なぜ無い。
思わずぼやきそうになりながら、豆電球の灯りの下で新しいダンボールを私は開けた。
倉庫の中、もう何個目になるかもわからないダンボールを開け、中を確認し、仕分けをする作業を繰り返している。
開いた十数個はすでに超えている。だが、一向にトイレットペーパーは見つからなかった。
こう言った資材は管理していなかっただろうか?いや待て、そもそもここは夢なのだ。願えば今目の前に現れたり…
そう考え、虚空に手を伸ばすが何も起きない。
…期待はしてない。
ため息をつき新たな段ボールを開ける。
中身は…文具類か。いくつかノアに持っていてやろう。
もうトイレから離れてそこそこの時間が立っている。
ユキは困っていないだろうか?いや、そもそもユキは現在進行形でトイレットペーパーがなくなって困ったから新たな物を要求したのではない。ただ、無くなっていたから要求しただけなのだ。あまりにも帰りが遅かったらもうトイレから離れているのかもしれない。
自分からお願いして待っていると言ったのに、場所を離れることはあるだろうか?いや、ある。ユキならばやりかねない。ならばこの行動も無駄なのでは?だが、用意されているべきものが用意されていないのは正しくないことだ。たとえここが夢だとしてもやらなければならないことはやらないといけない。それに…
私はそう結論付けると共に辺りを見渡す。
そこにはさまざまなものが乱雑に置かれておりところどころ埃が被っている。
正しくない。整理整頓そして掃除がなされていない。
「まったく。まったく」
この現状が認められず、トイレットペーパーを探すのと並行して倉庫の掃除と整理整頓を進めてしまう。
こうなったら何もかもが気になってくる。
壁が汚い。床にゴミが多く落ちている。どの段ボールに何が入っているか書いてないが故に探すのが大変だ。しっかり仕分けしなくては。
黙々と私は見つけた物を整理整頓していく。
掃除は好きだ。色々なものに悩んだ時、モヤモヤがおさまらない時、掃除をすることで心も同時に洗われるようなのだ。
無心でひとつひとつ整理をして綺麗にする。時間も忘れ体を動かす。
最近は、特に今日は色々と考え事が多すぎた。
こうして掃除をすることで思考の休息にもなる。
段ボールを開ける。中のものを仕分ける。不要になった段ボールを畳む。
段ボールを開ける。中のものを仕分ける。不要になった段ボールを畳む。
段ボールを開ける。中のものを仕分ける。不要になった段ボールを渡す。
段ボールを開ける。中のものを2人で仕分ける。不要になった段ボールを畳む。
む?この段ボールは大きいな。それに中身も多い。しかも・・・適当に物を入れたな?中身が色々な物でぐちゃぐちゃだ。許せない。
「これは、大仕事になりそうだね」
そうだな
そもそも夢の中で物を探す行為自体無謀なのかもしれない。….ん?
疑問も抱かず無心で行動していた自身の行動に違和感を抱き、横を見る。
「さて、どこから手をつけようか?」
そこにはいつもと変わらぬ笑みを携えた友人。
レイアの姿があった。
「レイア。なぜ君がここに?」
まさかの人物に思わず私が聞くと、レイアはやれやれと言った仕草で聞き返してきた。
「それはこっちのセリフだよ。晩御飯にも顔を出さず。何をしているのかと思ったら」
「ーー晩御飯?」
「そうだよ…その感じだと時間も忘れていたようだね」
呆れるようなレイアの声。
…確かにこの倉庫に入ってから外を一切確認していない。無心で掃除していたがそんなに時間が経ってしまったのか?あまりに時間が経つのが早すぎやしないか?もしや、ここが夢だから時間が経つのが早いのか?それともただ単純に私が気がついてないだけか?
さまざまな考えが頭に浮かぶが、まずやらなければ、ならないことがひとつ。
まずい、ユキを待たせすぎている。
私は慌てて、倉庫から出ようとすると、その肩をレイアが掴んだ。
「まぁ、まってくれ。そんなに急がずゆっくりしようじゃ無いか。こうして晩御飯も持ってきたんだ。私の分と君の分、ちゃんと二つある」
そう言い、彼女が指差した先は、私がこの倉庫に来てまず掃除した綺麗なスペースに置かれた魔法瓶とお盆。お盆の上に乗せられた皿。そんな皿に並べられたおにぎり、ウインナーや卵焼き。美味しそうな夜食が置かれてあった。
確かに小腹が空いてきた。食べたいが、今はそれどころでは無い。
ワタシはレイアに背を向け倉庫の出口に足を進める。
「すまないレイア。待たせている人がいる。」
「それに関してだが…」
「すぐに戻ってくる。ご飯も先に食べててくれないーー」
「ーーユキくんには先に帰ってもらったよ」
動きが止まる。
本日二度目となる、あっさりとその名が告げられ、体がエラーを起こした。
倉庫の出口に歩もうとした足を止め、ゆっくり振り返る。
「だから、ゆっくりご飯を食べよう」
レイアはそういうと茶目っ気のある笑みを私に向けた。
「こんな夜食は懐かしいね。仕事が遅くなった時、スタッフさんが用意してくれたことがあってとても美味しかったよ。今回のものもそれと同じぐらい美味しい。おそらくこの美味しさは苦楽を共にした仲間と食べるからこそ美味しく感じるのだろう!」
「そうか」
「あれ?食事中は喋るなと怒らないのかい?」
「咀嚼中でなければ別に構わない」
「ふふ、なるほど。ではお言葉に甘えるとしよう!」
倉庫の隅にあったパイプ椅子に座りながら高らかに声を上げるレイアに、私は同じくパイプ椅子に座りながら適当に相槌をうちおにぎりを一口齧る。
確かに美味しい。美味しいが不服だ。
魔法瓶に入ったお茶をコップに汲もうとすると、私の目の前に新たにコップが差し出された。
そちらに目を向けるとレイアが、お願いと言いたげにウインクをしてくる。
なんでもその顔で許されると思うな。貸せ、最初に注いでやる。
私はレイアのコップにお茶を注ぎながら、ぼやいた。
「それで、君はいつ知ったんだ」
レイアは、ありがとうと言いながらコップを受け取ると答えた。
「2回目が終わった後かな?」
2回目…つまりはナノカが処刑された後か。
たしかレイアはあの時、元魔女の子達のメンタルケアをしてるナノカとマーゴの手伝いを任されている。だが、真実はこの夢の牢屋敷に元魔女の子達なんて存在しない。つまりはそこでマーゴ達はレイアにユキを紹介したのかもしれない。しかし、なぜレイアなんだ?そんな疑問が頭に浮かぶ。そしてそれと同時に、一つの答えも浮かび上がる。レイアがユキの事を知っているということはユキを見たということだ。つまりユキがネタバラシを行ったということであり、ユキのお腹が大変なことになったことを意味する。
たしかに基本的に検証とは1回ではなく複数回行う物だ。エマで行おうとしてノアが行ったユキのネタバレ検証は1回目ではなかった2回目だったのだ。
おのれマーゴと言いたいところだが、それだけのことをユキがやってきたのは変わりない。だとしてもやりすぎなのでは?と思ってしまいユキのお腹に私は涙した。
そんな涙を振り払い、今のレイアの発言を振り返る。
彼女は2日目ではなく2回目と言った。つまり。
「その言い方…君も知っているのか?」
私の質問に、レイアは素直に頷いた。
「今この夢のことかい?それとも裁判のことかい?」
レイアはそう言い、おにぎりをひと齧り。
食事すら絵になるレイアから私は目を離す。
やはり、どちらも知っていたか。それを知り私は悪態をついた。
「マーゴめ、レイアも知っていることを教えてくれていればもっとやりようはあったというのに」
そんな悪態を宥めるようにレイアは言う。
「まぁまぁそう言わないでくれ。マーゴくんも何か考えがあるのかもしれない」
「あったとしても、悪どいとまでは言わないが揶揄いが紛れている事に違いはないだろう?」
「ははは」
否定も肯定もしない乾いた笑いをするレイアを横目で見ながら私はおにぎりにかぶりつき、咀嚼し飲み込む。
しっかり飲み込んだ後、レイアに疑問を投げかけた。
「マーゴはどちらにも協力をすると言っていた。君もそうなのか?」
レイアに限って私を裏切る事などないと思いながらも聞いてみる。
するとレイアは目をパチクリと驚かせた。
「そんなことを言っていたのかい」
「ああ、『私達側と魔女側、どっちにも協力する事にした』といっていた」
するとレイアは手を顎に当てて考え始める。
「・・・なるほど。マーゴくんが『私達側と魔女側』と君に言ったのだね」
「ああ、だから貴方達にはこれ以上協力できないと」
「・・・なるほど」
何か納得したかのように頷く。
私を置いて一人納得するはやめてもらいたい。
私はそんなレイアの脇腹を軽き肘でついた。
するとレイアはビクリと体を震わせた。
「わぁ!な、なんだい?」
「勝手に納得するのはいいが、質問に答えてもらいたい」
「それはすまなかったね。いじけないでくれ」
「いじけてなどいない」
「ふふっ。それでマーゴくんと同じ立場なのかってことだったかい?」
「ああ、そうだ」
「それは違うよ。私は私たちのため『名無しの魔女』くんに勝つために動いている」
「マーゴとは立場が違うと?」
「そうだね。私はマーゴくんやナノカくんとは別の方法でこの裁判にアプローチしている」
「別の方法?」
「そうさ、そもそものスタートがマーゴくん達と違うからね。エマくんも同じだと思うよ私は」
スタートがエマと同じ?
何を言っている?
不可解な事をポロポロと喋るレイアに私は頭を抱える。
何でこうも突然新たな不明な情報が増えるのか。もっと前に私に相談すべきだっただろう。
そんな内に秘めた激情を抑える。ここで気持ちの赴くままに叫ぶのは私らしく無い。落ち着け私。
そうやって気持ちを落ち着かせるが、レイアはそれを知らずか無視しているのかは分からないが話を続けていく。
「それにマーゴくんと協力していたと言うよりも、情報をもらっていたと言った方が正しいのかもしれない?」
「情報をもらっていた?」
「そう、1日目ぐらいからだろうか。何か違和感を感じてね。それでまずマーゴくんを頼ってみたんだ」
何となしにレイアは言う。
だがその言葉は何故か妙に引っ掛かった。
まず、マーゴの所に、行ったのか。違和感を感じた事を、まず、『最初』に、マーゴに、頼ったのか
「・・・私じゃなくてか」
不意にポロリと口から言葉が溢れた。
「え?」
映画のセリフの様に流暢に喋っていたレイアの声が止まる。
マズイ。
チラリとレイアを見ると驚き止まったレイアの視線と私の視線がぶつかってしまう。
私はその視線をそっと逸らした。
だが回り込まれた。
「今、何と言ったんだい?」
「いや、なんでもない」
「いや、なんでもあるよ。もう一回言ってくれるかい!」
目をキラキラさせながらレイアは私に近づいてきた。
「まて、レイア近い…近い!一旦離れて」
「嫌だね!今は君の発言の方が重要だ!」
そうレイアは言い私の両肩に手を置き顔を近づけてくる。
その表情はクリスマスプレゼントをもらった子供のように爛々と光り輝いている。
こうなっては白状しなければ退いてくれない。
さっきはついボヤいただけなのに、何ではっきり言わないといけないんだ。
顔が赤くなりながら私は先ほどの言葉を口にする。
「・・・じゃなくてか」
「ん?なんだい?」
「・・・私じゃなくてか」
「もっと大きな声で!」
「私じゃなくてかと言ったんだ!」
「あぁ!!」
レイアは突然立ち上がり、片足を軸に立ち、もう一方の脚は膝を曲げて前、横、または後ろに持ち上げ天を仰ぐ。
つまりバレーでいうアティチュードのポーズを突然取り出した表情を煌々と煌めかせる。
ほとんどブレもない美しい体勢、流石はトップスターと言いたいところだが突然そんなポーズを行われると不信感しか湧かない。しかも原因が自身の痴態だとさらに怒りも湧いてくる。
だが、そんな私の不機嫌に気が付かない様で、レイアは言葉を並べ立てる。
「君がそこまで言ってくれると本当に本当に嬉しいよ!今回の舞台は今、この為にあったと言っても過言ではない!」
過言だろう
「これは名シーンだ!想像してみてくれ!」
断る
「様々な苦難の中、身を寄せ合う美しい少女達!」
コイツ自分も美少女といったな
「そんな時、気難しい少女が親友に向けた微かな嫉妬!」
などしていない。
「これを美しいと...最高の舞台だと言わずして何という!どうだ!反論の余地も無いだろう!」
無いのは言葉だ
喧しいレイアの1人劇にため息をつきながらおかずをつつき食事を進める。
もはや私にすら見られていないのにレイアの一人芝居は続いていく。
発言のたびにポーズを変えるのが大変喧しい。
「いやー素晴らしい本当に素晴らしい機会をくれてありがとう『名無しの魔女』くん!」
「敵に礼など言うものでは無いと思うが」
あまりにも喧しいので口を挟むと、レイアは首を横に振った
「いやいや、それは違うよ。『名無しの魔女』くんは敵じゃ無い。競い合う相手さ!全てが終わったら私と『名無しの魔女』くんは仲良くなれそうだ」
「こんな陰湿な手を打ってくる相手とは仲良くなれなさそうだが」
「そうでもないさ、彼女には素晴らしい特技がある。ぜひ見習いたい!」
「特技?」
「彼女の模倣…いや、他者に成り切るその姿は僕からしても見事としか言いようがない!」
「だがそれは魔法だろう?」
「いーや、魔法だったとしても変わりない。彼女の魔法は幽霊みたいに他者に憑依するものでは無い。ただ記憶を知り夢の中で成り変わる魔法だとユキくんは言っていた。その記憶を元に行動して他の皆に気づかれないのは彼女の実力だ!是非仲良くなって共に劇場に上がりたいものだ…いや、もう上がっているのか?この夢の中の劇場に」
そうレイアは立ち上がり高らかに宣言する。
まるでスポットライトを当てられたトップスターのようにクルリと踊るように回る。ひと回りふた回り回り終えると、ぴたりと止まりワタシを指差し宣言した。
「だが、役者としてはまだ未熟な点がある!」
私に言われても困る。
レイアの大袈裟な動きに飽きてきた私はお茶で一服し、一息ついてから「それは?」と聞いた。
するレイアは自信満々の笑みで言った。
「役者は一度劇場に上がると、劇場から降りるまでその役に徹し続けなければならない。彼女にはそれがまだ完璧に出来ていない」
「役に徹し続ける?」
「そうさ、思い返してごらん?」
「思い返せも何も私も君も夢の内容を覚えてないぞ?」
そう言い返すとレイアの動きがぴたりと止まった。そのまま1秒2秒と時間が過ぎる。
突然の静止に眉を顰めるが...
あぁなるほど。
レイアの瞳を見る事で合点がいった。
彼女の瞳は忙しなく動いている。慌てている。
...どうせ深く考えず喋っていたがゆえに次のセリフが思いつかないだろう。
はぁ、とため息をつく。
助け舟となる別の話題を振ってやるとしよう。
「それで?『名無しの魔女』と仲良くなったら何がしたいんだ?」
私の助け舟にレイアはすぐに乗ってきた。
「それはもう、最初は互いの事を色々と話したい!特に今回の事件について語り合いたいものだよ!」
「面白いものではないと思うが?」
「そんな事はないさ!ただ残念なのは、1回目の裁判を私たちが覚えていないことだね」
「1回目?マーゴの時か?」
「ちがうよ。この裁判の1回目じゃなくて。この裁判の前の裁判のことさ」
前の裁判?魔女裁判のことか….いや、違うな
彼女が言ってあるのは、この夢の裁判の最初、つまり
「全員投票が行われなかったことによってやり直された最初の裁判か」
「それだよ。一体最初は一体どんなストーリーが繰り広げられたのだろうか…気になって夜も眠れないよ」
「今の私達は眠っている様なものだけどな」
「確かにそれはそうだ」
レイアはその通りだと相槌を打った。
「私たちは眠り、その夢の中で裁判を行い、そこで裁判がやり直され、夢の中で牢屋敷で暮らす事となり、そこで眠り、その夢の中で新たな裁判をしている」
「重箱、マトリョーシカのようだ」
「私もそう思うよ。起きた時にコマを回さなきゃ不安で眠れない」
「インセプションか」
「知っていたのか。君も映画を見るんだね」
レイアは手でコマを回す仕草をした。
確かにレイアのいう通りこの夢は、夢の中で夢を見ている。
夢の多重構造ともいえる、おかしな状況になっている。こんな魔法の重ねがけの様な状況。ユキが魔女因子を持っていき、残滓となった魔法でできるのだろうか?もしできたとしても、この夢の魔法は長くは持たないかもしれない。
私がそんな現状の分析をしていると、レイアが再び『名無しの魔女』との夢を語り始めた。
「ああ、もし彼女が役者に興味があるのなら、私が教えれる限り教え導こう!なんたってワタシはただの役者じゃ無い。スターだからね。君もまた照らし導くことができる」
「トップスターが言うと冗談に聞こえないな」
「冗談じゃないさ。考えても見てくれ!」
レイアは天を仰ぎ言う。
「この夢の劇にはトップスターと、まだ自信の才能に気がついていない天才の卵がいる。つまりこの夢は奇跡の初舞台、そして伝説の始まりなのさ!」
レイアはそう言い私に手を差し伸べてきた。
その手を見る。その手のひらは相方を今か今かと待っている。
全くしょうがないな。私も乗ってやろう。
その手を掴む。
「---っ!」
次の瞬間、レイアに力強く腕を引かれ体勢を崩すが、倒れ込む様にレイアの胸に引き寄せられた。
「危ないな」
「私がパートナーに恥をかかせると思うかい?」
ニコリと彼女は笑う。
巷の少女ならコロリと心を奪われてしまう様な笑みだ。
「それで一体これは何のつもりだ?」
レイアのもう片方の手が私の腰に添えられた感触を感じながら私は問う。
「今日の終わりに一曲どうかな?って思ってね」
「この後裁判があるのにか?」
「君は犯人に目星をつけているんだろう?じゃなきゃ掃除なんてしていないはずだ」
レイアはウインクしながら答えた。
確かに。今日いろいろな話を聞けた。そしておそらく次の裁判で勝つ算段もつける事ができた。裁判の記憶がない状態でつけれたのだ。夢に入り裁判の記憶を取り戻した時、その算段は確定へと変わるだろう。
だから、確かに時間はある。
故に、私は自身の顔をレイアの顔により近づけた。
「---っ!」
急にぶつかるかと思うほど近くに近づいた事で今度はレイアが驚き、ぶつからない為に顔を離した。それ故に彼女は体勢を崩し背中から倒れそうになる...が。
私が腰に手を回したおかげでレイアは倒れない。
片方の手で伸びた相手の片腕を掴み、もう片方の腕で相手の腰を掴む。
まるで社交ダンスの一場面。だがレイアは場慣れしている様に恥ずかしがらず私に話しかけてくる。
「...ずいぶん情熱的だね?」
「君の方こそと、私は思うよ」
まるでドラマの様な掛け合い。普段の私なら決してしないが、私もレイアと場に空気に酔っているのかもしれない。
「君が最近、私以外とばかり関わるから拗ねたのかもしれないよ?」
「なら埋め合わせをしないとな」
「どう埋め合わせをしてくれるんだい?」
「一曲じゃなくて、もう少し付き合うさ」
私がそう言うと、レイアは体を起こしギリギリまで顔を近づけてくる。目と鼻の先、まつ毛同士がくっつきそうになる程近づきながらレイアは微笑む。
「それは堪らないね。今夜はよろしくねお姫様」
「君もお姫様だろう」
私達はそう言い、夜の夢のお屋敷で2人だけの舞踏会を始める。それを見ているのは当事者以外誰もいない。
寂しくもあり晴れやかな楽しい最後の夜。そんな夜の2人をワタシは独占し、特等席で観戦する。
これが最後の夜。
これが最後の裁判の序曲であった。
目を開ける。
13人の少女が集まった裁判所。その手には端末が握られている。
忘れていた記憶がゆっくりと頭に入っていく。
もうこの感覚にも慣れたものだ。
皆も同じなのだろう。最初の方にあった混乱して騒ぐ声は聞こえない。
そんな静まり返った部屋の中。
私は静かに開始の声を上げた。
「さぁ、最後の裁判を始めよう」