なんか違う尊厳裁判   作:haguruma03

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本日2回更新


結⑥『閉廷。そして二階堂ヒロの〆切』

 

 

----信じられない。

自分の目を疑いそうになる。

黒と赤を基調とした服がはためく。美しい黒髪と気の強い眼差しがそこにはある。

見慣れた服。見慣れた顔、見慣れた声。

彼女と対話なんてした事もないけれど、彼女が正しさを追い求める美しく厳しく優しい少女なのはワタシはよく知っている。

 

「ヒロちゃん!」

 

エマの顔に満開の笑顔が現れる。

 

「エマ話は後だ。三、二、一で引き上げるぞ」

 

「うん!」

 

「いくぞ・・・三!」

 

「二!」

 

「一!!」

 

次の瞬間ワタシの体は一気に引き上げられた。

しかしどうやら力が強すぎた様だ。

 

「え?わぁ!」

「む?うぉ!」

「ま、ちょっ!」

 

ワタシは引き上げる力に引っ張られる様に二人の胸に抱きつく様に飛び込んでしまう。

そのせいで三者三様の声を上げ全員で倒れ込んでしまう。

 

真っ白なこの夢の中ゴロリと寝っ転がる3人。

今危機的状況だったのが嘘の様だ

そんなギャップが面白かったのかもしれない

 

「ふふ、ふふふ」

 

「エマ?どうした?」

 

ヒロが困惑した様子でエマに声をかける。

だがエマその声を遮る様に大きく笑い始めた

 

「あはははは」

 

「ふ、ふふふ」

 

ワタシも思わず釣られて笑ってしまう。

何が面白いのかはわからない。だが友人が笑ったら何故か笑ってしまう。

 

「君たち・・頭は大丈夫か?どこかに打ったりしていないか?」

 

ヒロが聞いてくる。ひどい言い草だ。だがこれが二階堂ヒロなのだろう

 

「ふふふ、大丈夫だよ二階堂ヒロ」

 

「それならよかった」

 

ヒロは安心した様に微笑んだ。

そうだ、二階堂ヒロがここにいる。

その認識がはっきりしてくると先ほどまで感じていた困惑が再び湧き上がり始める。

同じ想いだったのか、エマが声を上げた。

 

「そうだヒロちゃん。なんでここにいるの?」

 

その質問にヒロは答えた。

 

「夢におせっかいな二人が現れたんだ」

 

「おせっかいな二人?」

 

「どちらも知った顔だ」

 

「知った顔…あ」

 

エマが何かに気がついた顔をする。

ワタシもなんとなく気がついた。

思い浮かべるのは二人の白い少女。

 

・・・本当に最後までおせっかいな人だ。

 

すると、ヒロが立ち上がり、まだ寝っ転がっているワタシに手を伸ばしてくる。

少し困惑したがワタシはその腕をとった。

そのまま立ち上がろうとした時、突如それを咎める声が響いた。

 

「ああぁ!ヒロちゃんずるい!」

 

「・・・何がだ?」

 

「さっきボク掴めなかったのに!」

 

「知らん。あの時エマがすぐに掴んでいればあんな危機的状況にならなかったんだ」

 

「あ、あれは突然のことで動けなくて」

 

「体を鍛えたほうがいいんじゃないか?牢屋敷を離れてからどこかふっくらしている気がする」

 

「えぇ!」

 

「ふふっ・・・」

 

エマは驚き自身のお腹をつまみ始める。

そんな二人のコミカルなやり取りに思わずまた笑い声が漏れてしまう。

 

改めてヒロに手を引かれながらワタシは立ち上がる。

そこでワタシは初めて彼女を正面から見た。

ストレートの黒髪ロングで、紅目。大人な容姿。大きな赤い花の飾りを、髪飾りとして左の方に付けている。真面目で、礼儀正しい少女。非の打ち所がない美少女がそこにいた。

だがその内に少女と呼ぶには過激すぎる激情を秘めている事もワタシは知っている。

 

そんな少女がワタシにしっかりと視線を合わせながら口を開いた

 

「君のやったことは正しくない・・・だが君は最後の一線を越えなかった」

 

「最後の一線・・・?」

 

「私たちを真に傷つけなかった」

 

ヒロは言い切る。

だがワタシはその言葉に首を振った。

 

「いいや、ワタシは皆を傷つけて」

 

「君は処刑内容を死刑にする事もできたはずだ」

 

「ーーーっ」

 

「だがやったのは過激な悪戯のみ。そして君は魔女裁判の事を使って皆を精神的に攻撃する事もしなかった」

 

「おねしょって悪戯で済むかな・・・」

 

「エマ、今は大人しくしていろ」

 

「きゃん!」

 

「・・・それは単に偶々ワタシがやらなかっただけで」

 

エマとヒロのコントを横目で見ながらワタシはヒロの言葉を否定する。

だが、ヒロもまた首を横に振り、ワタシとの視線を一切そらさず宣言した。

 

「君は成り代わっている時、その姿でもっと皆を傷つけることができたはずだ。でもしなかった。だから私は君を断罪しない」

 

 

それは、二階堂ヒロの許しだった。

勝手に姿を真似て好き勝手にしたがゆえに、彼女が許してくれるとは思っていなかった。

だが、彼女は許した。許し、そしてワタシの命を救ってくれた

何かわからない感情が胸の奥から溢れてくる。

わからない・・・だが、目が涙で潤む。

しかしそれでもワタシは言わなければならない。

 

「ありが・・・」

 

「だが正しくないことには変わりない」

 

グイッと突然腕を引かれた。

 

「へ?」

「え?あぁ!!」

 

目の前にはまつ毛がくっつきそうなほど近づいたヒロの顔

とエマの悲鳴の様な声が耳に入る・・・が今はそんなところではない!

顔が顔が近い!そして顔が良い!

というかこの状況覚えがあるぞ!?レイアか?レイアだな!?

 

突然のことで頭が混乱し様々な要因で顔が真っ赤になっているのを自覚する。

だがそれをしている張本人は汗ひとつかかずワタシに要求を突きつけてきた。

 

「君は私に、私たちにやってしまった罪と相応のものを返さなければならない」

 

「そ、相応のもの・・・?」

 

「ああ、君の言う通りなら私たちはこの夢の事を忘れてしまう。そして君は覚えているのだろう?」

 

「は、はい・・・ちょ、ちょっと離れて」

 

「罪を被疑者が被害者に隠すのは正しくない事だ」

 

「そ、そうです・・・こ、呼吸が当たって・・・」

 

「だから、君は私たち全員に今回のことを教えるんだ」

 

「わ、わかっ・・・・・・へ?」

 

突然のヒロの言葉に呆けてしまう。

するとヒロはゆっくりワタシから離れて背を向けた。

 

「締め切りは決めてない。だが早ければ早いほど誠意を感じるだろう」

 

「締め・・切り?」

 

「ああ、もし文字を書いたことがないのなら周りを頼れ。頼りづらいならまず近くにいる人間。そうだな・・・良い挿絵を描いてくれる子と物書きを夢見ている子が近くにいるはずだ。どちらも力を貸してくれるだろう」

 

「・・・」

 

「完成を期待している」

 

ヒロはそう言い切るとスタスタと歩いて行く。

その先にはいつの間にか扉があった。

 

わかる。あれが出口なのだろう。

 

「待ってよヒロちゃん!」

 

エマが慌ててヒロについて行く。だが途中で立ち止まりワタシに向かって振り返った。

 

「じゃあ、またね!」

 

そう言って彼女も去って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、まったく。

ああ、まったくもう。好き勝手言ってくれたものだ。

文字なんて文章なんてろくに書いた事ないんだぞ?

しかもこの裁判のことを書き切るとしたら一体どれだけの原稿用紙が必要になるのかわかったものじゃない。文庫本一冊分はくだらないだろう。

素人にそんだけの文章を書けだなんて、ヒロはその労力がわかっているのだろうか?

 

そんな事を考えながら思わず笑みを浮かべてしまう。

ワタシは自分をやっぱりゆるせない。すぐ逃げる自分を信用できない。

ゆえに、このまま消えていった方がいいのではないか?という思考は消えることはない。

だけれども…やらなければいけない事、罪の精算をしなければならなくなった。

 

背筋を伸ばし、伸びをする。

現実では寝たきりだから、まずはトレーニングから始めないといけないかもしれない。

そんな事を考えながら、ワタシはヒロとエマの背中を追う。

 

急がなければならない

 

何故なら、私の・・・・いや、二階堂ヒロからの締め切りが迫っているからね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






寒さが肌を刺す。
年も明け、年初めの忙しさを忘れた頃、寒さに少し身を震わせながらマーゴはお盆に食事を乗せて牢屋敷の廊下を歩いていた。
今日はしっかり全部食べてくれるだろうか?
今から食事を持って行く部屋の子の事を思い頭を悩ませる。
その子はとてもとても大きな心の傷を負っている様だった。全部が終わってからかなりの時間が経過しているが、まだその子はベッドから離れず何処か上の空で虚空を見つめている。
すでに心が死んでしまったのではないかと心配になるが、それでも諦める気はマーゴにはなかった。

ナノカちゃんも本土に帰ってしまったから、私が頑張らないと。

そうマーゴは考えながら、部屋の前に行った時、それが目に入った
無造作に開かれた部屋の扉。
その部屋にはその子しかいなかったはず。
最悪の未来を想像し、慌ててマーゴは部屋に入った。


「あぁああああもう!え?こんなに文章書くのって難しいの?三人称じゃなくて一人称ならスラスラかけるって思ったのに。こんだけ書いて原稿用紙1枚?全然描写が進んでないだけど・・・はぁ・・・どうしよ。まずタイトルから決める?う〜ん、そうしよ」

そこには、どこから持ってきたのかわからないペンを持って頭を悩ませている一人の少女。
彼女のベッドの横には段ボールで簡易的に作ったテーブルが置かれており、その上に原稿用紙が載っていた。

その少女は紛れもなくマーゴの知っている少女であった。
だが昨日まで見た姿とは全く違う元気な姿を見て、マーゴでさえもポカンと口を開けて呆けてしまう。

「ん?」

するとそんなマーゴに気がついたのか、少女はマーゴを見て尋ねた。




「やぁマーゴ。小説のタイトル、『なんか違う尊厳裁判』ってのどう思う?」



一人の少女の執筆が今始まる。








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