あの海のリンリン   作:つるみ鎌太朗

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最終話 あの海のリンリン(6)

 

5、

 

 夏祭り当日。夕方ごろ、リンリンたちは商店街で集まった。

 町はすでに祭りのちょうちんが吊るされて華やかだ。遠くに、パパが太鼓を叩く予定のやぐらも見える。

 

「わぁ〜、マリン。かわいいね!」

 

 リンリンは波の柄の甚平を着せてもらっていた。

 リンリンが薄荷色で、オハナは桜色のお揃いの甚平。

 リンリンだけはプリズムの髪が目立たないように、キツネの面を顔の横につけている。

 オハナは、いつもは二つ結びにしている桃色の髪をお団子でまとめていた。

 キッキもねじり鉢巻きに法被で祭りへの準備万端といった風情だ。

 

 そして褒められたマリンはと言うと、紺地に撫子柄のシックな浴衣に身を包んでいる。

 銀色の髪も片側でまとめ、夏らしく透明の玉のついたかんざしを挿していた。

 手に持つビニール製の巾着には、ボディに浴衣柄のステッカーを貼ったガガピーがいる。

 

「ねえ、セイちゃん。似合うねえ」

 

 オハナがセインのタンクトップのすそを引っ張る。

 彼はマリンの姿をぼうっとした表情で見ていたが、ハッとして、

 

「あ、ああ。似合うかもな」

 

 とだけ言った。

 マリンは彼の素っ気ない感想にムッとした顔になる。

 

「『かも』ってなに? そもそも、アンタ、祭りなのにナンで普段と変わりない格好なのよ?」

「オレはもう甚平とか着る歳じゃねーの」

「あら、わたしもそうなの?」

 

 マリンが挑むように聞くが、意外にもセインは喧嘩腰にならなかった。

 

「女の子は……いいんじゃね?」

 

 そう言って目をそらす。

 リンリンはふしぎそうに見上げたが、オハナはどこかもどかしそうな顔でセインとマリンを見ていた。

 

「はーい。じゃあ、みんな迷子にならないようについてきてね」

 

 ママが呼びかける。

 子どもたちを連れ歩くために浴衣は控えたらしい。普段着に近く、シンプルなシャツとベストに長いスカート。

 すこしばかりのオシャレとして、古い浴衣をリメイクしたサッシュ。ひとまとめにした銀の髪にも花を添えている。

 

 隣のパパはTシャツに涼しげなズボン。どうせ後で法被に着替えるから、と簡単な服装で出てきた。

 オサゲおじちゃんやカセイジン先生も似たようなものだ。

 

 トントンはいつもの黒いスーツに黄色い帽子とブーツ。

 たくさん同じ服を持っているのかな、とリンリンは思った。

 

 それから楽しい出店めぐりがはじまった。

 まずは射的で軽く肩慣らし。リンリンはセインと競ってみたが今年も勝てなかった。

 

「リンリン。パパがカタキを取ってやる!」

 

 パパが張り切りだすのも毎年恒例だ。

 セインをコテンパンに負かすまでがセットだった。

 

「くっそォ、来年こそは!」

 

 何回目かわからない捨て台詞。

 隣で先生が財布を逆さにして『もう資金は尽きました』とアピールしている。

 

 後は輪投げもしたし、くじも引いた。

 すこし運動したら好きな柄の綿あめを買ってもらって腹ごしらえ。

 

 お祭りのお菓子はどれもキラキラしていて、リンリンは見るだけで楽しい気持ちになる。

 

「リンリンはどれが好き?」

 

 聞いてきたオサゲおじちゃんは食いしん坊なので、祭りのお菓子は毎年コンプリートしている。

 リンリンはあめ細工の出店の前で、

 

「金魚のあめがいちばん好き。かわいいから」

 

 と答えた。

 隣のオハナもたこ焼きを頬張りつつ『おははほ(オハナも)』と言ってくれる。

 

 お菓子を食べ終えたら金魚すくいで遊ぶことにした。

 桶でスイスイ泳ぐ赤い金魚をマリンが目で追っている。

 

「かわいい。これって、すくったらもらえるの?」

「そうだよ。ちゃんとした水槽で育てたら長生きするんだあ」

「へえ……欲しいなあ」

 

 リンリンが教えてあげるとマリンはすっかりやる気になったようだった。

 セインやオハナが店主からポイを渡されている。

 

「マリン、お代は払っておくからね」

 

 トントンが店主に硬貨を支払う。

 その間にパパが店主からポイを二つ預かった。

 

「パパァ、ちょうだい!」

 

 リンリンが呼ぶ。

 

「はーい、リンリン。上手く取れるかな〜」

 

 パパはニコニコ顔でリンリンの小さな手にポイを握らせた。

 もう一本はマリンのものだ。

 

 マリンが顔をあげ、その行方を見守る。

 

 パパはリンリンへの笑顔のままマリンの前にポイを差し出した。

 

「はい、マリンちゃん」

 

 リンリンとよく似た八重歯が薄い口から覗いている。

 だがマリンは慌てたようにポイを引ったくると、目を伏せて、

 

「ありがとう」

 

 と硬い声で返した。

 リンリンは『あれ?』という顔で眺める。

 

 結局マリンは一匹も取れなかった。

 

「残念だったねえ、マリン」

「キキャー」

『ピーガ、ピー』

 

 リンリン、キッキ、ガガピーがこぞってなぐさめるが、マリンはどこか上の空。

 その目の前にセインが金魚の入った袋をぶら下げる。

 

「やるよ」

「……いいの?」

「オレ、獲るのは得意だけど育てるのニガテなんだ」

 

 セインの持つ袋には金魚が三匹も泳いでいた。

 赤い体に金色の光沢をまとい、風流な雰囲気。

 マリンの口もとへわずかに笑みが舞い戻ってくる。

 

「ナンでやったのよ」

「付き合い?」

「疑問系……」

 

 フフッ、とマリンが吹き出した。

 だが、ある声を聞いてすぐに身を強張らせる。

 

「リンリーン。パパ、晩に太鼓叩かなきゃいけないからリハーサルに行ってくるね」

「はあい。ガンバってね、パパァ」

 

 リンリンはマリンを気にしつつ、パパへ手を振った。

 ニッコリ笑うパパが振り返してくれる。

 

「今年も良い音鳴らすよ〜。じゃあ、ママも。いってきます」

 

 パパはママの頬にキスすると駆け足でリハーサルに向かっていった。

 

「いってらっしゃーい」

 

 ママも温かく送り出す。

 

 その後はマリンも緊張がほぐれたのか、普段とあまり変わらない雰囲気だった。

 日も落ちかけ、花火の瞬間が近づいている。

 

 

好きなキャラクターを教えてください(原作キャラは含みません)

  • リトルプリンス・リンリン
  • キッキ
  • オハナ
  • セイン
  • マリン
  • ヤーブレとカーブレ
  • リンリンのおばあちゃん
  • リンリンのおじいちゃん
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