4、
「それで? いったい何があったんだ?」
壁に寄りかかりながらボンボンが問いかけた。
アルトコ動物園、ワット博士の研究室には馴染みの三人が揃っている。
先のボンボン、椅子に深く座るカセイジン。その前に腰掛けたワット博士。
過去にプリンプリンの祖国を探していたころと比べれば三人とも歳をとったものの、関係性はあまり変わっていない。
頬をポリポリかきながらカセイジンが唸る。
「セインにですね……『スケボーをするなら、安全なところでやりましょう』と言ったんですよ……」
細身を縮ませ、猫背ぎみの姿勢。
ポロシャツにジーンズと三四歳の男性としてごく自然な格好だ。
うつむかせた頭には、チョコンと帽子が乗っかっている。
ワットが相づちを打った。
「そうね、危ないものね。もっともだわ」
「じゃあセイちゃん、ナンであんなに怒ってんだ?」
ボンボンが首をかしげると、カセイジンの肩がすくむ。
「『安全な場所ってどこだ?』って言うんで、『探しておきます』と返したらですね。
『それまでスケボー禁止なの?』とセインが聞いてきたので……『危険なところではしないほうがいいですね』と。
そしたら『禁止じゃん!』と言うので、『いや禁止ではないですよ』と返してですね」
「おれ、堂々めぐりって言葉の意味を正しく理解したよ」
ボンボンが疲れたように額を押さえた。
カセイジンも沈んだ面持ちで、
「『禁止なら禁止って言えばいいじゃねーか』と怒るので、『禁止ではないですよ。でも危ないところでやったら心配するでしょう、家族なんだから』……と言ったらアレなのです……」
と事の成り行きを語る。
ワットがふう、とため息をついた。
「まあ家族だから、って力セイジンくんの言葉もわかるのよ。でも便利な言葉といえばそうね。
『家族だからなに?』ってセインくんも言いたくもなるかもしれないわねえ」
「うわ〜、おれもついさっき言ったばかりだよソレ! 気をつけよ」
ボンボンが自分に言い聞かせるようにしていたら、カセイジンが慌てたように、
「ヒトの危機を教訓にしないでください! 本当に参っているんですよ。セインにどう言えばわかってもらえるのか」
「え〜。でも、『家族だから』って心配も本音なんだろ?
トコトン話し合うしかないんじゃない? そろそろセイちゃんも落ち着いただろうさ」
現在セインは動物園のチャイルドルームにてリンリンたちと一緒にいる。
明らかに冷静でないセインを見て、ボンボンが、
『セイちゃん、リンリンたちとチョット遊んできなよ』
とカセイジンからいったん離したのだ。
子どもたちはキッキが見守っているはずである。
そのおかげで、大人だけでどうやって事を収めるか考える時間を稼げた。
ちなみにワットを交えて話そうと持ちかけたのもボンボンである。
理由は『おれだけだとカセイジンの話を上手く聞けそうにない』から。
結果として客観的な視点が入るとともに、昔から頼ってきた知人なのもあって落ち着いて話ができている。
カセイジンも二人の前だと素直に悩みを吐露できているようだった。
「……それは、わかっているんですけど。どうしても言葉を選んでしまってセインと会話が続かないと言いますか」
「アナタのいいところよ。カセイジンくんの思慮深いところ、昔から変わらないわね」
「ねえ、ワットさん。それじゃおれが思慮深くないみたいだよ……」
ボンボンの口がひん曲がるのを、ワットが『どうどう』となだめる。
研究室に湿っぽい空気がひろがった。
「本当は、あのときワタシは、
『スケボーなんて危ないこと、やるんじゃありません』
と言いそうになりました。
でもセインがかわいそうじゃないですか。危険だからと頭ごなしに禁止するのは、親の勝手です。
それで一拍置いて話すと、あの子にとっては的外れの言葉になってしまうのかもしれません……」
カセイジンの青い目が伏せられる。
それを見て、ボンボンが『へえ』と関心したように言った。
「お前さん、偉いなぁ。おれなんてリンリンと喋るときにそこまで考えてないよ……」
「えっ? それで、リンリンのような聞き分けのいい子が育つものなんですか?」
「リンリンはたぶん性格がプリンプリン似なんだよ」
「おばあ様もいらっしゃるし、リンリンちゃんは穏やかな気質よねえ」
ワットがリンリンについて印象を述べる。
それに対してカセイジンが唸った。
「ンン……ウチのセインは昔からはねっかえりでヤンチャです……」
「それはもう生まれもった性格な気がするよ。
セイちゃんは基本的には明るいし、面倒見もいいからリンリンと仲良くしてくれて助かるけど……」
「セインは世話焼きですからね」
「うん、そう思う。リンリンは……どっちだろ?」
「リンリンも面倒見がいいほうではないですか? ワタシ、学級委員が向いていると思っています」
「エーッ、ウチの子がー?」
ボンボンが八重歯を見せて誇らしげに笑う。
カセイジンはうなずき、
「リンリンは空気を読むのが上手ですね。どうやったら場を鎮められるか考えてくれていると思います。
ただ、よくガマンしている場面があるので担任としては心配ですね」
「よく見てるなあ! 良い先生でよかった〜」
はしゃぐボンボンの横で、ワットがメガネの奥の瞳で研究者らしくジッと対象を見据える。
「カセイジンくん。アナタ、セインくんのコトもリンリンちゃんのコトもすごぉく見てるのね。きっと、オハナちゃんのコトもね。
子どもたちを大事にしてるの、わかるわぁ。
でも……エンリョしすぎてるところないかしら?」
ワットの言葉にカセイジンがハッと息を呑む。
「職業柄、大勢の児童を見てきたもので。その子にあった接し方をつい考えてしまうきらいはありますね。
セインについては……正直、我が子ながら難しいですよ。スケボー以外に素行に問題があるワケではないですから」
「セイちゃんはお前さんゆずりで頭がイイし、奥さんに似たのか運動神経もイイし、性格だってアツくなりやすいところはあるけど……」
「頭脳派ってトコ以外はボンボンくんに似ているかもねぇ」
「ちょっと、ワットさんッ! 遠回しにおれが頭脳派じゃないってまた言ってるじゃん!」
「そうですねえ。ボンボンのように手は出ませんけど……」
「カセイジンまで⁉︎」
自分に話題が回ってくると予想していなかったのか、ボンボンが喚いた。
ワットがまたもなだめながら問いかける。
「ボンボンくんって、お父さんと仲良かった?」
聞かれてボンボンが呆けた声をあげた。
「え? ウーン……言われてみるとそうでもないかな。
叱られるなんて、しょっちゅう! ビンタされたこともあるよ」
「ええッ? ワタシは、セインにそんなことはできませんよ……」
カセイジンが肩を落とす。
「ボンボンのお父さんには悪いですが、今の時代に体罰はご法度です。
それに、今以上にセインから嫌われたら、ワタシは……」
のどから絞り出すような、呻きに似た声。
か細いカセイジンの言葉にボンボンが目を丸くする。
「おれはおやじのコト、別に嫌いじゃあなかったケドな」
「……え? でも叩かれたら痛いでしょう」
カセイジンの疑問にボンボンも首をひねりながら答えた。
「そりゃそうだけどさ。ただ、おれだって目を見りゃおやじが怒ったから殴ったワケじゃないってわかる。
子ども心にわかるモンだよ。親が自分を想っているかどうかぐらい」
その返事に、カセイジンはしばらく考え込んでいた。
好きなキャラクターを教えてください(原作キャラは含みません)
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リトルプリンス・リンリン
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キッキ
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オハナ
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セイン
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マリン
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ヤーブレとカーブレ
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リンリンのおばあちゃん
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リンリンのおじいちゃん