「嬢ちゃんすまんな。こんな迷惑に巻き込んでもうて」
「あ、いえ、あの、ダイジョウブデス」
「えらい片言やなぁ…」
片言になるのも無理はないだろう。
なんてったって今目の前にいるちっちゃいウマ娘はタマモクロス。白い稲妻と呼ばれ、オグリさんのライバルだった人だ。
タマモクロスさんをベルノライトさんが呼んでくれて騒ぎはおさまったけど、遠巻きにいろんな人がチラチラ見てくるのは小っ恥ずかしい。
「アノ、場所変えませんか?ってか変えましょう。トレセン戻りましょう」
「む、でも靴とか…」
「ベルノライトさんともう買ったので、とにかく、早く戻りましょう」
「わ、わかった」
とりあえず有無を言わせずに、トレセンに帰ることにした。
タマモクロスさんが小声で「あの嬢ちゃんウチと似た気配がするんやけど」って呟いてたけど、今はそんなことよりもこの衆目から抜け出すことが先だ。
ベルノライトさんが車を出してくれていたから、4人でそれに乗ってトレセンまで帰っていった。
*
「「で、他に言いたいことは?」」
「タマちゃんもファントムレイダーちゃんもその辺で、ね?オグリちゃんも反省してるみたいだし」
「しゅん……」
トレセンのトレーナー室に帰ったあとすぐしたことは、オグリさんをタマモクロスさんと一緒に説教することだった。
オグリさんは色々と言い訳をしようとしていたけど、私とタマモクロスさんで問答無用とぶった斬って30分くらい説教していた。
「うう…。足が痺れる…」
「あはは…。あ、そういえばタマちゃんがオグリちゃん探してた理由はなんだったの?」
「ん、ああそうそう。忘れるところやったわ。ほいこれ」
そういうとタマモクロスさんは茶封筒を取り出して、オグリさんに手渡した。
「頼まれとった今強い、もしくは今後強くなるであろう中央トレセン生のデータ。バ場距離走り方の適性、あと強み纏めといたで」
オグリさんは茶封筒の中身を取り出し、しばらく眺めたあと、「うん。ありがとう」と言って中身をまた封筒の中にしまった。
「んでこの子がオグリの担当なんか?ええ子見つけたな」
「そうだろう。レイは私の走りについて来ていたんだ」
「オグリんに着いてったぁ!?オグリんが本気出しとらんやろうとはいえそんなん才能の原石やんか!」
タマモクロスさんは割と大きな声をあげて驚いていた。
やっぱり世間一般の評価はそうなるのだろうか。でもあのコースだったからオグリさんに追いつけていたところあったし、あんまり自慢はできないなぁ。
そんなことを考えていると、タマモクロスさんがしゃがんで私の脚を見ていることに気付いた。
「……嬢ちゃん、脚ちょっと見せぇ」
「え?どういう」
「ええから見せぇゆうとんねん」
私はタマモクロスさんの怒気を込めた声に怯んで、椅子に座った。タマモクロスさんが筋肉を揉んだり伸ばしたりしている。
少しして、タマモクロスさんは私の筋肉を揉むのを止めると、天井を向いてふーーっとため息をついた。
「なあオグリ。ファントムレイダーのレース記録はあるか」
「いや、まだ選抜レースも走っていない」
「なら1つだけ忠告したるわ。“ファントムレイダーをレースに出すな”」
え?
タマモクロスさんの言葉が衝撃すぎて、私は声が出なかった。
オグリさんやベルノライトさんもそうだったのか、しばらくの間トレーナー室には沈黙が流れた。
最初に口を開いたのは、ベルノライトさんだった。
「えっと、レースに出すなってのは、どういう…」
「そのまんまの意味や」
タマモクロスさんは、真剣な顔つきで言葉を続けた。
「ファントムレイダーの脚は今ギリギリの状態や。何があったんかは聞かんとくけど、無理なトレーニングかなんかで筋肉のつき方が変になっとる。
まずはこれを治さなあかん。そして何より、ファントムレイダー。お前本格化来とらんな?」
有無を言わさないようなタマモクロスの声色に、私はゆっくりと頷いた。
「なら余計にあかんわ。カサマツってダートコースやろ。その脚の状態でダート走ったら脚壊れるで」
「そ、そんなに酷いのか?」
「そりゃあ、ウチも伊達に長いことトレセン見て来とるんや。足壊した子も大勢見とる。脚壊した子らの筋肉のつき方と同じなら、絶対走らせん方がええ」
そうか。
私はずっとアスファルトの上で坂道を駆け上がって、駆け降りてを繰り返していた。だから脚質がそれに合うように変わっていっていたのか。
ダートってわかりやすくいうなら砂場で走るようなもんだからな。しばらく走れないのは残念だけど、ここは大人しく従っておこう。
「ならカサマツにいる間はレース出ずに中央でデビュー戦やった方がいいですかね」
「来る時期にもよるけどな。ま、少なくともあと半年くらいは我慢せぇな」
「わかりました。ありがとうございます」
「んじゃオグリ、ウチは帰るわ〜」
タマモクロスさんは置いていた鞄を持ってトレーナー室を後にした。なんというか、タマモクロスさんがオグリさんの扱いに手慣れすぎてて、もうなんかお母さんって感じだった。
とりあえず、私たちはその後、この先どうトレーニングをしていくか話し合った。
話に夢中になりすぎて寮の門限を過ぎてしまい、初日から門限破りの問題児と思われたのはまた別の話。
前話に引き続きタマちゃん。本業の片手間にトレセンでトレーナーまがいのことやってます。
小宮山トレーナーと今でも仲良くやってるみたいです。