「うーん、やっぱりここにもいなさそうだね」
図書室を一通り確認したエマが、いくつかの本を抱えながら呟く。
その後ろをわたしもまたいくつかの本を抱えついていく。
エマは本棚も軽く流し見ただけで、各本の背表紙を見てまわってないことから、探し物は本では無いのは明らかだ。
そして隙間なども確認してない事から、どうやらエマが探している『モノ』は大きなモノらしい。
「うーん。何か目星つけないといけないかなぁ」
「...夢とは脳が記憶を整理する際に起こる記憶がつぎはぎに組み合わされたストーリーだと考えられている」
「えっと。つまり?」
「夢の中で出てきたものは、何かしらの記憶で構成されたもの。つまりその記憶を辿ればそこに夢の中で出てきたものが存在する。とも考えることができる」
「なるほど」
私の答えにエマは納得して首を振る。
そんなエマに私も本を抱えながら口を開き小さな不満をぶつけた。
「エマ、いい加減私にも探し物を教えてくれてもいいんじゃないか?これでは具体性のボヤけたアドバイスしか送れない」
私の小さな不満。だがそれはエマに軽々打ち返された。
「ありがとう。でももうちょっとだけボクだけで頑張らさせてよ」
「...そうか」
「ごめんね。でも気にしてくれていつもありがとう。あっ!ここだよ本を戻すところ!」
エマはそう明るくいって本棚に指をさす。指の先にある本の列にはいくつか空いているスペースがあった。
「調べ物をするのにこんなに本がいるんだね。本を元に戻したらちょっと休憩しようよ」
そう私に提案しながらエマは、本棚の空白に本を戻していく。
探しモノはなかった様だが、当初の目的である本の返却は行える様だ。
だが、私は少し気落ちする。
確かに昔の彼女は私の気を引くためによく私を頼りわざと失敗していたという記憶がある。そんな過去から脱却する為に頑張るのはわかる。正しい事だ。
でも、こう、分かりやすく頼らない事をされると、何というか、違うんじゃないか?という気持ちになる。
はぁ、とエマに聞こえないように小さなため息をついた。
先程食堂に来たエマは両手で抱えるほどの量の本を持ってきていた。
どうやらその大量の本を図書室に返す途中だったらしく、食堂の扉の前を通りかかった時に突然ミリアが食堂から廊下へ飛び出すのをみて不思議に思い、中を覗いたら私がいたらしい。
そしてあんなわけもわからない質問を私にしてきたのだ。
『夢の中のモノを探す』
それがどういう意味なのかわからない。だが話を聞く限り、どうも『夢の中で見たモノを探したい』という意味で言ったらしい。
だが、その『モノ』が何なのかはエマは語らず、とりあえずまずは本を返したいとの事で図書室に2人でやってきたのだ。
しかし、それにしてもだ。
「エマ、この本を何処から持ってきたんだ?」
「え?」
私の質問にエマは手に持っていた幾つかの本を本棚に戻し始める動きを止めた。
その様子を横目で見ながら私も手に持った本を本棚に戻しながら、先ほどから頭の中にあった推理を彼女に並べていく。
「エマ、君はこれだけの本を持って図書室に行こうとしていた、だから寄り道をせずにまっすぐ目的地である図書室に行こうとしたのだろう。だがそれなら図書室に行く為に食堂の前を通るルートは限られる。」
「え、えっと...」
エマの視線が私から逸れ始める。
まるで慌てる様に、何かを隠すかの様に
...なるほど
私は予想が当たっている事を確信しながら話を続ける。
「それは地下から上がってくるルートのみだ。もし地下ならこれだけの数の本を置くとするのなら置く場所は限られる。私たちが使っていた牢屋のいずれかだ。だが今あの暗く陰湿な場所は誰も使っていない。それどころか誰も好んで近づかないはずだ」
「え〜と」
「なぁエマ。なぜ地下から本を持ってきた…いや、なぜ地下に本があった?」
「あっと...その...」
「君は何かしらの理由がない限り不必要な秘密をしない人だと私は認識している。していたとしてもすぐに白状する素直な人間だとも思っている」
「えへへ、そんな事ないよ」
「別に褒めているわけではない」
「ひぃん」
「その場合それでも秘密にするならばそれは他者が関わっている。つまり誰かに頼まれたな?」
「え」
「本を読む又は活用する発想があり、使い終わったら片付ける意思を持ち、両手で抱えないといけない量の本を他者に頼む事ができる...これを頼んだのはマーゴか、マーゴだな」
「ま、待ってよ!マーゴちゃん以外かもしれないよ!」
エマが慌てる様に反論してくるが、それは無意味だ。
「本を読むまたは本を活用する発想がある。これである程度絞られる」
「アンアンちゃんとかノアちゃんかもしれないよ!」
「それに加えて片付ける意思を持っている事を加えるとマーゴしかいないだろう」
「ナノカちゃんとか...ミリアちゃんとか..」
「2人ならこの量を無理してでも自分で運ぶ。それか協力を要請する」
「え、えーと...」
「マーゴもただで人に仕事を押し付ける事はしないはず。そうなると...マーゴに騙された...いや、君は率先してこの仕事をやろうとしている。なら、マーゴと何か取引したな?」
「え、えーと」
「...」
「…その通りです」
「…今している君が探し物の情報と等価交換といったところか?」
「…うん。探し物をしてたら、図書室でマーゴちゃんを見つけて聞いてみたんだ。そしたら地下にいるわよって言われて」
「ほう」
「ついでに本を地下に本を運ぶ予定だから手伝ってってマーゴちゃんに言われて、2人で地下牢に行ってみたんだけど誰も居なくて、そしたらマーゴちゃんがどこかにかくれんぼしているみたいね探してみてあげてって言った後、ついでに本も図書室に戻しておいてって言われて…」
「…取引というか、いいように使われていないか?」
「…うん。ボクも思った」
「…そうか」
「…ごめんなさい」
エマがうつむき謝る。
ショボンと気落ちしており、垂れた犬耳が頭に見えるようだった。
その姿に私はため息をつく。いけないな。八つ当たりをしてしまった。
なぜこうも口が回ってしまうのか…
「謝る必要はない。むしろこちらこそ問い詰めてすまない」
「そ、そんな事ないよ」
「いや、ある。これは...その」
「その?」
思わず言い淀む。
首を傾げるエマを見て耳が熱くなる。
この気持ちをわざわざいう必要はない。だがこのまま黙っているのも正しくはないだろう。
だから、私は大人しく白状する事にした。
「…ただの嫉妬だ」
「嫉妬...嫉妬!?」
エマが目を見開き私を見る。
思わず目を逸らす。なんだ、別にいいじゃないか
「私には頼らないのに、マーゴには頼ったように見えたんだ…私が嫉妬してもいいだろう?」
黙々と持っている本を棚に戻していく。
…やはりアリサが言った通り今の私は私らしくない。どこか最近の私はおかしいのかもしれない。
そんな事を頭の中で考えながら、数冊の本を本棚に戻した時、横から物音ひとつしない事に気がついた。
逸らしていた視線を戻すとそこには口をポカンと開けたエマがいる。
…なんだその信じられないものを見たかのような表情は。
数秒の沈黙の後、やっとエマの口が動いた。
「…わぁ、いつもと違って素直だね」
「やかましいバカ犬」
エマの戯言に私は手に持った本で軽く彼女の頭を叩く。
きゃん!という可愛らしい鳴き声と共にエマは頭を抱えた。
まったく、誰が素直じゃないだ。
エマの言葉に頬を赤らめながら持っていた本を戻す。するとクスリと微かに笑う声が聞こえる。
くすぐったい様な笑い声。嘲笑などは一切含んでいない、ただどこか喜びを感じる様な優しい笑い声。
「全く私らしくない。疲れているのかもしれない」
思わず恥ずかしくなり誰に聞かせるわけでもない言い訳をこぼしてしまう。
それがまた可笑しかったのか、小さな笑い声がエマからこぼれ落ち続ける。
これ以上変に喋ると余計恥ずかしくなりそうで、私は横の笑い声を無視して黙々と本を一つ一つ元の棚に戻す事とした。
本を戻しながらふと一つ一つ本の背表紙を見ていく。
どの本も小説やマンガではない。過去の牢屋敷の資料や記録が多い。
ふと、その中の一冊の本の表紙に目が惹かれた。
「『夢の魔法による事件記録』?」
この本には見覚えがある。
一昨日に図書室を掃除した時、皆で見た過去の事件記録だ。
私達がこの牢屋敷に来る数年前、この牢屋敷に連れてこられた1人の少女、および1人の魔女が起こした事件の記録。
突然連れてこられ、周りに知り合いはおらず、殺し合いを示唆され、周りにいた他の少女を信用できず、現実逃避をして、夢の中に逃げて、魔女となり数多の人を巻き込み悪夢を振り撒いた。
人といる事が好きなのに対話することもできず全てから逃げ出した子供の様な人物。他者の足を引っ張る敗北者。
...いや、この思考は私らしくない。やめよう。
それよりも。
「何故今更?」
思わず疑問が口から漏れる。
もう牢屋敷の悲惨な事件は終わった。なのに何故マーゴはわざわざ、こんな面白くもない話が書かれた本を必要とした?
少し不穏な匂いを感じ頭を悩ませるが答えは出ない。
するとエマは私の独り言に返答してきた。
「今看護してる子に関わる事なんだってマーゴちゃん言っていたよ」
「...看護か」
エマの答えに私は納得した。
この牢屋敷でマーゴやナノカ達は社会復帰がまだ厳しい心を壊した元魔女達の看護をしている。
元魔女達は過去に自らが侵した罪と過剰なる罰によって心を壊している。
だが、ゆっくりと少しずつ心が治り始めている子達もいる。自らの罪に向き合ったり、穏やかな時間で心を癒したりなど、そんな彼女達をマーゴ達は手伝っている。
もし看護している子のために『夢の魔法による事件記録』が必要というのなら、おそらく今看護している子は『夢の魔法』に巻き込まれてしまった子の可能性が高い。
結局、先程エマに詰問した内容、何故地下にわざわざ本を持っていこうとしたらのか、どういう関わりがあるのか、探しモノが何なのかはなどの答えはエマから聞いてはいない。
だが、それが看護している子の心を抉る可能性があるのなら、下手に詮索する趣味は私にはない。
何か問題があればマーゴも私たちを頼ってくれるだろう。
そう私は結論を出し、その本を棚に戻した。
すると同じ様に、本を本棚に戻す作業を再開したエマが疑問の声を上げた。
「結局その本にはその子の名前が書かれてなかったのだけど、何て名前なんだろう?」
「名前?」
エマの言葉を聞き、先日の記憶を漁る。
言われてみれば確かにそうだ。この本には確かに件の悪夢を見せる魔女の名前は一切書かれていなかった。その名前がわからなかったというよりも、その必要がないかの様に一切書かれていない。代わりに別の呼称が付けられていた。
どんな呼称だったか思い出す為に頭を捻っていると、エマはまるで未来を期待するかの様に優しく微笑む
「うん、名前。会った時に名前ぐらい知っていたら呼びやすいなって思って」
「会った時?」
「そう、会った時。だから名前を知りたいなーって」
「だが本に書いていない以上想像するしかないだろう。一旦今はこの本に書かれていた呼称。あれは...確か、『名無しの魔女』と仮称してい…た…」
『名無しの魔女』?
記憶の奥から出てきた単語に私は動きを止めざるを得なかった。
過去に他者を悪夢に引き摺り込む事件を起こした『名無しの魔女』。
ミリアがマーゴから渡されたゲームの魔女の名称も『名無しの魔女』。
昨日から不自然な行動が多いマーゴ達。
昨日から図書室に閉じこもっているのにも関わらず今は誰も近づかない地下牢に本を持っていこうとしたマーゴ。
地下室にいた『モノ』
悪夢を起こした『名無しの魔女』と元魔女達を看護するマーゴ達。
夢の中のにあった『モノ』を探すエマ。
そして、普段と違う私。
先程マーゴは看護のために『名無しの魔女』の事が書かれた本が必要なのではと私は結論を出したが、それは本当なのか?
まるで積み木が組み上がっていくかの様に、いくつかの情報が頭の中に組み建てられていき、2つの荒唐無稽な仮説が出来上がる。
一つはあまりに馬鹿馬鹿しい仮説。そしてもう一つは、その馬鹿馬鹿しい仮説が土台となったさらに荒唐無稽な戯言。
これは...あり得るのか?あまりに馬鹿な話すぎて仮説を通り越して妄想に近い。だが、そうだとしたら昨日からの不自然な出来事に説明はつけれる。
「そんな難しい顔をしてどうしたの?」
エマが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
どうやら無意識に額に皺を寄せていたらしい。
指で目尻をいじり、額の皺を緩める。
もし、もしもだ。私の作った仮説と戯言が本当だとするのなら...
私は脳に溢れる馬鹿馬鹿しい仮説の確信を得るためにエマに聞いてみる事とした。
もし違ったとしても、笑い話で済む。
確証を得ない投げっぱちな行動。
記憶の中の私は真実を見つけるために様々な偽証をおこなってきた。だが、自らも信じていない戯言の回答を得るために、自身の確信も得ていない答えを口にすることなどしなかったはずだ。
そんな記憶の私と違う、いつもの私らしくない自身の姿に苦笑する。
だからまず私は一つの疑問を投げかける。
もしそのこの疑問が本当ならば、仮説は真実味を帯びる。
私は一度深呼吸をして、エマに対して荒唐無稽な仮説を証明するための1つの問いを投げかけた。
「エマ、君が探している『モノ』は人だな?」
「へ?ち、ちがうよ!」
「探している『モノ』が人なのは、さっきのマーゴの頼み事に関しての問答で丸わかりだ」
「え、あ…」
「聞きたいのはそこじゃない。本当に聞きたいのは、その人物が…いるはずのない人物である。違うか?」
「う゛ぇ」
汚い声が彼女の口から漏れた。
その反応に私は戯言が正しいのだと半ば認識する。
まさかと思いながらも私は言葉を紡ぐ。
「まず最初の疑問だが、マーゴが地下に本を持っていく理由はなんだ?本を読みたいならその本がある図書室で読めばいい。ゆっくり本を読みたいなら自室で読めばいい。それならば何故?地下で本を読むのが好きだから?誰にも見つからずに本を読みたいから?」
そんなことあるわけがない。そう言い切りながら話を続ける。
スラスラと言葉が口から出てくる。
ここまで言葉が滑らかに喋れるのは久しぶりだ。
油をさしたばかりの歯車の様に口が回る。口が回ると共に連動するかの様に気分が少し高揚していく。ワタシは思うがままに口を動かす。
「見られたくない本を読んでいるから人目につかず本を読みたい?それは違うな。何故なら読んでいた本は一昨日私達皆で見た本だからだ。内容は全員の頭にある。今更読んでいても誰も何とも思わない。なら何故見られたくない?」
ならば答えはひとつ
「その本を見ている人物が他者に見つからないためだ」
「だとしてもなんでその事が、ボクが探している人物が『いるはずがない人物』って事になるの?」
エマからの反論が飛んでくる。
その反論になぜか胸が高揚する。
なぜだろうか…
ああ、そういえば記憶を見返してみても、エマに反論された覚えは殆どなかった気がする。
ワタシはエマと討論を交えた覚えがない。私が死んだ世界線では議論を動かし真実を最後まで追求した彼女と、ワタシがいた世界ではいつも彼女は私の味方をしようとしていた。
そんな彼女とワタシは議論をぶつけ合った記憶はない。
そんな桜庭エマとワタシは今討論を交えている。しかも記憶にあるような生死が関わっているものではない。ただのじゃれあいにすぎない。だが真剣なじゃれあいだ。
ワタシはジワリと湧き出る高揚感を内に秘め、エマの反論に答えた
「エマ…この牢屋敷で他の誰かに見つかってはいけない人物とは誰だ?」
「え?それは…」
「私達に負い目がある人物とかか?」
「ゴクチョーとか?」
「あれが居るのは今更だろう?それに負い目をあいつが持つと思えない」
「それもそっか」
「私はそうではなく、ここにはいてはいけない人物だと思う」
「いてはいけない人物…」
「もう夢の中でぐらいしか会う事ができない人物…私たち12人には心当たりがあるんじゃないか?」
「…」
「私には…それが2人いる。エマもそうだろう」
私の問いにエマは答えない。だが、彼女の脳裏に人物が浮かび上がってるのは予想できる。
思い浮かべるのは白い2人の少女。
もう会う事が絶対にできるはずのない2人。
もう夢の中でしか会えない人物。
もしそんな2人が牢屋敷に今いるというのなら
「なぁ、エマ。もしかして、この牢屋敷は….」
「エマさんいますかー!!」
けたたましい声と共に図書室の扉が開け放たれる。
思わずエマと2人してそちらを向くと、そこにはシェリーの姿があった。
泥だらけの。
先ほど風呂に入っただろう。なんでだ。
「しぇ、シェリーちゃん!?その姿一体どうしたの!?」
エマもまたシェリーの姿に驚く。だがシェリー本人は一向に気にする事なくずかずかと図書室に入り、エマの腕を握った。
「エマさん!一緒に来てください!」
「で、でも」
「私にはエマさんが必要なんです!」
「え!?えぇええ」
突然のシェリーの告白に仰天するエマ。
別に愛の告白ではないことは子供でもわかりそうな状況だが、突然の事態にエマは目を回して私とシェリーを交互に見て迷い始める。
…まぁ私との話は後ででいいだろう。
私はそう結論をだし、エマに助け舟を出してやることとした。
「先に行ってくるといい」
「で、でもまだ本も全部戻し終わってないし、話も」
「また今度すればいいだろう」
「でも…」
「では行きましょうエマさん!エマさん借りていきますね」
「ああ、気をつけて」
「え!?ちょっと待ってええぇぇえぇ…」
ビブラートのような悲鳴をあげ、エマとシェリーが図書室から飛び出て走っていく。
私はそんな2人を手を振って見送った。
高速で車が走っていき遠のいていく時の音のようなエマの声がどんどん小さくなっていき、やがて聞こえなくなった。
残るのは私1人、さっさと本を片付けよう。
ワタシはそう思い、開いたまま手を見つめた。
思い返せば気になる4つの気になる事象がある。
一つ、昨日から続くおねしょ。1人ぐらいならまだわかったが3人も連続で発生し、皆が寝て起床するたびに必ず発生している
二つ、おねしょが発生し始めたのは昨日。マーゴが粗相してからだ。そして粗相をしてからマーゴは調べ物をしている。それが今私達が本棚に戻している『夢の魔法による事件記録』を含む複数の本。つまりおねしょをしてから過去の事件を調べ、それが看護に関係がある事だとマーゴは言った。そしてその本を地下の『人物』に渡そうとした
三つ、ナノカは私に何かを語ろうとした時、ミリアは私に『…まるで本当に裁判があったかのような言い方だな』と言われた瞬間、腹を下してトイレに駆け込んだ。まるで何かの罰の様に。
四つ、私たちが睡眠する際、誰か1人が必ず起きている。
この4つの事象、ある事柄と組み合わせると妙に噛み合う。それは『なんかちがう尊厳裁判』
あれはただのクイズだったはず。
しかしあのクイズで出てくる魔女の名前は『名無しの魔女』そして、あれを作ったのはマーゴだ。
粗相をしてから『名無しの魔女』について調べ物をしていたマーゴが作った『名無しの魔女』が出てくるクイズ。今の状況に関係がないわけがない。
もし『なんかちがう尊厳裁判』の最初に提示された前提が、ミリアに私が聞いた様に『本当に裁判があった』のなら妙に状況と噛み合うのだ。
数年前この牢屋敷に呪いを起こした魔法。
魔女となってしまい魔法を暴走させ、周りの魔法少女全員を閉じ込め夢の中で殺し合わせた魔法。
魔女因子はユキが持っていった。残っていたとしてもわずかな量だけだろう。
魔女になり人を殺す事ができた『夢の魔法』は、魔女にならなければどこまでの力をもつ?
もしかしたら人は殺せずとも嫌がらせぐらいはできるのかもしれない。
例えば、対象におねしょさせるとか。
もし処刑が死ではなく、おねしょをさせれる仮定できるのならば、『なんか違う裁判』の前提として処刑された人数は3人は、おねしょしたマーゴ、ナノカ、ミリアの3人なのではないか?
そして、眠らなかった、ノア、アリサ、アンアンは『名無しの魔女』に成り変わりをされたのではないか?
また、処刑された彼女達だけ、夢の中の記憶を持ち越せているのではないか?
しかしそれを伝えようとすると、トイレに駆け込む事になるため、『なんか違う尊厳裁判』という遠回しな方法をマーゴは考案したのではないか?
つまり、私たちは眠るたびに『夢の魔法』によって『なんか違う尊厳裁判』をさせられているのではないか?
そんな、仮説が立つ。
あまりに馬鹿馬鹿しい仮説。
『夢の魔法』という存在を全ての事象に現実味を帯びさせるための『機械仕掛けの神』として使用した出来の悪い劇の様だ。
だが、本当に『夢の魔法』がそこまで色々できるのならば、夢の中で私たちは『なんか違う魔女裁判』をしているという、馬鹿馬鹿しい仮説が本当ならば、さらに飛躍した馬鹿馬鹿しい仮説を作り出せる。
地下にいた謎の人物。
これが『名無しの魔女』が私達に顔を合わせずらいから地下に潜んだのならまだいい。
しかし、もしそれが私がエマに言いかけた2人のうち、どちらかなならば。
『夢の魔法』がそこまでできるというのならば。
私は
「これ以上やめよう。全く馬鹿馬鹿しい」
誰に言うわけでもない言い訳を1人呟き、私は黙々と本を本棚に戻す作業を再開する。
頭の中に湧き出した仮説を無視するかの様に逃げるかの様に私は黙々と作業は最後まで続けられるのであった。
だが、結局その仮説はその日、私が寝るまで頭の片隅に存在する事となる。
皆で食事をし、ベットに入り、夢の中に意識が落ちるまで、その仮説は喉に引っ掛かる小骨の様に煩わしく、私の心を乱した。
そして、その仮説は。
夢を見る事で、答えを得た。
目の前に広がる裁判所。
思い出した過去の裁判。
そして『名無しの魔女』
ふと視線を彼女に向ける。
彼女も私が思い出した事に気がついたのだろう。笑みを浮かべて頷いた。
そうかワタシは
「嫌だァァ嗚呼!!!!!」
轟く絶叫。
そちらを見る。そこには思い出してしまった本日の処刑対象がいた。
「えーとココちゃん。諦めよ。諦めも肝心だよ?」
「いーやだ!あてぃしは絶対に抵抗する!というかあてぃしは成り代わられてないから、吊るのエマっちでいいじゃん!」
「それを言うならボクも成り代わられてないから、成り代わられているのココちゃんだと思うけど...結局この話は平行線だしボク達が吊られれば解決だと思うから一緒に吊られよう?」
「やだー!!!絶対抵抗する!絶対逆転してやる!あてぃしはおねしょしたくない!!」
ココが目をギラギラさせ私たちを見渡す。
本日の裁判はココとエマを処刑する。
そんな決まってしまった裁判にココは1人私達に挑む。
ココ1人の逆転裁判が今始まる。
「いや無理だろ」
「うるせぇ!ヤンキー!」