に戦法を考え、対策を練り、次に活かしてきた。
何度も言うが学習という概念はBETAだけの特権ではない、人であって歩みは少しかもしれないが学んで前に進んでいくのだ。
デルーギン少佐の飛行中隊は厳しい戦いながらも超重光線級に取りつこうとするフレツロフ中佐らに超重突撃級を絶対に近づけなかった。
戦いはいよいよ佳境に移ろうとしている。
戦闘を部下達に任せ、フレツロフ中佐は移動を停止している超重光線級の下へ向かった。
試しに突撃砲の弾丸を放ってみるが超重光線級には全く効果がなかった、全て本体に到達する前に薄い膜のようなもので防がれた。
恐らくこれがBETAが運用しているシールドだろう、超重光線級は自己防衛の為に衛盾級のラザフォード場発生装置を備えていた。
無論このエネルギーは超重光線級が体内に宿している反応炉から賄っている、故に度重なる爆撃によって超重光線級はラザフォード場生成にエネルギーを用いており、チャージに遅れが生じていた。
だが冷却は間もなく終わる、そうなれば地中に潜り別地点に移動すればいいだけの話だ。
フレツロフ中佐は気づいていなかったがそれ程時間はなかったのだ。
「モースク、エネルギーの発生源を探せ」
”了解、エネルギー出力の多い地点を探る”
『フレツロフ、そっちに高速で接近中のBETA戦術機がいる、気を付けろ』
フレツロフ中佐はレーダーを見た、確かにレーダー範囲内に1体の戦術機級と思われる機体が高速で接近していた。
『ルヴィロヴァ大尉、我々で敵機を抑える、いけるか?』
『勿論、少佐の援護に入ります』
「任せた、死ぬなよ」
ブリツェンスキー少佐のMiG-29はハンドサインで別れを告げ、ルヴィロヴァ機と共に迎撃に向かった。
これで戦う者はフレツロフ中佐1人となった、部下や戦友がいないのは心細いがやるしかない。
”発見した、座標を示す”
モースク1は超重光線級に備わっているラザフォード場発生装置を発見した、場所としては超重光線級の背中にある。
フレツロフ中佐は機体を飛ばし、急いで超重光線級の背中に向かった。
無論超重光線級も自身に敵が取り付こうとしていることを知っている、副砲を後方へ回し、弾幕射撃を繰り出した。
「クソッ!」
発射されるレーザーの雨を回避しつつ、なんとか車線から外れようとした。
しかし超重光線級の副砲は思ったよりも射撃地点が広い、必中効果のない弾幕射撃だが通常の光線級よりも圧倒的に厄介だった。
フレツロフ中佐はなるべく超重光線級の肉体に張り付いて飛行した、少しズレると機体とラザフォード場が干渉して悍ましい結果になる。
常に緊張が走っていたが冷静に機体を操縦し、レーザーを回避しながらラザフォード場に触れないようにした。
結果何発かのレーザーがラザフォード場に干渉し、発生装置に負荷を与えた。
そして超重光線級の背後を取り、モースク1が示した発生装置を前にターゲットをロックオンした。
「これでおしまいだ!」
MiG-29から2発のKh-31空対艦ミサイルが発射され、発生装置周辺のラザフォード場と干渉した。
やがて爆散し周囲は黒い煙で覆われる、フレツロフ中佐は確認の為に超重光線級に突撃砲を何発か叩き込んだ。
結果は以前と変わらず、まだ超重光線級にはラザフォード場が張り巡らされていた。
「Kh-31でもダメか!」
”展開されているラザフォード場を破れる質量、或いは同等のコーティングが施された物質が必要だ”
「そんなのどこにあるんだよ!?」
『中佐!気を付けてください!』
ルヴィロヴァ大尉の進言と共に機体の警戒音が鳴り響き、フレツロフ中佐は背後を確認する間もなく回避機動に入った。
回避した瞬間にフレツロフ中佐は敵の様子を見た、4本の腕に4本の脚、騎兵型の戦術機級より少し大きい。
「あれがさっきのやつか!」
改騎兵型ともいうべき戦術機級はそのまま超重光線級の背中に飛び乗り、体勢を整えた。
「ん…?」
フレツロフ中佐は牽制の為に突撃砲を放ったが殆どが装甲で弾かれ、当たらなかった弾はラザフォード場によって消失した。
『あれが増援のBETA戦術機です!』
『こっちは長刀を全部折られた、接近戦は難しい』
それもそのはず、改騎兵型は4本腕全てに長刀とランスを装備し、触手と合わせて武器を飛ばしてくる。
今も触手と接続したランスが真っ直ぐ飛び込んでくる。
即座に攻撃を避けて距離を取り、改騎兵型の様子を探った。
改騎兵型は超重光線級の背中から飛び降りて地上に着地し、フレツロフ中佐らを追撃した。
4本の近接装備を振り回して敵の接近を拒絶し、脚部からレーザーを放って更に嫌がらせをしてきた。
レーザーの回避に専念していると別の腕が持つ長刀が触手と接続して巨大な刃が雑草を刈り取るように飛んできた。
それを上空にジャンプして回避するも今度はランスが射出され、フレツロフ機を確実に仕留めようとした。
「マジかよ!?」
即座に跳躍ユニットを反対に向け、アフターバーナーを全開にして飛んでくるランスの先を何とか回避した。
跳躍ユニットを巧みにコントロールして地表への激突を回避し、低空を飛行しながら手持ちの125mm砲を発射して反撃に出た。
砲弾は振り回されるランスか自前の装甲によって防がれ、全くダメージを負っていない。
だがその間にルヴィロヴァ大尉とブリツェンスキー少佐、更に手すきとなったデル―ギン少佐が攻撃に乗り出した。
『これでも喰らえ!!』
3機はそれぞれKh-31空対艦ミサイルを1発ずつ発射した。
発射された空対艦ミサイルは2本のランスをへし折り、うち2発が本体に直撃した。
『どうだ……?』
ブリツェンスキー少佐の期待とは裏腹に改騎兵型は健在であった、装甲が破れ一部肉体にダメージを負っていたが致命傷ではなかった。
改騎兵型は即座に自身のダメージを認識し、牽制射撃を放ちながら即座に撃破された超重突撃級の死骸の側に寄った。
撃破された超重突撃級に腕を突っ込み、亡骸を使って損傷個所を修復した。
無論その間にもMiG-29らによる火力は叩き込まれていたが残り2本の腕からレーザーを放って迎撃し、多少の砲弾は死骸の装甲で防いだ。
『振り出しに戻されたってか!?』
「だが攻撃は通ることは分かった、問題は……」
フレツロフ中佐は超重光線級の方を見た、攻撃の通らなさでいえばあちらの方が厄介だ。
だが中佐には1つ疑問に思う所があった、先ほど改騎兵型はラザフォード場が展開されている状態でも超重光線級に乗っていた。
BETAはラザフォード場の影響を受けないのか、いやレーザーは弾かれていたから恐らく違う。
となるとあのBETAに秘密がありそうだ。
「モースク1、あのBETA、お前が言うようなコーティングみたいなのが張られているのか?」
頼りたくはなかったがフレツロフ中佐はモースク1を頼った、ここで一番物知りなのはモースク1しかいない。
”ラザフォード場と接触した際に干渉ではなく中和がなされている。ターゲットの全身に中和を成すコーティングが展開されている可能性が高い”
「それだけ分かれば十分だ。各機、落ち着いて聞いてくれ。俺が奴の攻撃を引き付けて槍か剣かのどっちかを奪う、そしたら光線級にもう一度突貫するからその間奴を抑えていろ」
『何か策があるんだな、乗った。全機、手の空いてる奴はこっちに来てくれ!あの四つ足をこっちで抑える!』
『我らの連隊長が起死回生の策を思いついたんだ、これに乗るしかない!勝てるぞ!』
デル―ギン少佐が部下を呼び、ブリツェンスキー少佐が士気を挙げる。
『可能な限り中佐を援護します』
「助かるよ、イリューシン少将、上手く行ったら即座に攻撃を頼みます」
『任せてくれ』
何機か手の空いたMiG-29が襲来し改騎兵型はを取り囲む。
その間にフレツロフ中佐は改騎兵型に向けてロケット弾を放って注意を引き、改騎兵型に接近した。
無論騎兵型はレーザーを放ちつつ目論見通りに長刀を触手と接続して投げつけてきた。
「これを待ってたんだよね!」
突撃砲と125mm砲を捨てたMiG-29が長刀を手にし、触手を途中で叩き切った。
切断された為長刀は途中で地面に突き刺さり、触手の残りから染み出る体液が刃を潤した。
それをフレツロフ中佐のMiG-29は手に取り、触手を引き千切るとそのまま超重光線級に向けて飛び立った。
「重っ!?」
明らかに長刀の質量で機体に負荷が掛かっている、これを何度も振り回していたら人類側の戦術機は即座に腕が壊れるだろう。
だが今回は1回だけでいい、この1回に全てを賭ける。
長刀を奪われた改騎兵型はフレツロフ機を追撃しようとしたが即座に別のMiG-29が空対地ミサイルや砲弾を叩き込んで注意を引き付けた。
『貴様の相手はこっちだよ!』
真っ先にブリツェンスキー少佐が敵機に火力を叩き込み、改騎兵型の攻撃を一手に引き受けた。
その間にフレツロフ中佐は発生装置を目指して再び空を飛んでいた、既にモースク1がレーザーの飛んでこないルートを選定して提示している。
やがて目標地点に到着するとフレツロフ中佐は両手で持つBETAの長刀を構え、アフターバーナーを展開して発生装置に刃を突き付けた。
刃の先端と展開されているラザフォード場が干渉し周囲が歪むものの、ゆっくりと刃がラザフォード場の奥へと突き進んでいた。
ゆっくり、ゆっくりと刃が入り、やがて刃は肉にまでゆっくり達した。
「この一撃にっ!全力をッ!」
肉をゆっくりと裂き、刃が更に奥へ奥へと突き刺さる。
ある段階まで達すると発生装置は破損し、ラザフォード場が展開されなくなった。
ラザフォード場が消えていくと刃は一気に突き刺さり発生装置を完全に破壊した、破壊と同時に全身のラザフォード場が完全に消失した。
一部エネルギータンクに引火したのか発生装置周辺で爆発が発生する。
煙幕の中からフレツロフ機は姿を現し、友軍に合流した。
「イリューシン少将!!」
フレツロフ中佐が叫ぶと彼とバトンタッチするかのようにT-4が戦術機状態のまま姿を現した。
T-4が装備している全てのKh-29空対地ミサイルとS-25ロケット弾、152mm弾を改造騎兵型に叩き込み完全に無力化する。
「一撃で決めるぞ、Kh-22Nを発射する」
「了解…!」
Kh-22Nの安全装置を解除し超重光線級に向けてターゲットロックを行った。
だがここで問題が生じる、超重光線級の主砲がT-4の方向を向き、明らかにレーザーエネルギーをチャージしていた。
「光線級のチャージを確認!間違いなくこっちに撃ってきます!」
「撃たれる前に撃つ!」
最早イリューシン少将は退くつもりはなかった、当たって砕ける、この覚悟で突っ込んでいた。
無論超重光線級の照射準備は他の戦術機らも認識していた、その為125mm弾や152mm弾を発射して主砲を破壊しようとしたが全く通じていない。
『このままじゃあ間に合わないぞ!』
「対艦ミサイルを使う!」
この時点だとKh-31も大多数を戦術機級や超重突撃級に用いていた為各機それほど残弾がなかった。
だがフレツロフ中佐の機体はまだKh-31が数発あり、今から撃てば十分対応出来るタイミングであった。
しかしそこへまだ辛うじて生きていた改騎兵型がフレツロフ機を襲う。
装甲も殆ど破れており、左腕が2本とも吹き飛んでいたがそれでも道連れにと襲いかかってきた。
「クソッ!」
その時フレツロフ中佐は思わずKh-31を改騎兵型に向けて発射してしまった、目の前で改騎兵型が弾けて視界まで奪われる。
これではどうしようもない、フレツロフ中佐は悔しそうに歯噛みしていた。
そこへある1人の男がフレツロフ中佐だけに通信を入れてきた。
『こっちでなんとかするさ』
「メデツィーニン!」
メデツィーニン少佐は用意周到な男である、いざという時に備えて1年前に使った大砲を戦闘地域の近場に待機させていたのだ。
2A3コンデンサトール2P、406mmのカノン砲であり戦術機が運用出来るように改造されていた。
メデツィーニン少佐が運用するMiG-23MLAは既にコンデンサトール2Pと接続し、目標を超重光線級にセットして待機していた。
『外しはしないさ』
操縦桿の引き金を引き、コンデンサトール2Pから406mm弾が発射された。
力とは重さと速さ、その両方を兼ね備えた上で最早ラザフォード場がなくなった超重光線級に406mm弾が突き刺さればどうなるかは言わなくても分かるだろう。
砲弾の直撃と共に発射口のレンズを砕き、炸裂と同時に周囲を完全に吹き飛ばした。
爆発が広がりチャージされていたエネルギーも暴発して超重光線級に二次被害を出している。
「今だ!」
超重光線級の発射をキャンセルしたと見込んだT-4は搭載していたKh-22N空対艦ミサイルを発射した、マッハで飛ぶ質量の塊は守りを失った超重光線級の巨体に突き刺さり、やがて核爆発を引き起こした。
その間に周囲にいた全ての戦術機部隊は全速力で安全地帯まで退避し、既に地上軍が退避している地点まで引き下がった。
爆発は周りの戦術機級や超重突撃級も巻き込み、核爆発だけではないエネルギーの放射が行われた。
巨大なキノコ雲が放射能を巻き上げて上空に広がり、周囲には衝撃波と熱、放射能が広がった。
今回使ったKh-22の核弾頭は最も小威力の350ktのものであったがそれでも超重光線級を仕留めるには十分な代物であった。
”大型光線級の排除を確認”
モースク1の報告を聞いている間もフレツロフ中佐は最大速度で可能な限り爆発から距離を取っていた。
どちらにせよあれを喰らって助かる個体はそういないだろう、ラザフォード場だって無理くりこじ開けて吹き飛ばした。
「全機、帰るぞ。凱旋だ」
NATO、WTO空軍が決死の覚悟で超重光線級を仕留めている頃、残る2体の超重光線級も各戦線に出現していた。
1体はエルベ川周辺に現れ、渡河作戦の準備をしていた米本土軍に対してレーザー照射を行い、周辺の守備隊共々大打撃を負わせた。
もう1体は在独ソ連軍担当地域に現れた、北部で第8親衛軍や第3親衛打撃軍らが展開する地域をレーザーで焼いたのだ。
超重光線級の二度目の出現は反撃に転ずる人類軍の戦力を叩き潰すことであった。
少なくともこの点において任務は成功したといえる、各軍は超重光線級が発射する拡散レーザーによって広範囲かつ大規模な被害を被った。
軍が壊滅するというレベルではなかったが、それでも1ヶ月は反撃を断念させるというレベルには達していた。
だが超重光線級という切り札をここで切るべきではなかった、それが後世の見立てであった。
この時点で超重光線級は火点が割れ、居場所を人類軍側に特定された。
いくら全身にラザフォード場を纏えるとはいえあまりにも迂闊な行為であった。
人類は見ている、大気圏を突破した遥か彼方の軌道上で、大量の偵察衛星と共に。
そして残る超重光線級は2体、2体でも大気圏を超えたレーザー照射は可能であるが同時に残り2体しかいなかった。
「目標座標地点を転送、誤差修正を開始」
「エネルギー充填率、2基とも40%まで到達」
「冷却システム問題なし、遠隔操作にも問題はありません」
ソ連宇宙軍が管轄する司令部ステーションで第1親衛攻撃衛星軍の技術将校らが”ポーリュス”の最終調整を行なっていた。
司令部には軍司令官のマクシモフ大将とソ連宇宙軍総司令官のカラシィ元帥が控えていた。
「亡き将兵らと”ポーリュス”2号機と3号機の敵討ですな」
マクシモフ大将は隣にいたカラシィ元帥にそう呟いた。
元帥も小さく頷き、青い地球を見ながらふと呟いた。
「我々宇宙軍に対し、あれだけの泥と損害を被せてくれたのだ。少しくらいお返しをせねばならん」
「ターゲットロックオン、座標の誤差修正完了」
「地上の大型光線級に動きなし、半径10キロメートルに友軍確認出来ず」
これで条件は揃った、カラシィ元帥は一呼吸を置くとソ連宇宙軍に対して命令を出した。
「”ポーリュス1”、”ポーリュス4”、照射開始!」
全く別々の地点にいる2基の”ポーリュス”から全く同じような紫色のレーザーが放たれ、大気圏を突き破って地表にいる超重光線級に降り注いだ。
発射されるレーザーに対して超重光線級は最大出力でラザフォード場を展開したが、数十秒しないうちに限界が生じてラザフォード場を破ってレーザーが超重光線級の肉体を焼いた。
瞬く間に超重光線級は原子レベルで分解され、跡形もなく吹き飛んだ。
これが1980年に開発されて以来凍結され続けてきた”ポーリュス4”の威力である。
1980年、ルディヤーナー・ハイヴで”ポーリュス”の威力を知ったソ連軍は即座に2号機、3号機の開発予算を承認し、実は4号機まで開発されていた。
しかし当時宇宙軍には偵察衛星が不足しており特にKGBとGRUが熱心に「偵察衛星を増やせ」と要望を出してきた為、4号機の打ち上げ予算が降りなかったのだ。
しかもいざ”ポーリュス”を3基体制で運用してみると3基が丁度いいということが判明し、結果4号機は開発されたはいいが宇宙には打ち上げられず、ずっとバイコヌール基地で眠っていた。
本来ならそのまま博物館行きだったかもしれないが”ポーリュス”が2基も破壊されると状況は変わる。
眠っていた4号機にウスチノフ元帥がほぼゴリ押しで打ち上げ予算をつけ、そのまま宇宙空間に飛ばした。
その後も完全極秘で組立が進み、今の今までソ連宇宙軍ですら4号機がどこにいるのか知らない人が多かった。
試射もせぬまま運用した今回であったが”ポーリュス4”は問題なく稼働しているようだった。
それを証明するかのように司令部のモニターには跡形もなくなった超重光線級がいた周囲の様子が映し出されている。
BETAの矛は完全に砕かれたのだ。
この段階でBETAの反攻作戦、ハイヴの守りは終わったと言える。
結局はBETAが見た短い夢だったがその夢が与えた影響は大きい。
今回の攻勢で失われた損害、領土、決して少なくはない。
1984年8月1日、BETAと人類の最後の戦いは1985年までずれ込むこととなった。
つづく