2、
「――そんな感じで、おじいちゃんと会ってきたんだあ」
「キッキャ」
救出された夜、トントンの屋敷の庭で行われたパーティーの席。
リンリンはあっけらかんと言った。
横でキッキも身振り手振りで話に参加していたから、話が終わった時に背をグーンと反っていた。
周りのみんなはしんと静まり、何も言えないようだ。
変なことを言ったかな? と不安になり、みんなの顔をキョロキョロと見回す。
マリンをランカーから連れ戻した記念、及びリンリンが海から戻ってきた記念に開かれたパーティーは各ご家庭の皆さん総出で華やかに開かれた。
庭の生垣には小型のライトが仕込まれ、闇夜で照らすとまるで光の花が咲いたよう。
スイカズラのフラワーアーチにも花を傷つけないよう慎重にライトが配置されている。
屋敷でホコリを被っていた長テーブルもボンボンやオサゲ、カセイジンが出してきて、きれいに拭いてから白のテーブルクロスを敷けばかわいらしい食卓になった。
もちろん人数ぶんの椅子も用意されてある。
そこに、子どもたちが買ってきた果物のソースのパンケーキ。
女性陣が作ったごちそう。
男性陣がどこかから持ってきた酒類とおつまみ。
全員で準備した食事が並べられ、楽しいひと時を過ごしていた。
そんな中『リンリンはどうして箱のような舟に入っていたの?』と誰だったかが尋ね――。
今に至る。
ふしぎな話に全員が呆気にとられていたが、まずパパが呑気に笑った。
「夢みたいな話だけど……これだけは言える。リンリンが無茶をしたのは、よくない!
お義父さんと同意見だなー、ウン!」
腕組みして頭を何度も上下に振る。
横でママが苦笑いした。
「ボンボン、『お義父さん』って言ってみたかっただけじゃあ……?」
「そんなことないよ! お義父さんは立派なひとだと思ったさ!
さすがきみのお父さんだよ、お義父さんは!!」
それをきっかけに、みんなが思い思いに感想を述べる。
まずはワット博士とマイホームさんが夫婦で仲良さそうに話していた。
「ワタクシ、動物学者として! マリーンにキョーミがあるわ!
すでに絶滅した動物も大勢いるなんて、地球の宝だわ。ゼヒとも拝見したいわ!」
「ワットさあん、リンリンちゃんが見つかったばかりで海に飛び込まんとってくれよ~」
「イザ! イザ! ハッ、イザイザイザイザ!」
「ワットさあ〜〜〜ん!」
シドロとモドロが久しぶりのごちそうにありつけたからか、食べ物を口いっぱいに含みながら言う。
「なあ、リトルプリンス様と一緒に舟に入っていた王冠ってさあ。それならマリーンの王さまの冠ってこと?」
「わァ〜〜〜きっと、お高いんでしょうねえ! 売ったらいくらになるんだろお〜〜〜!?」
そんな二人組を、向かいで家族と座っていたセインが怒鳴りつける。
「おい、オッサンたち! リンリンのおじいちゃんの大事なモンを売ろうとすンなよ! ったく、大人はこれだから……」
「セイン。ワタシも大人ですが、そんな失礼なことを考えるのはあの二人だけですよ」
先生――カセイジンが隣でなだめた。
相変わらずにぎやかなみんなに、リンリンは『帰ってきたんだなあ』と心から思った。
あのふしぎなマリーンに行ったのが自分と隣のキッキだけだなんて。ナンだかフワフワした気分だ。
リンリンはキッキのお鼻をくすぐるが、身を揺するしぐさは普段とおんなじだった。
おじいちゃんの言うとおり、いつかみんなをマリーンに連れていけたらいいな。
そう考えて、チラとおばあちゃんのほうを見る。
おばあちゃんがきっといちばん喜ぶハズだからだ。
しかし、リンリンはギョッとした。
おばあちゃんが泣いていたからだ。
「……お母さん?」
ママも気づいて声をかける。
おばあちゃんの手にはリンリンと同じ舟にあった王冠が抱えられていた。
そこらじゅうにあるライトの灯りを照り返し、銀と七色の宝石がきらきらと輝いている。
愛おしそうに撫で、おばあちゃんは震える口を開いた。
「ああ、ごめんなさい……! わたし、トルマリンの話を聞いて、ふしぎな気持ちになってしまって。
でも――彼は本当にいるんだわ。海の底のマリーンに」
リンリンは椅子から降り、小走りでおばあちゃんへ駆け寄るとその膝にあごを乗せる。
「おばあちゃん。ぼくのお話、信じてくれるの?」
「キー」
肩に乗ったキッキと尋ねたら、おばあちゃんが優しく微笑みかけてくれた。
「ええ、当たり前だわ。だって、ホラ……」
おばあちゃんは王冠から何かを指で取る。
目を凝らさないとわからないが、リンリンと同じプリズムの髪の毛が一本。
ただ猫っ毛で肩までの長さのリンリンと違い、長くてまっすぐな綺麗な髪だ。
「あ、おじいちゃんの……」
「そうよ。こんな髪の人は、わたしが知るかぎりただ一人。
……トルマリンが、きっとリンリンを助けてくれたのね。
かつて赤ん坊だったプリンプリンのことも」
ママが息を呑んだのが聞こえた。
リンリンとおばあちゃんを見てくる。
「お母さん、それって……?」
「リンリンの話を聞いてわかりました。
なぜ貴女がティアラを持っていたのか。どうして箱のような舟で公海をさまよっていたのか。
トルマリンが波にさらわれた貴女を救い、安全なところへ送り出してくれたからよ。
そう考えたら、すべて説明がつくの」
おばあちゃんが王冠を静かにテーブルへ置いた。
ママの目に涙が浮かぶ。
二人を交互に見ながら、リンリンはおばあちゃんの温かい膝に頬を擦り寄せた。
「お父さんが――」
「そうですよ、プリンプリン。彼がわたしたちを引き合わせてくれたの」
ママが顔を下に向ける。
隣に座るパパが背中をさすっているから、きっと泣いているのだろう。
リンリンがハラハラして眺めていると、おばあちゃんに膝に座るように言われる。
キッキと一緒によじ登ると強く抱きしめられた。
「リンリン。ありがとう、トルマリンの話を教えてくれて」
おでこにキスをされ、リンリンはハッと思い出す。
「あ、おばあちゃん。言い忘れてた」
「なあに?」
できるだけおじいちゃんの口振りを真似して言った。
「おじいちゃんが、おばあちゃんに伝えて、って。
『愛しているよ、アイリーン。永遠に』」
おじいちゃんは落ち着いた笑みで口にしていた。
それを、そのまま伝えたかった。
おばあちゃんへの大事な言葉だから。
リンリンが告げたとたん、おばあちゃんは『ああ……』と言って大きく肩を震わせた。ひっく、とノドを鳴らしている。
「どうしたの? おばあちゃん、哀しいの?」
「わからないわ……なぜだか涙が止まらなくって。
哀しくて、さびしくて。でも嬉しくもあるの……」
リンリンはおばあちゃんの言っていることがよくわからず、キョトンと目をぱちくりさせた。
おばあちゃんが頭を撫でてくれる。
「……リンリン。貴方が生まれた時、あの人と同じ髪の色で驚いたわ。もっともマリーンの意思については教えられていなくて、『虹の祝福』とは海の加護を持つ者としか思っていなかったけれど。
だから……いいえ、そうでなくても貴方がわたしたちの希望。
いつかマリーンへ帰るための」
おばあちゃんはとび色の目で宙を見た。
花々の向こうの、アルトコの海を見据えながら――。
「それまで――トルマリンもわたしたちを見守ってくれているのね。
あの海で……」
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リンリンのおばあちゃん
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