2、
リンリンたちはトントンの屋敷で花へ水やりをしていた。
「発射ー!」
先頭のセインが花々へシャワーを注ぐ。ブルーサルビアと白蝶草が朝露をまとい、きらきら輝く。
リンリン、キッキ、オハナはホースを抱えてリーダーに続いた。
トントンとママ――プリンプリンがランカーのもとへマリンを迎えに行ったから花の手入れを任されたのだ。
マリンが帰ってきたとき、普段どおりの庭を見せてあげるために。
「マリンはキレイなものが好きだからねー」
オハナがすこし濡れた髪をギュッと絞る。
リンリンもセーラー襟のついたTシャツのすそを握って仰いだ。
子どもらはマリンの帰りを信じ、自分のできることをしている。
「キッキー」
キッキもしっぽをブンブンと振り、水しぶきを払っていた。
「あとは何をすればいいんだっけ?」
セインがゴーグルのレンズを拭きながら尋ねてくる。
「うーん。お部屋の飾りつけ……とか?」
リンリンが首をひねった。
シャチ型リュックに折り紙やハサミは入れてある。
オハナが手を挙げて提案してきた。
「ジュースとか、お菓子は?」
それにセインが指をパチンと鳴らす。
「パーティーみたいでイイじゃん。リンリン、買いに行こうぜ」
言われてリンリンは想像してみた。
庭の花々と、屋敷に入って色とりどりの紙で折られた飾りつけとお菓子を見るマリンのことを。
「マリン、きっと喜ぶね!」
「キキッキ!」
キッキがリンリンの肩に飛び乗る。
ほっぺたどうしが触れ合って熱い。
「そうと決まれば、買い出し行こーぜ!」
「お父ちゃんのチョココロネも持ってこよう!」
セインとオハナが出かける準備をはじめた。
リンリンもそれに続くべく、ホースをくるくると巻いて片付ける。
はやくマリンが帰ってくればいいなあ。
無邪気なリンリンの願いは夏空に吸い込まれていった――。
3、
モンキーの姿が見えなくなるとランカーはすっかり落ち着いたようだった。豪奢な椅子に体を預けている。
ヘドロも元の立ち位置へ戻り、手を後ろで組んでいた。
「プリンプリンよ、おまえは昔から私を振り回すのが得意だな」
「それはこっちのセリフよ。どうしてわたしをいつも困らせるの?
もうおじいさんなんだから、いい加減に落ち着きなさいな」
プリンプリンが言うとランカーはフンと鼻を鳴らす。
「これが落ち着いていられるか! ――十六年前の私の絶望をおまえは知るまい」
「はあ? 何よそれ」
身に覚えのない話にプリンプリンは戸惑った。
十六年前といえばプリンプリンは十八歳。そのころにランカーと会った記憶がない。
だがランカーは恨み節を続けてくる。
「十九年前……おまえが私の作った理想郷『プリンプリン エーンド ランカー カントリー』から去ったのち……」
「ナンだい、そのセンスのかけらもない名前は?」
「黙らっしゃい!」
トントンに問いかけられてランカーが怒鳴った。
話の腰を折った自覚はあるのかトントンも文句を言うことなく黙る。
ランカーが昔話を再開した。
「ともかくだ。『プリンプリン エーンド ランカー カントリー』から去ったのち、シドロとモドロのドジの仕業かは知らんが町はミサイルの逆噴射により砂漠に消えた。
我がランカー商会の財の多くを注ぎ込んだ国の崩壊は甚大な損害となり、私もその補填に追われた……」
「無駄なことをするからよ」
「祖国を恋しがるおまえのためを思ってしたことなのだぞ!」
「誰も頼んでいないわよ!」
プリンプリンに一喝されるとランカーは肩をすくませた。
一瞬、老人の弱々しさが見え隠れしたがすぐに咳払いをして持ち直す。
「だが、私も怪人ランカーと呼ばれる男。三年かかったが見事にランカー商会を持ち直させた。
そして行方をくらましたおまえを探すべく再び調査をはじめた」
「やだ〜、何してるのよ……いやァね」
いかにも嫌そうな声でプリンプリンに非難されるも、ランカーはすっかり自分の世界に入り込んでしまっている。
「各国のスパイからの情報により、私はおまえがアルトコ市に戻っていることを知った。
それで、さっそく迎えにいったのだよ……今度こそ添い遂げようと、プロポーズすべく指輪と花束を持って……」
「ええ、要らないのに……」
プリンプリンの声が届くことはなかった。
ランカーのシワだらけの顔に新たな苦悶のシワが刻まれる。
「しかし。アルトコ市に着くや否や、私は絶望のドン底に叩き落とされた。
――あろうことか、おまえはあの凡夫とよろしくやっていたのだからな!」
言われてプリンプリンは何のことかすぐには理解できなかった。
しかし、すこし考え込めば答えが浮かぶ。
白いふわふわ頭で、八重歯がチラリと見える笑顔の持ち主。
「アッ、ボンボンのこと!?」
プリンプリンが声をあげた隣でトントンもうなずく。
「確かにきみが手紙をくれた時期と一致するな」
ランカーが椅子から身を乗り出して問い詰めてきた。
「おまえのために祖国まで用意し、その補填に追われた挙句、他の男と仲良くやっている姿を見せつけられた私の気持ちが想像できるか?
この……裏切り者!」
ランカーの瞳は怒りに燃えているが、プリンプリンたちの反応は冷ややかだ。
「って、完全なる逆恨みじゃないの……」
「男の嫉妬ってみっともないね」
「その点については同意する他ないわね」
プリンプリンとトントンがげんなりした声で感想を述べると、ランカー側の人間であるはずのヘドロにまで肯定された。
部下にまで見下げられているものの、ランカーの妄執はあさっての方向に突き進んで止まらない。
「私はクイーンへ進言した! あの凡夫はプリンセスにふさわしくない!
プリンプリンのために尽力してきた私こそが夫に……プリンスにふさわしい、と!」
「お母さんに何を言っているのよ」
「おっかさん、あなたに金の屋敷、金のリビング、金のキッチン、水回りをあげるから私がプリンスだと認めてほしい……プリンプリンの目を覚まさせてやってくれ、と!」
「本当に何やってるのよ!?」
プリンプリンに詰め寄られるも、それとは関係なくランカーが急にうなだれた。
「しかし、クイーンが私の話を聞き入れることはなかった……」
「あたりまえでしょ。お母さんがわたしの気持ちを無下にするハズがないわ!」
「ええい、黙れ黙れ! おまえもクイーンもあの凡夫にかどわかされおって!
ちーっとばかり顔がいいだけの、頭も要領も悪い凡人ではないか!」
「夫のコト悪く言わないでッ!」
プリンプリンがランカーの妄言を制止する。
彼女が珍しく声を荒げたのに、当のランカーだけでなくその場に居合わせた全員が目を瞬かせた。
プリンプリンは腕組みしてキッパリと言う。
「確かに、ボンボンにはあなたのような財力も悪巧みをするような知恵もないわ。
でも……彼はわたしと同じほうを向いて歩いてくれるひとなの!
可愛い子どもも生まれた――わたし、今、幸せよ!」
プリンプリンの力説にランカーが立ち上がる。
老人だというのに感情任せで俊敏な動作だった。
「子どもだと!? もしや娘?」
「詮索はやめて。リンリンは男の子よ!」
「リンリン……?」
思い当たるフシがあるのかランカーが視線を宙にやる。
「先日の、かわいい目をしてセーラー帽をかぶった子どもか!?」
「もう〜、やっぱりあなたリンリンにも会ったのね! 頭を撫でた、っていうから帽子を洗っちゃったじゃないの」
「なぜソコまで私を忌み嫌う!
――こんなに、おまえを、愛しているのにッ!」
ランカーによる愛の告白の瞬間、応接間の向こうの扉がけたたましい音とともに開いた。
好きなキャラクターを教えてください(原作キャラは含みません)
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リトルプリンス・リンリン
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キッキ
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オハナ
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セイン
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マリン
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ヤーブレとカーブレ
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リンリンのおばあちゃん
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リンリンのおじいちゃん