ネッシー号に乗り込んだマリンとトントンがリボンテープの端をしっかり握っていた。
トントンのテープの先にはママ、パパ。オサゲおじちゃんや先生。
マリンのテープの端を持つのはリンリン、セイン、オハナ。
ついでにマリンの肩に乗るガガピーの手に貼りつけられたテープの向こうに、キッキが落ち着かなさそうに座っていた。
他にもたくさんの人へと繋がるテープが潜水艦に連なっている。
どれも陽の光を受けてキラキラ輝いていた。
甲板でマリンがリンリンたち家族を海色の瞳で見つめる。
「さようなら、クイーン・アイリーン。
さようなら、プリンセス・プリンプリン。
ボンボンさんも……ありがとう」
おばあちゃんやママ、パパが笑顔で返した。
「ええ、マリンちゃん。新しい生活に早く馴染めるよう祈っているわ。トントンさんを信じて、頑張ってね」
「さようなら、マリンちゃん。元気でね」
「こっちこそ、ありがとな! ばいばい、マリンちゃん!」
後ろでセインが鼻をすするを音が聞こえた。先ほど泣きじゃくりながらマリンと挨拶したばかりだ。
オハナも目を赤くしているが横でセインが派手に泣いたため、それに比べたら落ち着いていた。
ふっくらした指には、マリンからもらった指輪がはめられている。女の子どうしでアクセサリーの交換をしたようだった。
ということは……そろそろリンリンの番。
ぼうっとマリンを見上げていたら、彼女が目線を合わせようと屈んでくれた。
今まで見たことがない静かで優しい笑顔。
「さようなら。リトルプリンス・リンリン」
リンリンの胸がズキリと痛む。
とっさに頭をブンブン振った。
「ちがうよ、ちがうよ! さよならじゃないよ……」
リンリンが金切り声で言うとマリンに目をわずかに大きくされる。
きらきらのテープを両手でしっかと握り直した。
「ぼくたち、お手紙しあうって約束したでしょ? それに、いつかまたアルトコに来てくれるよね?
ずうっとお別れじゃないよね……?」
とび色の大きな瞳が涙に濡れている。
それでもリンリンは無理にでも笑顔になった。
「……またね、マリン!」
「キッキャ!」
キッキもガガピーに手を振る。
『ガーピー!』
ガガピーが肩で鳴き、マリンも満面の笑顔を返してくれた。
船の上から細い体がふわ、と近づいてくる。
「……またね、リンリン!」
頬に温かい唇が一瞬だけ触れた。
ネッシー号のエンジンがかかり、岸を離れはじめる。
テープが引っ張られていく。
リンリンたちがマリンへ手を振るあいだ、大人はトントンと握手したりハイタッチしたりしている。
「またね、トントン! いつでもいらっしゃいな!」
「お土産待ってるよ〜!」
ぐんぐん速度を増し、二人との距離が広がっていく。
「マリィ〜〜ン!」
リンリンがキッキと一緒に桟橋を駆け出した。
セインやオハナも。
「リンリン! みんな!」
マリンのツインテールが潮風で揺れている。
身を乗りだす彼女を、横でトントンが支えた。
リンリンは声をはりあげる。
「ぜったいだよー! ぜったい、ぜったいまた会おうねえ!
将来……一緒にマリーンへ、おじいちゃんと会いにいこうねえ!」
マリンも波音に負けないように返事をしてくれた。
「約束するわ! わたし……またここに帰ってくる!
大好きなアルトコ市へ……大好きなアナタたちに、会いにくるからねー‼︎」
セインやオハナも大声で叫び続けている。
「マリーン! オレ……オレッ、ケンカばっかりだったけど、オマエのコト、嫌いじゃなかったぞ〜〜〜〜‼︎
また会える時に、もっとスケボー上手くなって見せてやるからなあ!」
「マリン〜! オハナもお手紙送るから! アクセサリーや、クッキー、送るからねえ‼︎」
「キキッキャぁァ〜〜〜〜〜‼︎」
テープが次々と切れ、ハラハラと風に揺れた。
その中をリンリンたちが駆け抜けていく。
マリンのかすれ声が遠のく。
「みんな! ……みんな、またね!
わたしの初めての友だち。わたしの……一番の友だち!
絶対に忘れない。嘘じゃない! だから……ッ、
みんな! また会えるって信じてるからねーッ!」
リンリンたちは桟橋の終わりで立ち止まった。
エンジンの音が夏空に響き、ネッシー号の後にしぶきがあがり……。
やがて、リンリンたちの握りしめるテープがプツンと切れる。
マリンとトントンの姿が海と空の間のきらめきの中へ消えていく。
リンリンはノドがつぶれてもいい、とばかりに叫んだ。
「マリン! げんきでね!
トントン! マリンのこと、守ってあげてねッ!
ガガピーも……みんな、みんなまたねえ〜〜ッ‼︎」
力いっぱい手を振る。
キッキ、セインやオハナと一緒に。
もう見えなくなってしまったけど、マリンもきっと振り返してくれているのだろう。
リンリンは信じている。
「マリン……」
セインがその場に崩れ落ちた。あれだけ泣いたのに、まだ涙は枯れないらしかった。
オハナもすすり泣いている。
桟橋の向こうから三人の両親が走ってきていた。
「……ッ」
リンリンはずっと水平線を見つめつづける。
陽ざしを受けてキラキラの海。
この先にマリンがいる。
明日からはこの町で会えないんだ。
そう思ったらリンリンはノドが急にかゆくなってきた。
何度もつばを飲み込んで、熱くなった目をかっ開いて、泣くのを我慢する。
目だけで後ろを見ると、セインを先生とお母さんが、オハナをオサゲおじちゃんが抱きしめていた。
でも……それでも、リンリンは前を向く。
海は相変わらず鮮やかなアルトコブルー。
すこしにじんだブルー。
ふと、後ろから抱きすくめられた。
振り返ればパパがしゃがみ込んでいる。
碧の瞳が細まった。
「リンリン、ガマンしなくていいんだよ。寂しいときは泣いていいんだ……」
温かい腕。
リンリンの大きなとび色の瞳から涙が一雫、こぼれる。
パパとは反対側でママも膝をついていた。
「そうよ、リンリン。喜びだけでなく、さびしいときに支えあうのも家族なの。あなたの涙を受けとめるために、わたしたちがいる――」
ママの優しい微笑み。
リンリンの目から見える世界がぐにゃりと曲がった。
パパとママから抱きしめられ、リンリンも泣きじゃくる。
いつのまにかキッキもリンリンの背中に全身で抱きついてきた。
おばあちゃんも後で追いついてくれた。
それでもしばらく涙が止まらなかった。
幼いリンリンにとって初めての別れだったから。
こうして、マリンとの夏は終わりを告げた。
騒がしくもまぶしい、すばらしい夏。
リンリンはきっと忘れない。
空と海が鮮やかなアルトコブルーで輝いていた。
好きなキャラクターを教えてください(原作キャラは含みません)
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リトルプリンス・リンリン
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キッキ
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オハナ
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セイン
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マリン
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ヤーブレとカーブレ
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リンリンのおばあちゃん
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リンリンのおじいちゃん