なんか違う尊厳裁判   作:haguruma03

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承③『湯上がりのひと時』

 

朝の快晴が嘘の様な天気となり、バラバラと激しめな雨音が耳に入る。

薄暗い食堂にて私はそんな音を楽しみながら、椅子に腰掛けた。

 

人の気配がない食堂。

そんな雨音のみが聞こえる静かな空間を私1人が堪能している。

他の何人かはまだシャワールームにて和気藹々とシャワーを浴びているだろう。

 

「ふぅ...」

 

ナノカと共に一足早くあの場を離れた私はゆっくりと体の力を抜き背もたれに、もたれ掛かり一息ついた。

 

シャワーを長く浴びたせいか少し体の怠さを感じる。

それとも、過去と記憶の乖離のせいだろうか?

 

私が経験したあの頃の牢屋敷と違い、今のこの牢屋敷は空気が張り詰めていなく、穏やかな空気が流れている。

 

...思えば最近私はどこかおかしい気がする。

午前中アリサが語った通り、記憶がある事を忘れていたり、いつもと違う行動を起こしている気もする。

 

疲れているのだろうか?

腕をアイマスクがわりに目元に当て天を見上げる。

自ら塞いであるが故に暗闇しか前に広がっていないが、その暗闇も怖くはない。

あの頃とは違う......あの頃とは?

 

 

 

「お疲れ様だね」

 

突然背後から声が聞こえると共に、コトリと何かを置く音が聞こえた。

腕をどかし、横を見るとそこには1人の美少女がいた。

 

ドライヤーで乾かしたばかりの金髪はサラサラと絹糸の様にゆらめき、ゆったりとした寝巻きに身を包んでいる。

湯上がりで火照った肌は持ち前の体のプロポーションを沢立たせ、女の私ですら上品な色気を感じさせる。

 

彼女のトラウマを刺激したくない故に指摘はしないが、注目を集めてしまうのもしょうがないと思ってしまう。

 

そんな考え事を表情に出さない様に彼女に視線を向けて、私は口を開いた。

 

「ミリアか...他の皆は?」

 

「まだ、ゆっくりするって。おじさんはのぼせちゃったから先に上がって来ちゃった。あれ?ナノカちゃんは?」

 

「野暮用との事で途中で別れたよ」

 

「そっか。」

 

「ミリアは何故食堂に?」

 

「それは...とりあえず先にお水でもどう?」

 

そう彼女はいうと、水の入ったコップをテーブルに置いた。

そしてそんなコップを置いた張本人は。ヨイショっとという掛け声と共に隣の椅子に腰掛る。

 

「すまない。ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

ミリアはそう返事をすると彼女も自分のコップから水をコクリと飲んだ。

 

ゴクリと水を飲み込む音が聞こえそうなほど、雨音しか聞こえない2人だけの空間。

一口二口と水を飲み終えるとミリアは喋らず、静寂を楽しむかの様にゆっくりと背もたれにもたれ掛かった。

 

彼女も私と同じ様に少し体が疲れているのかもしれない。

 

ゆっくりと2人だけの時間が進む。

 

聞こえるのは窓越しに聞こえる雨音と雨よけのヘリから落ちているであろう水滴の音のみ。

 

ポツリポツリと一定の間隔で水滴は落ちていく。

まるで秒針の様に水滴の音は刻まれていく。

同じテンポで落ちる水滴、その音の等間隔は変わらないはずなのに、この穏やかで静かな空間のせいか、ゆっくりとそのテンポが間延びしていっている感じがしてくる。

 

ポツリポツリ

 

まるでそれは子守唄の様に聞こえる

 

ポツリ...ポツリ...

 

火照った体がその音に誘われる

 

ポツリ......ポツリ...

 

音に誘われ、ゆっくりと意識が...

 

「だ、だめだよ!ここで寝たら夜眠れなくなっちゃうよ!」

 

「---っ!?」

 

ポンと肩に手が置かれ、目が冴える。

 

体を椅子から起き上がらせ目頭を掴む。

寝ぼけた頭を振り、眠気を飛ばす。

こんな時間に何度も昼寝をするのは正しくない事だ。体に悪い。

 

 

這い寄って来ていた眠気を除去し、私は起こしてくれたミリアに礼を言おうと彼女をみると、そこには不自然なほど慌てているミリアがいた。

まるで雪山で眠ろうとしている仲間を揺り起こすかの様な必死さであった。

その必死さに目を剥き疑問に思いながらも私はまず礼を口にすることにした。

 

「すまないミリア。また眠ってしまうところだった」

 

「い、いやいいよ大丈夫。こっちこそ突然大声出してごめんね?」

 

「いや、構わない。構わないのだが...」

 

「え、えっとどうしたのかな?」

 

「ミリア、どうして君はそんなに慌てているんだ?」

 

そう尋ねると彼女の顔はピシリと固まり、すぐさま何かを考え込み始めた

 

「え、えっと...詳しく言い過ぎちゃうとナノカちゃんみたいになるし...」

 

「ナノカ?彼女に何かあったのか?」

 

「いや!別に何にもないよ!」

 

「さっきトイレに駆け込んで行ったのもそれが...?」

 

「野暮用ってトイレだったの!?」

 

「詳しく話しすぎたと君は今言ったな...?」

 

「なんでここで裁判の時みたいに追及するのかな!?」

 

「ナノカはトイレに駆け込む前、私に話があると言った...しかし語り始めた瞬間、彼女は呻いた後トイレへ駆け込んだ...」

 

「ナノカちゃん...」

 

「トイレの扉越しに話を聞こうとしたら『これを秘密にしていたのね宝生マーゴっ!!!!』と呻いていた」

 

「...マーゴちゃん」

 

「そこから考えられることは...」

 

「ちょちょちょっと待とうよ!ナノカちゃんもあんまりおねしょの事、掘り返して欲しくないとおじさん思うな!」

 

「ん...確かに、そうだな」

 

「そう!ただお腹痛くなっただけだと思うから大丈夫だよ!朝からお腹が緩いって言ってたから!」

 

「やはりオムツか...」

 

「そうだね!でも、オムツに関してはあんまり触れないであげるといいとおじさん思うな!おじさんもオムツについては現実逃避してるから!」

 

さっきの静寂が嘘の様に慌てるミリア。

だが確かにミリアのいう通りかもしれない。

たとえ今朝の粗相のせいでお腹が緩くなっていたとしても、それを正面から言われてしまっては、言い方によってはナノカの尊厳を傷つけてしまう可能性がある。

そっとしておいてあげよう。

そして後でそっとオムツを部屋に置いておこう。

 

それならば、ナノカも安心できるだろう。

 

なら先に心配するのは目の前の彼女だ。

 

「ならミリアは大丈夫か?」

 

「...え゛っ?」

 

乙女の素養を捨て去った様な汚い濁音が部屋に響く。

私の言葉にミリアの表情が固まる。

一瞬の空白が生じるが、私は気にせず話を進める事にした。

 

「ナノカが今朝の粗相が原因でそうなっているのなら、ミリアもナノカの様になってないかと」

 

「な、ななな、何でそこでおじさんが出てくるのかな〜て...」

 

「...言いづらいが先程の昼寝。雨に濡れてはいたが君の服は......」

 

「ひぎゅっ!?」

 

「ミリア!?」

 

小動物の様な鳴き声を発すると、バタンと音を立てて頭からミリアは机に突っ伏す。

慌てて心配すると、机に頭を擦り付け云々うめき始める。

 

「そんな...どうして...」

 

「そこまで落ち込まなくでも大丈夫だミリア。私達はそれを揶揄するほど正しくない人間ではない」

 

「それはわかってるけど、おじさんの心が...せっかく服は雨で濡れたのに...何でわかったの?」

 

「...濡れ具合からまさかとは思ったが、確信はその時点では持てなかった」

 

「...その時点では?」

 

「...アンアンが起きた時いなかったのを覚えているか?」

 

「そういえばいなかったね」

 

「その事を先程聞いたら不自然に慌てていてな」

 

「うん」

 

「つい追求した所、どうも昼寝の途中頭をぶつけてから途中で目が覚めて、私たちが眠っている間ずっと起きていたらしい」

 

「へぇー、ずっと起きていたんだ...ずっと?」

 

「ああ」

 

「...おじさん達が寝ている間?」

 

「ああ、ずっとだ。」

 

「...」

 

「どんなイタズラをしようか考えていたらしい」

 

「...」

 

「だが、不測の事態が起きたのを見たらしく。その証拠を隠滅するべく桶に大量の水を...」

 

「...みた?」

 

「....ああ」

 

「リアルタイムで?」

 

「...だろうな」

 

「.........うぅぅあううううぅぅううう!!!」

 

「ミリア!?」

 

耐えきれなくなったのか心の底から絞り出す様な呻き声と共にミリアの体が捩れ、ついには椅子から崩れ落ち、そして顔を手で覆い芋虫の様にイモイモと悶え始めた。

 

「うぁうぁうああぁううう!!!」

 

呻き声の音量は上がり、端なく地面を転がり始める。

手の端から見えるその肌は、先程の色気を醸し出していた火照りによる赤色ではないことは考えなくてもわかる。

真っ赤である。まるでリンゴだ。いや茹で蛸かもしれない。

 

このままだと彼女はいつまでも呻き、転がってしまうだろう。

そっとしておいてあげたいが、あまり地面を転がるのは清潔的ではない。つまり正しくない。

 

私はミリアを落ち着かせるために、最善手となるセリフを考えながら、ミリアの肩に手を乗せた。

 

「大丈夫だミリア...ミリア大丈夫だ」

 

「うぅぅぅせめて何か理由つけて慰めてよぉ...」

 

 

やはり私は人を慰めるのが苦手なのかもしれない。

 

 

 

*********************

 

「ミリア...もう大丈夫か?」

 

「ふぅ...ちょっと落ち着いたよ。ごめんね。おじさん1人騒いじゃって」

 

「気にしないでくれ。誰でもそうなる。むしろ私が軽率だった...」

 

「いいよいいよって言いたい所だけど、確かにいつもの君らしくない感じだったね...おじさんまだ顔熱いよ」

 

「すまない...水、いるか?」

 

「うん。欲しいな」

 

ミリアのコップに新しい水を注ぎそれをミリアが飲み干すと、彼女は一息ついた

 

ミリアが美少女→リンゴ→茹で蛸→美少女へと進化を進めて早数刻。

 

他のメンバーが食堂に来ないことから、皆思い思いに行動しているのだろう。

本当なら今日は娯楽室の掃除だったが、昼からお昼寝し雨でずぶ濡れになり、シャワーを浴びた後に掃除は難しいだろう。

心の中の私が予定通りにしなくては!と叫ぶが、流石に今日は許そうと思う。

 

それにしてもだ。

 

「ミリア、そもそも何故食堂に?」

 

私は最初に抱いていた疑問をやっとミリアにぶつけた。

 

するとミリアは目をパチクリとする。

 

「えっと?」

 

「ん?何も用はなかったのか?」

 

「...あ!そうだそうだ!」

 

話を促すとミリアは何かを思い出したのか、服のポケットを弄り複数の物品を取り出した。

 

それは13枚のカード

カードはどれも違う絵柄が書かれているが、他のカードには多彩なイラストが描かれているのにも関わらず、1枚だけ一切のイラストがなくただ『?』と書かれていた。

 

私は徐に『?』のカードを手に取り、触り眺める。

 

別にイラスト以外には何の変哲もないカードだ。

 

「このカードだけ絵柄が違うが?」

 

私が疑問を口にすると。ミリアはテーブルの上にカードを並べながら返答する。

 

「そのカードは『名無しの魔女』」

 

「名無しの魔女?」

 

「名前がもう無くって呼ばれる事はないんだってマーゴちゃんが」

 

「何故マーゴが?」

 

「さっきお風呂上がりに頼まれて...ねっと...よしっ!並べ終わったよ!」

 

ミリアはそういうと、テーブルにはカード達が1枚1枚並べられている。

 

「『名無しの魔女』カードをちょうだい?」

 

「ああ」

 

私は呼ばれ、カードをミリアに渡す。

 

するとミリアは並べられたカードから一枚選びその下に『名無しの魔女』を置く。

 

これでテーブルの上に置かれたのは12枚のカード達そしてそのうち1枚の上に置かれた『名無しの魔女』

 

「これで完成!」

 

ミリアの小さな達成感がこもった声が口から溢れる。

 

「これは?」

 

まるで占いの様にゲームの様に並べられたカード達。私はその意図が分からず首を捻る。

すると準備を終えたミリアが口を開く。

 

「ちょっとしたクイズを解いてみない?」

 

「クイズ?」

 

「うん。これなんだけど、ちょっとした...」

 

「何て名前のクイズなんだ?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

私の疑問にミリアの体が固まる。

今日何度目だろうか?

 

「まさか名前がないのか?」

 

怪しく思いそう追求すると、ミリアは慌て始めた。

 

「えっと、えっと、これは...そう『裁判』!」

 

「『裁判』?何の?」

 

「ええ~と...尊厳の裁判?」

 

「...この屋敷で裁判は少し悪趣味じゃ無いか?君らしくない」

 

「あ!え、ち、違うくて!この尊厳裁判ゲームは裁判と違うからね!」

 

「違う?」

 

「うん!これは、その」

 

「...」

 

「そう、なんか違うの!...っ!そうこれはなんか違うんだよ!」

 

「何が違うんだ?」

 

「なんか違う尊厳裁判なんだ!」

 

慌てふためき何とか話を進めようと私にクイズを解かせようとするミリア。

 

明らかに何か私に隠しながら話を進展させようとしているのが、どうみても丸わかりだ。

 

それどころかこの食堂に来てから、色々と行動が怪しい。

 

明らかに怪しい。

 

 

 

 

しかし私はそのクイズを解くことにする。

確かにここまでのミリアの行動は不自然な点が多い。

だがここまでミリアがするという事は、何かしらの理由があるのだろう。

話の流れからナノカやマーゴも関わっているのだろう。

そんな彼女達を、記憶にあるこの牢屋敷の仲間達を、私は信用していると過去に言った。

 

その心に嘘偽りはない。

 

ならば信用しよう。

 

「それで?この『なんか違う尊厳裁判』はどんなクイズなんだ?」

 

私の言葉にミリアがポカンとする

 

「え?」

 

「教えてくれるんだろう?」

 

私はそう微笑む。

 

さて、どんなクイズなのだろう。

そう私は愉快に思い。チラリと『?』のカードを見つめた。

 

 

 

 

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