あの海のリンリン   作:つるみ鎌太朗

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第十一話 リトルプリンスの帰還(2)

 

2、

 

「セイちゃぁん、やめなよぉ……」

 

 オハナが泣きじゃくりながら言う。

 波にゆれるボートにはセインが乗っていた。蒸し暑い中、ひろいひたいに玉の汗が浮かぶ。

 

「止めてくれるな、オレはリンリンを探しにいくッ!」

「だめだよぉ、セイちゃんまでいなくなったらどうするの⁉︎」

「そんなこと、リンリンなら構いやしねえさ。オレもアイツに応えたい……アイツ、ちっこいけどダチのためなら体を張れるやつだ。

オレも命を賭けて見つけだしてみせる!」

「セイちゃんッ!」

 

 ボートをつなぐロープを今にも外そうとするセインの手にオハナがしがみついた。

 嗚咽を漏らしつつも絶対に譲らないという意思がうかがえる。

 セインがわずらわしそうに声を荒げた。

 

「離せ、離せよッ! 元はといえばリンリンから目を離したオレが悪ィんだ……だから、オレが見つけてやらなきゃなんねえんだ!」

「ちがうよお! オハナだっていたもん、セイちゃんだけのせいじゃないよう」

「オハナはまだ小せえだろ。オレはおばあちゃんからリンリンを任されたんだ! それなのに……いいから、行かせてくれよーッ‼︎」

 

 二人の騒ぎを聞きつけた大人たちが走ってきた。

 まず到着したのは、桃色の髪をおさげに編んだ小柄な男。パンのにおいが染みついている。

 

「わぁ、わぁッ! セイちゃん、何してんだい! ダメだってば‼︎」

「お父ちゃぁん、セイちゃん言っても聞かないの。たすけてよお」

 

 オハナの父、オサゲだった。俊足自慢の彼が久方ぶりに披露した格好になる。

 

 遅れてセインの父親であるカセイジンがやってきた。

 

「せ、セイン! ムチャはおよしなさいッ!」

 

 オサゲの助けもあり、カセイジンは息子のセインをボートから引きずりおろす。

 あまり運動が得意ではない彼は、全速力で走ったことと力ずくで息子を下ろしたこととで青息吐息だ。

 

「チッ……オハナが喚くからだぞ」

 

 セインが悪態をつく。

 いつも大人しいオハナだが、これには強い態度で返した。

 

「それでもいいもん! セイちゃんまでいなくなったら、いやだもん‼︎」

 

 そんな彼女の桃色の頭をオサゲが撫でる。

 

「そうだよ。偉いなぁ、オハナ」

 

 無鉄砲なセインを、息をやっと整えたカセイジンが咎めた。

 

「そうですよ。今回は、オハナに感謝してもしきれません。こんな時にアナタは何を考えているんです!

遭難者が増えたら、そのぶん人員も割かれるのですよ⁉︎」

 

 セインと同じ水色の短髪をかき乱しながら叱りつける。

 しかし当の本人はそっぽを向いて反抗的だ。

 

「フン……やばそうだったら、近くの船にSOSでも出すさ! オレはリンリンを捜しに出る!」

「まだそんなことを……いい加減になさい!」

 

 カセイジンが両肩を掴むとセインの肩がすこし震えていた。

 それでも彼は唇を噛みしめ、震えを止める。

 父親をキッ! とにらみつけた。

 

「オヤジ、そんな怒っていてもヤッパリ冷静だな。リンリンが……友人の息子がいなくなってんだぞ! オレ、責任があるのにナンもできねえなんて情けねえ。

リンリンはオレのマブダチだと思ってるし……何かしねえと、アイツの友だちだって言えねえよ!」

 

 実のところ、彼が腹を立てているのは自分自身なのかもしれなかった。

 何もできない子どもである自分にも何かできないか、と必死なのだ。

 

 カセイジンはそれを悟ったかのように、鮮やかな青の瞳でセインを見つめる。

 

「……アナタが、リンリンを大事に想うのはわかります。ですが今は堪えなさい。人の迷惑になる」

「ナンだよ! オレ、自分の身の危険は……」

「ボンボンやプリンプリンの気持ちを考えろ、と言っているんです」

 

 カセイジンが言いつけるとセインがハッとした面持ちになった。

 彼が二の句を継げずにいられないでいると続けて言う。

 

「子が行方知れずの親が目の前にいるのに、ワタシたちがうろたえてどうするのです。彼らの不安を余計に煽るだけでしょう。

二人もわかっていて、あえて落ち着いたように振るまっているのですよ。それを……無下にすることなど、できるハズがありません」

 

 カセイジンの言葉にセインが顔を青くしてうなだれた。フルフルと顔を左右に振り、目には涙が浮かぶ。

 息子の弱った姿にカセイジンも苦しげに眉根を寄せた。

 

「オヤジ、オレ……」

「それに、セイン」

 

 振り絞るような声でセインをさえぎる。

 カセイジンは息子をまっすぐに見据えた。

 

「……もし、アナタがいなくなったら、ワタシは冷静ではいられません。ボンボンたちの前だというのに、きっと取り乱してしまう。

だから、どうか行かないで。ワタシたち大人が、ナンとか見つけだしますから」

 

 言われてセインはその場に縫いとめられたかのように動かなくなった。

 しかしながら両手で触れていた肩が小刻みに震えだす。瞳から涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。

 

 抱き寄せるとセインがワッと声をあげて泣きだす。

 

「オヤジ、オヤジぃッ! ごめん、オレ、リンリンから目を離しちまって……!」

「誰もアナタを責めません。リンリンがいなくなって、みんな不安なのです。自分にできることをしましょう……」

 

 腕の中で大きく体をわななかせて泣きじゃくるセインへ、カセイジンが静かに告げる。

 見守るオサゲとオハナは、互いを見合わせてうなずきあう。

 

 誰もがリンリンの無事を願っていた。

 

 しかしアルトコの海は刻一刻と色を変え、夕暮れが訪れようとしている。

 暗くなれば捜索が困難になる。

 理解しているからこそ皆に焦りが見えはじめていた。

 

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  • リトルプリンス・リンリン
  • キッキ
  • オハナ
  • セイン
  • マリン
  • ヤーブレとカーブレ
  • リンリンのおばあちゃん
  • リンリンのおじいちゃん
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