エ・ランテルの冒険者組合では、かつてない事件が起きていた。
唐突に冒険者を狙った"正体不明の通り魔"が現れた事で、日に日に同業者が減少してゆき、現在では働き手に困らなかった恒常的な依頼にまで影響が出始めそうになっていた。
"通り魔"と早い段階で断定できたのは、郊外だろうと被害に遭った冒険者達がプレートを奪われていた為なのは、さて置き。
他人の不幸は蜜の味……最初は【回って来る筈の無かった依頼が、高額で斡旋された】と喜んでいた冒険者も居たが、昨日、隣で酒を飲んでいた者が殺される程、死が身近となると、容易にこなせる仕事すら控える者が出て来る始末。
それでも冒険者組合の雰囲気こそ、カツラギ達が違和感を得ないレベルで従来の空気を保っていたのは流石と言えたが……
一刻も早く対策を練らなければ成らなかった冒険者組合は、前例が無かった事件ゆえに、所属している中で最も段階の高い"ミスリル級"を動かすにしても、互いに匙加減が分からないまま時間ダケが過ぎてゆき、結局、組合長プルトン・アインザックはエ・ランテル側では手に負えない案件と判断する。
よって、彼の嘆願を聞き入れた都市長パナソレイによって、王国内のアダマンタイト級の冒険者チームに声が掛けられたのだが、【朱の雫】は返答待ちであり【蒼の薔薇】に至っては王都での"別件"により多忙との噂を聞いていたので良い返事は得られないと思われた。
しかし、予想以上に早く返事の手紙が届いた上に、まさかのOKであり、彼女達さえ到着すれば"通り魔"を退治してくれる……と組合側としては一安心だったが、実は本命はそこでは無く、【何故か】王国戦士長ガゼフが生還した真相を、蒼の薔薇を通じて"黄金の姫"が知りたがった為である。
現在、ガゼフを始末しようとした貴族連中含めて、水面下で多くの人間が真相を知りたがっているが、迂闊にボロを出す訳にはゆかず、どんな危険が待ち受けているかも分からないので、簡単にはカルネ村に探りを入れる事が出来ず、それは"黄金の姫"も同じだったが、友人関係である蒼の薔薇のリーダーが"通り魔"を退治する依頼を受け、エ・ランテルに赴くのを口実に、(組合のルールではNGだが)その"ついで"としてメンバーに動いて貰うのが本命だった。
尚、死を撒く剣団を潰すのは、古典的な口実だからと蒼の薔薇の"別件"よりは優先されていなかった。
一方、それらの事を知る由もない組合側だったが、寝耳に水と言うべきか、驚愕の報告が上がって来る。
知る人ぞ知る"ズーラーノーン"の一団が昨夜、共同墓地の巡回ルートで、全員が縛られて意識を失った状態で発見されたのだ。
それに対して、緊急性が高いとみた組合側は即座にミスリル級を含めた多くの冒険者を派遣し、事態の収拾を図ったが、何故かズーラーノーンの誰もが、自分達が無力化された原因すら分からず、【あの女が裏切ったのかもしれない】と曖昧な事を口々にした程度だった。
だが、更に調査を進めると、何とエ・ランテルを"第二の死都"にしようとした証拠が(カツラギ達の工作で)数多く見つかり、その計画を確実に成功させる為に【冒険者を始末する指示を与えていた者】の存在も(同じく工作によって)示唆された事で、組合側は早くも"通り魔"を【ズーラーノーンを裏切った暗殺者】と断定し、そうなれば冒険者の被害は収まると予想する反面、だからと言って安心はできず、通り魔の罪も消えないので、その暗殺者を放置するのか、それとも追い続けるのか?
12高弟を含んだズーラーノーンの一団を単独で全員捕縛できる程の実力者なら、ミスリル級では死者無しで勝てるかどうか分からず、該当チーム"クラルグラ"のリーダーも否定しなかったので、コレ以上被害が増えては死活問題と言える上に、発見から1日も経っていないしで、ひとまずは蒼の薔薇が到着するまでは保留にするしか無いとするだろうが……
————カツラギ達の4名の再訪により、思わぬ形で"通り魔"の案件が進展する。
(では、宜しいですか? バルド殿)
(お任せください! カツラギ殿ッ)
時刻は昼過ぎ。
前述の一件により、多くの冒険者が捜査に駆り出された為、エ・ランテルの冒険者組合のロビーには、運悪く美味しい仕事を逃がした僅かな冒険者が、追加の"お零れ"にありつけないか待機している程度で有り、再びサブデュードの一行が現れても昨日ほどの注目は受けていないのは、余談として。
受付嬢としては、こうも早く彼らが訪れるとは思わなかった為、ズーラーノーンの対応で此処を離れている組合長アインザックの【もしサブデュードが来たら引き留めて置く様に】と言う指示に対しての心構えが全く出来ておらず、狼狽えるしか無かったが、そんな心情を露知らず、目の前まで足早で歩いて来たカツラギは、【失礼】と会釈してから持っていた大きな袋をカウンターに乗せ、それを空けると、中には大量の"冒険者プレート"が入っており、流石は組合の職員か、瞬時に意図を察した受付嬢は目を丸くさせて問う。
「こ、こんなに沢山の……と言う事は、もしかして……?」
「はい。例の"通り魔"から押収して参りました」
「!? で、では……犯人を仕留められたのですかッ?」
「いえ……追い詰める事は出来たのですが、残念ながら、後一歩の所で逃げられてしまいました。ですが、かなりの深手を負わせたので、二度と悪さは出来ないと思います」
「は、はァ」
「そして……アルシェ君?」
「はいッ」
カツラギの言葉をどう受け止めて良いか分からず、相槌を打つしか無かった受付嬢であったが、彼の呼び掛けでアルシェが前に出て来ると、(本人の希望で)持っていた《叡者の額冠》をカウンターに置いて再び後方に下がった。
「此方は……?」
「"通り魔"がプレートの他に奪ったと思われるサークレットです。どうやら(スレイン法国にとっては)貴重な品の様なので、いずれ持ち主が現れたらお返して頂ければと……」
「ひ、ひとまずお預かりしますッ。えっと……通り魔の件、本当にお疲れ様でした! ですが、この戦果をどれ程の評価にすれば良いのかは、私では判断しかねますので、少々査定の御時間を頂ければと思うのですが……?」
「いえ……査定については、辞退させて頂きます」
「へっ?」
「こうして、奪われたプレートはお届けする事が出来ましたが、"通り魔"は逃がしており、深手を負わせた証拠も無いので、此方としては報酬を受け取る訳にはゆきません。では、次の仕事も有りますので、此れにて失礼致しますッ」
「え、えぇ~ッ!? ちょっと待って下さい……!!」
受付嬢としても、当日に報酬が出るのかは微妙なラインだったが、アインザックの指示の為にも、査定を口実に此処に留めて置くのは悪く無い案だと思っていた。
実際に、冒険者プレートと言う"動かぬ証拠"は有る訳だし、直ぐには無理でも月日が経って事件の"解決"が承認されれば、かなりの報酬が渡されるだろうし、間違い無く段階も上がる。
よって、余程"欲"が無い限りは査定を断らないだろうと踏んでいたが、まさかの辞退であり、サブデュードは全員が会釈したと思うと、即座に踵を返して建物から出てゆこうとしてしまう。
それに対して受付嬢は、今は順番待ちをしている者が居ないと踏んで、カウンターを飛び出してでも止めようと動いたが……
「何方へゆかれるのです? 次は私の話を聞いて頂きたいッ」
「!? か、畏まりました……あッ、貴方はひょっとしてロフーレ商会の……?」
「いかにも。バルド・ロフーレです」
「商会のトップの方が、何故、直々に此方に?」
間髪入れずに受付嬢の動きを遮る形で、カツラギ達の後ろで目立たぬようにしていたバルドがカウンターの前に現れる。
カツラギとしては【上手い事プレートを押し付けつつ、さっさと退出する】流れの中で、このタイミングで自分達が呼び止められるのは想定内だった。
しかし、それを無視してまで立ち去るのは礼儀に反すると言う、冒険者の範疇では"非常識な常識"を持っていた為、こうしてバルドに協力を頼む事で蟠り無く組合から離れられるようにしていた。
この際、一行は僅かに足を止めてワザとらしく背後に視線を送っているが、こうなっては受付嬢は定位置に戻ってバルドに対応するしか無い様であり、此方の事は潔く諦めていた。
一方、バルドは只"それだけ"の役割で冒険者組合にまで足を運んだワケでは無く、カツラギ達との相談の末、大きな一手に出ようとする。
「それは勿論ッ、冒険者の方達の手をお借りしたいからです!」
「は、はァ……人手の確保ですか? では、何を行わせたいのでしょうか?」
「盗賊達……"死を撒く剣団"の捕縛の手伝いですッ」
「へっ?」
「彼らの悪行の数々は、当然、組合長や都市長の御耳にも届いているでしょうッ? それなのに、未だに放置されており、あんな"近場"で略奪行為を繰り返すのを許している……よって、とうとう我が商会は我慢の限界に達し、奴らに対処する事としましたッ! ですが、腕利きのチーム(口にはしないがカツラギ達)を雇う事はできたのですが、推定で七十人もの盗賊を捕縛する手は足りない為、こうして人手を求めて赴いた次第ッ」
「!? 商会側が盗賊団に"直接雇用したチーム"を送るだなんて、前代未聞ですよッ! 先ずは冒険者組合を通して頂く以前に、"死を撒く剣団"には凄腕の構成員も居るとの噂ですから、もっと慎重に対応を————」
「そうやって慎重にする最中で、我が商隊が襲われたとして、冒険者組合が保証してくれるとでも言うのですかッ!?」
「ひッ!」
バルドは唐突にドンッ、とカウンターを拳で鳴らし、受付嬢は狼狽えるが、彼は気にせずに憤りを隠さないまま続ける。
「そもそも、組合を通したとして、盗賊団を圧倒できる冒険者チームを即座に用意する事は難しいでしょう!? とにかく此方は、何時被害に遭うか分からず、毎日が綱渡り状態なのですッ! ですから、討伐チームの派遣は本日の夕方ッ。冒険者の皆さんは戦う必要は一切有りませんが、日当でコレだけ出しますッ! 定員は10名前後……早い者勝ちですよ!?」
「えェ~ッ!? 戦う訳でも無く、捕縛を手伝うダケでそんなに……!?」
「俺はやるッ! やらせてくれ!!」
「あ、あの~ッ、カッパーでも良いんですか?」
「こんなに美味い仕事に在り付けるだなんて、寝坊してて良かったぜ……」
(嗚呼、何だか押し切られちゃいそう……でも、あの提示額なら組合としても斡旋料が悪く無いし、盗賊団に冒険者が返り討ちに遭う事も有ったしで、商会のお手並みを拝見するのも良いかもしれない……ハァ……エ・ランテルにアダマンタイト級の冒険者が現れるって"奇跡"が起きてくれたら、通り魔も盗賊団も怖くないって言うのに……)
バルドが勢いのまま右手を上げ、開いた掌を見せつける様子から、提示した額は相場の5倍を表していた。
下手したら裏が有ると疑われそうな高額報酬だが、ロフーレ商会のトップ直々の依頼とくれば、飛びつくなと言う方が無理な話だ。
それにより、瞬く間に人員が集まった訳だが、たかが雑用に此処までの金額を出せるのは、何を隠そうカツラギ達が盗賊団の掃討を無償で引き受けてくれたからである。
元より彼らは自分達の拠点……所謂カルネ村の為に最初から"死を撒く剣団"は潰すつもりだったので、引き受けるも糞も無かったのだが、モモンガ&ルプスレギナの宿泊先までをも提供してくれるバルドへの"多少の恩返し"になればと、【受付嬢を留める】手伝いを頼むついでに自分達の戦果を【ロフーレ商会の手柄にしてみませんか】と提案した所、それに感激したバルドは、4人では手間だと考えていた捕縛を任せられる冒険者達を、こうして集める役割まで担ってくれたと言う訳だ。(本来は適当な冒険者を相場で雇って、所有する物件を巡回させる予定だった)
カツラギ達としては有り難い話だった反面、要らぬ手間を掛けてしまったとも感じたが、バルドにとっては"国ですら手を出せなかった盗賊団"を【身銭を切って滅ぼしてくれた】とロフーレ商会の評価が爆上がりするのが確定事項なので、実際には互いにメリットしかないと言える。
尚、これらの動きで、ロフーレ商会は結果的に冒険者組合の面子を潰してしまう形となったが、バルドとしても"分かっていて行った募集"だった故に、後にアインザック(+受付嬢)には謝罪している。
……そして、その日の夜。
バルドに雇われた"お手伝い"冒険者達は、馬車での移動中、現場が近付くと流石に緊張が表れていたが、いざ"仕事"と言う名の後方待機が始まると、息を殺して出発したチーム……受付嬢に冒険者プレートを渡していた"サブデュード"一行を待つ。
そんな静寂の中、自分達がペーペーなのを棚に上げて【カッパーで大丈夫なのか】とか【たった4人で良いのか】とかの不安を口にする者が出たが、クライアントのローフレ商会が(実際にはタダだが)高額で雇ったチームであるし、装備がとんでもなく高級そうだったし、何より通り魔を退けたのは間違いない為、後者を挙げられると各々は必然的に無駄口を叩かなくなった。
だが、冒険者達の緊張の一時は30分も経たずに終わり、サブデュードが何食わぬ顔で【捕虜の女性達】をも救出して待機地点に戻って来た為、後は予定通り、深い眠りに『落とされていた』盗賊連中を淡々と縛っては馬車に詰め込む作業を行い、結果、大金を容易に入手するに至るが、この依頼を受けた誰もが後に【冒険者人生の中で最も稼げた仕事だった】と語る事となる。
只の雑用依頼がナンバーワンだったなど、何だか空しい感じもするが、コレが大半の冒険者の"お財布事情"と言えた。
また、捕縛をするに当たって噂の"凄腕の剣士"なる者の姿が無かったが、サブデュードの面々は"その様な者は居なかった"と断言した為、所詮、噂は噂でしか無かったのか……と再認識せざるを得なかった。
一方、実際にはどうだったのかと言うと、やはりクレマンティーヌとズーラーノーンに対処した時と同様、戦いらしい戦いは一切行われなかった。
待機場所を出発した一行は、洞窟に近付きつつ全員に《完全不可視化》を掛けると、先ずは小手調べとしてアルシェに《睡眠》が"意欲的に犯罪行為を行う連中"にどれだけ通用するのかのテストをして貰ったが、何とバタバタと面白い様に決まってゆき、アルシェ曰く【完全な不意打ちなので成功率が高いのかもしれない】との事。
襲撃するに当たっては"騒ぎにしないと"言う目標も立てていた為、主に《生命感知》や《静寂》を掛けるなどしてサポートに回っていたモモンガも、状況によっては昏睡作業を手伝っており、例えば扉越しに盗賊が屯している事を察すると、4人同時にそちらに《上位転移》してから《魔法効果範囲拡大化》+《睡眠》を唱え、室内に居る全員を眠らせてから再び《上位転移》で元の場所に戻ると言う、自身の魔法の(アルシェ視点では離れ業だが)"簡単"な練習を兼ねた制圧を行い、こうしてカツラギ達は順調に盗賊達を無力化していった。
「クッ……ど、何処だ!? 何処に潜んでる!?」
「————《麻痺》」
「がッ!? ……なッ……」
(……案の定……かァ……)
対して、襲撃されているのを自覚すら出来ずに、徐々に追い詰められてゆく盗賊達であったが、一人だけ侵入者が居ると気付く事が出来た者が居た。
それは例の"凄腕の剣士"【ブレイン・アングラウス】であったが、カツラギ達の存在を察したと言うより、幾ら夜とは言え"静か過ぎる"違和感を"部外者が居る"と言う判断に繋げたに過ぎず、《不可視化視認》等も無しに彼らを捉えるのは極めて難しい。
……とは言え、攻撃行動によって効果が消える完全不可"知"化では無いので(音はサイレンスで消しているが)気配のみは察せる為、剣士としてそれを直感したブレインは、広い場所に走ると神刀に手を添え、全身の神経を集中させつつ唐突な奇襲に反撃できる様に、暫くの間身構えていたのだが、出会い頭に正面遠方からモモンガの《麻痺》を食らっては為す術がなく、いとも簡単に地面に倒れるのであった。
『もっかい《生命感知》……うんッ。どうやら、コイツで最後みたいですねェ』
『そうか。70人は流石に多かったね……お疲れ様。じゃあ、もう透明で居なくても良さそうかな?』
『ですねえェ。ルプスレギナ?』
『はいっす! 解除するっす!』
————パッ。
「……ふぅ……ハァ……」
「大丈夫かい? アルシェ君」
「有難う御座います……でも、この程度、モモンガさんの負担に比べたら……」
「その意気ですよ? アルシェちゃん。ホラ、お水飲んで……ところで特徴的に、彼がブレイン・アングラウス……?」
「……だと思います……聞いていた特徴と一致していて、他の盗賊とは雰囲気が違いますから……」
「しっかし、クレマンティーヌさんの件で分かってはいましたが、やっぱ《麻痺》程度が効いちゃいますか……」
「な、何で残念そうなんだい? モモンガ君」
「それはもう、《睡眠》すら効く腕で連中が粋がっていた思うと、何だ哀れに思えまして……それに、コイツら"如き"を放置しているリ・エスティーゼ王国も大概と言う事が痛感できてしまって、尚更"前途多難"って感じですね……幾ら戦士長と言う"良い人"も居るとは言え……」
「此方での実力者が"我々の想定した強さ"とは程遠かったのは、間違い無く喜ぶべき事では有るんだけど、此処まで下には見ていなかったからねェ……王国に関しても、アルシェ君に聞いた不評がそっくりそのまま"その通り"なのを、早くも認めざるを得ないよ」
「残念ながら……私は"帝国で聞いた"王国についての情報の中で、信憑性が高いモノをお話ししたダケですので、他にも色々と闇が深そうな事で溢れていそうです……国の最東端でコレなのですから……」
「ハァ……こんな国に住んでて大丈夫なんでしょうかねェ?(ナザリックを考えると引越しは難しそうだけど)」
「でも、カツラギ様とモモンガさんのチームが居られる村なら、王国は絶対に手出しできないと思いますッ!」
「いっその事、目障りだったら王国"そのもの"を頂いちゃえば良いっすよ!」
「もうッ。や、遣る訳無いでしょう? そんな面倒な事……(おげッ、俺また女言葉を……)とにかく、目的は果たしたので、冒険者さん達を呼びに戻りましょうか?」
「そうだね。君の《生命感知》の御蔭で、後から隠れていた者が逃げ出す……なんて事も無さそうだから、我々に残された仕事は、捕らわれていた女性達を護衛する事くらいかな?」
「!? じ、じゃあ(アレ目的なのか半裸だった)捕虜達の簡単な身形の整えを、ルプスレギナとアルシェちゃんに任せるので、私達は念の為、再度————」
「あのッ、その前に、一つ宜しいでしょうか……?」
「どうしたんだい? アルシェ君」
「この"ブレイン・アングラウス"についてなのですが……」
結局、死を撒く剣団もカツラギ達にとって、何の障害にも成らなかった格下であった。
かの有名な"凄腕の剣士"も《麻痺》くらいは抵抗するかと思いきや、ガッツリと掛かってしまったので、他の盗賊達と大差の無い存在と認識し、冒険者達に捕縛させて衛兵に突き出すつもりだったが……アルシェがまさかの"待った"を掛けた。
ブレインはカツラギ・モモンガ・ルプスレギナにとっては取るに足らない実力だとしても、王国や帝国にとっては強者なのは間違い無い為、衛兵に突き出した程度では、いずれ"八本指"の様な犯罪組織が釈放させて手駒として利用すると断言し、こんな集団に籍を置いていた"愚か者"なら尚更だと続ける。
だとすれば、どう扱うべきなのかとカツラギが問うと、アルシェはやや言い難そうにしつつも、折角の才能を悪い方向に使われるくらいなら殺してしまうべきだと告げ、実際の所、この盗賊団は容赦なく皆殺しにされても仕方ない程の罪を重ねている。(鮮血帝なら盗賊団が罪らしい罪を犯す前に殲滅する一方、ブレインはスカウトする筈だとアルシェは予想した)
だが、カツラギ&モモンガとしては始末するのはNGであり、アルシェとしても2人は彼を殺害しないと言う確信を持って答えていて、結局、殺しが関連すると途端に優柔不断になる2人は、彼をどうするかは後で考える事とし、ひとまず《昏睡》を掛けて捕縛してから、モモンガがロフーレの屋敷に《上位転移》で送って即座に戻り、今は捕虜の護衛に専念する事とした。
尚、ブレインは《睡眠》を掛けられるまでは麻痺状態だったので、カツラギ達の会話は全て聞こえていたモノの、意識は朦朧としていて殆ど理解できなかったが、偶然にもアルシェの"殺してしまうべき"といった一言ダケは聞き取れており、以後、彼女には相当嫌われていると言う先入観と、苦手意識を持ってしまう事となる。
また、ロフーレの屋敷に《上位転移》で部外者……しかも犯罪者を入れてしまった事に関しては、今回の一件でバルドと協力関係を築くに当たって、それなりに"こちら側"の手の内を明かしており、それには(利便性はやや濁したが)《上位転移》も含まれていた為、屋敷で吉報を待っていたバルドは、唐突に現れたモモンガの"一時的にブレインを預かって欲しい"と言う頼みを快く承諾してくれた。
さて置き、ロフーレ商会が動いた"その日"のウチに【死を撒く剣団】が壊滅した事から、バルドが商人の鑑と称えられる一方、彼に雇われた冒険者達には(一応)情報規制が行われた事から、一体どんなチームをどれ程の高額で雇ったのかと、エ・ランテルの住民達の間で暫く話題となった。
しかし、冒険者組合での目立った遣り取りから、思ったよりも早く"噂の魔力系と信仰系の美人魔法詠唱者"も所属しているらしい【サブデュード】と言う新参の冒険者チームの活躍だったと知られた事で、冒険者組合長や都市長は勿論、多くの組織が彼らに接触しようとロフーレの屋敷を訪ねたのだが、既にエ・ランテルを離れてしまったらしく、彼らの友人を自称するバルドも決して口を割る事は無かった。
「うん? 何だか、随分と嬉しそうにしているね……モモンガ君」
「はいッ。こうも早くカルネ村に戻れるとは思っていませんでしたからね……!」
「お土産、沢山買って帰るっす!」
「私としても、楽しみだよ。でも、まだ"三すくみ"が残っているし、油断はできないかな?」
「わ、分かってますッ。ですから、パパッと調査を終わらせちゃいましょう!」
(それが解決したら、私が手伝う口実はなくなる……でも、冒険者としては……まだ……)
盗賊団時代のブレインを、現代思考のおっさん&悟君サイドに引き込むのは、こうしてアルシェが口を挟んでくれなければ(私の脳味噌では)無理でした。
完全不可視化の仕様は私もよく分かってないまま書いてます。
次回は、捕縛されたブレインのその後とか、バルドとの関係の深掘りとか、エ・ランテルに到着してからの蒼の薔薇の動きとかのお話になると思います。