あの海のリンリン   作:つるみ鎌太朗

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第八話 わたしは帰らない(2)

 

2、

 

 アルトコの海が荒れている。

 こういうときは近づいてはいけない、とリンリンはパパやママから言いつけられていた。

 

「マリン、あの悪どいじじいのところに行くなんて。なに考えてんだろ……」

 

 セインがタンクトップのすそをパタパタさせながら言う。

 堤防近くでグレーがかったアルトコブルーを眺めるリンリン、オハナ、セイン。口を開けばマリンの心配ばかりだ。

 キッキも落ち着かない様子で三人の足もとをうろちょろしている。

 

「おじいちゃんはね、マリンにお友だちを作らせたくないんだって。トントンが言ってたよ」

 

 リンリンが昨日とは別のセーラー帽をおさえながら言った。

 今、トントンがマリンを迎えに行っていると聞いている。ママはトントンなら大丈夫と言っていたが落ち着かない。

 

 オハナが不安げに足もとを見た。ピンク色で、白い花の飾りのついたサンダルだ。

 

「そんなのひどいよ。ひとりぼっちになっちゃうよ……」

 

 重たそうなほっぺたがふに、と下がる。

 リンリンも首を縦に振った。

 

「あのおじいちゃんは、マリンを一人にしたいんだ。自分以外の誰とも仲良くしてほしくないんだよ」

「やべえじじいだな」

 

 セインがおもむろに顔をしかめる。

 頭の後ろに手をあて、ハアとため息をついた。

 

「そんなじじいンとこ戻るなんて、正気じゃねえよ。きっとマリンは何かショックを受けたんだ」

「ショック……?」

 

 リンリンはとび色の目でセインを見上げる。

 

「……そうだな。オレってさ、こないだまでオヤジと仲こじれてたじゃん。

だからチョットわかるってーか」

「何がわかるの?」

 

 リンリンはセインの手をつかんだ。

 リンリンには、マリンの考えがちっともわからない。

 だから教えてほしかった。

 

 いつにないリンリンの勢いにセインは驚いたようだった。

 しかしながら上手い言葉を探し、頑張って教えてくれる。

 

「誰かとケンカしたり、信じられなくなったり。もっと他の理由でもいいさ。とにかく胸がギュッとなったとき。

自分でもよくわからないことしでかさねえか? オレだったらオヤジに無闇に反発したりだよ……。

アレってさ、突発だから後悔するんだよな。振り返ってもナンでそんなことしたんだろー、って思うだけだ。

だからマリンもそうなのかなあ、って。リンリンにはそういうことない?」

 

 聞き返されてリンリンは記憶から似たような出来事をひねり出そうとした。

 

「ぼく、こないだパパにサイフォン壊されたとき、どうしても『いいよ、気にしないよ』って言えなかった……」

「ちょーっとお行儀がよすぎるな。リンリンには、まだそういうのねえのかな」

 

 横で聞いていたオハナがおずおずと喋りはじめた。

 

「あ、オハナ……ちょっとわかる。オハナねえ、初めて会った人と話したとき、ちょっと怖いこと言われたら黙りこくっちゃう、かも。

その、胸がギュッてなるのになって……相手がどっか行くまでジッとしてる。でも後で『イヤだったよ』って言ったほうがよかったかな、って……」

「それもお行儀がいいけど、リンリンよりは近づいたかな。

そうなんだよ、イヤだったんだよ。言えばいいのに別の行動を取っちゃってさ。気を引くみてえでアレだけど」

 

 セインがリンリンとオハナを見やる。

 青い目は今日の海と違って穏やかだった。

 

「マリンも好きでじじいンとこ行ったんじゃねえんじゃないかな。自分でもわかっちゃねえかもしれないが、ショックでショックを上塗りしたくなるような何かがあったのかもしれない」

「そんな……哀しすぎるよう」

 

 リンリンは両方の手のひらをひらげ、じっと見つめる。

 

「ぼくがあのときわかっていたら、マリンの手をぎゅうっと握ってあげたのにな」

「オレもだよ。まあ、アイツ、オレにそんなことされたくねえだろうがな!」

 

 セインが片眉を下げて笑う。

 オハナも両手を握り拳にする。

 

「オハナだって、マリンのそばにいてあげるよ。ナンか楽しいこと、喋ってあげる。お花の話とか、アクセサリーの話とか……」

「キキッ……」

 

 キッキが控えめに『自分もいるよ』とばかりに鳴く。マリンから苦手だと言われているから遠慮しているようだ。

 リンリンはキッキの赤いお鼻をいつものようにくすぐってやる。

 

「だいじょうぶ、キッキ。近づけなくても気持ちはきっと伝わるよ」

 

 キッキが体を揺すってリンリンに抱きついてきた。

 ふわふわの茶色い毛が頬にあたって温かい。

 でも、とリンリンは思う。マリンには今、こんな温かさがそばにないのかもしれない。

 浮かない顔をしていたらセインから肩をポンと叩かれる。

 

「リンリン、マリンが戻ってきたらまた一緒に遊ぼうぜ」

「そうだよ! オハナもマリン待ってる!」

 

 二人の笑みにどこかぎこちなさがある。

 みんながマリンを心配しているのだ。

 自分も同じように笑わなきゃ。リンリンは自分の右頬をペチンと軽く叩く。

 もしマリンが戻ってきたら笑顔で迎えてあげるためにも。 

 

「帰ってきたらみんなで遊ぼ! もうすぐ花火大会もあるもんね」

 

 きっと夏の思い出をたくさん作れるはずなのだ。

 だってフラワーアーチの下でトントンと約束した。

  

「トントン……」

 

 リンリンはキッキを抱っこしながら、ランカーの屋敷がある方角をじっと見つめた。

 

 

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  • オハナ
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  • マリン
  • ヤーブレとカーブレ
  • リンリンのおばあちゃん
  • リンリンのおじいちゃん
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