あの海のリンリン   作:つるみ鎌太朗

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第七話 消えたマリン(3)

 

「我がタンガラトントンでは、十数年前に最後の人間たちが息を引き取った。長老も……きみも出会った最後の赤ん坊の老婆もね。

そして彼らが予想したとおり、我々ロボットだけの国となったのだ」

 

 かつてプリンプリンが訪れた国、タンガラトントン。北の大地の底に造られた地底国家。

 

 十九年前にプリンプリンが訪れたときは、かろうじて老人たちが残っていた。

 しかし彼らは九〇をとうに超えており、余命はわずかだった。

 

 徐々に人が減少する国ではトントンをはじめ、人間と変わらぬ姿のロボットたちが製造されていた。

 

 トントンから途切れ途切れに知らせは届いていたが――実際に聞くと重みが違う。

 

「最初はロボットだけで国を存続させようと考えていた。

しかし、ロボットの身は不便でね。

指示する人間がいないとエラーを起こすようになるんだよ」

 

 プリンプリンは怪訝な顔で尋ねた。

 

「具体的にどうなってしまうの?」

「初期に製造された同胞に顕著でね。まず自己判断ができなくなる。

『人間にとって最適な判断』をするようにプログラムされているから対象がいないワケだろう。目的を失うことで意味のない動作を繰り返し、やがて思考回路がショートして稼働停止に陥る」

「かわいそう……」

 

 プリンプリンは動かなくなったロボットを想像し、その姿がふいに目の前のトントンと重なる。

 

「あなたは大丈夫なの?」

「僕? 僕は人がいなくなったあともタンガラトントンを治めることができるように造られたから……元より『人に仕える』ようにプログラムはされていないんだ」

「そうなのね」

「『タンガラトントンに危害がない限り』人間を傷つけないようには設定されているけどね」

 

 機械にそこまで強くないプリンプリンは、きっと途方もない技術なのだろうな、と思った。

 そんな彼女の表情を伺いながらトントンがはにかむ。

 

「心配してくれてありがとう。プリンプリン」

「いえいえ。お友だちを心配するのは当然だわ」

「ウン……。それで、続きだけど。

旧型だからといって同胞を見捨てるワケにはいかない。完全に壊れる前に彼らを休止させて私たちは考えた。

結論から言うと、別所から人間を迎え入れることにしたんだ」

「ええッ?」

 

 プリンプリンは目を白黒させた。

 

「まさか人さらい……?」

「おいおい、そんな手荒な真似はできないよ。ロボット工学三原則に反する」

「よかった」

「私たちは住む家をなくして困っている人や、よくない家庭で傷ついた人々。または身寄りをなくした子どもらに住居を提供することにしたんだよ。もちろん、タンガラトントンの技術について秘密を守れる人間であるかで選別はしているけれども……。

その世話に旧型の同胞をあてがったんだ」

「お仕事を作ってあげたのね」

「そう。そしたらエラー問題も解決するし、人々も安全が保障される。互いにとって良い環境ができるんだ」

 

 トントンの明るい口調とは裏腹に、プリンプリンにはひとつ気がかりがあった。

 

「ねえ。タンガラトントンではエメラルドエネルギーを利用するようになってから赤ん坊が生まれなくなった、という話だったでしょう。その人たちに影響はないのかしら……?」

「きみは賢いね、プリンプリン。その懸念はもっともだ。

だがその問題は、実はきみたちが訪れた十九年前には解消されていたんだよ」

「? でも赤ん坊が生まれたのはあのおばあさんで最後だったって……」

「一般論として。九〇をすぎたおばあさんに子どもが産めるかい?」

 

 指摘されてプリンプリンは理解した。

 伝わったのかトントンが説明を続ける。

 

「エメラルドエネルギーには人体の生殖機能に影響を及ぼす電磁波がわずかに含まれている。それをほぼ取り除く技術はできたんだよ。

しかし、子を為すには生粋のタンガラトントン人はすでに老いてしまっていた。手遅れだったのさ」

「そんな事情だったのね……」

「だから私たちが迎え入れた人々に影響はないよ。

その証拠に、タンガラトントンに身を置いてから子を為した人もいる。やがて彼らが新たなタンガラトントン人となるだろう」

「ロボットと人間が仲良くできる国になるといいわね」

 

 プリンプリンの言葉にトントンは力づよく頷いた。

 

「そのつもり。子どもたちには可能な限り上等な教育を受けられるようにしている。

その結果、ロボットの頭脳と人間のアイディアでタンガラトントンの技術はよりめざましい発展を遂げたんだ。

他国の脅威も退けられるぐらいに」

 

 言われてプリンプリンはピンと来た。

 

「ああ! それでマリンちゃんをタンガラトントンに……」

「我が国であればランカー商会の包囲網から守ることができる。マリンの安全を考えたら、それが最善なんだ」

 

 トントンはしっかりとした口調で語る。

 

「いつか彼女が成人し、国を出るとしても平穏に生きていけるように。できるかぎりサポートしていく」

「優しいのね」

 

 プリンプリンは彼の決意に喜んだものの、またひとつ疑問が頭に浮かぶ。

 

「……でも、それならなぜアルトコ市に? タンガラトントンからは遠いでしょう?」

「私がこれまで見て聞いてきた人間心理によると、人は自分のルーツを知りたがる傾向がある。きみだってそうだったじゃないか」

「……」

 

 プリンプリンの脳裏にかつての旅の記憶が蘇った。

 ボンボン、オサゲ、カセイジン。それとモンキー。友だちとの楽しい旅路でもあったが、反面、自分が何者かわからぬ事実と向き合いつづけた日々でもある。

 祖国など知らずとも生きてはいける。何度も思ったが、やはり自分の生まれた場所。生まれた理由というのは人間にとって心の基盤になりうる。

 

 プリンプリンは無言でトントンを見つめた。

 彼はそれを同意と受け取ったのか、

 

「私はマリンを迎え入れる前に、彼女のルーツを見つけてあげようと考えた。いずれ彼女が必要とする日が来るだろうから……。

だが、マリンの両親のうち母親だけ祖先を辿れない。母親の母親……マリンの祖母の前の親族について記録がないんだ」

 

 と言った。

 しかし、彼はプリンプリンへ目線をやると、ひとつの事実を口にする。

 

「ただ……マリンはきみに似ている。驚くほどに」

 

 プリンプリンをまっすぐに見据えて問いかけた。

 

「彼女はマリーン王家の血筋ではないだろうか?」

 

 マリーン。

 プリンプリンにとって特別な意味を持つ名称。

 その連なりに、マリンがいる?

 息子のリンリンが偶然仲良くなった女の子。銀髪で……自分によく似ていて……ランカーに追われている。

 

 確かに他人の空似にしてはできすぎている。

 

 返答に詰まっていたらトントンが急に片手を挙げた。

 

「……と。すまない、マリンから連絡が」

「どうしたの?」

「何かあったのかもしれない。すこし待って」

 

 どこからかの声に応じるように、トントンはその場でまぶたを閉じた。

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  • リトルプリンス・リンリン
  • キッキ
  • オハナ
  • セイン
  • マリン
  • ヤーブレとカーブレ
  • リンリンのおばあちゃん
  • リンリンのおじいちゃん
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