マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
天上楽園の乙女よ
我々は火のように酔いしれて
崇高なる者よ、汝の聖所に入る
汝が魔力は再び結び合わせる
時流が強く切り離したものを
すべての人々は兄弟となる
汝の柔らかな翼が留まる所で
-”歓喜の歌”より抜粋-
12月14日、ソ連軍がオーデル川を突破しようとしている頃エルベ川でもベルリン・ハイヴに近づこうとしていた。
だが無理に渡河をしても4ヶ月前と同じ大打撃を喰らうことになる、そこで今回のダウンフォール作戦では比較的近場かつ一部は渡河の必要がないNATO中央軍集団が先んじて南からベルリン・ハイヴを殴り掛かった。
アメリカ陸軍第5、第7軍団が攻勢の主軸となって南から左翼方面に向けて攻勢を開始した。
これにアメリカ本土の部隊も加わり、規模としてはほぼ2個軍相当の部隊が南から殴りかかっていた。
両軍団の正面を担うのは第1機甲師団とその支援に第2機甲騎兵連隊、第3機甲師団と支援の第11機甲騎兵連隊、歴戦のアメリカ欧州軍主力である。
一度に数輌のM1エイブラムスとM2ブラッドレーが突撃を敢行し、上空から戦術機の手厚い支援を受けながら眼前のBETAを殲滅していった。
超重突撃級や改突撃級が現れれば無理に攻めかからずに遮蔽物から120mm滑腔砲を叩き込み、上空を飛翔するF-16やF-15が空対地ミサイルや爆弾を落としてBETAを叩き潰した。
今もコットブスから10キロほど離れたシュモーグロウ=フェーロウ周辺で第7軍団第3機甲師団が交戦しており、BETA側の防御陣地を逆に利用しながら超重突撃級らと戦った。
レーザーが一撃でかつて突撃級が籠っていた塹壕を吹き飛ばし、周囲に土煙をばら撒いた。
奥に隠れていたM1エイブラムスはレーザーが発射された瞬間に回避運動を行っており、着弾することなく土煙の中から120mm滑腔砲のM830HEAT弾を叩き込んだ。
その後方に潜んでいる2輌のM1エイブラムスもほぼ同時期に120mm滑腔砲からHEAT弾を発射し、一度に3発の砲弾を叩き込んで一撃で装甲を打ち破ってダメージを与えた。
それでも生きていた超重突撃級であったが別の箇所から破壊された装甲部分にTOW対戦車ミサイルが叩き込まれて撃破された。
『ブッシュマスター203、助かったぜ!』
『お互い様だよ、次が来る』
レーザーをばら撒く改突撃級に対して装填されたM830HEAT弾を叩き込む、あちらの装甲は1枚で角度もよく、一撃で仕留めることが出来た。
突撃級群が周囲に引き連れていた要撃級や戦車級は基本的に支援のM2ブラッドレーIFVが搭載する25mm機関砲で吹っ飛ばされ、大地のシミになっていた。
M2ブラッドレーの良いところは突撃級、要塞級以外なら大抵の敵に勝てるということだ。
戦車級、運搬級、要撃級に対しては25mm機関砲が通じるし、要撃級や突撃級の足元狙いならBGM-72TOW対戦車ミサイルは極めて有効である。
兵士級や闘士級に対してもブッシュマスターを使うまでもなくM240C機関銃があった。
光線級、重光線級に関してだが、そもそもこれらと直接対峙するような地点にM2ブラッドレーが進出している時点でBETA側の負けは決まっている、勝負以前の問題だ。
その上でM1エイブラムスがいてM113がいて、時と場合によってはM168 20mm機関砲を搭載したM163対空自走砲がいる。
後方からはM270MLRSやM109 155mm自走榴弾砲や通常の牽引砲の155mmが支援砲撃を叩き込んでくれる。
そして潤沢な航空支援と宇宙軍の対地支援が友軍に到達するよりも先にBETAへ爆撃を叩き込んだ。
今も前線支援の為にA-10が3機ほど襲来し、まるでお供のようにRQ-1プレデターを1機につき3機ずつ引き連れていた。
プレデターは先行して改突撃級や超重突撃級の足元にAGM-114ヘルファイアを2発発射した。
9機のプレデターから発射された合計18発のヘルファイアは5体の改突撃級と2体の超重突撃級の両足を吹き飛ばし、回避機動に入った。
無論この間にレーザーによる弾幕射撃が展開され9機いたプレデターのうち7機が撃墜された。
だがレーザーがプレデターに向いているうちに地上のM1エイブラムスと上空のA-10が支援攻撃を開始した。
120mm滑腔砲によって数体の改突撃級が撃破され、上空からは合計6発のAGM-65マーヴェリックが叩き込まれ、ダメ押しと言わんばかりにペイブウェイⅡまで放り込まれた。
爆発に巻き込まれた超重突撃級が衝撃でそのまま横転し、大地に叩きつけられた。
今の一撃で中央の突撃級群がかなり倒され、突出部を広げるようにM1エイブラムスとM2ブラッドレーの部隊が押し寄せてきた。
『アイアン1より本部へ、座標L-432地点に砲撃を頼む』
『座標L-432、了解した。直ちに砲撃を開始する』
砲撃支援要請を受けた軍団砲兵部隊が動き出した、後方で待機中のM109部隊が砲撃陣地から一斉に155mm榴弾砲を発射する。
前線支援の為に発射された榴弾砲は予定通り左翼より回り込もうとしていた突撃級と要撃級らを殲滅し、BETAの側面攻撃を未然に防いだ。
前線には再びF-16の2個編隊が襲来し、手持ちの155mm無反動砲と搭載していたGBU-27でBETA梯団を爆撃していく。
戦力がかなり削れたBETA装甲集団は徐々に後退し始めた。
『BETAが退いていってる!このまま押し込め!』
当然だが追撃の手は来る、後退の際に発射されたレーザー弾で何輌かのM1エイブラムスとM2ブラッドレーが破壊されたが前進を止める理由にはならない。
一時的に追撃が止まったのは戦術機級の来襲であった、レーザーを放ちながら触手の発射機構を利用して何かを飛ばしてきた。
何を飛ばしてきたのかは直撃したらすぐに分かる、何せそれは小規模のG元素爆発を起こして直撃したM1エイブラムスやM2ブラッドレーを破壊したからだ。
本来BETAは同族を死に追いやるようなことはしないのだがベルリン・ハイヴの以降で多少各BETAに認識改変が成されていた。
戦術機級が用いる兵士級擲弾で損害を受けた部隊は体勢を立て直すために一時後退した。
これでBETA側にも多少の時が稼げたがアメリカ軍とてタダで逃してやるつもりはなかった。
戦術機級の接近を確認した第4連合戦術空軍は待機中の戦術機飛行隊を投入し、BETA戦術機級の撃破に向かった。
無論これに気づいた戦術機級はシールドを構えてレーザーを放ち、近接戦闘の構えを取った。
出撃したF-15やF-16はレーザーを回避しつつ戦術機級に向けてハイドラ70ロケット砲を120mm弾を発射した。
攻撃を手持ちのシールドで防ぎ、追撃の為に腕から再びレーザーを放って移動するF-16らを追撃した。
その瞬間、最高速度で接近した戦術機部隊がBETA集団に対してCBU-87複合効果弾をほぼ1個飛行隊分叩き込み、戦術機級を黙らせた。
炸裂するクラスター弾の子爆弾は戦術機級の非装甲部分を容易く切り裂き、手足をもぎ取り、致命傷を与えた。
『クラスター弾の命中を確認、戦果は大!』
戦術機級の頑丈な装甲に対してアメリカ空軍は徹底した火力の投射を行い、力でねじ伏せた。
2、3機の戦術機が囮として交戦している間にペイブウェイを装備した戦術機がほぼ全弾を叩き込んだり、クラスター弾の集中範囲攻撃でBETAを叩き潰したりなど。
戦術機級1体を倒す為に必要以上の労力が払われていたが、あれに前線を荒らされて無数のエイブラムスや戦術機が叩き落とされるよりはずっとマシであった。
しかし戦後、「流石にもっとスマートに出来るんじゃないか?」という意見も続出し対戦術機級計画は見直されることになる。
これらの経験からもっと手軽かつ必要な威力を叩き込む為に
どちらにせよ今はこれが最も損害を負わずに戦術気級を仕留められる策であった。
ペイブウェイやクラスター弾によって戦術機級や騎兵型戦術機級を撃破し、ついには撤退にまで追い込んだ。
その後ろを体勢を整えたM1エイブラムスとM2ブラッドレーの地上部隊が再び追撃に出る。
塹壕陣地に籠るBETAに対してMLRSからクラスター弾が叩き込まれ、迎撃の為に外に出ると地上部隊の集中砲火によって撃破される。
それでもなおBETA側は戦術機級や超重突撃級のような高性能個体を投入して通常種の物量と合わせてかなり戦線を持たせていた。
だが所詮は時間の問題に過ぎない。
12月14日午後の時点で第7軍団と隣接するソ連軍第1ウクライナ前線のオーデル川渡河が始まっており、東側からの圧力も大きくなり始めていた。
第3親衛戦車軍、第4親衛戦車軍らの渡河によってベルリン・ハイヴまでの突撃を彼らに任せ、NATO中央軍集団はフランス第1軍、NATO北部軍集団の支援に回った。
12月15日の時点で防勢に回り、エルベ川でBETA集団の間引きをしていたドイツ第3軍団、そして後方の第2軍団がエルベ川を完全に渡った。
NATO中央軍集団は12月16日までに全軍の主力がエルベ川より前に進出し、本格的なベルリン・ハイヴ守備隊との光線を開始した。
NATOの全軍がエルベ川を越えてベルリン・ハイヴまで迫るのにそう時間の猶予はなかった。
12月16日、NATO中央軍集団はエルベ川を渡り、BETA群と交戦を続けていた。
これにより一部の戦力はNATO中央軍集団に釘付けになり、ようやくフランス軍、北部軍集団も本格的に川を渡るチャンスが出てきた。
まずドイツ第3軍団、第2軍団がBETAと戦っているうちにフランス第1軍が渡河作戦を開始、12月16日の夜間は川辺のBETA掃討に専念しつつ、渡河は12月17日から始めた。
同じく北部軍集団のデンマーク側も12月16日には渡河作戦を始めていた。
こちらは在独ソ連軍のおかげである、彼らが先んじてエルベ川の内側でBETAと戦っていた為、一気に圧力をかけられたのだ。
第2連合戦術空軍と洋上空母部隊の戦術機部隊が度々襲来してBETAを粉砕し、架橋作業中の友軍を守った。
この時の援護部隊には様々な国が参戦した、例えば日本帝国空軍や韓国空軍、オーストラリア空軍、驚くべきことに一部帝政イラン空軍など。
イラン仕様のF-14がスーパーフェニックスとマーヴェリックを積んでBETAと戦いに行く姿が何度か目撃されていた。
同じく北部には米海兵隊も展開されていた、ノースカロライナの第2海兵遠征軍を派遣し北部軍集団に加えていたのである。
この頃の海兵隊は殆どの部隊に装備としてLAV-25が配備されていた。
スイスのピラーニャ装甲車を車体としつつ、軽装甲車としてのアレンジを加えた装備で、まだ陸軍は装備していなかったが海兵隊は既に主力となっていた。
このLAV-25も突撃級、要塞級以外であれば大抵の敵は倒せる優れた代物である。
ブッシュマスターを装備し、中にはブッシュマスターとTOW対戦車ミサイルを両方装備した車両もいた。
優れた機動力と並大抵のBETAをねじ伏せる火力によって海兵隊はBETAを蹴散らし、渡河の援護を行った。
おかげで12月16日の午後4時にはオランダ陸軍第1軍団が渡河に成功し、オランダ第3装甲師団を先頭に次々と川を渡った。
オランダ軍はそのまま夜襲を仕掛け、6キロほど前のヴァイゼン周辺に橋頭堡を確保、翌日の17日から本格的な攻勢を仕掛けた。
オランダ陸軍のレオパルト2A4とレオパルト1-Vが戦線を切り開き、YPR-765がその後に続いた。
冷戦期のオランダはやはり前大戦の恐怖からか相当の陸軍兵力を保有しており、MBTだけでもオランダ1国で1,000輌は持っていた。
まさか異星人との戦いで役に立つとは思わなかっただろうがどちらにせよ祖国が再び侵略の通り道にされることは防いでいる。
上空には何機かのF-16とNF-5が飛行し、定期的に地上部隊の支援に回っていた。
その後方では一足遅れて残りの3個軍団もエルベ川を渡り始めていた。
まずオランダ軍と隣接するドイツ第1軍団がエルベ川を渡り、12月18日のうちに前進中であったオランダ軍第1軍団と合流した。
レオパルト2A4とゲパルト対空自走砲、マルダー歩兵戦闘車が次々と迫り来るBETAを粉砕し祖国の首都ベルリンを取り返さんと前進し続けた。
南部側ではフランス第1軍が渡河に成功し、続いてベルギー陸軍第1軍団、イギリス陸軍第1軍団も渡河作戦を発動した。
南北で押されているBETAは西側で部隊が孤立することを恐れてエルベ川での水際防衛を諦めて若干兵力を後方へ下げていた。
これがチャンスとなりイギリス陸軍も攻勢作戦開始から4日後にようやくエルベ川を渡ることが出来た。
チャレンジャー1、チーフテンMk.10らが次々と川を渡り、ベルリンを目指して前進する。
目指す先はマクデブルクからまずブランデンブルク、そしてポツダムである。
北部軍集団はポツダムを基点としてフランス第1軍や中央軍集団、在独ソ連軍らと共にベルリン・ハイヴに包囲網を形成し、ハイヴを攻略するまでの間蟻1匹出さぬようにするつもりであった。
こうして北部、中央軍集団はようやく川を渡り切り、本格的なベルリン・ハイヴまでの攻勢を開始した。
西側からは北部軍集団、フランス第1軍、中央軍集団の潤沢な機甲戦力が前線を食い破ってBETAを叩き潰し、仮に超重突撃級や戦術機級が出ようと怯まず戦った。
しかもBETAの後方にはアメリカ宇宙軍が積極的に軌道爆撃を叩き込んでおり、一部では戦闘することなく戦術機級などが失われた。
一応BETA側も度々衛盾級による軌道爆撃防護を行ってはいるのだが、その度に軌道上から旧BETA船団の質量爆弾が叩き込まれ、無理やりラザフォード場を打ち破られた。
この純粋な質量爆弾は簡単な改造でコスト以上の戦果を上げる為、ダウンフォール作戦においてはかなり重宝された。
1発で確実に数体以上の光線級、重光線級の位置が割れるし、直撃すれば落下速度と質量で凄まじい衝撃をBETAに叩き込める。
更に必要に応じて戦術核、戦略核弾頭も投下され、事前の質量爆弾撃破で体力を使っていた光線属種は迎撃する余力もなく吹き飛ばされた。
こうした血も涙もない軌道爆撃によってNATO軍は進撃を続けた、スペース・エアランドバトルの真髄ここに極まれりといった具合だ。
お陰で後方に待機している日韓豪らの国連軍部隊は砲撃支援くらいしか殆どやることがなかった。
戦術機部隊はそれなりに出番があっても陸軍に関しては一応武装して待機しているだけで特段仕事がない状態だった。
既存のヨーロッパNATO軍とソ連軍によって戦線の決着は着こうとしている。
これでもBETA側は残存する装甲集団によって機動防御を行っているが、東西南北各所で攻勢が続いている為純粋な手数が足りない。
そもそも前提からして北部軍集団と中央軍集団は陸軍兵力だけで合計50万人を超えている、その上でフランス第1軍とアメリカの本土軍、ソ連軍26個軍が参戦しているのだ。
この戦いで主力として戦っている戦力は有に140万人を超えている、後方の戦力を合わせれば確実にそれ以上になるだろう。
その上で航空戦力と宇宙軍戦力を有し、海上には百は超えるであろう戦闘艦艇を有している。
「前線ではNATO軍が予定通り進撃しています。ソ連軍もBETAを撃滅しながら進撃中とのことで両軍がベルリン・ハイヴ周辺に到着するのは恐らく12月31日から1月3日の間とのこと」
ブレーメンにある日本欧州派遣軍司令部は各軍集団司令部から上がってくる情報を下に地図に戦況図を書いていた。
派遣軍は陸軍1個師団規模戦闘団、海軍2個空母機動部隊、空軍4個飛行隊編成の1個航空団を有しており、現状戦闘に参加しているのは主に空母機動部隊の飛行隊と空軍の航空団であった。
陸軍は前進した北部軍集団の代わりにマクデブルク周辺で防衛線を展開しており、前線には出ていない、というよりそこまで危機的状況下ではないので前に出す必要がなかった。
「このまま戦闘が進んでいけば我が軍の犠牲は極力少なく出来ます」
参謀長の金崎宏哉陸軍少将は興正にそう進言した。
「ああ、NATOがこのまま勝ってくれるなら越したことはない。引き続き航空支援に力を入れ、NATO軍の前進をサポートしよう」
興正の発言に参謀達は頷いた、興正は派遣軍としての方針を忠実によく守っている。
何名かの参謀達は出向先の部署の上官から「主導権はしっかり握れ」と事実上監視するよう釘を刺されているのだが興正がこの状態であった為要らぬ心配であった。
興正は信真や血気に流行る斯衛軍将校らと違い、冷静かつ落ち着いた人物であり、無意な戦闘は避けつつ全体を統括していた。
しかしそんな興正でも1つは気になることがあったようだ。
「参謀長、斑鳩大尉らはどうしているかね」
「斑鳩大尉と真壁大尉の飛行隊は現在出撃中です。やはり心配ですか?」
「最早武家ではない以上特別扱いしてはいけないというのは分かるのだが……すまんね」
「いいのですよ、彼らはきっと戦果を挙げてくれますよ」
興正は静かに頷き、戦場から遠く離れたブレーメンで全体を観測し、いざという時に備えていた。
仮に出番がなくともそこにいたということが重要なのだ。
後方も含めて人類は全員で異星人の侵略者と最後の戦いに挑んでいた。
12月20日のある日、東側では翌日から大規模なBETAソ連軍戦車部隊による機甲戦が始まるのだが西側では一足早くこうした戦闘が発生していた。
チャレンジャー1とチーフテンMk.10対超重突撃級と改突撃級、レオパルト2A4とレオパルト1A5対超重突撃級と改突撃級など、各所でそれぞれの意地を見せた戦いが始まっている。
尤も大抵の場合は諸兵科連合に勝る人類軍側が勝つ、結局超重突撃級や戦術機級がいくら強くてもそうではない者の性能があの程度ではどうしようもない。
結果性能で上回っても砲撃や戦術機による爆撃によって撃破され、機甲部隊が前進するケースが相次いだ。
特に優位性を保っていたのが戦術機の手厚い支援を受けられるオランダ第1軍団とドイツ第1軍団である。
洋上展開する空母から発艦する戦術機飛行隊が何機かは撃墜されつつも確実に戦術機級や超重突撃級を道連れにした。
今もブランデンブルクとザクセン・アンハルトの州境において帝政イランのF-14と数体の戦術機級が交戦していた。
レーザーを放ち、腕から特攻用の兵士級を放つ戦術機級だったが中東での度重なる戦闘によって経験を積んだイランのトムキャット乗り達は軽々と攻撃を避けた。
そして遠方に展開するF-14からAIM-54フェニックスを発射し、戦術機級にぶつけた。
衝撃とは重さと速さ、特に速さを兼ね備えたフェニックスは2発もあれば確実に戦術機級の本体装甲を砕く。
既に1発のフェニックスがシールドによって弾かれたが残り1発が腕部に直撃し、既に脆くなっていた左腕をそのまま破壊した。
『シールドをもぎ取った!』
『残りで本体を潰すぞ!』
うち2機のF-14から2発のフェニックスが発射され、胴体正面に直撃を喰らって装甲が砕け、本体にもダメージが入って戦術機級は撃破された。
真っ二つになった戦術機級の残骸が地面に墜落し、周囲に土煙が上がって爆炎の残火があちこちで燻っていた。
他のF-14も同じように戦術機級を何体か仕留めていた、だがフェニックスの弾数が最早ゼロに近い。
元々積んでいたスーパーフェニックスは超重突撃級を仕留めた際に全て撃ち尽くしており、既に残弾がない。
このまま戦うにしては武装が心許ないが今後退すれば確実に残りの戦術機級に追撃される。
どうしたものかと飛行隊長は考えていたが即座に増援が到着し悩みを一瞬で打ち消した。
『こちら日本空軍所属部隊、イラン空軍機は直ちに後退し補給を行われたし。後は我々に任されよ』
『サムライの増援だ、一旦退くぞ!ここは日本軍機に任せる!』
即座にF-14が突撃砲の120mm弾を放ってBETAを牽制し、後続の日本空軍のF-15Jに後を任せて戦場から離脱した。
放たれた120mm弾をシールドで防ぎつつ、戦術機級はレーザー弾で対空戦闘を開始した。
『各機!散開し各編隊ごとに戦術機級を仕留めろ!』
「了解、介六郎、行くぞ」
『お任せを』
特別枠で連れてきた2機のXF-15JRG”鳳鷲”が先行し、肩に搭載しているハイドラ70ロケット砲を発射して戦術機級の気を引いた。
正面では12機のF-15Jが一斉にAGM-65マーヴェリックを発射した。
何体かは回避機動に入り、更に何体かはシールドを構えて真正面から攻撃を防いだ。
彼らは崇継と介六郎が”鳳鷲”を装備していることから分かるように元は斯衛軍の戦術機部隊であり、空軍に移管された後にF-15Jの機種転換訓練を満了した者達であった。
指揮官は斯衛の変で戦死した二本松准将に代わって佐竹雅良中佐が務めており、彼も早期にF-15Jの操縦方法を覚えた腕のいい衛士であった。
当初”瑞鶴”からF-15Jに機種転換訓練を行った旧斯衛軍の衛士達は”瑞鶴”との性能差に驚いた。
”瑞鶴”の性能は確かにいいがどう頑張ってもF-4はF-4である、F-15には勝てない。
それに乗るならやはり高スペックな方がいい、衛士達は割と早いうちにF-15Jを気に入り我がものとした。
それは崇継と介六郎もそうだが彼らが乗っているのはより斯衛軍ナイズされた”鳳鷲”である。
機動力と近接格闘能力が向上し、長刀なども新しいものが宛てがわれていた。
常人の衛士が動かすには少し癖の強い機体ではあるが崇継と介六郎なら十二分に機体のスペックを引き出せる。
崇継の”鳳鷲”は僅かなステップで戦術機級のレーザーを掻い潜り、長刀を振るって右腕を切断し、そのまま首を刎ねた。
切断された首が地面に落ちるよりも先に”鳳鷲”が僅かにジャンプして首元に120mm弾を叩き込んで戦術機級を仕留めた。
内側から爆発して装甲が周囲に弾け飛び、周りにいた戦術機級はシールドで味方の残骸を跳ね除けた。
『ここで鎧の崩し方が役に立つとは!』
介六郎は苦笑しつつも左手に持つ四〇式近接刀で戦術機級の右手を落とし、シールドで殴り潰そうとする戦術機級の攻撃を避けて懐に入った。
即座に刃先を切り替えて長刀を振り上げ、そのまま右腕を切断する。
切断された箇所からは大量の体液が溢れて周囲を紫色に染め上げる。
腕を失った左脇に向けてマーヴェリックを撃ち込んで介六郎も1体戦術機級を撃破した。
彼らからすると戦術機級との戦いは全身を大鎧で包んだ鎧武者と身一つで対峙している感覚に近い。
基本的こちらの攻撃は盾や腕、胴の装甲で防ぎ、逆に相手は一撃で致命傷を負わせる技をいくつも持っている。
戦術機級が鎧武者であるなら差し詰め騎兵型は騎馬武者といったところだろう、1騎につく供回りが弱いのはありがたいが本体が強いと困る。
そこで2人は”鳳鷲”の性能を活かしつつ、以前教わった甲冑の崩し方を用いながら戦術機級と戦った。
とはいえ槍も持ってはいないのでほぼ長刀1本が頼りなのだが。
向こうも己の装甲の利点と非装甲部の弱点は理解しているようでかなり頑強な防御の構えで崇継らの前に立ちはだかった。
シールドを前に出して上半身の関節部をカバーしつつ、主兵装である長刀とレーザー発射口を向けて”鳳鷲”と睨み合っている。
「向こうが来た瞬間にカウンターを叩き込む!」
『了解、援護しますよ』
お互いで連携を取ろうとした瞬間に戦術機級から触手が放たれ、”鳳鷲”を襲った。
そこで体勢が崩れたところをジャンプしてきた戦術機級が追撃し、触手をしまうと同時に長刀の剣先を突き立てた。
「貰った!」
戦術機級の腕が伸び切ったところに崇継の”鳳鷲”は右に回避し長刀で右手を切断した。
そのまま地面に刃が突き刺さるよりも先に首周りの非装甲部分に突撃砲を1カートリッジ分叩き込んで確実に仕留めた。
別のもう1機が崇継の背後を襲おうとしていたが介六郎が突撃砲の弾幕射撃で牽制しつつ、接近してシールドと長刀の斬撃を何度か躱した後にマーヴェリックを胴体に2発撃ち込んで装甲を破り、120mm弾でトドメを刺した。
彼ら2人だけで合計4体の戦術機級を仕留めた、これだけでもう十分な戦果だ。
その間に本隊のF-15Jが空対地ミサイルと手持ちの155mm無反動砲で5、6体の戦術機級を仕留め、戦術機級の集団を撤退に追い込んだ。
人類側もようやく戦術機級に対する有効な戦法が確立され、苦戦はしつつも戦術機級を安定して退けられるようになっていた。
崇継や介六郎のようなエースでなくとも何機か束になれば戦術機級は倒せる、これだけで大きな発展だ。
『BETAが撤退していきます』
『追うな、これ以上の深追いは無理だ。残弾を確認しつつ友軍のCASに入る』
「了解」
周辺を警戒しながら”鳳鷲”やF-15Jはその場を離れて別の地点へと向かった。
移動中崇継は自身の”鳳鷲”の動きを思い出しながら性能を噛み締めた、”瑞鶴”とは比較にならない優れた機体だ。
通常のF-15Jよりも圧倒的に身体に馴染む、これを”瑞鶴”2機で仕留めたんだから自分達はずいぶん頑張った方だと思う。
「やって見せますよ、おじ上」
かつて斯衛軍であった”鳳鷲”が日本空軍の名前でヨーロッパの空を飛ぶ。
サムライの鷲はサムライのあるべき姿を体現していた。
NATO北部軍集団は12月25日までに第一目標であったブランデンブルク、キューリッツ、トロイェンブリーツェンに到達、フランス第1軍はユーターボークでBETAの主力と交戦し、中央軍集団はレープテン、アム・メレンゼー、トレッビンのラインまで前進していた。
これでベルリンまでの道のりは40キロ、場所によっては20キロ近くまで短縮し、ベルリン包囲まであと僅かとなった。
そして迎えたクリスマス、本当だったら家族と共に家で過ごすものなのだが前の大戦、前の前の大戦と同じように皆戦場にいた。
彼らがクリスマスを迎えた場所は冷たい土壁の塹壕だったり、硬くて冷たい装甲車の座席だったり、1人孤独な戦術機のコックピットだったりと様々であった。
それでも彼らは最低の環境で最大限クリスマスを祝うようにした。
皮肉まじりにタバコを交換してコーヒーを飲んで最悪のクリスマスを祝ったり、後方であればこっそりとコニャックやウイスキーを入れてお祝いした。
この戦いが終わったら必ず祖国に帰ると心に誓って。
一方のBETA側であるが各所での機動防御の失敗を受けて完全に方向性を変え、戦力をハイヴ内へ集結させつつあった。
特に優先して戻されたのは戦術機級であり、12月21日以降前線での戦術機級の目撃例は前日よりも20%ほど少なくなっていた。
突撃級らの装甲集団は未だに各軍の前面で抵抗を続けていたが最も勢いがあった時点と比べて部隊数は相当減っていた。
この戦い、最早負けを先伸ばしにすることは出来ても勝ちを得ることは絶対に出来ない戦いとなった。
戦術機級や超重突撃級は確かに強力である、機動防御をやればそれなりに損害は与えられた。
だが与えられる程度でそれが勝ちに繋がる訳ではない、押し返した戦線を維持するだけの兵力もないし機動防御で高性能ユニットも当然だが摩耗する。
つまり詰んでいるのだ、何をしようにも1手2手先は王手である。
一方の人類軍は勝利が決まっているとはいえBETAという未知の存在に対して最後の最後まで油断は出来なかった。
もしかしたら地中からまた1個軍出てくるのではないか、まだ超重光線級が残されているのではないか、そう思うと進撃しつつも不安は消えなかった。
おかげで戦線に降り注ぐ砲爆撃の量は全く変わらなかったし、攻勢の速度に変化はなかった。
『ノリッジ6、前進しろ。前衛のBETAを撃破するんだ』
『
『そうだよ、早く突っ込め』
『サー』
命令を受けたチャレンジャー1が前進し、接近しつつある改突撃級に対して120mmライフル砲からHEAT弾を撃ち込んだ。
丁度改突撃級が反転しようと側面を向けた瞬間に砲撃を撃った為非装甲部分に命中し、一撃でBETAが爆ぜた。
改突撃級の後ろには無数の戦車級や要撃級がいたがベテランの戦車兵達は焦ることなく対応した。
まず7.62mm機銃の弾幕射撃によって戦車級や特攻に来る闘士級を防ぎ、120mmライフル弾で要撃級を撃破した。
そうこうしていると後続のFV510ウォーリア歩兵戦闘車が現れ、30mmラーデン砲L94A1がBETAを薙ぎ払った。
彼らが所属するイギリス陸軍第1機甲師団はブランデンブルクから少し離れたゴルヴィッツという地点で戦い続けていた。
現在地点からポツダムまでは大凡27キロ、少しづつ勝利は見えてきた。
この時点でBETAの戦力は前線から退いてハイヴ内に戻ろうとしており、改突撃級らが撤退援護の為に殿を行っていた。
支援の為にトーネードGR.1がBL755クラスター爆弾を抱えて前線より少し後方のBETAに対して当弾した。
小爆弾が移動中の戦車級や要撃級、突撃級らを殲滅し、生き残りをトーネードGR.1が発射したマーヴェリックや120mm弾で確実に仕留めた。
これによりBETAの列がだいぶ絞られ、後列のBETA群は壊滅状態に陥った。
そして真正面にはイギリス陸軍の重戦車部隊が戦車砲を向けて迫ってきた。
数十分後前線地帯には無数のBETAの死骸が並び、戦車級の残骸をチャレンジャー1やチーフテンMk.10が走り、死骸には履帯の跡がついた。
暫くするとアメリカ宇宙軍が前線より少し離れた地点にBETA船の残骸を用いた質量爆弾による爆撃を行った。
これは光線属種の火点を割り出す為の陽動砲撃であり、この間にトーネードADVが何機かが光線属種撃破の為に待機していた。
降り注ぐ質量爆弾を前線にいる光線級や重光線級が迎撃しまとめて消し飛ばした。
これで相手の位置を特定すると待機していたトーネードADVがスカイフラッシュ中距離空対空ミサイルを発射し、まず光線級を潰す。
発射レートの速い光線級を先に仕留めておかなければ重光線級を仕留める難易度が跳ね上がる。
先に光線級を仕留めた後に残りの重光線級に対してもトーネードADVが搭載しているAIM-9Lサイドワインダーが発射され、発射口を破壊された。
光線級掃討を終えるとトーネードADVは戦線を離脱し、他の戦術機に任務を譲った。
こうして光線属種を掃討すると今度はM270 MRLSやM109 155mm榴弾砲を容赦なく叩き込み、BETAを撃破した。
12月26日にはグロース・クロイツを占拠し、翌日の27日午後4時にはヴェルダーを制圧した。
そして28日から30日にかけてポツダム周辺でBETA守備隊の最後の抵抗が始まった。
なおこの時点で中央軍集団はベルリン郊外まで15キロ地点のミッテンヴェルデに到達、フランス第1軍もトレッピン周辺でドイツ第3軍団と共にBETAの2個師団を包囲殲滅下に置いていた。
一方オランダ第1軍団とドイツ第1軍団もクレンメン、ナウェンにまで進出し、BETAと最後の地上戦を演じていた。
結局ベルリン周辺のBETA守備隊は29日辺りには各所で分断され、孤立し、やがて戦術核を喰らって連隊、旅団規模に分けられて壊滅した。
そして1984年12月31日、ついに運命の時が来た。
在独ソ連軍に一足遅れてイギリス第1軍団第1機甲師団がポツダムを完全に占拠、後から来たベルギー第1軍団と共に包囲網を形成し始めた。
ほぼ同時期にNATO中央軍集団もゼルヒョーとグロースベーレンを占領し、同じく包囲網を形成し始めた。
フランス第1軍の第1軍団はこれらより少し遅れてシュターンドルフを占拠、これによりNATO軍の戦力の大多数がベルリン周辺に取り付いた。
そして新しい年を迎えた1985年1月1日、正月祝いと言わんばかりにドイツ第1軍団、オランダ第1軍団がファルケンゼー、ヘニッヒスドルフに到達し、先んじて到着していた在独ソ連軍、イギリス第1軍と共に包囲網を形成した。
これより1日置きにソ連軍の各前線が出現し、全体の包囲は1月4日までに完成した。
北には第1親衛戦車軍、第2親衛戦車軍、第8親衛軍、西側にはオランダ第1軍団、ドイツ第1軍団、イギリス第1軍団、ベルギー第1軍団が展開している。
南にはフランス第1軍団、第2軍団が包囲に参加し、ドイツ第3軍団、第2軍団、アメリカ第5軍団、第7軍団が控えている。
そして東には第3親衛戦車軍、第4親衛戦車軍、第5親衛戦車軍、第7戦車軍、第6親衛戦車軍、第4打撃軍らが無数のT-80BVやT-64BVを並べて待っていた。
ベルリン・ハイヴに明日はない。
1月5日、いよいよダウンフォール作戦の第二段階が始まった。
人類はここまで来るのに長く、そして険しい歴史を歩んできた、このベルリン・ハイヴに辿り着くまでに数え切れないほどの犠牲を払ってきた。
そしてようやく1985年、この日を迎えた。
リヴォフ、ヴロツワフ、ブカレスト、プラハ、ベオグラード、ウィーン、ザグレブ、ブダペストと歩んできた道のりの最終到達点がこのベルリン・ハイヴであった。
これ以外にもインドのルディヤーナー、中東のリヤド、アル・ハリマ、アスファン、アフリカにも数多くのハイヴが存在していた。
それらはBETA大戦が始まったこの10年のうちに全て人類の手によって一掃された、これらの名前は全て過去のものとなったのだ。
最早ベルリン・ハイヴを助けようと宇宙から仲間が降ってくることはない、1984年2月の大船団壊滅以降BETA側はこれ以上の地球開拓にアセットを割くのはリスクに見合わないと判断した。
つまりベルリン・ハイヴは天からも見捨てられたことになる、孤立無援の孤軍奮闘であった。
シュワルツコフ大将はこの時、パウエル中将と共にブランデンブルクのマリーエンベルク公園の跡地に立っていた。
この辺りは比較的に放射能汚染やBETA汚染がマシな地域であり、丁度小高い丘になっているから周囲がよく見える。
尤も周囲が見えたところで辺り一面不毛な大地となっているのだが。
本来この辺りにはブランデンブルクの街があり、自然があり、人がいた、全てBETAによって蹂躙されて踏み躙られたものだ。
「ベルリンはどちらの方にあるのかね」
シュワルツコフ大将は案内役の少佐に場所を尋ねた。
「あちらです、ベルリン・ハイヴの上部構造は吹っ飛ばしたんでここからだとほとんど見えませんが」
少佐に指を指された地点を見たが確かに地平線が広がるだけで何か目立ったものが見えるわけではなかった。
むしろ近場を走るアメリカ軍やイギリス軍の補給トラックの方がよく目に入る。
シュワルツコフ大将は徐にコートの内ポケットからタバコの箱を取り出し、1本抜き出した。
1月のドイツは気温がマイナスになるのは当たり前でマリーエンベルク公園の辺りも数日前に降り積もった雪によって白く染まっていた。
「1本、いるか?」
隣にいたパウエル中将に箱を差し出すとパウエル中将は礼を述べて1本抜き出した。
同じように取り出したライターの火をつけて、タバコに引火させてシュワルツコフ大将と共にタバコを吸った。
タバコの煙と共に口から白い息が出てくる、ドイツに勤務していたのはだいぶ前ではあるがこの感覚はどこか懐かしい。
「閣下、間も無く宇宙軍による要塞攻撃が始まります」
「折角だ、前線視察も兼ねて拝むとしよう。あっちがベルリンの方角だっけ?」
「はい、あちらです」
パウエル中将は部下に示された方角を見ながらタバコを吸い、息を吐いた。
「3、4年前、ここはBETAが本格的に占領していた場所だった。それを君らが取り返した」
「ああ、今となっては懐かしさすら感じるよ。ベトナムから10年、我々は随分遠い所まで来たようだ」
シュワルツコフ大将もパウエル中将もベトナム戦争帰りの男であり、そこからBETA大戦を戦い抜いてきた。
冷戦、ベトナム、BETA、あらゆる時代を生き延びてきたからこそ2人はこの戦争の終わりに相応の感傷があった。
2人が同じベルリンの方向を見ているとそこに紫色の1本の線が降り注いだ。
「始まったな」
ソ連宇宙軍の”ポーリュス1”、”ポーリュス4”によるG元素レーザー照射だ、これで表層と地下の一部を吹っ飛ばしてBETAを殲滅する。
今まで資料でも見てきたしリヤド・ハイヴ攻略でも散々見てきた光景だ。
「……思えば、何かが違っていたらこれが我々の下に降ってきた可能性があるということだよな」
シュワルツコフ大将は苦笑混じりにハイヴに降ってきたソ連のG元素レーザーを眺めながら呟いた。
もし冷戦が続いていたら、もしその中で何かボタンのかけ違いが発生したら、もしその結果人類が本当に大戦争に陥っていたら。
あり得ない話ではなかった、冷戦とは常に米ソが核戦争という大穴の上にかけられた細い橋を渡っていたようなものだ。
お互いにバランスを崩せば世界は一気に核戦争という大穴に落ちることとなる。
例えばあのベルリン、かつて西ベルリンと東ベルリンに分かれていた時代にもし1人の国境警備兵が死んで誤解が生まれていたら。
もし東西どちらかの演習が
もし日本の首相が放った「不沈空母発言」に対してソ連側が誤った認識を持っていたら。
もしソ連の首脳部がタカ派の軍部によって占拠され、演習目的で戦争となったら。
これだけの異なる選択で人類はBETAが来る前に滅んでいた可能性が高い、このBETA大戦とはある意味で奇跡のような時代なのだ。
「ある意味ではBETAに感謝しなくてはならん、我々が人類同士で殺し合うことを連中は我が身と賭して防いでくれた訳だ」
「笑えない皮肉だな、どちらにせよ連中は今年中に終わる」
「ああ、なんにせよ奴らには多すぎる人を殺された。代償を払わせなくてはならない」
パウエル中将は小さく頷き、眼前に光る”ポーリュス”のレーザーを眺めた。
1985年1月5日、ソ連宇宙軍による対地攻撃の後本格的なベルリン・ハイヴ攻略戦が始まった。
つづく