マブラヴ グレートパトリオティックウォー 作:Eitoku Inobe
赤軍兵士諸君!
おお、1! 2! - 愉快じゃないか
赤軍兵士諸君!
歌と共に溌剌と歩むこそ
若き兵士に相応しい!
おお、1! 2! - 愉快じゃないか
若き兵士に相応しい!
-”ヒトラーにも死が訪れる”より抜粋-
-旧東西ドイツ領 ベルリン ベルリン・ハイヴ所在地周辺 国連軍展開地域-
1月5日、ソ連宇宙軍による”ポーリュス”の射撃が終了し、これにてハイヴ攻略の為の準備が全て終わった。
これ以降この大戦において”ポーリュス”が地上に向けてG元素レーザーを撃つことはない、今後宇宙軍は対地攻撃ではなく偵察に注力していくことになる。
主力となる各空軍、海軍航空隊は航空基地や簡易飛行場、洋上の航空母艦でハイヴ突入を待ち侘びていた。
ベルリン・ハイヴ攻略に際してまずは偵察活動が必須である、その為には偵察機が必須なのだが最早人の入った偵察機を送る必要はなかった。
東西双方から何十機以上は確実にいる無人戦術機と数百を超える無人機がベルリン・ハイヴに突入した。
東西とも無人機を運用出来るシステムをBETAから作り出した、アメリカ側はJUASと命名し、ソ連側はモースク1という名前を名付けた。
アメリカのJUASとソ連のモースク1はQF-4とプレデター、M-21とシュメリィ-1を遠隔で操縦し、ベルリン・ハイヴに突入して内部調査を開始した。
当然だがここに送り込まれた無人機は帰還を前提としておらず、事実上片道切符の旅であった。
M-21やQF-4が肩を並べてハイヴ内を飛行し、ハイヴ内の地下構造の情報を収集した。
この時JUASとモースク1が無人機から収集した情報データは東西双方に共有されており、一部はデータリンクで繋がっていた。
こうした無人機の飛行集団は度々ハイヴ内の守備戦力と激突することがあった。
ハイヴを防衛せんとする戦車級や要撃級が現れるがこの程度であればJUASとモースク1はアセットを用いて撃退可能であった。
JUASもモースク1も生まれた当初よりも何百倍もの戦闘データを学習し、3、4年前とは比較にならないほどの成長を遂げていた。
QF-4は要撃級や戦車級に対して突撃砲を放ってハイドラ70ロケット砲を横合いから殴ろうとしてきた要撃級に叩き込んだ。
周囲に展開するプレデターはヘルファイア対戦車ミサイルを発射して要撃級を撃破し、QF-4をサポートする。
これはソ連側も同じである、内部に隠れていた何体かの光線級によって数機のシュメリィ-1が撃墜されたが即座にR-13M空対空ミサイルを発射して光線級を仕留め、残りのBETAをS-5ロケット砲と突撃砲で殲滅した。
僚機のシュメリィ-1はこの間に後方浸透し、更にハイヴの奥底を偵察した。
「各所でBETA群との戦闘が発生、シュメリィ、M-21共に損害が出ています」
「構うな、BETAにくれてやるなら安いものだ」
第1ウクライナ前線司令部では無人機から送られてくる情報を確認しながらモースク1に対して指示を出していた。
「しかし、モースク1も操縦の腕を上げましたな」
パニィキン大将はこの時司令部のあるウッチに立ち寄っており、モースク1の性能を確認してそう呟いた。
確かにモースク1が動かすM-21の操縦技能は数年前のものより格段に上達している。
距離を取りながらも迫るBETA群に対して突撃砲とS-5ロケット弾やS-24ロケット弾などを発射してBETAを殲滅している、腕で言えば並の衛士に並ぶと言ってもいい。
接近する突撃級の集団に対しては脚部に120mm弾を発射して足を止め、Kh-66空対地ミサイルを搭載した機体がミサイルを発射して突撃級を撃破する。
最低限BETAを撃破するとM-21は奥地へ進んで偵察活動を続けた。
「ベレンコ、ベルグロフ、フレツロフ、プラウダに載ったエースパイロットの戦闘データは大半学習させたらしい。まあこうなる」
モースク1の学習データは基本的に全てのソ連軍戦術機部隊や地上部隊の戦闘記録である、その膨大な量を学習して自身に反映し、ここまでの操縦技術を手にした。
言うなればモースク1はソ連軍と共にここまで成長してきた二人三脚という言葉が相応しいものだ。
「しかし機体は結局のところMiG-21です、アレが出てくると……」
「一部地点に戦術機級を確認、M-21、シュメリィ含めた1個飛行隊が全滅しました」
どれほど性能が高くとも所詮はMiG-21の無人機改造型、本気でBETAの戦術機級に出てこられるとなす術もない。
これは西側も同じでQF-4やプレデターがどれだけ火力を投入してもシールドを構え、レーザーを放ちながら突進してくる戦術機級には勝てなかった。
戦術機級の襲来によってかなりの数の無人機が撃破された、人入りの第二世代戦術機でもそう簡単には倒せないのだから仕方のないことである。
それでもモースク1は何体かの戦術機級を道連れにした。
手足を失ったM-21をそのまま戦術機級に突っ込ませて自爆装置を起動した、その上で何機かのシュメリィ-1と損傷したM-21が特攻して戦術機級を撃破した。
ある意味ではベルリン・ハイヴの兵士級や闘士級の戦法を真似たという訳だ。
予想外の損害に戦術機級は一旦身構えて追撃が止まり、その間に残りの無人機が後退するか戦線を離脱した。
「偵察情報を基に地形分析を開始します」
既にM-21やQF-4、プレデターやシュメリィ-1らの偵察情報によってハイヴ内の構造はある程度予測がつく。
分析官達がレーダーでキャッチした熱源反応や広間の感覚などを予測し、図として書き下ろした。
「出ました、ベルリン・ハイヴ予想図です」
分析官達がベルリン・ハイヴの地下構造を描いた予想図を作戦室のテーブルに貼った。
これを基に分析官達はハイヴの構造を説明した。
「ベルリン・ハイヴですが規模としてはフェイズ5に相当、地下の横幅は30キロ、縦幅2,000メートル。そして最奥のエネルギー炉と同じ反応が5箇所確認されました」
「なんだと?」
分析官はハイヴ内に存在する5つの大広間を指し示しながら説明を続けた。
「この5箇所の大広間でBETAのエネルギー炉と同じ反応が確認されました。勿論エネルギーの規模に強弱はありますが出力は通常のBETA以上です。恐らく臨時の補給地点なのでしょう」
「戦術機級や超重突撃級のような新型のエネルギーを賄う為に既存の1基じゃ足りなかったか、それとも……」
「どちらにせよ全て叩き潰さねばならん。ハイヴ内の残存戦力は?」
ヤゾフは最も肝心なことを尋ねた。
「外周で取り逃した8個軍に加えて恐らく元より残っていた1個軍、合計9個軍相当のBETAがいる可能性が高いです」
ほぼ100万体のBETAがまだハイヴに残っているということだ、それでも外周にいたBETAは半分以上が消し飛んだ、それにうち8個軍も無傷ではない。
大半のBETAは軌道爆撃によって損傷していたし、超重突撃級と改突撃級に関してはかなり削り取ってやった、勝算はある。
「BETAは通常通り各広間を拠点としつつ主にこのエネルギー炉周辺を強固に防衛しているようです」
「であればまずこのエネルギー炉を潰して最奥まで道を切り開いていく必要があるな」
ヤゾフの隣に控えていたパニィキン大将ら空軍と防空軍の将軍達が命令を待っていた。
これが最後の戦いだ、これで全てを終わらせる。
「全空軍、防空軍に通達、我々は予定通り戦術機によるハイヴ掃討作戦を開始せよ」
「了解…!」
将軍達は敬礼して即座に自身の航空軍に連絡を取った、これから本格的なハイヴ攻略作戦が始まるのだ。
この間にヤゾフはソ連宇宙軍の連絡将校を呼びつけ、小声であることを耳打ちした。
「最悪の場合、友軍の撤退に関わらず”ポーリュス”の最大出力でハイヴを吹っ飛ばせ。これは本当に最悪の場合だ」
「了解…!」
叶うことならやりたくはないが本当に最悪の場合、友軍の損害を顧みずベルリン・ハイヴを地上から消し飛ばさなければならない。
仮に戦死者の恨みを買うことになったとしても、将来の世代にBETAとの戦争の負債を残さない為だ。
明日を生きる子ども達の為を思えば彼らは皆鬼にでも修羅にでもなれた。
同じ頃各航空軍司令部から命令を受けたソ連空軍及び防空軍の戦術機部隊が各所の飛行場から出撃した。
飛行場の滑走路を何機ものMiG-29やMiG-23MLが飛び去っていく。
後方にはSu-24やSu-25、MiG-27が続いた、ソ連空軍の主力部隊だ。
少し後方の飛行場からはSu-27やMiG-25PDS、一部極東のMiG-31や何故かいたYak-41が出撃し、編隊を組んでベルリン・ハイヴに向けて飛んでいった。
ほぼ同時期にワルシャワ条約機構軍としてポーランドとチェコスロバキア、東ドイツ、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニアのMiG-21やMiG-23BN、MiG-29らもソ連空軍の後に続いた。
同じくユーゴスラビア人民空軍のL-17Kやユーゴ29ことL-18が戦場へ向かった。
ちなみにこの中にフランスから貸与されたラファールがおり、それがノヴィ・アヴィオンと呼ばれていたそうだ。
そして洋上、合計五隻の空母からSu-27K、MiG-29K、MiG-23Kが発艦して。
洋上塗装の青い戦術機は地上から発進する空軍、防空軍とはまた違う趣があった。
同じく洋上からは西側の海軍航空隊が母艦から発艦し、ベルリン・ハイヴへと向かった。
フランス海軍の空母、”クレマンソー”と”フォッシュ”からは戦術機のシュペルエタンダールが発艦し、イギリス王立海軍のHMS”ブルワーク”とHMS”アーク・ロイヤル”からも戦術機が発艦してベルリンへと向かう。
その隣では日本海軍の”鞍馬”、”出雲”からF-4EJ改、F-14JとF-16NJがベルリンへと向かった。
今となっては日本海軍は貴重な空母運用が出来る海軍である、今回の戦闘においても期待がかかっていた。
そして海軍の主力、六百隻艦隊構想で世界の海を守るアメリカ海軍の空母からF-14、F/A-18が次々と飛び立ち、ハイヴへ向けて出撃した。
同じ頃、西側の飛行場からも次々とNATO空軍と援軍に来た国連軍の戦術機がベルリン・ハイヴへ向かっていた。
トーネードGR.1、トーネードIDS、ベルギー空軍とオランダ王立空軍のF-16にNF-5とCF-116、ミラージュ2000にミラージュⅢ、ラファール、そしてF-15とF-16にF-15J、F-4Dピース・フェザントⅡ、王立オーストラリア空軍のミラージュⅢ、そして帝政イランのF-14に人民解放空軍のJ-9、スウェーデン空軍のサーブ37ビゲンにプロトタイプではあるがJAS39グリペンも戦闘に加えていた。
南からもアメリカ空軍のF-15、F-16だけでなくイタリア空軍のトーネード A-200やオーストリア空軍のJ35Dドラケンらがハイヴを目指している。
あらゆる国のあらゆる戦術機が結集しベルリン・ハイヴを目指して出撃した。
その中には崇継と介六郎の”鳳鷲”も含まれていた、彼らは先陣より少し後であったが甘んじてそれを受け入れた。
「我々は内部に突入したらBETAを蹴散らしつつ国連軍と共にハイヴ内の大広間を目指す。エネルギー炉を破壊してBETAの活動を鈍らせるぞ」
『了解、さて”鳳鷲”がハイヴでどこまでやれるか……』
「猊下とおじ上らが遺してくれた機体なんだ、大切に使ってやる」
管制塔から発艦許可が降り、いよいよ”鳳鷲”も出撃の時間となった。
「斑鳩崇継、XF-15JRG”鳳鷲”、出るぞ!」
青と赤の鷲が空を飛ぶ、彼らが目指すのはハイヴの居城、これが最後の決戦である。
”鳳鷲”は即座に国連軍の大編隊に加わり、ベルリン・ハイヴを目指した。
そして東側でも稀代の英雄がベルリンへと足を運ぼうとしていた。
第306独立親衛戦闘航空連隊はチェンストホバ飛行場からジェロナ・グナに設置された簡易飛行場に拠点を移し、より近場からベルリン・ハイヴに向かった。
格納庫から外の簡易滑走路に整列した39機のMiG-29は機体の最終チェックを行い、出撃の命令を待った。
”ハイヴ内は多数のBETAで溢れている。橋頭堡は私が確保したが戦闘長く厳しいものになるだろう”
「分かってる、しかしお前も相当動かすのが上手くなったんだな」
”君のおかげということにしておこう”
「データの塊風情が偉そうに。各機、出撃を開始する。我々の第一目標はハイヴ内のエネルギー炉だ、無理せずBETAを潰して生き延びろ。生きて祖国の勝利を分かち合おう。行くぞ!」
まずフレツロフ大佐のMiG-29が滑走路から直上に飛び立ち、その後に第306独立親衛戦闘航空連隊のMiG-29が後に続いた。
出撃と共に編隊を組み、あちこちから前線へ向かう友軍の戦術機らと共にベルリンへ向かった。
これが最後の戦いである、これを駆除すればこの地球上からBETAは消えてなくなる。
決戦の地ベルリンで、二度目の攻防戦が始まった。
何十機かのMiG-29とF-15の飛行隊が核爆弾で門級を破壊し、準備射撃の後に突撃を敢行した。
既に準備射撃の段階で152mm、155mm榴弾を広間に叩き込み、MiG-29が両肩に取り付けたS-13ロケット弾を全弾叩き込んでBETAを撃破していた。
当然だが室内にいる戦術機級はまだ生きている、突入してきたF-15とMiG-29を撃破して突入を一時的に止めた。
『戦術機級を確認!』
『撃滅しろ!』
無反動砲持ちが友軍が援護している最中にカートリッジを換え、即座に戦術機級に向けて成形炸薬弾を発射した。
連続して発射される152mmと155mmのHEAT弾によって戦術機級が持っていたシールドは砕かれ、まず第一の守りを破った。
その後に別のF-15とMiG-29がマーヴェリックとKh-29空対地ミサイルを叩き込んで火力で内部の戦術機級を殲滅した。
『撃破!突入!!』
突撃砲で残敵を掃討しつつ、国連軍の戦術機は広間の制圧に乗り出した。
後続としてF-16やトーネードIDS、MiG-23BNが続き、広間を確保すると一気に分かれているそれぞれの道に向かって前進した。
稀に迎撃の戦車級や特攻要員の兵士級、闘士級らが突っ込んでくるが事前に突撃砲やロケット弾で迎撃すれば倒せない敵ではなかった。
ただし一部の道には兵士級がへばり付いており、戦術機の通過を確認すると同時に自爆してG元素爆発を起こし戦術機を道連れにした。
こうしたBETAによる罠は各所で散見され、多数の損害が確認されていた。
とはいえ兵士級もレーダーには反応があるので突入した戦術機部隊には常にレーダーをよく見て移動するようにと命じられた。
一応占領下の広間、通路には火炎放射器を持った戦術機が外壁を炙り、BETAが隠れ潜んでいないかチェックした。
また簡易無人機を投入することにより兵士級らの自爆特攻の身代わりとし、可能な限り戦術機部隊に対する損害を減らした。
通常の野戦師団を送り込むのは基本後になる以上戦術機が今は歩兵となり、ハイヴ内の広間や通路を1つずつ制圧していかなければならない。
1月5日の早朝から始まったハイヴ突入戦は既に3日が経過しており、国連軍はまだ大広間のエネルギー炉に辿り着いてはいなかった。
横30キロ、縦2キロの超巨大ハイヴを攻略するにはこれだけの大兵力を投入してもやはり時間が必要であった。
「各航空軍は1日目に確保した橋頭堡から横10キロ、縦100メートル周辺を完全制圧しました。ですが未だに大広間には辿り着けていません」
「これほど大きなハイヴなのだ、仕方あるまい。ウィーン・ハイヴより最長の攻略作戦になることを覚悟せねばならん」
ウッチに司令部を構える第1ウクライナ前線司令部のヤゾフはタバコを吸いながらそう呟いた。
ウィーン・ハイヴはあれでも総合的に換算すればフェイズ4相当のハイヴである、深度は1キロに達しており戦力も複数個軍以上の戦力がハイヴに籠っていた。
これに対してベルリン・ハイヴはそれ以上のフェイズ5、守備戦力も含めてウィーン・ハイヴの上位互換であったがハイヴ内戦闘で全力を尽くすには若干兵力が足りない。
やはり12月の地上戦闘で相当数を失ったのが痛い、ベルリン・ハイヴの広さを隅々まで守り、反撃を打ち出すには若干兵力が足りなかった。
しかも攻略を担当する国連軍は合計して確実に二桁はハイヴ攻略戦を実施してきた者達だ、ソ連軍だけでも7度のハイヴ攻略戦を実施して成功してきている。
この時点で東西双方はより洗礼された戦法でハイヴ内の広間を攻略し、ハイヴ戦闘に特化した装備を戦術機が身に付けていた。
例えば突撃砲の120mm弾にナパーム弾が追加され、より爆発の加害半径が広い弾頭も追加された。
他にも腕部取り付け式のグレネード弾や戦術機用の手投げ弾などが開発され、広間攻略に用いられた。
1機のMiG-27がGSh-6-30機関砲を発射し、その横で別のMiG-27数機がグレネード式120mm弾を何発も撃ち込んでいた。
数度の爆発と機関砲の集中射撃によって室内に残っていた要撃級や戦車級らは全滅し、傷ついた突撃級数体が突っ込んできたが即座にKh-29空対地ミサイルとSu-25が搭載しているS-25空対地ロケット弾を発射して突撃級を仕留めた。
安全を確保するとMiG-27らは広間に突入し、周囲を警戒しながら守りについた。
後続の部隊が到着するまでにMiG-27らは度々BETAの強襲を受けた、改突撃級や多数の戦車級、要撃級が突撃して物量で広間を取り返そうと反撃を試みた。
広間の戦術機部隊は苦戦すれどもなんとか防ぎ切った。
腕部のアタッチメント方式グレネード弾を放って戦車級らを殲滅し、S-5ロケット弾やS-8ロケット弾でBETAを殲滅した。
改突撃級に関してはレーザーを撃たれないように壁の縁にピッタリつき、125mm対物砲や突撃砲の120mmグレネード弾で脚部を粉砕して足を止めた。
足が止まった瞬間にナパーム弾頭を投擲し、足が止まったBETAをそのまま焼き払った。
エネルギー炉に引火して改突撃級の死骸が炸裂、道が開けた戦車級らが火だるまになりながら突っ込んでくるがGSh-23-2機関砲を持つMiG-23MLらによって粉砕された。
増援が到着すると何機かの戦術機は広間の幾つかの箇所に爆弾を設置し、最悪に備えた。
設置が完了すると守備隊を残してMiG-27らは再び戦場へと向かった。
こうした広間に設置された爆弾は本当に最悪の場合において役に立つ。
あるハイヴの地点では戦術機級の襲来によってF-16やトーネードGR.1の混成部隊が殲滅され、後方の奪った広間まで後退していた。
弊所戦闘における戦術機級は野戦火力が叩き込めない以上格段に撃破するのが困難になり、機能とは言わないまでもハイヴ防衛の要として機能していた。
『後退だ!広間まで後退する!』
うち1機のトーネードGR.1がレーザー射撃によって撃墜され、殿を務めていたF-16も触手を数箇所に刺されて撃破された。
敵を殲滅すると数体の戦術機級は盾を構えて関節を守り、長刀とレーザー発射口を正面に向けてレーザーを放ちながら突進した。
逃げる戦術機らは突撃砲や120mm弾、マーヴェリックなどの空対地ミサイルを発射して時間を稼いだが戦術機級は迷わず突っ込んでくる。
逃げ切れないと思った瞬間、助けはやってきた。
広間にいたアメリカ海軍の2機のF-14からAIM-54フェニックス空対空ミサイルを数発発射し、速度による衝撃力によって戦術機級の足を止めた。
一部はシールドを粉砕されて衝撃により仰け反ったが脚部でブレーキをかけ、すぐに味方に合流した。
『今のうちに離脱しろ!ここは放棄する!』
F-14が突撃砲を放ち、奥にいた3機のF/A-18がマーヴェリックを発射し、搭載していたペイブウェイⅡを無理やり投擲して戦術機級の足を止める。
爆発の衝撃を防いでいるうちにF-14やF/A-18も広間を抜け出し、更に奥へと離脱した。
攻撃を防ぎ切ると即座に戦術機級は後続の戦車級や要撃級らを率いて広間に突入した、彼らとしては家の一部を取り返したようなものだ。
しかしこの広間にはとある置き土産があった、しかもそれに気づいた瞬間にはもう手遅れである。
広間に設置された複数個の爆弾が同時に起爆し、広間全体を巻き込む爆発を起こした。
当然戦車級や要撃級は即死、戦術機級も装甲を砕かれて死ぬかほぼ大破した状態で生き残ったかのどちらかであった。
爆発の熱と衝撃、それによって巻き起こる破片の嵐によって中にいた戦術機級はシールドごと左腕を吹っ飛ばされ、長刀を持つ右手も関節部の肉が今にも千切れそうだった。
全身の装甲は幾つか粉砕され、破片が本体の肉に突き刺さっており体液が溢れている。
やがて長刀の自重に耐えられなくなった右腕が千切れ落ち、長刀がその場に突き刺さった。
これでもこの戦術機級はまだ生命反応を維持しているだけマシだ、この爆発に巻き込まれた戦術機級は数体いたが生き残りはこれを含めて3体であった。
しかも全てが手負いの身、戦闘能力は既に喪失していた。
そこへ逆襲に来たNATO軍のトーネードGR.1やNF-5、先程まで広間にいたF-14、F/A-18らがハイヴ内に攻め込む。
突撃砲による制圧射撃を敢行し、2丁の突撃砲を構えたF/A-18が広間に先陣を切った。
『戦術機級並びに後続部隊の撃滅を確認。これよりBETAの後続を要撃しつつ、再び施設化を進める』
『了解、飛行隊はそのまま全身し広間の占領を進めよ』
何機かのF-14とF/A-18が命令通りにハイヴの奥地に進み、迫る要撃級や戦車級を撃破して前進した。
あるハイヴの通路には改造を施された要撃級が固定砲台として光線級を自前の装甲で守りながら触手を振り回して戦術機を寄せ付けないようにしていた。
『チッ!近づけん!』
『誰か!ハープーンか155mm弾持ってこい!』
『フランス海軍機来ました!エグゾセ持ちです!』
戦闘中であったのはポーランド人民空軍のMiG-23MF4機とイギリス王立空軍のトーネードGR.1が6機、アメリカ空軍のF-16が3機であった。
そこへAM39エグゾセ空対艦ミサイルを装備していたシュペルエタンダール3機とミラージュ2000が2機現れた。
エグゾセもハープーンなどと同じくBETA大戦では要塞級キラーとしてその地位を確立していた。
『よし、我々が囮になります』
『了解、フランス機は要塞級に対して対艦ミサイルを撃て。我々が援護する!』
まずポーランド人民空軍のMiG-23MFが手持ちの120mm弾とR-3S空対空ミサイルを発射して陽動弾を叩き込み、光線級の注意を引いた。
迫る触手はMiG-23MFが取り出した長刀によって切断され、トーネードGR.1やF-16らが援護に入った。
その隙にミラージュ2000の援護を受けたシュペルエタンダールがエグゾセ対艦ミサイルを発射し、複数存在する要塞級の固定砲台を粉砕した。
爆発に巻き込まれて砲塔部分の光線級も撃破され、一気に脅威が取り除かれた。
『よし、前進!』
複数の多国籍戦術機部隊が一斉に進み、広間を占拠した。
占領された広間は放射能汚染やBETA汚染の度合いによって活用方法が変わった。
汚染が酷いと基本的に放棄されるものだが逆に軽度の汚染であると後方から地上部隊と後方支援要員が進入し、前線補給拠点や簡易修理拠点を設置した。
こうした補給拠点や整備拠点の割り振りは東西双方を束ねる国連軍の統合司令部が担っており、中東やアフリカ戦役での経験が活きている。
基本的に弾薬類、燃料等の補給はハイヴ内の補給拠点で済ませてしまうが、損傷が酷かったり特定時間ハイヴに潜り続けた衛士は地上に出て自身の飛行場に戻ることが出来る。
場所によっては簡易の医療所も設置され、万全の態勢でハイヴ攻略戦を支えた。
全てはこの、BETAとの最後の戦いを皆で勝利のまま終わらせる為である。
少しづつではあるがベルリン・ハイヴ最奥への道は開けていた。
1月19日、最初のハイヴ突入時点から2週間の月日が流れたがハイヴ攻略の進捗はお世辞にも良いとは言えなかった。
国連軍はほぼ表層の30キロの広間と通路を全て制圧したがその後で止まっていた。
BETA側は固定砲台に改造された要塞級と光線級で待ち伏せを行い、国連軍の足止めを行っていた。
この間に上階にいた兵力をなるべく地下へ逃し、エネルギー炉周辺の防衛に充てた。
これに対して国連軍は無理押しをするのではなく、なるべく火力戦に持ち込んで確実に防衛機構を排除し前へと進んだ。
純粋な火力の押し合いでは遠方投射能力が戦術機級、光線級、超重突撃級、改突撃級しかいないBETAに比べて装備によって火力を変更出来る国連軍側の方が優位である。
要塞級トーチカもハープーンやKh-59オーヴォドを搭載した海軍戦術機が次々と要塞級を破壊し、進路を切り開いた。
かくして戦闘は続き、国連軍は少しずつ奥地へと進んでいった。
1月18日には地表に最も近い第一のエネルギー炉に最も近い広間を複数箇所占拠し、ここを起点に国連軍はまず第一のエネルギー炉に向けて攻勢をかけていた。
当然だがの周辺に展開するBETAは並の守備隊の兵力を遥かに上回っており、そう簡単には突破出来なかった。
『クソッ!損傷大、離脱する!』
『このままじゃあ突破出来ないぞ!』
何機かのMiG-23BNやMiG-23MFが離脱し、MiG-25PDSが搭載していたR-40R空対空ミサイルを発射したが相手の改騎兵型戦術機級は背腕が持つ2つのシールドによって攻撃を防ぎ、対空レーザーによって数発は撃墜してしまった。
しかもレーザーを短射モードから長射モードに切り替え、10秒のリチャージと引き換えに周辺をレーザーで全て焼いた。
照射された地点で複数回の爆発が発生し、2機のMiG-21MFとルーマニア人民空軍のMiG-23MF1機が撃墜され、同じくルーマニアのIAR-93ヴルトゥール2機が中破した。
他にもソ連防空軍のMiG-25PDSが3機小破し、展開していた戦術機部隊は少なくないダメージを負った。
『損害確認急げ!』
『損傷機は離脱しろ!無理するな!』
『隊長!増援です!MiG-29の1個航空連隊!』
爆炎の中友軍がレーザー照射から距離を取っているとレーダーに何十機かの友軍機が映った、識別信号は全てMiG-29を示している。
『どこの部隊だ!』
『第306独立親衛戦闘航空連隊……フレツロフ大佐の連隊です!』
「先行展開部隊へ通達する。我々が戦術機級を可能な限り仕留めるから我々の突入後反撃部隊のBETAを撃滅しろ」
『了解!』
後方へ下がるMiG-23BNやMiG-23MFらの代わりにフレツロフ大佐のMiG-29らが先行し、戦場へと赴く。
うち1機のMiG-29が両手に持つ152mm無反動砲から数発の榴弾を発射し、広間に向けて榴弾を叩き込んだ。
通路の穴から何発かの榴弾が叩き込まれ、内部にいる改騎兵型や騎兵型、戦術機級らはシールドを構えて榴弾の雨を防いだ。
だがこれは陽動、本命は別の地点から襲来する。
「今だ!」
フレツロフ大佐の命令で彼らがいる通路より少し下の通路から第306独立戦闘航空連隊第1飛行隊と第3飛行隊が一斉に飛び出した。
『喰らえっ!』
何機かのMiG-29からKh-31空対艦ミサイルを発射し、同時に152mm無反動砲を装備しているMiG-29は同時に火力を叩き込んだ。
シールドを上に向けている戦術機級は防御の意識を横合いのMiG-29らに向けることも出来ず胴体にKh-31を喰らって爆散した。
胴体が弾け飛び、真っ二つになった戦術機級の残骸が地面に転がる。
なんとか攻撃を避けて助かった改騎兵型や何体かの戦術機級は即座にレーザーを放って触手に装着させた長刀を振り回して周辺を滅多切りにした。
戦術機級の触手は腕を振ることなく勝手に動く為、レーザー照射と触手長刀による薙ぎ払いが同時に出来た。
『各機避けろ!無理なら退避して構わん!』
デルーギン中佐は副連隊長兼飛行隊長として突入部隊に命令を出した。
何機かは無理をせず後方の通路に退避し、腕利きはその場に留まって部隊を釘付けにしていた。
その間に上から移動していたフレツロフ大佐と第2飛行隊は一気に通路を出て上空を確保し、一斉に襲撃をかけた。
「撃て!」
152mm弾やKh-31空対艦ミサイル、Kh-29空対地ミサイルなどを一斉に叩き込み、上空から更に数を減らした。
真上から152mm弾を叩き込まれ、頭が吹き飛び、その後非装甲部分にKh-29空対地ミサイルを叩き込まれた戦術機級が爆散した。
他の騎兵型もKh-31を真上から食らって撃破され、残りはシールドを2枚失った改騎兵型だけであった。
即座にシールドを持っていた腕から触手が飛び出して落ちていた長刀を手にし、四等流の構えで戦った。
「モースク、敵の攻撃を全て予測して表示しろ、叩き切る。ルヴィロヴァ大尉とブリツェンスキー中佐は俺が援護しているうちにあの騎兵型を仕留めろ、いけるな?」
『了解』
『お任せください』
「それじゃあ行こうか!」
まず120mm弾を発射して改騎兵型の注意を引き、改騎兵型はフレツロフ大佐のMiG-29に攻撃を集中させた。
発射されるレーザーを全て回避しつつ、射出される長刀付触手を薙ぎ払った。
改騎兵型が射出する触手の弾道は基本的にモースク1が予測した通りに飛んできた、それらを全て回避し反撃として長刀を振って触手を切断した。
切断された触手は当然だが本体の命令を受け付けなくなり、攻撃兵装としては死んだ。
即座に触手を体内に戻して回復に努め、残り3本の長刀付触手を振り回しながらレーザーによる弾幕射撃を叩き込んだ。
「ッ!」
幸いにも攻撃の予測は全てモニターに映り、99%は予測通りに発射される。
そのままカウンターとして残り3本の職種も切断し、攻撃能力を半減させた。
「よし!」
『今だ!』
まずブリツェンスキー中佐のMiG-29が125mm対物砲とKh-29空対地ミサイルを同時に発射し、火力を集中させて改騎兵型の右腕を一本破壊した。
これで腕を盾に我が身を守る頃は出来ない。
残る右の背腕が復活した触手を射出して突き刺さっていた味方のシールドを手にしようとしたがその触手をシュペーギン少佐が切断し、その間にデルーギン中佐が長刀で背腕を切断した。
完全に右側の防御能力を奪い、丸裸になった改騎兵型に対してルヴィロヴァ大尉はKh-31空対艦ミサイルを1発撃ち込んで仕留めた。
Kh-31を喰らっても完全に真っ二つにはならなかったが、胴体が8割方消し飛び、BETAとしては死んだ。
「よし!」
『今だ、広間を占拠しろ!』
待機していた何機かのワルシャワ条約機構軍の戦術機が姿を現し、反対側の通路を抑え、迫るBETAを撃滅した。
ルーマニアのIAR-93ヴルトゥールが数発の100キロ爆弾を通路に投げ入れて起爆し、迫る戦車級や要撃級を吹き飛ばす。
こうしている間にフレツロフ大佐と第306独立親衛戦闘航空連隊は結集し、損害や弾薬の量を確認していた。
『うちは後一戦くらいなら戦術機級と戦えます、ですがそれ以降となると……』
『我々第2飛行隊も同じだ』
『第1飛行隊も後一戦は戦える、どうする連隊長』
「一戦行けるなら行くしかあるまい、次の広間を占拠したら交代して補給を受ける。メデツィーニン、状況は」
水筒を取り出して水を飲んで水分を補給しながらフレツロフ大佐は尋ねた。
『アメリカ空軍の飛行隊が大広間から3キロ地点に橋頭堡を確保した。恐らく明日には大広間攻略が始まっているだろう。補給要請はこちらで出しておく』
「頼んだ。全機、もう一戦行く。ここが踏ん張りどころだ」
『了解!』
フレツロフ大佐のMiG-29を先頭に第306独立親衛戦闘航空連隊は再び前線へと向かった。
一方後方のジェロナ・グラの前線飛行場に指揮所を移した第306独立親衛戦闘航空連隊の本部は日夜上級司令部から送られてくる情報を精査し、いつでもフレツロフ大佐に伝えられるようにしていた。
その指揮を取り仕切るのが参謀長兼副連隊長のメデツィーニン中佐である、彼は本部付の何人かの将校らと共に飛行場指揮所に残っていた。
「スヴィルコフ少佐、ハイヴ内の補給所に第306連隊の補給準備を要請してください。数は39、可能であれば空対艦ミサイルと152mm弾を多めに用意しておくようにとも」
メデツィーニン中佐は第306独立親衛戦闘航空連隊に属する通信技術大隊長のセミョーン・スヴィルコフ少佐に頼んだ。
「了解、直ちに繋げます」
スヴィルコフ少佐はメガネを上げて通信機を持ち、要塞内司令部に連絡を取った。
「さて、フレツロフの隊は……ここか」
メデツィーニン中佐はハイヴ内の地図を見下ろしながらフレツロフ大佐の部隊を確認し、周辺状況を調べた。
ハイヴ戦は各所で苛烈さを増しており、殆どの地点で戦術機級や改騎兵型が確認されるようになった。
逆に言えばこれらを突破すればエネルギー炉までもう少しということだ。
既に各所である程度の犠牲は払いつつも改騎兵型の撃破し、進路を切り開いていた。
メデツィーニン中佐の言う通り、後1日もすれば国連軍の戦術機部隊が大広間に到着して攻略を巡る大決戦となるだろう。
大広間を攻略すればベルリン・ハイヴ全体の攻略が一歩進む。
2週間使って一歩だと相当遅いように感じるがベルリン・ハイヴの巨大さを考えれば仕方のないことだ。
「さてと、あれの出番はあるかな」
メデツィーニン中佐は飛行場指揮所近くの簡易格納庫に入っている予備のMiG-29らのことを思い起こし、少し格納庫の方を見た。
フレツロフ大佐はいざという時にあれに乗れと言ったがそのいざという時がないことを祈りたい。
このまま安定してBETAに対して勝ちたいものだ。
それが叶わないと知りつつもメデツィーニン中佐は前線で戦う戦友達のサポートに従事した。
1月20日、ハイヴ突入から15日が過ぎた。
各軍は大広間守備隊の戦力を半分以上撃滅し、大広間まで起こり1キロの地点まで迫った。
これまでに撃破したBETAの戦力は”ポーリュス”の照射で消し飛んだBETAも合わせれば1個軍に相当する。
それでもBETAの物量は未だに衰えることを知らず、第一の大広間はともかくとして他の地点では逆襲されて泣く泣く広間を放棄する場所もあった。
戦いは長期化し、幾つかの部隊は地上に戻って本拠地の飛行場で補給を受けながら衛士達の精神休養を取っていた。
”ウリヤノフスク”海軍航空隊のSu-27K部隊もハイヴ内から洋上の母艦に帰還し、補給と休養を受けるよう指示を受けた。
ベルグロフ大佐率いる何十機かのSu-27KとMiG-29Kが次々と”ウリヤノフスク”の甲板に着艦し、乗組員の誘導を受けてエレベーターに乗り込んで格納庫に入った。
「950001、格納庫に入りました。続いて950201、02らの着艦を確認」
「二番エレベーターに回せ、第2飛行隊は二番エレベーターから格納庫へ入れろ」
ヴィセーニン大佐はゴキナエフ少将から艦長の職務を譲り受け、”ウリヤノフスク”の指揮を取っていた。
次々と”ウリヤノフスク”に搭載している戦術機が母艦に帰還し、甲板上に戻ってきていた。
甲板からは次々と着陸するSu-27KやMiG-29Kが確認出来る、なんとか艦載機部隊は全機無事に帰ってきた。
「上級司令部からは次いつ出撃せよと言ってきているかね」
”ウリヤノフスク”を旗艦とする海上航空師団の指揮官となったゴキナエフ少将はヴィセーニン大佐に尋ねた。
「一応統合司令部からは3日後に再びハイヴ内に突入せよと命令を受けています。当分の間は”リガ”の航空連隊が主力を担うとか」
ヴィセーニン大佐が話している側で”ウリヤノフスク”に隣接するアドミラル・クズネツォフ級二番艦の”リガ”から艦載機部隊が発艦していた。
”リガ”が搭載する戦術機は本国から増援を受けたSu-27Kが21機、本来運用しているMiG-23Kが18機という状態である。
大体1個飛行隊と各飛行隊に3機ずつという編成になる。
スキージャンプから次々とSu-27Kが飛び立ち、その後にMiG-23Kが続いた。
出撃した戦術機は編隊を組んで後続を待たずに次々とベルリン方面へ向かった、どうせ後からついてくる、各飛行隊ごとに編成は到着した後にすればいい。
「必要であれば衛士は1日くらい陸に上げてやれ。狭いハイヴの中から狭い艦の中では心も休まらんだろう」
「よろしいんですか?」
ゴキナエフ少将の命令に対し、ヴィセーニン大佐は今一度尋ねた。
「ああ、構わん。この戦いは確実にもう数週間は続く、下手にストレスを溜め込むのは良くない」
「分かりました、ベルグロフ大佐に伝えておきます」
「頼んだ」
陸地で羽伸ばしが出来るソ連空軍、ソ連防空軍の衛士達と違ってソ連海軍航空隊の衛士達は母艦が洋上に待機している為戻ってきても陸で自由にとはいかなかった。
流石に休ませるにしても艦艇の中だと疲労は溜まるだろうから、チャパコフ中佐らと協議した結果の結論だ。
このように本拠地へ戻る戦術機部隊に対してハイヴ内の後方では展開したソ連地上軍、アメリカ陸軍らの工兵隊が電力や通信ケーブルをハイヴ内の通路に敷いていた。
結局ハイヴ内に拠点を設置するにしても電力や通信網は必要であり、完全に制圧された地点には陸の工兵達が入ってケーブルやライトの設置を行っていた。
また科学防護部隊も出動してハイヴ内を洗浄し、可能な限り使える領域を増やした。
確保した地点には軍の建設部隊が入り、まずはテントによる簡易指揮所や兵舎を建て、そこから様々な建物や補給物資を下ろした。
ハイヴ内をアメリカ陸軍のHEMTTが数輌走っている。
道はガタガタでかなり荒れ果ててはいるがこの大型トラックであれば特段問題はなかった。
通ってきた車両を誘導の兵士が停めて、物資の荷下ろしを始めた。
勿論こうした補給網は地上を走るHEMMTだけで担っているわけではない、小型ヘリコプターやF-4やMiG-21などの戦術機が輸送用に改造されて物資を運んでいた。
各所にこうした補給拠点や簡易指揮所、通信技術関係の施設が設置され、前線で戦う国連軍の戦術機部隊を支えていた。
丁度主に東側の補給物資を集めた地点にハンガリー人民空軍のMiG-23MFが6機とブルガリア人民空軍のMiG-23MF6機が訪れた。
うち4機は損傷し、そのうちの1機は中破ないし大破の域にまで達していた。
『パイロットが負傷してる!医療班を頼む!』
機体のコックピットブロックが開き、中の衛士が出てくると担架と輸血パックや最低限必須の医療キットを持った衛生兵らが駆け寄り、衛士を担架に乗せて近くの運搬車両まで運んだ。
その間に損傷機の修復や武器弾薬の補給を行い、衛士らも外に出て自身の栄養補給を行なった。
ちなみにこういう場合の補給は戦術機を専用のトレーラーに寝かせ、そこで空対地ミサイルやロケット弾を補充し、各機のパーツを交換した。
負傷者は近くの医療所に運び込まれ、そこで軍医らの手当を受けた。
負傷度合いによって受けられる治療は変わってくる、軽傷であるならここで傷を治療すればいいが重傷者は応急処置を施された後にさらに後方の医療所に運ばれた。
戦っているのは何も前線の衛士達だけではない、かつてジョージ・パットンが言ったように後方で飯を作っている調理兵も、前線まで続く電線や通信ケーブルを張っている工兵も、負傷者を治療する軍医と衛生兵も、補給地点を管理する兵站将校らも皆でBETAと戦い、前線を支えているのだ。
故に彼らは強い、軍隊は1人では構成出来ないから強いのだ。
人類がほぼ数え切れないほどの年月をかけて編み出した近代軍という代物がハイヴ第一の守りを突破しようとしていた。
1月20日午後2時、崇継と介六郎の”鳳鷲”は他のF-15Jと共に大広間から500メートル地点の防衛線にいた。
丁度戦術機級や超重突撃級らを備えた最後の部隊と前にいたアメリカ空軍、イタリア空軍らの部隊が交戦しており、崇継達が到着する頃にはなんとか戦術機級らを撃滅していた。
それでもF-15やF-16、トーネード A-200に損傷機が多く、これらの部隊は一旦後退する事となった。
その代わりとして日本空軍の戦術機部隊が彼らの代わりとして先鋒を務める事となり、ようやく旧武家にも出番が回ってきた。
『各機、我々はこれより大広間に突入する。同族が犯した罪、我らの戦働きによって上書きしようではないか!』
佐竹中佐のF-15Jは長刀を抜き、行き先に刃を向けて前進を開始した。
14機のF-15Jが大広間を目指して前進を続けた、道中戦車級や要撃級が現れたが突撃砲を数発叩き込んで撃破する。
最早ここまで来れば彼らを阻む者はいなかった、僅かな手合いしかいないBETAは叩き潰されて道を譲った。
「よし!」
F-15Jの飛行隊は突入に成功し、大広間に躍り出た。
しかし彼らの思い描いた事態とは違い、既にソ連空軍のMiG-29らが大広間にいる戦術機級らと交戦していた。
大広間というだけあってハイヴ内に存在する他の広間とは大きさが段違いであり、右端には青白く輝く繭のようなものがあった。
これがエネルギー炉の正体であり、もっと言ってしまえば未完成の超重光線級である、このエネルギー炉をベースに超重光線級の発射機構や歩行能力、衛盾級を搭載して3体編成で運用する。
予備機含めた新しい超重光線級をもう5体ほど作ろうとしていたのだが完成が間に合わなかった、それが5つ存在する大広間とエネルギー炉の正体である。
『こちらは日本空軍所属部隊、加勢する!』
『こちらソ連空軍第306独立親衛戦闘航空連隊、手助けに感謝する!そちらで何機かの戦術機級を相手してくれ!』
『了解…!各機、戦闘開始!戦術気球を叩き潰せ!』
手持ちの120mm弾を発射して戦術機級の注意を引き、日本空軍と戦術機級の交戦が始まった。
崇継と介六郎の”鳳鷲”も戦闘に参加し、2人で一先ず1体の戦術機級を相手取った。
レーザーを回避しながら触手の畝る範囲攻撃を避け、その間に接近した崇継の”鳳鷲”が突撃砲の一撃で右腕を潰し、長刀で首を刎ねた。
攻撃が弱まったところで介六郎の”鳳鷲”が傍に突撃砲を叩きつけ、1カートリッジ分撃ち込んで仕留めた。
「1体やった!」
撃破した瞬間に余裕が出た崇継は別のBETAと交戦するフレツロフ大佐らの方を見た。
彼らはMiG-29を巧みに操り、戦術機級や改騎兵型数体と戦っていた。
フレツロフ大佐と第306独立親衛戦闘航空連隊の名前は崇継も聞いたことがある、7回ほどハイヴに突入して毎回最奥まで行って生きて帰ってきている精鋭部隊だと。
それ故か戦術機の操縦技術と飛行隊による戦闘技能は明らかに自分の部隊よりも高い、何より未だにこれだけの戦術機級と交戦して生き残っているのが驚きである。
彼らに負けていられない、崇継は己を鼓舞し、撃破されそうな友軍のF-15Jを援護した。
2発のマーヴェリックを背中に放ち、装甲を破ったところに介六郎の”鳳鷲”が同じくマーヴェリックを発射して戦術機級を撃破した。
他の戦術機級はF-15Jの長刀を一撃で叩き折り、そのまま左手のシールドでF-15Jを押し潰そうとしていた。
そこへ左手の関節に近接用短刀を投げ刺し、無理やりシールドを落とすと反対側から崇継の”鳳鷲”が現れ、顔面にハイドラ70ロケット砲を全弾撃ち込んだ。
予想外の攻撃を受けて混乱したが即座に刃を振ってカウンターを叩き込もうとしたがそこに”鳳鷲”はいなかった。
捜索する前に”鳳鷲”の長刀が戦術機級の首を刎ね飛ばし、長刀と四〇式近接刀の二刀流で戦術機級の両腕も切断した。
両腕と頭を失った戦術機級は切断箇所から紫色の体液を流し、抵抗することも出来ないまま別のF-15Jによって撃破された。
「我々が引き付ける!その間に攻撃を頼む」
『了解!』
『崇継殿に続きます!』
崇継らの”鳳鷲”は戦場を自由に飛び回り、敵を翻弄して確実に武装を奪っていった。
出会い頭に足の付け根を切断して動きを鈍らせ、関節にも突撃砲の弾を撃ち込んで致命打を与える。
こうして動けなくなった戦術機級は他のF-15Jがマーヴェリックや155mm無反動砲を近距離で叩き込み、確実に仕留めた。
その光景をフレツロフ大佐もしっかり見ていた。
「いいねあの青いF-15!いい腕をしてるよ!」
”あれはXF-15JRG”鳳鷲”と呼ばれる日本軍旧斯衛軍が開発した試作戦術機だ。運動性能は高く、通常のF-15Jよりも近接戦闘に優れている”
「よく知ってるな!」
改騎兵型が脚部から飛ばしてくる触手を回避しながらフレツロフ大佐はモースク1の話に答えた。
この改騎兵型はシールドを持たない代わりに4本ある腕の方に可動式かつ小型のシールドを備えており、そこからは触手とレーザーが出るようになっていた。
その上で4本ある足からも触手が現れる為、厄介であったし無法の強さを誇っていた。
これがこの大広間の守り主であり、現状の系譜としては改騎兵型の最終形態とも言える個体であった。
近接戦は2本の長刀と2本のランスで担当し、防御は4枚の小型シールドと全身装甲で防ぐ。
遠距離攻撃は合計6門のレーザーによって賄い、範囲攻撃は合計10本の触手が担当した。
これだけ色々なものを搭載すると図体も大きくなり、他の戦術機より一回りないし半回りほど大きい見た目をしていた。
なんとか第2飛行隊と第3飛行隊で戦術機級を引き付け、第1飛行隊とフレツロフ大佐率いる本部飛行隊で改騎兵型の相手をしていたのだが、中々ダメージを与えられずにいた。
それでも152mm弾やKh-31によって一部の装甲は砕け、若干チャンスが巡ってきた。
相手の攻撃を回避しつつ慎重に火力を叩き込み、最低限こちらに注意を引かせる。
「大広間で戦闘中の全部隊に通達する、後3分耐えろ!3分後に友軍機があのデカブツに核弾頭を落とす。誘爆の危険性があるから急いで退避しろ」
フレツロフ大佐は広域放送でF-15J含めた全部隊に通達し、離脱の用意をさせた。
彼らの目的はあのエネルギー炉を破壊すること、何も改騎兵型と無理に交戦しなくとも別に良い。
フレツロフ大佐は軍人であり指揮官である、単純な1対1の撃ち合いよりも多数で戦う方が効率的だと思っているし、無理に敵を倒さんでも目標さえ達成出来ればなんでも良かった。
故にメデツィーニン中佐に頼んでSu-24の飛行隊をこちらに回してもらい、部隊が到着するまでフレツロフ大佐は守備の戦術機級と戦っていた。
とは言っても離脱する際に追撃されると面倒だから最低限武装は奪っておきたい。
既に他の飛行隊も戦術機級の掃討が終わり、こちらに加勢するMiG-29も増えてきた。
迫る触手を助けにきたオルゼルスキー少佐とシュペーギン少佐のMiG-29が長刀を持って切断し、攻撃の穴が空いた所にルヴィロヴァ大尉のMiG-29がKh-31を撃ち込む。
この一撃によって小型シールドごと右背腕が叩き落とされ、一気に攻撃力と防御力を削ぎ落とした。
ターゲットをルヴィロヴァ大尉に絞った改騎兵型は右前足から出す触手を差し向けたが、即座にブリツェンスキー中佐のMiG-29が放つ突撃砲弾によって触手は破壊された。
しかも背後から迫る2機の”鳳鷲”が数本の触手を袈裟斬りにし、防御の隙間を掻い潜って左手を斬り落とした。
反撃と言わんばかりにレーザーが叩き込まれるがそれらは全て”鳳鷲”の機動力で回避し、シールドと左背腕の触手は援護に来たフレツロフ大佐のMiG-29が全て落とした。
「いい腕だ!」
『お褒め頂き恐悦至極!』
『大佐、遅れました!』
丁度崇継とフレツロフ大佐が話していると上空から12機編隊のSu-24が出現し、まず露払いとして6機が一斉に3発のKh-59空対艦ミサイルを発射、続いて後続の3機が主に改突撃級に向けてKh-31空対艦ミサイルを発射した。
突然の強襲により残っていた戦術機級は全て空対艦ミサイルの餌食となって撃滅され、3発のKh-31を喰らった改突撃級も流石に耐え切れずに爆散した。
『離脱してください!間も無く爆撃を開始します』
「了解!全機俺とブリツェンスキー中佐の機体に続け!安全圏まで退避する!」
第306独立親衛戦闘航空連隊の戦術機だけでなく、日本空軍のF-15Jにもビーコンが提示され、彼らはそれに従って離脱を開始した。
後続のSu-24が搭載している戦術核爆弾をエネルギー炉に向けて投下し、投下を確認すると即座に機体を翻して全速力で大広間から離脱した。
順番としてはMiG-29が先頭を行き、その後にF-15Jと”鳳鷲”が続き、最後にSu-24が離脱するという中々見ない光景となっていた。
『フレツロフ殿、どこまで逃げるおつもりか?』
「とにかく距離を取る!死にたくなきゃ俺についてきてくれ!」
佐竹中佐の問いに対してフレツロフ大佐は大雑把に答えた、彼が危惧していたのは戦術核の爆発だけではないエネルギー炉の衝撃波が周囲に及ぶ可能性である。
この時大広間2キロ圏内で戦っている全ての戦術機及び後方支援要員に後退命令が出た。
基本的に後方支援要員はこの近くにいなかったが戦術機は急いでその場から撤収した。
離脱から数十秒後に投下された核爆弾は正常に起爆し、エネルギー炉を粉砕するだけの火力をその場に展開した。
この時発生したのは核爆発だけではない、同時にエネルギー炉に誘爆し二次爆発が発生して更なる被害を周囲に与えた。
無論大半の戦術機は事前に離脱した為難を逃れたが守備のBETAはそうもいかなかった、彼らは大爆発に巻き込まれて消失し跡形もなく消えた。
「司令部、大広間のエネルギー炉を破壊。繰り返す、大広間のエネルギー炉を破壊」
『確認している、直ちに補給ポイントV-907にまで移動せよ。確認は別の偵察飛行隊が行う』
「了解、各機指定した補給地点まで向かう。みんなよくやった」
『また我々が祖国の為に伝説を作ったんだ、これは勲章もの間違いなしだ!』
様々な面持ちのまま彼らは指定された補給地点まで日本空軍の戦術機と共に向かった。
1985年1月20日、ようやくハイヴの一角が崩れ落ちた。
この爆発で戦術機級を含めた多数のBETAを失い、ベルリン・ハイヴの戦力不足は益々深刻なことになる。
かつてライヒスタークがあった場所にもう一度赤旗が靡くのはそう遠い未来のことではなかった。
つづく