あの海のリンリン   作:つるみ鎌太朗

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最終話 あの海のリンリン(5)

 

4、

 

 ランカーたちも去り、アルトコ市に楽しい夏休みが戻ってきた。

 リンリンとマリンはさらに仲を深め、セインやオハナもいつも一緒に遊んでいた。

 唯一キッキだけがマリンから半径二メートルの距離を保っていたが……リンリンにはある考えがあった。

 

 その想いの結晶が今日お披露目される。

 

 お昼を食べたあと、リンリンたちはトントン宅の庭に集合した。フラワーアーチの下、むせかえる甘い匂いの中へ。

 オハナ、セイン、キッキといつもの顔ぶれだ。

 セインはスマホで動画を撮影している。

 

「何よ? わたしに見せたいもの、って」

 

 ジャケットのポケットに手を突っ込みながらマリンも待っていた。

 

 そこへトントンが箱を抱えて現れる。

 

「リンリンと共同で制作したんだ」

 

 ごとん、と箱をタイルの上に置く。

 何も知らないのはマリンだけなので、他の全員がニヤニヤしているのが気になるらしい。

 

「ねえ、なに? 本当にナンなの? ヒミツなんて、カンジ悪くない?」

 

 焦って質問ばかりのマリン。銀色のツインテールを揺らして前のめりになっている。

 

 リンリンはトントンへ目配せし、箱を開けてもらった。

 すると……。

 

『ガーガ、ピィ〜〜〜〜〜〜〜!』

 

 入っていたのは銀の四角形のボディに、四角形の顔が乗っかり、その両隣からこれまた四角形の耳を生やしたロボットだった。

 黒くて小さな手と長いしっぽもついていて、足はキャタピラ。顔についた液晶に映る大きな瞳が愛らしい。

 

「! こ、これはッ?」

 

 後ずさるもののマリンの目線は四角いロボットに向けられたまま。

 リンリンは両手をひろげて解説する。

 

「これはねえ、『ガガピー』だよ! 機械のお猿なんだ!」

「が……ガガピー?」

「『ガガピー』って鳴くからガガピーだよ」

「いつもまんまの名前をつけるんじゃないわよ!」

 

 トントンがガガピーを片手でひょいと持ちあげた。

 手のひらに乗せられるほど小さいロボットなのだ。

 

「ガガピーはリンリンのアイディアスケッチから生まれた、コミュニケーション・セラピー・ロボットだ」

 

 細かい説明をはじめる隣で、オハナがリンリンのスケッチブックをセインのスマホへ向ける。

 マリンの不在期間に描かれた絵だった。

 

 トントンがカメラに向かって説明を続ける。

 

「目の液晶には有機ELを採用し、感情豊かに見せるようにパターンを多く設定。また人間の言動・仕草より行動パターンを学習するので、一緒に過ごせば過ごすほど複雑なコミュニケーションが可能になる」

「お値段ウン億万円だぜー!」

「んなワケあるかッ!」

 

 セインが画面外からピースするとマリンからツッコまれた。

 二人のいさかいは気にせず、リンリンがトテトテとフレームインしてくる。キッキも一緒についてきた。

 

 オハナが持つ絵を指さしながら、

 

「これは、ぼくが猿嫌いのお友だちのために考えたロボットです。ナンでお猿がニガテなのか考えたとき、ふさふさの毛やきれいに並んだ歯、赤いお鼻……人間ぽいフォルムが怖いのかなあと考えました。

そこで、ロボットらしく四角にして、お口とお鼻をなくしてみたの。目はあったほうが良いかな、って……ホラ、大きくてかわいいよね」

「リスザルを参考にしたんだよ」

 

 リンリンの説明にトントンが補足する。

 

「今日はそんなマリンにガガピーを友情のあかしとして贈ろうと思います。マリン、ガガピーを抱っこできますか?」

 

 リンリンがそう言うと、セインのスマホがマリンへと向けられた。マリンはカメラに慣れていないのかとっさに顔を隠す。

 

「ちょっと〜! わたしの撮影料は高くつくわよ!」

「おいくらですか?」

 

 すっかり撮影用の喋り方になっているリンリンが聞いた。

 落ち着いた態度にマリンは赤い顔で口をつむる。

 

「〜〜〜ッ考えてないわよ、そんなのッ! 大体ねえ、こんなの猿と似ても似つかな……」

「まあまあマリン、とりあえず抱っこしてみなよ」

 

 トントンがマリンへガガピーを押しつけようとする。

 目の前に迫るガガピーをマリンは両手で押しやろうとしたが、

 

『ピー』

 

 液晶に映ったウルウルの目にほだされたのか、動きが止まった。

 ガガピーは四角い頭を左右に振ったり短い手を動かしたりしている。

 

「……」

 

 マリンはトントンから四角いロボットを受け取ると、無言で抱える。

 ガガピーが機嫌良さそうにしっぽを揺らした。

 

『ピッ♪ ピッ♪ ピッ♪』

 

 液晶の目が笑顔の形になっている。

 それを見てマリンは早口で言った。

 

「ふ、ふん。まあ可愛げはあるんじゃないの?

それに、わたしがもらってあげないとカワイソーだし面倒看てもいいけど!」

 

 ギュッと抱きしめたので、ちょっと気に入ったらしい。

 リンリンは満足そうに笑うと、セインのスマホに向かって締めの言葉に入ろうとする。

 

「マリンへの贈呈が終わりました。では、二年三組リンリン、自由研究の発表を終わ……」

 

 途中でTシャツのすそを軽く引っ張られた。

『ん?』と下を見ればキッキがしょぼくれた顔で立っている。

 

「どうしたの、キッキぃ。撮影中だよ?」

「キィ〜……」

 

 キッキはマリンに抱かれたガガピーをチラッ、チラッと見た。

 すこしヤキモチを妬いているようだ。

 自分はいつまでも近寄らせてもらえないのに……。

 

「キッキにはぼくがいるでしょ?」

 

 リンリンが抱きあげてもキッキは元気がない。

 その場にいるみんなの目線が、ガガピーを抱っこするマリンに集中する。

 

「な、何よ? 猿嫌いのためにこのコを作ったんでしょ? 今の状況にナンの問題もないじゃない」

「でも……キッキかわいそーだよなあ……」

 

 セインにジト目で見られ、マリンは肩を縮ませた。

 

「かわいそう、って。もう〜、どうすればいいってのよ」

「抱っこは無理でも撫でてあげればいいじゃないか」

 

 トントンの提案にマリンは口をつぐむ。

 海色の瞳がリンリンの腕の中で落ち込んでいるキッキに向けられる。

 以前なら視界に入れるのすら鳥肌が立ったのに、直視できるようになっただけ大きな進歩だ。指でつついたこともある。

 だが、それ以上の進展はこれまでなかった。

 

「キ〜……」

「よし、よし……」

 

 リンリンだけでなくオハナもキッキをなぐさめている。

 さすがのマリンも良心が痛んだのか、一歩ずいと踏み出した。

 

「し、しょうがないわね。猿が悪魔の遣い、っていうのはランカーの大ボラでしょうし……犬やネコとそう変わりないでしょうし?

ちょっとぐらいなら、わたしだって撫でられる、かもしれない、かも」

 

 ガガピー片手にリンリンの隣に立つと、彼女はおもむろに手を伸ばす。

 しかし、キッキ目前でいったん止まる。

 その後は引っ込めたり、また伸ばしたり。心のせめぎ合いが目に見えるようだ。

 

 だが、しばらくしてマリンは心の弱さに打ち勝った。

 

 キッキの柔らかい毛並みに手のひらを埋め、ゆっくりと上下させたのだ。

 

「おお、すごいじゃないか。マリン」

 

 トントンがパチパチと拍手する。

 セインやオハナも口々に『すげ〜』だの『やったね』だの褒めそやす。

 

 リンリンはと言うと、キッキの撫でられる感触が腕に伝わってきたので動けないでいた。とび色の目が真ん丸になっている。

 

 当のキッキは、しばらくされるがままだったが、じわじわと実感が湧いてきたのか、

 

「キキャッ」

 

 と嬉しそうに短く鳴いた。

 マリンは大人しいキッキ相手に落ち着いたのか、撫でさする手もだんだん優しくなってきて……。

 

 彼女の腕の中のガガピーが突如として電子音を鳴らす。

 

「へっ⁉︎ なに?」

 

 マリンがガガピーを見下ろすと、目の液晶が真っ赤になっていた。

 トントンがどういう状態かを教える。

 

「これは『ヤキモチ』だね。放っておくと勝手に電源が切れる」

「どういう機能つけてんのよ⁉︎」

「きみがかわいがらないとかわいそうだから」

「アンタ、本当はわたしのことミリも信じていないでしょう⁉︎」

 

 そうしている間にもガガピーのヤキモチは止まらない。

 

『ガーガ、ピー! ガーガ、ピ〜〜〜〜!』

 

 頭をくるくると一回転させている。

 そこへキッキが言葉をかぶせた。

 

「キィ〜、キィキキ?」

 

 偉そうにアゴをしゃくっている。

 ガガピーがさらに機械音でまくしたてた。

 

『くぁwせdrftgyふじこlp;@‼︎』

「キッ、キキィッ⁉︎ キィィ‼︎」

 

 二匹の言い争いはさらにヒートアップしているようだ。

 ガガピーをおっかなびっくり見守りながらマリンが尋ねる。

 

「ねえ、リンリン。この子たちナンて言ってるの……?」

「ガガピーはわかんない。でも、キッキはこう言ってるよ。

『おお⁉︎ やんのかゴルァ! こちとら長年、王子の護衛やっとるベテランやぞワレェ。シバかれたいんかあ?』」

「キッキってそんな喋り方だったの⁉︎」

 

 思ってもみなかったのかマリンが目を白黒させた。

 そして……。

 

「ギィィィィィィィィィィィ〜〜〜〜〜〜ッ‼︎」

 

 キッキが宙を舞う。空の真上にのぼる太陽と影が重なり――。

 

 マリンめがけて落下した。

 

 振ってきたキッキに押し倒される形となった彼女はそのまま――。

 

「ま、マリン! マリィィィィィン!」

 

 声もなく、気絶した。

 リンリンの悲痛な声が夏空を震わせた……。

 

 まだゼロ距離は早すぎたようだ。

 

***

 

 マリンが思ったよりも早く気絶から回復し、その後はガガピーとキッキも仲良く遊ぶようになっていた。

 空が茜色に染まるころ、リンリンたちは家へ帰る支度をしていた。

 

「じゃあ、マリン。またあしたね!」

「ええ。今度はオハナのウチへ集合ね」

 

 リンリンとマリンが別れの挨拶をしていると、オハナがぽつりと漏らす。

 

「セイちゃんちに行ったこと、あんまないねえ」

 

 その言葉にセインがギクリと肩をびくつかせた。

 

「あ〜〜、オレんちはさ〜〜散らかってるからあ……」

「掃除すればいいでしょ」

 

 すかさずマリンが言う。

 セインはひたいを押さえつつ、

 

「え〜〜、オレの部屋はぁ〜〜問題ないんだけど〜〜〜」

「じゃあいいじゃない。どうせアンタの部屋にこもりきりなんだから」

 

 マリンが近づくとセインはすこし驚いた顔で一歩下がった。

 首をひねるマリンの横でリンリンが言う。

 

「セイちゃんの部屋、きれいだよ。いっぱい図鑑があって楽しいの。それにね、みんなで撮った写真がたくさん飾ってあって……」

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜‼︎」

 

 セインがリンリンの口を押さえた。

 もごもご、とリンリンが声をくぐもらせる。

 

「ナンなのよ? いきなり大きな声出して! ったく……」

「とにかく、オレの部屋には来ちゃダメなの! しつっこいんだよ、もー」

 

 セインが焦ったようにするので、オハナが何かに気づいたように、

 

「あ、うん、わかった。いろいろわかった!

明日オハナんちでいいよ。ごめんねセイちゃん!」

 

 と珍しく早口で話題を終わらせた。

 そんな子どもたちをトントンが微笑ましそうに見守っている。

 

「じゃあ、今日は私が送ってあげよう。みんな着いてきて」

『はーい』

「キー」

『ガピー』

 

 先ほどまでの賑やかさはどこへやら、良い返事の四人と一匹。

 そして新たに一体。

 

 トントンのビートルへ向かう道中、リンリンはマリンへ声をかけた。

 

「ねえ、マリン。来週ね、花火大会があるんだ」

「花火?」

「うん。出店もたくさんあって、最後にはみんなで音頭を踊るんだよ」

「音頭……?」

「やぐらを囲んで、アルトコ市のみんなで同じ踊りをするのさ」

 

 セインがマリンへそっと教える。

 ただマリンは耳慣れないのかまだわかっていない様子だ。

 

「花火は知ってるわよ。でも、音頭……は踊りね。

『やぐら』って?」

「太鼓とか笛とか演奏するところさ。ご先祖様へのお供えものもあるそうだが、登ったことねーから知らね」

「登るってことは高いところにあるのね」

「バカ。祭りの前に組むんだよ」

 

 マリンは唇を尖らせる。

 

「国によって風習が違うんだから知らなくても仕方ないじゃない」

「そうだよ〜。セイちゃん、よくないよお」

 

 リンリンもマリンをフォローしてあげた。

 セインも言いすぎたと思ったのか、小さく『悪ィ』と言う。

 

 リンリンの横を歩いていたオハナが聞いてきた。

 

「ねえ、またリンリンのお父さんが太鼓叩くの?」

 

 リンリンが片手を挙げる。

 

「うん! パパ、最初は引退するとか言ってたんだけど……町内会のひとがね〜、パパの太鼓が力強くて良いって言うから、すっかりやる気になっちゃったの」

「おじさんもおだてられると弱いなあ」

 

 リンリンのパパの話になり、みんなはその時の様子を思い浮かべて笑った。

 ただ、一人だけ。マリンが浮かない顔をしている。

 

『ピー?』

 

 胸ポケットに入っていたガガピーが心配そうに鳴いた。

 それに気づいてリンリンが尋ねる。

 

「どうしたの、マリン」

「キキャー?」

 

 気絶はさせたが距離が縮まったと信じ、キッキも聞いている。

 だがマリンは頭を左右に振ると、

 

「いいえ。ナンでもないわ」

 

 と告げた。

 その表情は夕暮れの影がさし、どこか硬かった。

 

 

好きなキャラクターを教えてください(原作キャラは含みません)

  • リトルプリンス・リンリン
  • キッキ
  • オハナ
  • セイン
  • マリン
  • ヤーブレとカーブレ
  • リンリンのおばあちゃん
  • リンリンのおじいちゃん
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