5、
ブレスレットを作り終えたころには、すでに陽が傾きかけていた。
「はやく帰んなきゃ、またママが心配しちゃう!」
イルカリュックに残った材料を急いで詰め込み、リンリンはチャックを閉じる。窓から差しこむ陽ざしがプリズムの髪を七色にきらめかせていた。
セーラー帽をかぶるとセインから言われる。
「オレのスマホ使いな。うちの番号わかる?」
「わかるよー。リボンに書いてあるの!」
リンリンはセインにリボンの裏側を見せた。
そのままスマホを貸してもらい、ママへ『これからキッキと帰ります』と一言。
「ママはなんだって?」
トントンがおみやげの菓子の袋を渡してくれる。
「んー。『はやく帰んなさい、マリンちゃんとトントンへよろしくね』だって」
「そうか……」
リンリンがママの真似をして言うと、トントンは下を向いて笑った。
「オハナも、お母ちゃんにでんわするー。いい? セイちゃん」
「いいとも」
オハナへスマホを渡すと、リンリンはトントンへ近づく。
気づいたのかトントンが顔をあげた。
「ああ、何だい? リトルプリンス」
「きょうは、どうもありがとう。おかげでブレスレットできたよ!」
ブレスレットをつけた手をあげ、八重歯を見せて笑うリンリン。
つられて微笑んだトントンが言った。
「きみはふしぎだ。笑った顔はお父さんに似ているのに、目は確かにプリンプリンの瞳とそっくりなんだ。
間違いなく二人の子だな……」
「そうだよ。おばあちゃんも、おんなじ目の色だよ」
「知っているよ。プリンプリンが手紙で教えてくれた」
トントンが懐かしむようにリンリンの瞳を覗き込む。
「まだきみのママとは会えていないんだ。
でも今日、声を聞いたらすぐにわかったよ。彼女、ちっとも変わっていない」
「えー? それなら、こんどウチに遊びにきなよ。マリンも連れてさ」
「そうさせてもらうよ。リトルプリンス・リンリン」
トントンの大きな両の手がリンリンの手を包んだ。
心なしか先ほどよりも温かい気がする。
「プリンプリンにも、『よろしく』と……伝えてほしい」
リンリンは、気軽に『わかった!』と返した。
「そろそろいい?」
二人の会話が終わるのを待っていたのか後ろからマリンに呼ばれる。
リンリンは振り返ると、トントンの手を振りほどいてマリンを見上げた。
「なーに」
「あんた。コレの材料、ナンできょう持っていたの?」
マリンもブレスレットを見せてくる。
リンリンは『ああ』と何でもないように答えた。
「いつマリンと会ってもいいようにずっと持ち歩いていたの」
「お、重たかったでしょ……」
「ううん。だってビーズと貝がらだもん」
「……バカね。そういうんじゃない」
マリンは海色の目を細めて、はにかむ。
「……ありがとう、リンリン」
これまでで一番素直な笑顔だった。リンリンは『やっぱりマリンはママに似ているなあ』と思った。
ただ、それより。マリンがようやく素直に笑ってくれた喜びのほうが勝る。二人のあいだに温かい空気が流れた。
しかし、それも長続きはしない。
リンリンの背中から忍び寄る影。
「キ〜〜〜!」
キッキだった。
キッキはマリンの足もとへにじり寄ると、スリと頬擦りした。
マリンが触ったので仲良くなったと思っているらしい。
だが――――。
「ひっ……イヤァァァァァァ!」
相手から来られるのはまだダメだったようだ。マリンはその場で跳ねあがり、ホバリングしながらキッキから距離を取る。
「は、早く連れて帰って!」
マリンがドアを開けた。
みんなはその動きに呆気に取られていたが、お互いの顔を見合わせると声をあげて笑う。
もちろんマリンは大まじめなので全員叱られた。
そうして廊下を渡って、玄関をすぎ、あの美しい庭から屋敷の門まで案内してもらった。
「ばいばーい、マリン! トントン!」
リンリンたちが手を振ると、二人も手を振りかえしてくれた。
だんだん薄暗くなってきているが、空は青白い。陽が雲に隠れている。
「マリンのおうち、楽しかったね!」
オハナが言った。
「トントンさん、王子さまみたいでカッコよかった。マリンもきれいだから、並んでいると王子さまとお姫さまみたい!」
手を組み、二人の姿を思い返しているようだ。
リンリンはオハナに教える。
「トントンはねえ、昔、パパとママと、二人のパパと旅をしていたんだって。ぼくのパパが小さかったときのこと、話してくれたよ!」
そのまま子どものころのパパに落ち着きがなかったことも話そうとしたが、先を行くセインが割り込んできた。
「……ん? ソレ、変じゃね? あのひと、どう見ても二〇歳いくかいかないかぐらいだったぞ」
固い声に、リンリンとオハナがいっせいに彼を見やる。
振り返った顔は猿を前にしたマリンのように青ざめていた。
「どうしたの、セイちゃん。どこがおかしいの?」
「リンリン! あのひとが、おまえのパパの若いときを知っているハズねえよ。
だって、あのひと、おじさんよりひと回り若いんだぞ?
おじさんが若いころに生まれていても、赤ん坊さ! 一緒に旅なんかできるワケねえじゃん!」
「……あ」
リンリンは言われて気づく。
パパは見た目こそ若いけれど、今年で三四歳だと言っていた。
トントンが二◯歳ぐらいだとすると、パパが一五歳のころは……。
セインに話すと、すぐに計算してくれた。
「一歳だ」
「トントン、昔のパパは『肩ぐらいだった』って言ってたよ」
「ウッソだろ……冗談キツいぜ!」
セインがその場でぶるりと震えあがる。
リンリンもちょっとだけ怖くなって、そばで歩いていたキッキを抱きあげた。
キッキも話を聞いてびくついているみたいで、リンリンにしがみついてくる。
「? トントンさん、今、何歳?」
オハナが宙へ無邪気に聞いた。
―――第四話 おわり―――
好きなキャラクターを教えてください(原作キャラは含みません)
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リトルプリンス・リンリン
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キッキ
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オハナ
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セイン
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マリン
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ヤーブレとカーブレ
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リンリンのおばあちゃん
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リンリンのおじいちゃん