なんか違う尊厳裁判   作:haguruma03

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転③『ラテラルシンキングⅡ』

気持ちの良い日差しと清らかな風が洗濯物をはためかせ、華やかな洗剤の香りが漂う。

昨日と同じ良き天気ではあるが昨日と違うのは遠くに入道雲も見えないほどの快晴。雨が降る心配はしなくても良さそうだ。

 

「これでひと段落だね!」

 

3人分の洗濯物を干し終えたエマが一息つく。

粗相によって生まれた洗濯物に加えて日々の洗濯を2人で終えた時には時刻は昼前になっていた。

 

今この場には4人の人物がいる。

私と干された3人分の寝具の持ち主だ。

1人はエマ、そして残りの2人は昨日私たちが眠った木に背を預け黄昏ている。

 

ココ、そしてハンナ。

いつもうるさい2人は目の前の干されたている自らの粗相から目をそらすように視線が定まらず、虚空を見つめ静かにしていた。

 

実は先ほどまでシェリーとアリサもいたのだが、

 

「大丈夫ですハンナさん!おねしょをしても私たち友達です!」

「…」

「私にはわかりませんが、恥ずかしい事って意外とチャームポイントになるっていうじゃないですか!おねしょもハンナさんのチャームポイントですよ」

「…」

「あれ?いつもだったらハンナさん元気に返事してくれるのですが…?どうしました?」

「どうしましたかもこうもねぇよ!このハエ女!!」

 

そんなシェリーによるフォローになってないフォローがハンナに突き刺さり死体打ちになっていた所を通りがかりのアリサがシェリーを回収して行った。

 

いつもならシェリーのノンデリカシーな発言にハンナは怒り、ココはヤジを飛ばすはずなのだが、2人はいたって無言。視線は虚空を漂っていた。

端的に言って不気味だ。

だがそうなる理由もわからんでもない。今はそっとしておいてやろう。

 

哀れな2人から目を逸らし、再びエマに視線を向ける

 

エマはココやハンナと違い、まるで何もなかったかのように振る舞っていた。

それが素なのか、羞恥心を隠しているがゆえの行動なのかはわからない。

だがどちらにしろ私には彼女に聞く必要がある。

問題はどうやって切り出すかだ。

あまりに直球で聞いてしまうと昨日のミリアのように...いや、そうか

一つ妙案が頭に浮かび私は、呑気に洗濯物と空を見上げるエマに声をかけた。

 

「なぁ、エマ」

 

「ん?どうしたの?」

 

不思議そうに私に問いかけるエマ。

そんなエマに私は昨日のミリアの真似事を始める事にした。

 

「ちょっとした、思考ゲームをやってみないか?」

 

「ゲーム?」

 

エマは可愛らしく首を傾げる。

呑気で平和に見える彼女の表情を変えてしまうことに少し心苦しく思いながらも私はその名を口にした。

 

「ああ。ゲームの名は『なんか違う尊厳裁判』だ」

 

「...え?」

 

私はそう告げた言葉にエマの動きが止まる。

だが私はそんなエマに気が付かぬフリをして、昨日ミリアに教わった『ゲームの前提条件』

つまりは今までのゲームの経過をエマに伝える。

 

昨日と違いカードがない状態での説明は普通ならばわかりづらいに違いない。

だが、エマは途中疑問を挟むことはなく淡々と話を聞いてくれる。

目は泳いではいるものの理解しているようだ。

なぜ理解している?

それは今私が話している事を理解しようとしているのではなく、思い出そうとしているからではないか?自ら体験してきた裁判を。

しかしその考えを私はエマに直接尋ねない。なぜなら、それを明言した場合、昨日のナノカやミリアの二の舞になるからだ。友人を好き好んでトイレに送り込む趣味はない。

 

だが直接尋ねなくてもわかることはある。

私はそんな確信を持ちエマの表情をチラリと見る。

 

エマが最初に『なんか違う尊厳裁判』の名を聞いた時、彼女はその名に疑問を持つのではなく何かを連想し、心当たりがあるような表情の変化が見られた。

 

そして私がこうしてゲームの経過を話せば話すほど、その話を理解しようとするのではなく、何か思い出すかのように考えている。

 

やはり、そうなのか?いや、そうなのだろう。

昨日の私の推理した仮説通り、私達は夢の中で裁判を行なっているのかもしれない。

そして処刑された者は粗相をして、夢の記憶を引き継げる。

だが、夢の中の内容を話しすぎると腹に異常をきたしてしまう。

この仮説は、おおよそ正しいはずだ。

 

そして、裁判が行われているのなら昨日ミリアと話した内容が行われたはず。

 

裁判中の私が何を知り何を考えているのかはさっぱりわからない。

裁判の内容を記憶のある者たちに聞く事もできない。

無理に聞いて、エマ達処刑された者に更なる恥辱を迫る事は『正しくない』と流石に理解できる。

 

だが、何もしないわけにはいかない。

そう考え、私は改めて三つの干された寝具を見る。

 

先程まで各種様々な地図が書かれていたそれは、今フローラルな香りに包まれゆっくりと乾いていっている。

3つの粗相の証拠。

それは3人処刑されたことを意味する。

 

なぜだ?

なぜエマ、ココ、ハンナ、この3人吊られた?

 

エマとココ、この最後の2人しか成り変わり先はなかったはず。

ゆえに2人が吊られるのは理解できる。

だが、ハンナが吊られる理由がわからない。

 

この『吊り』が裁判中何らかのトラブルによって起こった、参加者全員が理解している『吊り』ならば安心できる。

だが、もしこれが参加者が意図しておらず、『名無しの魔女』によって起こされた予想外の『吊り』だった場合、話は変わる。

 

つまり、このタイミングで『名無しの魔女』はハンナを吊らなければならなかったのだ。

そしてそれは、『名無しの魔女』がまだ裁判を続けようとしている行動でもある。

 

このハンナを吊るという行動が、自らの勝利のためなのか、ただの私怨なのかはわからない。

だが『名無しの魔女』はエマとココを吊った後続く裁判のための行動をした事になる。

それはつまり、エマとココ、この最後の2人しか成り変わり先はなかった状況を『名無しの魔女』はすり抜ける方法を持っておりそれを実行したということになる。

 

 

最後の状況でエマとココ。この2人しか成り代わりはいなかった。2人を吊れば終わりだった。だが終わらなかった。

 

それはなぜか?

その答えは裁判の記憶を持たない私が導き出せる事はないだろう。

だが、推測はできない事はない。

ヒントはある。

 

そんな確信を胸に秘めながらも昨日ミリアが私に話した今までの裁判の流れを、エマに伝え終えた私は、彼女に確認を取る。

 

「ここまでがこのゲームの前提。今まであった裁判の流れだエマ。理解できたかな?」

 

すると彼女はコクリと頷いた

 

「うん…大丈夫だよ」

 

そんな彼女に頷き私は話を続ける。

 

 

「この次の裁判で吊るべきは、今まで成り代わられていない2人、成り代わられる可能性がある2人のはずだ。だが、吊られたのはその2人に加えて、今まで成り代わられてはいないが今回成り代わられる事がなかったはずの1人も吊られてしまった…」

 

「…」

 

「さてエマはこれがなぜだと思う?」

 

私の問いを聞くとエマはその言葉に目を閉じ考え始めた。

1つ2つと晴れやかな青空の下、時間が流れていく。聞こえるのは時折はためく洗濯物たちの音のみ。後ろに魂の抜けた少女が2人いるのも忘れてしまいそうなほど、エマと2人だけの穏やかな時が進んでいく。

 

ハンナが吊られた理由。

それは容易に想像がつく。

それは『名無しの魔女はハンナを吊らなければ負けていた』という事。

それがどういう事なのか。別に難しいことではない。

まずエマ、ココ、ハンナの3人だけ成り代わられる可能性があった。だが、ハンナだけは前回の裁判で成り代わられる事はなかった。

ゆえに、前回の裁判で吊るべきはエマとココだけになる。この2人を吊れば裁判は終わる。

これは昨日散々ミリアに話した事だ。

だがもしエマとココの2人を吊っても裁判が終わらなかったとして、『名無しの魔女』は次の裁判で確実に吊られる。

なぜなら、次の裁判で『名無しの魔女』が成り代われるのはハンナだけだからだ。

 

だからハンナを『名無しの魔女』は吊った

理由はこれだろう。

 

しかし、疑問が2つ残る。

一つ目、『どうやってハンナを吊ったのか』

前回の裁判の投票先と投票数を私は覚えていない。だが最低でもエマとココに2票ずつ投票があったのは確実だ。もしエマとココに2票ずつ投票があったとして、ハンナも一緒に吊るのなら、当たり前のことだがハンナに2票の投票が必要なのだが….『名無しの魔女』はどうやってハンナに2票の投票を集めた?

口八丁や誰かを騙してハンナも一緒に吊るように皆を誘導したのなら理解はできるが納得はできない。ハンナを吊った場合、『名無しの魔女』が成り代われる先が増えてしまうのは少し考えてみたらわかることだ。夢の中の私がその投票を許すとは思えないし他のメンバーもそれをよしとしないだろう。

私なら、ハンナに1票も投票させずに、次の裁判でハンナを『名無しの魔女』に成り代わらせて成り代わられたハンナを吊るはずだ。

つまり、夢の中の私を信じるのならハンナには1票も投票がされていないはず。

だが現実は1票も投票されていないはずのハンナが吊られた。

 

『名無しの魔女』がハンナに2票投票した?

それはあり得ない。なぜなら、『名無しの魔女』は前々回の裁判でミリアに投票しているため1票しか持っておらず、2票持っていたとしても基本ルールで同じ対象に票を投票できない。

 

この謎の答えは今の私にはわからない。わかるのは、おそらく裁判中の情報もなく延々と頭の中で思考を続けても答えが出る事はないという事だ。

裁判とは皆が皆、最適解を突き進むものではない。感情や思い込み、思考誘導によって本来では考えられない事になるのは、私たちは『魔女裁判』で嫌というほど学んでいる。ゆえにこの疑問は一度置いておく。

 

二つ目の疑問。

どうやって前回の裁判から『名無しの魔女』は吊られずにすんだのか。

前回の成り代わり先はエマとココのみだった。ゆえに2人を吊れば確実に『名無しの魔女』を吊ることができたはずだ。

この考えは昨日ミリアと話した時に互いに納得した内容だ。そして、前回の裁判結果としてエマとココがおねしょをしている、つまり吊られていることから夢の中で皆にも同意を得ていると考えられる。

ならなぜ夢の裁判は終わらないのか。なぜ裁判は続いているのか。そもそものルールが間違っているのか?

違う。

ルールは間違っていない。私たちは昨日まで見落としていただけだ。

私はこの疑問の答えを既に得ている。この得た答えが正しい事を私はほぼ確信している。

 

だが、確信はしているが、『ほぼ』だ。

明確にこの答えに納得がほしい。

ゆえに私は、エマに問いかけたのだ。

『彼女』を探しているエマならわかるはずだ。

 

私が思考を巡らせエマをじっと見つめていると、エマは目を開いた。

彼女の瞳は先ほどより少し鋭さを増している気がした。その表情は過去の裁判中の彼女の瞳に似ていた。

ああ、この表情だ。

ワタシはこの表情が気に入っている。

記憶の中で彼女の瞳がこうなった時は、おそらく謎はすぐに解ける合図でもある。

 

思わず気分が高揚する。

 

さぁ、聞かせてくれ。君の答えを。

声に出さずとも聞こえてしまうような感情が口に出そうになる。

そんなワタシの思いが通じたのか、エマと視線があう。

 

するとエマは数回目を瞬かせると、眼をあちらこちらへと動かす。

それと同時に鋭かった瞳が少しずつ弛んでいく。

---ん?

思わず疑問が頭に浮かぶがそれを口に出さずエマの回答を待っていると、彼女は再び目を瞑り、何かを覚悟したかの様にゆっくりと口を開いた。

 

 

「…その人がおねしょしたかったとかはどう…かな?」

 

「…は?」

 

思わず声が口からこぼれる。

そんな私の姿にエマは慌てて言葉を並べ始めた。

 

「ほ、ほら!その人にはそんな秘密の趣味があったり〜とか」

 

「…は?」

 

「えっとえっと…実はその子はたとえば他の子と一緒におねしょをしたかったとか」

 

「…は?」

 

「それ以外には….」

 

「んなわけねぇーだろ!!」

 

「ふざけないでくださいまし!!」

 

エマが新たな戯言を言い終える前に、彼女に2人の人物が飛びかかった。

先ほどまで魂のないゾンビのようだった2人が、生きた人間を見つけ飛びかかるホラー映画のゾンビのようにエマに襲いかかる。

すぐにエマは2人の襲撃者の餌食となり2人に組み伏せられ揉みくちゃにされている。

 

姦しいという漢字を人文字で表すのならこれが正解なのかもしれない。

突然の事態に置いて行かれた私の頭にそんなどうでもいい事が浮かび上がる。

 

「ちょっと待って!話せばわかるよ!」

 

「んな事聞くわけねーし!」

「問答無用ですわ!!」

 

かの首相と同じ言葉は同じ様に無視されて、わちゃわちゃと絡み合う。

ポカンと私が彼女らを見ていると、襲撃者の2人が顔だけを私に向けて口を開いた。

 

「あ~?このあんぽんたんお仕置きするからちょーと待っててくんね?」

 

「ごめんなさいね。久しぶりにシェリーさん以外にシェリーさんと同じぐらい怒りを感じましたの」

 

申し訳なさそうにしている2人。だがその体の動きは容赦なくエマに襲い掛かっている。

その動きは暴力ではない。いうならば弄るが正しいのだろうか。

 

「…そうか」

 

なんとなく自身の目がじっとりとした目になるのを感じていると、2人の手からなんとか抜け出したエマが私に手を伸ばしてきた。

 

「た、助けて!」

 

「…そうか」

 

「そうかじゃなくて!」

 

「…そうか」

 

「観念しなさいエマさん。今回ばかりは許しませんわ!」

 

「え!?ま、待ってよハンナちゃん!あっ…そこっ!手を入れたらだめっ!」

 

「…なんかエロいなエマっち」

 

「…ですわね」

 

姦しく仲良く絡む3人を見てると恥ずかしくなり、私は彼女たちに背を向ける。

 

「そろそろ昼食だ。ほどほどにな」

 

「え!?止めないの!?」

 

「え?マジ?今日は話わかるジャーン」

 

「ちょ、ま…やっ!」」

 

そんな何処か艶やかな声を聞き流しながら私は、歩を進める。

 

さて…誰に話を聞きに行こうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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