なんか違う尊厳裁判   作:haguruma03

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承②『自白』

『なんだ。寝てなかったのか』

「なんか昨日寝付けなくってな…まさかウチが寝てない間にそんな事が…」

 

皆が自らの痴態を避けるため鋭い目で当たりを見渡し、妙な静けさが裁判所を支配している。

聞こえるのはアリサに前回の裁判について説明している2人の声のみ。

 

刻々と時間が過ぎていく。

そんな中、ナノカが手を上げた。

 

「みんな一旦落ち着いてくれないかしら。確かに今回の裁判で…お、おねしょしたくないのはわかるわ。でもこの裁判は一手間違えると負ける可能性がでてくるの。折角勝ちが約束されているこの状況を逃すのは、あまりに正しくない選択よ」

 

冷静沈着なナノカのセリフ。

その姿は今日の朝に見た、目を白黒させて慌てふためくナノカとは大違いだ。

 

「なに?」

 

じっとりとした視線がナノカから突きつけられる。

口に出していなかったのに何故気がついた…?

まぁ気がつかれたからには答えるとしよう

 

「いや、今朝の君の姿とは大違いだと…」

 

「ナ、ナノカちゃん!ほぼ勝ちが約束されているってどういうことなのかな!?」

 

私の言葉はミリアの大声によって遮られてしまう。

…まぁいいか

 

同じことを考えたのかナノカも不服そうな表情をしながらミリアの方を向いた。

 

「考えてみたらわかるわ。前回の宝生マーゴが教えてくれたルールを前提にいくと。皆が協力してくれると魔女に必ず勝てるの」

 

「えーと...ちょっと待ってね頭の中整理するから」

 

「どういうこと?」

 

ナノカに言葉に対して、ミリアは考え始めノアが疑問の声をあげた。

ナノカはちらりとノアを見ると話を続ける。

 

「まず、この裁判に勝つためには『魔女』を吊る必要がある。けれど『魔女』は毎回誰かに成り代わられてしまう。そのため『魔女』を吊るためには、『魔女』の成り代わり先を絞る必要がある。ここまではいいわね」

 

「うんうん」

 

「そこで重要になってくるのが

ルール(8)前回の裁判で『魔女』と同じ投票先に投票した相手には『魔女』は成り代われない。ただしその投票先への投票数が5票を超えているのならその限りではない。

 

ルール(9)成り変わった事がある人物に再び成り変わる事はできない。ただし成り代わり先がない場合、成り代わることは可能である。

 

ルール(13) 『魔女』は『2票以上自身に投票があった事がある参加者』に成り代わることができない

この三つ。」

 

「この三つを頭に入れて今の状況を考えてみると。今処刑されているのは2人、されていないのは10人。計12人の参加者がここにいる」

 

「私もいますよ」

 

ナノカの話に進行役が余計な茶々を入れてくるがナノカは無視して話を続ける。

 

「そして、昨日城ヶ崎ノアと『魔女』が私を処刑したことにより、城ヶ崎ノアは今回投票券を無くし、その結果今回の裁判で有効な投票は9票。そこからルール(13)がある以上、2票以上の投票があった人を増やす必要がある事を考えると…」

 

「3票が1人、2票が3人。0票が6人かな?」

 

ナノカの話にノアが答える。

 

2人のいう通りだ。

『魔女』による投票先が不明な投票が怖いが、前回ナノカを処刑していることから『魔女』も私たちと同じく今回の裁判では1票しか存在しない。

 

そのため今回の裁判では有効な投票が9つあり、その9つの投票先も選ぶ事が可能、それに加えて2票の人間を増やしたいのなら、4人が自身に投票し、その4人に残りの5票を振り分ける事が一番正しい選択だ。

 

これにより、今後『魔女』に成り代わられない人が3人発生する。すると次の裁判では今回の裁判で2票投票されたことにより成り代わられない3人。成り代わられていた事のあるノアとアリサと今回の成り代わられた者の3人。合計5〜6人が『魔女』ではならなくなる。

この数は今後の裁判で『魔女』に対してかなりのアドバンテージを持てる。

 

「なるほど、ということは次の裁判があった時に9人中6人が『魔女』じゃないから、残りの3人から選べばいいんだね!」

 

エマが納得いった声を出す…が

 

「エマそれは少し正しくない」

 

「うぇ?」

 

エマは首を傾げる。

その表情に愛らしさを感じながら、私は説明を口にする。

 

「今回の裁判で『魔女』に成り代わられていた者が2票投票されているのなら、ルール(13) とルール(9)が重複し、成り代わられない者が6人ではなく5人になる可能性がある」

 

「えーと。つまり次の裁判までは『魔女』の可能性がある子が3人か4人かわからないってこと?」

 

「そうなるな」

 

「なるほど…あれ?それだとこの先どうなるかわからないって事だよね?ならなんでナノカちゃんは『勝ちが約束されている』って言ったの?」

 

エマがそういいナノカを見つめる。

するとナノカは

 

「それは6人だろうが5人だろうが、『魔女』以外全員の投票先を明確に指定できるのならば行き着く先は同じ。裁判が進めば進むほど『魔女』の成り代わり先は確実に消えていき、最終的に『魔女』に成り代わられるものは絞られてしまうからよ」

 

「…ん?それじゃあそもそもこの『魔女』から仕掛けてきた勝負。『魔女』が圧倒的に不利じゃないですの?」

 

ナノカの答えにハンナが疑問の声を上げるが、その返答をする前にシェリーが口を開いた

 

「それはハンナさん!私たちみんなが皆の事を好きだからですよ!」

 

満面の笑みで放たれたシェリーの言葉。その言葉に一瞬ポカンとした後ハンナは頬を赤らめた。

 

「な、何突然いってるんですの!?」

 

「え〜?間違ってました?」

 

「いや、シェリーくんの言葉の通りだね」

 

「レイアさんまで突然何を!」

 

「だって全員の投票先を決めるなんて全員との信頼関係がないと無理じゃないですか」

 

「処刑された場合死なないとはいえ乙女の尊厳が死んでしまう。それでもなお互いが互いの投票先を信じて話し合い投票し合う。よほど仲良くないとおいそれとできるものではない。そう、苦楽を共にした私たち以外ならね」

 

「ですよね!レイアさん!つまり私たちが仲良しだからこそできる攻略法です!」

 

「わ、わかったのですけど….なんというか…」

 

「え?何恥ずかしがってるんです?」

 

「恥ずかしがらなくてもいいんだよハンナ君」

 

「だ、誰が恥ずかしがってますの!」

 

3人の和気藹々とした友愛を深め合う心温まる会話が続いていた…が

 

「ということだ。つまり今から今日誰を処刑するのか決める必要がある」

 

「つまり誰が、みんなの横でおねしょするかって事…だよね?」

 

「….」

 

私とミリアの言葉でその朗らかな空気は一瞬で霧散する。

静寂が再び裁判所を覆う

 

そう、今日誰か1人は乙女の尊厳を殺されなければならないのだ。

 

皆口を開きづらいだろう。その理由は容易に想像できる。

自分が今回犠牲になると言おうとしても、乙女心と羞恥心がが口を開くのを重くするだろ

誰かを処刑するべきだと言おうにも、その理由が明確でないのなら、反感を買い自分を追い詰める事となる。

不用意なことはしゃべれないが、あまりに喋らないと怪しまれ吊るされる事となる。

 

死ぬことはないとはいえ、不用意な行動はできない…

 

皆が言葉を悩ませていると、ふと1人がパネルを掲げた

 

『わがはいは、『魔女』の可能性があると怪しんでいる人物が3人いる。特にその1人は怪しい。そいつらを処刑するべきだと進言する』

 

言葉は発せられてないが、明確な意思を感じる強い筆的。

そしてその表情は自信に満ち溢れており、まるで事件の真相を知った名探偵のようでもある。

 

「それは…誰だ?」

 

何か確信を持っているだろう彼女に私が促すと、彼女はテキパキと手元のパネルに文字を書き、そこには3人の名前が書かれていた

 

『レイア、シェリー、ハンナ。特にレイアをわがはいは怪しんでいる』

 

「ほ〜」

 

「な、なんでですの!?」

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

名前を告げられた3人が思い思いの言葉をあげる。特に怪しいと言われたレイアは目を見開き驚いている。

 

『いい慌てっぷりだなレイア』

 

「それは慌てるさ。どうして私たち。それも特に私が怪しいか教えてもらってもいいかい?」

 

レイアが促すと、彼女は意気揚々とパネルに文字を書き始める。そのスピードからして、筆が乗った小説家のようでもある。

 

『まず、聞くのだが、3人とも各自何処で寝た?その時の状況は?』

 

レイアの質問に対して質問で返される。

それに眉を顰めながらも3人とも返答する。

 

「私達はさっき言ったようにオムツ取りに行ったあと、帰ってきたら皆さんが木陰で寝ていたのでハンナさんと一緒にその横で寝ましたね」

 

「ですの」

 

「私は食堂で紅茶の準備をしていてね。最後の記憶はカップを蒸らしている時だから、どうやら天気が気持ちよくて食堂の椅子でうたた寝をしてしまっているのだろう」

 

「紅茶?レイアっちなんでそんな洒落たのしてんの?」

 

ココが首を傾げながら質問するが、その答えはレイアではなくマーゴが手を上げる。

 

「私がお願いしたのよ。喉が乾いて、何か飲み物をお願いできないかしらって」

 

「ほぇー」

 

「まさか、利尿作用があるものを持ってくるなんて...そんなにまた私たちの」

 

「待ってくれ!私にそんな意図は...」

 

『話を進めていいか?』

 

カンッとパネルが台に軽く叩きつけられ

プックリと頬をむくらませる彼女の姿にマーゴはふふッと笑い、どうぞと促した。

 

その姿にむくれながらも、新たな文字がパネルに描かれる。

 

『やはり、そうなると怪しいのはやはりお前たち3人だ』

 

「な、何でそうなるんですの!」

 

ハンナが怒り声を上げる。

だがそんな声に意を返さず自身げに彼女は新たなパネルを掲げる。

 

『まず、ノアとアリサ。2人が『魔女』になり変わられたものである事には間違いないな?』

 

「そうですね」

 

シェリーが頷く。すると彼女はニヤリと笑った。

 

『その2人には共通点がある』

 

「共通点?」

 

「それは...」

 

意気揚々とパネルではなく、言葉で答えを語ろうとした時。

 

私も気がついた。

 

 

「そうか、寝ていないのか」

 

こぼれ落ちた私の言葉。

その言葉で、周りの皆もハッとした様な表情をする。

 

言おうとしていた言葉を取られたせいか、『セリフを盗るな!』というパネルを向けられるが、一旦それを無視して私はアリサに視線を向けた。

 

突然の事にアリサはビクリ肩を震わせるが、こほんと咳払いして語り始める。

 

「ああ、ウチは昨日の夜なんか寝付けなくて寝てねぇ」

 

アリサの言葉に連動するようにノアも声をあげた。

 

「のあも一昨日はなんか寝れなかったなって」

 

そうなのだ。2人とも寝ていない日に起きた裁判では『魔女』に成り代わられていた。

 

つまり

「『魔女』に成り代わられていたものは眠れない...という事か?進行役」

 

私の質問に進行役はこくりと頷いた。

 

「そうですね。裁判が起こっている時に成り代わられたものは、眠れなくなります」

 

「また後出しルールか...裁判に関して他に言っていないルールはないのか?」

 

「裁判のルールに関しては何もありませんよ?」

 

「含みのある言い方だな...本当か?」

 

「私は嘘はつきませんよ。それよりいいんですか?無駄話して。時間制限がいつ来るかわかりませんよ」

 

「クッ...進行役、君との話はまた今度だ」

 

「楽しみにしてますよ」

 

クスクスと微笑む進行役との話を打ち切り、私はレイア、シェリー、ハンナの3人を見つめる。

 

3人も理解したのか、顔を顰め...シェリー以外は顔を顰める

 

「確かに、他の皆が眠っているのを確認されている以上、睡眠を確認されてない人間が怪しいのは道理だね」

 

レイアはそう言うと、苦々しげな表情と共に言葉を続ける。

 

「そうなると、睡眠が確認されていないのは5人だけど、マーゴくんとナノカくんは成り代わられない。つまり...」

 

「わたくしとレイアさんだけですわ」

 

レイアの言葉を遮るかの様にハンナが声を発した。

 

他者の話を遮るかの様な声。普段のハンナらしくない言葉に目をぱちぱちと瞬かせながら、シェリーはハンナに声をかける。

 

「待ってくださいハンナさん!私も一緒に寝ましたよ?だから候補は私も」

 

するとハンナはハァとため息をつき返答する。

 

「あなたはわたくしを抱き枕にしてすぐ寝落ちしたじゃありませんか」

 

「寝たふりかもしれませんよ?」

 

「『ハンナさん抱き心地いいですねぇ〜』なんて喋りながら、うつろうつろして突然コテンと寝息立てはじめたのを寝たふりと言われたら何も信じられませんわ」

 

「うっ...」

 

「だから庇わなくても、いいのですよシェリーさん。『魔女』に勝つためにはちゃんと怪しい人物を絞らないといけませんわ」

 

「ハンナさん...」

 

「ここで『魔女』を吊れれば勝ち、吊れなくて、わたくしがたとえ処刑されても。死にはしな...しな...な...おね...しょ...うぐぅ…」

 

「ハンナさん!」

 

「ハンナちゃん!」

 

呻き声と共にうずくまるハンナ。

それに駆け寄るシェリーとエマ。

 

羞恥心の限界だったのだろう。

ハンナの顔はリンゴの様に真っ赤であった。

自らが不利になってもなお、『魔女』を倒す為に証言する。

正しき事を貫くその真摯さが彼女の美徳だ。

その姿に私は尊敬の念をもつ。

ただ処刑された場合、皆の横で粗相することを想像し、最後まで言葉を紡ぐできなかったのだろう。

 

それはしょうがない。どうしようもない。

なぜなら私達は乙女心という、尊厳を持つのだから。

 

そんなハンナ達3人を見ながら気まずそうに一枚のパネルが掲げられた。

 

『という事は、怪しい人物は2人に絞られるわけなのだが』

 

「それなら今日は私が処刑されよう!」

 

「え?」

 

突然高らかに響き渡る声。

その声が良く通り、はっきりと耳に入る。

まるで劇場で主役が発する様な自らがこの舞台の主人なのだと主張する力強く透き通った声。

 

こんな声誰なのかは考えるまでもない。

 

「レイア。君は...」

 

「先に言っておくが、私が吊られるのが一応1番心の傷が少ない方法なんだと思うよ」

 

「1番心の傷が少ないって、結局粗相する事には変わりないだろう」

 

「いーや。他の皆はおねしょした場合すぐ隣に人がいるが、私は1人食堂でうたた寝している。1人であるが故に起きた時に証拠を隠滅しやすいし、それに屋敷にはマーゴくんやナノカくんがいる。私のお、おねしょを隠し通せる可能性は高いはずさ」

 

私の問いに対して、そう語るレイアの姿はまるで宝塚のスターの様に芝居掛かったカッコ良さがある。

顔は赤いが。

 

確かに、今回の裁判で最もリスクが少ないのはレイアだ。

他の皆の場合、粗相した場合の発見されるリスクは限りなく高いが、1人孤立しているレイアなら何とかなる可能性はある。

だが...

 

「待ってくださいまし!確かに見つかる可能性は少ないですけど、結局お...おねしょをする事には変わりませんわ!」

 

ハンナが証言台をバシンと叩き、レイアに証言を突きつける。

そんなハンナにレイアはやれやれと首を振った。

 

「そのおねしょをした時の心の傷つき具合は私の方が格段に低いはずだよ」

 

「それはおねしょが見つからなかった場合ですの!もし見つかればわたくしと同じ心の傷を負いますわ!」

 

「私がおねしょした場合、外にいる君たちに見つかる可能性は低いはずさ。それにマーゴくんやナノカくんも隠すのに手伝ってくれる」

 

「可能性が低いで何とかなるなら、ナノカさんはおねしょは見つかってませんわ!同室のマーゴさんが手伝っていながらあの子は見つかってますわ!」

 

「ちょ、ちょっと遠野ハンナ待ちなさい...!」

 

「ナノカくんはタイミングが悪かっただけさ!ちゃんと冷静に証拠を消すことができれば...!」

 

「おねしょして冷静になれる乙女なんて存在しませんの!思い出してみなさい!朝のナノカさんを!」

 

「う...」

 

「思い出さないで!!!!」

 

「それに冷静になって証拠を消そうとしても、何かしらのイレギュラーが起こる事はマーゴさんが証明してますわ!!」

 

「確かに...」

 

「...流石に少し恥ずかしいわね」

 

「だ、だからわたくしが、おねしょを...」

 

「それは違うよ!確かに私が吊られた場合のリスクは思ったよりも高いが、だからと言って君よりも高いわけではないっ!私がおねしょするべきだ!」

 

「だとしてもこんな羞恥を仲間に押し付けるべきではないですわ!」

 

「その羞恥の度合いが君たちは高すぎるって言ってるじゃないか!」

 

「ーーっ!!このわからずや!」

 

「そっちこそ!」

 

売り言葉に買い言葉。

2人の少女がお互いのために想いをぶつけ合う。

本来なら互いが互いに向けた友愛に涙が溢れるのかもしれない...が

彼女達がお互い行おうとしている事を考えると

 

「お嬢とレイアっちのあれ揶揄ったらいけないのはわかるんだけどさ...」

 

ぽけっとしながら2人を見つめていたココがボヤく。

そんな彼女にエマは何かを察したかの様に口を開いた。

 

「ココちゃん...何となく言いたい事はわかるんだけどやめとこう?」

 

「いや、エマっち。わかるよ。わかるんだけどさ...」

 

「分かるならやめとこうよココちゃん」

 

「でも、配信者としてツッコミを...」

 

「その考えがあるから配信登録者数が伸びないんじゃないかな?」

 

「流石に酷くね!?別におねしょの権利を取り合ってる様に見えてギャグっぽく思えるって考えただけじゃん!」

 

「それ言っちゃダメだよ!」

 

またもや議論が混沌となる。

思い出したくもない過去の魔女裁判も議論は加熱していたが、こんな混沌とした何処か緩い感じはなかったはずだ。

 

こんな議論は正しくない。

そもそもこれは議論なのか??

私の頭も場の緩さに侵されているかもと疑念が出るが、これ以上無駄に時間を費やすわけにはいかない。

この混沌を終わらさなければ

 

ゆえに私が場を閉めようと声を上げようとした時、私よりも先に声を張り上げる者がいた。

 

金髪をたなびかせ、羞恥で顔を真っ赤にしながら声を震わせ彼女は手を挙げる。

 

「お、おじさんが...おじさんが!吊られるべきだと思う!」

 

本日何度目かも忘れた大声が裁判所に響く。

手を挙げ、声を張り上げたのは佐伯ミリア。

 

「は?」

 

「へ?」

 

皆突然のことに呆けてしまうが、いち早く気を取り戻した者が真っ先にパネルを掲げた。

 

『何を言っているんだミリア!ミリアは吊られるべき必要なんてないはず!』

 

そんなパネルを見てミリアは首を振る。

 

「いや、ハンナちゃんよりも、レイアちゃんよりもおじさんが一番吊られるべきだよ」

 

「な、何でそうなりますの!」

 

「そうだ!何でそうなるんだい!?」

 

頑ななミリアにハンナが、レイアが叫ぶ。

しかしミリアはハンナ達の方向を向かず俯き、意を決したかの様に口を開いた。

 

「初めての方にお試しパック」

 

 

 

 

..........ん?

 

 

 

よくわからない文章が耳に入る。

会話の流れをぶっちぎる様な言葉。

 

一瞬話を聞き逃したのかと考えるがそんなわけがない。

 

混乱する頭に追撃するかの様にミリアの言葉は続く。

 

 

「超うすパンツ、まるで下着」

 

「み、ミリアくん???」

 

「綿下着のような、はき心地」

 

「ミリアのおっさん。落ち着こう。あてぃし達が悪かったって...!」

 

「おなかゆったり、はきごこち、らくらく」

 

「落ち着こうミリア。君は混乱している」

 

「うす型楽々やわ楽パンツ...!!」

 

『ミ、ミリアが狂った...』

 

普段ミリアが言わない様な言葉の羅列に私を含め、混乱...いや恐怖感が心から湧き上がる。

知っている人物が突如豹変するとココまで恐ろしいのか。

恐怖感に釣られ思わず半歩下がってしまう。

だがその時

 

「え?何で知っているんですか?」

 

シェリーが首を傾げながらミリアに尋ねた。

 

何を言っている?

私は突然のシェリーの言葉に疑問を抱き...そして気がついた。

 

そうか、そういう事か

私が理解し納得している時、ミリア達は答え合わせをし始める。

 

「合ってるよね?シェリーちゃん。ハンナちゃん」

 

顔を赤くしながらも確信を持ったミリアの問いかけに2人は頷いた。

 

「あ、合ってますわ...確かそんな言葉が書いてありましたわ」

 

「そうですね。そんな文言でした」

 

「だよね。2人が持ってきた物にそう書かれていたはずだよね」

 

ミリアもまた頷く。

そう、ミリアが語ったのは寝ていたら知るはずのない情報。

つまり。

 

「そうか。おっさんが今突然喋ったトンチンカンな文章は、遠野達が持ってきたオムツの袋に書かれていた文言か!」

 

そんなアリサの回答にミリアはまた頷いた。

 

「そう。アリサちゃんのいう通り。私が寝ていたら知り得ない情報。そして私が寝る前に得た最後の情報だね」

 

そんなミリアの言葉にハンナとシェリーは問いかける。

 

「寝る前って...ミリアさん私たちが眠る時寝てましたよね?」

 

「もしかして起きてました?」

 

「いや、寝てたと思うよ。ただ一度おじさん、頭ぶつけて目が覚めたんだ。そして周りを見渡したら4人眠っている子が増えていて、そこでシェリーちゃんとハンナちゃん。そして2人が持ってるオムツを見たんだ。ごめんね皆。おじさん早くこのこと言わなきゃって思ってたけど、ちょっと決心つかなくて、ハンナちゃんに迷惑かけちゃった」

 

「そ、そんなことないですわミリアさん!」

 

ミリアの謝罪にハンナは首を振って答える。

 

これにて謎が解けた。

先ほどのミリアの文章達は、自身が本当なら知り得ないことを知っているのを証明する為の物だっのだ。

 

だが、それにしてもだ。

ハンナと会話を続けるミリアに私は頭の中に沸いた疑問をぶつけることにした。

 

「ミリア、そんな回りくどい事しなくても、自身が後から起きた事をそのまま私達に伝えればそれで良かったのではないか?」

 

私の問いにミリアは首を横に振る。

 

「それだと、おじさんがみんなの身代わりになるために嘘をついているって皆に勘違いさせるかもしれないから。...ほらおじさん自身が言うのもアレだけど他の世界でのおじさんが…嘘ついて…ね?」

 

「うぐぅ...」

 

「うわぁ!ヒッキーが崩れ落ちた!」

 

「わ、わぁ!違うよ!あの時の事をあの世界の事を掘り起こそうってわけじゃないんだよ!」

 

崩れ落ちる音と共に落とされたパネルが地面を跳ね、ココが驚きミリアが慌てて始める。。

 

哀れな…

思わず憐憫の思いが湧き上がる。

 

自分ではない自分のやった事の話題が不意に出てきてぶつけられてはこうもなるだろう。

 

私も思い出したくはないが、他の世界線で自身がやってしまった事を不意に掘り起こされてしまって誰だってこうなる。ここにいる12人全員がそうだろう。

おかげで互いに意図しない地雷を踏んでしまう事がある。たまったものではない。

 

自身も経験があるゆえに哀れみの視線を向けていると、沈黙していたレイアが再び口を開いた。

 

「待ってくれ。確かにハンナくんよりも後にミリアくんが寝たのだろう。だがそうだとしても、今回吊られるべきなのは私ではないだろうか?」

 

自己犠牲を止めようとしないレイア。

そんなレイアにミリアは首を振った

 

「それは違うよレイアちゃん」

 

「何が違うんだい?」

 

「だってレイアちゃんの証拠隠滅無理だと思う」

 

「ん?どうしてだい?」

 

「だって、この裁判が終わって起きた時に洗濯場所にいるのおじさん達だから、濡れた服を洗濯しようとしたらおじさん達と会うことになるよ」

 

「う、ぐ...それは皆が寝静まった後に、洗濯しにいけば」

 

「それまでの間、濡れちゃった服どうするの?」

 

「部屋で保管するさ」

 

「…できるのレイアちゃん?」

 

「…できるさ」

 

「…濡れた服を?」

 

「ああ」

 

「…」

 

「…」

 

「…もう一度聞くよ。おねしょした後の服…夜まで保管できる?スターであるレイアちゃんには…できる?」

 

「…う、あ」

 

「…」

 

「…っ!!だがっ!みんながおねしょするよりも…私が、私が…」

 

「…レイアちゃん」

 

「…私が1人おねしょするのがみんなよりも傷が少なくて….!!」

 

「いいんだよ…もういいんだよレイアちゃんっ!!おねしょの時点で誰も心に傷を負うんだよ!あのマーゴちゃんだって引きこもったんだよ!」

 

「だ、だがっ!」

 

「1人で抱え込まないでよ…レイアちゃん!」

 

「ミリアくん…….ありがとう…でも、いや、だからこそ君には処刑されてほしくないんだ」

 

「レイアちゃん…」

 

「........ミリアちゃんのあの言葉、褒め言葉だと思う?ナノカちゃん」

 

「…褒め言葉だと思っていた方が心が休まると思うわ宝生マーゴ」

 

 

レイアが胸の内を吐き出し崩れ落ち、その傍らにミリアが寄り添う。

 

流石のレイアも、濡れてしまった服を夜まで保管するという、自らの心を構成する何かを自らいたぶる方法をとる事ができないようだった。

 

互いが互いのことを思い寄り添うその姿。

本来なら互いが互いに向けた友愛に涙が溢れるのかもしれない...が

…さっきも同じことを考えた気がする。

 

「これさっきも…」

 

「今度は言っちゃダメだよココちゃん」

 

「流石にわーかってるって」

 

 

エマとココの戯言を耳に入るが、そんなことよりも、これからどうするか…

最初は誰も今回の裁判で処刑されたくないと思ったのだろう。

だがいざ蓋を開けてみると、仲間の誰かがやるぐらいなら自分が犠牲になると言い始め

最終的に、おねしょという尊厳破壊に耐えきれず、心が折れ、仲間に止められる。

 

確かに先ほどパネルで書かれたように、誰も寝ているところを観測されていないレイアとミリアが怪しいのはその通りだ。

だが互いに自らが処刑されようとしている姿をみていると、本当にこの中に『魔女』がいるのか怪しくなってくる。

 

現に一番初めに怪しみ始めた彼女は、パネルを抱えて頭を捻っている。

 

だが、ここでその他の人物を処刑するのは正しくない選択だ。

何事もなければ最終的に『魔女』に勝つ事ができるとはいえ、出来るだけ被害は減らさなければならない。

そのために、今日1人処刑しなければならない。

どうせ誰かを処刑しなければならないのなら、怪しい人物を1人処刑するのが正しいやり方だ。

だがその1人を一体どうやって決めればいい?

おそらくミリアもレイアも自らが処刑されるべきだと譲りそうにないだろう。

制限時間はもうそろそろ切れる可能性がある。

今回決めるべきは、処刑先だけではない。

誰に2票投票するのか、誰がどこに投票するのか、いろいろなことを話し合い決める必要がある。

ゆえに速急に決める必要があるのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう2人でじゃんけんで決めません?」

 

 

 

 

 

シェリーの声がポツリと裁判所に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃーん」

「けーん」

「ぽん!!」

「ポン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!!」

「きゃあ!」

 

さまざまな悲鳴と共に、体全身に何かが叩きつけられる。

眠気が一気に吹き飛び私は目を開けた。

 

そこには曇天の曇り空が広がっており、バケツをひっくり返したかのような雨が空から降ってきている。

体に叩きつけられているのは雨。

通り雨、ゲリラ豪雨。それらの名前で呼ばれる自然現象が、昼寝をしていた私たち全員を襲っていた。

木漏れ日にいる私たちはある程度はましとはいえ、雨風によって一瞬でずぶ濡れになってしまっている。

 

「最っ悪!!もうびしょびしょじゃん!!」

 

「うわぁー」

 

「あれ?アンアンちゃんは???」

 

「外袋のおかげでおむつは無事ですよ!ハンナさん!!」

 

「それどころじゃねぇんですの!!あぁあーせっかくの洗濯物がぁー!!」

 

阿鼻叫喚の地獄絵図。

だがココまで濡れてしまってはもうどうしようもない。

私は、はぁとため息をつき、濡れてしまっている洗濯物をかき集め始める。

 

「手伝うぞ」

 

横から同じくびしょ濡れなアリサが現れ、洗濯物の改修を手伝い始めた。

やはりアリサは気が効く。

 

「ああ、助かる」

 

私が礼を言うと、アリサは照れ臭そうに「気にすんな」という。

 

「それにしても、『今だけ』が大変な事になったな」

 

洗濯物を回収し終え、皆に続いて屋敷に戻ろうとした時、アリサは思い出したかのようにそう呟いた。

私は思わず苦笑をする。

 

「まさかこんな事になるとは思ってもみなかった。」

 

「こんな事も時には….って何やってんだ?」

 

アリサが私の背後を見てポカンと口を開ける。

彼女の視線を追い後ろをみるとそこには、1人の少女がいた。

 

両手を横に広げ、体一身に雨を受けている。

まるで映画『ショーシャンクの空に』のポスターのように、一身に雨を受けている。

 

そんな奇行を普段しない人間が、目の前でやっている。

違和感よりも心配。

好奇心よりも恐怖心が沸くが思わず私も声をかけてしまった。

 

 

 

 

 

「なにやっているんだ?ミリア?」

 

「……めぐみのあめだな〜っておもって」

 

「……」

 

「……」

 

「……風呂に入りに行こう」

 

「…………うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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