9月1日。
世間一般では夏休みが明けて新学期が始まる日。そんな日に私は、カサマツトレセンに来ていた。
「いや〜現実味がないってこういうこと言うんやろなぁ…」
私は、夏休みの間にカサマツトレセンの編入試験を受け、合格した。めちゃくちゃに難しい問題が出るのかもと覚悟していたが、普通の学校の定期テストくらいの難易度で安心した。
さて、校門前でびびるのもほどほどにして、職員室行きますか。
*
「失礼します。今日編入するファントムレイダーです」
「ん?おお君がファントムレイダーか!そろそろ始業式も始まるし、体育館へ案内しよう」
大柄な男の人がそう言って案内してくれた。名前は
にしても身長高いな。聞いてみると195cmあるらしい。でっか。ほぼ2mあるじゃん。
そんなことを考えていると、体育館についた。
「ここが体育館だ。式典にも使われるが、基本的には雨でターフが使えない時のトレーニング場所として使われている」
「へぇ。めちゃくちゃデカいやないですか」
「まあ、中高合わせてざっと600人はいるからな。デカくなきゃ入らん」
そんなことを話しながら、私は言われた通りの位置に座る。壁際に座って入ってくる生徒のウマ娘たちを見ていると、ふと見知った顔に出会った。
たまに夜の野良レースに参加していたウマ娘。名前は確かスズノミレイだったかな。あ、目逸らした。あとで問い詰めよっと。
そんなことを考えていると、始業式が始まった。まあ問題など起こるはずもなく、淡々と進んだ。
校長先生の話も終わったところで、司会の先生が「それでは、編入生の紹介です」と言ったことで少しざわついたが、私が前に出ると静かになった。
「中等部1年に編入することになったファントムレイダーです。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げた。少しして拍手が起こった。それを聞いた後に、元の位置に戻る。
私と同じ学年の人たちはヒソヒソと何かを話しているようだ。大方私のことだろうが、誰もこれ以上の衝撃が来るとは予想出来まい。
「続いて、新しいトレーナーの方の紹介です」
司会の先生がそういうと、隣に座っていた芦毛のウマ娘が立ち上がって前に出る。一部の生徒は正体に気付いたのかコソコソ何か話している。
「カサマツトレセンのみんな。初めまして、オグリキャップだ。短い期間にはなると思うが、みんなのアドバイスをできればと思う。よろしく頼む」
オグリさんがそういうと、体育館は絶叫に包まれた。
*
始業式が興奮を持ったまま終わった後、私は教室に案内してもらった。
そこで軽く自己紹介をした後、休み時間になった。教室はオグリさんの話題でいっぱいだけど、そんなのは気にせず、すぐにあるウマ娘のところへ向かった。
「さーてスズ。告発されたくないんやったら野良レースに参加してた理由教えてもらおか?」
「あ、えーと、うん。とりあえず久しぶり…」
スズノミレイ改めスズは、めちゃくちゃ言葉を詰まらせながら返事をした。
さて、この子をどうからかってやろうか。
「で?なんであの場所におったん」
「まー色々理由はあるけど、ちょっと前に不祥事あったやんかここ。それの巻き添え喰らって何も出来んであそこにおったんや。頼むから告発だけはやめてくれ言われてくれりゃ足でも舐めるで」
「いや別にそこまではしぃへんけど。てか不祥事起こっとったんやな」
なるほどねー。前世もなんか笠松競馬場の不祥事あったな。なんかのイベント前だったとかですごい燃えてたの覚えてる。こっちの世界でもあったんだな。
まあ知り合いがいたのはいいことだ。人見知りを発動せずに済んだし。
その後は授業を受けて、放課後にスズにカサマツトレセンを案内してもらった。
*
「オグリさーん?オグリさんいませんかー?」
私は今、オグリさんのトレーナー室の前で声をかけている。かれこれ30分ほど。途中で周辺を探してみたのだが、姿は見えず、コース周辺もいなかったから、再びここへ舞い戻ってきたのだ。
今日授業終わったらトレーナー室来て欲しいって言ったのはオグリさんなのに。一回マジでしばいたろかな。
「ん?ファントムレイダーそこで何してるんだ?」
「オグリさんを待ってる……って!オグリさん!どこ行っとったんじゃワレェ!」
声をかけられて振り向くと、そこにはオグリさんが居た。
口調が汚くなったがご愛嬌。むしろ30分待ってこれしか言ってないのを褒めて欲しい。
「む、そういえば来て欲しいと言っていたな。すまない」
「……あーもう!で、なんでこんなに遅れたんですか」
下向いてしゅんとしているオグリさんを見て、私はそれ以上言うのをやめた。
遅れた理由は大方予想ついてる。後ろであわあわしてるウマ娘の人が関連してるんだろうけど。
「そうだ。今日は君の靴を買いに行こうと思ってな」
「靴?今のやつ別に不満ないんだけど」
「そうじゃなくてな、それって普通の靴だろう?レースとかでは蹄鉄をつけて走るから、それだとレースは走れないんだ。と言うことで、専門家を呼んだ」
「初めましてファントムレイダーちゃん。ベルノライトです。オグリちゃんからお話は聞いてます」
「あ、どうもご丁寧に。ファントムレイダーと申します」
なるほど。確かにこの靴は人間用の普通の靴だ。で、専門家ということはこの学園外部の人ってことで、入校許可が降りるまでに時間がかかった感じかな?
そこまで考えてくれてたのか。さっき怒ったのは失敗だったかな。
「ベルノは凄いんだ。ウマ娘専門のスポーツ用品店の社長なんだ」
「……………ッスゥーー」
私は目頭を押さえて天井を見た。なにこの人。いや、凄いウマ娘だからいろんなとこにパイプが繋がってんのはわかる。
だけどこの前のルドルフさん然り、今回のベルノライトさん然り、なんでこの人は毎回そのジャンルのトップを連れてくるの?
特大のため息をついた後、私はオグリさんに話しかける。
「オグリさん。これからは事前に連れてくる人教えてください。心の準備が必要なんで」
「む、ベルノは優しいぞ?」
「そういうことじゃねえんだよ…。あんたが毎回毎回偉い人を連れて来んのが問題なんだよ…」
「オグリちゃん、もしかして何も伝えてなかったの?」
「ベ、ベルノ…?」
「オグリちゃんは後でお説教です!」
「そんなぁ……」
そんなこんなで、オグリさんとベルノライトさんと靴を買いに行くことになった。私の胃は死んだ。
唯一の救いは、ベルノライトさんがオグリさんの手綱を取れることだろうか。
*
さて、今私はどこにいるでしょう。そうです。スポーツ用品店です。
ベルノライトさんとオグリさんと共に、やって来ました。イオナモールにあるスポーツ用品店です。人、ウマ娘、両方ともいっぱいいます。
そしてベルノライトさんはともかく、オグリさんは変装するのを忘れていました。どうなるかはもうお分かりですね。
そう、人混みが酷すぎる。
いやそこまで考えられなかった私も悪いけどさぁ!
オグリさん自分の知名度理解してる!?今から全員にサインするとか言い出したんだぞあのアホ!
と言うわけで現在ベルノライトさんと共に靴を見て回っております。
ベルノライトさんはすぐに私にピッタリの靴を選んでくれた。やっぱりこういうのは本職に任せるのが一番だと思い知った。偉い人を連れてくるのは違うけど。
そしてベルノライトさんに教えてもらいながら蹄鉄を選んだあと、私たちはオグリさんの様子を見に行った。
「全然人はけてないっすね」
「オグリちゃん有名人だからね〜。でも安心して。そろそろ助っ人が来るはずだから」
助っ人、とな。はて、ベルノライトさんの交友関係はわからないけど、この場を収められるということはある程度権力を持ってるか、ある程度有名な人なんだろう。
そんなことを考えていると、不意にモール内に大きな声が響いた。
「ええ加減にせえや!!」
オグリさんのサイン目当てに集まっていた人たちは驚いた様子で声のする方を見ていた。
「こんなとこで集まっとったら邪魔やろうが!そんでオグリィ!こんなとこで迷惑の原因になるような事すんなや!!」
それを聞いて、多くの人はいろんなところへはけていった。
そして、声を出していた人が誰かはっきりわかるようになった。
「……すみません。あの人って」
「ごめんねファントムレイダーちゃん。この場を収められるのにピッタリだし、ちょうどオグリちゃん探しに来てるって言ってたから…」
長い髪留め。綺麗な長い芦毛。そんでもって思ってたよりも小さい身長。
白い稲妻。タマモクロスが目の前にいた。
ベルノとタマちゃんです。
ベルノは髪を伸ばして大人のお姉さんになりました。
タマちゃんは大人になっても背は伸びなかったみたいです。