あの海のリンリン   作:つるみ鎌太朗

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第十一話 リトルプリンスの帰還(6)

 

 それでもオサゲが、どこか他へボートを移動させようかと舵を切ろうとした瞬間。

 

「ムムッ! ヒシッモチッ! ……ルールールールールールーッ‼︎」

 

 カセイジンの大きめな耳が前後にピクピク回る。

 過去の冒険でもおなじみの『ヨカン』だ。

 

 その場にいる全員が固唾を飲んで彼の言葉を待つ。

 

「……ッ、リンリンの、リンリンの気配を感じますッ! 眠っているようで、とても静か。キッキも一緒です!」

 

 背筋をピンと正して告げる彼に、ボンボンが顔をずいと近づけた。

 

「ナンだってぇ⁉︎ おいカセイジン、どっちの方角かわかるか?」

「えーっと、アチラです! 一時の方角ッ‼︎」

 

 カセイジンが目の前の海を指さすと、背後でトントンがハッと気づいたように言った。

 

「⁉︎ ……確かに、先ほどまでなかった箱のようなものが見える……海底から浮き上がってきたのか? まさか……」

 

 ボンボンは最後尾で舵に手をかけていたオサゲへ叫ぶ。

 

「オサゲーッ! 全速前進だ! 目標は、箱のような物体ッ!

エンジンがぶっ壊れてもいい……出力最大で突っ切れェーッ‼︎」

「アイ、アイ、サー‼︎」

 

 オサゲは汗みずくでエンジンのレバーを最大まで引き下した。

 舟はきしみ、轟音をたてて海を突き進んでいく。

 

 ボンボンが船頭のプリンプリンを抱きかかえた。

 

「しっかり掴まってなよッ!」

「ええ、ボンボン!」

 

 プリンプリンの目がどんどん近づく箱のような物体をまっすぐ捉えていた。どこか記憶にあるような、ふしぎな感覚。

 

 後ろでマリンも振り落とされないよう、トントンにしがみついていた。

 

 あっというまに箱のようなものの目の前に着く。

 近くで見ると木箱はある程度の大きさがあり、子ども一人ぐらいなら体を丸めれば入れそうだった。

 

 耳をすませば何かが聞こえてくる。

 

『キッ、キキッキャ、キィ〜ン……』

 

 猿の鳴き声だ。

 

「キッキか⁉︎」

 

 ボンボンが焦って身を乗り出すと、それより先にプリンプリンが箱へ手を伸ばす。

 

「リンリン!」

 

 ボンボンが慌てて彼女の身を抱え、カセイジンやトントンが手を貸してナンとか箱をボートの上へ引き上げた。

 

 木箱は中からの振動でかすかに揺れている。

 

 ボンボンが力ずくで蝶番を外すと中身が急に飛び出てきた。

 

「キキッキィ〜〜〜ッ‼︎」

「だぁッ! は、キッキぃ⁉︎」

 

 ボンボンの顔面に張りついてきたのは、リンリンと一緒にいたはずのキッキ。しっぽを振り振り、元気そうに鳴いている。

 

 カセイジンやオサゲがボンボンの背を支える中、プリンプリンは箱の中を確認して口もとをほころばせた。

 

 夕暮れの最後の光に照らされ、プリズムの髪が七色にきらめく。

 同じ色の長いまつ毛があどけない顔に影を落とし、やわらかな頬は紅く色づいていた。

 握られた小さな手がムニャムニャと寝言をもらす口を覆う。

 

 リンリンがそこに眠っていた。

 

 ふしぎなことにセーラー襟のついたTシャツも、紺色の半ズボンもちっとも濡れていない。

 

 さらに不可解だったのは彼の隣に添えられた王冠だ。

 七色の宝石が埋め込まれた白銀の冠には、マリーン王家の紋章が刻まれている。

 

 だがプリンプリンはそんな王冠には目もくれず、すぐさまリンリンを抱き起こした。

 なだらかな背に手を回すと、子どもらしい温もり。

 

「ああ、リンリン……わたしのリンリン……!」

 

 小さな頭に頬擦りすると甘いにおいがひろがる。

 んん、とリンリンが身じろぎした。

 

「ん? ……あっ、ママァ! パパァ!」

 

 とび色の大きな瞳を開かせ、ぱちくりさせる。

 無邪気な声がその場にいる全員を笑顔にさせた。

 

『リンリン!』

 

 一斉に幼いリトルプリンスの名を呼ぶ。

 リンリンはみんなの心配をよそに、能天気に片手を挙げた。

 いつのまにか隣にキッキもいて、同じく挙手。

 

「はーい。ぼく、ここだよお!」

「キキッキャァン!」

 

 まるで学校で名前を呼ばれたときのようなしぐさ。

 でも、それでいいのだ。

 みんなでリンリンを囲うと、小さな体があっというまに大人たちの間に埋もれる。

 

「わぷっ、ナンかみんないっぱい! 押さないで押さないで」

「なーに言ってンだ、心配かけて! パパ泣いちゃったぞ‼︎」

「え〜ッ? パパァ、泣き虫さん」

「ちがうよ、ちがうよッ! パパが泣くほどのことをリンリンがしでかしたんだいッ!」

 

 危険なことをしたリンリンをボンボンは叱ろうとするが、涙声でうまくいかない。

 そこへプリンプリンが合いの手を出す。

 

「そうよ、リンリン。荒れた海に入ってはダメ、って言っていたわよね? リンリンがいなくなってママも泣いちゃったわ」

「そうなの? ごめんなさい……」

「ねえ、ナンでママには謝ってパパには謝らないの? ねぇナンで? どして?」

 

 プリンプリンにべったりなリンリンにボンボンが拗ねたように言う。

 母親に抱っこされながらリンリンがぐるりとみんなの顔を見る。

 

「せんせい、お耳クルクルしてるよお。どうしたの?」

「コレはですね、岸に着いたらきっとみんなが喜ぶというヨカンです」

 

 カセイジンは教え子の疑問に優しく答えてやる。

 

「オサゲおじちゃん、汗だくだよお。だいじょうぶ?」

「へっちゃらさ! トントンも舵取りを手伝ってくれていたし、リンリンのためなら……オハナも心配してたんだよ」

「オハナちゃんが? ふうん、ナンだかスゴいことになっちゃってたみたい」

 

 オサゲが説明してやるとリンリンが目を丸くした。

 事態の大きさをようやく実感してきたようだ。

 彼のプリズムの髪を撫でてトントンがさらに補足する。

 

「きみがいなくなって、みんなが哀しんでいた。でも信じていたよ。必ず帰ってくるって」

「トントン……ありがとう!」

 

 父と母のかつての冒険の仲間に囲まれ、リンリンはちっちゃい八重歯を見せて微笑んだ。

 

 

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  • リトルプリンス・リンリン
  • キッキ
  • オハナ
  • セイン
  • マリン
  • ヤーブレとカーブレ
  • リンリンのおばあちゃん
  • リンリンのおじいちゃん
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