さて、迅速に謎を解いて・・・・・・・・・・・ん?
「・・・どうしました?」
背後から困惑したメルルの声が聞こえる。
突然立ち止まった私に驚いているのだろう。
驚いているのは私もだ。
「どういう事だメルル」
「え?」
「私の知っている空間と全く違う、私たちの最初は血のバスタブだったはずだ」
そう言い、改めて周りを見渡す。
扉を越えた先、そこは確かにバスタブだった。
普通のバスタブではない、自分が小人になったと勘違いする様な巨大なバスタブ。
見上げなければならないほど高いところにあるバスタブの淵、視界の隅に映る人一人楽に入れる排水口。
そんな排水口から血が逆流して私たちを溺れさせようとしてくるのが前の夢だった。
だが今回は違う。
血の代わりに大量のものがバスタブに埋まっていた。
私は足首まで埋め尽くしているソレ、そんな落ちている一枚を手に取りまじまじと見る。
横からメルルも伺う様にふわふわと移動する。
「これは・・・イラストですか?」
「ああ、『バルーン』のだな」
牢屋敷の壁や床で散々見たイラスト。
城ケ崎ノア、私の友人の描いたであろうイラスト、それが書かれた大量の紙がバスタブを埋め尽くしていた。
「これは・・・ノアの夢なのか?」
妙な違和感を覚えながらふとイラストが描かれていない裏面を見る。
そこには文字が一文書かれていた。
『私の絵を探して』
「こ・・・こんなたくさんの絵の中からノアさんの絵を探すなんて…え?」
またもや、背後からメルルの困惑した声が聞こえる。
私はメルルの独り言の途中ですでに歩き始めていた。
床に散らばったイラスト達を踏まないように部屋の隅。
まるで何かを隠すかのように山ほど紙が積まれた場所へと向かう。
「ど、どこに行くのですか!?ヒロさん!?」
「時間がない。手早く行く」
「手早くって・・・一体何を?」
「ノアの絵を見つけに行っている」
「それはわかるのですが・・・」
「できるだけ早くエマを連れ戻さなければ」
「そ、それもわかるのですが、ノアさんの絵はこんなにいっぱいでそんなにがむしゃらに動いても・・・」
「これはノアの絵ではない」
「へ?」
ポカンと惚ける様なメルルの声。
そんな声を聞きながら私は紙の海を進み、考えを口にする。
「これらは彼女の絵ではあるが、バルーンの絵であって、ノアの絵ではない。そしてそんな絵の中で自分の絵を隠すとするのなら・・・ここだろう?」
辿り着いたのはバスタブの隅。妙に一箇所だけ山積みにされた紙の山。
私は山の中に手を突っ込み漁る。
見るものを魅了するようなイラスト達。
そんなイラストをかき分けて、かき分けて、かき分ける。
「え・・・あ・・・が、頑張ってくださいヒロさん!」
「メルル・・・君にも手伝ってほしいのだが」
「今の私には手も足もないので・・・」
「そうか・・・」
「私にできるのなんて応援ぐらいしか・・・」
「そうか…」
「ふ、ふれー。ふれー」
「・・・」
気の抜ける応援を聞きながら私は絵を探していく。
何十枚ものイラストをかき分けて、漁って、掘り進んだ。
そして見つけた。
紙山の底にそれはあった。
見たこともない絵。
だが、それが誰が書いたのか、絵柄で、色の配分ですぐにわかる。
「見つけーーーっ」
突如背後から服を引かれた。
今のメルルにてはないはず。驚き後ろを振り向くとそこには影がいた。
先ほどまで誰もいなかったはずなのに突如現れた黒い人影。
薄黒くまるで霧の様に朧げな小さな人影が俯きながら私の服の裾を掴んでいた。
人影が見た目では誰なのかはわからない。だがソレが誰なのかはなんとなくわかった。
「あなたは・・・」
メルルの驚いている声が聞こえる。
その声に影は一切反応せず、ただ無言で私の裾を掴んだまま。
まるで見られるのを嫌がる様に期待するかの様に恥ずかしがる様にただ掴んだまま何も喋らない。
そんな彼女に私は向き直り、口を開いた。
「本当ならこの絵は君自身の手によって私が見るべきもの。こんな盗み見る方法は正しくない」
だからと話を区切り、私は撫でる様に彼女の頭に手を置いた。
ピクリと怯える様に人影が動くが、私は優しく語りかける。
「だから、この絵の感想を私は今は言わない」
そう言って、手に持った彼女自身の絵を差し出す。
「次会う時、感想を楽しみにしていてくれ」
私はその言葉と共に彼女の手に絵を置いた。
すると彼女はおずおずと絵を手に取り、私に向かって顔をあげた。
「うん!待っててねヒロちゃん!」
どこから聞こえたかもわからない声が辺りに響く。
次の瞬間、カランと乾いた音が響いた。
目の前の彼女、そして辺りにあった大量の紙は一瞬のうちに消え、足元に新たな鍵が落ちている。
新しい鍵。
次の空間へ移動するためのものなのだろう。
私はその鍵を拾いながらメルルに尋ねた。
「あれは・・・ノアだった。この夢の主人はノアなのか?」
そんな私の疑問にメルルはすぐに答えた。
「いえ・・・おそらくなのですが、あれはノアさんの残滓を吸い込み成り代わった夢の主人なのだと思います」
「成り代わった?」
「はい、この夢の主人は夢の登場人物に成り代わることができると大魔女様は言っていましたので」
「つまり・・・今から私たちは夢の主人と私たちの仲間の誰かが合わさった空間を超えていかないといけないわけか」
「たぶん・・・ですが・・・ごめんなさいごめんなさい・・・!私にも良くわかっていなくて・・・」
「いいや、構わない」
私はメルルにそう答えながらも頭を回転させる。
前と同じ様にはいかないというわけか…
すんなり終わると思っていた状況が違っている事を認識し思わず眉を顰めてしまう。
今回はノアだったからなんとかなった。
だが他の仲間達だったのならこんなにスムーズにいくとは思えない。
みんなを信用し信頼しているが、一筋縄ではいかない内面をしているのはお互いによく知っている。
だが、ゆっくり考えている暇はない。
早くエマを迎えにいかなくてはならない。
私はそんな考えを振り払う様に拾った鍵を前に出し、回す。
カチリ
そんな音と共にドアが現れる。
「いこうメルル」
「はい、ヒロさん…!」
私たちは扉を速足にくぐる。
時間は有限だ。できるだけ急ごう。