カサマツの2番星   作:美涼

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悪役である理由

『先頭はスズノミレイ!スズノミレイが逃げる!逃げる!後続は追いつけない!スズノミレイ、強豪たちを退け今1着でゴールしました!』

 

「うおおおおお!スズ!勝った!スズが勝った!」

 

「わかったから落ち着いてくれ。車が揺れる」

 

 

私のメイクデビュー戦が終わって帰る最中。私はスマホを使ってスズの宝塚記念を見ていた。

結果は1着。スズの中央初めてのGⅠは、勝利で終わった。

 

その後、ウイニングライブまでの間の休憩時間に、スズは真っ先に電話をかけてきた。

 

 

「あ、スズ?おめで…」

 

『レイ!!!!がっだよ!!!!!』

 

「………うるっっっっっさい。声のボリューム落とせ」

 

『こ゛め゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ん゛!!!』

 

「泣くな騒ぐな黙りんしゃい。わかったから。嬉しいのは痛いほどわかったから!!」

 

 

電話に出てすぐ叫ぶんじゃない。耳キーンなったわ。

スズは嗚咽していたが、少しして落ち着いた。そのタイミングを見計らって、私は話しかけた。

 

 

「とりあえずGⅠ初勝利おめでとう」

 

『ありがとう。とりあえず笑われなくてよかった』

 

「覚えてたのねそれ。冗談のつもりだったんだけど」

 

『いやレイは模擬レース負けたら笑ってやるって言ってマジで笑った前科あるから』

 

「今とは状況が違うでしょうよ。ま、とりあえずウイニングライブ頑張れ」

 

『カメラの奥のレイに向かってファンサするわ』

 

「せんでええわんなもん」

 

 

そんな会話をして、電話を切る。ふと外を見ると、トレセン学園が近づいて来ていた。

 

少ししてトレセン学園の校門前に車が止まると、そこには笑顔のキタサンブラックさんとたづなさん、そしてトレセン学園で1番偉い理事長の秋川やよいさんがいた。

 

 

「…私、今日が命日かな」

 

「流石に死にはしないと思うぞ。ただ、相当な時間叱られはするだろうが」

 

「…行かなきゃ、ダメですかね」

 

「行かなかったら、キタサンとたづなさんに追いかけられるだろう」

 

 

そう言われて、私は覚悟を決めた。車から降りて、たづなさんたちを見る。少し息を吐いて、重心を下げる。そして全力逃走!

 

 

「捕まるもんですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい。捕まりました。簀巻きにされてますよ。笑うなら笑えよ。

んでもって理事長室で無言の圧をかけられ続けてるんですよ。ほんとに怖いのよ。

 

キタサンブラック、サトノダイヤモンド、シュヴァルグラン。

この世界に来てから知った、しかし確実に名を残したウマ娘たち。それに加えて、学園の最高権力者の理事長とその秘書。

 

誰も何も言わない。過ぎて行く時間は、そのまま私へのプレッシャーになる。

数分後、ついに耐えきれず、私は口を開いた。

 

 

「あ、あの。捕まえられて今無言の圧をかけられている理由をお聞かせいただいても…?」

 

「愚問ッ!君のレース後の行動以外にあると思うか?」

 

「あ、はい。デスヨネ」

 

「質問ッ!!何故君はあのような言葉を投げかけたのだ!」

 

 

理事長が若干こちらを睨みながら、誤魔化すのは許さないと言った感じで問いかけてきた。

私は、悪役を演じながら答えた。

 

 

「思ったことをそのまま口にして何が悪りぃ。だいたい、踏まれてんだからこっちが蹴り上げねえとそれこそ俺が転んでたわ。それも知らんままアイツらが勝手に解釈しようと勝手じゃ」

 

「あの、ファントムレイダーさん。ここにいる人は貴女の本当の性格を知っているので別にそんなことしなくてもいいですよ」

 

「…………へ?」

 

 

私がひと通り話した後、たづなさんがそう言って来た。そのせいで私の顔は真っ赤になって、湯気が出てるんじゃないかってくらい熱くなった。

 

 

「早く言ってくださいよそれ!今の私ただのイタいウマ娘じゃないですか!」

 

「というか私がいるのに演技をした時点で既に手遅れでは?」

 

「…そうじゃんもぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」

 

「…何というか…元気な人、なんですね」

 

「本当に同一人物か疑っちゃうけどね」

 

 

しばらく悶えていたが、理事長がわざとらしく咳をしたことで、一旦その場は落ち着いた。

 

 

「ではもう一度問うが、何故君はあのような言葉を投げかけたのだ。建前ではなく、本音を伝えてほしい」

 

「…まあ、色々ありますが。前例とかなしで、一旦考えていただきたい。地方からの編入生。しかもメイクデビューすらしていないと言うのにスカウト。その上トレーナーはオグリキャップ。メイクデビュー戦はトレーナー代理としてURAの会長であるシンボリルドルフが来ていた。そんなウマ娘が居たとして、貴女方は一切疑わずにいられますか」

 

「……それは」

 

「まあ、仮に疑わなかったとしても、マスコミはどうでしょう。ただでさえマナーがなってない記者が多い、しかも有る事無い事書くような記者がいるような界隈です。どれだけ正規の方法で編入していたとしても、疑惑は残るでしょうし。餌があるならすぐに記事にしますよ。アレは」

 

「…でも、それは仮定の話で、実際に起こったことじゃないし、起こらないかもしれないよ…?」

 

 

シュヴァルグランさんが、少しおどおどしつつも、私にそう言って来た。

 

確かに。確かに、これはあくまでも仮定の話だ。

 

でも。

 

私には、マスコミは必ず悪く報じるという、嫌な確信と根拠があった。

 

 

「理事長。ウィーホープというウマ娘、ご存知ですか」

 

「ウィーホープ…確か、君と同じくカサマツから中央に編入して来たウマ娘、だったか」

 

「ええ。彼女はいくつものGⅠを勝利し、一時期は『第二のオグリキャップ』と言われるほど強く、人気があった。しかし、彼女は引退した。原因は脚の故障()()()()()()()()()()()

 

「ということになっている?どういうことだ、何か他の原因でもあるのか?」

 

「……詳しい事は言えません。私自身整理できていませんし、何より今言うべき事ではない。ただ、引退の原因の一端は、メディアが書いたひとつの記事です」

 

 

そう言った後、少し断ってスマホの写真フォルダから、ひとつの写真を探す。探していた写真はすぐに見つかり、その内容を全員が見えるようにスマホを机に置いた。

それを見た瞬間、その場にいた全員が絶句した。

 

 

「『ウィーホープ、ドーピング使用か?』。もちろん使ってなどいませんが、マスコミはこう書いた。彼女は気管支疾患があり、その治療の為吸入治療をしていました。もちろん、レースには薬剤が抜け切るように調整しています」

 

「………これは、事実か?」

 

「実物を持って来いと言うのなら持って来ますが」

 

「いや、いい。そうか。確かにこれなら君がマスコミを信じないのも理解できる」

 

 

流石に、この話をするのはまずかっただろうか。この反応を見る限り、理事長も知らなかったみたいだし。

理事長はしばらく思案した後、私に話しかけて来た。

 

 

「納得ッ!君がマスコミを嫌っている故の行動とは理解した。だが一度やってしまった以上、この先も悪役(ヒール)となるが、それでもいいのか」

 

「構いませんよ。オグリさんには話してありますし。今日はトレーナー代理としてルドルフさんがいたので、URAが介入することも基本的にないでしょうし」

 

「理解ッ!それならばいいのだ。時間をとらせてしまったな。もう寮へ帰っても大丈夫だ」

 

 

それを聞いて、私は理事長たちに一例した後、誰もいない寮の自室へ帰った。

普段はありがたい静かな部屋が、少し物足りなく感じた。

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