お気をつけてください。
起『再審』
「これは...この結論は正しくない!」
私の必死の叫びは、もういなくなったメルルを除き12の席が埋まった裁判所に響き渡った。
もうする事はない、したくもない魔女裁判。
それを私達は再び行なっている。そしてそれは終わろうとしていた。
すでに結論が下された議論を覆すべく過去の裁判を再生するかのような、過去の時と同様熱の入った私の叫びは、過去と違い誰にも届くことがないことはなかった。
いや、届いてはいるのだ。だが
「嫌だ...嫌だけど...おじさんは...」
「なんで、どうして?」
「したくない。やりたくないぞ...」
どうしようもないのは全員わかっているのだ。それを良しとしていないのだ。
誰も、皆こんな事はもうしたくないのだ。
だがこの結論を変える事ができない。
それ故に嫌々ながら、投票の画面が映された端末を震える手で掴み、見つめている。
誰も投票する事ができない。
それは私もだ。
だが、その中で1人、薄く笑みを浮かべながら戸惑いもせずに端末を触る人間がいた。
私はその姿に激情の赴くままに叫んだ。
「何故だマーゴ!何でそんな簡単に...!」
するとマーゴは彼女らしくない優しげな笑みで私の問いに答える。
「だってしょうがないじゃない。これが現状で1番な方法よ」
「1番なわけがあるものか!まだだ、まだ何か手段はある!」
「ないわよ」
「いや!何か議論の見落としが...!」
「見落としも何も、そもそも何を裁判してるかすらわからないじゃない」
「...っ!」
言葉が続かない。
そうだ、そうなのだ。
今私達は、何の裁判をしているのかすらわからない裁判をさせられている。
「事件の内容も、被害者も何もかもわからない。でも1人を選出し処刑しなければならない。なお、全員が誰かに投票しなければ全員処刑される。そして最初の投票で『魔女』が選ばれていないなら裁判は続く...これがルールなんでしょ?」
マーゴの問いに、目の前の砂時計をじっと見つめ、今まで無言を貫いていた裁判の進行を司るモノは口を開いた。
「そうですね。」
「ふざけんな!!そんな裁判あってたまるかよ!」
アリサの怒りが進行役、本来ならそこにいるはずのない魔女にぶつけられる
だが、魔女は淡々とその怒りに返答した。
「それが、この裁判のルールですので。参加した以上はルールに従ってください」
「参加しただぁ?誰がこんな悪趣味なものに参加するか!」
「そうだそうだ!こっちは掃除に疲れてたせいで、配信中寝落ちしちゃうし、寝落ちしたらこんな嫌な夢に飛ばされたし!参加なんてしたくない!」
「諦めてください。そういう夢、そういう裁判です」
「...っ!この!?」
アリサとココの言葉は無情にも進行役に切って捨てられる。
そう、夢なのだ。この悪趣味な裁判は。
寝て気がついたら私達はここにいて、そして進行役から説明を受けた。
現実ではない。今目の前で感情をぶつけている彼女達は私の脳が作った妄想の可能性はある。
だが、この夢はあまりにリアルで、これが本当に夢なのかすら疑問に残る。
どうしてもこの夢がまやかしだと確信を持つ事ができない。
それにもう一つ、これを自分だけが見ている夢だと思えない理由がある。それ故に皆必死になっているのだとわかる。
「...な、なら、これが夢なら処刑されても目が覚めたら何もない...って事にならないかな?」
隣からエマの希望に縋る囁きが進行役に向けられる。
そう、これがただの夢なら処刑される悪夢という嫌な思いをするだけで終わる事だ。悪夢なんていつかは忘れるもの。今さえ我慢すればいい。
そんなエマの希望
「いえ、処刑は処刑です。処刑はこの裁判の夢が覚めた時すでに行われています」
だが、そんな希望すらも切り捨てられた
「そ...んな」
エマの絶望した声が聞こえる。こんな声もう聞きたくなかった。
「でも、その言葉が嘘って事はないんですか?起きたらあー!怖い夢だったーって!」
シェリーの場違いに明るい声が響く。
だがその声はいつもと違い何処か空元気のような声色である。
彼女も分かっているのだろう
「そう信じるのは構いませんが、分かっていますよね?」
「...えーと、何がです?」
「これが、魔法である事、過去に起こった事がある事、そして過去に何が起きたかを」
「......」
そうだ。私達が眠りについた日、私達は図書室で大掃除を行い、そこで過去の牢屋敷で起きた事件の記録を見つけた。
それは、魔女となってしまい魔法を暴走させ、周りの魔法少女全員を閉じ込め夢の中で殺し合わせた記録。夢の中で死んだものは現実でも死に、最後に残ったのは、夢から醒めなくなって、延々に眠り続ける魔女のみという凄惨な事件。
そしてその魔女はなお、牢屋敷で眠り続けている事を。
実例があるのだ。この記録を全員で日中見たのだ。
これをただの悪夢だと捨て置く事は私たちにはできなかった。
痛いほどの沈黙が場を支配する。
聞こえるのは過度のストレスによる耳鳴りのみ。
しかしその静寂すら破られる。
「投票が1票入りました」
1票入ってしまった。
その現実に冷や汗がながれ、鼓動が早鐘をうつ。
もう誰かが処刑される流れになってしまった。
「待ってくれユキ!もう一度だ!もう一度議論の機会をくれ!」
「無理です。そして私はユキではありません。微かに残った大魔女のかけら、進行役です」
無情にも私の頼みはユキに、いや、ユキの姿を模ったもの拒否される
このままでは、このままでは処刑されてしまう。
せっかく、せっかく全員生き残ったのに...!
この絶望から抜け出すために思考を巡らすも、突きつけられるのは希望のない現実ばかり。
「いいのよ。ガラじゃないけどこれが現状で最も最良手だと思うわ」
優しく諭すようなマーゴの声があたりに響く。
「処刑後、また話し合いの時間があるのよね?ユキちゃん?」
「そうですね。休憩時間と議論時間がまた発生します。あと私はユキではありません」
「そう、それならよかった」
「何が...何がよかったのよ」
ナノカの苦虫を噛み潰し、吐き捨てるかのような言葉が漏れる。彼女の瞳は涙で濡れマーゴを見つめる。
過去の裁判でのクールな彼女からしたら信じられない表情。だが、感情豊かなのが本来の彼女なのだと、裁判が終わり姉と共にいる彼女を知っている。
そんな彼女が攻めるように、訴えかけるようにマーゴを見る。
そんなナノカにもマーゴは優しく諭す。
「最初に居なくなるのは、持っている魔法があまり有用ではない人に限るわ」
「まってくれ!それなら私が!」
「それなら!わたくしこそっ!」
「それに」
ハンナとレイアの言葉を遮りマーゴの言葉は続く。
目の前の端末には悪趣味な事に誰に何票投票されていたのかすでに表示されている。
そして、最初の1票が誰に投票されていたか映されている。
『宝生マーゴ 1票』
「本人が望んでいるのなら、しょうがないじゃない?」
そう言ってマーゴが皆に見せた端末の画面には『投票済み』の文字が書かれていた。
「マーゴ...ちゃん」
エマの呆然とした声が耳に入る。
ああ、やはり彼女のこんな声聞きたくなかった。
投票が行われてしまった。
ここで他のものに投票しマーゴへの投票数を、上回ればマーゴの処刑は変えられるかもしれない。
だが今度は投票されたものが処刑される。
それに投票合戦になった場合、不和が起こる事は明白。もしマーゴが『魔女』でないのならばこの裁判は続くのだ。後々のことを考えればここで不和を起こすのは正しくない。
いや、そもそもこの裁判自体が正しくない。
何なのだこれは。裁判ですらない。
何を議論すればいいのか、何のための裁判なのか一切わからず1人の仲間を処刑しなければならない。
ふざけるな間違っている!!!
間違っている...はずなのに...
「すまない...マーゴ...」
奥歯を噛み締め、悔し涙を流しながら、私は投票ボタンを押す。
それに呼応するかのように、嗚咽、歯軋り、様々な悔いが滲んだ音を立てながら投票されていく。
「わがはいは...嫌だぞマーゴ」
「...いやだよ」
「...ごめんなさいね2人とも。私も島に残る予定だったのに。2人っきりにしてしまって」
2人が訴えかけるようにお願いするがマーゴは悲しげに笑うのみ。
全員が押さなければ、全員が処刑される。
私だけならいい、だが、皆が処刑されるのは嫌だ。
それを避けるため、皆を助けるために1人を処刑する。
ああ、間違っている。
この裁判もこの議論もこの結論も
そしてその結論に乗った私も間違っている。
「投票が集まりました。宝生マーゴ12票。宝生マーゴが処刑されることになりました。」
「...そう」
淡々と告げられた判決にマーゴは気丈に、何事もないかのように答えた。
いや...違う
そんな事はない。
震えているのだ彼女の右腕が。
その震えを隠すように左手でそれを押さえつける。
怖くないわけがないのだ。彼女は違う時間で一度処刑されている。あの見るだけでも吐き気を催す処刑を彼女は受けている。
恐ろしくないわけがないのだ。
だが、それでも彼女は虚勢を張っている。
なぜならば、残された私達に負担をかけないために。
ゆっくりと、ユキの姿をした進行役がマーゴに近づく。
「マー...ゴ...!」
名前を呼ぶばかりで続く言葉が出ない
何も、できない。
止めてくれ。やめてくれ。
「くそ、何でだよ!」
「うぅー!」
幾人かが進行役の歩みを止めるために動こうとするが、私と同じく体が動かない。
進行役がマーゴの元に辿り着くと酷いことが起こると分かっているのに動けない。
猿夢のように、事態は進行していく。
一歩、また一歩と、死神は進んでいき。
そして、進行役はマーゴの目の前に立った。
マーゴの目は見開き震えが抑えられなくなる。
だが彼女は悲鳴を噛み締め口を閉じる。
そんな彼女の姿に目に涙が浮かび、喉がカラカラに乾いていく。
刻一刻と時間が流れる。
進行役は目の前に立ち止まり何も言わない。
まるで嬲るかのように進行役は何もしない。
悪趣味だ。間違っている。許さない。マーゴを殺さないでくれ。許してくれ。このまま何もせずに終わってくれ。
様々な矛盾した思考が頭を飛び交う
視線はマーゴと進行役から離れる事はない。
ついに耐えきれなくなった。マーゴが口を開いた。
「ね、ねぇ進行役ちゃん」
「はい、なんですか?」
「いつ...刑は執行されるのかしら」
「...?もう執行されていますよ?」
「え?」
なに?
その言葉にマーゴを注視するが何も変わっていない
「それは...ゆっくり私に効いてくるってことかしら?」
「ゆっくり?...まぁ、個人差はあるでしょうがゆっくりですね」
「遅延性の毒なのね」
「毒?」
「え?」
「何でそんな危ないものを使うのですか?」
「ん?」
お互い目をパチクリしている。
...なんだ?
何かおかしい。
何というか先ほどまで張り詰めていた空気が緩く弛緩していくような気がする。
突然話の梯子を抜かれたような、張り詰めていた緊張が抜けるような状態に普段は頭の回転が速いマーゴが混乱して呆然としている。
「わぁ。マーゴちゃんの目がぐるぐるしてる」
横からエマの抜けた声が聞こえる。
あぁうん。確かにそんな風に見える。
い、いやそんな事はどうでもいい!
何だ?何か致命的な事を見落としている気がする...!!
「進行役、お前に質問をする。答えろ」
各人思考が停止しているであろう状況で私は話を進めようと手を上げた。
「はい、何でしょう?」
「マーゴは処刑される、いや、された。それは合っているか?」
「はい」
「ならマーゴは...
死ぬのか?」
「え?死にませんよ?」
「...マーゴが魔女化して死ねないとかじゃなくてか?」
「魔女化するほどの魔女因子は本体の私が持って行ったじゃないですか」
「過去の記録云々いってたじゃないか」
「魔女になって魔法を暴走させたかそうなった。と書かれてましたよね?なら魔女化していない状態の魔法で人を殺せるわけがないじゃないですか」
「なら、何がマーゴに起きたんだ?」
「処刑がおきました」
「処刑されたら何が起こるんだ?」
「刑が処されます」
「だからその刑罰はなんなんだぁ!」
「落ち着いて!!!」
あまりに融通効かない進行役に対して掴み掛かろうとするが逆にエマに羽交締めされる。
離せ!離してくれエマ!
「えーと。進行役くん。ちょっといいかな?」
「はい何でしょう?」
まて、レイア。私とこいつとの問答は終わっていない!
話を先に進めるんじゃない!
レイアは私をチラリと見て、指を口元に当てて静かにと私にジェスチャーを送る。
くそっ、顔がいい!
私が黙ったのを見てレイアは進行役に向き直る。
「進行役くん。その刑罰とはマーゴくんに重度の精神的苦痛を与えられたりするのかい?」
「今、刑が進行してますが、お変わりなさそうですね」
「...マーゴくん。お変わりはないかい?」
「...」
「マーゴくん?」
「もうだめ」
その言葉と共にマーゴがその場に崩れ落ちた
「マーゴくん!」
「マーゴ!」
「マーゴちゃん!」
私を含めた皆が慌てて彼女に近寄る。
呼吸、体温、脈拍、意識どこにも異常はない
ただ彼女の体は震え、腰に力が入らないようだった。
「ごめんなさいね。情けないとこ見せちゃって」
「情けないなんてない!!情けないなんてないよ!それより、ごめん...おじさん何もできなくてごめん!!」
ミリアが大粒の涙を流しマーゴに抱きつく。
それに釣られて多くの子が涙を流し彼女に抱きつく。
私は流石に恥ずかしく、涙ぐみながらも少し離れたところでそんな彼女たちを見守る。
「行かなくていいのかい?」
「レイア。君こそ行けばいい」
「今の主役はマーゴくんだからね。私が行ったら主役を奪ってしまう」
「たいしたナルシストだな」
「否定はしないのかい」
やめてくれ。ウインクするな。頬が熱くなる。
レイアの表情に心惹かれるが、私は視線を進行役に向けた。
すると進行役は首を傾げる
「何でしょう」
「お前は何がしたかったんだ?」
そう、何がしたかったのだ?
突然参加させられた、裁判
だがその裁判は裁判の定をなしていない。
処刑も別に何も起きていない。
いたずらか?
それにしては規模がでかいし、あまりに悪趣味だ。
それに。親友の姿を偽られるのも許せない。正しくない。
私は進行役を睨みつけると、進行役は口を開いた。
「それは、私には分かりませんよ」
「どういう事だ?お前が始めたのだろう?」
「私は大魔女の残ったカケラ。ただこの夢の魔法に巻き込まれて姿をもった影法師に、すぎません。つまりはこの魔法に取り込まれたものであり、なぜこの魔法が起こったのかは私には分かりませんね」
「つまり...お前が起こしたわけではないと?」
「そうですね」
「そしてお前はユキの様でユキではない」
「はい。大魔女の記憶はある程度はありますが、本人ではありませんね」
「そうか...この夢は覚めるのか?」
「誰かが夢から目覚めたら全員夢から出ますよ?」
「つまり、何もしなくても起床できると」
「はい」
その言葉を聞き、はぁとため息をつく。
結局わからない事だらけなのは変わりない。
だが、誰も犠牲にならないで済むということが分かってホッと一息つけた。
だが。落ち着いてくるうちに、イライラとしてくる。
「進行役」
「なんですか?」
「最初から被害者は出ないとか、自分は巻き込まれただけとか、全部説明していればこんな事にはなってなかった」
「そうですね」
「そうですねじゃない。他に知っている事全部話してもらおうか」
「そうね、それは私も聞きたいわ」
「それ、あてぃしも聞きたい聞きたい」
ふと後ろを見るとナノカやココなど数名がいつの間にかこちらに来ていた。
何人かはマーゴにまだ抱きついて泣いている。
最初は微笑んでいたマーゴも複数人に全力で抱きつかれて少し苦しそうである。
視線を進行役に戻すと、進行役は悩むように首を傾げながら呟き始めた。
「この魔法はこの魔法を使う子が目的を達成するまで毎晩続くとか」
「毎晩続くのか」
「この夢の中で怪我しても現実には何もないとか」
「ふむふむ」
「処刑されたら投票権は無くなるけど、議論には参加できるとか」
「へぇー」
「この夢は処刑された人を除いて覚えてられないとか」
「それは...厄介ね」
「処刑された人はお漏らしするとか」
「ふーん......ん?」
「後は参加したうちの1人が...」
「待ちなさい」
マーゴの鋭い声が進行役の言葉を止めた。
緩んだ空気が引き締まっていく気がする。
音一つせず、誰も声をあげてない。
その中で声を上げるのは1人。
顔色が変わっていくマーゴのみ
「今なんて言ったかしら?」
「後は参加した...」
「その前」
「処刑された人はお漏らし」
「...」
「おねしょ、とも言いますね」
「...」
「ま、マーゴちゃん?」
「...もうやだ」
「マーゴちゃん!」
マーゴが頭を抱えていじけてしまった
普段の彼女からしたら信じられないほどいじけてウジウジしている。
それもしょうがないだろう。
死なないとはいえ、少女に対してあまりに酷い仕打ち。
というか精神的処刑だ。お変わりないですねじゃないだろう、お変わりないですねじゃ。
突然の事態に呆然としていると、エマが必死にマーゴを元気づけようと声をかける。
「だ、大丈夫だよマーゴちゃん。おねしょは誰でもするよ!」
「シェリーちゃんが、最後にしたの幼稚園の頃ですね!」
「え、えっとおねしょも可愛いかも!」
「エマさん時々変態になりますよね」
「変態扱いされちゃった!ってそうじゃなくて、えーと...そうだ!この事はみんな知ってるから心配しなくてもいいよ!」
「おねしょした事をみんな知っているって事ですね」
「えっと、えっと、これがマーゴちゃんのせいじゃないって知ってるから!」
「処刑された人以外夢覚えてないんじゃなかったですっけ?」
「あなたは一旦だまってなさい!」
「あ痛た!」
混沌だ。混沌が広がっている。
ハンナとシェリーの漫才が繰り広げられ。
その足元でマーゴは膝を抱えていじけており。
そんなマーゴをどこからか拾ってきた木の棒でつつくアンアン達。
混乱して慌てふためくエマとミリアに
処刑内容に青い顔となっているナノカやアリサ。
この状況を撮影できないかと、カメラを探すココ。
トントンと肩を叩かれた。
横を見ると目が泳いでいるレイアがいる。混乱しているのがわかる。
こういう時は碌な事は喋らない。
「どうしよう」
「何がだ?」
「私も失禁したら注目されるだろうか?」
「正気に戻れ」
私には正気を失った友人の額にチョップを入れる以外の選択肢がなかった。
目が覚める。
外からはセミの喧しい音が聞こえる。
嫌な予感がして時計を見た。
09:45
いつもよりはるかに遅い起床。
正しくない起床だ。
下のベッドを見るとそこにはエマの姿はない。
まさか私がエマより遅く起きてしまうとは。
そんな事を考えるが、頭がぼやけて中々目が覚めない。
目もしょぼしょぼする。
いつもの私らしくない。疲れているのだろうか?
とはいえ過ぎ去ってしまった事はしょうがない。
こんな姿、いつも叱っているノアに見られたら次から叱りづらくなってしまう。
私は手早く着替えて、歯を磨くべく部屋から出て洗面所を目指すこととした。
寝ぼけた目を擦り、誰もいない廊下を歩き、階段を降りて
図書室の扉を叩くみんなを見つけた。
「マーゴちゃん!!マーゴちゃん!!扉を開けて!!」
「マーゴくん!大丈夫だ!誰も君を責めはしない!だから立て篭もらず、出てきてくれ」
「そうですわ!大丈夫ですわマーゴさん!おね...こんな事、誰にでもありますわ!」
「そうよ。私達は辛い思いを乗り越えてきた。だから...その、緩むこともあるわ」
「元気出してくださーい」
「いやぁ。でもまさかマーゴがねぇ。流石にあてぃしでも配信で流すのは...」
「日本地図みたいだったよー」
「ま?ちょっと詳しく聞かせてぇー」
「わがはいも見たぞ?」
「ノアちゃん、ココちゃん、アンアンちゃん。おじさん流石にやめておいた方がいいと思うなぁ...」
「えっと...元気出せよ。飯扉の前に置いとくからさ」
わちゃわちゃと、三者三様の喋り図書館の前にたむろする皆。
...何が起きてる??
私はポカンと口を開けるしかない。
するとそんな私に気がついたエマが半泣きでこちらにかけてきた。
「助けて!!マーゴちゃんが!」
その声に扉の前にいた全員が振り返る。
私が寝ている間に何が起きたのは違いない。
だが、まぁ、
「まず何が起きたか教えてくれ...」
助けを求める彼女に、私は寝ぼけた頭を抱えるしかない。
この日、私たちのなんか違う日が始まった。