だいぶ期間空けたくせに多分一番の駄文です。ご了承ください。
メイクデビュー戦翌日。
既にクラスメイト他大勢の生徒に遠巻きにされておりますファントムレイダーです。
いやさ、確かにいずれ知れ渡るとは思ってたよ。それは私がそうしたんだし、何も文句はない。だけどさ、次の日にもう噂が流れるのは違くない?噂が広まる速さが異常だよ?
そのせいで今グラウンドで準備運動してるだけなのに、いろんな所からヒソヒソとこっちを見ながらなんか話してる声が聞こえてくるし。
若干ヒールを演じたのを後悔して来た。まあそんなことを言っていても何も変わらない。少ししてスズもやって来て、今日のトレーニングが始まった。
スズは次戦をジャパンダートダービーにするらしく、私とオグリさんにダートの走り方を見てほしいと言って来たから、まずはお願いどおり見ておく。
うん。力の入れ方も間違ってないし、うまく砂をかいて走れているように見える。ただ踏み込みが若干浅いかな?それ以外には気になる事は特にないかな。
そんなことを考えていると、ふと誰かが脚を触って来た。しかも揉んだり撫でたりする痴漢みたいな触り方をしてる。
どうやらオグリさんも触られているらしく、私たちは少し視線を交わし、オグリさんはそのまま後ろ蹴りを、私は腹に蹴りを入れた。気持ち悪いのもそうだけど、私たち競走ウマ娘の足は商売道具なんだ。勝手に触らせるかよ。
そんなことを考えながら相手の姿を見ると、胸元にトレーナーバッジをつけているのが見えた。
こんなんがトレーナーやってんのかよ。ただの変態じゃねえか。
そんなことを考えていると、オグリさんが笑顔でその人に圧をかけていた。
「沖野トレーナー。私は以前、次私や私の教え子の脚を無許可で触った場合理事長に訴えると言ったはずだが。まだそれを続けるか?」
「げぇっ。お、オグリ!?何でここに…ってか、何でお前もトレセンのジャージ来てんだよ!!」
「私はトレーナーだ。担当契約もしているから、担当の走りを見るのは至って当然のことだ。ジャージに関しては動きやすいからだ。スーツとかは動きづらいから苦手なんだ」
「そ、そうか。それじゃあ俺はこれで…」
沖野トレーナーと呼ばれたその人物は、言い終わると同時にすぐさま逃げ出した。
それを見てオグリさんは、笑顔のまま少しつぶやき、すぐに追いかけていった。
「一体いつから…逃げ切れると錯覚していた?」
「……おお。速えし怖えし。あれが巷で聞いた灰の怪物の姿か」
まあそんなのをこんな事で使うのはちょっとやり過ぎとも思うけど。
そんなことを考えていると、スズがダウン終えて戻ってきた。
「あれ?オグリさんは?」
「不審者変態トレーナーを追いかけてるとこ。もう捕まっただろうけど、理事長とかに引き渡してるんじゃない?」
「え?いやあの、え?不審者変態トレーナー…って何?不審者なの?トレーナーなの?」
「トレーナーらしいけどいきなり私の脚触って来た変態」
「ああなるほど…なるほど?」
スズが混乱しておる。地頭はいいのに理解しきれず混乱する子を見るのは風情がありますなあ。
そんなアホの考えを断ち切るように、背後から力強い足音が聞こえて来た。
溢れ出す力を無理矢理抑えて、でも抑えきれない力が脚に向いてる、擬音でいうならズンズンって感じの歩き方。なんかスズが怯えてるや。どうしたんだろ。
その音の主は私の背後で止まると、いきなり私の胸倉を掴んできた。
そして私の視界は、急に真横を向いた。
後から、ジンジンと頬に痛みが込み上がってくる。私は恐らく、ビンタされたのだろう。
「ッ……。お前、何の用だ。いきなりビンタとか、何様のつもり?」
「いきなり叩いた事は謝罪しよう。だが、私は貴様を許さない。自己紹介がまだだったな。私はチーム"スピカ"所属のロードマジェスティだ」
「へえ。知ってるだろうけど俺の名前はファントムレイダー。んでなんで私はキレられてんの?」
「貴様のせいで、ニューオーダーがトレセンを辞めると言い出したからだ」
「そんだけ?言っちゃ悪いけど、中央から抜けてく奴なんて割といるだろ。それで俺にキレんのはお門違いじゃねえか?」
「……ニューオーダーが、レースの後に何かに謝りながら自傷行為をしていたとしてもか?」
「……知るかよ。俺は関係ねえ」
正直すぐにでも殴り返したかったけどなんとか我慢して、相手の話を聞く。
スズは完全に威圧されて、腰が抜けて動けないみたいだ。
ニューオーダーさんがそんなふうになってたのは全く予想外だったけれど、それでも私は同情しないふりをする。
「大体、レース後の事を言われても知らねえとしか言えねえよ。レース中の事ならまだわからなくもねえが」
「いや、違う。レースの事も本当は悪くないんだろう。だが、こうでもしないと私も整理できないし、何よりニューオーダーが壊れてしまうんだ」
「ならなんで、初めに叩いた?」
「一時の感情に任せて殴ってしまった。申し訳ない。謝罪の品は後日渡そう。それでも足りないというならできる範囲でしよう。その上で、どうか頼みがある。彼女がああなった理由、何か手がかりだけでもわからないだろうか…?」
ロードマジェスティさんは、今にも土下座しそうな勢いで、そう言ってきた。この人は、感情的になりやすい所はあるけど、根は本当にいい人なんだろう。
しかし、ニューオーダーが自傷するようになった理由…か。
私は仮定の話だが、と前置きをして話し始めた。
「ニューオーダーは、ある種の正義とも取れる異常さがあった。で、まあ結果的にだが、レース後の会見のせいで本来批判されるはずのアイツじゃなく、私が全て悪いつう事になってる。減速の原因はアイツが俺の足踏んだせいだから、そこでなんか感じる事があったんじゃねえの。会見の後になんか私が庇ったとか言ったり、謎に感謝してきたし」
「そうか。改めてすまなかった。そしてありがとう」
「用がないならもう帰れ」
「む、ファントムレイダー。どうしたんだその頬?」
しばらく話していたからか、オグリさんが戻ってきた。
謎のでかい袋を引きずりながら。
なんかモゾモゾ動いてるし、怖えよ。中身何なの?オグリさんの事だからなんかの動物とかか?いやでも動物獲るような時間はないと思うけど。
「ああ、ロードマジェスティもいるのか。丁度よかった。ほら、これ」
「え、何です………いえ。わかりました。またご迷惑をおかけしたようで」
「いや、私だけならまだ許さないこともないが、ファントムレイダーにもやったからな。今日は流石に許せなかった」
「………後日どっかのお店の食べ放題券10枚ほど持っていきますね。私も、ファントムレイダーさんにはご迷惑をおかけしましたので」
オグリさんとロードマジェスティさんはそんな会話をしながら袋を渡していた。
ロードマジェスティさんが袋を開けると、中から沖野と呼ばれていたトレーナーが出てきた。
「ウマ娘、コワイ」
「馬鹿なこと言ってないで帰るぞトレーナー。チーム練習もあるんだから」
「な、なあ。一応聞くんだが、それはお前の…いや、チーム“スピカ”のトレーナーなのか?」
私が恐る恐る聞くと、ロードマジェスティさんは不服そうに頷いた。
こんなんでも割と有名なチームのトレーナー出来んのかよ。世も末だな。
まあ色々ありつつ、今日のトレーニングを始めた。
いつもよりも、地面を蹴る力が強くなった気がした。