あの海のリンリン   作:つるみ鎌太朗

42 / 68
第九話 プリンセスと騎士(5)

 

5、

 

 荒い息だけが聞こえていた。

 心臓がバクバクと脈打つ。

 

 夏の暑さによるものとはまた別の、冷たい汗が背を流れるのをボンボンは感じていた。

 

 トントンの肩越しに地へ伏せるランカーの姿が見える。

 眠っているようだが、その手には拳銃が握られていた。

 

 危なかった――。

 

 ボンボンはすこしずつ状況を理解する。

 ランカーが自分を撃とうとした。

 それを、トントンが身を挺してかばってくれたのだ。普通の人間なら致命傷だが弾丸も彼の機械の身を貫けなかったらしい。

 

 先ほど物凄い衝撃がボンボンにも間接的に伝わってきた。

 

「ボンボン……」

 

 トントンに低い声で呼びかけられる。

 鈍色の目が咎めるようにボンボンを見下ろしていた。

 

「きみは、プリンプリンを未亡人にするつもりか?」

 

 問われて息を呑んだ。

 己の油断を悔い、唇を噛みしめる。

 

「ごめん、トントン……ありがとう」

「わかればいいんだ」

 

 致命傷にはならなかったが、やはり身に堪えたのかトントンの動きはぎこちなかった。

 ボンボンはとっさに彼を支える。

 

「トントーン、ボンボーン」

 

 プリンプリンが息を弾ませて駆けつけてきた。

 頬に汗で銀色の髪を張りつかせながら、長いスカートをわずかに持ちあげて足もとへ絡まぬようにしている。

 

「プリンプリン?」

 

 ボンボンは今やってきた様子の彼女に戸惑う。

 プリンプリンはランカーに追われているのではなかったのか?

 

「トントン、大丈夫?」

 

 彼の背の弾痕を見とめたのかプリンプリンが心配そうな顔で尋ねる。

 トントンがよろめきながらも微笑んでみせていた。

 

「これくらい平気さ。それより、ランカーだが……とっさだったから催眠術も加減が効かなかった。おそらくしばらくは目を覚まさないだろう」

「あ、そういえば警察……」

 

 ボンボンは地面に落ちていた携帯電話を拾いあげる。

 耳に寄せると切羽詰まった声が聞こえてきた。

 

『どうしたんですか⁉︎ 今の音は何ですか? 無事ですか⁉︎』

 

 先ほどまで呑気そうにしていたアルトコ市の警察もさすがに異変を感じ取っているようだ。

 

「無事だよ。さっきのは銃声。ランカーがおれを撃とうとしたんだ」

『ええ⁉︎ あのパトカー五〇台寄付してくださったランカーさんが?』

「だからァ……それどころじゃないっての!」

 

 まったく、とボンボンは肩をすくめる。

 するとトントンから小声で耳打ちされた。

 

「今、アルトコ警察へ監視カメラの映像を送ったよ。ランカーが発砲する瞬間が映っている」

 

 ボンボンがそれを伝えるとアルトコ警察でも確認できたらしい。

 

『わかりました……すぐそちらへ向かいます! ケガなどありませんか? 救急車は必要ですか?』

 

 トントンをチラと盗み見ると、

 

「私のことはいい。知られると面倒だから」

 

 とのことだった。

 ケガ人なし、と伝えてボンボンは電話を切る。

 

 携帯をポケットにしまうとトントンがボンボンとプリンプリンを交互に見てきた。

 

「警察の聴取に時間を取られるのは得策ではない。マリンの居場所が特定しづらくなる。

ランカーを縛りつけたら、私ひとりで彼女を探しにいく」

 

 言われてボンボンはやっとわかった。

 ランカーが本当にプリンプリン以外を追っていたことを。

 

「銀髪の女の子、ってマリンちゃんのことだったのか……」

 

 ひとりごとのつもりで口にしたが、プリンプリンに聞きとめられる。

 

「あなた、わかっていなかったの? じゃあナンでここにいたの?」

 

 彼女のとび色の瞳に見つめられると嘘がつけない。

 ボンボンはうなだれ、ゴニョゴニョと口ごもりながら説明した。

 

「きみが……トントンと車にいるのを見かけたから……」

「えっ、きのう言ったじゃない。一緒にマリンちゃんを迎えに行く、って」

「それは知ってたよ。でも、二人きりで車に乗っているのを見かけて……つい」

 

 ボンボンは手を擦り合わせる。

 へへ、と笑みを浮かべるも顔が引きつった。

 プリンプリンには本心が完全に知られている。

 

「まったく、しょうのないひとね。勤務中でしょ」

 

 そう言って彼女はクスリと笑った。

 ボンボンはいくつになっても変わらないプリンプリンの微笑みに、パッと表情を明るくする。

 

 何年経っても好きだなあ。

 だいすきだ。

 

 ボンボンはプリンプリンと共にある喜びを噛み締めた。

 が、すぐにキリッとした顔になり、

 

「でも、マリンちゃん。心配だな……おれもついてくよ!」

「しかしランカーが……」

「わたしも行くわよ。ランカーのことは映像もあるし、ピストルの現物もあるから大丈夫よ」

 

 渋るトントンに二人が迫る。

 

「しばらく起きないんでしょう?」

 

 プリンプリンが言うと、トントンもうなずいた。

 

「そうだ。ほぼほぼ最大出力で催眠術をかけたから、約半日は起きれない」

「じゃあいいじゃない! 一緒に行こうぜ、トントン!

職場には直帰するって連絡しておくから!」

 

 ボンボンはすっかりヤキモチを忘れ、協力を申し出る。

 プリンプリンもマリンのことが心配で放っておけない様子だ。

 

 二人がかりで説得するとトントンも折れた。

 

「プリンプリン、ボンボン……ありがとう」

 

 三人の背にアルトコの夏風が吹く。

 先日の雨雲も去り、抜けるような青空だった。

 

 

好きなキャラクターを教えてください(原作キャラは含みません)

  • リトルプリンス・リンリン
  • キッキ
  • オハナ
  • セイン
  • マリン
  • ヤーブレとカーブレ
  • リンリンのおばあちゃん
  • リンリンのおじいちゃん
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。