1、
「準備はいい?」
ビートルの中でプリンプリンがトントンへ尋ねた。
真正面にはランカーの別荘が見えている。今朝は明るい太陽のもとで外観の老朽化がハッキリわかった。
運転席のトントンが無言でうなずく。
見返してくる鈍色の目には力強い光が宿っていた。
「では、行きましょう」
プリンプリンは助手席のドアを開けた。
トントンも反対側から降りてくる。
並んでランカーの屋敷の門へと向かうと門番がざわつかれた。
「ムッ、またキサマか! どーする、ニーサン⁉︎」
「どうもこうも、報告だ!」
片割れが通信機を手に取り何かモゴモゴ言っている。
「ランカー様がまたお会いになるようだ!」
「連日なんて、迷惑じゃないか⁉︎」
「そっちの美人は最初だからいいとして……」
褒められて悪い気はしないが、プリンプリンの目に二人の男はうさんくさく映った。
「ありがとう。でも、わたしは前にここへ来たことがあるわ。
――というより、無理やり連れてこられたのだけど」
教えると二人が顔をずずいと突き出してくる。
「ムリヤリ⁉︎ いったい誰の仕業?」
「ひどいひどい!」
デジャ・ヴのような二人組にプリンプリンはたじろいだ。
「あなたがたの雇用主よ。実行犯は二人組」
「へ〜、最近ランカー商会に入ったから知らないよなあ。ニーサン」
「そうだなカーブレ」
兄の名前はもしかしたらヤーブレでは?
問いが喉もとまで迫り上がったが、聞くのはやめておく。今はそんなことに構っている場合ではないのだ。
トントンもずっと険しい顔をしている。
プリンプリンも口を引き結び、ヤーブレとカーブレの案内を受けた。建物内は小綺麗にされていたが長年の劣化は見て取れる。
ここに閉じ込められ、仲間とともにヘリで逃げ出したのはもう何年前のことだろう――。
プリンプリンは不思議な気持ちで廊下を進んだ。
見えてくる見覚えのある扉。この先に……。
開け放たれれば、できれば二度と会いたくなかった相手が立っていた。
「お、おお……プリンセス……!」
すっかり白髪になったが巨大な体躯は相変わらずだ。足腰が弱ったのか金色の杖を使って体を支えている。
その背後にはヘドロが立っており、プリンプリンとトントンの動向を静かに伺っているようだった。
「……」
老人が感激に言葉を失っているのに対し、プリンプリンから表情が消える。手足がやけに冷たい。
黙るプリンプリンの代わりにトントンが口を開いた。
「ランカー。今日もマリンと話をさせてもらいたい」
「ん? ナンだ、いたのか。目障りなロボットめ」
ランカーは取り繕う気もないのか、トントンへ『シッシッ』と手を振る。
「私の友人に失礼な真似はやめてちょうだい」
プリンプリンの第一声はランカーへのあからさまな嫌悪だった。
しかしランカーは気にせずはしゃいで返事をしてくる。
「プリンプリン、相変わらず鈴を鳴らすような声をして! まるで時を止めたかのようではないか」
その喜びように後ろでヘドロが呆れた顔をした。
昔と変わらぬ彼らの様子に過去に戻ったような心地になるプリンプリン。
「あなたはおじいさんになったけれどね。それなのに、また同じことを繰り返している」
ランカーが近づいてこようとするので、半歩下がる。
トントンがわずかに前へ出てかばってくれた。
警戒する二人を尻目に、ランカーはわざとらしく弱々しげに背を丸める。
「そうだろう。私も老いた……だから老後だけでも心穏やかに過ごしたいと考えているのだよ」
「そのために、一人の女の子を犠牲にしてもいいと言うの?」
プリンプリンの問いに、ランカーが手をひらひらと振った。
困ったそぶりだが表情はずる賢そうな笑みが張りついている。
「犠牲だなんて、とんでもない。あのマリンは身寄りもない可哀想な娘だ。それを養女として迎え、今日この日まで愛情こめて育てあげたのは私なのだぞ。
私あってのマリンなのに。プリンプリン、おまえもその機械に何かよからぬことを吹き込まれたな」
「いい加減にして!」
あくまで被害者ぶろうとするランカーへ、プリンプリンは凛とした声でぴしゃりと言いつけた。
「あなたって本当に昔と変わらないわね!
十九年前もそうだった……いきなりわたしをここまで連れてきて向こうの部屋へ閉じ込めたのよ。成人したら結婚するとかナンとか言って。
マリンちゃんが、娘ですって⁉︎ あんな部屋に押し込んでおいて親を名乗るなんて厚かましいわ」
背筋を正し、毅然として言い放つ。
ランカーはそんなプリンプリンの態度に盛大なため息をついた。
「はあ……プリンプリン。まだわからんのか? 私の愛が。
マリンはおまえの生き写しで、目に入れても痛くないほどかわゆい娘だ。故に危険も多い。
現に社交界へ紹介したとたん、私のもとへあの娘と婚約したいとの打診がいくつも来た。まったく油断も隙もあったモンじゃない!
そんな輩からあの娘やおまえを守るにはこうするしかないのだよ」
「いちばん危ないのはあなたでしょ。閉じ込められたのを思い出すだけでゾーッとするわ」
ツンと顔を背けるプリンプリン。
だがランカーはめげずに語りかけてくる。
「プリンプリン……そうツレないことばかり言わず、私の気持ちもすこしは理解してくれてもよいのではないか?
せっかく再会できたのだ。もっと近くに……」
「寄らないでッ!」
近寄ろうとしたランカーへプリンプリンは一枚の写真を突きつけた。
旅をしていたころの彼女の姿が映っている。銀のティアラと淡い桃色のドレス姿は現在のマリンと瓜二つ。
眩しい朝陽に照らされ、傍らに映る『守り神』も神々しく見えた。
「ぎゃあああああああああァァァァァァァァッ!」
ランカーが年甲斐もなく飛び跳ねながら逃げた。豪奢な椅子の裏でうずくまり、巨体を震わせている。
「ラ、ランカー様!?」
ヘドロがすぐに駆けつけ、その背をさすった。
写真をチラつかせながらプリンプリンは誇らしげに笑う。
「どんなに時が経とうと、モンキーはわたしの守り神。それを忘れないことね」
ランカーが取り乱したのは、今は亡きモンキーの姿を見たからであった。
キッキとよく似ており、茶色い毛並みに赤いお鼻の可愛い猿。長いしっぽをくるんと巻いてプリンプリンの隣でポーズを取っている。
「早く……早く、写真をしまってくれェ〜〜〜〜ッ!」
先ほどまでの威厳はどこへやら、情けない声をあげて体を縮みこませるランカー。
「イヤよ。裏返しぐらいにはしてあげるけど」
「そ、それでもいいッ! とにかく猿はダメだッ!」
「騒がしいこと」
プリンプリンはランカーから写真が見えないように裏返す。
すると椅子の後ろでガタガタ震えていたランカーが落ち着きを取り戻し、背もたれから顔をひょっこりと見せてきた。
「ぐぐ……死んでも私の邪魔をするなど、忌々しい小動物め……」
「何か言った?」
また写真を見せつけようと構えるプリンプリン。
ランカーは短い悲鳴をあげ、また椅子の背後に引っ込む。
「あーッ、何も言っていません! だからソレはヤメテッ」
「はいはい」
プリンプリンがランカーをいなすのをトントンは興味深く観察していた。
「私も今度から猿のグッズを持ち歩こう……」
好きなキャラクターを教えてください(原作キャラは含みません)
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リトルプリンス・リンリン
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キッキ
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オハナ
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セイン
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マリン
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ヤーブレとカーブレ
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リンリンのおばあちゃん
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リンリンのおじいちゃん