1、
海がマリンとの距離を縮めてくれたのか、リンリンはそれからも何度かマリンと出かけた。
最初は『猿嫌いの怖いおねえちゃん』と怯えていたオハナも少しずつ慣れていき、今ではじかに話しかけることができる。
猿といえばキッキだが、さすがにすぐ克服できるものではないようで、未だにマリンのすぐそばには寄らないように気をつけているようだ。
マリンも、半径二メートルに近づかなければパニックにならない。
問題があるとすれば。
マリンとセインの相性が死ぬほど悪いことだけだった。
2、
「お前さぁ。ナンでそうキツい物言いしかできねーんだよ。リンリンがかわいそうじゃんか」
大体セインはリンリンの兄ぶるので、マリンの言葉づかいに突っかかることが多い。
昼下がりのアルトコの海辺。白い砂浜で約一〇一回目の口ゲンカがはじまる予感がした。
「リンリンが気にしていないなら、いいじゃない」
マリンがツンと横を向く。
その一言がセインをさらにイラだたせた。
「リンリンはまだ八つだぞ? お前、いくつだよ?」
「……十五」
「それ見ろ。七つも下の子に大目に見てもらうとか、恥ずかしくね?」
セインが頭を軽く掻く。
二人の話を聞きながら、リンリンはキッキのお鼻をつついていた。
オハナもせっせと砂山にトンネルを掘っている。もう慣れたものだ。
「じゃあ、何? 『あ〜リンリンちゃんかわいいでちゅねえ、おねえちゃんが抱っこちてあげようねえ』とか言わなきゃいけないワケ?」
「極端なんだよ。その、人をバカにしたような物言いをやめろ、ってんだよ」
「あんたに対しては『バカにしたような』じゃあないけどね」
「なお悪いわッ!」
セインがまるで漫才番組かのようにマリンへ手の甲を向けてツッコむ。
いちおう自分のために言い争っているので、リンリンはちらりと二人を見やった。にらみ合う目と目の間に火花が散っているようだ。
「ねえねえ。セイちゃん、ぼくホント気にしてないからやめようよ」
と、割って入ってみる。
マリンよりもセインのほうがいくらか折れやすいし、リンリン相手ならさらに優しいからだ。
しかし今日ばかりは違った。
セインはキリッと真面目な顔をして、
「いーや。そのテにゃ乗らねーぞ。こういうのはな、エスカレートするのが常なんだ。
コイツがリンリンをバカにする、リンリンが許す、そんでもってまたリンリンをさらにガキだとバカにする……それがエンドレスで続きゃァなぁ、最後には何を言ってもいい、って完全にチョーシ乗っちまうんだよ。
それで傷つくのはリンリンだし、また別のヤツかもしれねー。
そうなる前にオレがココで止めておくのが正義!」
と拳を空高く振りあげる。
マリンが呆れ返ったようにため息をついた。
「ハイハイ。あんたは正義の味方で、わたしは悪者ってワケね。
じゃあ今日のところは退散してあげる」
ソレでいいんでしょ、と背中を見せてマリンが砂浜に足あとを残して去ってゆく。
銀色のツインテールが遠くで揺れるのをリンリンは目で追った。
「マリン……」
「そういうコトでもねーんだけどな。アイツ、根本的に反省ってモンを知らないよな」
セインも完全にマリンを嫌っているワケではないから、すこしバツが悪そうだ。
「キキーキキャッ」
リンリンの腕にキッキが頬ずりしてくる。
リンリンはキッキのお鼻をまたつついてやった。しっぽを立てて、キャッキャとくすぐったそうにする。
ただしリンリンの小さな胸にはモヤモヤきたものがまだくすぶっていた。
***
「オハナねえ、マリン、まだセインに慣れてないんだと思うなあ」
まだ陽が高い帰り道でオハナが桃色のバケツを振りながら切り出した。
拾った貝がらがバケツの中でカラカラと音をたてる。
リンリンは背中に乗るキッキの腕を握って隣を歩いていた。
「慣れ……る?」
「うん。オハナ、お友だちと仲良くなるの……遅いから。マリンもきっとそうだよ」
「オハナちゃんとマリンが同じ?」
言われてもマリンとオハナでは違いすぎる。
リンリンが飲みこむまでチョット時間がかかった。
「うーん。でも、マリンって、オハナみたいに喋れなくなるより、自分で話を終わらせる……みたいな……」
「あー……」
そこまで説明されてリンリンもやっとわかった。なるほど、マリンは無理やりセインとの話を終わらせようとしているワケか。
つまり、セインから逃げている?
リンリンは青空を見上げた。
「セイちゃん、いい子なのに……」
「でもセイちゃん、ちょっと無理するところある」
「それはそう。マリンも言っても聞かないからね……」
およそ八歳児どうしの会話とは思えない。
「キキャー」
キッキがリンリンの頭にアゴを乗せてダランと腕を垂らした。
その腕を取り、勇ましくキッキを背にしてリンリンが宣言する。
「ぼく、ふたりが仲良くなれるようにガンバるよ! きっと良いやり方があるんだ」
「ええっ、どんな?」
「それはコレから考えるんだよ、オハナちゃん! ぼく、やるよ!」
「え、ええ……ッ、できるかな……。でも、何かできることがあったら言ってね。オハナもてつだう!」
不安げながらもオハナが自分のふくふくした手をリンリンの手に重ねる。
「ありがと、オハナちゃん。えい、えい、おー!」
その手をキッキの腕ごと握りしめ、リンリンは大きく振りかぶるのだった。
「キッキャァ!」
キッキもやる気まんまん、のようだ。
3、
家に帰ってからリンリンは工作の設計図に熱中していた。
リビングのカーペットに寝転がり、まわりには工作の本が散らばっている。どれも読み込んであり、カバーがすこしヨレていた。
リンリンの得意科目は図工だ。
スケッチブックにクレヨンでブレスレットの絵を描き、どんな貝がらを通すか、ヒモはどんな材料にするか、などを描きとめている。
その下にリンリンと友だち三人、キッキと思われる集合図もあった。
ページをめくるたびにアイディアを描いていくのをキッキが隣で見つめている。
「リトルプリンス・リンリン。ちゃんと片づけなさい」
晩ごはんのしたくをするママの代わりに、おばあちゃんが言った。
リンリンはスケッチブックから目を離さず、
「はーい」
と返す。小さな手にはクレヨンが握られたまま。
リンリンからは見えないが、おばあちゃんが肩を落として笑った。
「リンリン」
先ほどより、ゆっくりと名前を呼ばれる。
二度めとなると、さすがにリンリンも手を止めた。
チラリとおばあちゃんを見て、まわりの本をせっせと片づけはじめる。キッキも遠くに投げてある本を回収して、リンリンへ渡してくれた。
クレヨンをケースの正しい位置へ戻す。
きれいに片づけたあと、おばあちゃんが聞いてきた。
「何を描いていたの?」
リンリンはスケッチブックを開く。
色とりどりの貝がらを使ったブレスレットを四人と一匹ぶん。キッキの腕は細いので首輪にしようかと考えている。
「あら、かわいい。みんなおそろいなのね」
「友だちのしるしだよ。目立つ飾りがあると、もっといいんだけど……」
リンリンが悩みを口にすると、おばあちゃんが「ちょっと待ってね」とすこし離れた。
大人しくキッキと待っていると何か持ってきてくれたようだ。
「コレなんかどうかしら? かわいいと思うけど……」
そう言って見せてくれたのは、銀色の小さな星型のチャーム。
リンリンは一目で気に入って、八重歯を見せて笑う。
「おばあちゃん、コレ、すてきだね! 貝がらときっと合うよ!」
隣でキッキも手を叩いた。
一人と一匹の喜びようにおばあちゃんも嬉しそうだ。
「ちょうど五つあるから、大事に使ってね」
「はぁい!」
リンリンはチャームを受け取るとスケッチブックの上に置いて、さっそく新しいブレスレットの図を描きはじめた。
おばあちゃんとキッキも一緒に見守る。
「白い貝がらとうす桃の貝がらを散らばせて……他にもビーズ分けてあげましょうか?」
「ええ〜ッ、いいのぉ?」
「いいのよ。趣味で集めたものだから。リンリンとお友だちの大事なものになるなら嬉しいわ」
おばあちゃんはビーズの入った小箱も持ってきてくれた。
リンリンの創作活動もますます力が入ろうというものだ。
やがてデザイン案が完成すると、スケッチブックを頭の上に持ち上げ、
「おばあちゃん、ありがとう。みんなと明日つくるね」
と言った。
「完成が楽しみね」
おばあちゃんが口を手で隠して笑う。
リンリンは出来上がったブレスレットの図を穴が空きそうなほど見つめる。
「コレで、マリンとセイちゃんが仲良くなってくれたらいいなぁ」
「前に言っていたおねえさんのこと?」
「そうなんだあ。セイちゃんとケンカが多くって」
「あらぁ、それは心配ね」
「ウン……だから、みんなでブレスレットづくりをしたら、仲良くなれないかな、って」
キッチンから食器を出す音が聞こえてくる。そろそろ晩ごはんだから、フォークやスプーンを出してお手伝いをしなければ。
リンリンはそそくさとスケッチブックを閉じ、リビングにある子ども用の棚にしまう。
おばあちゃんはキチンと片づけを見守りつつ、
「うまくいくといいですね、リトルプリンス・リンリン」
と頭をなでてくれた。
好きなキャラクターを教えてください(原作キャラは含みません)
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リトルプリンス・リンリン
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キッキ
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オハナ
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セイン
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マリン
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ヤーブレとカーブレ
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リンリンのおばあちゃん
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リンリンのおじいちゃん