あの海のリンリン   作:つるみ鎌太朗

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最終話 あの海のリンリン(10)

 

 ネッシー号に乗り込んだマリンとトントンがリボンテープの端をしっかり握っていた。

 

 トントンのテープの先にはママ、パパ。オサゲおじちゃんや先生。

 マリンのテープの端を持つのはリンリン、セイン、オハナ。

 ついでにマリンの肩に乗るガガピーの手に貼りつけられたテープの向こうに、キッキが落ち着かなさそうに座っていた。

 

 他にもたくさんの人へと繋がるテープが潜水艦に連なっている。

 どれも陽の光を受けてキラキラ輝いていた。

 

 甲板でマリンがリンリンたち家族を海色の瞳で見つめる。

 

「さようなら、クイーン・アイリーン。

さようなら、プリンセス・プリンプリン。

ボンボンさんも……ありがとう」

 

 おばあちゃんやママ、パパが笑顔で返した。

 

「ええ、マリンちゃん。新しい生活に早く馴染めるよう祈っているわ。トントンさんを信じて、頑張ってね」

「さようなら、マリンちゃん。元気でね」

「こっちこそ、ありがとな! ばいばい、マリンちゃん!」

 

 後ろでセインが鼻をすするを音が聞こえた。先ほど泣きじゃくりながらマリンと挨拶したばかりだ。

 オハナも目を赤くしているが横でセインが派手に泣いたため、それに比べたら落ち着いていた。

 ふっくらした指には、マリンからもらった指輪がはめられている。女の子どうしでアクセサリーの交換をしたようだった。

 

 ということは……そろそろリンリンの番。

 

 ぼうっとマリンを見上げていたら、彼女が目線を合わせようと屈んでくれた。

 

 今まで見たことがない静かで優しい笑顔。

 

「さようなら。リトルプリンス・リンリン」

 

 リンリンの胸がズキリと痛む。

 とっさに頭をブンブン振った。

 

「ちがうよ、ちがうよ! さよならじゃないよ……」

 

 リンリンが金切り声で言うとマリンに目をわずかに大きくされる。

 きらきらのテープを両手でしっかと握り直した。

 

「ぼくたち、お手紙しあうって約束したでしょ? それに、いつかまたアルトコに来てくれるよね?

ずうっとお別れじゃないよね……?」

 

 とび色の大きな瞳が涙に濡れている。

 それでもリンリンは無理にでも笑顔になった。

 

「……またね、マリン!」

「キッキャ!」

 

 キッキもガガピーに手を振る。

 

『ガーピー!』

 

 ガガピーが肩で鳴き、マリンも満面の笑顔を返してくれた。

 船の上から細い体がふわ、と近づいてくる。

 

「……またね、リンリン!」

 

 頬に温かい唇が一瞬だけ触れた。

 

 ネッシー号のエンジンがかかり、岸を離れはじめる。

 テープが引っ張られていく。

 

 リンリンたちがマリンへ手を振るあいだ、大人はトントンと握手したりハイタッチしたりしている。

 

「またね、トントン! いつでもいらっしゃいな!」

「お土産待ってるよ〜!」

 

 ぐんぐん速度を増し、二人との距離が広がっていく。

 

「マリィ〜〜ン!」

 

 リンリンがキッキと一緒に桟橋を駆け出した。

 セインやオハナも。

 

「リンリン! みんな!」

 

 マリンのツインテールが潮風で揺れている。

 身を乗りだす彼女を、横でトントンが支えた。

 

 リンリンは声をはりあげる。

 

「ぜったいだよー! ぜったい、ぜったいまた会おうねえ!

将来……一緒にマリーンへ、おじいちゃんと会いにいこうねえ!」

 

 マリンも波音に負けないように返事をしてくれた。

 

「約束するわ! わたし……またここに帰ってくる!

大好きなアルトコ市へ……大好きなアナタたちに、会いにくるからねー‼︎」

 

 セインやオハナも大声で叫び続けている。

 

「マリーン! オレ……オレッ、ケンカばっかりだったけど、オマエのコト、嫌いじゃなかったぞ〜〜〜〜‼︎

また会える時に、もっとスケボー上手くなって見せてやるからなあ!」

「マリン〜! オハナもお手紙送るから! アクセサリーや、クッキー、送るからねえ‼︎」

「キキッキャぁァ〜〜〜〜〜‼︎」

 

 テープが次々と切れ、ハラハラと風に揺れた。

 その中をリンリンたちが駆け抜けていく。

 

 マリンのかすれ声が遠のく。

 

「みんな! ……みんな、またね!

わたしの初めての友だち。わたしの……一番の友だち!

絶対に忘れない。嘘じゃない! だから……ッ、

みんな! また会えるって信じてるからねーッ!」

 

 リンリンたちは桟橋の終わりで立ち止まった。

 エンジンの音が夏空に響き、ネッシー号の後にしぶきがあがり……。

 

 やがて、リンリンたちの握りしめるテープがプツンと切れる。

 

 マリンとトントンの姿が海と空の間のきらめきの中へ消えていく。

 

 リンリンはノドがつぶれてもいい、とばかりに叫んだ。

 

「マリン! げんきでね!

トントン! マリンのこと、守ってあげてねッ!

ガガピーも……みんな、みんなまたねえ〜〜ッ‼︎」

 

 力いっぱい手を振る。

 キッキ、セインやオハナと一緒に。

 

 もう見えなくなってしまったけど、マリンもきっと振り返してくれているのだろう。

 

 リンリンは信じている。

 

「マリン……」

 

 セインがその場に崩れ落ちた。あれだけ泣いたのに、まだ涙は枯れないらしかった。

 オハナもすすり泣いている。

 

 桟橋の向こうから三人の両親が走ってきていた。

 

「……ッ」

 

 リンリンはずっと水平線を見つめつづける。

 陽ざしを受けてキラキラの海。

 この先にマリンがいる。

 

 明日からはこの町で会えないんだ。

 

 そう思ったらリンリンはノドが急にかゆくなってきた。

 何度もつばを飲み込んで、熱くなった目をかっ開いて、泣くのを我慢する。

 

 目だけで後ろを見ると、セインを先生とお母さんが、オハナをオサゲおじちゃんが抱きしめていた。

 

 でも……それでも、リンリンは前を向く。

 海は相変わらず鮮やかなアルトコブルー。

 

 すこしにじんだブルー。

 

 ふと、後ろから抱きすくめられた。

 振り返ればパパがしゃがみ込んでいる。

 

 碧の瞳が細まった。

 

「リンリン、ガマンしなくていいんだよ。寂しいときは泣いていいんだ……」

 

 温かい腕。

 リンリンの大きなとび色の瞳から涙が一雫、こぼれる。

 

 パパとは反対側でママも膝をついていた。

 

「そうよ、リンリン。喜びだけでなく、さびしいときに支えあうのも家族なの。あなたの涙を受けとめるために、わたしたちがいる――」

 

 ママの優しい微笑み。

 リンリンの目から見える世界がぐにゃりと曲がった。

 

 パパとママから抱きしめられ、リンリンも泣きじゃくる。

 いつのまにかキッキもリンリンの背中に全身で抱きついてきた。

 おばあちゃんも後で追いついてくれた。

 

 それでもしばらく涙が止まらなかった。

 

 幼いリンリンにとって初めての別れだったから。

 

 こうして、マリンとの夏は終わりを告げた。

 騒がしくもまぶしい、すばらしい夏。

 リンリンはきっと忘れない。

 

 空と海が鮮やかなアルトコブルーで輝いていた。

 

 

好きなキャラクターを教えてください(原作キャラは含みません)

  • リトルプリンス・リンリン
  • キッキ
  • オハナ
  • セイン
  • マリン
  • ヤーブレとカーブレ
  • リンリンのおばあちゃん
  • リンリンのおじいちゃん
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