カサマツの2番星   作:美涼

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前話とほぼ同時期の、理事長のお話。
短いです。


君が走るのなら

ファントムレイダー。

まだメイクデビュー戦しか走っていない、しかしそれでも史上最悪のウマ娘と評されている、ある意味異常と言ってもいいウマ娘。

彼女の悪評は、普段レースを観るレースファンだけでなく、レースに興味のない人にまで広がり、一種の社会現象を起こしている。

 

しかし、こんな状況でもURAは、ファントムレイダーの今後の出走を認可した。

キタサンブラックの世代以降、十数年経つがいまだスターと言えるほどのウマ娘が出てきていない。

今年は若干期待されているが、それでも一度離れた人を再び呼び込むにはまだ少し厳しい。もう悪役だろうが何だろうが使ってやるという、URAの意図が透けて見えた。

 

たとえそのウマ娘が、批判の的にされ引退しようとも使い潰すという、ドス黒い裏の意図も。

 

 

 

私はファントムレイダーを悪役として使う提案をした。

 

彼女が傷つく事はわかっている上で、その提案をしてしまった。

URAの上層部は、その提案を喜んで許可した。

そして私を褒め称えた。

URAの為にこんな素晴らしい提案を持ってくるなんて、と。

流石中央の理事長、とも言われた。

 

 

何が素晴らしい提案だ。

 

何が中央の理事長だ。

 

私は、1人の人生を悲惨なものにする提案をしにいったんだぞ。

 

 

私は、世間一般からしたらウマ娘の事を第一に想う、優しい理事長だと思われているらしい。

今は、そんな肩書きなどクソくらえと思うが。

 

わかっている。こうなってしまった以上、彼女がこうでもしないと出れないという事は。

わかっているからこそ、私がその提案をした。

 

しかし、どうにかできなかったか。

今からでもファントムレイダーに方針転換を頼む。単純にライバルとして売り出す。しばらくの間出走をやめてもらう。

 

そんな候補はいくつかあった。しかし、どれも確実性がなかった。

 

 

ただひとつ、助かったことがあるとするのならば。

たった1人が、1人だとしてもこの提案に反対してくれた事だろうか。

 

全会一致で決まるよりは、まだ少し、ほんの少しだけ気が楽だった。

 

 

 

そして、この提案をした時に分かったことが2つある。

1つは、URA内部にもいまだ常識的な考えを持つ者が、多数いること。

過半数には満たず、上層部ともなれば圧倒的少数だが、それでもありがたい。

 

もうひとつは、ウマ娘を金儲けの道具として見ている派閥がいること。

 

シンザン、ミスターシービー、カツラギエース、シンボリルドルフ、永世三強、メジロライアン、BNW、黄金世代、ナイスネイチャ、トウカイテイオー、テイエムオペラオー、ジャスタウェイ、ゴールドシップ、オルフェーブル、ジェンティルドンナ、キタサンブラック、アーモンドアイ、イクイノックス。

 

ここに名を連ねる名バが、最近出てこなくなった。

つまりは、どうしてもレースから人が離れていってしまう。

 

この派閥はそれを恐れた。今のままだと、あと数年もすれば赤字経営となる。国営の事業だから潰れる事はないが、少なからず給料などには影響する。

もう金を稼げるなら悪役でも何でもいい。そんな汚い感情を隠してすらいなかった。

 

 

ファントムレイダーには、これら社会の屑と言って差し支えない派閥、そしてウマ娘の事を考えず取材をするマスコミ。これらを捉え、制裁を与えるための『蜜』となってもらう。

『悪役』という名の甘い蜜には、利益を吸おうとする虫が寄る。

 

今までも酷いものだった。

マルゼンスキーの持ち込みという理由でのクラシック出走規制。

オグリキャップの引退宣言後のマスコミの殺到。

大量にフラッシュを焚いた事によるエアグルーヴのレースへの影響。

検疫を言い訳にしたジャパンカップの外国ウマ娘の規制。それによる出走数減少。

 

今までも対処はしてきたが、結局それは、その場しのぎにしかならなかった。

 

ファントムレイダーには、それを一身に受けてもらう。

トレセン学園には、少なからずウマ娘を食いものにしようとする輩が現れる。それが、ファントムレイダー1人に集中する。

それに、三冠をとるウマ娘が現れなければ、マスコミも彼女に集中するだろう。

 

反吐がでる。

未だウマ娘を食いものにしようとするマスコミに。

未だウマ娘を金儲けの道具として見ているURA職員達に。

 

そして何より、この方法でしか他のウマ娘達の安全を保証できない私に。

 

私はため息を吐いた後、いつの間にか隣に立っていたたづなに話しかける。

 

 

「たづな。私が、URAを根本から叩き直すと言ったら、どうする」

 

「……トレセン学園理事長秘書と言えど、一応私もURA職員ですので止めます。……ですが」

 

 

たづなは一呼吸あけてから、再び話し出した。

 

 

「トレセン学園理事長ではなく、秋川やよいという1人のウマ娘を想う人が行動に移すなら、私も理事長秘書ではなく、駿川たづなとしてそれに賛同しましょう」

 

「…感謝。まずは彼女にその旨を伝えなければ」

 

「彼女…と言うと、ファントムレイダーさんですか?」

 

「否定。私の提案に反対してくれた、URAの最高権力者…シンボリルドルフに、だ」

 

シンボリルドルフ。

彼女の夢は、全てのウマ娘の幸福。

現役時代は、その考えを批判される事も少なくなかったが、今はそんな声はない。

ファントムレイダーの出走に唯一反対したのも、彼女だった。

 

『ファントムレイダーの出走はいい。しかし、悪役として使う事は反対だ。一体どれだけのストレスが彼女にかかると思っているんだ』

 

提案者が私だとしても、こう言ってくれたことが嬉しかった。

 

話してみないとわからないが、彼女もこの現状を多少は憂いていると思う。

 

ファントムレイダー。

君がレースを荒らすなら、私は体制を荒らそう。

 

私は未だ大きな椅子にもたれかかり、大きく背伸びをした。

 

私が今、できる事をしよう。

少なくとも、彼女が引退するまでは。

これが、私の彼女への贖罪だ。

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