カサマツの2番星   作:美涼

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後日、カフェでの邂逅

『芦毛の怪物』オグリキャップさんとレースをしてから数日後、私はオグリキャップさんに呼ばれて孤児院から少し離れたカフェに来ていた。

今日は休日で学校もないから、院長さんには軽く出かけてくると言っただけだけど、多分大丈夫だろう。

 

そんなことを考えていると、カフェの扉が開いて、可愛らしい鈴の音が鳴った。

 

 

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

 

「いや、連れが先に来ていると思うので」

 

 

耳を澄ませていると、オグリキャップさんの声が聞こえてきた。しばらく様子を見ていると、私と目が合ってそのままこっちに歩いて来た。

あれ、知らない人と一緒だ。この人、どっかで見たことあるような気がする。

 

 

「…あの、私の顔に何か付いているだろうか?」

 

 

しばらく見つめていたせいか、オグリキャップさんが連れて来た人がそう切り出した。

 

 

「いえいえ!ただ、どこかで見たことあるなとなっていただけで!」

 

「そうか。ならいいんだ」

 

「じゃあルドルフ、紹介する。この子がファントムレイダーだ」

 

「ご紹介に預かりましたファントムレイダーですー。って、え、ルドルフ?」

 

 

オグリキャップさんは連れて来た人に私のことを紹介してくれた。

 

でも待って、聞き間違いじゃなきゃ今オグリキャップさんルドルフって言った?え、ルドルフってあのルドルフ?いやでも、流石にこんなとこまで来るはずないか〜。

 

 

「ファントムレイダー、この人が私の知り合いのシンボリルドルフだ」

 

「改めて、シンボリルドルフだ。今日はオグリに誘われて、君を見に来たんだ」

 

 

クソが。

聞き間違いであって欲しかったよこんちくしょう!

シンボリルドルフっていうと現URAの会長で『皇帝』っていう二つ名を持っているあのウマ娘だよね?しかも中央のトレセン学園にいた頃は生徒会長やってたっていう。あのシンボリルドルフだよね?

 

なんてこったい。今日は厄日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人に断りを入れて頼んでいたコーヒーを飲み干す。冷静になったところで…。いや冷静になんかなれるわけないけど、少し落ち着いたところで私から話を始めた。

 

 

「で、話をしたいっていうオグリキャップさんはともかく、シンボリルドルフさんはなぜここに?」

 

「いや、今日オグリが話す内容が、私も全く無関係という訳では無いのでね。あと私のことは気軽にルドルフと呼んでくれ」

 

「無理ですせめてルドルフさんにさせてください」

 

 

私が耐えきれず早口で言うと、ルドルフさんは笑って流してくれた。

なんで急に偉い人と知り合いになったんだろ私…。

 

 

「そろそろいいか?本題だ。ファントムレイダーのカサマツトレセンへの編入試験の日程が決まった」

 

 

ん?

 

 

「そして、カサマツトレセンでいくつかレース走った後、中央への編入試験を受けてもらいたい」

 

「……………ちょっっっっっと、待って、ください」

 

 

えーと、うん。わかるけどわからん。

いや、(言ってることは)わかるけど、(どうしてそうなったのか)わからん。

 

 

「えっと、ひとつづつ整理させてください。まず、カサマツトレセンの編入試験ってのは…?」

 

 

恐る恐る尋ねると、オグリキャップさんは疑問を浮かべながら「そのままの意味だが?」と言ってきた。それを聞いて頭を抱えていると、ルドルフさんが説明してくれた。

 

いわく。

オグリキャップさんは私の走りに一目惚れしたらしく、すかさずカサマツトレセンに連絡したらしい。ただ、私はトレセンに行ってないから私についての話が出来なかった。

 

そこで、私をトレセンに入学させよう!となったらしい。

えーと、とりあえず一言。

 

 

「なんでそうなるん…」

 

「オグリはたまに後先考えず突っ走るからね。あと、トレセンに入学したらオグリがトレーナーになるよ。カサマツトレセンに連絡したのも、君のトレーナーになるためだし」

 

「余計になんで…?」

 

 

余計に理解できない。

オグリキャップさんほどの知名度ならむしろ優秀なウマ娘の方からよってくるだろうに…。

困惑していると、オグリキャップさんが話し始めた。

 

 

「丁度今の担当が引退して、フリーになったタイミングだったんだ。それに、今までの担当は向こうから声をかけてきた子ばかりでな。初めてだったんだ」

 

 

オグリキャップさんは、これは私のトレーナーが言っていた言葉だが、と前置きをして続けた。

 

 

「自分と重ね合わせて心の底から応援したいと思える、そんなウマ娘が居ないんだ。私のところに来るのは、『オグリキャップに育ててもらいたい』ウマ娘なんだ。でも、君は違う」

 

 

オグリキャップさんは至って真剣な眼差しで続ける。

 

 

「勝利に貪欲で、最後まで諦めない。そんな君を、育てたくなった。だから、どうか頼めないだろうか」

 

 

そう言ってオグリキャップさんは頭を下げた。

 

 

「私なんてろくに走れませんよ」

 

「ならトレーニングをしよう。私なんて小さい時は歩くのも難しかったくらいだ」

 

「トレセン生みたいに綺麗な走りはできませんし」

 

「綺麗な走りなんて人それぞれだ。君の場合は、それがあのレースでの姿だった」

 

 

どうして。

 

どうしてこの人は、ここまで私を期待させてくるんだろう。

どうしてこの人は、トレセンに行きたいと思わせてくるんだろう。

 

 

「私は、勝てないかも、知れないんですよ」

 

 

途切れ途切れになりながらも、言葉を紡ぎ出す。

オグリキャップさんに、私を諦めさせるために。

 

 

「勝てないかも、じゃない。誰だって負ける時はある。常勝できるウマ娘なんて片手で数えるほどだ。そんなのを目標にしなくてもいい」

 

 

ああ。この人は、最後まで諦めないんだろう。

たとえ一回も勝てなくても、最後までトレーナーになってくれるのだろう。

 

 

「……わかりました。カサマツトレセンの編入試験受けます。試験受かった時は、孤児院の人達とも話して、トレセンの学費はなんとか出します」

 

「いや、学費に関しては支援を受けれるはずなんだが…」

 

「え?」

 

 

ここにきて新情報。

なんと、金銭的にトレセンに通うのが難しい場合、奨学金をもらえるとのこと。ルドルフさんが付いてきたのも、オグリキャップさんが連絡できるURAの職員が、ルドルフさんくらいしか居なかったから、地方の視察も兼ねてやってきたのだそう。

 

私がごねた理由、孤児院のお金に余裕なくて迷惑かけちゃうからだったのに。これじゃごねた意味がないじゃないか。

感情を抑えきれず、オグリキャップさんを叩きそうになったのは、また別の話。

 

 

「とにかく、これからよろしくお願いしますね。オグリキャップさん」

 

「オグリで構わない」

 

「じゃあ、よろしくお願いします。オグリさん」

 

 

こうして、私はカサマツトレセンの編入試験を受けることになったのだ。

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